シンギュらったユージオがキレたり、アリスのお茶目なシーンが見られたり、そして、最後にシリアスなお話をぶち込んでおります。
それではどうぞ!
「それじゃあ…姉さまは央都に連れて行かれてから、ずっと…最高司祭様がお住まいになられていると言われてるセントラル・カセドラルにずっといたの?」
「そうね…気が付いたら、カセドラルで修道女の天職をこなしていたの。その時には、ルーリッドにいた時の記憶は取り上げられていて、私は何も知らずに8年という月日を過ごしてきた…ユージオたちが来てくれるまでね」
セルカが落ち着いた頃合いを見計らって、部屋へと戻ってきた僕はアリスと共にこれまでの経緯について、セルカに説明し始めた。姉が央都にてどんな生活をしていたのか気になっていたのか、少し興奮気味に尋ねるセルカに対し、(全部を打ち明ける訳にはいかないので)嘘を織り交ぜながら答えるアリスは少し苦笑気味だった。
「僕たちはルーリッドを出てから、セントリアで兵役に務めて、そこで推薦状を貰ったことで央都にある修剣学院に入学したんだ」
「…本当に央都に行ったんだ、ユージオ。修剣学院ってことは、そこに通う人たちは騎士を目指す人ばっかりなの?」
「その目的の人もいるし、故郷に戻って領主の座を継ぐっていう先輩たちもいたよ…皆、凄い人たちばっかりだったよ…世界は本当に広いんだなって思い知らされたよ…」
「へぇ~…」
「でも、キリトもフォンもそんなことお構いなしでね…キリトは禁忌目録や学院規則にスレスレのことを繰り返したり、主席の先輩と決闘をして引き分けたりして…フォンなんかは、同世代の貴族を圧倒して同期での主席修剣士になったりしてさ…いつも二人には稽古をつけてもらっていたけど、今でも僕は二人には勝てる気がしないんだ」
修剣学院では本当に色々あったが…思い返せば、楽しい思い出があったのもまた事実だった。自分が全く知らない世界の話に目を輝かせるセルカを前にそう思う僕は、未だに眠り続けるキリトとフォンへと目を向けた。
そういえば…ティーゼたちは元気だろうか。僕たちが無事であったことを伝えることができればと思ったが、殺人という最大の禁忌を犯した僕たちから不用意な連絡をすべきではないのだろう。
「……あれ?でも、ユージオたちが上級修剣士…だったわよね?…になったのは今年の話なのよね。なのに、どうして姉さまと戻ってきたの?卒業するにしたって、今の時期は不自然じゃない?」
「えっと…それは僕たち3人がカセドラルへと行くことになって、それは…」
「…ユージオ…?」
「カセドラルで緊急の事態が起こったから、各修剣学院に所属する上級修剣士の一部が招集を受けたからなのよ」
セルカの問い掛けに、まさか禁忌目録違反を犯したことで罪人としてカセドラルに連行されたと伝えるわけにもいかず、言葉に詰まった僕にアリスが助け舟を出してくれた。
「これは緘口令が敷かれているんだけど…セントラル・カセドラルにダークテリトリーのミニオンっていう使い魔が大量に侵入してきたの」
「えっ…!?姉さま、大丈夫だったの?」
「ええ…整合騎士が全て撃退してくれたわ。でも、その際にカセドラルも大きな損害を受けて、使い魔を操っていたダークテリトリーの上級魔術士が神聖力を体内に取り込んで自爆しようとして…それを阻止したキリトとフォンがああなってしまったの」
「……そんな」
キリトとフォンの状態の理由にセルカがショックを受ける中、僕はアリスへとアイコンタクトを送る。やれやれといった様子の彼女に、内心お礼を言いながら、目線でその想いを伝える。
かなり無理矢理な話ではあったが、セントラル・カセドラルでの一件は外部どころか、内部においても緘口令が敷かれているぐらいだ。下手にアドミニストレータが死んだことや、僕たちが反逆者として剣を振るったことを誤魔化すぐらいなら、ほとんどを嘘で覆ってしまった方がいいとアリスも判断したのだろう…その割には、どこか実際に起きたようなことのように聞こえたのは気のせいだろうか。
「…それで、キリトの右腕があんなことに…最高司祭様は二人を治療して下さらなかったの?」
「いいえ。カー……最高司祭様は二人の状態を看て下さったわ…でも、術が強力だったのか、何故か治療することができなかったの。だから、私とユージオは二人の看病も兼ねて、ルーリッドへと戻ってきたの」
「カセドラルが修復されるまで、修道士・修道女で贖罪の期間が一定に達していた者は、故郷へと一時的に戻ることを許されたんだ」
「そういうことだったのね…」
「(ユージオ…貴方、意外に嘘が上手なのではありませんか?)」
「(まさか…今も必死に話を合わせようとしているだけだよ…)」
「二人して、コソコソ話してどうしたの?」
「なんでもないよ」「なんでもないわ」
僕たちの(事実を恐ろしい程捻じ曲げてしまってはいるが)話に納得してくれたセルカが考え込む姿に、アリスがこっそりとそう評価を告げてくれるも、僕は嘘がバレやしないかとヒヤヒヤし続けていた。
そんな僕たちのやりとりに疑問を持ったセルカが首を傾げるも、僕たちは慌てて誤魔化す。まぁ、僕だけじゃなく、アリスの方も整合騎士であるということをセルカに知られたくはないのだろう。できれば、修道女のアリスで話を通したいのだろう。
まだまだアリスの話を聞きたいという様子のセルカに、困ったように笑いながらも真面目に答えていくアリス…そんな姉妹のやりとりを聞きながら、僕は先程の話に出たあることに思考を奪われていた。
(…傷、か…)
アリスは、キリトとフォンの今の状態は治療することができなかったとセルカに話した。
これは間違いではない…いや、正確に言えば、あのカーディナルさんでさえ、原因を突き止めることができなかったのだ。軟禁中に、時間を見つけては立ち寄って、カーディナルさんは二人を治療しようと試みてくれたのだが…何故か二人の状態を治すことができなかったのだ。
キリトの右腕はあらゆる回復神聖術でも元通りにすることができず、フォンの左目は治すことはできたものの、何故か眼がガラスのようなに透き通ってしまい、それ以上どうすることもできないでいた。
カーディナルさんは、二人が意識を失った原因と同じ…この世界の理とは異なるものが働きかけているのではないかと推測していた。それが術を阻んでいるのだと…
(あの時…アドミニストレータが、キリトとフォンは別の世界から来たって言ってた…それが原因で、もしこのまま二人が目覚めないとしたら…)
最悪の可能性が頭を過ってしまい、心が剣に刺されたかのように痛んだ。もしも、本当に二人がこの世界とは別の世界から来て、僕たちのために闘ってくれた結果、二度と目覚めないままだったら…そんな不安を強引に振り切り、僕はアリスたちにそれを悟られまいとなんとか表情を取り繕っていた。
今の僕にはできることは…二人が必ず目覚めると信じて、待つだけだ…希望を捨ててしまってはいけないと思い、僕は現実へと意識を戻した。
そして、一夜が明けた。
教会に泊まらせてもらった僕たちは、ジンクから村長たちの方針が決まったことを教えられ、セルカにキリトとフォンを看ててもらうことになり、アリスと共に村長の家…ツーベルクを訪れることとなった。
「…待たせてしまってすまない。話し合いが難航してしまい、思いの他、時間がかかってしまってな」
家に入ると、ガフストさんだけでなく、昨日集まっていた各長たちの姿も見受けられた。皆、どこか疲れた様子をしており、もしかしたら夜通し話し合いをしていたのかもしれない…アリスを見る目が腫物に触るかのような視線に感じたのはそのせいだと思いたかった。
「結論から言おう……お前たちをこの村に住まわせるわけにはいかない」
「なぁ…!?」「・・・・・・・・・・・・・・」
ガフストさんから告げられた事実に、僕は思わず声が漏れる。一方で、アリスは動揺することなくその言葉を受け止めていた。
「どうしてですか…!?一体何で…!」
「確かに…お前たちから貰った書類は最高司祭様のものであり、信用に足るものである。だが……村民の中には、ダークテリトリーに汚染されたアリスのことを恐れる者もおるのだ」
「…っ!そんな…彼女は、アリスは汚染されてなんて…」
「フン!小童が…何故そんなことを言い切れる」
戸惑いがちに理由を話しガフストさんに反論しようとした僕の言葉は、一人の男性によって遮られてしまった。あの人は確か…農夫のバルボッサさんだった筈だ。ルーリッドの中でもかなりのお金持ちの人だったっけ…だが、その目は疑心に満ちているように思えた。
「そいつはダークテリトリーに侵入した禁忌目録で整合騎士様が連れて行った罪人だぞ!そいつが無害だという証拠は、残念ながらこの最高司祭様の書類には一言も書かれてはおらぬ」
「それは…!けど……」
「それとも、わしに何かがあった時、そやつのせいではないとお主は保証できるのか!?汚染の影響が開墾地に影響を及ぼさないという証拠がない限り、わしはその女が村に滞在することを認められんわ!!」
バルボッサさんの言葉に僕はそれ以上何も言えなくなってしまう。他の長たちも、どうようの不安を胸に抱いているのか、視線を逸らしてしまっていた。ガフストさんも苦々しい顔をしてしまっていた。
「ほ~れ、みろ!これが村の総意だ!そもそも、禁忌目録に違反した者をこの村に入れること自体がおかしいのだ。さっさと処刑してくれればいいものを(ボソッ)」
「っ…!?」
最後の一言は恐らく聞こえない様に小さく呟いたつもりだったのだろうが…話に意識を集中していた僕の耳はそれを捉え、あまりにも勝手な言い分に僕の頭は真っ白になった。
「ふざけるな……ふざけないでください!?」
「「「「「「……!?」」」」」」
気付いた時には、自分でも信じられない大声が出た。ガフストさんたちだけでなく、隣にいるアリスまでもが驚いていたが、そんなことなどお構いなしに僕は次の言葉を放つ。
「どうして…どうしてアリスが生きていたことを誰も喜んであげられないんですか!?罪を犯したら、その人はいちゃいけないですか…!それが事故だったとしても、法で定められていたら、悪なんですか!?皆さん、本当にそれが正しいと思っているんですか!?」
「何を言っておる…!?禁忌目録は絶対な…「それが正しいのなら、人を迫害してもいいんですか?!それが絶対なら、人の命や尊厳すらも犯していいんですか……貴方たちは、またアリスを見捨てるんですか…!」
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
「ガフストさん…アリスは貴方の…「ユージオ」…っ!アリス…?」
横から聞こえてきたアリスの声に僕は我に返った…そちらへと顔を向けると、冷静で、どこか悲しそうに笑みを浮かべる彼女の顔があった。その表情に僕はそれ以上言葉を紡ぐことができず、アリスは一歩出て頭を下げた。
「失礼しました…村の皆様の総意がそうであるのなら、私たちはこの村を離れます。そうであれば、村の皆様が懸念されていることも避けられるでしょう…行きましょう、ユージオ」
「………分かった」
もっと言いたいことが…ここで諦めたくないと思っていた僕は、アリスの意志を尊重し、なんとかその言葉を呑み込んだ。当事者である彼女が何も言わないのなら、これ以上僕がどうこう言うのは違うと思ったからだ。
落胆しつつも、アリスと一緒にその場を去ろうとした時だった。
「…村から少し外れた森に少し拓けた場所がある」
「「…!?」」
「そこでなら、家を建てて住むことも可能だろう。但し、禁忌を犯したアリスが村に入ることは認められない…もし何か用事があるのなら、ユージオ…お前が村に訪れることは許可するとしよう」
「そ、村長…!?正気ですか…!それでは、話し合いで決めた意味が…!」
「彼らを受け入れることを拒否した最大の理由は、咎人であるアリスを置くことが危険だという理由だった筈だ。ならば、村の外れに住むことも、関係ないユージオが村を訪れることも何も問題ない筈だ」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
ポツリと呟いたガフストさんの言葉に、僕たちは思わず顔を見合わせてしまう。長の一人がガフストさんに反論するも、有無を言わさないとばかりのガフストさんの意見に全員が揃って黙殺されていた。
恐らくガフストさんなりにできる限りの配慮をしてくれたのだろう。少しだけ気持ちが救われたような気がした僕は頭を下げる。
「ありがとうございます、ガフストさん」
「…ありがとうございます………お父様」
「…早く行くがいい」
僕たちのお礼に、ぶっきらぼうにそう言ったガフストさんの言葉を受け、僕たちは今度こそその場を後にした。
「さてと…それじゃ、始めようか?」
「ええ…ですが、本当に大丈夫なのですか?」
僕は礼服の上着を脱ぎ、動きやすい恰好へと着替えた。アリスも教会で借りた青を基調とした服へと着替えており、不思議そうに僕の方を見ていた。
「貴方の以前の天職が木こりだとは聞いてましたが、本当に家を建てることなどできるのですか?」
「多分ね…作ったことはないけど、木を切ることは慣れてるし、一通りの知識はガリッタ爺から教わっているから…できるとは思うよ」
「そう言うのなら信じますが…」
さて、今の僕たちは何をしているのかと言うと…
ガフストさんに指定された場所の下見を終え、ここでなら小さな家を建てることができると判断した僕たちは教会に戻り、事の顛末を伝えた。まさかの村への滞在を認めないという長たちの判断に、セルカは当然の如く怒りを露わにしていた。
今にもガフストさんへと抗議しに行こうとするセルカをなんとか諫め、家を建てるまでキリトたちの面倒を見て欲しいことを頼み、更に教会にある工具一式を借りてから、僕たちは再び家を建てる地へと戻ってきたわけだ。
凍華たちと一旦合流し、預けていた荷物から青薔薇の剣と金木犀の剣を受け取った僕たちは準備を終え、今に至るというわけである。
「それじゃ、まずは木を切っていこうか?アリスは木を切ったことあるかい?」
「…私を馬鹿にしているのですか?騎士になりたての頃は、よく丸太を切っていました。木の一本や二本など余裕です」
「そっか…それはゴメン。さてと…問題は僕の方か。久しぶりだから、上手くいけばいんだけど…」
心配は無用だとばかりに口を尖らせるアリス。どうやら、騎士としての彼女のプライドを刺激してしまったようだ。失敗したなと思いながら、誤魔化しがてら青薔薇の剣の状態を確認する。というものの、木を切るというのは僕も久しぶりで少し不安があったりしたのも事実だ。とりあえず、ものは試しだと思い、僕は木に向かって剣を振るう。
「……はぁぁ!!」
秘奥義は使わずに横一線の斬撃を放つと、時間差で木が倒れ始めた。上手くいったことにホッとしつつ、この調子なら木材を揃えるのにそう時間は掛からなさそうだとも思った。
「ふぅ…アリス、そっちは………えぇ~…」
アリスの方はどんな感じだろうと思い、振り返り様子を見た時、僕は思わず心の声がそのまま漏れてしまった。どうしてかというと、
「その……すみません、ユージオ」
とてつもなく決まずそうに謝罪する彼女の背後には、音を立てながら倒れゆく木々たちが見えてしまったからだ。一定の方向に倒れているし、僕たちの他には誰もいないので、怪我の心配はないんだろうけど…
(これはまた騒ぎになりそうだな…)
6本の木が一気に倒れたことで周りに土埃が起こると共に、轟音が地面の振動と合わさって周囲に鳴り響いた。そんな出来事をどこか他人事のように見守っていた僕は、煙に咳込みながら、彼女の姿を探す。
「コホコホ…!アリス、大丈夫かい?」
「コホ…!だ、大丈夫です!?…ええっと…」
「…あのね、アリス。斧とかだったら、秘奥義を使った方がいいとも思うんだけど…その…金木犀の剣とかだと優先度的に過剰威力になるというか、真空波だけで切れるというか…その……うん」
「なんですか!?言い淀むくらいなら、一思いに叱って下さい!ううぅ…まさかここまで勢いよく切れるとは思ってなかったんですよ!?カセドラルでは、全力で剣を振るうように教わっていましたし…!」
「わ、分かったから!?大丈夫だから!?」
先程まで見栄を張っていたせいか、それともこんな事態になるとは思ってなかったのか、あるいはその両方か…僕の言葉にアリスが耐え切れずに叫んでいた。そんな彼女に僕は苦笑する他なかったのだが、いきなり顔を近づけられて、流石にドギマギしてしまう。
そんなトラブルもあったが、僕たちは残った時間も木々を切り続け、十二分な量を切り終えたところでその日は終わりを迎えた。
そこからまた月日が少し流れた。
家作りは思いの外、上手く進んでいた。伐採の一件から、不用意に一人で作業を行わない方がいいと思ったのか、アリスは分からない部分や力加減についてなどを僕に聞いてくれるようになった。そのせいか、それとも作業に没頭できているせいか、以前アリスに感じたようだ気まずさを僕は感じなくなっていた。
僕も曖昧な点などはガリッタ爺に聞きに行くようにして、時には教えを乞うこともあった。ガリッタ爺もアリスが生きていたことに最初は驚いていたが、すぐに彼女のことを受け入れてくれて、キリトたちが意識不明であることにショックを受けていた。
アリスは村に立ち入れないので、ギガスシダーの近くにある山小屋で寝泊まりをしていた。流石に教会に泊まればいいのではないのかと僕も言ったのだが、僕やセルカに迷惑が掛かるのを避けたいのだという…そう言われてしまっては僕も折れるしかなかった。
そんなアリスを気遣って、セルカが着替えや湯飲みの道具を持ってきてくれたりもした。最初はガフストさんの態度に憤慨していたのだが、影ながら涙を流していたガフストさんの姿を見て、少しだけ溜飲が下がったらしい。それでも、未だにアリスのことを悪く言う人たちを見かけるらしく、時々愚痴を零していて、僕たちは苦笑いするしかなかった。
尤も……未だにキリトとフォンは目を覚ます気配がなく、それが僕の気がかりとなっていた。彼らが目覚めれば、今の現状を少しは相談できるのではと思ったが、二人に甘えてしまっているという自分がいるとも思い、少し自分に嫌気が差したのだった。
そうして、家も完成間近となり、残りは二階のドアをいくつかと、屋根の一部分だけだったので、僕は馬車を借りて、家具を購入するためにザッカリアの街を訪れていた。お金に関しては、カーディナルさんが餞別として多めにくれていたので困ることはなかった。その途中で、以前お世話になったウォルデさんたちに挨拶もしてきた。娘さんのテリンとテルルも僕に再び会えたことを喜んでくれたものの、キリトたちに会えなかったことを少し残念がっていた。
家具を一通り選び終わり、数日分の食材も纏めて購入し終わった僕は馬車をルーリッドへと走らせながら、ふと考え事をしていた。
(一応無難なものを選んだけど、これで良かったのかな…食材も基本的なものを買ってきたけど…こういうのって、フォンが詳しかったからな…少しは僕も教えてもらったこともあったけど…)
以前、学院の頃に時々フォンが料理を教えてくれたことがあって、その度に毒見役と称してキリトがつまみ食いをしようとしていたなと、当時のことを思い出してしまった。そんなことを思い出してしまったのも、ウォルデさんたちと再会したことが大きかったのかもしれない。
そういえば、昔のアリスは料理が上手だったが、今のアリスはどうなのだろうという疑念が僕の中に出ていた。騎士であるアリスが料理をしていたというイメージがどうしてもできず、とりあえず帰ったら、そこを確認しないと思い、苦笑してしまう。
ルーリッドに来るまでは、どこか僕とアリスはぎくしゃくしていたような気がするが、今はそれほどでもなくなっている…と僕は思っている。というのも、時折だが、アリスはどこか表情に陰りを見せることがあるのだ。
それがどういう意味なのかを聞きたいとは思うのだが、流石にそれは踏み込みすぎな気もして、僕は聞けずに…いや、多分、僕はそれの理由をなんとなくだが理解していた。だから、敢えて聞かない様にしていた。
『お主でなければ駄目なのじゃ…アリスが自身の魂と向き合えるのか、そして、騎士と本当の自分とどう折り合いをつけるのか…その時に、お主が傍にいてやらねばならぬのじゃ』
(…カーディナルさんはああ仰ってたけど…僕に一体何を求めているんだろう…)
以前言われたことが頭の中を巡る…僕にとっても必要なことだと言っていたが、それは一体何なのか、僕は未だに分からないでいた。キリトたちだったら、すぐに分かったのかもしれないと思うと、再び暗い気持ちが差してしまった。
(いや…今は僕にできることをするんだ…!弱気になるな、ユージオ!)
そんな気持ちを無理矢理振り払い、見えてきたルーリッドの村へと馬車の速度を上げる。早く戻って、アリスの手伝いをしなければならない。いつまでも教会のお世話になるわけにもいかないし、アリスにずっと山小屋で過ごしてもらうのも申し訳ない。
そんなことを考えながら、僕は家の方へと馬車を向かわせる。森の道へと入り、少しすると、完成間近の家と、木材を組み立てていたアリスの姿が目に入り、僕は声を掛けようとした時だった。
「…!誰です!?」
「っ…アリス…!」
何かに気付いたアリスが足元に転がっていた丸太を持ち上げ、突如、僕とは別の方向へと向けたのだ。警戒の色が濃いその言葉に、僕も警戒心が引き上げられ、場所を飛び降り、彼女の元へと駆け寄った。
残念ながら、青薔薇の剣は置いてきてしまっていたので、取りに行くよりも、僕も丸太か木材で応戦した方が早いと思いながら、駆け付けた時だった。
「あたしよ、アリス…久しぶりね。あっ、ユージオもいたのね」
「イ、 イーディス殿!?それに、ユージオも…戻って来ていたのですね」
アリスが気配を感じた人物…それはイーディスさんだったようだ。殺気を飛ばされながらも、笑みを浮かべるイーディスさんに驚くアリスに対し、イーディスさんは僕が駆け寄っていることにも気が付いていたみたいだった。
「え、ええ…さっきまでザッカリアの街へと買い物に行っていまして…でも、どうして、貴女がここに…?」
「…まさか、キリトたちを討ちに来たのですか…!?」
「いやいや、早合点しないでよ…事情はカーディナル様と騎士長閣下から話を聞いているわ。といっても、あたし以外は事情を知らないから、カセドラルではちょっとした混乱は起こったけどね」
アリスの疑念に僕もまさかの可能性に到り、更に警戒を強めてしまう。そんな僕たちを見て、慌てて否定するイーディスさん。どうやら、彼女は事情を話されているらしい。
「あたしはダークテリトリーへと繋がる場所の見回りの任務で近くに立ち寄っただけよ。このルーリッドの近くにある、果ての山脈は重点警戒地域とされているからね。今回は、あたしがたまたまその任に就いただけよ。
アリスたちがカセドラルから脱走したって、話を聞いた時は本当に驚いたわ…でも、元気そうで良かった…それと、そろそろその持っている丸太を降ろしてくれると、あたしは嬉しいかな?」
「あっ…し、失礼しました!?」
苦笑するイーディスさんの言葉に、未だに自分が丸太を向けていることを思い出したアリスは慌てて丸太を降ろして謝罪した。
立ち話も何だと思い、休憩を兼ねて、僕たちは簡易的に用意した椅子へと腰掛けた。買ってきた食材から紅茶を取り出し、アリスが神聖術でお湯を用意してくれた。紅茶を飲みながら、一息ついたところで、イーディスさんから色々と質問を飛んできた。
「でも、カーディナル様から事情を聞いた時は更に驚いたわよ…まさか、こんな果ての地にいるとはね…それにこんな立派な家まで建てちゃって…アリスって、そういう才能もあったの?」
「…ええっと…私は手伝いをしただけです。作業の指示はユージオがしてくれましたし、構造から組み立てまでの設計も彼がやってくれたんです。彼がいなければ、もっと時間が掛かっていたと思います」
「へぇ~…確か、貴方たちはここの出身だったわね?前の天職は確か…」
「木こりです。以前の天職を引き継いだ方から、基本的なことは教わっていましたので…」
「ふ~ん…なるほどね~…建築はお手の物ってわけね」
イーディスさんにそう褒めてもらい、思わず照れてしまう。僕的には、大したことではないのだが…そう言ってもらえるのは少し嬉しかった。
「それで…あの二人はもう目覚めたの?」
「いえ…まだ二人とも目を覚ましてないんです。今は教会で面倒を看てもらっているんですが…」
「ここは自然も多くて、療養するには良いところだと思うのですが…もうしばらく時間が掛かりそうです」
「そっか…というか、どうして二人はここに家を建てているの?村に住んだ方が、色々と楽じゃない?」
「それは……色々とありまして…」
「でも、ユージオがいてくれますから、特段困ってはいません。それにセルカが…妹が時々ご飯を一緒に食べに来てくれますから、大変助かってます」
まさか、アリスが村に滞在することが許されていないとは口が裂けても言えず、僕は言葉を濁らせ、アリスは話を逸らした…アリスのことを溺愛しているイーディスさんにこのことを告げたらどうなるか…大変想像したくない未来が待っていることを、僕もアリスも分かっていた。
「へぇ~…妹か。アリスと似てて、やっぱり可愛いの?」
「そうですね…可愛いと思います。村でも教会で修道女見習いとして天職をこなしていて、子供たちからも慕われていますし」
「…ええ。でも、私は彼女のことを覚えていません。それでも、私のことを姉と慕ってくれていて…私にはそんな資格なんてないのに…」
そう呟くアリスの顔には再び影が差していた…そんな彼女にどう言うべきか、僕が迷っていると、イーディスさんが先に言葉を口にしていた。
「そんなことないんじゃない?資格とかそういうのじゃないわよ…大好きなお姉ちゃんが帰ってきて、良かったって思ってるわよ、絶対!長い間会えてなかった相手なんだから、余計にね」
「…本当にそうなんでしょうか?」
「そうよ…貴女のお姉ちゃんであるあたしが保証してあげるんだから、自信を持ちなさい、アリス」
「…はい、ありがとうございま……ちょっと待って下さい!?私はイーディス殿の妹になった覚えはないのですが…!?」
「ちぇ…誤魔化されなかったか」
勢いで誤魔化そうとしたイーディスさんだったが、残念ながらアリスに気付かれてしまったことで、舌を出しながら苦笑していた。そして、表情を真面目に戻しながら、イーディスさんはカセドラルの話を教えてくれた。
「さてと…騎士長とカーディナル様が、アリスは精神的に負った傷を癒すために療養していると皆には説明しているわ。ユージオたちのことは、罪を問う前に、意識のない二人を回復させてから事情を聞くべきだという措置で、監視付きでカセドラルの外にいることと騎士団に伝わっているわ。
…一応、意識が戻ったのちに死罪にするって、みんな思っているみたいだけど、ダークテリトリーの侵攻が近いことと、カーディナル様たちが敢えてそう思い込むように誘導したのもあって、今のところはもう忘れられているって感じね」
「そ、そうなんですね…それは喜んでいいのかどうか微妙な感じですけど」
もしダークテリトリーの侵略を食い止められたとしても、今度は人界軍に追われるかもしれないと思うと、かなり気が滅入ってしまった。最悪の場合、カーディナルさんに大図書室に匿ってもらいながら、一生を過ごすことになるかもしれないと思ってしまった。
「…はぁ。でも、一部には、アリスがすぐに騎士団に戻ることを望んでいる者もいるわ…特にエルドリエは顕著ね。平常を装っているけど、アリスとユージオたちが同時に姿を消した時には、すぐさま探しに行こうとしたくらいだったからね」
「エルドリエが……そうですか」
「ええ……アリスは今すぐに騎士団に戻る予定はないのよね?」
「…はい。私の我儘だとは分かっていますが…私は……」
(…アリス…?)
イーディスさんの問い掛けに、その先を言い淀むアリス。どうしたのかと思い、僕は彼女を見ると、そこには何かを迷っているような顔があった。
「…いいのよ、アリス。何かを迷っているのなら、貴女の答えが出るまで好きにすればいいとあたしは思うわ。それに、頼りになる人もすぐ近くにいるみたいだしね」
「…はい。すみません、ご迷惑をお掛けしまして…」
「気にしないで…あたしとアリスの仲じゃない。それに、カーディナル様に頼まれて、様子を見に来たのもあったしね。そろそろ行くわね…あんまり長居して帰るのが遅くなったら、ファナティオが五月蠅いからね」
そう言って、腰を上げたイーディスさんは真面目な表情を崩さず、僕たちに警告をしてくれた。
「あたしも緊急時以外はあまりルーリッドには立ち寄らないようにするけど、気を付けてね。見回りはあたし以外の整合騎士がすることもあるから…残念だけど、ユージオたちに敵意を向けている整合騎士もまだいたりするから」
「…分かりました。ご忠告ありがとうございます」
「…もしキリトたちが良くなって、騎士団に戻る気になったら…その時はまた会えることを楽しみにしているわ。ユージオ…騎士長を打ち負かした貴方の力も、是非借りたいしね」
「打ち負かしたって…あれは捨て身の特攻で引き分けだけで…普通に闘ったら、僕はベルクーリさんの足元にも及びませんよ」
「またまた…まぁ、そういうことにしときましょうか」
イーディスさんから伝えられた過剰評価を慌てて否定する…ベルクーリさん、一体どういう話を彼女にしたのだろうか。僕の反応に、納得してないながらもそれ以上の追及をイーディスさんはしなかった。
「それで…お話というのは?」
「うん…ちょっと気になったことがあってね」
別れる前…イーディスさんから二人っきりで話をしたいと言われた僕は、アリスに適当な理由を告げて、彼女の飛竜…『霧舞』が待つ場所へと来ていた。
「あのね…アリスのことなんだけど…よく見ておいてあげてくれるかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…やっぱりね…その表情は貴方も気付いていたのね」
「…はい」
どうやらイーディスさんも、アリスの変な態度に気付いていたようだ。僕は隠してもしょうがないと思い、素直にそれを認める。
「アリスが何を抱えているのかはあたしにも分からない…でも、貴方はそれに気付いている…何か心当たりがあるんでしょう?」
「多分ですが…それがアリスの迷いに繋がっているんだと思います」
「……そう。なら、分かっているわね?もしアリスが悲しむことになったら、あたしは貴方を絶対に許さない。だから、貴方がアリスを守ってあげて…ユージオ。今のアリスも、昔のアリスも知る貴方が……彼女を支えてあげて…お願い…!」
その嘆願と共に、イーディスさんは僕へと強い視線を向けてきた。その言葉に僕はゆっくりと頷く。
「僕に…僕にできることが何かは分かりませんが…でも、できることをやろうと思っています」
その言葉に満足したのか、イーディスさんは今度こそ霧舞に騎乗し、飛び去って行ってしまった。残された僕は、重く感じる足取りで小屋へと戻り始めた。
(…アリスの迷い…多分だけど、アリスはまだ気にしているんだ。自分が騎士ではなく、本当はアリス・ツーベルクという少女であり、記憶を…体を借りてしまっていることを…僕やセルカとの交流が彼女に…罪悪感を与えてしまっている)
罪の意識…それが今も彼女を縛り上げているのだと僕は気が付いていた…今の彼女が、昔の木を伐り続けていた自分と重なって見えたのだ。
こうなると分かっていながら、カーディナルさんがアリスをここに来させたのだ。その意味を考えながら、僕はアリスの元へと戻るのであった。
一話でほとんど家が完成してしまいました(苦笑)
ガリッタさんも地文で再登場…かと思いきや、イーディスまで再び登場でございました。
さて、アリスに対してのフラグを立てておりますが、実は本話ではユージオの精神的な甘さがまだあることを意識したお話でもありました。(前話から村への滞在を楽観視していたことがフラグだったわけです)
まぁ、キリトたちの行動を見て、アリスだけが滞在することを許されなかったことを聞けば、激怒するのも当然なのですが…
そして、ようやく次回…フォンが目を覚ましますが…これがまた一悶着を起こすんですよね…そんな次回も是非ご期待頂ければと思います。
それでは!