もしも想い人がいる隣の天幕から、よく知る女性の泣き声が聞こえてきた場合…どうなるでしょう?
そういうわけで、アリスさん激おこです(笑)
一試練を終えたかと思いきや、またしても(恋の)試練がユージオに訪れますが、そこまで長引かせるつもりはありませんので、ご安心を。
というわけで、頼れる先輩方との再会、そして、あの騎士との和解がメインとなります。そして、戦争におけるユージオのポジションも発表です!
それではどうぞ!
「ふわぁぁ……」
「…ユージオ。欠伸をしないで…騎士や兵士たちに見られたら、不快な視線を飛ばされるわよ?」
「っ…ゴメン、ゴメン…昨日、寝つけが悪かったからさ…」
ティーゼの想いを断り、彼女が落ち着くまで待った夜が明けた。落ち着きを取り戻した彼女といくつか言葉を交わしてから、ティーゼは自分の天幕へと戻っていた。
女の子を振るということ自体が初めて(しかも、僕のことをとても慕ってくれていた子をだ…)だったのもあり、後悔もあってすぐに寝つくことができず、少し寝不足になってしまったのだ。
思わず噛み殺し切れなかった欠伸をしていると、厳しい声が隣を歩くアリスから飛んできた。面目ないと思いつつ謝るが…
「あっそ…さっさと行くわよ」
「ちょ…!待ってよ、アリス」
…アリスの機嫌がすこぶる悪いのだ。今日、顔を合わせてから不機嫌であることを隠そうともしないのだ。さっきフォンたちに挨拶に行った際にも、
『おい…アリスの奴、どうしたんだ?顔に不機嫌ですって張りつけているぐらいに怖いんだが…!』
あのぶっきらぼうなフォンでさえ恐れ、こっそりと僕にそう尋ねてくるぐらいなのだから、どれほど不機嫌なのかは明白だろう。
と言うが、なんとなくアリスの機嫌が悪い理由になんとなく見当がついていた。間違いなく僕だ…というか、それ以外に理由が思い付かない…!
昨夜、ティーゼに遠慮なく泣くようにとは言ったが…隣にアリスの天幕があることを完全に失念していた…鉄の壁でない天幕で、隣から女性の泣き声が聞こえてくれば…想像には難くないことが起こっていると思われても致し方ない…ないのだが…
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(お願いだから、殺気までこっちにぶつけないでくれ…!)
言葉に出せない悲鳴を内心叫びながら、しかし、完全に弁論など聞いてくれる雰囲気でない彼女に言葉を掛ける勇気(正確には無謀さか…?)は…今の僕にはなかった。
誰かなんとかしてくれ!…なんてことを願ったおかげか否か…助け船を出してくれる人たちが向こうから歩いて来てくれた。
「ユージオ!」
「あっ…ゴルゴロッソ先輩!」
僕の名を呼んだその声を忘れるわけがなかった…修剣学院でお世話になって先輩…ゴルゴロッソ・バルドー先輩その人が、その大きな体に見合った大声と共に手を振っていた。その後ろには、リーナ先輩や…まさかのウォロ先輩までもいたことに驚きつつも、一礼して挨拶をする。
「先に行っているわ…軍議に遅れないようにね」
「う、うん…」
僕の知り合いだと察したアリスは、(冷たい雰囲気を隠すことなく)あっさりと先に行ってしまった。ちょっと寂しいと思いつつも、今はそっちの方が助かると思ってしまった僕は酷い奴なのかもしれない…いや、女性を振った挙句に泣かしているのだから、間違いなく酷い奴なのだろう。
そんなことを思いつつ、ゴルゴロッソ先輩たちと合流し、互いの再会を喜び、握手を交わす。
「息災だったか、ユージオ?最後に会った時と比べ、体格もしっかりしてきたようだが…まだまだ細いのではないか?もっと筋肉をつけるべきだな…ハッハッハッハ!」
「そうですか…?これでも頑張って鍛えてるんですが…」
「久しぶりだな、ユージオ。色々とあったようだが…君が元気そうで何よりだ」
「うむ…修剣士の時と比べても、纏う雰囲気が異なっているな…あの時対峙したキリト修剣士…ではもうないな…彼と同じ気迫を持っているようだ」
「リーナ先輩もウォロ先輩もお久しぶりです…ウォロ先輩、それは言い過ぎですよ(…確かに色々な修羅場は掻い潜って来たけど)」
リーナ先輩、ウォロ先輩とも再会の挨拶を交わし、笑みを浮かべる…ウォロ先輩に関しては相変わらずというか何というか…そう評価してもらえるのは有難いと思おう。
「その…学院での事件のことは聞いた…」
「…!そう、ですか……すみません。皆さんには期待してもらっていたのに、僕たち…」
「顔を上げなさい、ユージオ剣士!」
「っ…!?」
リーナ先輩から話を切り出され、僕は謝罪しようとして、言葉を遮られてしまった。突然の叱責に下げようとした頭が途中で止まってしまい、その声の主…リーナ先輩の怒った顔が視線に入った。
「私は事件のことを…お前たちの傍付き剣士たちから聞いた。確かにお前たちが禁忌目録を破ったことは事実かもしれんが…お前たちはそれが正しいと思ったから剣を振るったのだろう!?
ならば、そのことを誇りに思え!お前たちが守った者たちのためにも、それが間違いでないと思うのなら、謝ることを止めなさい!それは…お前たちを自慢の後輩だと思う私たちを侮辱することと同じことです…」
「あっ…」
怒号を飛ばすリーナ先輩の声が徐々に悲しいものになっていき、その言葉の真意が分かり、僕は思わず言葉を漏らした。
僕は…まだそのことについて罪悪感を抱いていたのかもしれない…いや、もしかしたら、禁忌目録を破ったことで先輩たちを失望させたのかもしれないという思いもあったのかもしれない。
昨日のティーゼたちの一件もあったのそうだが…僕はいつしか謝ることが癖になっていたのも大きいだろう。
でも、先輩たちは違った…僕たちのことを知っているからこそ、僕たちがしたことにも意味があったと分かってくれていた。あのウォロ先輩までもが、理解を示してくれているのだ。
ならば、リーナ先輩の言う通り…ここで僕が謝ることは…先輩たちの思いを無下にしてしまうことになる。
「…ありがとうございます、リーナ先輩…目が覚めました」
「いや…キリトたちのことも聞いた。私たちにできることがあれば、なんでも言ってくれ」
「そうだな…私もキリトにはでかい借りがあるからな…その借りを返せるのなら、協力することは厭わん」
「ウォロなんか実家と揉めた上に、認めてくれないというのなら単独で従軍すると言って飛び出してきたらしいからな」
ゴルゴロッソ先輩からそんな話が飛び出し、僕は驚いて口が開いてしまうのを防げなかった。ウォロ先輩、貴方そんな人でしたか…と思うのは当然のことだと思う。
「私だけが無茶をしたわけではない。セルルト殿も兵集めに奔走したと言っていたではないか?」
「当たり前だろう。アズリカ寮監に頼まれては断ることなどできんよ」
「まぁ、物好きの三人が揃ったという訳だ」
「そうだったんですね…そういえば、ハルト先輩は来ていないのですか?」
「あ~…ザガメナンの奴は来れなかったんだ。あいつの領地…南部の果てでダークテリトリーの侵略があって、あいつはそっちの指揮補助を務めることになったんだ」
どうやらルーリッドのように被害を受けた土地が他にもあったようだ。そういえば、ハルト先輩は領主の後を継ぐという話をフォンから聞いていたな。
「ともかく、今はダークテリトリーとの戦争に集中しなければな。ユージオも軍議に参加するのか?」
「はい、そうするつもりです」
「ならば、一緒に向かうか。もっと話していたいが、そろそろ行かねば軍議に遅刻してしまうからな」
ゴルゴロッソ先輩のその言葉に頷き、僕たちは軍議が開かれる天幕へと向かった。
「では、これより…軍議を始める!」
ファナティオさんとカーディナルさんが壇上に立ち、その宣言と共にファナティオさんが軍議を進行し始めた。
場にはベルクーリさんを始めとした整合騎士たち、治癒術師や防衛隊、神聖術師の各部隊長が集まっており、補佐役である先輩たちの隣で僕は話を聞いていた。
「この4か月というもの、あらゆる作戦を私と閣下、カーディナル殿と検討し合ってきましたが、現状の戦力で敵勢力を押し留めることは困難です」
ファナティオさんの言葉は、人界軍の戦力がどれだけ足りていないのかを物語っていた。兵はともかく…戦力の要となる筈だった整合騎士が…今この場には13名しかいないのだ。
昨日、カーディナルさんから聞いた話では、チュデルキンが『記憶に問題がある』と称し、整合騎士以前の記憶を取り戻しそうになった者、もしくは、整合騎士として不適合だった者に対し、再調整…精神を無理矢理操る魔法をかけたのだと…
31人いた筈の整合騎士も、セントラル・カセドラルと央都の管理のために4人、先日襲撃を受けた果ての山脈、そして、ハルト先輩の領地がある南部の防衛にそれぞれ2人ずつ、術から目覚めていない騎士が9人に、イーディスさんは南部の防衛の応援からまだ戻って来れておらず、ここにいる整合騎士はアリスを入れて13名。
いくら整合騎士が強いといっても、多勢に無勢…このまま闘えば、苦戦どころか…勝つことすら困難ように思える状況…それが今の人界軍だった。
「果ての山脈のこちら側は10キロル四方に渡って草原と岩場しか存在しない、真っ平らな土地が広がっているだけで、ここまで敵に押しこまれれば、後は5万の数を誇る敵に包囲…こちらは殲滅されるのを待つだけになるでしょう」
「そこで、こちら側が取れる戦法は唯一つ…東の大門へと続く幅狭し峡谷で防衛線を敷き、敵の迎撃を図るしかないわけじゃ。縦深陣の陣形を取り、敵の突撃を受け止めながら削っていく…これがこちらの基本方針じゃ」
「ここまで何か意見はありますか?」
ファナティオさんとカーディナルさんが交互に説明し、一通りが終わったところでこちらへと意見を求めてこられた。すると、一番に手を挙げたのはエルドリエさんだった。
「迎撃に関してですが、敵軍には大弓を装備するオーガの軍が、そして、一層危険な暗黒術師団も存在します。それらの遠距離攻撃にはいかなる対応をするつもりですか?」
「これは危険な賭けですが、峡谷の底は昼でも陽光が届かず、地面には草一本生えていない…つまり空間神聖力が薄いのです。
そこで、開戦前に我らが根こそぎそれを消費してしまえば、敵軍は強力な術式を撃てなくなるでしょう。
もちろんそれは我が方も同じ道理です。しかし、こちらにはそもそも神聖術師は100名程しかおりません。術式の撃ち合いとなれば、神聖力の消費量は敵方の方が遥かに多い筈です」
「…成程。副長殿の言は正しかろう。しかし、神聖力が枯渇してしまえば、傷付いた者の天命の回復すらできなくなるのではないか?」
「デュソルバート…お主の申すように確かにその危険性はある。じゃが、少しでも有利に戦局を運ぶにはこれぐらいの賭けに出ねばならぬのじゃ。幸いにも、人界のあらゆるところから高級触媒と治療薬を搔き集め、ここに運び込むことができた。
攻撃用神聖術を戦術から捨てるのなら、使用する術式も治癒術に集中することができるじゃろう…薬を補助的に用いれば触媒だけで5日は戦局を保たせることができる筈じゃ」
次々と出てくる意見に僕は驚きながら、一言も漏らさない様に聞きに徹していた。キリトたちと一緒に闘っている時はその場その場で咄嗟に反応していることが多かったので、こういった場での話にはついていくのがやっとな感じだった。
「ですが、問題はもう一つあります。カーディナル様、ファナティオ殿…いかにソルスとテラリアの恵みが薄いと言っても、あの谷には長い年月の間に膨大な神聖力が蓄積されていると話だった筈です。それを一体どのようにして一気にかつ開戦前の短時間で根こそぎ使い尽くすというのですか?」
「…それはできるのは唯一人…お主じゃ、アリス」
「「…えっ…!?」」
アリスだけでなく、僕の声までも重なった驚きの言葉が場に響く。てっきりカーディナルさんが大規模な神聖術を使うのではないかと思っていたのだ。それはアリスも同じことを思っていたらしく、目を丸くしていた。
「そんな……私にはそんな術式は…」
「術式はわしがもう既に組んでおる。じゃが、わしは戦況を見極め、各所に指示を出さなければならぬから、地上を離れられんのじゃ。そうなってくれば、術者は整合騎士の誰かということになってくる」
「…私に…そんな術が使えるのでしょうか?」
「お主自身は気付いておらぬじゃろうが、お主の力も整合騎士の範疇には収まらないものになっておる…下手をすれば、今のわしと同格かそれ以上かもしれぬ。だからこそできる筈なのじゃ、神の如く天を割り、地を裂く強大な術を使うことがのう…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
カーディナルさんからそう評価され、呆然としてしまうアリス。その言葉を受けた以上、断ることなどできず、アリスはその役目を担うことを承諾したのだった。
「あの…カーディナルさん、ベルクーリさん」
「うん…?」「どうした、ユージオ」
作戦の全てを説明し終えたことで軍議は終わりとなり、それぞれが最終確認へと向かうべく散り散りになっていく中、僕は相談をしている二人へと声を掛けていた。
「えっと…僕は結局どうしたらいいんでしょうか?軍議中もどこに所属しろとか、そういう話が出てこなかったので…」
「ああ、そのことか…丁度良かったぜ。今からお前さんの役目を説明しようとしていたところだったんだ」
どうやら忘れられていたわけではなかったらしい…ちょっとホッとしつつ、その先を聞くことにした。
「ユージオ…お前さんには遊撃を頼みたい」
「…遊撃…?」
聞き慣れない言葉がベルクーリさんから出てきて、意味が呑み込めない僕は首を傾げてしまう。
「まぁ、言うなれば…単独での迎撃部隊といったところだ。お前さんには一人で動いてもらい、戦況に合わせて各部隊の支援に回ってもらいたいんだ」
「単独で?それは…状況によって様々なところで戦っていく…という認識でいいでしょうか?誰かの指揮下につくとか、そういうのでなくていいんですか?」
「本来ならそうするべきなのじゃろうが、お主は立ち位置が特殊すぎるのじゃ」
なんとなく役割を理解するも、本当にそんな立ち回りでいいのかと思っていると、今度はカーディナルさんの言葉に首を傾げることとなった。
「そもそもじゃが、お主は兵を率いての戦闘など経験がないじゃろう?だからといって、お主の実力は兵士はおろか、整合騎士と並ぶかそれ以上のものじゃ」
「だったら、戦況によって部隊の援護に随時回れる立場の方が良いと、カーディナル殿と話してそう結論が出たわけだ。
更に言えば、お前さんが持つ青薔薇の剣はこういった集団戦の出だしには武装完全支配術が使いにくいだろう?だが、体勢を立て直す際に、敵の進行に対しての反撃としては、これ以上ない程の広範囲攻撃かつ防御の盾として使えるだろう?」
「…なるほど…」
カーディナルさんとベルクーリさんの指摘に納得がいってしまった。確かに…昨日そこらで加入してきた僕を無理矢理組み込むよりも、状況を改善させる起爆剤として適度に動ける立場に置いておく方がいいわけだ。
僕自身、こういった集団戦というのはほとんど経験がない。ルーリッドでの戦闘もそう当てにはできないだろう…ならば、その役目を全うできるように全力を尽くすだけしかないだろう。
「でも、僕が整合騎士と同等というのは…些か過大評価だと思いますけど…」
「…ユージオ…お主は自身を卑下に見すぎておるぞ?」
「全くだ。この俺と引き分け、エルドリエを破ったんだ。もう少し自信を持ってもいいくらいだぜ」
「お主もアリスも…わしにもベルクーリにもできなかったことをやってのけておるのじゃ。もっと自信を持て!整合騎士の範疇を超えておるのは、お主も同じなのじゃから」
「…僕が…?」
先程の軍議の中で、カーディナルさんがアリスを評価した言葉が僕にも向けられ驚く。さっき、その言葉をアリスに言った際、一瞬カーディナルさんが僕の方をチラッと見たような気がしたのだが、気のせいではなかったようだ。
「うむ…エルドリエとの試合のことはベルクーリから聞いたが、お主は無意識の内に心意の力を使えておる。フォンともキリトとも違う…お主自身に眠る力をもっと信じるのじゃ」
「僕の…力…」
カーディナルさんにそう言われ、僕は腰に差している青薔薇の剣へと視線を落とした。ルーリッドの戦いの時から何度か感じる、あの不思議な感覚…あれが僕の…心意の力の片鱗だということなのだろうか。
もしそうだというのなら、カーディナルさんの言葉を信じて、もっと自信をもつべきなのかもしれない。
その後、遊撃としての動きをベルクーリさんたちと確認し合い、その場を後にした。
東の大門の天命が尽きるのは明日の夕方ごろ…開戦の兆しを告げる報が人界軍全体に伝わり、皆が準備へと追われていた。
そんな中、万が一に備えて夜の見張りを交代ですることになり、立候補制での募集が掛けられた。人手不足の中、そんなことにまで時間を避ける人が今の人界軍にいるわけもないので、
「…うう~ん……!」
遊撃の役目を担う僕がその見張りを申し出た。他の人と比べれば、準備と呼べるようなことはないのも大きかったし、何かできることがあるのならしたいと思ってだった。それとは別に…
(アリスとまだ仲直りできてないんだよな…)
あれから何度か話せる機会はあったのだが…アリスは聞く耳持たずといった感じで、全然口をきいてくれないのだ。せめて、戦いが始まる前にはと思っているのだが…
どうやって謝ればいいかと考える時間が欲しく、たき火を見ながら一人考え事をするも、残念ながら良い案は浮かばず…だからといって、ティーゼたちに相談するわけにもいかず…思考を現実へと切り替えようと思い、僕は眠気を晴らすのも兼ねて背伸びをする。
「ご苦労様だな…こんなことを自ら進んで引き受けるとは…」
「えっ…!エ、エルドリエさん…!?」
声を掛けられ、慌ててその方向を向くと、エルドリエさんがこちらへと歩いてきていた。もう夜中で、皆寝ているだろうから、駐屯地の外には誰もいないだろうと思っていた僕は驚いて変な声が出てしまった。
更には、声を掛けてきたのがあのエルドリエさんだと言うのだから、僕が困惑するのも当たり前の話であって…
「隣に座ってもいいか?」
「ど、どうぞ…」
断る理由はない…というか、ここで断る勇気も度胸もない僕は引き攣った笑みで、エルドリエさんの問い掛けに頷くことしかできなかった。
「…失礼する」
そのまま横に座ったエルドリエさんだったが、ちょっとした恐怖を感じていた僕は。横に座られたことでようやく気付いた。以前のような険悪感というか、圧倒されるような感じが、今のエルドリエさんからは発されていないことを。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「えっと…こんな夜中にどうしたんですか?こんなことを言うのは失礼とは分かっていますが、いくら整合騎士でも、しっかりと休みを取るべきなのではないんですか?」
「…分かっている。だが、少し寝つきが悪くてな…」
「そう…なんですね…」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
沈黙が決まづくなって、僕から話を振ったのだが、あっさりとエルドリエさんが答えてしまったことで、再び場に沈黙が漂ってしまっていた。余計なことは言うべきではないのかと僕が考えている時だった。
「…すまなかった…」
「…えっ?」
ポツリと漏れた言葉が聞こえ、僕は思わずエルドリエさんの方を見てしまった。エルドリエさんは視線を焚火に向けたままだったが、その表情は何かを後悔しているかのようだった。
「貴様の剣のことを軽んじたことについてだ…騎士である私が、邪な感情に振り回れた挙句、あのような暴挙に出てしまうとは…本当にすまなかった」
「もしかして…昨日の決闘のことですか?あれは…エルドリエさんからすれば、ああ思っても仕方のないことだと思います。むしろ、ベルクーリさんみたいに言ってくれる人の方が珍しいじゃないんでしょうか?」
「それでもだ…私は貴様に謝らなければ、気がすまんのだ」
(が、頑固だな…)
本当に気にしていないのに、それでも謝るのを止めないエルドリエさんに僕は何とも言えない顔になってしまい、そんなことを思ってしまった。
セントラル・カセドラルで闘った時もそうだったが、エルドリエさんは何というか…貴族というものを人にしたような感じの人なのだろう。でも、ライオスやウンベールなんかとは絶対に違う…自分や自身の剣や考え方に対して誇りを持っているからこそ、今のように謝罪の言葉を述べているのだろう。
「私は…貴様が少し羨ましかったのかもしれん」
「…えっ…?」
そんなことを思っていると、意外な言葉がエルドリエさんから出てきた。それがどういう意味かと視線で尋ねると、エルドリエさんはその先を話し始めた。
「私は師の…アリス様から剣の手ほどきを受けた弟子の一人として、それに恥じぬ騎士であらねばと思い、闘ってきた。だから…カセドラルで、神器を持たない貴様たちに負けたことが昨日まで忘れられないでいた。
私の慢心が、貴様たちをただの学生だと侮ったことが、私の弱さを曝け出し、敗北へと繋がった…師の顔に泥を塗るどころか、その誇りにまで傷をつけてしまったと思ったよ。
だから…昨日、君に決闘を申し込んだんだ。この前は多人数で闘ったから負けた、互いに神器を用いての対等な決闘なら負ける筈がないと…自分の弱さを誤魔化して、君の剣を認めることができないでいた。そんな私が…君の剣を打ち破れるわけがないのにな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
静かにそう語るエルドリエさん…自嘲気味なその姿は、騎士としての顔ではない、彼本来の素顔にではないのかと思った。
「いや、これも言い訳だな……君がアリス様の大切な人だと分かった瞬間、私はそれを認めることができなかったんだ」
「…僕が…?」
「師との稽古の中、確かに厳しくはあったが、時折こちらのことを気に掛けてくれたり、笑みを送ってくれることもあったりはした。だが…君の隣に立つアリス様は、私に一度も見せてくれない表情をしていた。
私ではできなかったことを…君がアリス様の本当の顔を引き出せたのだと理解してしまった時には、もう自分を止めることができなかったよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕は何も言葉を返すことができずにいた…いや、返すべきではないと思った。これはエルドリエさんの…彼の懺悔であり、本心の吐露なのだから…それに水を差すことは僕にはできなかった。
「…すまなかった…呆れただろう?あの整合騎士が、人ひとりに自身の負の感情をぶつけた挙句、あの様だ…」
「…呆れてもいませんし、幻滅もしてないですよ」
僕の返事が予想外だったのか、エルドリエさんが初めてこちらへと視線を向けてくれた。
「僕も…エルドリエさんが羨ましいと思っていたんです。エルドリエさんは…僕の知らないアリスを知っている。師とはいえ、あそこまでアリスのことを思っている人がいるなんて…ルーリッドでアリスと話をしているところを見かけた時は…正直嫉妬しました」
「なぁ…聞いていたのか…!」
「すみません、盗み聞きしてしまって…でも、それと同時に凄いとも思ったんです。あの時の僕は…そんな勇気も度胸もありませんでした。あそこまでアリスのことを慕っているエルドリエさんが…本当に凄いと思ったんです。
僕なんか、アリスの隣にいるって約束してここに来たのに、今もアリスを怒らせてしまって…本当に何をやっているんだろうって感じなんです」
「あのアリス様を…怒らせた?」
僕の言葉を聞いたエルドリエさんが目を丸くしていた。そんなに珍しいことなのだろうか…剣の稽古を受けていたエルドリエさんなら、そういうことも何度かあったのではと思ったのだが…
「本気でアリス様が君に怒っているのなら、もっと行動で示すと思うのだが…少なくとも、私の時には、容赦なく剣の一撃で吹き飛ばされるか、遠慮のない言葉を向けられたりしたぞ…?」
「…そ、そんな感じだったんですね(…訂正しよう…想像以上の怒り方をしていたんだ)」
「まぁ、今日一日不機嫌だったのはそういうことだったわけか……我が師が珍しく機嫌が悪いことを隠そうともしていないとは思っていたが…ハハハっ!そうか!そういうことだったのか…!」
アリスが不機嫌なことに気付き、原因が僕にあると分かったエルドリエさんが笑いを零していた。僕としては、騎士のアリスが怒った時、どれだけ怖かったに引き攣った笑みを浮かべていたんだけど…
「まぁ、アリスが怒るのも仕方ないと思うんです…夜中に隣から女性の泣き声が聞こえてくれば、彼女の態度も当然だと思いますし…」
「…貴様、今何と言った…?アリス様を大切だと言っておきながら、まさか他の女性と…!?」
「ち、違います、違います?!言い方が悪かったですけど、慕ってくれていた女の子の告白を断ったんです!?僕が好きなのはアリスだけで……あっ…」
「……………今のは聞かなかったことにしてやろう」
「…すみません」
さっきまで「君」と僕のことを呼んでいたエルドリエさんの口調が元に戻り、殺気と怒気を向けられた僕は慌てて弁解するも、勢いの余り本心までもをぶちまけてしまった。殺されるかと思ったが、エルドリエさんは怒気を収めてくれた…殺気はまだ少し漂わせていた。
「エルドリエさんも…アリスが好きなんですか?」
「君は私を本気で怒らせたいのか?」
自分の本心を暴露してしまったせいだろうか…それとも、アリスのことが好きだと告げ、殺気をぶつけられたせいだろうか…失礼を承知で僕はエルドリエさんにそう尋ねてしまっていた。
一瞬青筋がエルドリエさんの額に浮かぶが、僕の表情から決して安易な気持ちで聞いているわけではないと分かってもらえたようで、焚火再度視線を落としたエルドリエさんはポツリと言葉を漏らした。
「…どうだろうな。確かに私の中には師を…アリス様を敬う気持ちはある。だが、これが恋心かどうか言われるとな…正直そんなことなど考えたこともなかったからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だが、言えることがあるのだとしたら、君がアリス様と付き合うことになっても、私はそれを素直に認めることができないだろうということだろうか」
「そう…ですか…」
エルドリエさんの放ったその言葉に、僕はそれ以上何も言うことができなかった。その言葉に、エルドリエさんの色々な思いが詰め込まれていたように思えたからだ。
「…ユージオ」
「っ…はい」
始めてエルドリエさんから名前を呼ばれた…その真剣な声色に僕も静かに、だけど、はっきと返事をした。
「君の剣は…私も信頼している。この戦争…必ず勝とう」
「…はい!」
その言葉にはっきりと返し、僕はエルドリエさんへと手を差し出した。それが握手を求めたものだということを理解したエルドリエさんは一瞬驚きつつも、その手を取ってくれた。
「さて…私はそろそろ戻るよ。見張りは大変だろうが、頑張ってくれ」
「ありがとうございます、エルドリエさん…」
「それと…できるなら、師の機嫌を早くなんとかしてくれると助かるんだがね…?」
「えっと…なんとかしてみます」
そんな冗談を言ってくれる辺り、僕に心を開いてくれたのだろうか…いや、あれは半分本心も混じっていたなと思った僕は苦笑しつつ、去って行くエルドリエさんの背中を見送った。
見張りの時間はまだ続く…エルドリエさんとの会話で少しだけ気持ちが軽くなった僕は、迫ってくる眠気に耐えながら、焚火が絶えない様に薪をくべた。
…どうやってアリスの誤解を解こうかと考えながら…
アリリコだと素直になり切れないエルドリエでしたが、同じくアリスのことを思うユージオが相手だったら、こうなるかな…そう思っての決闘を挟んでの和解でした。
さりげなくアリブレを反映させた先輩たちとの会話シーン…フォンが傍付きとして仕えていたハルト先輩はお休みです(笑)多分、再登場はムーン・クレイドルになるんじゃないでしょうか…?
さてと…次回は激おこのアリスに対し、ユージオがどう動くのか…そして、遂に人界軍とダークテリトリーの戦争が始まります!
ユージオの介入で少しずつ変化を見せる戦況をご期待下さい!
それでは!
もし見るのならどちらがいいですか?
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幻想剣各種ソードスキル
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呼び出した武器の記憶に宿る剣術