しかもそれでも、中途半端なとこで終わるという……というわけで、2日連続投稿です!(後先何も考えてないです!)
途中まで不穏なムードですが、果たして…
それではどうぞ!
「いきなり飛び出すなんて、一体何を……どうした?」
「はぁ…はぁ…!」
家に飛び帰ってきた僕を見て、文句を言おうとしていたフォンの言葉が止まる。珍しく心配してくれる彼に応える余裕もなく、僕は自分の部屋へと駆け込みたい気分だった。
「おい、ちょっとは…!?行っちまったよ……」
フォンの言葉が背中から聞こえていたが、僕はそれを振り切り、部屋に戻ってしまった。そのままベットに倒れ込み、さっき聞いてしまったアリスの言葉を思い出していた。
『これ以上…ユージオたちを戦わせはしません。私は…アリス・シンセシス・サーティは騎士団へと戻ります』
(分かっていた…分かっていた筈だ!?いつまでもこんな生活が続くとは限らないって…ここが戦場になるかもしれない。もしかしたら、騎士団に連れ戻されるかもしれない……でも、アリス自身が戦場に戻ることを望んでいたなんて…!?)
僕たちの為に…人界を守る為に…アリスの決断が正しいことだということは分かっていても、僕自身はもうアリスにそんなことをしてほしくはなかった…折角元の人格と記憶を取り戻せたというのに…
(…キリト…フォン…僕は一体どうすれば…!?)
今までは道を…答えを示してくれていた友たちの言葉を頼りたく、僕は零れる涙を止めたくて、シーツの中で声を押し殺した。
「…何が何だか…めんどうくせぇな」
「何が面倒くさいの?」
「…アリスか。戻ってき……お前もか」
部屋へと消えてしまったユージオの態度に頭を掻くフォン。そのボヤキを丁度帰ってきたアリスが拾うも、彼女の顔色もまた悪いものであった為、フォンは更にげんなりしていた。
「…?何が…?」
「…なんでもねーよ…」
「はぁ……ユージオは?もう部屋に戻ったのかしら」
「ああ」
「そう…話したいことがあったんだけど、まだ起きてるかしら」
そのままユージオの部屋へと向かおうとするアリス。しかし、フォンがそれに待ったを掛ける。
「今日は疲れたって言ってたから、話なら明日にしてやれ」
「そ、そう…?…それなら明日にしようかしら」
「それと…お前も今日は休め」
「えっ…?でも、キリトが…」
「アホ…そんな顔色の悪い奴が看病したって、看られる方にも悪いだろうが。添い寝ぐらいなら俺にもできるわ」
「…ありがとう、フォン…なら、お言葉に甘えさせてもらうわ」
それ以上抵抗することなく、アリスは自室へと戻っていった。いつもなら、もっと反論する筈だが、エルドリエとの会話で精神的に疲れていたこともあり、素直にフォンの言葉に従うのだった。
(はぁ……どいつもこいつもお人好しかと思っていたが…こいつは厄介なことになりそうだな)
一人そうぼやくフォン…記憶を失う前であれば、事態解決に動く筈だが、今のフォンは無駄に介入することを嫌う傾向にあった。ともかく、今日は自分がキリトと夜を共にするかと思い、部屋へと向かうのだった。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
(…気まずい空気を晒すなよ…飯が不味くなるだろうがぁ…!)
そして、一夜が明けたんだけど…
朝食での空気は最悪の一言に尽きるほど停滞していた。アリスが何度か僕の方を見ていることには気が付いていたが、僕は昨日の出来事が頭に残っているせいか彼女の顔を見ることができずにいた。
そんなわけで、僕とアリスは一言も言葉を交わすことができず、そんな僕たちを見てフォンが怪訝な表情をしていた。昨日、何も告げずに部屋に戻ってしまったので、おそらく何かがあったことはフォンに気付かれているだろう。
昔のフォンなら間違いなく事情を聞いてくれたであろうが、記憶を失った彼のぶっきらぼうな態度が今はとても有難かった。できるなら、今はアリスと話すことは避けたかった。
「ごちそうさま…」
「あっ…ユージオ…」
アリスの呼ぶ声を聞こえないふりをして、僕は青薔薇の剣を取りに倉庫へと向かい、その足でそのまま外へと飛び出してしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ごちそうさん…ったく、皿くらい片付けていけってーの」
残されたアリスは掛けた言葉が空を切ってしまい、なんとも言えない表情をしていた。一方のフォンは意図してかせずか、気にする素振りを全く見せず、ユージオの分の食器をも片付けてキッチンへと向かった。
(…ユージオ。どうして…)
急によそよそしくなってしまったユージオの変化に戸惑うアリス。昨日のエルドリエとの会話が聞かれていたとは露とも知らないアリスは更に困惑してしまう。そして、その気持ちはフォンに尋ねてみようという行動へと彼女を走らせた。
「…ねぇ、フォン」
「俺は何も知らないぞ」
「まだ何も聞いてないんだけど…」
容赦なく即答するフォンにアリスは眉を吊り上げる。だが、今のフォンはそんなことなど全く気にしないでいた。
「俺もあいつに何があったかは聞いてない…それに俺から聞いたところで、お前はどうするつもりだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
突き放すような言い方ではあったが、どこか含みを感じるフォンの言い分にアリスはそれ以上何も言えなくなってしまう。話は終わりだとフォンは洗い物を始めようとするも、アリスの次の言葉に手が止まってしまった。
「ねぇ、フォン…もし私が貴方たちと離れると言ったら、どう思う?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アリスのどこか真剣な言動に、フォンは手を止めて振り返る。そこには、決意の目をしたアリスの姿があった。
「…どうも思わねぇよ。そもそも俺は余所者だ。お前がいなくなろうと、特に何も思わないだろうな」
「…そうよね。分かってる…でもね、一つだけお願いしたいことがあるの……どんなに面倒くさいと思っても、うっとおしいと感じてもらってもいい…ユージオが困っていたら、ちょっとでもいいから助けてあげてほしいの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…お願い…」
「…一応覚えておく」
消えるようにそう嘆願するアリスの言葉にフォンは短くそう応えると、今度こそ洗い物を始めた。その姿にアリスは少しだけ笑みを浮かべ、キリトに朝食を運びに行った。そして、アリスが去った後で、フォンは少し考え事をするのだった。
「はぁぁぁ!!でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
誰もいない森の中で僕は青薔薇の剣を振るって…いや、振り回していた。
型なんて何もあったものではなく、感情のままに…心の靄を振り払いたくて剣を振るい続ける。考えていることなど放棄して動き続けていたかったが、もちろん限界は訪れるもので、体力が底を尽きた僕は剣を放り捨て、地面へと倒れ込んだ。
(僕は……何をしているんだろう)
アリスから逃げて、現実を認めたくなくて…自分が子供の頃から何も変わってないと思い、険悪感と悔しさで再び涙が出そうになる。頭では分かっているのに、心がついてきてくれない。
キリトやフォンがああなってしまった時の何倍もの喪失感が僕の心を包んでいた。アリスが近い内にまたいなくなってしまう…僕が止めても、おそらく彼女は行ってしまうのだろう。
(…そこまでして、アリスに業を背負わせたいのか…!僕たちが何をした…!?ただこの世界で普通に生きていたいだけなのに…!どうして放っておいてくれないんだ!?)
向ける矛先がない怒りをぶつけるかのように、僕は自分の額を殴ってしまっていた。神が…この世界を見ているしかしていない人たちが本当にいるのなら、あまりにも理不尽で、不平等で、残酷で……
(僕はもう……どうしたいいから分からないよ…)
もう剣を振る気力すらも失ってしまった…いつ来るかも分からない別れの日が、今はただただ遅くなってほしいと思う僕もまた罪深いのだろう…余りにも身勝手な考え方に更に罪悪感が押し寄せていた。
「…ただいま…」
「帰ったか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
今日もまた夜遅くに帰ってきてしまった。僕を見て出迎えてくれたフォンはそれ以上何も言うことはなかった。それがワザとかいつも通りなのかは分からないけど、今はその態度が本当に有難かった。
アリスは…部屋に戻ってしまったのか、姿が見えなかった。そういえば、今日は僕がキリトを看る番だったな…そのことを思い出すほどにはまだ余裕があるのか、それとも他のことを考えたくないだけなのかもしれない。しかし、
「あいつの看護なら俺が代わりにしてやる…だから、早く行ってやれ」
「…えっ?」
二階に上がろうとした際、フォンから唐突にそんなことを言われ、思考が止まってしまう。だが、フォンは言葉を続ける。
「はぁ…お前の部屋にアリスがいる。ずっとお前の帰りを待っていたんだ…あいつの話を聞いてやれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「俺は何も言わないぞ…アリスから何を言われようと、お前らの関係にどうこう言ってもしょうがないからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
これ以上言うことはないとばかりに一方的に話を終わらせるフォン。正直に言えば、行きたくもないし、話したくもない気分だった…けど、僕は行かないといけないのだろう。
行かなければもうこんな機会は訪れないかもしれない…彼女が歩み寄ってくれているのに、僕が逃げ続けるわけにもいかない。
覚悟を決めて僕は自分の部屋へと向かい始めた…いつも登っている階段が何十倍もの重力を帯びたかのように足が重く感じる…それほどまでに、アリスと会うのが怖かった。何の話をされるのか…想像をしたくなかった。
「……すぅ…はぁ……」
息を整え、戸を叩く…自分の部屋である筈なのにここまで勇気がいることはもしかしたら、初めてだったのかもしれない。何の反応もないが、彼女がいることを確信して部屋へと入る。
「…アリス…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕の姿を見て、ベットに腰掛けていたアリスは微笑んでいた。でも、どこか泣きそうに見えるのはきっと気のせいではないのだろう。
「遅かったわね…このまま帰ってこないかと思っちゃったわ」
「それも…考えなかったわけじゃないよ。でも、帰らないといけないと思ったんだ。君といられる内にいたいと思って…」
「……そっか」
思わず出てしまった本音が出てしまった…僕の本心を察してか、アリスはそう呟いていた。けど、話を終わらせてしまうわけにはいかない。扉の前に立ったまま、僕は彼女に尋ねる。
「…話があるんだろう…?」
「うん……ユージオ…………もし私がいなくなるって言ったら、どう思う?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
即答できなかった…ためらいがちに、けど、覚悟は決まっているといったアリスの言葉に僕は答えられなかった。
僕はアリスにどうしてほしい…?
アリスに何を言ってほしい…?
アリスと…
気持ちと思考がバラバラになってしまっていて、言葉が紡ぎだせない。僕の答えをアリスは待っていてくれているのに、僕は話すことが…言葉を口にすることに恐怖を感じていた。答えてしまえば、この時間が終わってしまうかもしれない…アリスがまた消えてしまうかもしれない…それが僕の口を動かすことをできなくさせていた。
「ぼ、僕は……」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「僕は……君と…!?」
「おい?!どうした…!?」
「「っ…!?」」
何かを答えなければ、けど答えたくない…迷いながらも言葉を出そうとした僕の声を掻き消し、一階からフォンの怒鳴り声が聞こえた。明らかにただ事ではない彼の声色に、僕たちの意識はそちらへと向けられ、慌てて一階へと降りる。そこには…
「しっかりしろ…どうしたって言うんだよ!?」
「あぁあ……ああああああぁぁぁあああ!?」
「「キリト…!?」」
驚くべき光景が広がっていた…フォンが声を掛ける人物…そこには、自我を喪い部屋にいた筈のキリトの姿があったからだ。立つこともできないのに、必死に何かに手を伸ばしているキリト。
「フォン…一体何が…!?」
「分かんねーよ…!?いきなりこいつが二階から落ちるように降りてきたと思ったら、さっきからこの様で…」
「キリト!?しっかりして…!一体どうして…?」
僕たちがキリトを支えるも、キリトは気にすることなく手をどこかへと伸ばそうとしていた。その行く先が気になり、僕は視線を辿ると、その先は僕たちの剣が置かれている倉庫だった。
その時、飛竜の…雨縁の低い鳴き声が小屋へと響き渡った。
「…雨縁…?っ…まさか!」
雨縁の様子から何かに気付いたアリスが小屋を飛び出した。僕もキリトをフォンに任せ、アリスを追って小屋を出た…そして、それを目にしてしまった。
「あれは…火事の煙…!」
「あっちは…ルーリッドの方角だわ」
「っ!?」
村の方から上がる火の色と煙が、村に何かがあったことを知らせていた。そして、思い出されるのは先日のエルドリエさんの警告だった。
(ダークテリトリーの侵略…!そんな…こんなに早く…!)
「…ユージオ…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ユージオ!」
「っ…ア、アリス…?」
「キリトを部屋に連れて行ってあげて…お願い」
「う、うん…」
アリスの言葉に我に返り、呆然としていた僕はアリスの指示に従う。フォンに協力してもらって、キリトを部屋に運び終え、後のことをフォンに任せて下に降りる。
「…アリス…その恰好…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一階に着いた時、そこには騎士の姿をしたアリスがいた…驚きはなかった。覚悟ができてしまっていたのか、諦めてしまっていたのか…もうよく分からなくなってしまっていた。一方のアリスもどこか辛そうな表情をしていた。
「…ユージオ…私は行かなければならない。私ができることを…セルカを…民たちを守るために…!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…本当にゴメンなさい。そのまま私はここを去ることになると思う…もうここには帰ってこれないと思う。だから……キリトたちのことをお願いね」
最後の一言だけ…アリス・ツーベルクの口調に戻った彼女は笑みを浮かべながら、泣いていた。その姿が8年前のあの時と被った…そして、思わず手を伸ばしてしまった。あの時、届かなかった手を、今度こそは…そんな思いが出たのかもしれない。けど、
「はぁぁ!!」
「っ!?」
僕の手を拒むかの如く、アリスは金木犀の剣を振るったのだ。小屋の床が壊れることなど気にも留めない一撃は文字通り床を轟音と共に抉り、まるで訣別の境界線の如く僕とアリスを隔てた。
「…来ないで…」
「…っ…」
「貴方はこちらに来てはいけない…これは騎士である私の役目。これ以上、貴方たちが闘う必要はない」
「…ぁ…!」
その一言が深く胸に刺さった…今までのどの言葉よりも痛く、辛かった。何も言うことができずにいるうちに、アリスは振り切るように出て行ってしまった。
「来なさい、雨縁!」
雨緑を呼び、颯爽と飛んでいくアリス…その姿を僕は見ていることしかできなかった。
〈アリス VIew〉
(ゴメンなさい…ゴメンなさい、ユージオ…!)
雨緑に乗り、空を駆けながら村へと急行する最中…私は涙を流していた。心には今まで感じたことのない痛みが走っている…頭から先程のユージオの表情が離れない。
酷いことを言った…嫌われてしまったかもしれない…昨日、無理矢理にでも話をしておけば良かったかもしれない…
後悔の波が次々と押し寄せてくる…泣いてはいけない、これから戦場に向かうのに泣き続けているわけにはいかない…心を押し殺して、涙を無理矢理に拭う。今は…私が闘わなければならない。
私と心を一つにしてくれた彼女の為にも、私が皆を守らなければならない…その心だけが今の私を唯一支えてくれていた。
覚悟を決め終えた時には既に村の様子が見えていた…村の北側から火の手が上がっており、ダークテリトリーの軍団…ゴブリンやオークの群れが村の中心部へと迫っているのが確認できた。
一方で、村の衛兵隊は瓦礫や木材で壁を作り、防戦しているようだったが…私はその時、おかなしなことに気付いた。
(どういうこと…?村の中心に人が集まっている…なのに、どうして誰も避難しようとしないの?南側は敵もいないし、逃げる機会は今だというのに…!)
このままでは防衛線が破られるのも時間の問題だった…ともかく現状を確認すべきだと思い、私は地上へと降り立つことにした…記憶にはあるが、こうしてこの高度から飛び降りるとなると、少しだけ躊躇してしまう自分がいた…しかし、村の危機にそんなことを恐れている場合ではなかった。
「雨緑、指示があるまでここで待機して!」
『グルル…!』
雨緑に待機命令を出し、整合騎士の身体能力を信じて、私は村の中央へと飛び降りた。落下の衝撃を和らげるために金木犀の剣で秘奥義を放つも、音は防ぐことができず、落ちてきた私に皆の視線が集中する。
「あれは…姉様…?」
セルカの声が聞こえ、視線を向けると、無事な姿がそこにはあった。それにホッとしつつも、今すべきことを為すため、私は場を指揮するバルボッサさんと村長…お父様へと近づいた。私だと気付いたお父様も驚いた様子だったが、言葉に迷っているようで視線を逸らされてしまった。なので、私から話を切り出した。
「いきなりの蛮行をお許し下さい。しかし、このままでは防壁が突破されるのは時間の問題…ここではダークテリトリーの侵攻を防ぎ切れません。今すぐ南の通りから全住民を非難させて下さい」
「なぁ…馬鹿を言うなぁ!?屋敷を…いや、村を捨てて逃げられるか!?」
「逃げるなら今しかありません。ゴブリンたちに追いつかれれば、どうなるかは想像がつくでしょう…家財と命とどちらが大事なのですか?」
「ぬぅ…ぐぐぅ…!」
「だが…広場にて集結し、円陣を組むことによって守備を固めろと言うのが衛士長のジンクの指示なのだ…この状況では村長の私とて、その命令には従わなければならない…それが帝国の法なのだ」
「っ…(皆、禁忌目録や法に縛られてこの場を動けないから、逃げなかったのね。通りで動きがおかしいと思ったわ)」
お父様もこの状況が良くないとは分かっているのだろう…このまま平行線を辿っている余裕はないと私が内心舌打ちしている時だった。意外な助けの声が聞こえてきた。
「父様…姉様の言う通りに従いませんか?」
「…!…セルカ?」
「昔から姉様の言っていることが一度でも間違ったことがあった?…ううん、私にだってこの状況のままじゃ駄目だってことくらい分かるわ…姉様の言う通りにしないと皆死んじゃうわ!?」
「…セルカ…」
勇気を出して、自身の意見をお父様に伝えるセルカ。昔のセルカからは想像もつかなかった、妹の成長ぶりに少し驚くも、残念ながらその意見に反対する人もいるわけで…
「ふざけるな!逃げるじゃと…?子供の癖にでしゃばるでない!?村をまも…っ…!?」」
セルカに怒鳴るバルボッサさんの言葉が止まった…いや、私の放った怒気によって言葉を止めた。この状況になってもまだ保身に走り、セルカの意見を子供の戯言だと聞き入れない奴の言葉に、私の我慢も限界を超えてしまったのだ。
…もちろん、日ごろの鬱憤が入ってないと言えば、嘘になってしまうが…
私の放った怒気にバルボッサさんの顔が引き攣り、私のことを恐れるような目で見ながら糾弾の言葉を放ってきた。
「…そうか…分かったぞ!?村に闇の国の怪物どもを招き入れたのはお前じゃな、アリス!?昔、果ての山脈を越えた時、闇の力に汚されて、お前は魔女になったのじゃな!?村に厄災を持ち込みよって…!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
見当違いな推測に苛立ちつつ、頭痛を覚えてしまった…どこまで盲目すれば気が済むのだろうか。これ以上は時間の無駄だと思い、バルボッサの言葉に動揺する皆に聞こえるよう、私は宣言した。
「騎士の名において、衛士長ジンクの命令は破棄します!この広場に集う村人は、全員武器を持つ者を先頭にして南の森に避難するように命じます」
「き、騎士とはなんじゃ…?!そんな天職…この村にはないぞ!?ちょっと剣が使えるからと勝手に騎士を名乗るなんぞ…!王都の騎士様に知られれば…」
「その王都の騎士の名において命じているのです!!」
ローブを殴り捨て、私は金木犀の剣を地面へと叩き付ける。私の鎧姿を見て、全員が目を見開かせていた…セルカも私の姿に口が開いたままになっていた。
…もう後戻りはできない…覚悟はここに来る前に終わらせた。私はもうどこにも帰ることが出来ない…それでも、私一人が剣となって、皆を守れるのなら…私はここに宣言しよう。
「私の名はアリス…セントリア市域統括、公理教会所属…整合騎士第三位アリス・シンセシス・サーティ!!その名において、もう一度命じます!今すぐ南の森に退避しなさい!!」
「せ、整合…騎士…!」
「ア、アリス…」
バルボッサと父様が私の告白に呆然とし、皆も事態が呑み込めていない中、いち早く我に返ったセルカが私の元へとやってきた。
「姉様が…整合騎士様?」
「…ゴメンなさい、セルカ。今まで嘘を吐いていて…本当は貴方の姉として普通に接してあげたの…でも、これが私の背負った責務なの」
「ううん…!私、信じてた…!姉様は罪人なんかじゃないって…!」
「ありがとう…」
「騎士様」
「っ…」
涙を流し、私のことを受け入れてくれたセルカ。すると、隣で私を呼ぶ声がし、視線を向けると、膝をついているお父様の姿があった。
「ご命令、しかと受け賜わりました…そして、先程までの無礼な態度、大変失礼致しました。聞いたな?武器を持っている者は村の皆を南門へと誘導しろ!村を出たら、開拓地…南の森へと避難するんだ!」
お父様の号令に村の皆も正気に戻り、続々と行動し始める。そんな中、私はお父様とセルカと向き合っていた。
「お父様…村の皆を、セルカとお母様をお願い致します」
「騎士殿……いや、アリス…行くのか?」
「…はい!」
「………私にこんなことを言う権利はないのであろうが…無事に帰ってきてくれ」
「…お父様たちもどうかご無事で」
「姉様…ユージオたちは…?」
「大丈夫。キリトたちのことはユージオに任せているわ。それに、ユージオもいざという時には逃げる筈だから、きっと大丈夫よ」
「…良かった……姉様、どうか気を付けて…!」
「ありがとう…さぁ、早く行って!…来い、雨縁!」
二人に避難するよう促し、私は待機させていた雨緑を呼び寄せる。急ぎ前線へと向かうも、防壁は限界を迎え、遂にゴブリンたちの侵攻を許してしまっていた。
「くそっ…!退け!退けぇ!?」
「(…マズい…!今、戦線が崩壊したら、皆が…!)雨緑、焼き払いなさい!!」
戦線を保つため、私は雨緑にブレスを吐くように命じる。急降下と共に雨緑からゴブリンたち目掛けて灼熱の一閃が放たれ、奇襲に対応できずにいたゴブリンたちを焼き払った。その混乱に乗じ、私はジンクに斬り掛かろうとしていたゴブリンの凶刃を金木犀の剣で受け止めた。
「なぁ…なんで、あんたがここに…?」
「話は後です。貴方も避難してください…早く!?」
「あ、ああ…!」
ジンクの指示に従い、衛士たちが後退を始めた。その一方で、私に刃を受け止められたゴブリンは殺気と怒りを表情に浮かべていた。
「イウムの女…!殺して、食う…!」
「そう…でも、それはできませんよ」
全力で押し込んでくる刃を、整合騎士の力で軽々とはねのけて、隙だらけになったゴブリンの体へと蹴りを叩き込んだ。その余りにも強すぎる暴力はゴブリンの体を球のように吹き飛ばし、後ろにいた者共を数体巻き込んだ。
仲間がやられたことに怒りの咆哮を上げるゴブリンたち、防壁が突破されたことで意気揚々と進行してくるオークたち…その群衆たちに立ちはだかる様に私は対峙する。
(…すぅ…落ち着きなさい、アリス。今の私にできることを…ユージオたちが守ろうとした世界を、セルカたち家族を…力のない民たちを守りたいというもう一人の私の思いを貫くためにも…!)
自信なんてない…むしろ、これから命を奪うという行為に恐怖を感じていた。もう一人の私の記憶には確かにそれはあるが、今の私にとっては全くの経験のないことだ。今でも手が震えてしまっている…けど、ユージオたちにこれ以上何かを背負わせること…セルカたちを守れないことを想像した時の方が何倍も怖かった。
「我が名は、人界の騎士アリス・シンセシス・サーティ!!私がここにいる限り、お前たちが求める血と殺戮は決して得られない!それでも向かってくるというのなら…ここで切り捨てられる覚悟を持って向かってくるがいい!」
私の言葉など気にすることなく、ゴブリンたちは侵攻を止める気配がなかった。
「…参る!」
その言葉と共に、私はゴブリンたちの群れへと突っ込んだ。
〈アリス View End〉
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
雨緑と共に飛んでいくアリスの姿を僕は見つめていることしかできなかった…アリスが残した剣戟が現実を僕に突き付けているようで、無力感に襲われた僕はその場に膝を突いてしまった。
もう考えることに疲れてしまった…このまま呆然としていれば、アリスが全て解決しまうのではないか…自分はやはり必要なかったに違いない…
思考が負の色へと染め上げられていく感覚…8年前と何も変わっていない僕はそのまま…
「行かないのか?」
その言葉に、僕の意識は現実へと引き戻された。振り返れば、フォンがすぐ傍に立っていた。その目は僕を見下ろし、僕の言葉を待っているようだった。
「…行ってどうするっていうんだい…僕が言ったところで、足手まといになるだけだよ」
「アリスがそう言ったのか?」
「……僕は必要ないって…僕はこっちに来るべきじゃないって…彼女にとって、僕は必要な人じゃなかったんだ」
「…………じゃあ、お前にとってもアリスは必要じゃなかったってことなんだな」
「…えっ…?」
フォンの放った一言が理解できず、僕は思わず言葉が漏れてしまった。
「お前に聞いたよな。アリスの助けになりたい、彼女の力になりたいって…だけど、そんなことであっさりと諦めるなんて、お前の覚悟なんてそんなものだったんだな」
「フォン…な、何を言って…!」
「だって、そうだろうが…アリス、アリスと言っておきながら、相手に必要ないなんて言われただけで、勝手に塞ぎ込みやがって…結局お前に理由なんてなかったわけだ。
ただ罪悪感でアリスの近くにいただけ…自分が許されないことをしたから、その罪滅ぼしがしたいだけの自己満足でいただけだろうが」
「…違う……」
「何が違う…だったら、なんでアリスを追い掛けない?どうしてここで居続ける?アリスに優しい言葉を掛けられて、ちょっといい気分になっただけじゃないのか?それで掌返しを喰らって落ち込んで…そんなんであいつのことを好きだとかよく言えたもんだな…アリスも可哀そうだよな」
「っ…!」
その言葉を聞いた瞬間、僕はフォンを殴っていた。何の抵抗もなく殴られたフォンは後方へと吹き飛んだ…それに対し、僕は思わず手が出てしまったことに驚いていた。
「いつつ…これは効いたわぁ」
「あっ……ゴメン、つい…」
「…それが答えだろうが」
「えっ…」
フォンの言葉に何度目か分からない疑問の声を上げる。殴られたというのに、何事まもなかったかのように立ち上がったフォンは僕に歩み寄りながら話し掛けてくる。
「アリスがどう思うが、何を言ってこようが…お前がアリスを想っていることは誰にも譲れないことだろうが…だったら、何でその我を通さない」
「…僕には…そんな資格ない。権利なんて……僕は弱いから」
「…あー、面倒くせぇ…!?」
僕の態度に、ここ最近の態度から考えらない程にいらつき、僕の喉元を掴みかかってきた。そして、一気に言葉を放ち始めた。
「いつまで自分の気持ちから目を背けるつもりだ!?アリスの立場だとか、今の戦況とか、どうでもいいんだよ!?あいつのことを大事に思っているのなら、やることなんて一つしかねぇだろうが!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「大事なのはアリスの傍にいてやることだろうが!あいつがどんなに強くても、どれだけ困難な状況にいようが、お前が傍にいてやらないでどうする!?
お前がいたから、あいつはここでの生活を安心して過ごせたんだろうが!お前がいたから、あいつは騎士と本当の自分に向き合おうと思ったんだろうが!お前がいたから…自分の幸せを捨ててでも、お前を守ろうと闘いに行ってるんだろうが!!
だったら…お前もお前の想いを貫けよ!?お前が今することはここで打ちひしがれることでも、また同じことを後悔することでもないだろうが…!お前の大事なものは何だ?!」
「…っ…!?」
その言葉に、以前の記憶が蘇る。僕が守りたいもの…そうだ。僕は…
『ユージオ、誕生日おめでとう!』
『『おめでとう、ユージオ!』』
『…えっ…?』
8年前…アリスに呼び出された僕は、待ち受けていたキリトとフォンを合わせた3人からそう告げられ、目を丸くしていた。
『今日、ユージオの誕生日でしょ?これ、私たちからのプレゼント!受け取って?』
『えっ…えっ…?』
アリスから差し出されたプレゼント…小ぶりだが、しっかりとした装飾が施された木剣と盾に僕は上手く言葉を発することができずにいた。
『プレゼント…?僕に…?』
『お前以外に誰が誕生日の奴がここにいるんだ?作るの結構大変だったんだぜ?』
『お前がそれを言うのか、キリト…お前が担当してた木剣が一番遅れてて、完成したのがギリギリ昨日だったのを忘れたのか…』
『なぁ…!あ、あれはアリスが細かい修正点を次々と言ってくるから…!』
『私のせいにするの?!フォンは盾の方を一人で仕上げたし、私も鞘の方は手伝ったじゃない!』
『フフッ…アハハハハ!!』
いつものやりとりに思わず笑みが、そして、こんな形で祝ってもらえるとは思ってもみてなかった僕は涙が流れ出してしまった。そんな僕を見て、キリトがオドオドし始める。
『お、おい、ユージオ…大丈夫か?』
『ゴメン、ゴメン…嬉しくて涙が……本当にありがとう』
『泣くなよ…本当は本物の方が良かったかもしれないけど、その木剣と盾はそこら辺の露店に売ってるものとは全然違うからな』
『そうそう…なんせアリスがデザインから大きさまで細かく注文してきたぐらいだからな。そもそもユージオにプレゼントをしたいから手伝ってほしいと持ち掛けてきたくらいだしな?』
『ちょ…!?フォン、それは言わない約束だったでしょ!?』
『悪い、忘れた』
フォンの暴露で顔を真っ赤にするアリス。アリスが折角用意してくれた物だと分かり、僕はそれを大事に抱きしめた。
『ありがとう、アリス、キリト、フォン…僕、これ大事にするから!』
『うん…ユージオ…いつも一緒にいてくれて、ありがとう。これからもよろしくね!』
あの時からだ…僕の誕生日を心から祝ってくれたあの日から、僕は彼女のことが…アリスのことが好きになったんだ。
始めは友達としての好きだったかもしれない…キリトたちと仲良くしていることに対して嫉妬しての感情だったのかもしれない…それでも、今の僕はアリスが好きだと分かっている。
けど、怖かったんだ…否定されるのが。皆と比べて、何にもないと思っている僕が、アリスに否定されるのが怖くて、何もかも先送りにして…罪悪感や責任を逃げ口にして避けてきたんだ。
だから、アリスに『闘う必要はない』と言われて、衝撃を受けた中でどこか安心してしまった自分がいたんだ…それが僕たちのことを思って、そして、騎士としての感情のみでそう発したことを分かっていながら、僕は分かっていないフリをしようとした。
「…僕の大事なものは…8年前から変わってない…ちっぽけかもしれない…自分勝手かもしれない。それでも、僕にとってアリスは大切な人なんだ!僕はまだ彼女から…アリス・ツーベルクに対して聞かないといけないことを聞けてない…伝えないといけないことを伝えられていない……だから、彼女の傍を離れるわけにはいかない!」
「…ったく……ようやくかよ」
やることなど当の昔に決まっていたんだ…今度こそアリスの傍を離れない。それが彼女の意志に反しても、今度こそ手を離さない…どんなところに行こうとも、彼女へと手を伸ばし続ける…それが僕のやりたいこと、今の望みだ。
僕の態度にやれやれといった様子で苦笑するフォン。そして、いつものぶっきらぼうな態度へと戻ってしまっていた。
「あいつのことは任せろ。逃げるくらいならなんとかなるだろう…早くアリスの元へと行ってやれ」
「うん!…ありがとう、フォン…それと…殴ってゴメン」
「気にすんな…アリスからお前のことを頼まれて、見てられない程だったから口を出しただけだ。お前らのおっせかいさが移ったせいだな、こりゃ…」
「…もし僕がおっせかいだって言うのなら、それは君のが移ったからだと思うよ、フォン」
「……さっさと行け」
まさかの僕の反撃に、記憶を失ってから初めて罰の悪そうな表情を浮かべたフォン。それを誤魔化す様に振る舞う彼の姿に苦笑しつつ、僕は倉庫へと向かった。
青薔薇の剣と…セントラル・カセドラルで拝借した騎士服を身に纏う。本当は胸当てとかそういった防具も装備したかったが、今は探している時間すらも惜しい状況だった。最低限の装備をして、どうやってルーリッドへと向かおうと考えながら、小屋を出た時だった。
『ゴォォォオオオ!!』
「凍華…君、待ってくれて…?」
なんと、小屋の前に凍華が待機していた。僕の思いを察してなのか、早く乗れと目で訴えかけているように見えた。その意志に乗じ、僕は素早く彼女に騎乗した。
「頼む、凍華……君の全速力で、僕をアリスの元へと連れて行ってくれ!」
『グルルルル!!』
了解の方向と共に飛び立った凍華は今まで感じたことのないスピードで空を切った。轟音と強風に耐えながら、僕は火が登るルーリッドを見ていた。
(アリス…今行くから…!)
もう迷いはしない…そんな想いと共に、僕は凍華と戦場へと向かった。
改変しまくりです!
そして、容赦ないフォンさん…回し役ではあるのですが、敢えて嫌われ役にもなるという……実は最後のユージオとのやりとりもちょっとしたフラグだったりします。
そんなわけで、吹っ切れたユージオが戦場に向かうわけで、次回は久々のバトル回となります。
ある意味、ユージオの成長を見せる回になります。
では、また。