ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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かなり駆け足ですが、ようやく話を大きく進められます(苦笑)
記憶を失くしているにも関わらずフォンが色々とやってくれる回です。
あんまり長々と記憶喪失の話を引っ張ってもしょうがないので、どんどんと話を進めていきます…なので、後半がシリアス方面にまたしてもなっております。

それではどうぞ!


第Ⅶ話 「鏡合わせの隣人」

「あっ…おはよう…」「あっ…おはようございます…」

 

色々あった夜が明け、いつもより少し遅く起きた僕は、キリトが眠る部屋から出てきたアリスと出くわした。お互いに挨拶を交わすも、昨日のことが頭をよぎり気まずくなる。

 

『…すみません…今の私にこうしてもらうことは気まずいことだとは思いますが…今は私しか聞いていません…辛かったり悲しいのなら、泣いていいですよ?』

 

(とは言ってくれたけど、あんな姿を見せてしまって…ううぅ、男して情けないというか…アリスも気にしてるみたいだし…)

「ええっと…昨日はよく眠れましたか?」

「う、うん…それで、キリトは…?」

「…残念ですが、回復の兆しは……意識が戻っただけでも喜ぶべきなのでしょうが…」

 

話題を変えようとキリトの様子を尋ねるも、悲しげに首を振るアリスに僕も思わず目を逸らしてしまう。その時、一階から鼻孔を刺激するいい匂いがしてきて、

 

「…?この匂いは?」

「誰かが料理をしているのでしょうか?もしかしたら、セルカかもしれません…」

 

ここを尋ねてくるとしたら、セルカぐらいだと思い、匂いの発生源を確認するために一階へと降りる。食材を焼くらしき音と包丁の響きが聞こえ、キッチンを覗くと、

 

「フォ…フォン…?」

「…だから、俺は音弥だって…まぁ、いいや。悪いな、腹が減ったから勝手にキッチン借りてるぞ。一応、お前らの分も作ってるけど、問題ないよな?」

「は、はぁ……」

 

思わずフォンの名を呼んでしまい、またしても名前を呼び間違えられたことに不快感を表すが、すぐに手元へと視線を戻してフォンは料理を続けていく。こちらのことなどお構いなしの態度にアリスも頷くしかないようだった。

 

「ええっと…何か手伝おうか?」

「なら、皿を用意してくれないか?食材はなんとなくは分かったんだが、皿はどれをどのように使っているか分からなくてな。一応、卵焼きとベーコンみたいな肉でアスパラっぽい奴を巻いたやつなんだが…」

 

見ているだけは悪いと思い、僕は手伝いを申し出る。対して、フォンは迷うことなくやってほしいことを頼んできた。隣に立ち、戸棚から皿を出していく。その最中、テキパキと朝食の準備を進めていくのだが、以前見たような手際でフォンは料理を完成させていく。

 

(…こういうことは覚えているんだ…昨日は何も覚えていないみたいな様子だったけど、ちょっと安心したかな。そういえば、二人と出会った時も、記憶がないって言ってたけど、あれって嘘だったのかな?)

「……?何だよ、人の顔をジロジロ見て」

「ううん、何でもないよ(…もし記憶がもどったりしたら、絶対に問い詰めてやる)」

 

僕の視線に気付き、顔を顰めるフォンに対して僕は作業を再開する…内心でそんなことを思っていたせいか、思わず笑みが浮かんでしまった。

 

 

 

「…美味しい…」

「当たり前だ。伊達に子供のころから料理はしてないんだよ」

 

卵を使った料理(フォン曰く、卵焼きという料理らしい)を食べたアリスの口からそんな感想が漏れていた。僕も初めて食べる料理だったが、柔らかい触感に優しい味付けに同じ感想を抱いていた。

一方のフォンは心外だという表情をしていた…尤も、その口調は柔らかいものなので、怒っているというわけではないのだろう。

 

「フォンが料理できるのは知ってたけど、子供の頃からって、昔の君は僕たちと一緒に…」

「…一緒に…どうしたんだよ、いきなり言い澱たりして…」

「………きこりをしていたんだよ。ギガスシダーっていうとんでもない木を一緒に伐ろうとしてたんだ」

「俺が木を…?まず斧を握ったことすらないぞ?俺がそんなことをしてたなんて…事実だって言われても信じられないな」

「…では、貴方は子供の頃、何をしていたのか言えるのですか?」

「っ…!」

 

僕の言葉を信じられないといった様子のフォン。だが、アリスの突如放った言葉に驚いていた。どうしてフォンが驚いているのか分からないでしたが、アリスは追及を止めない。

 

「貴方が記憶を失くしていることはよく分かりました…ですが、不可解なことがあります。貴方は自分の出生地も名前も、そして、料理の技術も覚えているではありませんか?

なのに、ユージオたちのことは覚えていない…まるで、他の記憶を持っているかのように振る舞うその姿…貴方は、自身の過去について説明できるのですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

アリスの言葉を受け、僕はようやく彼女の意図に気付いた…アリスは疑っているんだ、フォンが自分と同じ…シンセサイズの秘儀を受けた可能性があるのではないかと。今のフォンにはあまりにも類似点が多すぎた。

もしもあの時、カセドラルでフォンたちが何かを仕掛けられたのだとしたら…そう思った僕は無言のままでいるフォンへと視線を向けた。そして、彼は口を開いたかと思えば、やれやれといった感じで答え始めた。

 

「まるで俺には別の記憶があった…みたいな言い方だな。何を疑ってるかはしらないが、子供の頃…過去のことは話せるぞ?」

「っ…!?では、話してみてください」

「はぁ~…プライバシーの概念はないのかよ。まぁ、いいけど…俺の家は両親共に共働きでな、俺は一人でいることが多かったな。時間だけは余るほどあったから、色々と自分で勉強したり、部活行ったりしてたかな…料理もその時に色々とやってた感じだな…

普通に生活して、普通に学校行ってただけ…そこら辺にいる普通の人間だったよ」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

淡々と…いや、何も迷うことなくスラスラとそう話すフォンの姿に、僕とアリスは予想外の答えが返ってきたことに逆に困惑してしまう。フォンがシンセサイズされていなかったことを喜ぶべきなのだろうが、結局彼が記憶を失くしてしまった理由が分からないままだった。

 

「もう俺の話はいいだろう…さっさと食おうぜ。こっちは聞きたいことばっかりなんだからな」

 

これ以上語ることはないという様子のフォンに、僕たちもそれ以上聞くこともできず、気まずい雰囲気のまま、朝食を食べ続けるのだった。

 

 

 

「…あの、フォン…?」

「お前もフォンって、俺のことを呼ぶのか?」

「えーっとですね…セルカ、実は……」

 

様子を見に来てくれたセルカは、意識の戻ったフォンを見て喜んだが、開口一番に「お前、誰だ?」と言われた瞬間、錆びた鉄の如くこちらへと助けを求めてきたセルカに僕たちは謎の共感を感じてしまった。

 

再度確認するかの如く尋ねようとするセルカに説明しようと離れるアリスは苦笑いしていた。一体いくつセルカに嘘を重ねなければならないのだろうか。

 

もしも嘘を吐くたびに罰がやってくるみたいな制度があったりしたら、今がそうなのかもしれないな…そんなことを思っている自分も大分感覚が麻痺してしまっているのかもしれない。

 

「あいつは誰なんだ?アリスに似てるが、姉妹か従妹なのか?」

「彼女はセルカだよ。アリスの妹で、村の教会で修道女見習いの天職に就いてるんだ。彼女も君とは認識があったんだよ」

「ふ~ん…それでさっきあんな反応をされたわけか」

 

透明な左目で二人の姿を映すフォンは納得してくれたようだ…尤も、記憶が戻る兆しはまったく見られない状態なのは変わらないのだが。

 

「…なぁ、ユージオ。色々と気になることはさっき聞いたが、もう一つ聞いてもいいか?」

「まだ何か気になることがあったのかい?」

 

朝食を終えた後、フォンから様々な質問をされた僕たちは答えられる範囲で答えた。禁忌目録や天職のこと、優先度や神聖力、ステイシアの窓のことまで忘れてしまっていたため、全てを伝えたのだが、

「窓って…まんまゲームのステータス画面じゃねーか…」

と、聞き慣れない神聖語(今思えば、フォンたちの世界の言葉なのかもしれないと思ったのは余談だ)を言いながら顔を顰めていたが、まだ聞きたいことが彼にはあったらしい。一体なんだろうと思って尋ね返したのが、

 

「お前とアリスって、付き合ってるのか?」

「ぶふぅ!?」

 

まさかの質問に思わず変な声が出てしまった。アリスたちもこっちの反応に気付いていたが、僕は大丈夫だと伝え、二人に聞こえない様に不思議そうな表情を浮かべるフォンへと訂正する。

 

「な、なんで僕とアリスが…!?付き合ってないよ?!」

「そうなのか…?だって、お前とアリスは幼馴染だったんだろう?それに、こうして同じ家で住んでいるなんて、逆に付き合ってなかったらビックリだぞ」

「…確かに誤解を生みそうな状況ではあるけど、僕たちはそんな関係じゃないよ」

「なら、お前たちはどんな関係なんだ?」

「……!」

 

容赦なくそう尋ねていくフォンに僕は考える。僕とアリスの関係は…一言で言い表すのは難しい。フォンには、アリスが昔のアリスとは違う記憶を持っていること…カセドラルで起きた出来事は大まかには説明したからこその質問だったのだろう。

 

「…一緒に闘った仲間、なのかな?今のアリスにとって、僕は知らない人に近いわけだし…それに僕のせいで彼女を苦しめているのも事実だし…」

「人格が違うって言ってたけど、お前は元のアリスに戻ってほしいとは思わないのか?罪悪感を抱いているのなら、彼女だってそれを望んでいるんじゃないのか?」

「それは……」

 

『そうだと思う』…その一言が言えず、僕はフォンから目線を逸らしてしまった。彼の言う通りなのだろう…今のアリスはもう既に望みを果たした筈だ…セルカに会えたのだ、もう心残りはない筈だ。

彼女が昔のアリスに戻れば、罪悪感に苦しむこともない…僕だって、取り戻したかった彼女にようやく再開することができる…誰もが望む結果になるのだろう。でも、

 

(今のアリスにも消えて欲しくない…そんな自分がいるのもまた事実なんだ)

 

こうして一緒に家を建てて、生活をして…短いながらも共に過ごした時間が頭をよぎり、そんな思いがここ最近胸を過り続けていた…そして、その度に、彼女を昔の姿と重ねてしまっている自分に激しい嫌悪感を覚えていた。

 

「…僕は…」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

上手く言葉を紡ぎ出すことができずにいる僕をフォンがジッと見ていた。その表情から、彼が何を思っているのかを読み取ることはできなかった。

 

 

 

「星が綺麗だよな…都会だとこうは見えないんだよな」

 

ふと聞こえたフォンの言葉に、僕は過去の回想へと思考を傾けていた頭を現実へと引き戻された…そういえば、夜中に抜け出したフォンに気付いて、追いかけてきたんだった。

 

「そうなんだ…星を見るのが好きなのかい?」

「…どうだろうな。別にそんな趣味はなかった筈なんだが、今はこうして空を見ていると、なんか落ち着くっていうか、モヤモヤしていたものを忘れられそうなんだ」

 

そう告げるフォンの顔は確かに少しだけ柔らかなものになっているような気がした。でも、やはり以前とは異なる雰囲気を持つフォンに、僕は違和感を覚えてしまっていた。何かが違う…しかし、それが何かなのかを上手く言葉にできない僕は胸の内に秘めることしかできないでいたんだ。

 

星と月が僕たちを見降ろす中、僕はフォンに対してそんなことを思っていた。

 

 

 

〈アリス View〉

「…まだ起きていたのですか、フォン?」

「…いい加減、その名前で呼ばれるのにも慣れちまったな」

 

寝つきが悪く、少し外の空気でも吸いに行こうと下に降りてきた私は、リビングでくつろいでいるフォンに気付き、声を掛けた。

またしても呼び方を間違えてしまったが、いつしか訂正することを諦めたフォンの方も慣れっこだというどこか呆れた様子で応えてくれた。

 

「今日も星を見に行っていたのですか?黙って行くと、またユージオが心配しますよ?昨日は偶然気が付いたから良かったですが…」

「へいへい…分かったよ。今日はそういうつもりじゃねーよ。ちょっと夜更かしをしたくなっただけだよ。日本にいた時はいつも寝る時間はもっと遅かったからさ…時々こうしたくなるんだよ」

「…まぁ、私も寝つきが悪かったので水を飲みに来たんですが」

 

どこかもの寂し気にそう語るフォン。少し言い過ぎたかと思い、私も下へ降りてきた理由を告げ、キッチンへと向かう。

そういえば、こうしてフォンと二人っきりになることは初めてではないかと私は思いながら、リビングにいる彼を見ていた。

 

こうして4人で暮らし始めて、もうかなりの月日が経とうとしていた。10月を迎え、農家では小麦の収穫に追われ、早いところでは冬支度を始める家も出てきたくらいだ。あれからダークテリトリーの侵攻に関する情報はなく、イーディス殿やカーディナル様から情報がくることもなく、キリトやフォンも変わることなく…良い意味でも悪い意味でも穏やかな月日が続いていたと思う。

 

そんな中、こうしてフォンと二人っきりになるということはかなりなかった。元々フォンが一人っきりでいることを好むということもあるが、必ずユージオが傍にいることが多かったので、私とフォンだけという空間に少し新鮮さを覚えていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「どうしたんだよ、アリス。俺をじっと見ていて」

「いえ…貴方とこうして二人だけというのが初めてだと思いまして」

「……そういえばそうだな。もう数か月も経つけど、お前と二人で話すなんてことなかったもんな」

 

私の言葉にフォンも同意しながら少し驚いていた。私にとって、フォンは『よく分からない人』という認識があった。というのも、カセドラルで剣を交えたキリトやこうして共に助け合いながら過ごしてきたユージオと違い、彼だけは記憶を失う前後に接点があまりにも少なすぎたからだ。

 

記憶を失う前の彼の人格はユージオが教えてくれたが、私にとってはカセドラルにて規格外の力を振るった少年…いや、剣士の姿が強く残っていた。

尤も…今の彼は未知なる言葉を言うことが多く、違う意味で話し掛けづらかったので、こうして二人っきりになると何を話せばいいのか分からなくなっているのだが…こういう時は必ずユージオが間に入ってくれていたので、彼には感謝の言葉しかない。そんなことを思っている時だった。

 

「あのさ…聞きたいことがあるんだが、ちょっといいか?」

「聞きたいこと…?なんでしょうか?」

 

私が困っていることを察してかどうかは分からないが、フォンから会話を切り出してくれたので、私はそれに応じた。今さら聞きたいこととは一体何なのだろうと思っていると、

 

「お前、何を後悔してるんだ?」

「…!?…」

 

フォンの問い掛けに私は思わず息を呑んだ。色の異なる両目で私を捉える彼の表情から考えを読み取ることができず、私はどういう意味かと尋ねることもできないでいた。しかし、そんなことなどお構いなしに彼は言葉を続ける。

 

「こうして一緒にいる時間が多いんだ。何も知らない俺にだって、嫌になるほど分かる。お前…ユージオやセルカの前だと笑ってるが、その笑みは後悔しているようだぞ」

「そ、そんなことは…」

「なら、もっと強く否定しない?本当に違うのなら、堂々と違うと言える筈だ。ユージオがお前を見て何かを思っている時、お前もそれに気付いて表情に影が差してるんだよ。確か…お前はユージオたちとの記憶を失くしているんだよな。それが原因なのか?」

「…それは…」

 

 

意外に人のことをよく見ているのだと思いながらも、今はその観察眼を恨めしく思った。それが事実であり、否定できない私はそれ以上何も言えず、黙っていることしかできないでいたが、

 

「…くだらないな」

「っ…何ですって…?」

 

冷たく言い放ったフォンの言葉に思わず言葉が出てしまい、私は怒気を放ってしまうが、フォンは気にすることなく言葉を放つ。

 

「くだらねぇって言ったんだよ。お前一人が勝手に悩みやがって…その姿がユージオを苦しめているって分かってないだろうが…」

「……黙れ…」

「それでユージオやセルカには何でもないと嘘の笑顔を振り撒いて、何が後悔しているだ…被害者ぶって同情を誘っているようにしか見えないしな」

「…黙りなさい……!」

「記憶を失ったぐらいでいつまでもウジウジしてる癖に…いい加減に受け入れ「黙れと言うのが分からないですか!!」っ!?」

 

気が付いた時には私は怒りのままに怒鳴りながら、フォンの胸倉を掴み上げて壁へと叩き付けていた。後頭部を強く打ったフォンは痛がっていたが、私は構うことなく彼へと怒りをぶつけていた。

 

「お前に何が分かる!?私のことを知らないお前が…私の痛みなど知る由もないお前が…

!知った風なことを言うなぁ!?」

「ぐぅ…!?自分のことを正直に言い当てられたって、そんなに頭にきたのか?ちょっとは可愛いところもあるじゃないか?」

「貴様ァァ…!」

 

フォンの言葉に私は握る拳の力を強めるが、フォンも言葉を止めることはなかった。その態度に私の怒りも更に高まってしまう。

 

「なら、どうしてユージオに相談しない?あいつはいつもお前を気に掛けていたよな?セルカだってそうだ…なのに、お前はあいつらの手を自分で払ったんだ。それで自分のことを知らないくせにとかよく言えたもんだな……お門違いなことを言ってんじゃねーよ…!」

「っ……!?」

 

その一言に私は思わず手を離してしまった…手が震え、私は2、3歩後退ってしまう。それは、フォンの言葉が正しいことを肯定してしまったことに他ならなかった。私から解放されたフォンはそれ以上言ってくることはなかった…いや、おそらく私の反応を待っているのだろう。

 

沈黙がその場に漂っていたが、その空気を破るべく私は静かに口を開いた。

 

「…私に…今の私にそんな資格はない…」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

なんとか絞り出した言葉を、フォンは黙って聞いてくれていた。それがどういう意味かを聞かず、彼が待ち続けてくれているように思え、私はゆっくりとだが言葉を紡ぎ始めた。

 

「貴方も、ユージオから聞いたと思いますが…今の私は仮初なんです。騎士という姿も、アリスという名前も、記憶すら偽物なんです。

 

でも、ユージオもセルカも私に笑顔を向けてくれます…私にその笑顔を受け取る権利なんてないのに…分かっているのです!私はここにいちゃいけないと…本来ここにいるべき筈なのは、アリス・ツーベルクという少女であるはずなんです!?

 

なのに、私は今の状況に甘えて、ずるずると問題を後退りにして…逃げているんです。怖いんです……いつか終わりが来ると分かっているからこそ、今の生活が…」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

黙って聞き続けてくれるフォン…私は表情ぐしゃぐしゃで涙が零れ落ちることも厭わず全てを吐き尽くした。ユージオにも、セルカにも…私のことを受け入れてくれようとしてくれる二人には言えないことが、私のことを何も知らないフォンにだからこそ打ち明けられたことだった。

 

もしかしたら、今のやりとりでユージオを起こしてしまったかもしれない。それでも、私は解き放ってしまった感情を抑えることができず、嗚咽を出し続けていた。だけど、

 

「いいじゃねーか…それで」

「…フォン…?」

「シンセサイズとか人格が違うとか、そういう難しいことはよく分からんけど、お前の本心はそうなんだろう?だったら、それをぶつけてみろよ…それが受け入れられるか、拒絶されるかどうかは話してみないと分からないだろうが…

それが駄目だった時はその時また悩めばいいだろうが。少なくとも、ユージオは助けようとしてくれるんじゃねーか?あいつもお前には複雑な感情を抱いてるみたいだけど、いきなり否定はしないだろう」

 

そこまでで言いたい事は言ったとばかりにフォンはリビングを去ろうとしていた。ぶっきらぼうな言い方に、私はある可能性を思い当たり、思わず彼に声を掛けた。

 

「フォン…まさか貴方、ワザと……?」

「…さぁな?そこまでお人好しじゃねーよ…ただ時々同居人が辛気臭い表情を浮かべるのが嫌になっただけかもな。じゃあな」

 

後ろ手に手を振りながら今度こそ二階へと上がっていくフォン。そんな彼の後ろ姿が見えなくなり、一人残された私は胸元から首飾りにしていたそれを取り出した。

 

(貴女はどう思いますか……もう一人の私)

 

金色の粒子が散りばめられた青水晶へとそう呼び掛けるが、水晶は光るだけで何も答えてくれることはなかった。

 

 

「…隠し聞きは感心しないぞ」

「ゴメン……その、アリスのこと…」

「礼は言うな。世話になってる礼だ。後はお前たちでなんとかしてくれ」

「ねぇ、フォン……本当に記憶を失っているのかい?」

「……お前らの知っている俺がどんな奴だったかは知らないが、俺は今のあいつが心から笑えていないと思ったから、ああしただけだ。過剰な期待なんかすんじゃねーよ」

 

階段のところでそんな会話がされているとは露とも知らず、私は水晶へと視線を落としていた。

 

 




実はこの回…後々重要なお話となってきます。

そんなわけで次回はアリスがメインとなるお話です。
多分、ほとんどアリスが出ずっぱりで、ユージオがちょっとだけ出る感じになるかと思います。
ちなみに本章での(記憶を失った)フォンの立ち位置は当分こんな感じです…仲介役と言いますか、話を進める上での起点役といいますか…どうなろうとも苦労人に変わりなかったりします(笑)

それではまた。

愛蘭さん、ユーグクーロさん、ケイマンさん
ご評価ありがとうございました!

感想もお待ちしておりますので、お気兼ねなく頂ければ幸いです!
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