フォンが抱える闇がまたしても顔を出す中、遂に彼女たちが相対することとなります…その結末は如何に…
それでは、どうぞ!
アスナと共にアンダーワールドにダイブしたボク…意識が覚醒したのが空だったのは驚いたけど、すぐ下で戦闘が行われていることに気付いた。
どうやらボクたちは人界とは別の…菊岡さんたちが言っていたダークテリトリーという場所の上空にダイブしたらしい…もしかしたら、比嘉さんがフォンたちかアリスらしき人物がいる近くに座標を設定してくれたのかもしれない。
そして、枯れた森の中で人族らしき軍団が、黒い鎧を纏った人たちや褐色肌の亜人族らしき部隊から挟撃を受けていると知り、アスナがステイシアの特殊能力で地面を割り、凍り付いていた暗黒騎士たちを奈落の穴へと落として止めを刺し、数が多い亜人部隊は飛び越えることのできない大穴を作り、その侵攻を阻止した。
氷から逃れていたようである暗黒騎士はその攻撃を回避していたが、騎士らしき人たちに攻撃しようとしていたのが見え、僕はその間に割って入り、ソードスキルによって今度こそ奈落の穴へと吹き飛ばしたんだ。
敵が最期にアスナのことを見て、何かを言っていたことが気に掛かるけど、今はやらなければならないことがある。上空からゆっくりと降りてくるアスナを見ながら、僕はさっき助けた騎士…みたいな人たちに挨拶してから、問い掛けた。
「僕たちは、大切な人たちのためにここに来たんだ…ねぇ、フォンっていう人がどこにいるか……知らない?」
「「…!?!?」」
僕の質問に、青い薔薇を模した鎧を着た男性騎士と黄金の髪と鎧がマッチしている女性が酷く驚き、顔を見合わせていた。この反応からして、もしかしてと思い、僕は二人に駆け寄った。
「知ってるの?!フォンのことを知ってるんだよね!お願い!僕たちはフォンとキリトに会うためにここに来たんだ?!知ってるんだったら…居場所を教えて!」
「キ、キリトのことも知っているってことは…やっぱり…貴女はリアルワールドから来た人なんですね?」
「えっ…」
「ユウキ!」
「…アスナ…」
男性が零した言葉にどうしてそれを知っているのかと驚いていると、上空から降りてきたアスナが声を掛けてきた。振り返りながらも、驚きを隠せない僕はアスナに話を任せることにした。
「ゴメンなさい…この子が驚かせてしまって…」
「い、いえ…あの…貴女もユウキさんと同じ…キリトやフォンと同じ場所から来た人なんですよね?」
「っ…!ユウキ、もう私たちが現実世界から来たことを言ったの?」
「ううん…ボクも言ってないよ…でも、フォンとキリトの名前を出したら、この人がそのことをズバリと当てちゃって…ボクも驚いてたとこだったんだ」
男性の言葉にアスナも同じ反応をしていた…まるで、僕たちの世界のことを知っているかのような反応に、ボクもアスナもどこから話しをすればいいか分からず困っていたが、
「…申し遅れました。僕はユージオ、人界軍の一員です」
「同じく人界軍所属、整合騎士アリス・シンセシス・サーティです…貴女たちは、本当にキリトたちの知り合いなのですか…?」
「ええ……ちょっと待って。ユージオ…アリス…?貴方たちが、『A.L.I.C.E.』なの!?」
「…いや、アリスは彼女だけですよ…?」
「あっ…えっと、そのアリスとはまた別のというか…説明が難しいわね」
「あの…ボクたちはフォンたちだけじゃなく、君たち二人にも用事があったんだ」
「私たちにも…それはどういう…?」
説明しようとすれば、逆にこんがらがってしまいそうでアスナも騎士の二人…ユージオとアリスも混乱しているようだった。
「ねぇ、アスナ…その話をするなら、他にも人がいる時にした方がいいんじゃない?今は…」
「そうね…あの、いきなりの話で申し訳ないのだけど…もし二人の…キリト君とフォン君の居場所を知っているのなら、教えて欲しいの!」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「お願い…!ボクたちは二人に会うためにここに来たんだ…!だから…!?」
「…分かりました」
「「…!?」」「ユージオ…!?」
ボクたちの申し出を、ユージオという人はすぐに受け入れてくれた。すんなりと聞き入れてくれると思っていなかったボクたちは共に驚き、彼の横にいるアリスも驚いていた。
「ちょっと待って、ユージオ!?こんなに怪しい人物たちを受け入れるなんて…キリトたちに会わせるなんて危険だわ!」
「…確かにいきなり空から降ってきし、月夜神なんて聞いたことのない名前を名乗っていて怪しすぎるけど…でも、彼女たちが僕たちを助けてくれたこともまた事実だよ」
「そ、そうだけど…そんなにあっさりと信用するのは…」
「この人たちは信用できるよ…この人たちの目は、大切な人を想っている目だよ…僕にはよく分かるよ…昔、僕も同じ表情をしていたから…」
「ユージオ…」
アリスが悉く反対意見を述べているが、ユージオの放った言葉に思うところがあったのか、反論できずに言葉を詰まらせていた。
「キリトとフォンは…ここにいます。けど、今の二人は貴女たちが知っている彼らでないと思います…それでも、お会いしますか?」
「「………(コクッ)」」
「分かりました…お二人の元へとご案内します…その前に一つ…」
ユージオの問い掛けに、顔を見合わせてから互いの意思を確認し合い、肯定の意を示すために頷く。ボクたちの反応に少し笑みを零したユージオだったけど、
「すみません…助けてもらって恐縮なんですが、そちらの方の名前をお伺いしていいですか?月夜神様のお名前は聞いたのですが、もう一人の女神様のお名前をお聞きしてなかったので、なんとお呼びすればいいのか分からず…」
「あっ…ゴメンなさい。すっかり忘れていたわ…私はアスナ。このアバター…体は創世神ステイシアの体を借りているだけで、女神でも何でもないわ…唯の人間よ」
「ボクも同じ唯の人間だよ?だから、敬語とかで話さなくていいよ?」
「分かりま…分かったよ、アスナ、ユウキ」
芯が強く、とても優しくて、穏やかな人…かと思えば、困った様にそう尋ねてくるユージオに、アスナもボクも苦笑いしつつそう答える。その言葉を受け、話し方を訂正した彼は一呼吸して意識を切り替えていた。
すると、彼の纏っていた氷のような鎧が凍気へと変わり、一瞬にして軽装へと姿が変化した。その光景にボクやアスナだけでなく、隣にいるアリスまでもが驚いていた。
「ユ、ユージオ…貴方、その力をもう使いこなして…!?」
「えっと…説明すると長くなりそうだから、また後で…発動するのも、解除するのにも一回ずつ意識を集中させないといけないし、使っている間はどんどんと集中力が削られていく感じが酷いけどね…ふぅ」
少し疲れたようにしながらも、まだ余裕そうなユージオは鎧に酷似した剣を鞘にしまい、後方に控えていた女子たちに声を掛けた。
「ロニエ、マーベル。悪いんだけど、キリトとフォンの様子を見に行ってくれないかな?この方々は、二人に会いに来た…知り合いなんだって。
キリトはともかく、フォンが目覚めていないか、確認してほしいんだ。それと、カーディナルさんももう起きてるかどうか確認してほしい…その間に、僕は二人の状態について、彼女たちに説明しておくから」
「わ、分かりました…あの…」
「あの方たちは…神様なのでしょうか…?」
「う~ん…その辺りに関しての説明は後でするよ。ティーゼは補給部隊の指示を代理で頼む。多分、遊撃部隊の主力がこっちに戻って来てるから、整合騎士の方への説明も任せたいんだ…できるかい?」
「…は、はい!お任せください!」
「では、私たちはキリト先輩たちの様子を見てきます!」
いきなり呼ばれたマーベル、ロニエと呼ばれた少女たちは、ボクたちを見て恐る恐るユージオへと尋ね、苦笑いしながら答えるユージオはティーゼという少女にも指示を出していく。
そして、少女たちがそれぞれ動き出したところで、ユージオは再びボクたちの方へと視線を向けた。
「さてと…二人はどこまでキリトたちの状態を把握してるんだい?」
「…キリト君が自我を喪ったかもしれないってことは…」
「フォンも大変なことになっているってことはなんとなく…」
「……うん。正直に言えば、ほとんどその通りなんだ。キリトはアドミニストレータ…えっと、ある闘いの後、言葉を発するどころか、全てのものに反応することもなくなって…フォンもまるで別人のように…僕たちのことどころか、この世界で過ごしていたことすらも忘れてしまっていて…」
「「っ………!」」
ここに来る前に、分かっていた…分かっていた筈だけど、改めてユージオから事実を告げられたボクとアスナは衝撃を受けていた。申し訳なさそうにそう語るユージオの姿に、アリスも表情を歪ませていた。
「…その…忘れているっていうのは、どこまで忘れてるの…?」
「フォンっていう名前も忘れてて…自分のことをオトヤ・レンっていう名前だって…自分の住まいは二ホンとかいう聞いたことのない地名で…僕たちじゃ理解できないことばかりを言っていて…」
「…えっ…?」
「でも、フォンたちが別の世界から来たって知って、なんとなくそれの意味も理解できたというか…もしかしたら、君たちのことは覚えてるかもしれないって…」
「フォン先輩!?ちょ、ちょっと待って下さい?!」
「「「「…!?」」」」
驚きすぎて上手く言葉にできず、ちぐはぐな文章な質問を問い掛けてしまう…しかし、それに答えてくれたユージオの言葉に微かな希望を抱いてしまう…同じことをユージオも考えていたらしく、そう告げようとした時…
先程、フォンたちの様子を見に行ったマーベルの声が聞こえ、ユージオの言葉が遮られた。何事かと僕たちが視線を向けると、
「…俺のことを知ってる奴?というか、ここはどこなんだ?いつの間にか、見知らぬ土地に連れてこられ………」
「…フォン…?」「フォン…君」
懐かしい声…あの日、いなくなるまでいつもそばで聞き続けてきた彼の声が聞こえ、ボクの視点は馬車から出てきたその人へと向いてしまった。ここが見知らぬ土地であることに不快感を示していた彼だったが、ボクたちの姿に気付き、その言葉が止まった。
彼の姿は現実世界と変わらない…服だけは濃紺色の礼服のようなキチンとしたもので、左目も色を失ってしまい、ガラスのようなものへと変わってしまっていたが…それでもボクとアスナは彼の名を…フォンの名を呟いていた。
ようやく会えた…やっと…やっと会えた…その想いが込み上げ、フォンの元へと駆け寄ろうと…
「…お前…誰だ?」
「…えっ…」
ただの一文…言葉にすれば、ただの二言だったけど…ボクの歩みを…ボクの体を硬直させるには充分すぎた。
冷たく、ほとんど感情の籠っていないその声は…ボクが知っている彼の声だった。だけど、それに含まれていたのはいつもの優しい声色ではなく、拒絶するかの冷たい声色…言葉の意味が理解できてしまっていたが、その現実を認めたくなく、ボクは言葉を絞り出す。
「な、何言ってるの…?ボク、だよ…ユウキだよ!紺野木綿季…SAOで出会って、ALOで再会して…ボクたち、いつも一緒に…」
「何のことだよ…えすえーおー?えーえるおー?何言ってるか、さっぱりだ…お前のことなんて俺は知らな……っ!?」
「フォン…!?」
眉を顰め、辛辣な言葉を放つフォン…しかし、突然左目を抑えて苦しみ出し、その場に崩れ落ちてしまった。いきなりのことに心配になり言葉を掛ける。隣に立っていたマーベルがフォンを支えようとするも、その手を振り払った。だ。
「離せよ!っ…!」
「ま、待って…フォン!?」
そのままの勢いでフォンはどこかへと走り去ってしまった…このまま放っておいてはいけない…そう思い、ボクは走り去ろうとするフォンを追い掛けた。
「ユウキ!?」
「アスナはここにいて!ここは僕が…!」
「…何事じゃ?」
「「「「っ…!?」」」」
ユウキたちが走り去った後、土地勘がないアスナよりも自身が行くべきだと思ったユージオの言動を、一人の少女の声が遮った。
「待って…!待ってよ、フォン!」
「っ…ぐぅぅ!?」
暗い森の中を走って行くフォンの背中を追いかけていく…ルナリスのステータスのおかげで余裕で追い付けているが、フォンを捕まえていいかどうか迷っていたボクはその背中を追うことしかできずにいた。
けど、再び左目が痛んだのか、苦痛の声を漏らしたフォンが木にもたれ掛かる様に崩れ落ちた。心配のあまりにその体を支えようと手を差し伸べるも…
「っ…いい加減にしてくれよぉ!?」
「きゃぁ!?」
拒絶するかの如く、ボクの手が振り払われ、咄嗟のことに反応できなかったボクはその場に尻餅を着いてしまった。今まで彼とは全く違う…フォンの言動にボクは彼を見ていることしかできずにいた。
「なんなんだよ…」
「えっ…」
「なんなんだよ、お前ら…フォン、フォンって…!?お前らに何が分かる!?俺の何を知っていて、そう親しく話し掛けてくるんだよ!?」
「フォン…何を…」
「もう嫌なんだ…もうあんなことは…俺は俺なのに…!なのに、俺は……何も知らずにただ………た、だ…っ…!?」
「フォン…!しっかりして、フォン!?」
ボクに告げているのではなく、ここにはいない誰かに向けてのようにも聞こえるフォンの言葉に何も言うことができず、その悲鳴にも近い叫びを聞き続けていた。
そして、意味深な言葉を告げたフォンはそのまま意識を失ってしまった。傍に近寄り、声を掛けるも、フォンは意識を失ったまま…その左目からは涙が零れていた。まるで、彼の悲鳴を代弁するかのように、色を失った目と同じ透明の光を…
「(ともかく、フォンをユージオたちの元へと連れて帰らないと…)あっ…しまった。ここって、どこだろう…」
フォンの左手を肩に廻し、立ち上がるも…冷静になってようやく気付いた。フォンを追って、夢中で走ってきたはいいものの、ここがどこだか分からなくなっており、ボクは途方に暮れてしまう。
ここがALOであれば、まだマッピッグやフレンド機能でなんとかなったが、アンダーワールドにそんな便利なものがあるわけもなく…どうしようかと考えている時だった。
「ユウキ!良かった…ここにいたんだ」
「…!ユージオ…ゴメン。咄嗟に体が動いて……その人は…?」
自分の名前を呼ばれ、その声のした方を見ると、ボクたちを追ってきたであろうユージオの姿が見えてきた。これで元の場所へと帰れると思いホッとしていたが、ユージオと一緒に来たであろう謎の人物が気になり、尋ねると…
「わしの名はカーディナル…かつては図書室の司書であり、最高司祭というこの人界を守護する者…の代理を務めている者じゃ」
「…かー、でぃなる…?」
「ユージオ、フォンを連れて戻れ。わしはこの者と話すことがある…ステイシア神…アスナには悪いが、事情を説明するのはわしらが戻るまで待ってほしいと伝えてもらえるか?」
「…分かりました」
右目に眼帯を巻いた少女…カーディナルと名乗ったその人はユージオにそう命じた。その小柄な姿からは想像できなかったが、素直に従うユージオの姿に、彼女がかなりの権威を持っているということを思い知らされ、驚いていると…
「さてと…お主はフォンたちの世界…リアルワールドから来た者という認識でよいな?」
「…カーディナルって言ったよね?それが何なの…?一体どうしたって言うの…今、そんなことは…」
「フォンがああなった一因はわしにある」
「っ…!?」
カーディナルが告げた事実に、冷めきっていたボクの頭に一気に熱が回る。気付いた時には、カーディナルを押し倒し、馬乗りに乗り掛かっていた。けど、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうした…?なぜその拳を振り降ろさん…?」
「なんで…なんで抵抗しないの…!ボクは貴女を…!?」
「そうじゃ…わしにはお主に殴られる…いや、殺されても致しかたないことをしたのじゃ。殴られる覚悟などとうにしておった…フォンの傍にいたお主の姿を見た時から、尚更な」
振り上げた拳が行き場を迷い、ボクは抵抗しないカーディナルへとその訳を尋ねてしまった。どこか悲しそうに、しかし、大人の表情をした彼女の言葉は優しく、けど、覚悟が込められた声色にボクはどうすることもできなくなってしまう。
「…貴女を殴っても…フォンが元に戻らないことくらい分かってるから…分かってるけど…!」
「それでも…あやつをあそこまで追い込んだのはわしじゃ…そして、あやつのために涙を流せられるお主を苦しめておるのもな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それでお主が楽になるとは思わん…しかし、怒りを受け止めることはわしにも…」
「…駄目だよ…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そんなことを…こんなことをすることをフォンはきっと望んでない…だから…これはボクの中で受け止めるよ…受け止めないと……いけないんだ」
今すぐにでも泣きたい…でも、それを受け止めてくれる優しい彼は今はいない。この怒りと悲しみをこの人に…カーディナルにぶつけるのは簡単だろう。でも、それをしちゃいけないと…きっと昔のフォンがいたら、確実に止められていただろう。
胸の痛みをなんとか堪え、拳を解く…カーディナルから離れ、倒れていた彼女へと手を刺し伸ばした。その手を取った彼女はどこか困ったような笑みを浮かべ、
「お主も優しすぎるのう…覚悟をしておいたわしが馬鹿ではないか」
「…エヘヘ…そうかな?」
「じゃが…悪くはないのう」
そう告げたカーディナルの言葉に、ボクもなんとか笑みを浮かべ答える。そういえば、話があるってことだったけど…
「ユージオたちから簡単に話は聞いた…フォンはお主たち…自分がいた世界のことも覚えてなかったそうじゃな?」
「う、うん…自分の本名を覚えているって聞いたから、もしかしてとは思ったんだけど…」
「……そして、今回もその話について興味を持たなかったということか…」
「えっ…?ううん。そういうのとはなんか違ったと思う…何って言うか、思い出そうとするのを怖がってるというか、嫌がってる感じだった…『俺の何を知っている』みたいなことを言ってたよ…?」
「なんじゃと…?」
ボクよりも事情を知っているようであるカーディナルの言葉に、先程のフォンが放った言動のことを教えると、彼女は酷く驚いていた。
「ふむ…」
「あっちの世界…現実世界じゃ、フォンのフラクトライトが様々なダメージで変わってしまったって…それに、変な武器のせいでさらに複雑になってるって…」
「武器…映現世の剣のことじゃな。そうか…お主たちの方でもあの武器のことは分からずじまいか…」
「うん…その武器はこの世界…アンダーワールドがプロトワールドの時に作られて、封印されていた武器が何故か別の武器になったって…」
「なるほどのう…プロトタイプ時に削除されたものが、あの剣の素材となっておるのなら、わしやアドミニストレータが詳細を把握できぬのも当然というわけじゃな」
カーディナルもある程度の事情は把握しているらしく、こっちの言葉にすんなりと受け入れていく。その過程で少し気になっていたことが思わず口から出てしまった。
「…そういえば、カーディナルはフォンのことを色々と知っているみたいだけど…貴女は一体何者なの?」
「うん…?カーディナルという名前でピンと来ぬか?」
「…?…?ゴメン…ボク、キリトたちみたいにVRMMOのシステム部分には詳しくないから…カーディナルって、何の名前なの?」
「…そ、そうか。この世界を管理するシステム…その名をカーディナルシステムと言ってのう。わしはそのサブプロセスであり、偶然にも人の体を手に入れた者じゃ。おそらく、お主が普段おる世界でも、わしのコピー同体が世界の管理を行っているはずじゃ」
「それじゃ、貴女は世界の管理者…ってことなの?」
「正確には、管理者の名を騙っておった愚かな女の劣化コピーじゃよ。自分の命を投げ捨てようとしたくせに、何もできずに救われた、な…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どこか自嘲気味なカーディナル…彼女を救ったというのは、きっとフォンやキリトなのだろう。そして、その結果…フォンは記憶を失ってしまった。だから、彼女はボクに責められるよう、ワザと先程の煽りの言葉を放ったのだろう。
「……ユウキと言ったな?お主はその……」
「うん…?どうかしたの…?」
「そ、その……何と言うか………」
先程までの勢いはどこにいったのか…言い淀むカーディナルの姿に首を傾げてしまう。その様子がどこかで見たことが…既視感を覚えてしまったボクは聞いてしまった。
「お、お主は……フォンと…付き合っておるのか?」
「えっ!?……う、うん」
「そ、そうか…そうよのう。お主のあの姿からして、そうとは思っておったが……そうか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
次第に声色が下がっていくカーディナルの姿を見て、ボクは気付いた…気付いてしまった。彼女がフォンにどういう感情を持っているのかを…
見たことがある筈だ…だって、リーファやシノン、リズ、シリカがよく見せているのだから。そして、それを告げるべきかどうか…一時期迷っていたことがボクにもあったから。
「…いや、なんでもない。もしかしたらと思っていたところはあったからのう…それに…」
「……それに…?」
「わしとあやつでは生きる世界が違う…わしがこの気持ちを告げたところで、あやつに…フォンやお主に迷惑を掛けることになるだけじゃ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「これで諦めがついたというものじゃ…そろそろ戻るとしよう。撃退したばかりとはいえ、ここはダークテリトリーの陣中…いつまでも隊と離れているのも危険じゃからな」
「…う、うん」
先程までの表情を隠すかのように笑みを浮かべるカーディナルはそう言って、先導し始めた。その背中を追いながら、ボクはさっき彼女に何も言うことができないでいた自分に嫌悪感を覚えていた。
カーディナルが諦めるといったことにホッとした自分に…それを当然だと言わんばかりに受け入れた彼女の姿勢が……よく知る姿に…以前の姿と重なって見えた。
(…もしも…もしも、彼女の言う障壁が少しでも無くなったりしたら…)
そんな思いがボクの胸中を渦巻く…けど、今は他にやらなければならないことがある。そう思い、ボクはカーディナルの後を追い続けた。
「…あっ…ベルクーリさん、いらっしゃいました」
「おう…カーディナル殿。目覚めたようで何よりだ」
「うむ…すまんかったのう、ベルクーリ。お主に指揮を預ける形になってしもうって」
「いや、気にしないでくれ…それで。そっちの嬢ちゃんも、アスナと同じ天から舞い降りた女神様だな?」
「えっと…ユウキって言います。その…宜しくお願いします!」
先程降り立った場所へと戻ると、さっきよりも人がかなり増えており、その中心にいたおじさんみたいな人がユージオの合図で、ボクとカーディナルがやってきたことに気付いた。
もう既にアスナとは挨拶を済ましているようであり、カーディナルへと言葉を掛けた後、ボクの方へと話し掛けてきたので、とりあえず自己紹介をする。
「ユウキか…よろしくな。俺はベルクーリ・シンセシス・ワン…整合騎士の長を務め、さっきまでは人界軍の総指揮代理だった男だ。まぁ、宜しく頼むぜ?」
「それで、ベルクーリ…状況はどうなっておる?」
「もう一人の嬢ちゃん…アスナのお陰で俺たちは命拾いをしたってところだ。補給部隊を襲っていた暗黒騎士の部隊は地割れに呑み込まれ、挟撃を仕掛けようとしていた暗黒拳闘士隊も、七色の光によって分断された7メルものの割けた大地は流石に飛び越えることができず、何が起こったのか分からずに泡を喰って、後退していった。
蹂躙される一歩手前ではあったが、助けられた俺たちですら…あんな出来事を起こせるのは伝説の三神だけだと目を疑っちまったよ」
「なるほどのう…おそらく、それは創世神ステイシアの能力…地形操作によるものじゃろうな。それで…今、その者はどこにおる?」
「アスナは今、キリトの所にいます…カーディナルさんたちが戻って来てから、説明を行った方がいいと思い、待機してもらっています」
「そうか…ベルクーリ。こちらの主要メンバーはもう既に集結しておるのじゃろう?ならば、すぐに軍議を開くとしよう。ステイシアの地形操作で、敵の侵略が防がれておる今でないと落ち着いて、話も聞けぬじゃろう」
「分かった。もう既に天幕の用意は完了させてあるから、すぐに集合を掛ける。ユージオ、黒髪の坊主のところにいるアスナとアリスの嬢ちゃんを呼んで来い…それと、お前さんたちの後輩も一緒に連れてくるといい…きっと話を聞きたがっていることだろうからな」
「は、はぁ…分かりました」
あっという間に話が進んでしまい、口を出す暇もなくベルクーリとユージオは行ってしまった。残されたボクは手持ち無沙汰になってしまい、とりあえずカーディナルへと質問を投げ掛けていた。
「ねぇ、カーディナル…ベルクーリとアリスって親戚か何かの?名前の一部が一緒だったけど…」
「そうか…お主は整合騎士の名前の法則を知らぬかったな。あやつらは親戚ではない…ベルクーリは整合騎士にさせられた原初の騎士であり、アリスはあやつの弟子なのじゃよ。まぁ、師弟関係ではあるが、そういった父子関係のような信頼関係を築いてもおったがな」
「…アリスの本当の両親はもういないってこと?」
「いや、存命じゃが…その話は少し長くなるので、またの機会に説明するとしよう。ほれ、わしらも軍議を行う天幕へと向かうとしようぞ」
色々と含みを持たせたカーディナルの言葉に頷き、ボクたちは軍議が行われるであろう天幕へと向かった。
フォンの放った言葉の真意は、後々のお話で重要となってきます…お分かりのように、ユウキもまたトリガーの一つとなっておりますので、今回の再会にあたってフォンが反応を示した次第でございます。
そして、ユウキとカーディナルの出会い…
菊岡は殴ったくせに、どうしてカーディナルは殴られなかったかと疑問に思う方もいるかと思いますが、カーディナル自身がそうされても仕方ないということを覚悟してでの言動であり、それに気付いたユウキがギリギリで踏みとどまったからこそ、今回の形へと落ち着いたわけでございます。(菊岡は作者の中でちょっと空気読めない人のイメージが強いのも原因なのですが…)
そして、意外にも身を引くのが早いカーディナル…一応かなりの年上(?)である彼女は、自身とフォンの立場を認識しているため、ああいう態度を取っております。好意は抱きつつも、現段階ではその想いを告げないつもりなのです…そして、その姿を見たユウキが重ねた人物とは…最後に思ったこととは……こちらの恋模様の展開もご期待頂ければと思います。
次回はユウキ視点での軍議のお話です。本当はもう少し進めたかったのですが、UW組の描写を掘り下げたら、長くなってしまったので、ユウキ視点は次々回まで続く予定です。
その後はユージオへと一度視点が戻りまして……
今後もご期待頂ければと思います。
それでは!
サクラ0523さん、RAI9さん
ご評価ありがとうございました!
武器解説に関して、新調と古いものだとどちらがいいですか?
-
物語の語り部を新調版
-
今までと同じ旧式版