ユージオの心が折れそうで怖いです(苦笑)
アリスの人格が統合されていますので、後半の展開や描写が大きく異なります。言葉遣いは通常時と緊急時で上手く使い分けているということでご理解頂ければと思います。
それでは、どうぞ!
「それじゃあ、フォン。行ってくるね」
「誰かが来るということはないと思うけど、お願いね」
「…へいへい」
セルカから開墾の手伝いを聞いた翌日
昨日話した通り、僕は依頼を受けるためにバルボッサさんたちのところへ、アリスは時折行っているキリトを連れての散歩へと行くため、残るフォンへとそう声を掛けていた。僕たちとのやりとりにも慣れてしまいどこか投げやりな様子なフォンに苦笑しつつ、僕たちも家を出る。
「いい天気だね。晴れて、風も丁度いい感じに吹いてる」
「そうね…こんな日に閉じこもっていたらもったいないわね。貴方もそう思うでしょ、キリト?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
道中の会話でキリトに語り掛けるが、彼はやはり答えてくれない。フォンが目覚めて以来、キリトは何に対してもほとんど反応することはなかった。そんな彼が唯一反応したのが、記憶を失ったフォンだった。
キリトのことすらも忘れてしまったフォンは彼と会っても怪訝な顔を浮かべることしかしなかったが、キリトはフォンの姿が視界に入ると少しだけ声を発したのだ。それは言葉にすらなっていない反応だったが、どこか悲しく、けどフォンを求めるように僕には見えた。
(キリト……君もフォンも一体何があったの?僕たちに何か伝えたいことがあるのかい…それとも……)
「ユージオ…私たちはそろそろ行くわね」
「…!うん。気を付けてね」
「ええ。それじゃ、後でね」
車椅子に乗せられたキリトを見ながらそんなことを思っていると、いつの間にか分かれ道に着いており、アリスと別れる。先に歩み出したアリスの後ろ姿を見送りながら、僕も行くべき場所へと向かい始めた。
少しして、森が広がる開墾地が見えてきた。以前、この辺りはギガスシダーの影響で上手く作物が育たない土地…いわゆる不毛の地として見向きもされていなかった。けど、僕たちがギガスシダーを伐り倒したことでそれも解消され、ルーリッドは耕作の拡大を目指し始めたわけだ。
(二年前は央都に行くことだけを考えていたから余裕がなかったけど、まさか村を去った後でこんなことが行われているとは思ってもみなかったな)
今思えば、セルカと手紙のやりとりでも行っていれば少しは知る由もあったのかもしれない…まぁ、本当にあの時はルーリッドの外の世界に触れて驚いてばかりだったし、キリトたちもそんな余裕はなかったみたいだから、しょうがない話かと思った。
そんな風に感慨ふけっていると、懐かしい金属の音が聞こえてきだした…二年前は僕もああして一生終わらないだろうと思っていた天職をこなしていたんだと思うと、懐かしさと共に苦笑が込み上げてしまった。
「何をモタモタやっておるのじゃ!?」
金属音の正体…開拓の人たちが斧を手に作業をしている現場が見えてきた頃、そんな怒鳴り声が飛んできた。以前の出来事を思い出し、僕は少し心に靄を感じるが、そこは割り切ってその人へと近づいていく。
「しっかりせぬか!?ここで手間取っている間に、リダックの連中が20メル四方も土地を広げよったのじゃぞ!さっさと立ち上がって続きを…」
「バルボッサさん」
「うん…?おおっ、ユージオよ、よく来てくれたのう!」
先程の剣幕はどこにいったのか…僕の姿を見て、バルボッサさんは笑みを浮かべて僕を迎えてくれた…半年前のあの態度からこの掌返しは…セルカの言う通り思うところがなかったわけではないが、僕は言葉を胸にしまいながら応じた。
「セルカから開墾地の手伝いの件を聞きまして、今日は僕が来ました。前みたいに木を斬ればいいんですよね。どの木でしょうか?」
「ふむ…あれを見てくれ」
「あれは……シラカネカシですか?」
バルボッサさんの指差した木を見て、僕は他の木よりもずっしりとした体を持つ木を確認して尋ねる。その周りできこりたちが息を切らしており、木にはなんどか斧を打ちつけた跡が残っているが、切り込みは全然入っていない様だった。
「そうだ…昨日の朝からこの忌々しい木に掛かりきりでの…大の男が十人がかりで斧を振っておるのにこの様じゃ…!そこでお主を呼んだのじゃ。手伝いの依頼は月に一度という取り決めではあるが、今回は特別に力を貸してもらえんだろうか?」
「……いいですよ。今回は例外ということでお手伝いします…しかし、次からは取り決めを変更するかをしてください。僕たち自身が問題の種になることは避けたいですから」
「もちろんじゃ!恩に着るぞ、ユージオ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…(チッ…!)」
全く言うことが信じられないバルボッサさんの笑みに僕はすぐに終わらせようと思い、握手を求めてきた彼を無視し、木へと近づく。僕の態度が気に入らなかったのだろう、後ろで舌打ちする音が聞こえたが、できるなら聞こえないところでやってほしい。
気持ちが沈むのと同時に、本当にすぐに終わらせようとシラカネカシの木のステイシアの窓を開く。天命は全く減っていないが、あのギガスシダーに比べればまだ可愛い数値だと思い、僕は青薔薇の剣を抜いた。
「おいおい、ユージオ!そんな細い剣で伐るつもりか?剣の方が折れちまうぞ?」
「本当だよ…止めとけ、止めとけ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
周りから嘲笑の声が飛んでくるが、そんな声は僕の耳には全く届いてはこなかった。今は、眼前の斬るべき対象にのみ意識が集中していた。そして、
「はぁぁぁぁ!!」
気合と共に秘奥義〈スラント〉を放った…剣戟と共に周囲に風が巻き起こるも、木は微動だに動いていないように見えた。
「…なんだよ。こけおどしかよ」
「失敗じゃねーか…こりゃ駄目か…?」
「…そっちに倒れます。避けないと危ないですよ?」
「はぁ?何言って……えっ!?」
斬った感覚を手に、僕は青薔薇の剣を鞘に納めながら忠告した…僕の言ったことが一瞬理解できなかったのか、きこりたちは再び嘲笑の声を上げようとして目を丸くしていた。その瞬間、僕が言ったようにシラカネカシの木が倒れ始めたからだ。
慌てて逃げ出すきこりたちを追うように轟音を立てながら木が倒れる。それに対し、僕は久々に放った秘奥義の感覚を思い出していた。ここ最近は素振りだけだったので少しだけ腕が鈍ったかもしれない。
そんなことを思いながら、仕事は終わりだと思い、バルボッサさんの方を見た。バルボッサさんは物凄い表情をしていた…まるで目の前で起こった出来事が信じられないといった表情だった。
「バルボッサさん、依頼はこれで完了ですよね?」
「…っ!おおぉ!!流石じゃな、ユージオ!央都の修剣学院にいた実力、然りと見せてもらったぞ!これぞ、神業と言うものだな!」
「…いえ…僕なんてまだまだです。それでも、お役に立てたなら良かったです」
「本当に助かったわい!…そうだ…お主ら、金には困っておらぬか?もしも良ければ、報奨金を倍にするから、月に一度ではなく週に一度…いや、一日一度手伝ってはくれぬか!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
まさかの提案がバルボッサさんから飛び出した。剣の腕前を褒めてもらえたことで少し上がっていた気持ちが、倍にして落とされてしまった。それを表情に出さず僕は答える。
「有難い話です…ですが、僕はそんなことは望みません。もし今よりも条件を良くして頂けるというなら……そろそろアリスを村に住まわせる許可を頂けるように、村の重役たちに掛け合って頂けませんか?」
「…なぁ…そ、それは……」
「それが無理だというのなら、今の取り決めのままで依頼を引き受けさせて頂ければと思います。僕はそれ以外のことを望みませんし、それ以外のことで応じる気もありませんので」
「…き、貴様…!」
「お代を頂けますか?」
最初からこの人が僕の要望に応じてくれる訳がないだろうと思っていた僕は、バルボッサさんが答える切る前に意思を伝えた。僕の態度に本心を現わしたバルボッサさんのことなど気にせず、僕は無感情で依頼料を請求した。
(ふぅ…ちょっと疲れたな)
依頼の帰り道…肉体的にというよりも、精神的に疲れてしまった僕はため息を吐いていた。フォンを真似てバルボッサさんに立ち向かってみたが、なかなか難しいものだと思った。そして、バルボッサさんたちの態度に苛立ちと険悪感が僕の胸に漂っていた。
アリスが元の記憶と人格を取り戻したからこそ、未だにアリスのことを滞在はおろか、訪れることさえも許さない村の皆に憤りを感じられずにはいられなかった。さっきだって、アリスのことを話題に出しただけで、周りの人たちも負の感情を隠すことすらしていなかった。
(…どうして…アリスだって望んでああなった訳じゃない。騎士だったアリスは、あんなに辛いことを耐え抜いてまで皆を守りたいと思っていたのに……キリトとフォンがああなってまで守ろうとした世界なのに…)
「…本当に…あの闘いに意味があったのかい…?」
思わずそんな疑念が言葉として零れた…答えてくれないと分かっていても、以前のように友に問いかけていた口調になってしまったのは、僕が未だに弱くて、友たちの力を借りたいとどこかで思ってしまっているせいなのかもしれない。
アリスを取り戻す…その一心で闘い続けてきた僕はアリスやキリト、フォンの誰と比べても小さくて、自己中心的な理由でしか出来事を捉えられてなかった。夕日の色が混じり出した空を眺める僕の足は止まってしまっていた。
「ユージオ、遅かったじゃない!」
「…ゴメン。ちょっと考え事をしながら帰ってたら遅くなっちゃって…」
帰って一番に飛んできたのはアリスの怒りの感情が籠ったそんな一言だった。フラフラとしていたら、いつの間にか日が沈んでしまっており、慌てて家に戻ったのだが、どうやら手遅れだったらしい。頬を膨らませてこちらを睨むアリスに謝罪するも、彼女の怒りは収まらない。
「心配したのよ!前は夕方には帰って来てたのに、今日は全然帰ってこないんだから!?」
「本当にゴメン…ちょっと寄り道してたら遠くに行きすぎちゃって…ゴメン」
「…そう。まぁ、良かったわ。ご飯食べるでしょ?すぐに温めてくるわね」
「うん…キリトとフォンは?」
「夕飯を食べて、二階にいるわ。フォンがキリトのことを看ててくれるっていうから、私はユージオを待ってたの」
そう言われて、二人の姿が見えないことに納得がいった。フォンなりにおそらく気を遣ってくれたのだろう。青薔薇の剣を倉庫にしまい、リビングに戻るといい匂いが漂ってきていた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。頂きます」
アリスが夕食を持ってきてくれたので、受け取って食べ始めた。パンに、豆と鶏肉を煮込んだポトフは涼しくなってきた今、とても体に染み渡る料理だった。これもフォンが作ったのかと思い、アリスに尋ねようとしたのだが、
「ゴメンなさい、ユージオ。少し外の空気を吸ってきたいから、キリトたちのことを任せてもいいかしら?」
「…えっ?構わないけど…いきなりどうしたんだい?」
「…その…雨縁の様子を見に行きたいの。あの子、最近全然飛んでないから体形が心配で…接してもあげれてなかったから、今の内に会って来ようと思うの」
「…なるほど…分かったよ。こっちのことは気にしないで」
「ありがとう、ユージオ。それじゃ、行ってくるわね」
そう言って、アリスは外套用のマントを羽織って外に出て行った。そういえば、僕も凍華とあまり接してあげれてないなと思い、明日の夜にでも会いに行ってこようかと考えた。夜間なら飛行しても見つかる可能性も少ないし…そんなことを考えていると、二階からフォンが降りて来ていた。
「…ユージオ。ようやく戻って来たのか」
「うん…ゴメン、遅くなっちゃって…」
「別に心配してねーから気にするな…アリスの方が心配し過ぎてくらいだからな」
いつものようにぶっきらぼうに答えるフォン。どうやらアリスには相当心配を掛けていたみたいだ…それにしても、心配しすぎではないだろうか?そんな疑問と共に苦笑が零れてしまった。
「さっきのは…アリスが外に出て行った音か?」
「うん。雨縁…飛竜の様子を見に行きたいからって出て行ったんだよ」
「ふーん…騎士から元の人格に戻ったばかりだっていうのに竜の心配とはな…よっぽど愛着があるんだな」
「そうだね…でも、騎士の時のアリスは雨縁を大事に接していたから、それも当たり……あれ…?」
「…?どうした?」
フォンとの会話の途中、僕は違和感を覚えた。僕の言葉が詰まったことにフォンが眉を顰めるが、そんなことなど気にしている余裕はなかった。
『雨縁の様子を見に行きたいの。あの子、最近全然飛んでないから体形が心配で…接してもあげれてなかったから』
(…待った…いくら記憶と人格が統合されたからって、アリスが元に戻ったのはここ2,3日の話だ。それなのに、いきなり雨縁の様子を見に行きたいなんて…ちょっと変じゃないか?)
そんな疑念が頭をよぎると共に、先程のアリスの態度とフォンの言葉が絡む。僕のことを過剰に心配していたのが、他に理由があったのだとしたら…そう思うと、嫌な予感がしてしまい、僕は家を飛び出していた。
「お、おい!?どこ行くんだよ…!」
「アリスを探してくる!」
いきなりのことに戸惑うフォンに一言だけ告げ、僕は夜の森へと走り出した。
視界が悪く、日も沈んでしまっているため、媒体なしに神聖術を使うのも難しいため、目を凝らしながら僕はアリスを探していた。
(アリス…どこに…!)
自分の考えが…予感が間違っていてほしいと思いながら必死に彼女の姿を探す。思い当たるところを探し続けていると、ようやくアリスの姿を見つけることができた。
(アリス…!良かった…)
アリスがいた場所…それは雨緑や凍華が住んでいるすぐ近くの場所だった。どうやら本当に雨緑の様子を見に来ただけのようで、取り越し苦労だったなと思い帰ることにした。
「そこにいるのは分かってます。出てきなさい」
その一言に僕の足は止まってしまった。その言葉を聞いた時、一瞬僕のことかと思ったが、その口調と雰囲気がアリス・ツーベルクではなく、アリス・シンセシス・サーティのものであったことに驚き、僕は再びアリスへと視線を戻してしまっていた。
一方のアリスは僕では他の誰か…その人物がいるであろう森の方を見ていた。そして、彼女の言動に姿を現したのは…
「よくここが分かりましたね……エルドリエ」
「…お久しゅう御座います、わが師…アリス様」
「っ…!(あの人は…?!)」
その人のことを忘れるわけがなかった…アリスのことを師と仰ぎ、僕たちが初めて戦った整合騎士…エルドリエ・シンセシス・サーティワン…笑みを浮かべてアリスに挨拶する彼に驚く僕は固唾を飲んでその光景を見ていた。
「夕方から小屋を監視していたのは貴方ですね?殺気とは違った視線を感じて違和感を覚えていましたが、どういうつもりですか?」
「小屋の近くにいたことに関しては申し訳ありませんでした。ただ、アリス様の姿をお見掛けして、様子を伺っていた次第でございます。そして、こうして外に出かけられた今が好機かと思い、後を尾けていたのですが…お見通しだったわけですね」
「…どうして私がここにいると分かったのですか?人界軍はダークテリトリーへの対策で、私たちの捜索に人手を割く余裕はないと思いますが…」
「それは、私とアリス様の魂の絆を辿ってきました……と言いたいところですが、残念ながら全くの偶然ですよ。
ここ一帯の監視を担当されておられたイーディス様が他の場所の見回りも担当されることになり、その穴埋めをするために私が臨時で北部の見回りに来たのです。その際に、雨緑と…行方不明になっていた飛竜が一緒に飛んでいるのを見かけたのは、本当に奇跡かと思いましたよ」
「……そ、そう…」
エルドリエさんがアリスを見つけたのは、どうやら本当に偶然だったようだ。イーディスさんから情報が漏れた訳でもないようで少し安心した…のだが、何故かアリスが動揺していた。
もしかして、エルドリエさんの冗談に引いている…?まさかとは思うが、僕も今の台詞はちょっとどうかと思う一方で、堂々とそんなことが言えるエルドリエさんに少しイラっとしてしまった…嫉妬的な意味で。
「実は…この北方の地域で最近ゴブリンやらオークたちがコソコソ動いているという情報が軍の方に届いたのです」
「っ…!」
「北・南・西の洞窟は全て騎士長の指示で崩落させておりますが、そこの性懲りもなく掘り返す気なのではないか…その確認のために私が来たのです。イーディス殿は南と西の洞窟を見に行っておられる次第です」
「そうだったのですね…それで、ダークテリトリーの連中の痕跡は見受けられたのですか?」
「丸一日掛けて洞窟の周囲を飛び回って監視していましたが、オークはおろかゴブリンの一匹すらも見かけませんでしたよ。洞窟の中も天井まで岩で埋まっておりました。そして、央都に戻ろうとしたところ…」
「雨緑を見つけ、私たちの住処を見つけた…そういうことですね」
アリスの言葉を肯定するように頷くエルドリエさん。そして、彼は語気を強めながら、アリスへと一歩近づいた。
「アリス様!今こうして再び相まみえたことは必然…これを申し述べることは私の責務でございます!騎士団にお戻り下さい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今の我々に必要なのは、千の援軍よりも、万を覆せるであろう貴女様お一人の剣でございます!アリス様がいなければ、人界軍の勝利はかなり危ういものになります!」
「…ゴメンなさい…今はできないわ」
必死にそう嘆願するエルドリエさん…その気持ちが分かりつつも、アリスは首を横に振っていた。まさかの返答にエルドリエさんの足が止まった。
「な、何故ですか!?人界軍の現状はアリス様も理解されていらっしゃるでしょう!?」
「ええ、もちろん分かっています。でも…今の私は整合騎士のアリスだけではないの。私を必要としてくれている人たちもいる…あの日のように、別れもなくまた突然に姿を消すことは……できないわ」
「っ…!?何を…仰っているのですか…?整合騎士は人界の民を守ることこそが使命!その使命を忘れたと仰るのですか!?」
「そうではないわ…けど、今すぐにここを離れる訳にはいかないのです。それに、キリトとフォンがあんな状態になってしまっているのに……ユージオ一人に背負わせることは…」
「…っ…!」
更に顔を歪ませるアリス…しかし、その態度が…整合騎士としての回答を期待していたであろうエルドリエさんの怒りを爆発させてしまったようだった。
「…あの反逆者たちが貴女の心を変えてしまったというのですか?それとも、本当の人格や記憶が私たちにはあるという、あのカーディナルという者の話が貴女を惑わせているのですか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それとも、あのユージオという男が貴女を堕落の道へと引き落としたのですか!?」
「っ…!?」
「そうだというのなら、私が貴女様の目を覚まさせます…カセドラルの牢を破り、多くの騎士たちと元老長、そして最高司祭様までもを反逆の刃に掛けたあの男共を、私が斬り「止めなさい…」…っ!?」
激怒したまま感情的に話すエルドリエさんの言葉が止められた。彼の怒りを上回る感情…憤怒を放つアリスの言動に、エルドリエさんだけでなく僕までもが震えを感じた。あそこまで怒りを見せたアリスは初めて見た。
「今の言葉を取り消しなさい、エルドリエ!?ユージオが私を…彼らが私を堕落させたと侮辱することは私が許しません!これは私自身が考え、決めたことです!
もしそれが気に入らず、ユージオたちを手に掛けると言うのなら…お前が弟子であろうと、私がお前を斬ります…!」
「…っ…も、申し訳ありません…!」
烈火の如く怒るアリスに、冷静になったエルドリエさんはすぐに頭を下げながら、謝罪していた。しかし、彼の怒りもまだ収まってはいないようだった。
「…しかし、私には分かりません。アリス様はどうして奴らにそこまでこだわるのですか?人界が危機に晒されようとしているのに、本来であれば最高司祭様を討った責任を負うべき奴らが、あんな無様な姿を成り果て、貴女をここに縛り付けているのですよ!」
「…では、貴方は更に傷ついてでも彼らにまだ闘えと言うのですか?」
そのアリスの一言に今度こそエルドリエさんの言葉が止まった。
「キリトたちがどうしてああなってしまったのかは私にも分かりません。しかし、彼らはこの世界のことを思い、アドミニストレータを討ちました…貴方もソード・ゴーレムの件は聞いている筈です。
そんな彼らが迷いもなくアドミニストレータを…私たち整合騎士たちを、騎士長閣下を含めて倒すことができたと思いますか?私はキリトから、禁忌目録が本当に正しいかどうかと問われ、答えることができませんでした。涙を流し、法で守られなければならない民たちが虐げられていることを訴える彼の姿に何も返すことができませんでした。
彼らにそこまでさせてしまった責は…アドミニストレータに騙されていた私たちにもある筈です…これ以上、守るべきである民である彼らに何を背負わせるというのですか」
「…そ、それは…ですが……!」
アリスの言葉に反論しようとするエルドリエさん…だが、返す言葉が見つからない様で、完全に詰まってしまっていた。
「貴方の言いたいことも分かります、エルドリエ…私がいるべき場所は本来ここではないということも分かっています…ですが、もう少しでいいんです…もう少しだけ時間をくれませんか」
「…それは…アリス様は騎士団に戻ってきてもらえるという解釈でよろしいのですか?」
「……………ええ」
「…っ…!?」
エルドリエさんの問いかけを肯定したアリスの言葉に、僕の視界がぐにゃりと曲がった。聞き間違いであってほしいと思いながらも、残酷にも現実を突きつけられる。
「これ以上…ユージオたちを戦わせはしません。私は…アリス・シンセシス・サーティは騎士団へと戻ります…そのためにも、もう少しだけ時間が必要なんです」
「………分かりました。今はその言葉を聞けただけでも良しとします。ですが、あまり時間は残されていないということはご理解下さい。アリス様の力を、騎士団は今も必要としておりますので…」
「ええ…今日はもう戻りなさい。私も北の洞窟には警戒を払っておきますので」
「……はっ!それでは、失礼致します」
その言葉を最後にエルドリエさんの姿は森へと消えた。そのすぐ後、森から見たことのない飛竜が央都の方へと飛び立っていくのが見えた。それを見送るアリスの姿を見て、僕の心には様々な感情が渦巻いてしまっていた。
そして、その場にいたことを知られたくなく、僕は家へと向かって駆け出した…本当は分かっていた。今の生活が仮初のもので、いつかはこんな時が訪れる日がくることを…
そして、認めたくなかった…アリスが…元に戻った彼女が戦場に戻る決意を決めてしまっていたことを……全てが夢であってほしかった。
そんな僕はアリスが夜空の下で涙を流していることなんて、全く気が付いていなかった。
「ゴメンなさい…ユージオ、セルカ……私はまた貴方たちを傷つけることになる。それでも…もう一人の私の心の声を無視することなんて…私にはできない」
本作では人格統合しておりますので、アリスが闘う理由を見失っておりませんので、こういう展開になりました…その結果、ユージオとのすれ違いが起こってしまいました。
互いが互いに思っている筈の行動が誤解へと繋がり、事態は最悪の事態へと向かいます…それが次回、次々回と序盤最終局面のお話になります。
そして、今回ユージオが久々にメインとなりました。
2年という期間で剣士としての自覚を身に着けましたので、木を『伐る』という描写をユージオの動作のみ『斬る』というものに変えているという細かい仕様があったりしました…誤字ではありませんので、お気になさらないで下さい!?(ちなみに、ギガスシダー関連は『伐る』という描写になっております)
それではまた。