ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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前半はダイジェストで、後半が本番です!
…嘘です、前半も必要な部分はしっかり書いてますので読んでください!?

そんなわけでタイトル通りのお話です。
ユージオ生存の影響で、更に闇落ちし掛ける騎士にティーゼが掛ける言葉とは…

そして、訪れる賢者への試練…その結末は如何に?

それでは、どうぞ!


第ⅩⅩⅠ話 「再翼の翠双鳥、賢者の目覚め」

ユージオがフィゼル・リネルたちと合流し、戦況の打開を図ろうしていた頃…

 

「…立つんだ、レンリ…持ち場に戻って指揮を執って…戦わないと………いや、僕なんかがいたって、邪魔になるだけだ」

 

人界軍の後方に位置する物資備蓄用天幕…その隅で蹲り、自問自答する若者の姿はあった。翡翠の鎧胸には整合騎士を現わす紋章が刻まれた彼は、本来であればここにいるべきではない人物だった。

 

彼の名は、レンリ・シンセシス・トゥエニセブン

 

ユージオが駆け抜けてきた第二部隊左翼を守る筈だった整合騎士であり、ユージオたちがセントラル・カセドラルにて激闘を繰り広げていた最中、追加戦力として急遽凍結処分から解放された騎士である。

 

カセドラルの戦闘には覚醒が間に合わず、それでも、ダークテリトリーとの戦争において、一つでも多くの戦力が欲しい人界軍にとっては、貴重な戦力として参加することになったのである。

 

そんな彼がどうしてこんな場所で隠れるように身を潜めているのか…

 

それは彼が…かつてアドミニストレータから『失敗作』としての烙印を押されてしまったからである。

 

『レンリ…貴方、壊れちゃってるわね』

 

27番目の数字を冠する通り、整合騎士の中では比較的年数が浅く、彼は15歳ほどの童顔ではあったが、その剣の腕は周囲から天才と称される程のものであり、それを見込んだアドミニストレータから神器『雙翼刃』を授けられたのだが…

 

レンリは雙翼刃の武装完全支配術を一度も発動させることができなかったのだ。それにより、アドミニストレータは彼を見限り、チュデルキンの手によって凍結処分…ディープフリーズの神聖術を施されてしまったのだ。

 

「そうだ…僕がいなくとも、彼がいる。あの少年が…」

 

レンリのいう少年…それは、ユージオのことを指していた。

 

先日起こった、ユージオとエルドリエの決闘…それをレンリも見ていたのだ。そして、ユージオの剣技に圧巻され、まともに神器を使いこなせない自分と比較してしまったのだ。

 

自分とほとんど変わらない少年が神器を完全に使いこなしているのに対し、自身は整合騎士とふさわしくない…その思いまでも重なり、レンリの心に闇を刺してしまっていた。

 

単独遊撃部隊として動いている彼なら、自分が放り出してしまった部隊をもなんとかしてくれるんじゃないか…そんな淡い希望までも抱いてしまう程に、レンリは自分の責任を放棄してしまっていた。

 

だが、心の奥底では分かっていたのだ…本当はこんなことをしているわけにはいかないと…それが分かっていても、彼の足を止めてしまっているもの…過去のトラウマが彼を歩みを止めてしまっていたのだ。

 

『レンリ…お前は、立派な騎士になれ………俺の分まで…』

 

かつてレンリが親友と共に参加していた四帝国統一大会…天才と揶揄されたレンリと互角に撃ち合えるほどに友の剣の腕も立ち、二人が大会で激突するのは必然だった。

 

しかし、そこで悲劇は起こった。

 

友の持っていた剣の天命が減少していたのか、それとも、二人の洗練された剣技に剣自体がついてこれなかったのか…レンリの放った一撃が、友の持っていた剣を破壊し、友の命をその一撃によって奪ってしまったのだ。

 

残る力で最期の言葉を残した友だったが、光となって散っていく友に、レンリは言葉すら返すことができず、呆然とその場で座り込むことしかできなかった。

 

(僕は…僕はもう……!)

 

戦おうとする度に、その記憶が脳裏を蘇り、自分の体を縛り付けてしまう…その恐怖にレンリは打ち勝てずにいた…それが、彼が戦場を離れてしまった理由だった。

 

「この天幕ならどう…?」

「うん。ここなら身を隠すのも大丈夫そう」

「なら、キリト先輩を奥に隠して、私たちは天幕の入り口守りましょう」

 

(人…一体誰が…?)

 

入り口から女性たちの声が聞こえ、身を隠していたレンリは思わず身構えてしまう。すると、天幕の入り口が開かれ、声の持ち主たちが中へと入ってきた。

 

その人物たちが何者なのかを確認しようとして静かに動いたつもりのレンリだったが、中が暗いことから注意深く警戒していた人物…ティーゼがその動きに気付いてしまった。

 

「っ…!?そこに誰かいるの!?」

「………敵じゃないよ。驚かせるつもりはなかったんだ、済まない」

「き、騎士様…!?失礼致しました!」

「いや、驚かせてしまった僕の方が悪い…本当に済まなかった」

 

相手が敵ではないことを視認し、これ以上隠れているのは無理だと思い、両手を上げ敵意がないことを示しながら出てきたレンリに、ティーゼと、車椅子に乗るキリトを連れていたロニエは驚いた。

 

慌てて謝罪するティーゼだったが、悪いの自分だと再度レンリが謝り返していた…そして、二人の目線が自身の胸元の紋章に集中していることに気付き、目線を逸らしてしまった。

 

「それに…僕はもう整合騎士じゃない。戦場から逃げてきたんだよ……今頃、僕が指揮する筈だった前線の部隊は大騒ぎだろう…死者だって出ている筈だ…なのに、ここから動けないでいる僕が騎士なんかであるもんか…」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

レンリの自嘲が混じった言葉を受けても、ティーゼとロニエは表情を崩すことはなかった。逆にロニエからレンリへとあることを申し出た。

 

「申し遅れました…私たちは補給部隊所属のロニエ・アラベル初等錬士と、ティーゼ・シュトリーネン初等錬士…そして、こちらが…キリト上級修剣士殿です」

「キリト…?あの最高司祭様を倒したという……エルドリエ様との決闘に勝ったユージオっていう剣士の仲間…?」

「…はい。騎士様、勝手なことを申すようですが、どうか私たちに手を貸してもらえませんか?なんとしても、私たちはキリト先輩をお守りしなければならないのです」

「それは……」

「私たち二人が力を合わせてもゴブリンたった一匹にも適うかどうか分からないんです…でも、それが今の私たちの任務なんです…私たちに先輩を託してくれたユージオ先輩に応えるためにも…この方を絶対に守り抜かないといけないんです」

「…僕は…今も戦っている彼みたいには強くない…そんな強さなんてないんだ」

 

「ユージオ先輩はそんな人じゃありません…!?」

「っ…!?」「…ティーゼ…!」

 

自嘲が混じった拒絶の言葉を、ティーゼの叫びが否定した。まさかの言葉がレンリは驚き、親友の反応にロニエも驚きを隠せないでいた。

 

「ユージオ先輩は…接してきた今まで一度も自分のことを強いなんて語ったことないです!自分はいつも諦めてばかりで、逃げ続けていたって…!でも、そんな先輩も諦めたかったら、あんなに強くなれるんだって…!

今だって、きっと怖くても、逃げ出したくても、自分にその力があるから…守りたい人がそこにいるから、心を奮い立たせて戦場に立っているんです!?僕にもできるんだから、私たちにもできるって…だから、騎士様も……!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!」

「「「っ…!?」」」

 

そう語るティーゼの言葉を悲鳴が遮った。戦線が迫っていることに焦りを覚え、ティーゼは状況を確認すべく、入り口から外の光景を偵察しに行った。

 

(…心を強く…)

 

ティーゼに言われたことが胸に刺さり、その言葉を心の内で繰り返すレンリ。あの若き剣士も自分と同じなのか…そんな思いが胸中を渦巻くも、時は待ってくれなかった。

 

「もうここにまで煙が…ちょっと待って…変な煙の中から沢山の人影が……っ!?ロニエ、剣を抜いて!」

「っ…!?」

 

ティーゼの言葉に状況を察したロニエも抜刀し身構える。そして、次の瞬間、天幕が蛮刀によって引き裂かれ、人よりも一回り大きい体格のゴブリンが姿を現した。

 

「ほほぅ!白イウムの娘っ子が二人!俺の獲物として、殺してやるよぉ!」

「「っ…!?」」

 

なんとか剣を構えていられるが、実戦経験のないティーゼたちに、初めて相対したゴブリンに立ち向かう気迫などなく、剣先が恐怖で震えてしまっていた。その姿さえも、ゴブリンを喜ばせる材料にしかならず、ゴブリンは二人を仕留めようと近づきつつあった。

 

「はぁ…!はぁ…!(僕が…僕が、やらないと…!?)」

 

頭では分かっているのに、体が動いてくれない…またしても、レンリの心と体が一つにならず、その体を縛り付けてしまっていた。そんな時だった…

 

「ロニエ、下がってて!?」

「ティーゼ…!?」「…っ!?」

「ほーう…そんな剣でこの俺を倒すつもりなのか?グフフフフッ!」

「に、逃げない…!私だって…剣士よ!?ユージオ先輩みたいな…みんなを守れるような剣士なら…絶対にここで逃げたりしない…!」

「………!」

 

『レンリ…お前は、立派な騎士になれ………俺の分まで…』

 

ティーゼの言葉が、亡き友の言葉と重なり、レンリの脳裏にはっきりと蘇った。彼が残した最期の言葉は恨み言などではなく、自分を気に掛けてくれていたものだった。そして、ティーゼの言葉に反応したのは、レンリだけではなかった。

 

「……っ…!?……っ…!?」

「君は……!?(そうなっていても、彼女たちを助けたいと言うのか。剣を振るどころか、動くことも話すことだってできないのに……僕は…!)」

 

残った右手で持たされていた黒剣を力強く握りしめるキリト…自分だけでは何一つできない筈の彼が、ティーゼたちを守ろうとする意志を見せたことに、レンリの心が大きく動かされる。

 

「死ねェェェェェェ!!」

「っ……………えっ…?」

 

ゴブリンが咆哮と共に剣を振りかぶり、受け止めようと身構えたティーゼ。しかし、いつまで経っても衝撃が訪れず、目を開けた先の光景は…

 

「ガァ…?」

「…あっ…」

 

ゴブリンの頭と右手が何かによって切断され、死体となって崩れ落ちている光景だった。一瞬何が起こったか分からずにいたが、何が風を切り、自分たちの背後…それを咄嗟に放ったレンリの手元へと戻っていた。

 

「騎士様…!ありがとう、ございます!助けてくださったんですね…!」

「いや……迎撃は僕が引き受ける。君たちはここでキリトさんを守っていて!」

「「は、はい…!」」

 

ティーゼたちにそう指示を出し、キリトを一瞥してからレンリは天幕を飛び出した。その目には…先程まで見せていた弱気な姿など欠片も残ってなかった。

 

(僕が失敗作だとしても、強くないとしても…僕にだって守れるものがある…!だから…もう逃げない…!)

 

心の翼を再び得た翠双の騎士…その騎士が操る神器・雙翼刃をたかがゴブリンの大群で止められるわけもなく、補給部隊を襲っていたゴブリンたちは瞬殺…隊長格であった山ゴブリン:コソギも、雙翼刃の記憶開放術により討ち取られ、フィゼル・リネルと合流したことで、人界軍は押されていた戦線を押し戻すことに成功した。

 

 

 

一方、同部隊による襲撃を受けていた治療所は…

 

「っ…!?最高司祭代理…!」

「どうやら間に合ったようじゃな…!」

 

負傷兵の撤退を手伝っていたマーベルだったが、空から降りてきたカーディナルの姿に驚いていたが、防衛線が突破される前に間に合ったことに安堵しつつ、状況をマーベルへと尋ねた。

 

「避難の状況はどうじゃ?」

「それが…動けない人が多いうえに、人の手が全然足りていないんです!?フォン先輩が率先して動いてくれているんですが…このままではとても間に合いません!?」

「…やはりそうか…分かった。ここには治癒術師だけでまともに戦える者はほとんどおらんじゃろう…わしが前線に出て時間を稼ぐから、なんとか撤退を急がせるのじゃ」

「そ、そんな…危険です!?いくら最高司祭代理でも…かなりのゴブリンたちが迫っていると聞きました…!護衛もなしなんて…!?」

「前線は崩壊しないようにするので精一杯じゃ。ユージオが向かってきてくれとるかもしれんが、当てにはできん…ならば、戦えるわしがなんとかするしかあるまい…!避難を急がせよ!」

「カ、カーディナル様…!!っ…動ける方は動けない人の補助を手伝ってください!」

 

自身の制止を振り切り、戦場へと向かってしまったカーディナルに、今は受けた命を実行するしかないと、マーベルは周囲に指示を飛ばしながら、自身も動けない負傷者の移動を手伝い始めた。

 

 

 

「…くっ!ここまで敵の侵入を許してしまっておるのか…!」

 

左翼が抜かれてしまい、急ぎ本隊から緊急を知らせる信号弾を模した神聖術を放ったが、応援が来るかは望み薄であり、防衛隊を数の暴力で圧倒するゴブリンたちの群れに、カーディナルは思わず舌打ちをしてしまっていた。

 

もしかすれば、遊撃であるユージオが駆けつけてくれるかもしれないが、同時に襲撃を受けている補給部隊のところに行く可能性も考慮すると、それに期待するのは危険だった。

 

もう既に防衛線は崩壊…このままではゴブリンたちが治療所を襲撃してしまうことは時間の問題だった。

 

(今のわしにどこまでやれる…!)

 

一抹の不安を覚えながらも、カーディナルは杖を槍に見立て、迫り来るゴブリンたちの群れの前に立ちはだかった。もう既に兵は全て力尽きており、今、戦えるのはカーディナル一人であった。

 

「わしの名はカーディナル!人界軍を纏める、最高司祭の者じゃ!おぬしらの暴虐の限り、これ以上は許さぬ!ここから先には一歩と通れぬと思うがよい!!」

「最高司祭…!大物の頸だ!」「あんなガキに恐れるなぁ!一匹のイウムなんぞ、すぐに殺せる!」「殺せ、殺せぇ!!」

 

カーディナルの言葉を信じた者もいれば、外見だけで侮る者もいたが、100を超える大群

の前では、カーディナルがどういった存在であれ、今は殺す対象にしかなかった。

 

そして、一気にカーディナルへとゴブリンたちが迫り始めた!しかし、カーディナルは一向に慌てることなく、冷静にゴブリンたちの動きを見極め、

 

「おっと!…はぁぁぁ!」

「ぐぉ…?!」

 

正面から蛮刀を振り降ろしてきたゴブリンをひらりと躱し、杖でその背中を叩き、体勢を大きく崩した。そこに追撃を掛けてきたゴブリンたちの動きも完全に見切り、次々と杖で転ばせたり、体勢を崩したりして、ゴブリンたちを翻弄していくカーディナル。

 

すぐに殺せると思っていたゴブリンたちだったが、全ての攻撃・連携をカーディナルによって見切られてしまい、焦りと共に怒りが湧き上がっていた。

 

一方のカーディナルも敵が油断していたことから、怒りを募らせていることから、そろそろ仕掛ける時かと思い、周囲のゴブリンたちを杖を振り回した衝撃で吹き飛ばし、一度後方に下がった。

 

そして、冷静さを失い、いつのまにか陣形を密集状態に近づけてしまっていたゴブリンたちを仕留めようと、神聖術を発動させる構えを取った。

 

(攻撃用神聖術は作戦の都合上、多くは使えん…一度の大技で全てを仕留めなければ……!)

 

もしここで強力な神聖術を多用してしまえば、アリスの邪魔をしてしまうことになる…幸いにも、ここには人やゴブリンたちが死んだことで変換された神聖力が満ち溢れており、前線からも離れた距離にあった。

 

一発だけの大技であれば、アリスの放つ大規模神聖術の邪魔にもならないと判断し、カーディナルは素早く式句を唱え始める。

 

「システム・コール!ジェネレート・オールエレメント…フォームタイラ…ぐぅぅぅ!?」

 

式句を唱えている途中…右目に走った激痛により中断させられてしまったカーディナルは、痛みに耐えきれずに地面へと膝を突いてしまっていた。

 

その右目には、ユージオとアリスにも起きた…『A.L.I.C.E.』への覚醒を妨げるための心理障壁…『SYSTEM ALERT CODE:871』の文字が浮かび上がっていたのだ。

 

(もしやとは思っていたが…やはりそうか…!)

 

自身の右目に映るその文字に、そうなることを予想していたカーディナルは激痛を堪え、なんとか立ち上がった。

 

フラクトライトの覚醒を妨げる障壁…本来であれば、禁忌目録を自らの意志で破る、騎士としての自分の在り方を否定するといった、一種のシンギュラリティと目される行動を抑止するものに反応するものである。

 

これがどうしてカーディナルにまで発動したのか…それは、彼女がこの世界を維持するカーディナルシステムのサブ・プロセスそのものであるからだ。

 

人界に存在するヒューマンユニットがダークテリトリーに存在するモンスターユニットの命を奪うことは問題はない、その逆も然りである…なぜなら、それが最終負荷実験の課題でもあり、本質だからである。

 

しかし、カーディナル自身はどちらにも属さない立場であるのが問題だった。体は確かに人界側のヒューマンユニットであるが、元の人格のフラクトライトはアドミニストレータが自身の記憶を移そうとした時に崩壊し、その空いた部分にカーディナルの人格が宿ったに過ぎない。

 

カーディナルシステムの本幹は秩序の維持

 

しかし、今のアンダーワールドにおいて最終負荷実験が正しきことであり、人界とダークテリトリーの戦争に大幅に介入することは、カーディナルシステムの意義に反することになるのだ。

 

そして、もう既に心理障壁が仕組まれていた時に体を得たカーディナルにとって、アリスの一件まで存在自体を知らなかったそれを、管理者権限をアドミニストレータから取り戻すことができなかった彼女では対処することができなかったのだ。

 

つまり、相手がダークテリトリーの者であっても、カーディナルシステムの意義に反しようという行動に繋がってしまい、シンギュラリティと判断され、カーディナルの右目に心理障壁が発動してしまったのだ。

 

「くぅぅ……うぅうぅううう…!」

「…?今だ……なぶり殺してやれ!!」

 

杖を支えになんとか体勢を持ち直すカーディナルだったが、その動きに先程の繊細さは無くなってしまっており、それを好機と見たゴブリンの一体の叫びに、再びゴブリンたちが迫って来ていた。

 

「っ…まだじゃ……!」

 

なんとか数の暴力による攻撃を凌いでいくカーディナルだったが、さっきみたいに反撃する余力など残っておらず、徐々に追い詰められつつあった。止むことのない攻撃の雨に、いつまでも躱し続けることもできず、杖を用いての防御をするも…敵を倒すことができないカーディナルに勝ち目があるわけもなく、

 

「しまっ……ぐうぅぅぅぅぅぅ!?」

 

遂に隙を突かれてしまい、棍棒の一撃を受けてしまった。なんとか杖で直撃を防ぐことはできたが、その小さな体は宙を舞い、地面へと落下してしまった。

 

「ううぅ……くぅ…!?」

「死ねェェェェ!?」

 

痛みにすぐに立ち上がることができず、そんなカーディナルに止めを刺さんと、一匹のゴブリンが飛び上がり、蛮刀を突き刺そうと迫っていた。

 

その姿を見ていることしかできないカーディナルは思わず目を瞑ってしまい、

 

「させるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

背後から叫びと共に飛び出した影に気付けなかった…その聞き覚えのある声に、カーディナルは目を開け、その人物の姿を捉えた。負傷していた兵のものを持ってきたのか、迫ってくるゴブリンに突き出していた盾をぶつけ、その凶撃を防いだ。

 

「…フォ、フォン…どうしてお主がここに…!」

「喋るな…!一人で飛び出して聞いて、慌てて飛んできたんだ!なんとか隙を見つけて逃げるから、おとなしくしとけ!?」

 

カーディナルには視線を向けず、震える声を絞り出しながらその人物…フォンは答えた。声だけでなく、持つ盾まで震えていることから、彼がこの戦場の空気に呑まれてしまっているのは、見て明白だった。

 

「止めるのじゃ、フォン…!今のお主では無理じゃ!?」

「っ…だからって、死にそうな人間を放っておけるわけがないだろうが…!」

「わしのことなどどうでもいい…!放っておいてくれていいから……頼む、逃げてくれ…!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

その言葉を受け、一瞬、フォンの表情が硬くなる。懇願するカーディナルの目を始めて見て、再び前へと視線を移して口を開いた。

 

「そいつは………無理な相談だな」

「なぁ…!?」

「正直言ったら、お前たちのことなんてどうでもいいと思ってたさ。イチイチ人のことを見ては、知らないことばっかり言ってきて…面倒くさくて……それでも、俺が覚えてなくても、俺を知ってる人間が死にそうになっているのを放っておけないんだよ…!

どんなに怖くても…それだけは絶対にしたくないって…そう思ったら、体が勝手に動いちまうんだよ…!?」

「………!」

 

『俺は死ぬ気はないし、キリトたちも死なす気はない……そして、貴女を犠牲にする気もない。この手が、剣が届くなら…俺は助けたい。だから俺は…行くよ』

『…だから…お前が誰にも頼れないっていうのなら、俺が守ってやる!…この世界を愛するお前をこんなところで死なせてたまるか!?俺がお前の未来を切り開いてやる!!』

 

今のフォンと、過去に自分に放った彼の言葉がカーディナルの脳裏に蘇り、その姿が重なった。どんな状況であっても、自分がどんな状態であろうと、フォンは最後まで諦めようとはしなかった。

 

唯のプログラムにしかでない自分を、一人の人間として接してくれた…自分は皆を守る立場であって、守られる側ではない筈なのに…命を賭して守ってくれた…それは今もそうだった。

 

「ギャギャギャ!放て…!」

「っ…危ない…!?」

「えっ…!」

 

ゴブリンの号令に、咄嗟に体が動いたフォン。しかし、記憶を失っている今、以前の様に武具を使いこなすことなどできるわけもなく…動けずにいたカーディナルを庇う様に立ち塞がった彼の腹に…矢が突き刺さった。

 

眼前の光景が信じられず、カーディナルの目が見開かれる。矢を受けたフォンは盾を取り落としてしまい、その場にゆっくりと崩れ落ちた。一方のゴブリンたちは獲物を一匹仕留められたことに歓喜していた。

 

「グフフッ!一匹殺した!」「もう一匹も早く殺すぞ!」「あのイウムのガキの肉…喰ったらどんな味がするのか…!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そんなゴブリンたちの言葉など…今のカーディナルには雑音にしか聞こえていなかった。ゆっくりとフォンに近づき、その状態を看る。幸い、矢は急所を外れているようで、天命の減少もゆっくりだった。

 

それに少し安堵するも、次の瞬間…自身の感情全てが憤怒に染め上がり、爆発した。右目の痛みなどもう既に忘れてしまっていた。右目の心理障壁が一層強まるも、そんなことなど今のカーディナルにとっては枷にすらなっていなかった。

 

「我が意志の声に従い、その姿を顕現し、害となる全てを滅ぼせ…」

「「「「「……?」」」」」

 

カーディナルの言動が理解できず、ゴブリンたちが訝しむも…もう既に手遅れだった。ゴブリンたちは最も触れてはいけない、彼女の逆鱗に触れてしまったのだ。

 

「…バースト・エレメント…!」

 

各種属性の最高神聖術…かつて、アドミニストレータがフォンたち目掛けて放った獄炎・灰氷・黒雷・崩嵐を纏った属性龍が、右目が吹き飛んだと同時に言い放ったカーディナルの式句と共にその姿を顕在させた。

 

その圧巻な雰囲気に、ようやく危険を悟ったゴブリンたちだったが、もう逃げる時間など残っていなかった。

 

本来、これらの術は一つ発動させるだけで、数分を要する最上位の神聖術である。管理者権限を持っていたアドミニストレータだからこそ、決戦の時に容易に発動できたのだ。

それを一瞬の内にかつ無詠唱で全てを同時に発動させたカーディナルの真の力量が証明された瞬間だった。

 

そして、属性龍は主の命に従い、ゴブリンたちの群れに突っ込み…

 

「っ……なんだ、あれ…?」

 

治療所の近くにまで救援に来ていたユージオは、駆けていた足を止め、その光景に目を奪われてしまっていた。

 

一瞬の閃光と共に、大爆発が起きたそこは…現実世界でいうきのこ雲が浮かび上がっていた。見たことのない術が放たれ、それが救援に向かったというカーディナルのものではないかと理解したユージオは再びその足を進め始めた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「…フォン…」

 

爆発から神聖術で自身とフォンを守ったカーディナルは敵の全滅を確認し、意識を失っているフォンの頬を愛しそうに触れていた。

 

感情に任せた勢い術を放ってしまい、空間神聖力全てを消費してしまったので、治癒術が使えず、右目から絶えず血が流れ続けていたが…そんなことなど気にせず、カーディナルは自身に芽生えた感情に気付きながら、フォンを見ていた。

 

(お主が命を救ってくれた時から…絶望していた私を、あそこから掬い上げてくれた貴方が……私は好きになっていた。これが例えプログラムのものであっても、バグによるものだとしても、こうして戦う力をくれた貴方を……わしは必ず守ってみせる…!)

 

本当はもうとっくに気付いていた筈だった…それを今は戦争だから、最高司祭代理として役目を果たさなければと自身に言い聞かせ、気持ちに蓋をしていたことに気付いたカーディナルは、血が混じった涙を流していた。

 

記憶を失ってもなお、誰かのために動く彼を…フォンを今度こそ自分が守るのだと、決意を固めた彼女の顔は…プログラムではなく、カーディナルという一人の人間の真の感情を露わにしたものになっていた。

 

「カーディナルさん…!フォン、どうしてここに…!?」

「ユージオか…」

 

爆炎が晴れ、ようやく二人の姿を見つけたユージオ。カーディナルもその姿に気付き、ようやく安堵した。

 

「さっきの爆発はやっぱりカーディナルさんのものだったんですね…今の爆発でこっちに攻め込もうとしていた敵は撤退したみたいです。補給所の方もなんとか敵を押し戻しつつあるみたいです」

「そう、か…それは良かったのじゃ。すまぬが、ユージオ…フォンの治療を頼めるか…?腹に矢を受けてしまって、意識を失っておるのじゃ。この先の治療所に連れて行ってくれるか?」

「えっ…分かりました」

「すまん……あとは、たのん…っ…?!」

「カ、カーディナルさん!?…しっかりしてください!」

 

指示を出し切り、限界を迎えてしまったカーディナルはその場に倒れ込んてしまった。慌てて受け止めたユージオはフォンも抱え、急ぎ治療所へと向かい、敵の撃退報告と共に二人の治療を、残っていたマーベルへと頼み、再び前線へと戻っていた。

 

二つの戦場はこうした人界軍の反撃により、ダークテリトリーは侵攻部隊が大きく被害を受けた上で、撤退を余儀なくされるという結果に終わった。

 

 




 ユージオとエルドリエの決闘は、レンリのための布石でもあったわけです。それはティーゼも同じで、早々にユージオとの関係を明白にしたのはこの回の為だったとも言えます…なので、アニメとは少し異なり、剣を抜いてゴブリンに立ち向かおうとした形になりました。

 そして、カーディナルの覚醒と自覚…実はこれ、前半…カーディナル生存ルートを決めた時から考えていた展開でした。
アドミニストレータが最期を迎える直前、カーディナルは管理者権限の返還を求めていたと思いますが、システムのサブプロセスであるカーディナルにとって、アリシゼーション計画の本幹に当たる最終不可実験に介入することはかなりグレーな部分であり、直接介入しようとすれば、『秩序の維持』という本来の目的を逸脱した行為=シンギュラリティと見なされ、右目の封印が発動する…という解釈を本作では取らせて頂きました。
 なので、サブプロセスの本幹を変えるためにも、カーディナルがアドミニストレータに管理者権限の返却を求めたのです。ですが、それを悟ったアドミニストレータは管理者権限と共に消滅する道を選んだわけで、文字通り、カーディナルに絶望を与えようとしたわけです。(なので、原作通りにアリスが大規模神聖術を行使することになったのは、今のカーディナルではUWに生きる全ての命を奪うことが出来なかったらという理由もあったからです…ソード・ゴーレム戦でも、ヒューマンユニットが素材とされていると分かった時点で、カーディナルは攻撃できなくなってしまいましたから、それと同じ原理だと作者は考えました)
 しかし、再び危機に陥ったカーディナルの前に、記憶を失いながらも再度盾となったフォン…その姿や言動を見たカーディナルは、制約すらも破り、遂にその感情に気づき、目覚めました。
 シャーロットとの別れでも語っていましたが、体は人工フラクトライトのものでも、心がプログラムだった賢者が、一人の人間として本当の感情を得たとも言うべきなのかもしれません。
 ここでフォンへの恋心を気づいたカーディナルの姿が、後々ユウキにあることを決心させることとなります…まぁ、そのお話の前にユージオとアリスをなんとかしないといけないのですが…

 さてと、解説が長くなってしまいましたが、次回はアリスの大規模神聖術を放つ直前からのお話になります。

それでは、また。

スタビさん、
ご評価ありがとうございました!

もし見るのならどちらがいいですか?

  • 幻想剣各種ソードスキル
  • 呼び出した武器の記憶に宿る剣術
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