ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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えー…作者が危惧しておりました通り、滅茶苦茶長くなりましたので、前後編にて現実世界のお話をやっていきます!?…8千字超えた当たりで、「あっ、これ無理だわ」と絶望した次第でございます、すみません、ほんと…

そういうわけで、サブタイ通り、渾身のシーン連発でございます。
そんな中、どっかの情報屋コンビやあの兄弟の影が見えたり、なつかしいキャラが出たりのお話になります。

それではどうぞ!


第ⅩⅩⅩ話 「叫ぶ魂」

「これって…!?」

 

そう言葉を漏らしたのは、端末からオーシャン・タートルを取り巻く環境を見守っていた一人の少女…キリトとアスナの愛娘であるユイだった。

 

アスナとユウキがSTLを用いてUWへと向かった後、ユイは自分に何かできることはないかと考え、特殊部隊がUWに対して何かを仕掛けこないかと見張っていたのだ。

 

ユイが悲鳴を零した理由…彼女が見張っていたネットダイブ環境の簡略図に異変が起こったからに他ならなかった。オーシャン・タートル…正確には、UWへと無数の光が降り注ぎ、その数がどんどんと増えつつあったのだ。

 

「…ログの解析………っ!?アメリカからの、不正ダイブ…!」

 

ユイは自身が持つ能力をフル活用し、その正体を突き止める…しかし、その正体を知り、更なる絶望が彼女を襲う。

 

「このままじゃ…パパとママたちが危ない…!」

 

敵がどのようにしてUWへと介入したのか…それを考えた時、ユイの頭にある可能性が思い浮かんだ。

 

外部からのダイブを可能としたということは、アスナたちと一緒に聞いたUWにおけるFLAの加速機能が元の数値に戻されているのではないかという可能性だ。となれば、スーパーアカウントを使っているとはいえ、アスナやユウキ…キリトやフォンにも危険が迫っていることに他ならないことではないかと直感した。

 

「……っ!?」

 

もしそうだとしたら、ここでジッとなどしていられない…覚悟を決め、ユイはアスナの端末を飛び出し、ネットを経由して急いで本土の方へと向かった。

 

 

「誰、こんな時間に……っ!?」

 

ウトウトしていた詩乃は、着信を知らせるスマホのバイブ音で意識をハッキリとさせられた。しかも、画面に映った発信者…『桐ヶ谷和人』の文字を見て、その苛立ちは驚きへと変えられてしまった。

 

「も、もしもし…!」

『シノンさん、ユイです!』

「ユ、ユイちゃん!?どうしてキリトのスマホから…」

『説明は後からします!今すぐ外出の準備をして、タクシーに乗って下さい!?行き先の住所と最速到着経路は端末に送ります!?』

「タ、タクシーって…!?どこに行けって…?」

『急いでください!!パパとママたちが危険なんです!?』

「っ!?」

 

叫びにも近いユイの声に、困惑している場合じゃないと感じた詩乃はすぐさま身支度を整え、自身のアパートを飛び出した。

 

 

『リーファさん!?パパとママたちが…!?』

「っ…!?分かったわ、ユイちゃん!」

 

同時刻

 

姪と言っても過言ではない、兄の愛娘であるユイから連絡が来て最初は驚いていた直葉だったが、彼女の悲痛な声に只事ではないと悟った直葉も家をすぐさま飛び出した。幸いにも、近くを通っていたタクシーをすぐに捕まえることができ、後部座席に駆け込む。

 

「えっと…東京の港区までお願いします!?」

 

運転手に大まかな行き先を告げると、タクシーが再び動き出した。直葉は離れゆく桐ヶ谷家を後ろ目に見ながら、事情を説明している暇がなく、置いてきてしまった母親のことを気にしていた。

 

(ゴメンなさい、お母さん…でも、お兄ちゃんはきっと私が助け出すから…!)

 

母親に更なる心配を掛けてしまうと承知しながらも、直葉はタクシーが進む道へと視線を戻していた。

 

ユイが二人に指定した場所…それは、ラースの本住所が登録されている…港区六本木であった。

 

 

 

「…ぐぅ…ぐぅ……うっ…!(…しまった…いつの間にか寝ちまってたッスか…)」

 

オーシャン・タートル サブ・コントロール・ルーム

 

首がカクンと落ちたタイミングで、眠りから意識を現実世界へと戻された比嘉は、いつの間にか寝てしまっていたことに気付き、ズレてしまった眼鏡を元の位置に戻しながら、周りの状況を確認していた。

 

他のラース職員は疲れがピークに達して眠りに着いており、凛子ですら寝息を立てて休んでいるのが見えた。起きているのは、自衛官である菊岡一人だった…何があってもいいように見張りをしてくれていたのかと思い、内心申し訳ないと思いながら、比嘉は今の時刻を腕時計で確かめた。

 

(4時32分…明日奈さんたちがアンダーワールドにログインしてからもう十時間か…向こうの時間の進み具合なら、もう一年が経っている筈だけど…まだ二人とも戻ってこない。変だな…ワールド・エンド・オールターって、人界からそんなに距離がある場所に設置してたっけ…?)

 

未だに音沙汰がないアスナたちの状況に、比嘉はそんなことを考えていた。場所が分からないのか、向かっている途中なのか…もうそろそろ何かしらのアクションが起こるのではと考えている時だった。

 

Prrrrrrrrrrr!!

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「っ!?き、菊さん!電話です!」

「っ…!あ、ああ…」

 

いきなり電話の音が鳴り響いたが、菊岡は反応するのが遅れていた。慌てて比嘉が呼び掛けると、電話に気付いた菊岡が驚きながらも受話器を取った。この状況の中、肉体・精神的に疲労しているのは菊岡も一緒だったのだ。

 

「こちらサブ・コントロール・ルーム、菊岡だ!」

『えっと…そちら、ラース本社のSTL開発本部、ですよね?』

「…どうしたの?」

「本土の方から電話が掛かってきたんッスよ…でも、この番号は…」

 

電話の音で目覚めた凛子が比嘉へと状況を尋ねる。説明しながら、比嘉は掛かってきていた番号に驚きを隠せないでいた。その番号は彼らがよく知る番号であり、

 

『六本木分室の平木ですが…ちょっと問題、というか…妙な話なんですけど、ここに今、外部の人がアポなしで訪問してきまして…』

「外部…?!それは取引先の人間ってことですか?」

『いえ……全く無関係の……どう見ても女子高生なんですよ…しかも二人』

「「はぁぁ…!?」」

 

ラース六本木分室に見知らぬ女子高生二人組がやってきている…訳の分からない話に、比嘉と凛子が驚きの声を上げるのも無理ない話だった。

 

「じょ、女子高生ですか…!?」

『ええ…それで、今すぐラース本部の菊岡誠二郎って人に連絡をして、アンダーワールドのFLA倍率を即刻確認するようにって…言ってきてるですが…』

「っ…!比嘉君!」

「りょ、了解ッス!?……………!げっ…ど、同倍…FLAが現実世界と同倍になってるッス!?一体いつからだ…?!」

 

指示で慌ててコンソールを操作する比嘉だが、ようやくFLAが同倍になっていることに気付き、先程までの自分の考えが楽観的過ぎたことにも気付き、動揺してしまっていた。

FLAのことを…アンダーワールドに関することを知っている人物たち…その女子高生たちの正体に心当たりをつけた菊岡は確かめるように、分室の人間に問い掛けた。

 

「…そうだ…名前…!その子たちは名乗りましたか!?」

『えっ…は、はい…ですが、それもふざけた話というか、どう考えても本名じゃないんです……えーっとですね……シノンとリーファだって伝えてくれって…変ですよね、顔はどう見たって日本人なのに…』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

分室の人間は困惑と笑みが混じった声でそう告げてきたが、その名前を聞いた菊岡は衝撃を受け、それと共にどこか納得してしまった…FLAの異変に気付いた理由までは分からないが、彼女たちならば、話は別だと悟ったからだ。

 

「これが…」「……STL」

 

混乱する六本木分室…それを好機と捉えた彼女たち…シノンとリーファ…詩乃と直葉は、ユイのガイド通りに分室の中を進んでいき、ある部屋へと辿り着いていた。そこに置かれていたのは…試作1号機と最新の8号機にあたるSTL二台であった。

 

 

明朝4時40分

ALO 新生アインクラッド第22層にある、キリトたちのログハウス…家主たちは不在であるにも関わらず、家の中には光が灯っており、何人かの人影が映っていた。

 

「…ったくよ…あんの馬鹿共。またとんでもないことに、二人して巻き込まれやがって…自衛隊が作った仮想世界とそこに生まれたマジモンの人工知能アリスだぁ…?そんなもん、ゲームの領域を超えまくってるだろうが…」

 

集まったいつものメンバー…ユイからキリトたちが消えた理由、アリシゼーション計画の全てを聞かされ、それぞれが驚きを隠せないでいた。皆の意見を代表するようにクラインが最初に口を開いたが、未だに話が信じられないといった様子だった。

 

「しかも…その人工知能を戦闘機に乗せて、戦争をさせようとしているんですよね…キリトさんたちはこのことを知って……」

「知らなかったに違いないでしょうね…そんな話を聞いてたら、フォンも良い顔はしないだろうし、キリトは絶対に協力なんかしなかったわよ」

 

そんな不安が出たシリカをフォローし、キリトたちならそんなことをしないとリズがハッキリと否定したことで、少しだけ安堵していた。

 

「ラースとしては、その技術を当面国内外向けのデモンストレーションとして用いる意図のつもりですが…現在オーシャン・タートルを占拠している襲撃者たちは…もっと具体的な用途を想定していると、私は推測します」

「一体何者なんだよ、その襲撃者って奴は…?」

「……高い確率で、米軍か米諜報機関が関与しています…」

「べ、米軍って…アメリカ軍ってこと…!?」

「はい…もしアリスが米軍の手に落ちることがあれば、遠くない未来に無人機搭載用AIとして、実戦配備されるでしょう…」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

 

 

 

その可能性を否定したくとも、オーシャン・タートル襲撃の一部始終を見ていたユイは、敵の正体に大まかの見当をつけることができてしまっており、その幼い表情を歪めながら、クラインの問いに答えた。

 

まさか海外からの…それも軍隊が出てきているとは想像していなかった一同は驚きの声を上げ、リズはソファから崩れ落ちながら、ユイへと確かめるように問い掛けていたが、それは事実だった。

 

「…でも、パパたちはそれだけは阻止したいと思ってる筈です…!だから、パパとフォンさんは歪んでしまったアンダーワールドをなんとかしようと足掻いて、そんなパパたちを助けたいって、ママたちは戦争が起こっているアンダーワールドにダイブしました…

 

だって…アリスは…アリスはSAOから始まった、全てのVRMMOワールドと、そこに生きた多くの人々の存在の証であり、費やされた膨大な時間的、物質的、精神的、リソースの結実だからです!!」

 

「「「「…っ!?」」」」

 

「私は…確信します。ザ・シードパッケージが生み出されたそもそもの目的が、アリスの誕生に他ならないと…連結された無数の世界で沢山の人たちが笑い、泣き、悲しみ…愛した…それらの魂の輝きがフィードバックされたからこそ、アンダーワールドに新たな人類が生まれたのです!

パパやママ、フォンさんにユウキさん、リーファさん、クラインさん、リズベットさん、シリカさん、エギルさん、シノンさん…その他多くの人々の心が編み上げた大きなゆりかごから、アリスは生まれてきたのです!だから、だから…!?」

 

「そうね…そうだよね、ユイちゃん…」

 

 

小さな体からは信じられない大きな声を出し、涙と共に息を切らすユイ…その言葉を受け止め、同じく涙を流すリズが言葉を零す。

 

「繋がってるんだ…SAOだけじゃない…ALOもアンダーワールドも…全部の世界が繋がってるんだね…時間も、人も、心も…大きな川みたいに…!」

「大丈夫だよ、ユイちゃん…」

「シリカ、さん…?」

「キリトさんやフォンさん…アスナさんたちも…私たちが助けに行くから…!絶対に助けてみせるから…!だから、もう泣かないで?」

 

リズの言葉に続き、優しく手でユイを受け止めるシリカ。ユイの言葉に動いたのは、二人だけではなかった。

 

「そうだぞ、ユイっぺ?俺たちがキリトたちを見捨てるわけがないだろうが」

「あいつ等にはでっかい借りがあるからな…大人の俺たちがいつまでも借りっぱなしというのは性に合わねえからな…ここらで少しは返しておかないとな」

「っ…!みなさん、ありがとうございます!!ありがとう……ございます!」

 

クライン、エギルと大人組も協力を惜しまないとばかりに申し出てきた。皆が動いてくれることに、ユイはお礼を言うことで一杯になっていた。

 

「おう!…それにしても、アメリカからダイブしてくるVRMMOプレイヤーが三万…多く見積もったら十万か…そいつ等全部が人界軍の敵に回るってことかよ」

「ねぇ、アメリカのVRMMOサイトに実験のこととか襲撃のこととか暴露して、偽装βテストに参加しないで、頼むはどうだろう…?」

「事の真相は日米の軍事機密争奪戦なんです…下手にそれを匂わせると、むしろ逆効果になりかねません…」

「最悪国際問題に発展しちまうな…そうなったら、現実世界での戦争を誘発しかねないな」

「だからって、相手は本物の人間だから殺さないで、って書くのも藪蛇ですね…」

 

なんとか打開策はないかとリズとシリカが案を出すも、ユイとエギルが更なる問題に発展しかねないと危険性を示唆する。止めることができないのならと、クラインは別の案を切り出す。

 

「なら、同じ手を使えばいい話じゃねぁか…こっちもβテストの告知サイトを作って、ラースの連中に対等のアカを用意してもらえば、三万人や四万人ぐらいすぐに集めてみせるぜ?」

「確かに良い案だが、クライン…それには厄介な問題が一つあるぞ」

「何だよ、問題って…?」

「時差だ」

「あっ…」

 

クラインの策に納得しながら、エギルはその作戦の最大の懸念事項を指摘した。そのことを忘れていたクラインから声が漏れた。

 

「日本は今、午前3時40分…つまり、一番接続数が減る時間帯だ。対して、アメリカはロスが昼の12時半、ニューヨークが午後3時半…あっちの方がアクティブプレイヤーの数は多いぞ」

「そ、それは…ぐぅぅ…!」

「確かに、エギルさんの仰る通りです。今から私たちが日本で集められる人数は一万人にも遠く及ばないでしょう…それこそ焼け石に水の話…敵と同じアカウントを使っていては、圧倒的な数を誇る敵に対抗できる確率は非常に低いと言わざるを負えません…」

「でも、アスナたちが使った神様アカウントってもうないんでしょ?だからって、キリトたちみたいに1からレベルを上げている時間もないし…」

「はぁ…キリトたちが危ないって分かってるのに、万事休すかよ…」

 

エギルの指摘にクラインは何も言い返すことができない…ユイの言葉を受けたリズも数の差を覆す手段はないのではと思い、クラインが悔しそうに言葉を零す…だが、ユイもそのことは理解しており、だからこそ、ある打開策を考えていた。

 

「…いえ…高レベルのアカウントは存在します…!敵側の使用するデフォルトアカウントより、レベルも装備も遥かに強力なものが…!」

「えっ…そんなものがあるの!?でも、どこに…?」

「…皆さんが今…この瞬間もログインに使用している正にそのアカウントです!」

「「「「…あっ…」」」」

「そうです…アカウントのデータコンバートです!みなさんが、他のVRMMOプレイヤーたちが数多のザ・シード世界で鍛え上げたキャラクターを、アンダーワールドへとコンバートさせるんです!」

「なるほど、その手があったか…!」

 

リズの疑問にユイがデータコンバートによるアカウントの策を説明していく…以前、死銃事件にて、ALOからGGOにフォンとキリトが自身のアカウントをコンバートさせたこともあり、同じザ・シードで作られたアンダーワールドにもそれが適用できると気付き、その手があったかとクラインが笑みを浮かべる。

 

他のメンバーもこれならなんとかなるかもしれないと思っていたが、ユイはこの策の大きなリスクをも理解しており、再び表情を歪め、それを説明していく。

 

「…ですが、この方法にはいくつか問題があるんです…」

「…問題…?」

「はい…まず、アンダーワールドには自発的なユーザーインターフェイスがありません…だから、自らの操作でログアウトすることができないんです…できるとすれば、内部でHPがゼロになること…死亡した時だけなんです。

そして、それに関連してもう一つの問題があって…アンダーワールドにはペインアブソーバー…痛覚遮断システムが設定されてないんです。つまり、現実世界と変わらない痛みを受けることになり、HPがゼロになるほどのダメージとなると……現実世界の肉体にも何かしらのダメージが加わる可能性もあるんです…」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

「更に、今のアンダーワールドはラースからの操作がほとんどできない状態となっています…もしHPがゼロになった場合……コンバートしたアカウントが再コンバート不可…そのアカウントが永久的に消滅する可能性があるんです…」

「「「「っ!?」」」」

 

ユイが告げた最大のリスク…多少の危険は承知だと考えていた一同だったが、コンバートしたアカウントが消滅してしまうと聞き、衝撃が走る。

 

他人から見れば、たかがゲームのアカウント…しかし、彼らにとっては今使ってるアカウントはもう一つの一人だと言っても過言ではなかった…それが消えてしまうかもしれない…そう考えると迷いがないと言えば、嘘であった。

 

それでも…例え、それがもう一人の自分を殺す行為だとしても…

 

「…そのぐらいのリスクなんて、覚悟のうちよ…」

「リズさん…」

「キリトもアスナも、フォンやユウキはもっと危険な立場にあるのよ…そんなことでビビってて、友達を…友達が守りたい物を守れないなら…私は一生後悔するわ!」

「…私も…!怖いけど…それでも行きます!」

「エギル…こうなったら、大人の俺たちがビビるわけにはいかないよな?」

「当たり前だろう、クライン…だが、リズベット。他のプレイヤーたちにはどう説明するつもりだ?」

「………真実を伝えましょう。何も伝えずに参加させようだなんて、皆のもう一つの自分を掛けてもらうのに、そんな卑怯なことはできないわ」

「…そうだな。よし、それならすぐに動くぞ!」

「うん!」「はい!」「おう!」

「皆さん…宜しくお願いします!」

 

友もアンダーワールドも見捨てることなどできない…その想いと共に迷いを振り切った一同は一斉に動き出した。

 

「……そういうことか…」

「これはこれは…大変なことになりそうダナ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「お前さんはどうするんダ…?」

「…決まってるだろう?分かってることを聞くなよ」

「…ダナ。なら、オイラたちも動くとするか…」

 

こっそりと開けた戸の隙間から、一同の話を聞いていた二つの影は事態を理解していた。猫妖精アバターの女性が特徴的な話し方で、相方である火妖精アバターの男性へとそう問い掛けていた。

 

愚問だとその質問にぶっきらぼうに答え、二人も行動を起こし始めた。

 

 

午前5時2分

ALO中立都市アルン…世界樹の下に位置する都市のホールにて、リズベットたちはいた。

 

それぞれのネットワークを活かし、まだログインしているプレイヤー、知り合いのプレイヤーへと声を掛け、ホールにはそれなりのVRMMOプレイヤーが集結していた。

 

そこには、サクヤやアリシャ・ルー、ユージーンといった各妖精の長たる者や、スリーピング・ナイツといったギルドらの姿もあった。

 

「みんな、急な呼び掛けに関わらず集まってくれてありがとう…!これからする話は、決して嘘でも冗談でもないわ!」

 

集まったプレイヤーたちにそう呼び掛けたのはリズベットだった…自分が皆に説明したいと申し出て、メンバーを代表して表に立ったのだ。

 

「日本のとある研究機関が国の支援を受けて作ったザ・シード規格の仮想世界…アンダーワールドに、もうすぐ何万人って数のプレイヤーがそれと知らずにダイブして、その世界の住人を皆殺しにしようとしているの…!?」

「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」

「アンダーワールドに暮らしているのはただのNPCじゃないわ…私たちと同じ感情…同じ魂を持っているの!お願いです……彼らを守るために、皆の力を貸して!皆が今使っているキャラクターデータを…アンダーワールドにコンバートして下さい!」

 

「…アンダーワールド…?」「研究機関が作ったVR…?そんなの本当にあるのかよ…」「そもそもコンバートって…別に新アカでも良くねぇ?」「NPCが生きてるって…どうなんだよ、その考え…」

 

アンダーワールドを取り巻く現状、そして、それを打開するためにみんなの協力が必要だとリズは訴えかけるが、いきなりのことに困惑するも、眉唾ものだと揶揄する者など、集会場は混乱し切っていた。

 

「…リズベット…君や君の友人たちが、早朝から単なる悪ふざけでこんなことをするとは思えないし、何よりあのキリトが10日以上ログインしていないのは、確かにただ事ではないのだろう」

 

混乱する場から、名乗り出た者…風妖精の長を務めるサクヤはそう言って、リズの言葉を受け止めてくれていた。以前、猫妖精との同盟会談にて危機を救われ、攻略不可能と言われていた世界樹のグランド・クエスト攻略に助力し、自身の友人であるリーファの兄キリトが、ここ最近ALOで姿を見せないことを、彼女も不審には思っていた。

 

だから、キリトの仲間であるリズの言葉は信じたかったが、今回の話ばかりはあまりにもスケールが壮大すぎた…サクヤはリズに問い掛ける様に言葉を投げる。

 

「しかし、正直俄かに信じ難い。人間と同じ魂を持つAI…それを奪おうとするアメリカ軍…いくら君たちの言葉だろうと、どちらも現実味が無さすぎる。

それに…先程君は、コンバートをするにあたって、問題点があるとも言ったな?まず、その問題とやらを説明してくれないか?」

「ええ…当然の話よね……アンダーワールドにコンバートするにあたって、どうしても避けらない問題があるの…それは……」

 

どちらかといえば、否定的な…いや、冷静に話を分析したサクヤの指摘はもっともであり、それを説明しなければならないのだということはリズも理解していた。

 

そして、リズはユイから聞いたコンバートの問題点…自発的なログアウトができず、HPがゼロにならないとログアウト不可、更にはペインアブソーバーが設定されておらず、現実世界と同じ痛みを味わうことになること、そして、死亡した場合、コンバートしたアバターが二度と使用できなくなる危険性があること…全てを話した。

 

「…アカウントが…消えるだと…?」

 

誰かが呟いた一言…それはその場にいる全員の声を代弁したものだったのかもしれない。この世界の自分の身体を見ず知らずの世界のために懸けろと言われ、全員が納得できるわけもなく…

 

「ちょっと待ってよ…そんな危険なとこに行けって言うの…?」「勘弁してくれよ…」「ふざけるなよ?!なんでアバターを犠牲にしてまで、そんな話に乗らないといけないんだよ!?」

 

「っ…!?」

 

「キャラロスするだと!?消えたら、お前らが保証できんのかよ?!」「それとも、種族ごと弱体化させようって罠か!!」

 

…言葉の暴力…不満や怒りが一気に膨れ上がり、リズに理不尽な暴言が次々と投げ掛けられる。その言葉を受け、リズも一瞬顔を歪めてしまう。

 

「くっ…てめぇら…っ!?」

 

あまりの言い様に堪え切れなくなったクラインがリズを庇おうと口を開きかけるが、それをリズは手で制した…ここで反論しても、更なる反感を買ってしまうだけだと思い、なんとかリズは説得の言葉を絞り出す。

 

「確かに、私たちに保証することはできないわ…あなた達が育て上げたキャラクターがお金に換えられるものじゃないことはよく分かってる!だから、命令や強制じゃなく、お願いしてるの!?

…私たちを助けてって…今、アンダーワールドで必死になってアメリカからの攻撃を防いでいる、私たちの仲間を助けて下さいって!」

 

「あんたが言ってるその仲間っていうのは、SAO生還者のことだろうが!?」

 

「っ!?」

 

「分かってんだよ?!お前ら元SAO組が、心の中じゃ他のプレイヤーのことを見下していることぐらい!」

「侵略とか人工知能とか魂だとか知るかよぉ!?」

「VRMMOにリアルの話持ち込んで、勝手なこと言ってんじゃねぇ?!」

「そういうのはお前らだけでやってればいいじゃねぇか?!」

「リアルでもお偉い生還者様だけでよ!?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

暴言は嵐となり、集会場の空気を悪く、重い物へと化していく。

 

もちろんコンバートの一件に納得がいかないこともあったのだろう…しかし、そこに普段から感じているであろう不満が更に重なり、一気に爆発してしまったのだ。

 

リズたちは…いや、キリトたち一行は良い意味でも悪い意味でも目立ち過ぎていたのだ。

 

レジェンダリーウェポンを持ち、プレイヤー最強候補としても名高い二刀流のキリト、

閃光としての知名度はもちろん、ユウキにも迫る剣技を持つアスナ、

未知なるソードスキル『幻想剣』を駆使し、絶剣をも打倒したフォン、

そんなフォンとも恋仲であり、スリーピング・ナイツでの1パーティボス攻略を果たしたユウキ、

 

VRMMOには明確な終わりが存在しない…以前、二刀流・幻想剣をSAOにて垣間見たクラインが言った様に、手に入れることができなかった者たちにとって、全てを持っているかのように見てるキリトたちは、ヘイトが最も集まる対象だと言っても過言ではなかったのだ。

 

そして、今それが嵐となって、リズへと襲い掛かっていた。

 

(駄目、だった……私の言葉じゃ、みんなには全然届かなかった…やっぱり私じゃ…!?)

 

『そんなことないじゃないか?』

 

「っ…!?」

 

暴言の嵐に何も返すことができず、顔を俯かせるリズ…心が折れそうになった時、その一言が頭に蘇った。

 

同じ鍛冶師でありながら、規格外の強さを持つ、少しだけ年上の友…以前、自分がキリトたちの役に立てているのかと不安をぶつけた時、そう答えてくれたフォンの言葉が…

 

「…っ…」

 

その言葉に後押しされるようにリズは顔を上げた。そこには、

 

「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」

 

暴言の中、リズの言葉を真剣に受け止めていた者たち…サクヤ、猫妖精の長アリシャ・ルー、火妖精最強の指揮官ユージーン、シウネーを始めとしたスリーピング・ナイツの面々の真剣な姿がそこにはあった…彼ら彼女らには、リズの言葉が届いていたのだ。

 

(そうよね、フォン…私がここにいるのは…ここでこうして立っているのは、キリトやアスナ、あんたやユウキを助けたいっていう気持ちがあるから…!どんなことを言われようとも、その気持ちだけは何にも負けてないから…だから…!?)

 

こんな嵐に顔を伏せてる場合じゃない…弱気になる程、自分の…いや、自分たちのこの想いが軽いものではないのだと…例え何を言われようとも、この魂に感じたことは決して間違いではないのだと…それを証明するかのように、リズは自身を鼓舞するように笑みを浮かべ、言葉を放つ。

 

「ええ、そうよ!みんなが言ってるように、これはリアルの話よ!」

「「「「「「「「「「………!」」」」」」」」」」

「あなた達の言う通り、SAO出身者はリアルとバーチャルを混同しがちなのかもしれない!でも…決して私たちは自分たちが英雄だなんて…特別だなんて思ってない!

私と後ろにいる猫妖精の娘は……生還者だけが集められた学校に通っているわ。そこに通っている生徒たちは、月に1回必ずカウンセリングを受けないといけないの」

「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」

「嫌な質問もいっぱいされるし、飲みたくない薬を飲まされてる子も何人もいるわ…私たちはみんな…政府にとっての監視対象の犯罪者予備軍なの!

……そういう扱いをされているのは帰還者学校の生徒だけじゃない…VRMMOプレイヤーはみんな多かれ少なかれそんな目で見られてる…社会に寄与しないお荷物だとか、税金も年金も払わない現実逃避者だとか……徴兵制を復活させて、強制的に奉仕させるべきなんて議論もあるわ…だけど!…私は知ってる!私は信じてる!

 

…現実は…ここにあるって!!

 

この世界と、ここに繋がってる沢山の仮想世界は…絶対に虚構の逃げ場所なんかじゃない!私にとっては、本当の生活と本当の友達と…本当の出会いと別れや、笑顔や涙がある現実なの!?みんなもそうでしょ!?」

 

「「「「「「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」」」」」」

 

「この世界が…もう一つの現実だって信じてるから頑張れるんでしょ!?なのに、これはただのゲームだって…所詮はバーチャルの偽物なんだって切り捨てたら、じゃあ!私たちの本当はどこにあるの!?!?」

 

嵐は完全に消えてしまっていた…リズの叫びが集会場に木霊していく。SAO生還者の一面を偏見でしか見れてなかったこと、今、眼前でその想いを涙と共に語る彼女の姿に、今まで暴言を吐いていた者たち全てが、リズの言葉に呑み込まれていた。

 

「…みんなで育てた沢山の世界が、このアルンを支える世界樹みたいに寄り集まって、芽吹いて…ようやく咲かせたアンダーワールドって花を…友達が守ろうとしているものを、私も守りたい…!

 

…お願い…力を、貸してください…!」

 

涙と共にその言葉を捻り差し、頭を下げるリズ…それに倣い、シリカ、ユイ、クライン、エギルも彼女の横に並び、頭を下げる。

 

集会場に集うプレイヤーたちは迷い、困惑し切っていたが、それはリズたちの言葉に心を動かされたものであり、今はもう何も受け入れずに反対しようという考えを持つ者はいなくなっていた。そして、

 

「……兄さん」

「…分かってる」

「……そうよね…」

 

その光景を陰ながらに見ていた者…闇妖精と影妖精アバターの兄弟、そして、彼らに寄り添う小妖精の3人の姿がそこにはあった。

 

 

 




ハハハ…マジで長くなった(苦笑)

本当はあのキャラたちも登場させたかったのですが、次回に持ち越しとなりました。
そういうわけで、次回はアリブレ要素…クラインとあのオリキャラがメインになります!もちろん闘うのは、ユージーン将軍と初登場のあの方です(オリキャラではないです)

そして、最後にチラッと出たどこぞの兄弟…彼らの活躍はもうしばしお待ち頂ければと思います。

それでは、また!

武器解説に関して、新調と古いものだとどちらがいいですか?

  • 物語の語り部を新調版
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