ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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…またしても、サブタイでネタバレが凄い…!
まぁ、以前よりお伝えしていた回でございます。

もうようやくです、はい!
何言ってもネタバレになりますので、本編をどうぞ!


第ⅩⅩⅧ話 「想い、重なる時」

「…ユージオ…ちょっといいか?」

 

軍議が終わってすぐ…僕の横を通りすぎたベルクーリさんが、僕にだけ聞こえる声で話してきた。その声が真剣な色が混じっていたことから、僕は目線だけで返事をし、ベルクーリさんの後へと続いた。

 

軍議の後ということで皆は忙しなく動いており、こっそりと出ていく僕たちに気付く様子はなかった。

 

天幕群を離れ、人気のない枯木の森へと歩いていく。ベルクーリさんは一言も話すこともなく、僕も掛ける言葉が見つからず、無言のまま歩いていた…その時、ふとベルクーリさんの足が止まった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ある程度距離を取り、僕も足を止める。背中を見せたままのベルクーリさんは何も言ってくれない…だが、その背中からは普通ではない気迫が漏れていた。

 

「…はぁぁ……やっぱりこういうのは性に合わねぇな…」

「…ベルクーリさん…?」

「…ユージオ……剣を構えろ」

「っ!?」

 

いつまでこのままかと思っていると、ようやくベルクーリさんが言葉を発した…かと思えば、その一言と共に時穿剣を抜いたのだ!

 

剣を抜いた瞬間、気迫…セントラル・カセドラルで対峙した時よりも濃厚で、重い殺気と闘気が僕に襲い掛かった。

 

「べ、ベルクーリさん…!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「…!…分かりました」

 

戸惑いながらも青薔薇の剣へと手を掛けるも、僕はベルクーリさんに真意を尋ねようとしたのだが…その眼が全てを物語っていた。

 

『剣で全てを語る』…これにも何かの意味がある…ベルクーリさんがここまで…いや、僕に対して初めて本気を見せてくれているのだ。ならば、剣士である僕が応える方法など一つしかなかった。

 

青薔薇の剣を抜き、いつもの構えを取る…僕自身も闘気を発し、いつでも動けるように身構えていた。

 

「ユージオ…お前さんの本気の一撃を繰り出してこい」

「…本気の……一撃…」

「そうだ…青薔薇の剣の力でも、心意の力でも、何でも使っていい…お前さんの全てをその剣に込めて、俺にぶつけてこい!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

全力…その一言は聞き慣れている筈なのに、ベルクーリさんが放ったその言葉は今まで聞いたどの言葉よりも重く感じた。

 

(ベルクーリさんに…あの伝説の騎士の本気に贖える一撃を打つ…前の時には捨て身の引き分けにしか持ち込めなかった…けど…)

 

勝てる、勝てない…以前の僕ならそんなことを真っ先に考えてしまっていただろう…けど、今の僕は少し違っていた。

 

(できることを全力でする…剣士として、今の僕に込められる全てを、ベルクーリさんの思いに応えられる技を放てるよう…青薔薇の剣に想いを込めるだけだ!)

 

「すぅぅぅぅぅ……」

 

呼吸を大きく整え、剣を上段に大きく構える。アインクラッド流片手剣秘奥義〈ホリゾンタル〉…それに加え、意識を剣を持つ右手に集中する。心意の破界鎧の力を…全身ではなく、剣単体に集中させる。

 

以前にも力の片鱗を何度か感じていた時の様に、今度は破界鎧の力全てを右手に集中させる…それにより、秘奥義の光を覆い尽くす様に凍気が一気に漏れ出した。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

周囲の気温が一気に下がっていくが、僕もベルクーリさんもそんなことなど全く気にしていなかった。ベルクーリさんも時穿剣を左腰部分に隠す様に構えていた。

 

沈黙が漂う中…一定の間合いのまま、互いが動くことなく時間が過ぎていた。そして、先に動いたのは…

 

「っ…!はあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

力が限界まで高まり、爆発するが如く…咆哮と共に僕は一気に飛び出した。そして、それに反応して、ベルクーリさんが素早く時穿剣を大きく振るった。

 

「…空斬!」

「っ?!」

 

しかし、ベルクーリさんの放った一撃に僕は驚愕した。時穿剣の武装完全支配術は斬撃を残す技…時間差での不意打ちや斬撃の包囲網を作ることに特化している技を、目の前に敵が…そのことをよく知っている僕を目の前にして使う理由が分からずにいたため、驚くしかなかった。けど…

 

「…いくぞ、ユージオ…これが俺の全力だぁ!!」

「なぁ…!」

 

返す勢いで秘奥義を放つベルクーリさんの言葉に、その狙いに気付き声が漏れるも、もう既に時遅しだった。時穿剣が残した斬撃を掻い潜ろうとしていたのだが、ベルクーリさんは秘奥義をその斬撃…いや、残撃に合わせるように放とうとしていたのだ。

 

セントラル・カセドラルで掠った時でさえ、あの威力だったの…最強の騎士が本気で振った一撃が二つに重なるのだ…その威力など今まで受けてきた秘奥義とは計り知れないものだろう。

 

「(くっ…こうなったら…!?)っ…うおおおおぉぉぉぉ!?」

「おおららああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

多少の無茶を承知で僕は秘奥義を放つ…もう既に突進している体を止めることはできないのだ…こうなれば、一か八かの策に出るしかない。タイミングをずらされたことで早めに放った僕の一撃と、ベルクーリさんの重撃が激突する。

 

斥力が周囲へと一気に伝わり、一瞬、剣が交差するも…

 

「ぐぅぅぅ?!」

 

重撃を受けた僕の秘奥義は無効化され、青薔薇の剣ごと僕の身体が上方へと吹き飛ばされた。剣から衝撃が一気に伝わり、体に電流が走った様な痺れる感覚に襲われる。

 

「…っ…!?これは…!」

 

しかし、驚愕の声が漏れた僕の方からではなかった…ベルクーリさんが自身に起こった現象に驚いていた。それもその筈だ…僕が吹き飛ばされたのは狙ってのことだったからだ。

 

僕やキリトたちが使う秘奥義連携は、秘奥義のリスクとも言える技を放った直後の硬直なしで連続して秘奥義を放てるという利点がある…但し、言うのは簡単だが、使うには相応の練度が求められるし、5連撃以上の秘奥義は複雑になりすぎてまず繋ぐことができない。

 

それを自己流で連続剣技…いや、重撃剣技として昇華させたベルクーリさんはやはり最強の騎士だと思う…だけど、

 

「ぐぅ…まさか…俺の残した斬撃を通して、剣を…凍らせたというのか…!?」

 

その戦法は…青薔薇の剣とは相性が悪すぎたのだ。時穿剣の武装完全支配術は確かに協力だ…ほとんど反則の術だと言っても過言じゃないだろう…けど、逆に言ってしまえば、その空間に『斬撃』という名の物質は残留していることに他ならないのだ。

 

秘奥義を止めることができないでいた僕はわざとベルクーリさんの一撃を迎え撃ったんだ。その反動で見事に上空に吹き飛ばされた僕だが、その代わりに残撃を凍らせ、その残撃に一撃を重ねていた時穿剣を空間ごと凍らせたのだ。

 

剣を振り切ろうとして、その異変に気付いたベルクーリさん…けど、その時には僕の方が一手早く動いていた。敢えて吹き飛ばされることを覚悟していたこともあり、宙に浮いた体を秘奥義連携で無理矢理制御し、真なる一撃を放つべく剣を構えた。

 

「ぐぅぅ…!うわわああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「っ…おおおおおおおおおおぉぉぉ!!」

 

アインクラッド流秘奥義〈バーチカル〉…強引に放った一撃は小細工など入れる余地もなく、自身の力量だけで青光の剣技を繰り出した。重力に引っ張られるように落下することで速さを加える。

 

僕に一手遅れながら、渾身の気合と共に強引に氷から時穿剣を振り抜いたベルクーリさんは、その勢いのままに一回転し、先程と同じ様に秘奥義を繰り出してきた。

 

互いに武装完全支配術も心意も使わない…純粋な技だけでの勝負…静寂な夜に似つかわしくない金属音が再度響き渡った瞬間、青薔薇の剣と時穿剣が拮抗する。

 

「「っ!?!?」」

 

眼前が白くなった…それが秘奥義同士がぶつかった衝撃や、神器が激突したことで盛大に散った火花であると理解した時には、僕の身体は後ろへと吹き飛んでいた。

 

「……!?う、うううぅぅ…!」

 

2,3メル程は地面を転がっただろうか…腕を地面に擦らせ、無理矢理速度を殺す。さっきのぶつかり合いでどれくらい天命が減ったかは分からないが、なんとか体を起こす。ベルクーリさんはどうしたかと目線を元居た所へと向けると、

 

「………これは……参ったな」

 

苦笑いが混じったような声が聞こえてきた…そう言うベルクーリさんは木に背中を預けていた…いや、先程のぶつかりあいで吹き飛んで、木にぶつかったらしい。その手元に剣はなく、時穿剣は更に右後方にある木へと突き刺さって…正確には木を粉砕するように落ちていた。

 

「ベル、クーリ…さん…?」

「…少し試すつもりだったんだが…まさかここまでだったとはな…お前さんは闘う度に、驚かせてくれるな」

 

僕の言葉を聞こえていないのか…ベルクーリさんはやれやれといった風に立ち上がった。だけど、僕へと向ける視線は…どこか穏やかな物だった。

 

「悪かったな、ユージオ…いきなりこんなことを仕掛けたりして」

「いえ……でも、どうしてこんなことを…試すって一体…」

「……以前、最高司祭陛下…猊下にこんなことを聞かれたことがある…死を予感したことがあるか、ってな」

「…死…」

 

ベルクーリさんが告げた一単語…それはここ数日で何度も耳にし、見てきたものだった。意外な言葉が出てきたことに驚きながらも、僕はベルクーリさんの言葉を待った。

 

「猊下が眠れないとのことで、酒を共にさせてもらった時のことだ…猊下は俺にそう尋ねてきた。その時の俺は死に掛かった時のことを話したよ…整合騎士としてひよっこだった時、何代か前の暗黒将軍に殺され掛かった時のことをな…

あれ以来、死ぬかもしれないと思った時のことは俺になかったから、逆に猊下に聞いてみたのさ…どうしてそんなことを尋ねたんだって」

「…アドミニストレータは何て…」

「猊下は、毎日死を感じていると仰ってたよ…自分は全てを支配していないから、まだ生きている敵がいるからだと…そして、いずれかの未来のどこかで新たな敵が発生するかもしれないとな…」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「その時の俺は猊下の言葉の真意を汲み取れていなかった…猊下に死など無縁だと…最高司祭という立場でいることに疲れて、思わず愚痴が零れた程度なのかと思っていたのさ…

それが、俺たちの知らない外の世界からの介入のことを指しているとも知らずにな…」

 

表情を歪ませるベルクーリさん…色々あったとはいえ、アドミニストレータと最も付き合いのあった騎士はベルクーリさんだ。奴の裏を知ったとはいえ、その表部分をも良く見てきたベルクーリさんにとって、アドミニストレータに向ける感情は複雑なものがあるのだろう。

 

自分がアドミニストレータの真意を図り損ねていたことを後悔しているのか、それとも、その言葉の意味をようやく理解できたことに苦心しているのか…ベルクーリさんはその先を話し続ける。

 

「お前さんたちがセントラル・カセドラルで暴れ、その協力者がカーディナル殿だと知った時…俺はてっきりお前さんたちやカーディナル殿が猊下のおっしゃっていた要因だったのかと思った…自身がしていることが間違っているとどこかで気付き、止める者が出てくることを危惧してじゃないかってな…

だが、アスナたちの話を聞いて分かったよ…猊下が最も警戒していたのは、反乱者でも、ダークテリトリーでもない…この世界を見ている外の連中だってことをな」

「…アドミニストレータと対峙した時、彼女はこう言ってました…創造神を気どる連中に存在する許しを請うなんて御免だって…」

「猊下らしい言葉だな…」

 

セントラル・カセドラルの頂上で対峙した時、そう告げてきた彼女の言葉が蘇り、思わずベルクーリさんに告げると、苦笑いしつつ同意された。

 

「…だが、その猊下も亡くなった…その時から、俺はあることを考えるようになっちまった…俺が死んだら、何が起こるかってな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「猊下が死に、セントラル・カセドラルは大混乱…カーディナル殿が支えてくれたことでなんとか事態は収拾できたが、人界軍は一歩間違えば戦争前に瓦解するところだった。

誰かが死ぬということはそれだけで終わるもんじゃねぁ…大小何かしらの爪痕を残すことになる…そんな時、俺が死んだらどうなるかと考えちまうようになっちまった」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「昔はそんなことを考えることなんてなかったさ…せいぜい自分が未熟だったと後悔するくらいのもんだった……だが、セントラル・カセドラルでお前さんと闘って、そして、ファナティオに気持ちをぶつけられて思ったのさ…そう簡単に死ぬわけには…どんな状況だろうと容易に死ぬことなんてできないってな…」

 

ベルクーリさんが語っていくことを、僕は黙って聞き続けていた…その言葉の意味を図り取れていなかったのもあるが、言葉を挟むべきではないと思ったのも理由だった。

 

「…ユージオ…お前さんはエルドリエの最期をその眼で見た筈だ…そして、心意の破界鎧を発現させた…力を発現させたそのことを、お前さんは決して忘れないだろう。だが、だからこそ、今のお前さんを見ていた不安になる」

「…不安、ですか…?」

「ああ…お前さん……死ぬことを恐れて…いや、力を持った責務として、命を懸けることを当然と思っているじゃないのか?」

「…!」

 

ベルクーリさんの指摘に、思わず息を呑む…違うという言葉が喉から出て来ず、僕はベルクーリさんの目を見ていることしかできなかった。

 

「…図星か。お前さんの剣技は確かに凄い…さっきのぶつかり合いだって、咄嗟に対策を繰り出し、俺の技を破ったぐらいだ…だが、それと同時に危うい」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ユージオ………お前さんが闘う理由は何だ?」

 

…理由…そう問われ、答えは決まっていた。

 

「アリスを……今度こそ彼女の手を離さないことです」

「……だが、お前さんが今しようとしていることは、嬢ちゃんの手を自ら離そうとしていることだって分かっているか?」

「…それは…」

「お前さんは自分を犠牲にしてでも、人界を…いや、嬢ちゃんを守ろうとしているつもりなんだろう…だがな…お前さんがいなくなった時、嬢ちゃんがどうなっちまうかを考えたことがあるか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ベルクーリさんの言葉に何も答えることができない…それを考えたことは…正直なかった。正確に言えば、アリスを失うぐらいな死んだ方がマシだと思っていたぐらいだ…そのぐらいなら、僕自身の命なんて軽いものだって思っていた。

 

「…もう一度聞くぞ…お前さんは何のためにここまで闘ってきたんだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

その問いかけに、2年前、キリトたちに剣を振るう理由を尋ねられた時と同じ感覚に僕は襲われた。あの時は曖昧に…いや、自分の気持ちに蓋をして、ワザと曖昧な理由で答えていた。

 

でも、今は違う…彼女のことが誰よりも大事で…8年前には届かなかった手を、今度こそ離したくないから…彼女にはいつも笑顔でいてほしいから…僕はここまで来た理由を自覚できていた。

 

「僕が……アリスを守りたいからです。どんなことがあっても彼女の隣にいて、一緒に笑って、泣いて、怒ったりして……その気持ちを分かち合いたいから、彼女が背負うものを一緒に背負いたいから……僕はここまできたんです!」

「…だったら、お前さんがやることは分かってるな?アリスの嬢ちゃんを守りたいのなら、自分自身も守ってみせろ!最後の最後まで一緒にいるつもりなら、そのぐらいの無茶をやってみせろ!それで…リアルワールドに行ったとしても、お前さんだけは嬢ちゃんの味方でいろ」

 

胸元に拳が当てられ、ベルクーリさんが言葉を発する…胸にその言葉を、覚悟を刻めと言わんばかりの行動に…僕は静かに頷き答える。

 

「…ユージオ…」

「っ…!?」

 

その時、突然聞き慣れた彼女の声が耳に入ってきて、慌てて背後を振り向く。

 

そこには、戸惑いの表情をしたアリスの姿があった…さっきの話を聞いていたのだろうか…そもそも一体いつからそこにいたのだろうか。僕が驚いている内に、ベルクーリさんはその場を去ろうとして、僕の横を横切った時に、

 

「…俺が言えた義理じゃねぁが……嬢ちゃんを頼む…ユージオ」

 

そう呟き、ベルクーリさんは枯木の合間へと姿を消してしまった。

 

 

 

(…余計なお世話だったかもしれんが…今のユージオはどこか捨て身な部分が見受けられたからな…あの坊主たちの影響だとしたら、流石にそれを看過することはできなかったからな)

 

ユージオたちに声が届かないところまで移動したベルクーリ…吹き飛ばされていた時穿剣は回収し、彼の腰に収まっていた。歩きながら、ベルクーリは先程の激突で負傷した右腕をさすっていた。

 

(…だが、純粋な剣技とはいえ、押し負けるとはな…更に空斬までも咄嗟に対応してくるとはな…本当にこれからの成長が面白い男だ。だが…やはり危ういな。

黒髪や茶髪の坊主がああなって、自分が何とかしないといけないという責任感もあったんだろうが…その上で、エルドリエの死が重なっちまったのはマズかったな…ユージオは何としても嬢ちゃんを守ると言ってたが、あのままでベクタともし闘うことになった時、自分の命すら代償にしちまう可能性があったからな。

…ただでさえ、嬢ちゃんもエルドリエの死に…いや、この戦争の原因が自分にあると知って、かなり堪えているところだったからな…それを助けてやれるのはユージオだけで、分かってやれるのも、最後の砦となっているのもあいつだ…残念だが、俺にはできないことだからな…まぁ、強引にやりすぎたところはあるか)

 

今回の一件…ベルクーリがユージオとアリスの関係を危惧し、実行に移したのだ。若き命を散らせたくない…そんな老婆心がユージオに対し、働いたのが事の発端ではあったが、ベルクーリはあることを思っていた。

 

(それにしても…まさかこんなことを思う日が来るとはな。ユージオという若き剣士のこれからを見届けたいという希望と…嬢ちゃんが誰かと結ばれるのを…寂しいと思うなんてな)

 

一度は自分を捨て身で破り、今度は純粋な剣の勝負で打ち負かそうとしてきた少年…ユージオの成長をもっとこの目で見ていきたい、自分を叔父と慕ってくれたアリスがユージオと上手くいくことを望む中で、それに一抹の寂しさを覚えたベルクーリは自分自身に苦笑していた。

 

人界最強の騎士、整合騎士長…そんな立派な肩書きを持つ自分が若い二人にこうも影響を受ける日が来るとは思っていなかった…こんな気持ちを味わうのは、少なくとも戦争が終わり、ファナティオと共にずっと先に迎えるだろうと考えていたからだ。

 

(…ファナティオに会いたくなっちまったな…)

 

そんなことを思いながら、ベルクーリは一人元来た道を歩いていた。

 

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

ベルクーリさんが去り、残された僕たち…何か言わなければと思い、沈黙に耐え切れず、僕が先に口を開いた。

 

「アリス…その…さっきの話…」

「…聞いてたわ」

「どこ、から…」

「叔父様と剣をぶつけ合う、少し前から…」

 

恐る恐る尋ねようとして、少し枯れた声が出てしまった…アリスも気まずそうに答えるところを見ると、申し訳ないと思っているのだろう。

 

「…えっとね……君には色々なことを言ってさ…散々振り回したりしたかもしれないけど…さっきベルクーリさんに言った様に…僕の気持ちは固まってるんだ…」

「…ええ」

「だから…あの時、ルーリッドで言えなかったことを…気持ちを伝えさせてほしい」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そこで言葉を切り、静かに息を大きく吸う…言葉を告げようとして、脈拍が早くなる胸を落ち着かせ、僕は口を開いた。

 

「アリス……僕は君のことが…っ?!」

 

気持ちを伝えようとした僕の言葉がそこで止まった…いや、止められた。それは、アリスが僕の胸元へと飛び込んできたからだ。

 

「ア、 アリス…?」

「…言わないで…」

「えっ…」

 

彼女の言葉の真意が汲み取れず、間抜けな言葉が漏れる。だけど、胸の中に顔を埋めるアリスは涙を零していた。

 

「聞きたくないの…聞いたら、ユージオがどこかに行ってしまいそうで…また私の前で、大切な人が死んじゃうじゃないかって……!ユージオにまでいなくなられたら、私…もう…」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「分かってる…こんなことは私の我儘だって…!今はそんなことを言ってる場合じゃないって…!ユージオがここにいてくれたお陰でどれだけ助かってるかってことも分かってる…けど!貴方がいなくなるなんて、考えるだけで体が…心が砕けそうなの…」

 

何も分かってなかった…アリスは待ってくれるって…この戦争が終わるまでは気持ちを伝えるのは待とうと考えていた僕がどれだけ甘く、愚かで、酷い男だと思い知らされた気がした。

 

アリスは…僕の気持ちに気づいていたんだ。いや、僕だって、アリスの気持ちには多少の期待は持っていた…だから、戦争が始まる前、あんな大胆なことをしたんだ。

 

でも、僕は気持ちを明確に伝えるのを先延ばしにして逃げた…自分が死ぬかもしれないということを理由にまた先延ばしにして…ここまでアリスを追い込んだ要因は僕にもあった。

 

リアルワールドからベクタの体に憑依した敵の狙いが彼女であることも、ダークテリトリーとの戦争が勃発したのも、確かにあったかもしれないが、それでも、彼女の傍に一番近くにいたのは僕だった筈だ。

 

「アリス…聞いて」

「いや…言わないで…」

「聞いてほしいんだ…今だから…君のその思いを聞いたからこそ、必ず聞いてほしいんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

先程まで胸元で暴れていた彼女の動きが止まる…そんな彼女を優しく抱きしめながら、僕は言葉を紡いでいく。

 

「僕は…何もできなかった頃の自分が嫌いだった…君が飛竜に吊るされて、連れていかれるのを…キリトやフォンと違って黙って見ていることしかできなかった。

君が生きているかもしれないと思いながらも、天職を理由に探しに行くことすらもあきらめてた。

キリトたちがこの世界に来てくれなかったら、ずっとそのままだったと思う…自分の気持ちに蓋をして、可能性すらも見ないふりをし続けていたと思う。

だから…キリトやフォンと比べて、自分が弱い人間だと思ったんだ。君を取り戻すために、彼らは君たちと闘うことを選んだ上でも、僕はまた見ていることしかできなかった…その癖に、フォンやキリトが君と仲良くしていたことに嫉妬して、それをアドミニストレータにつけこまれた…

どんなに剣技を極めても、どれだけの力を持ったとしても、僕にできることなんてそう多くないって思ってたんだ…それこそ、命を懸けてでもしないと何も守れないって…君の剣になることなんてできないって…

…でも、ベルクーリさんに言われて、ようやく分かったよ…僕は死ねないし、そうそう命を懸けるわけにはいかないって…だって、それは君の笑顔を永久的に失わせてしまうことに他ならないことなんだから…」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

僕はアリスに初めて弱さを見せた。

 

これまで、僕はそんな姿を見せるわけにはいかないとどこか無意識に気張っていたところがあったのだろう。

 

キリトたちが自我を失ってしまい、自分がしっかりしなければという焦燥感…騎士と村娘という二つの人格に板挟みになったアリスの支えにならないという責任感…そして、好きな人に弱さを見せたくないという虚栄心が…僕を意固地にさせていた。

 

でも…本当はそうすべきじゃなかったんだ。

 

彼女の涙ではなく、本当の笑顔を見たいのなら、

 

「アリス…あの夜言ったことをもう一度言わせてほしい…

僕は…いつまでも君の手を握り続けるよ。それが地獄であっても、天国であっても…この世界とは別の場所であっても…君と一緒に笑いたい…一緒に悲しんで、怒って、泣いて…君が僕を嫌いになるまで、一緒にい続けたい…思い出を分かち合いたい。だから……

 

僕と一緒になってくれませんか…君の人生を僕に分けてほしいんだ」

 

あの夜も、戦いが始まる前も、告げられなかった想いを言葉にして、彼女へと伝えた。鏡を見なくても分かるぐらいに顔が熱くなっているのを感じ、心臓はかなり早く鼓動していた。周りは静かなのに、心音が耳や頭に響くようにうるさく聞こえるように感じられた。

 

だけど、アリスは何も答えてくれない…まるで、さっきの言葉は何一つ聞こえていなかったかのように沈黙を貫いていた…けど、僕はアリスが答えてくれるのを待った。彼女がどう答えようとも、いつまでも待ち続けようと思った。

 

「……本当に…私でいいの…」

 

再度の沈黙を破ったのは、そんな彼女の一言だった…微かに、しかし、はっきりと聞こえた彼女の言葉に頷くことで答える。

 

「私…結構嫉妬深いわよ。貴方が後輩と話しているだけで、嫉妬する酷い女よ?」

「そのくらい、僕のことを思ってくれているんだって証拠じゃないか」

「昔から言い出したら、貴方を巻き込んで色々やるくらいにお転婆なところもあるわよ」

「もう慣れっこだよ…それに、多分それは今の僕も同じだと思うよ」

「私といたら、どんなことになるかも分からないわよ…勝手に光の巫女だって呼ばれて…挙句の果てには他の世界からやってきた敵に狙われて、戦争を起こす原因にもなった悪女かもしれないのよ」

「…君が例え悪女だとしても、世界が君を見放したとしても…それでも、僕は君の隣にいるよ…世界を敵に回しても…」

「………ユージオが死んだりしたら、私、間違いなく後を追うわ…」

「だったら、なおさら死ねないね…君を死なせたくないから」

 

最後の抵抗なのか、それとも、今抱えている彼女の想い全てを曝け出しているのか…その心の声に次々と答えていくと、ようやくアリスは僕の胸元から顔を離した…そこには、涙で目を…そして、嬉し恥ずかしさで赤くなった彼女の顔があった。

 

「ユージオ……はっきり言って…私のこと、どう思ってる…?」

「…好きだよ…誰よりも…どんな人よりも…君のことが僕は好きだ」

「なら……証明して」

 

そう言って、アリスは目を閉じた…それが意味することが分からない程、僕は鈍感ではなく…その想いに応えるべく、顔を近づけた。

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 

唇が柔らかいものを感じた…その後、甘く、そして、少し塩辛い味がした。

 

時間にして、10秒も経っていなかったと思う…けど、今の僕たちにはその時間は永遠に長く感じられた。

 

「…しちゃ、たわね…」

「そう、だね…」

 

そう告げるアリスの顔は今まで見たことないくらい真っ赤になっていたが、僕も負けず劣らないぐらい真っ赤になっているだろう。

 

「…ユージオ…一応聞いておくけど、初めてよね?」

「あ、当たり前だろう!?」

 

まさかの接吻が経験済みかどうかを疑われ、思わず大きな声が出てしまった…けど、

 

「「フフフッ…アハハハハハハハッ!!」」

 

そんなやりとりさえも、今は嬉しく感じてしまい、二人して笑い出してしまった。それはやっと想いを告げられたことでの安堵か、この時間がいつまでも共有していたいという願望からか…今は二人こうしていることがとても嬉しかったんだ。

 

「…アリス」

「なに、ユージオ?」

「…君のことは、僕が必ず守るよ」

「…なら、貴方のことは、私が必ず守るわ」

 

互いにそう誓い合い、僕たちはもう一度唇を重ねた。

 

月と星の光が、祝福するかのようにその場に降り注いでいた。

 

 

 




…ようやくくっつけられました!?
フォンとユウキ以上に時間が掛かったこのカップル…!
本当はもっと早くくっつける予定でしたが、色々とシナリオ変更の憂き目を受けて、色々と遅くなりました…イチャイチャは多分アリシゼーション終わってからになりますね…色々と語りたいことはありますが、その辺りはおふらいんシリーズで語ろうと思います。

これで残すはフォンとキリトの復活ですね…ということで、次回からはユウキに視点が戻ります。もちろん、ユージオたちもまだまだ活躍しますので、あの方との対決にもご期待を頂ければと思います。

それでは、また!

武器解説に関して、新調と古いものだとどちらがいいですか?

  • 物語の語り部を新調版
  • 今までと同じ旧式版
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