二度目の打ったワクチンの反動のせいで、熱出て再度体調崩した結果、執筆時間ごっそり削られました!
…の割には、ちょっと長めです(苦笑)
さてと…ある意味、お待たせしました!
リーファメイン回です!…まぁ、問題のあのシーン(解釈は人によると思いますが…)も含みますので、そういうのが苦手な方はお気を付けください。
それではどうぞ!
「さっきはゴメン…もっと早くもう一撃を撃ててたらなんとかなったかもしれないのに…一撃必中っていうのは、私のプレイスタイル的には合ってたんだけど…」
「ううん、シノンのせいじゃないから気にしないで」
二度の奇襲を受けた人界軍は、陣形を立て直すため、カーディナルとレンリの指揮の下、慌ただしく動き回っていた。
そんな中、地上に降り立ったシノンは、これまでの出来事をアスナに話し、互いの情報を交換し合っていた。先程の戦闘で、フォンが攫われたことを自分にも落ち度があったと言う彼女に、アスナは首を横に振る。
「あのままじゃ、確実に包囲されてどうしようもなかったところを助けてくれたんだから…いきなりこっちに来てくれたばっかりのところに、それ以上求めるのは酷だしね」
「…フォンはユウキが追ってるのよね?ユイちゃんが言うには、あの赤鎧の兵士たちはアメリカからのコンバートプレイヤーだって聞いたけど、フォンを攫った奴もその一人ってことかしら?」
「……ううん。多分違うと思う…最後に襲ってきた敵は、何かしらの上位アバターを使っていたようだから、おそらくだけど、オーシャン・タートルを襲った襲撃部隊の誰かがSTLを使ってダイブしたのかも…」
「おそらく間違いないじゃろう」
「カーディナルさん…」
フォンを攫った敵の正体について推測するアスナの言葉を、一通りの指揮を終え、話に参加してきたカーディナルが同意した。
いきなり少女の風貌をした人物の登場に、シノンは誰だと疑問の目をアスナに向けた。彼女が、人界軍の総指揮を執る一人だと伝え、色々と驚くシノンを横目に、カーディナルは話の続きをしていく。
「あやつは死人形を使役しておった…あれはダークテリトリー側に用意されておった上位アカウント『死霊人形師』と見て良いじゃろう」
「死霊人形師…」
「文字通り、死者の魂の片鱗を糧にあらゆる暗黒術・死霊術を使う者のことじゃ。一応、暗黒術師の上位派生になるのじゃが、まさかあれまでも敵が使ってくるとはな…」
「そんなにヤバいアカウントなの、それって…」
「…平時であれば、ほとんど脅威はない…じゃが、多くの死が集うこの闘いにおいては、奴ほど脅威なものもそうおらんじゃろう…下手をすれば、整合騎士ですら返り討ちにされる可能性がある」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
シノンの疑念に、あまりにも多くの命が失われつつあるこのアンダーワールドにて、死霊人形師が強大な力を持つのかを語るカーディナルの雰囲気に、二人は息を呑んでしまう。
「もっとも…集団戦ならともかく、単騎で尋常ではない能力を使えるユウキが向かっておる。そう簡単にやられることはないじゃろう…じゃから、そう心配するでない、アスナ」
「…そう、ね…今はこっちも気が抜けない状況だもんね……よし!」
不安を払拭するかのようにフォローの言葉を掛けたカーディナル…その言葉を聞いたアスナは、今自分がすべきことをするのだと意識を切り替えた。
「それで…これからどうするの?」
「さっきの襲撃で、ベクタたちから大分距離が離れてしまったからのう…それにさっきのような形で奇襲を受けるのは避けたいところじゃ…」
「なら、追撃はユージオたちに任せて、私たちはまずコンバートプレイヤーたちの撃退を優先するべきだわ。敵の手を潰さないと、さっきの乱闘がまた起こったら、アリスを連れ戻せたとしても、また隙を突かれる可能性があるし…」
「それなら、良い場所があるわ。さっき空にいた時、ここから5キロぐらい南に行ったところに遺跡みたいな廃墟が見えたわ。あそこでなら、さっきみたいに周辺を包囲されることなく敵を迎い撃てると思うわ」
「…よし、ならば、軍をそちらに移動させよう…誰かある!」
上空から絶好の迎撃ポイントを見つけていたシノンの言葉に頷き、カーディナルが近くの兵を呼ぶ。隊の動きを任せているレンリにその遺跡のことを告げると、兵士はすぐに走り去っていった。
「…いくらアメリカのVRMMO人口が多くても、これ以上の数はすぐには準備できないはず」
「それに、一度天命を全損し、再ダイブしようとして、痛覚遮断がされておらぬこの世界に、死と同然の痛みを負ったところで、すぐにもう一度来ようとする猛者など限られておるじゃろう…というよりも、下手をすれば、数時間意識を失ったままという可能性もあるじゃろうな…」
「なら、今いるコンバートプレイヤーたちさえ撃退できれば、敵に打てる手はもうない筈だわ」
「分かった…殲滅戦なら任せておいて!さっきの挽回もやっぱりしたいしね」
今後の方針が決まり、コンバートプレイヤーの全撃退を優先事項としたカーディナルとアスナに対し、シノンも気合を入れて応える。しかし、どうしても気になることがシノンにはあり、
「…ところで、その…キリトはこの部隊にいるの?」
「…もう…今さらそんな水臭い聞き方をしなくていいわよ。キリト君はここ…この馬車の中にいるわ」
「そっか…そうなんだ」
「シノン、キリト君に会う?」
「……うん。ちょっと挨拶して来ようかな」
「えっと…カーディナルさん」
「分かっておる…この荷馬車は移動を最後に回してもらうように伝えておく。ソルス…いや、シノンと言ったか…お主も、キリトの大切な人の一人なのじゃろう?早くあやつに会ってくるがよい」
「…ありがとう。それじゃ、お言葉に甘えて」
二人の意図を読み取り、気を遣ってくれたカーディナルにお礼を言い、アスナに続いてシノンが、キリトがいる荷馬車へと入って行った。
(キリトも罪な男よのう…アスナだけでなく、他にも想い人がおったとは…)
他人事とはいえ、ロニエやリーナを陥落させただけでなく、アスナ以外にも好意を持たれている人がキリトにいると知り、思わず苦笑してしまうカーディナル。
もしや、フォンの女性たらしはキリトのがうつったのでは思いつつ、思考は先程の襲撃者について移っていた。
(……確かにルナリスのステータスなら、死霊人形師如きに遅れは取らぬじゃろう…しかし、気になるのは、あの敵が目くらましに使った武器…あんなものはダークテリトリーは愚か、このアンダーワールドに存在するどのオブジェクトに該当しないものじゃった…あやつのアカウントは死霊人形師だけではないということなのか…
それに、アスナにはああ言ったものの、懸念すべきは敵が非常な手を取った時……ユウキが迷うことなく剣を振るうことができるかどうかじゃな…)
荷馬車に背中を預け、思考の海へと入るカーディナル…死霊人形師アバターを使う敵と近距離で相対した時の違和感が拭えず、敵の狂気に嫌な予感を覚えずにいられないでいた。
(…今からでは追いつくことは叶わぬ…フォンのことはユウキを信じるしかないか…わしはわしでやらねばならぬ…!)
本音を言えば、自分もフォンの救出に行きたいという気持ちはあったが、ベルクーリ不在の中、総指揮を務める自分までもがここを離れるわけにはいかず、ユウキに事を頼むしかないカーディナルは頭を切り替え、眼前の問題へと集中することにした。そんな時、
「ちょっと待って、シノン…今、飛ぶって言った!?」
「えっ…うん、そう言ったけど…」
荷馬車から出てきた二人…シノンの発言に驚きつつも、それが確かなのかと問い詰めるアスナの言葉に、シノンは戸惑いながらも頷く。
「それって…空を自由自在に飛べるってことなの…?」
「…うん。ソルスアカウントの固有アカウント能力らしいわ。聞いた話だと、制限時間とかもないって…」
「それは間違いない…お主の地形操作能力のように、ソルスには広範囲残滅攻撃の他に、無制限飛行能力が備わっておる。天命や神聖力、人界・ダークテリトリー関係なく、ソルスはイメージするだけで思うがままに飛ぶことができるのじゃ」
太陽神ソルスに備わっているもう一つの能力…『無制限飛行』について、シノンの言葉に、更に補足したカーディナルの説明を聞き、アスナはシノンにあることを頼むことにした。
「そういうことなら…シノン。こっちの防衛は私とカーディナルさんでなんとかする…だから、貴女には別の人たちを助けに行ってほしいの!」
「別の…?それって、ユウキたちのこと…?」
「ううん…ユージオとアリス…皇帝に攫われたアリスと、それを追跡しているユージオたちを追い掛けてほしいの!」
「…アリスって…ユイちゃんが言ってた………分かった。そっちは私に任せて」
アスナの意図をすぐに理解し、事情を呑み込んだシノン…今はアリス救出のために少しでも人員を割きたいと思っていたのはカーディナルも同じであり、その考えに賛同した。
そして、ユージオたちが飛び去って行った方向を聞き、太陽神ソルスの能力『無制限飛行』を発動させたシノンは、すぐさまアリス救出へと飛び立った。
一方…時を同じくして、シノンと同じくラース六本木分室から最新のSTL8号機を使い、スーパーアカウントの一つでダイブをした直葉…リーファはというと…
「っ…!?見るなぁ!おでを…おでを見るなぁ!?」
「…えっ…」
東の大門の跡地…ダークテリトリー側の谷口にて、奇妙な出会いをしていた。どうして、アスナたちと違い、キリトたちと離れた場所に降臨したのか…そして、このような状況になったのか…時は少しばかり遡る。
「ううぅぅ…!うううううぅぅぅ?!」
東の大門跡地…ユージオとアリスによって、壊滅させられた暗黒術士団がいた地にて、一人地面を掘る者がいた。
何かを探しているその姿は、消えてしまった何かの片鱗を求め、そして、それを失ってしまったことに対する悲しみの感情が声となって漏れてしまっていた。
「…っ………レン……!?」
赤き土砂を何度も描き分け、ようやく見つけたそれに、男は思わず名を…いつも呼んでいた愛称の名を呟いてしまった。
金髪の髪と瞳…それだけ聞けば、とても整った容姿をしている者かと誰もが思うだろう。だが、その鼻と耳は人の形ではなく、種族としての特徴をこれでもかと明確に表わしていた。
この男…暗黒界十侯の一人…オーク族の長、リルピリンという亜人族の一人だった。自身はオーク族の中でもかなり容姿が良いと自身があったが、人基準で判断するダークテリトリーでは受け入れられず、彼は人界・ダークテリトリー問わず、人族に強い憎悪を抱いていた。
それが理由で、この戦争において積年の恨みを晴らす機会を得たのだと、彼やオーク族は闘志を燃やしていた…しかし、蓋を開けてみれば、それは絶望へと変わった。
『暗黒術士部隊の攻撃術の礎となるために、三千の人柱を拠出せよ』
第一陣の攻撃が不発に終わり、ミニオン部隊までもが壊滅させられたことで、不利に陥ったダークテリトリー軍…その打開策として放たれた大量の死詛虫…エルドリエの命を奪ったその呪術を放つために、犠牲となったのはリルピリンが率いるオーク族だった。
いきなりの指示に、いくら皇帝の命令だからと受け入れることができなかったリルピリン…皇帝の勅命だと強要してこようとする暗黒術師長ディーに、自分たちは闘うために来たのであって、生贄になり来たのではないと食い下がるリルピリンだったが…
『私と我が部隊三千名…喜んで命を捧げます…皇帝のため、そして、一族のために…』
『…!レン…それは…!』
『いいのです…リル…私は信じています。人族だけでなく、死んだ多くの魂全てが神界に召されるのだと…私は先にそちらに行きますが…いつか、必ずそちらでまた会いましょう?』
『…くっ………すまない、レン……すまない…!』
側近であったレンジュがリルピリンをそう諫め、その言葉を聞いたリルピリンは謝罪することしかできず、涙と共に崩れ落ちた。そして、レンジュとオーク族三千名の命を引き換えに、死詛虫が放たれたのだった。
「…おでたちは…おでたちは一体何のためにここに来たんだ…!?レン…この戦争に参加しなかったら、君も同胞たちも死なずに済んだのに……!」
『あっ……ああああぁぁ…!?人族共め…人族共がァァ!?』
掘り当てたそれ…人柱となったレンジュが額に身に着けていた装飾品の一部を強く握り占める…その脳裏に人柱となり、空間暗黒力へと変えられていくレンジュとオークたちの姿が蘇る…それと共に心の内に人族への更なる負の感情…怒り、恨み、殺意…それらがドロドロと溶け合い、リルピリンの胸へと込み上げていた。
「おでたちはこんなことをしにここに闘いに来たわけじゃない…なのに、あんな人族の言いなりになって、どうしてレンたちが死なねばならなかったのだ……何のために…!ぐぅぅぅ……うわあああぁぁぁぁ「きゃああああああああああああぁぁぁぁぁ!?」…うおぉ!?」
理不尽すぎる出来事が重なる現実に耐え切れず、感情のままに叫ぶリルピリン…が、その叫びを掻き消すかのように、悲鳴と共に彼の背後に何かが不時着した。いきなりのことに、受け身を取ることもできず、前方に放り出されるリルピリン…何事かと背後へと視線を向けると、
「…い、ったぁ…!もう?!だから、新品の機械なんて嫌なのよ…!いきなり地面に落っこちるなんて、ダイブする前に言っておいてよ!?」
背中から地面に落ちたその人物…ここに送ってきた連中への文句を漏らしながら、スーパーアカウント03『地母神テラリア』…リーファの姿がそこにあった。
シノンと同じタイミングでダイブしたはずのリーファが、どうして一人離れた地に降り立ったのか…それは、彼女に言う様にダイブのために使用したSTL8号機に原因があった。
STL8号機は、ラース六本木分室にて組み上げられたばかりであり、一度もアンダーワールドにダイブしたことがなかった。そのため、リーファが急遽ダイブに使用したことと、分室からの遠隔アプローチによる誤差が発生し、リーファ一人離れた地へ落っこちる羽目になったのだ。
ある意味で、彼女の言う様に『新品だからこそ起こったトラブル』に見舞われ、そんな悪態が出てしまうのも無理はない話だった…思いっ切り地面にぶつけた後頭部をさすりながら、ようやくリーファはすぐそばにもう一人の人物…リルピリンに気が付いた。
「…?えっと……あなたは…」
「っ…!?見るなぁ!おでを…おでを見るなぁ!?」
「…えっ…」
話し掛けようとしたリーファを拒絶するかのように、自身の顔を腕で隠しながら、空いている左手で剣を抜いたリルピリン…彼のまさかの行動に一瞬驚くリーファだったが、
「よっと…その、こんにちは…それとも、おはようって言った方がいいのかな?」
「…な、何を言っている…?」
「あれ……もしかして、こんばんはだったかな…」
「そういうことを言ってるんじゃない!?お前は…お前は…!」
「…?」
リーファなりに歩み寄ろうとして、あいさつのつもりだったのだが、人族に憎悪を抱くリルピリンはその意図が理解できず、困惑し、更に警戒を強めてしまった。
「…なぜだ…なぜおでを見て逃げない…?なぜ悲鳴を上げない…?お前は人族なんだろう!人族のくせに…なんで…!」
「なぜって…だって、あなた人間でしょ?」
「なぁ…!お、おでが…人間だと…!何を馬鹿なことを言っているんだ!この顔を見れば、分かるだろうがぁ!?おではオークだ!お前らイウムが人豚だと罵るオークだ!?」
「…でも、人間だよね?だって、こうして私たち、話ができてるじゃない…それ以外に何が必要なの?」
「何って…それは……」
リルピリンがいくら拒絶しようとも、リーファは全く動じない…それどころか、こうして会話できている以上、彼女は自分とリルピリンが同じだとあっさりと告げたのだ。今までにない、リーファの完成に流石のリルピリンも反論を止めてしまった。
「そんなことよりも…ここはどこなの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「えっと…あなたのお名前は?」
「……おでは…リルピリン」
「リルピリン…いい名前ね!私はリーファ…はじめまして、よろしく」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「……(あれ…?こっちの世界じゃ、握手とかの文化がないのかな…?)」
できるだけリルピリンに歩み寄ろうとするリーファだが、握手を求められたリルピリンはますます困惑してしまい、彼女の顔と差し出された手を交互に見返してしまっていた。一方のリーファも変なことをしてしまったのかもと思い、握手を諦めた。
「お前…人界軍の騎士だな?なら、お前を捕虜にする!皇帝のところに連れて行く!」
「…皇帝って言うのは、暗黒神ベクタのことよね?」
「…そ、そうだ」
「(…ここがどこだか分からない以上、無闇に動くよりも、敵の陣中に向かう方が得策かも…ユイちゃんの話だと、暗黒神ベクタはラースを襲ってる部隊の人がダイブするために使っているアバターらしいし……よし…!)…分かった。なら、捕虜としてでいいから、私を連れて行って」
「なぁ……分かった」
敵の懐に飛び込むチャンスかもしれないと考えたリーファは、抵抗することなく自身の両腕をリルピリンへと差し出した。まさか、素直に応じるとは思っていなかったリルピリンは何度目になるか分からない衝撃を受けていた。
(さっきから何なんだ、こいつは…一体どういう思考をしているんだ?話ができれば、人間?言葉なら、ゴブリンだって、オーガだって、ジャイアントだって使うが…見た目が違うだけで、人族はおでたちを醜く罵る!…なのに、この娘は…)
『だって、あなた人間でしょ?』
『こうして私たち、話ができてるじゃない…それ以外に何が必要なの?』
(…この娘は…他の人族と違うのか…どうしてそんなことを言えるんだ…?)
剣を納め、リーファを両手を縄で縛りながら、リルピリンは考えていた…これまでとは明らかに異なりすぎるリーファの接し方に、困惑しながらも少しだけ心を開いていた自分がいたのだ。
「…よし…さぁ、ついてこ……なんだ、この霧は…?」
拘束が完了し、リーファを連行しようと先を行こうとしたリルピリン…だが、彼らの周囲を突如黒い霧が包囲したのだ。いきなりのことに、驚くリルピリン…その時だった。
「…きゃぁ?!」
「っ…何!?」
悲鳴と共に、後ろに連れていたリーファの縄が引っ張られるのを感じ、慌てて引き直すリルピリン…しかし、振り返った先の光景に思わず言葉が零れてしまった。
「っ…な、に…これ…!」
リーファの頭部を黒い霧…いや、蠢く影のような何かが鷲掴みにし、その身体を宙へと持ち上げていたのだ。何が起こっているのか分からず、リーファが苦痛の声を上げる。そして、蠢く影から何かが飛び出し…
「…フフフッ…!アハッハッハッハッハッ!?!?」
「お、お前は…ディー・アイ・エル…!?生きていたのか?!」
影から出てきた人物…その人物をリルピリンはよく知っていた…同じ暗黒十侯の一人、自分たちオーク族を人柱に捧げよと命令してきた怨敵…暗黒術師長ディー・アイ・エルの姿がそこにはあった。
そう…心意の破界鎧を纏ったユージオの一撃を受け、アリスとの合同攻撃から辛くも暗黒空間術で逃げ遂せることができたディー…しかし、負った傷は決して軽くはなかった。飛竜の息吹と金木犀の剣のダメージは彼女の体の節々に刻まれ、ユージオに斬り落とされた左腕は、心意による一撃のせいで治癒術がほぼ効かないため、止血することも敵わず、血が流れ落ちていた。
「匂う…匂うわ!…なんて甘い、天命の香り!!」
そんな虫の息に等しい体をなんとか暗黒術で隠し、どうするべきかと手段を探っていたディーだったが、そこにリーファを拘束したリルピリンの姿を見つけ、突如リーファへと襲い掛かったのだ。
「素晴らしい…!本当に素晴らしい獲物を捕まえたわね!良い働きよ……豚」
「…っ!」
リーファを掴んだ暗黒術の影から、彼女の天命を吸収していくディー…その天命の純度に歓喜し、ディーの言葉通り、彼女が負っていた体の傷のほとんどがどんどんと癒えていく。
「…ちぃ…こんなに純度の高い天命を吸っても、あの小僧から受けた左腕は再生できないとは…まぁ、いいわ……豚。ご褒美として、あんたに楽しいものを見せてあげるわ!!」
「な、何を…?!」
「こうするのよぉ!!」
「くっ、きゃぁぁあ!?」
しかし、失った左腕は元通りにならず、ディーは舌打ちする。だが、そんなことよりも、今は目の前の獲物をどういたぶるかと思考を切り替え、リルピリンに言葉を掛けたかと思えば、次の瞬間にはリーファの胸装を一枚はぎとったのだ。
「どう?人族の女の裸を見るのは初めてでしょう?それとも、豚には目の毒だったかしらね?」
「っ…そんなことは……ない…!」
「あっ、そう…でもね、本当に面白くなるのはここからよ!こういう風にね!」
「っ…?!があぁ…あああぁ!?うううああああぁぁぁぁ!??!」
リルピリンの反応がイマイチだったのは少し興冷めしつつ、ディーは右手の指全てを触手のようなものに変換し、リーファの体の至る所へと噛みつかせた。首、左腹、足、胸元…そこらから血しぶきが飛ぶと共に、リーファの悲鳴が更に大きくなる。
「システム・コール!トランスファ・ヒューマンユニット・デュアリビティ・ライト・トゥ・セルフゥ!!」
「ああっ!?ぐぅぅぅ…ああああああぁぁ!?」
「かはぁ!?凄いわ…凄いわァァ!?なんて、濃くて甘い味なのかしら!!」
「な、何をしている?!その娘はおでの捕虜だ!おでが皇帝の元へと連れて行く!」
暗黒術で、リーファの残っている天命を全て吸い上げようとするディー…その純度に思わず狂喜せずにはいられず、表情も破顔していた。しかし、、リーファが苦しむ様をこれ以上見ていることができず、遂にリルピリンが抗議の声を上げた。しかし、
「っ…!?黙れ、豚めがぁ!せっかく人が楽しんでいるところに水を差し追って…!それに、忘れたのか…私が皇帝陛下から作戦の全権を一任されていることを…私の意思は皇帝の意思!私の命令は皇帝の命令よ!」
「っ…!?…!!……!?」
ディーに指揮権のことを持ち出されてしまい、リルピリンはそれ以上何も言えなくなってしまう。今のリルピリンでは、ベクタの意思を任されているというディーに逆らうことはできないからだ。
そんなディーはリーファから吸い上げた天命により、髪が白くなる程に自身の力が徐々に高まりつつあることを感じていた。一方のリーファは全身を襲う激痛と虚脱感になんとか抵抗しようと意識だけは保とうとしていた。
しかし、そんな彼女に対し、ここである能力が発動してしまう。
「うん…?これは……アハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!なんという僥倖!湧いてきた…また新たな天命が更に溢れてきたぁ!!」
ディーに吸い上げられ、天命が全損しようとした瞬間…テラリアの固有能力『天命の無制限回復』が発動してしまったのだ。吸い上げ切ったと思っていた、純度の高い天命が蘇ったことに、ディーは驚きながらも歓喜する。
しかし、リーファにとってはまたしても地獄が襲ってくることに変わりはなく、再び彼女の体が苦痛に蝕われる。不死身と聞けば一見チートのように聞こえるが、苦痛が緩和されることはないこの能力は、下手をすれば死にたくても死ねない呪いにもなりかねない性質を持っていた…そして、それが最悪なタイミングでリーファに牙を向けてしまったのだ。
「もっとよぉ!もっと、私にそれを味わせなさい!!」
「がああぁぁ!?ぐううううううううううううううう!?」
「アハハハハハ!アハッハッハッハッハッハッハッ!!!私のよ!これは私のものよぉ!誰にも渡してなるものですかぁぁぁ!!」
右手の触手たちだけに飽き足らず、影からも無数の触手たちを出現させ、リーファの体を襲うディー…歓喜を体で表すかのように、冷静な姿などかなぐり捨て踏鞴を踏む彼女だが、更なる苦痛が重なるも、リーファの心はなんとか贖おうとしていた。
(ぐぅぅ…た、えなきゃ…!事情を知らずに、この世界の人を…殺すわけには…!)
最低限の情報しか持たず、敵味方の区別がつけられないリーファ…ただでさえ、優しい彼女が一方的に命を奪うことなどできず、自身が危険な目に遭っているというのに、なんとか耐え忍ぼうとしていた。
「…やめろ……!」
「がぁ…あああぁぁ?!はぁ…ああああああああぁ!」
「…っ!?やめろぉぉぉ!!」
「うん…?」
リーファがずっと苦しみ続ける姿を、眼前で見せつけられ…反論できずにいたリルピリンが、遂に限界を超え、叫んだ…彼がいきなり叫んだことで、愉快な気持ちになっていたディーは、ようやく我に返った。
「…今の言葉は何?この私に命令してるの?…豚であるお前如きがぁ!?」
「っ!?」
「言った筈よ、豚ぁ!この捕虜はもう私のよ!どれだけ天命を吸おうと、この場で縊り殺そうと、お前は関係ないでしょう?フッフッフッフッ…う~ん、でも、そうね…見つけたのはお前なんだし、少しくらいは譲歩すべきかしらね……なら、今すぐそこで裸になってみせなさい!」
「…!…何を、言っている…?」
一瞬苛立ちを見せつつも、何かを思い付いたディーは歪な笑みを浮かべ、まさかの命令をリルピリンへとしてきた。意味や意図が分からないのが半分、言っていることが正気かと疑う半分…リルピリンは驚くことしかできなかった。
「私ね…始めて見た時から、お前がその大仰な鎧とマントを着ていると吐き気がするのよねぇ…豚のくせに!まるで人みたいじゃない…そこで素っ裸になって、そこで四つん這いになってフガフガ鳴いてみせたら、この娘を返してあげるかもよ?」
(…こんな奴に…!…こんな、おでたちを人どころか、家畜としてしか見てない奴に…!)
『私と我が部隊三千名…喜んで命を捧げます…皇帝のため、そして、一族のために…』
『いいのです…リル…私は信じています。人族だけでなく、死んだ多くの魂全てが神界に召されるのだと…私は先にそちらに行きますが…いつか、必ずそちらでまた会いましょう?』
(こんな奴のために、レンと同胞たちは!?その命を捨てられたのか…こんな奴なんかのために!?)
『…でも、人間だよね?だって、こうして私たち、話ができてるじゃない…それ以外に何が必要なの?』
(この娘は…何も知らない癖に、おでを人だって言ってくれたのに…!おでと自分は何も変わらないと言ってくれたのに…!なのに…!?)
散っていた側近と同胞の姿が後悔を深め、眼前で狂い嗤う悪魔への憎しみが増していき、自分を受け入れようとしてくれた苦しむ彼女の姿に……リルピリンは自身への怒りを感じられずにいられなかった。
それに伴い、右目が激しく膨張し続け、絶えず痛みが走る…だが、ディーの言葉に逆らうことができず、纏っていたマントを脱ぎ捨て、ズボンへと手を掛けようとした時、
「駄目!?そんな奴の言葉に…従っちゃ…駄目!」
「っ…!?」
「私は…大丈夫だから…!そんなことは…止めて…!」
「ほ~ら!どうしたのよ、豚ぁ!手が止まってるわよ!さっさと脱ぎなさいよ!!それとも、人族の裸に興奮しちゃったのかしらぁ!?」
(おでは…おでは…!?)
今の状態にあっても自分のことを心配してくれる彼女と、更なら侮辱の言葉を飛ばしてくる悪魔……どちらのために動くべきか、それが最後の引き金となり、リルピリンの魂を震わせた。
ズボンへと掛けていた手は、抵抗することなく納めていた剣を握っていた。
「おでは……人間だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
右目の封印…コード871で右目が吹き飛びながら、リルピリンは心のままに叫び、剣を抜いた!自分の命令に背く訳がないと高を括っていたディーは不意を突かれ、回避が遅れる…リルピリンの剣がディーの左足を掠め切った。
「ぐぅぅ…!」
「…はぁ…?………このぉ…臭い豚がぁァァァァァァァ!?」
右目が爆ぜたこともあり、斬った反動で地面に倒れ込んでしまったリルピリン…対し、見下していたリルピリンに傷を負わされたことで、一瞬呆けていたディーは、その怒りを一気に爆発させた。
拘束していたリーファを後方へと放り捨て、倒れているリルピリンへと襲い掛かる!
「よくもぉ…この私に傷をぉぉ!?この下等生物がぁぁ!ふん!ふぅん!!」
「がぁ…ぐぅぅ?!」
何度も何度もリルピリンの頭をかかとで蹴り潰し、怒りを込めるかのようにその頭へと足をねじ込ませる。
「私の命令に従っていれば、いい思いができたものぉぉ!?あの小僧といい、豚といい、どこまで私の邪魔をすれば気が済むのだぁぁ!!」
術師としての冷静さなど全く見受けられず、ただ怒り任せにリルピリンへと暴行を加えるディー…その怒りに応えるかのように、右腕は長き暗黒爪に、失われていた左腕は負の心意により、肥大した細胞の塊のような巨腕へと変貌を遂げた。
「切り刻んで!?粉々にして!?藁と混ぜて!?猪の餌に…してくれるぅぅぅぅ…があぁぁ!?」
それぞれの凶手を振り降ろそうと、雄たけびを上げるディー…しかし、その咆哮が悲鳴と変わった。何が起こったのかと、リルピリンが見上げた先には…
「なぁ…ああぁ…これ、はぁ…?!」
ディーの両腕が斬り飛ばされている光景だった。
ディーも突然のことに何が起こったのかと驚くも、この場にいるのは3人だけであり、踏みつけているリルピリンにそんなことができる筈もなく、
「そこまでよ…」
風を纏い、テラリア専用装備である片手剣『ヴァーデゥラス・アニマ』を抜いたリーファの言葉が静かに響いた。射程距離の少し外に関わらず、リーファは無意識で心意を発動させ、風を纏わせたソードスキルでの斬撃によりディーの両腕を斬り飛ばしたのだ。
「お、お前…人族のくせに…!豚を助けるために、人を切るのかァァ!?」
「…違うわ…人を助けるために、悪を切るのよ!!!」
信じられないといった表情を浮かべ、言葉を漏らすディーだが、リーファはその言葉を否定し、自身が信じるもののために、再度剣を振るった。先程よりも強力な心意を纏った一撃を、ディーが防ぐことができる筈もなく…
斬撃を放ったリーファの姿が、自身の計画を大きく狂わせた心意を纏ったユージオとダブって見えたディーは、悲鳴を上げることもできず、斬撃によって消滅させられた。
「はぁ…!はぁ…!ぐぅぅ……!?」
「リ、リーファ…!?」
ディーが完全に消滅したことを確認し、リーファはその場に崩れ落ちてしまう。その姿に慌てて、駆け寄るリルピリン。
「だ、大丈夫か…おでのせいで…!」
「あなたのせいじゃないよ…私が迷ってたせいでもあるんだから…あなたに辛いことをさせちゃった」
「……そんなことはない…おでは…お前のおかげで目が覚めた気がする」
「…えっ…?」
リーファの言葉に否定しながら、リルピリンは言葉を続ける。
「おでは…人族はみなおでたちオークを見下していると思っていた…だから、この戦争で人族を殺すことが正しいことなんだと思っていた…それが同胞たちを失うことになったとしてもだ…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だが、お前は違った…お前のことは信じていいと…おでは思った」
「…リルピリン……ありがとう」
ようやく歩み寄ることができた…自分を受けれてくれたリルピリンに笑顔と共に、お礼を言うリーファだったが、
「あと、お前、お前って呼ばないで…さっきみたいにリーファって呼んでくれたのでいいから」
「…分かった、リーファ」
「それで…これからどうする?このまま暗黒神ベクタのところに連れて行くの?」
「……いや、皇帝の言葉を信じていいかどうか分からくなった…だから、おでは…おでたちオーク族はリーファについていこうと思う!」
「…本当!?でも…」
「おでたちを人とみない奴等よりも、人として接してくれるリーファをおでは信じた…同胞たちも分かってくれる」
「……分かった。それじゃ、リルピリン…話が戻るんだけど、ここってどこなの?」
自分と共に行動してくれる…そんな頼もしい言葉を聞き、胸が熱くなるリーファ…早速行動開始といきたかったが、結局今いる場所やら状況が分からず、話を一から戻すことになった。
こうして、拳闘士部隊だけでなく、オーク軍までもが離反しすることになったのだが…アンダーワールドの戦況は更なる混迷を迎えようとしていたのだった。
シノンの出番はオリ敵に奪われたのに対し、がっつり出番があったリーファ回でした。リーファ一人だけ離れたのって、STLのせいだったと思うのですが…間違ってたら、ゴメンなさい…!
そして、さり気なくディー弱体化の要素となっていたユージオ…終盤の左腕が肥大化するオリ要素は、DB超の合体ザ○スをイメージしたものです…ディーさん、パワーアップかと思いきや、容赦なくリーファに斬らせたわけですが…(笑)
これまでユージオ視点…人界軍からの視点がほとんどだったため、そういう意味では、今回のお話は第ⅩⅩⅢ話の裏話という側面もあったと言えるかもしれません。
そんなわけで、次回はアスナたちのお話…コンバート組合流からあの男の乱入まで…を書けたらいいなと思ってます。その次が、ようやくベクタ戦ですね。
それでは、また!
武器解説に関して、新調と古いものだとどちらがいいですか?
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物語の語り部を新調版
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今までと同じ旧式版