ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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お待たせしました!!

遂に…遂に、向かえましたベクタ戦!
ノンストップ一話、(またしても更新)過去最長のバトル回となっております。

ユージオ、ベルクーリ、イーディスの三騎士が、狂気の悪魔へと挑みます!
その結末は如何に…!

それでは、どうぞ!



第ⅩⅩⅩⅥ話 「青薔薇は、誰にも砕けない」

「くっ…!凍華、もっと速く飛んでくれ…!?」

『グルルゥ…!』

 

体に当たり続ける強風を無視し、先を行くベクタを見据え、叫ぶ。奴を追いかけ続け、数十分…凍華に無理を言ってるのは承知だが、それでもベクタを乗せ、アリスを爪で捉えている暗黒飛竜に追い縋ることができないのだ。

 

凍華自身、優れた飛竜である筈なのに、追いつけないのは…奴の飛竜の速度が全く落ちないことにあった。

 

(…凍華でさえ、疲れが見えてきて、速度が徐々に落ちてきてるのに…!ベクタには、天命を操る能力か何かがあるのか…!?)

 

このままでは追いつくどころか、凍華の体力が尽きてしまい、追跡することさえできなくなってしまう。だからといって、下手に神聖術や凍華の息吹で攻撃すれば、アリスに当たりかねない。

 

焦れる気持ちだけが強くなり、血が溢れ出しそうな程に拳が更に力が籠る。こうなったら、青薔薇の剣をぶん投げてでも、ベクタを止めなくとは考えていた時…

 

「ユージオォ!!」

「っ…!」

 

一か八かの策を実行しようと、剣の柄に手を掛けようとした時…背後から怒号が…よく知る声で聞こえてきた。思わず、振り返ると、

 

「この馬鹿野郎が!一人で飛び出していきやがって!!」

「本当よね…まぁ、アリスのために飛び出した気持ちは分からないでもないけどね…」

「ベルクーリさん…!イーディスさんも!」

 

その声に怒りは籠っているが、笑みを浮かべるベルクーリさんと、それに同感とばかりに苦笑いを浮かべるイーディスさんの姿があった。

 

僕に追い付くために、かなり無茶をさせたのだろう…ベルクーリさんたちが乗る飛竜はかなり疲弊し切っていた。

 

「すみません!気付いた時には体が…!」

「言い訳はいい!まずは嬢ちゃんを取り戻す方が先決だ…しかし、お前さんの飛竜でさえも追いつけないでいるとは……止むを得ないか…」

 

そのことはもういいとばかりにベルクーリさんは言葉を遮り、先を行くベクタの飛竜を見て、顔を顰めていた。そして、時穿剣を抜いたかと思えば、

 

「ベルクーリさん…?!空斬を使ったら、アリスにまで…!」

「安心しろ、これから放つのは空斬じゃねぇ……俺が封印してきたもう一つの技だ。こっちの飛竜の速度が下がってて、丁度いいぐらいの塩梅だったからな」

「…?」

 

ベルクーリさんの言っていることが分からず、思わず首を傾げてしまう。イーディスさんはどんな技か知っているらしく、驚かずにベルクーリさんのことを見守っていた。

 

「…よし…奴の飛竜が岩谷の群山に差し掛かった…これなら…!」

 

ベルクーリさんの言葉通り、ベクタの飛竜がいくつもの岩柱が並び立つところへと至ったところが見えた。そして、ベルクーリさんが時穿剣を掲げた…剣に武装完全支配術の術図が浮かび上がり、

 

「名も知らぬ飛竜よ、許せ……時穿剣!裏斬!!」

 

技名と共に、その刃が降り降ろされた!空斬と同じ動きで振るわれた時穿剣だったが…

 

『ウウウガアアアアギャアアアァァ!?』

「なぁ…飛竜が…?!」

 

前方から悲鳴が聞こえ、視線を戻すと…ベクタの乗る飛竜の左翼が根元から斬り落とされていた。流石のベクタも反応しきれなかったようで、墜落していく飛竜をなんとか岩柱の方へと向かせることが精一杯だったようだ。

 

しかし、僕は僕で、ベルクーリさんが放った技の全容が分からず、困惑していた。空斬では、遠方を狙った場合、細かい調整ができないと聞いた。しかし、今の技は剣筋通りに、飛竜の左翼を斬り落とした。

 

「今のが裏斬だ」

「裏…斬…?」

「そうだ…空斬が未来を斬る剣に対し、裏斬は過去を斬る剣…これが時穿剣の記憶開放術だ。いくら天命を操れる皇帝だろうが、流石に時間までは巻き戻せんだろう」

「過去を…斬る……(そんな…過去を斬る剣だなんて…僕と闘った時には、本当に本気じゃなかったなんて……これが、人界最強の剣士…!)」

「驚いている暇はないぞ、ユージオ!このまま、一気にベクタを仕留める!イーディス、ユージオ、俺に合わせろ!」

「…!は、はい!」「了解よ!」

 

過去を斬る…そんな剣に勝てる人など、一体誰がいるというのだろうか…ベルクーリさんの奥の手にそんなことを考えていると、攻め時だと言わんばかりに告げられたベルクーリさんが、飛竜から飛び降りた。

 

(おそらくだけど、)風素系の神聖術を足元に発動させ、空を駆け降りて、岩柱へと向かって行くベルクーリさん。それに続き、イーディスさんも闇斬剣を抜いて、駆け降りていく。

 

僕も…!といきたいところだけど、流石にあんな高度な神聖術は使うことはできないので、凍華に近くにまで運んでもらうことに…その間に、一気にベクタへと距離を詰めていたベルクーリさんとイーディスさんが奴へと斬り掛かった!

 

「おらぁ!」「はああぁぁ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

飛竜から離れ、その場に呆然と立ち尽くしていたベクタは、一瞬にして横へと移動して、ベルクーリさんの一撃を躱し、イーディスさんの突きを、首を僅かに動かしただけで避けてみせた。

 

「っ…!(この反応速度…!流石は皇帝ベクタの体を使っていることはある…!ならば…!?)」

「(騎士長…そういうことね。任せておいて…!)…システムコール!サーマル・エレメント・バースト!!」

「…!」

 

後方へと飛びのくのと同時に、左手で炎の神聖術を放つイーディスさん。それを右手で受け止めたベクタの視界が炎で遮られ、

 

「これなら、どうだぁ!」

「…ふっ」

 

再び時穿剣を、今度は秘奥義を加えた一撃を振るうベルクーリさんだが、視界を防がれようと、関係ないとばかりにベクタはそれすらも余裕で躱した。

 

「あれすらも躱すのかよ…!だが!」

「だったら…躱せない様にするだけでしょう!?」

 

硬直で動けないベルクーリさんに代わり、イーディスさんが連撃を繰り出す。それを軽い足取りで避けていくベクタだが、

 

「そう避けるわよね…だけど…!」

「取ったぞ!時穿剣、空斬!」

(決まった…!)

 

この短時間でベクタの動きをおおよそ把握したのだろう…躱されると分かっていながら放ったイーディスさんの攻撃を見切ったベクタに、ベルクーリさんが先程放っていた残撃…空斬を発動させた。

 

秘奥義を加えた一撃は地面を抉り、土誇りを巻き上げていた…そこから、時間差で実体化した残撃がベクタを背後から襲った!

 

完全に虚を突かれたベクタ…その一撃が、振り返った奴を斬り裂こうと…!

 

「なぁ…!?」「っ…!?」「うそ…でしょ…」

 

僕たちはその光景に絶句するしかなかった…ようやく岩柱に辿り着き、凍華から飛び降りた僕は見ているものが信じられずにいた。なぜなら…

 

ベクタは、空斬の残撃を受け止めていたからだ。秘奥義すらも加えたあの一撃を、素手で受け止めたという事実に、僕やイーディスさんだけでなく、技を放ったベルクーリさんも驚いていた。

 

「まさか…貴様は、人の心意を喰うのか!?」

「…それって…!」

 

秘奥義だけでなく、先程の空斬には心意も込められていたということで…それを無効化したのだと判断したベルクーリさんの言葉に、僕はベクタへと視線を向けた。

 

残撃の余波で、奴の額に着いていた装飾は吹き飛んでいたが、ベルクーリさんの言葉を受け止めた奴はこちらへと振り返っていた…その眼は先程までとは異なり、青き瞳を黒き目が囲むように変貌していた。

 

「心意…?…なるほど…「Mind」と「Will」のことか。何匹か小物が追ってきているとは思ったが…まぁ、いい。少しは楽しめそうな相手だ。リッパーやヴァサゴにばかり任せっきりで、退屈していたところだ…相手をしてやろう」

「っ…ふざけるなぁ!?」

「「ユージオ…!?」」

 

笑みを浮かべ、剣を抜いたベクタ…その言動に、抑えていた怒りが再び湧き上がり、制止の声など聞かず、僕は奴に斬り掛かった。

 

「ほう…少年にしてはかなり重い剣を振るう」

「お前たちが…お前たちみたいな奴らが、この世界に来なければ…!」

「…何をそんなに怒っているのやら」

「お前がアリスを手に入れようとしたから…そんなことのために、こんな戦争を仕掛けたりしたから…!」

「そういうことか…それを責めるのはお門違いだな。この戦争は、もともとお前たちを作った組織が仕組んでいた物だ。私はそれを利用しただけだ」

「だったら、お前の目的の為に死んだ人たちにすら、自分は責任がないっていうのか!?」

「…愚問だな。戦争で人が死ぬことなど当然の理だ…そして、ここで誰が死のうが、生きようが…私にとってはどうでもいいことだ」

 

連撃を軽い表情で受け止められながらも、僕は奴にそう言葉を飛ばしていた。こいつが、ここまで戦争を激化させなければ、止められた悲劇だって、いくらでもあった筈だ。だが、奴は僕の言葉など全く気にしておらず、それどころか…

 

「私はアリスさえ手に入れれば、それでいい…本当に楽しみだ…あの魂を、私のこの手で再び壊せるのだと考えた時には……!」

「っ…!?アリスは…アリスはお前のものなんかじゃない!?」

「フフフフッ…ハハハハハハハハハ!!貴様のものでもないだろうに、やけに必死では……何…?」

 

何合か撃ち合った末に鍔競り合いに入り、奴は言葉と共にその言葉を放った。その視線は僕ではなく、アリスを見ていた。だからこそだった。

 

こいつにアリスは渡せない…渡しちゃいけない…!怒りで支配されそうになる頭をなんとか抑え、心意の破界鎧の力を爆発させる。青薔薇の剣から尋常でない凍気が漏れ出し、剣を持つ奴の右手を凍らせていく。

 

「…ほう…ならば…ぬうううぅぅ!!」

「なぁ…そんなば…っ!?」

 

腕が凍らされていくことに一瞬驚いたベクタだったが、その表情が凶笑へと変わった。どうして、そんな余裕の表情をしていられるのかと思っていたが、その答えは僕の眼前に突き付けられていた。

 

心意の力で発動させていた青薔薇の剣の凍気が瞬く間に消えてしまったのだ…いや、今の感覚はまるで奴に吸われたかのような…そう思った時には既に遅かった。

 

意識を失うような感覚に襲われ、口が止まってしまった。

 

(…僕は…何をしようと…して…?)

『…やってみるものだな…これがスーパーアカウントの能力という奴か。意外に使えるものだな。それでは…』

 

思考がほとんど停止し、目の前にいる誰かが呟いている言葉が微かに聞こえていた。そして、その男が何かを振りかぶり、

 

「ユージオ!?」「させるかぁ!?」

「っ!?」「…邪魔をして」

 

女性の声がした時には、僕の体は誰かに引っ張られていた…その衝撃で我に返った僕は、それがイーディスさんによるもので、僕に剣を振り降ろそうとしていたベクタの一撃を、ベルクーリさんが防いでいることを認識できた。

 

「ユージオ、無事か!?」

「は、はい…なんとか…!今のは一体…!」

「本当に信じらねぇぜ…これが暗黒神ベクタの力ってわけか。奴さんは、お前さんの剣を通して心意を吸い取ったんだ。そして、お前さんの意識を奪った」

「そんなの反則でしょう…!こっちは安易に剣をぶつけ合えないなんて…人の十八番を取るようなことまでしてくれちゃって…!?」

 

さっきの感覚が、心意を吸われるということだったのだろう。一旦距離を取ったベルクーリさんの言葉に、ベクタのまさかの能力に、流石のイーディスさんも笑う余裕など無くなっていたようだ。

 

心意の技を吸収するだけでなく、こっちの意識までを奪ってくる…イーディスさんの言う通り、長時間剣を交えることすらままならないというのは、確かに反則だ。それも、今初めて使ってみせたという余裕のベクタの姿に、底の知れない恐怖を覚えた。

 

「初めて使ってみたが、今の感じであれば…ふむ……そういえば、こういう使い方は試してみたことはなかったな」

 

しかし、そんな僕たちのことなど眼中にないといった様子で、その言葉と共にベクタは僕たちの方へと剣を向けてきた。

 

「っ…まさか!?遠間からでも、心意を…!ユージオ、イーディス、よけ……っ?!」

「騎士長……っ!?」

 

その可能性を直感したベルクーリさんが警告しようとして、その意識が止められた。イーディスさんも躱すことが敵わず、言葉が止まり…

 

「ま、た………っ!?」

 

先程と同じ感覚に襲われ…僕の意識も再び白霧の中へと……

 

 

 

 

「…ここ、は…」

 

気が付いた時には、眼前には大きな木があった。それがギガスシダーだと気が付き、僕はここにいる理由を思い出した。

 

(そうだ……天職をこなしに、ここに来てたんだ。早く始めないと、目標の千回をこなすのに、また夕方まで掛かっちゃうし…)

 

のんびりしている時間はない…その手に握られていた斧の感触を確かめるように、僕はギガスシダーに切れ込みを入れている場所へと向かった。

 

(…この木を一人で伐り倒す…なんて、できないよな。でも、これが僕のやるべき……やるべきこと…だよな…?)

 

今日も一向に伐り倒すことなど敵わないギガスシダーに斧を撃ち込もうとして、そんな考えが頭を過ぎった。今の僕は眼前にやるべきことがある…その筈なのに、何か違和感を覚えていた。

 

(…何だろう…何かを忘れてる……大事な何かを…天職をするよりも大切な何かを…)

 

思い出せない…でも、何かが僕の頭に訴えかけていた。分からない…でも、忘れてはいけないことがあった筈だと、記憶に引っ掛かりを覚えていた。

 

(やらなければならないこと……僕は一人でこの樹を伐ってきた。それ以外に、やることなんて……一人…?)

 

『『『・ージ・!』』

 

「っ…何だ…今の声…!」

 

頭の中に響いてきた誰かの声に、僕は思わず頭を抑え、その場に蹲ってしまう。誰だ…今の声は……僕は…!

 

『憎しみじゃ…あいつには勝てないよ、ユージオ』

 

どんな心を以て、剣を振るうべきか…怒りや憎しみじゃなく、自分が信じるものの為に剣を振るうんだと教えてくれた友の声が、

 

『違う!お前はユージオだ!俺たちの友で、優しくて、気弱で…一人の女の子のために立ち向かえる剣士だ!!』

 

命を…そして、魂を燃やすかの如く、自分の命など顧みず、誰かへと手を伸ばし続ける友の姿が、

 

『ユージオ………お前さんが闘う理由は何だ?』

 

(僕が…僕がいるべき場所は…そこにいる理由は……)

 

頭痛がどんどんと酷くなっていく…だけど、それが決して異常ではないとどこか納得していた。僕は…僕は一人じゃない、一人じゃなかった…

 

頭痛だけじゃなく、視界までもが大きく歪んでいく。それに伴い、幼き姿をした僕の体もどんどんと歪む…けど、構わず僕はそれを思い出そうとする。

 

『うん…ユージオ…いつも一緒にいてくれて、ありがとう。これからもよろしくね!』

『私は…ユージオがいてくれて本当に良かったって思ってる』

『ねぇ、ユージオ…そこまで言うのなら、ついてきてくれる?』

『それでも一緒に…最後まで隣にいてくれる?』

 

そうだ…僕は彼女の笑顔を守りたくて、その手を離したくなくて、その幻影を追い掛けるんじゃなくて、隣に立ち続けたいと……僕はここまで来たんだ。

 

『…君のことは、僕が必ず守るよ』

『…なら、貴方のことは、私が必ず守るわ』

 

あの日、失ったものを、壊れてしまったものを、忘れてしまったものを……もう手放しちゃいけないんだ!だから、だから…!?

 

(ここは僕がいるべき場所じゃない!ここで止まってる場合じゃない!!僕が振るう物は…これじゃない!!!)

 

まやかしを払う様に、僕は持っていた竜骨の斧を放り投げた。そして、見えはしないが、確かにそこにある筈のものを抜く!

 

「…あの日、失くした人を取り戻すために、あの日、壊してしまった日々を取り戻すために……あの日、掴めなかった自分を後悔したみたいに、もう二度と自分の行動に後悔しないために…!!…そのために、僕は彼女の隣で、闘い続けるんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

引き抜いたことで、その姿を現した青薔薇の剣が、僕の言葉に呼応するかの様に絶対零度の凍気を解放する。

 

そして、迷うことなく眼前の幻樹を斬り倒す…その瞬間、灰色の空間が光に包まれ、

 

『『…そうだ…それでいいんだ』』

 

心意の破界鎧を纏った姿に戻った僕の背中を押す感覚と共に、懐かしいそんな言葉が聞こえたような気がして、僕の意識は…

 

 

 

 

(ふぅ…呆気ないものだな。人と同じ魂を持つと言っても、所詮は作られしフェイク…権限とやらで、こうもあっさりと無力化できるのだからな)

 

失笑を含んだ表情と共に、ガブリエル…ベクタは呆然自失と化したユージオたちを見ていた。作戦時間に余裕があるわけではないが、少しは遊ぶ相手ぐらいにはなるかと思っていた矢先のこともあり、ベクタは更に冷笑を深めていく。

 

(まずは…あの熟練した剣士から仕留めていくか。その次に、女…そして、少年…いつもと同じことをするだけだというのに、法に触れないという点だけは、この世界にも価値があるというものか)

 

目的のアリスは手中に収め、アンダーワールドへの価値を完全に見定めていたベクタはそんなことを思いながら、自身の剣を構える。いつもと同じ…命を奪う、という常人であれば、躊躇わざるを得ない凶行を、一切の迷いなく行うベクタ。

 

「では、さらばだ…」

 

まるで友人に言うような雰囲気で、剣を振り上げたベクタ…その刃は、意識を失っているベルクーリの頭部を叩き割ろうと、振り降ろされ…

 

ガァン!?

 

「…何…?」

 

鈍い金属音が響き、直後、戸惑いと驚きの声がベクタから漏れた。淡々としていた表情が、驚愕の色を示し、濁った青い瞳が、眼前にいる人物へと注がれる。

 

「…やらせない…!アリスも、ベルクーリさんたちも…お前の好きにはさせない!!」

 

先程まで為す術もなく、思うがままに意識を奪っていた筈のユージオが、青薔薇の心意と凍気を全身の鎧から今まで見たことほどに放ちながら、ベクタの剣を受け止めていた。

 

まさかの出来事に、余裕の笑みを浮かべていたベクタの顔に、初めて驚きと動揺が入り混じった色が浮かんだ。その隙をユージオが逃すわけもなく、ベクタの剣を大きくはじき、青薔薇の剣をベクタの目の前の地面へと突き刺した!

 

「リリース・リコレクション!!!」

 

主の意志に従い、完全にコントロールされた青薔薇の記憶開放術がベクタへと襲い掛かる…零距離から放たれた絶対零度の大波を、剣で防ごうとするベクタだが、そんなもので防ぎ切れる技ではなく、凍土に一気に押し出され、岩柱から落ちそうになったところで、ベクタの体が完全に絶対零度の氷に閉じ込められた。

 

「…ふぅぅ……!」

 

神器の力を一気に全開にまで引き上げた反動で、少しばかりの疲労を覚えたユージオ。剣を地面から抜いたところで、それが白い息となって口から漏れた。だが、

 

「…これは驚きだ…まさか、たかが人工物がここまでの力を持っているとは…」

「っ…!?」

 

聞こえる筈のない声が耳に届き、ユージオは身構える。

 

視線を前方へと向けると、氷から咲き誇る青薔薇の花群から、絶えず大量の天命が放出されているにも関わらず…閉じ込められている氷をものともせず、上半身の氷を砕き、ベクタが動き出したのだ。

 

(…流石にそう簡単には倒せないか…これが暗黒神ベクタの力…!)

 

下半身の氷も容易に砕ける筈だが、自身を拘束した青薔薇の剣の氷を、ベクタは興味深く観察していた。

 

対するユージオも、青薔薇と絶対凍土の氷を容易く砕かれたことに驚いてたのもあったが、敵のステータスからして、これで終わりにできるとは思っていなかったのもあり、酷く動揺することもなく、青薔薇の剣を構え直した。

 

「…雰囲気が先程とは段違いだ。クフフフッ…フハハハハハハハハハハ!!本当に興味深い…!」

「…!」

「ルビーのような濁りのない、軽やかな風味しか感じなかった若葉が…まるでいくつかの新種を混じり合わせた、味わったことのない感覚ゥ!!いいぞ…もっと私を楽しませてくれぇ!!」

 

一人でに盛り上がり、狂気を含んだ笑い声を上げるベクタから更なら殺気が漏れ出す。しかし、それに怯むことなくユージオも闘気を放つも、再びユージオの意識を奪おうと、ベクタが剣を向け、負の心意を浴びせる…だが、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

(…本当に驚きだ…この身体の能力は、フラクトライトへの強制干渉。ただのAIが、これに逆らうことが出来る筈もない…それに……何だ、この違和感は…?)

 

先程までは確かに効いていた筈の心意を…一瞬、表情を歪めたものの、今度は意識を失くすことなく、ユージオはベクタと対峙していた。

 

その姿に、表情を動かすことはなかったが、ベクタは少しばかり感心していた。そして、それと同時に対峙するユージオに違和感を覚えていた。

 

心意の破界鎧から発せられる力とは別に、何かの影…光がユージオに見えるのだ。最初は見間違いかと思ったが、はっきりと見極めようとすると、その光が人の形を象っているように認識できた。

 

黒紫の温かな光と、蒼白の穏やかな光…それらがユージオの背中を支えるかのように立っている…ベクタの目にはそう見えていた。

 

「本当に……君は何だ?ただの作り物が、どうやってここまでの力を…」

「違う!!」

「…?」

 

ベクタは自分が抱いた疑問を素直に口にしただけだった…だが、ユージオにとって、それは聞き捨てにできない言葉だった。

 

「僕は…僕たちは!この世界で…今、こうして生きている!!

 

確かに…誰かの思惑で、何も知らずに観測された世界を生きているのかもしれない…

 

独裁者の哀しい愛で、間違った世界を生きていたのかもしれない…

 

例え……この世界が箱庭みたいに狭い世界だとしても、それでも!僕たちは、笑って、泣いて、怒って……それでも、明日、明後日を…未来に向かって生きてるんだ!!

 

この命が作り物でも、この心と魂だけはこの世界に生きる僕たちのものだ!それを好き勝手にする権利は誰にもない!だから…お前にアリスは渡さない!お前を……ここで倒す!!」

「っ…!?」

 

その言葉と共に、二つの光が青薔薇の剣に混じり合う…絶対零度の凍気が一段と強く、激しさを増すも、暴走する兆しは全く見受けられず、ユージオの意志で完璧にコントロールされていた。

 

対峙するベクタも、その凍気を怯むことなく受け止めていた…だが、言葉を言い終えたと共に、青薔薇の剣を向けてきたユージオの、その見開かれた眼が金色へと変わった彼の闘気に、本能的に後退ってしまった。

 

(っ…!これは……恐怖?私が…あの少年を恐れているというのか…?少しばかり雰囲気が変わったあの少年を…?)

 

自分が後退ったことを…迷うことなく、自身へと剣を向けてくるユージオに、ベクタは心に覚えたものに、そんなことを思っていた。しかし、恐怖を知らない自分が、そんなことを感じるわけがないと考えを払い、それを武者震いと捉えた。

 

眼前にいる、今まで味わったことのない力を放ち続ける少年…たかがフラクトライトがここまで確固とした意志を見せたことに…狂喜へと頭を切り替えようとしたベクタは、そこでようやくある事柄へと気付いた。

 

「…そうか…そういうことかぁ!フハハハハハハハハハハハハハハハ!?そうなのだな?お前も、また『A.L.I.C.E.』なのだなぁ!これは僥倖!一つだけでなく、この手に二つまでその命を手に入れられるとは…!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ユージオが、自分たちが知らないところで覚醒していた『A.L.I.C.E.』なのだと、確信したベクタが心の底から喜びの笑みを声と共に上げる。だが、ベクタの言うことなど、今のユージオには気になるものではなかった。

 

「向こうの世界に戻ってから、アリスで心ゆくまで遊んでやろうと思っていたが…こうも早くその機会が訪れるとは…その魂、じっくりと味わせてもらうぞ?」

「そんなこと、どうでもいい…!お前の望みなんて、絶対に叶えさせない!お前を斬って、アリスを取り戻す!!」

 

残っていた下半身の氷を砕き、体の自由を完全に取り戻したベクタ。愉悦の笑みを浮かべ、ユージオの命を…魂を貪り尽くそうと視線を向ける。そして、それに真っ向から迎え撃つユージオの闘気が一段と強まる。

 

「っ…!時穿剣、空斬・閃!」「っ…!闇斬剣、絶空・暗影!」

 

その両者の拮抗を破るかの如く、ユージオの後方両面から二種類の斬撃が飛び出した。いきなりのことにユージオは反応することができず、視界に捉えていたベクタは自身の剣で受け止め、再び斬撃を吸収した。

 

「…ったく。人がちょっと目を放した隙に、とんでもないことになってるじゃねぇか。だったら、俺も混ぜてもらってもいいわけだよな?」

「軽口を言っている余裕があるの、騎士長?それとも、そろそろ年のことを考慮して、大人しくしといた方がいいんじゃない?」

「…時間を掛け過ぎたか…」

「…ベルクーリさん…イーディスさん…!?」

 

フラクトライトの干渉能力が時間経過で解除されたことで、意識を取り戻したベルクーリとイーディスがそれぞれ神器を構え、ユージオの両隣りに立ち並んだ。

 

外野の邪魔が入ったことに興味を示すどころか、苦々しくそう言い捨てたベクタに対し、ユージオは二人が復帰してくれたことに頼もしさを覚えていた。

 

「まぁ、いい……お前たちが、私と少年の輪舞を邪魔するというのなら、できないようにもう一度意識を闇へと沈めてやるだけだ」

 

自身の楽しみを第三者に介入などさせることなど許さない…そう言わんばかりに、ベクタは負の心意をベルクーリとイーディスに浴びせようとして、剣を…

 

「そうはさせない!?エンハンス・アーマメント!!」

 

ほとんど逃げ場がない岩柱で、どうにかして剣先から逃げなければと二人が避けるよりも前に、ユージオが再び青薔薇の剣を地面へと突き刺し、今度は武装完全支配術を解き放った!

 

記憶開放術により、ベクタから放出させていた大量の天命の一部を利用し、凍らせた地面から氷柱を、ベルクーリとイーディスの眼前へと出現させた。その行動に、ベクタは舌打ちをしたくなり顔を歪める。

 

「なるほどな…流石の暗黒神も視界に捉えていない人間の心意までは喰えないってわけか。助かったぞ、ユージオ」

「いえ…けど、問題が…」

「こっちの攻撃のほとんどが通じないってことよね…騎士長の武装完全支配術まで無効化するとか、本当に反則でしょう…」

「それだけじゃありません…青薔薇の剣の記憶開放術まで、奴には効きませんでした。一瞬、足止めできたのが関の山で…」

「えぇー…ますます反則じゃない…!」

 

もしかすればと思い、ベクタの視界から二人を隠したユージオ…その推測が功を奏し、今度は意識を奪われることのなかったベルクーリたち。

 

しかし、神器の武装完全支配術をあっさりと無効化されたことに打つ手がほとんどないと苦渋の表情を浮かべる一同…記憶開放術までもが効かなかったと告げるユージオの言葉に、本気で嘆くイーディス。

 

ベクタもほとんど不死身の体に等しい無限の量を誇る天命と、負の心意による圧倒的な制圧力を持つも、自身の手を知られた今、1対3という状況に少しばかり状況を見極めようとし、静観に入っていた。

 

「…方法ならある」

「えっ…?」「…騎士長…」

 

策を練るには今しかない…だが、こちらの奥義のほとんどを無効化されている以上、どうするべきかと頭を必死に回すユージオだったが、その一言を呟いたベルクーリへと驚きと共に視線を向ける。一方で、ベルクーリの考えを察したイーディスはそう驚いてはいなかった。

 

「そもそも…奴は一度見せた技がもう一度通用する相手じゃねぇ…そうなってくると、一撃で奴を仕留めなければならないという話になる。こっちの武装完全支配術のほとんどが使えないとなれば…後は俺とイーディスの記憶開放術だけだ」

「けど、あたしの闇斬剣の記憶開放術は瞬間的な火力を持ってない…」

「…ああ。だから、俺がやる…時穿剣のもう一つの技…『裏斬』でな」

「(裏斬…それは、さっきベルクーリさんが暗黒飛竜を斬り落とした時穿剣の記憶開放術で…)過去を…斬る剣…」

「そうだ…ユージオ。お前さんは、あいつの心意の侵食が効かないようだが、真っ向から剣を交えることができたとしても、奴を討つ手段がない…ベクタは無限に等しい天命を持つと言い伝えられてるぐらいだ…青薔薇の剣の力がほとんど通用しないのであれば、長期戦になれば、負けは見えてるもんだ。

だが…裏斬は違う。こいつは過去…対象がその時点にいた場所を斬ることで、今との繋がりを断ち切る……俺の最後の奥の手であり、禁断の奥義だ」

 

そう告げるベルクーリの時穿剣を見つめるその目、そして、その姿を見たユージオはベルクーリが何を考えているのかを理解してしまった。

 

「ユージオ…それと、イーディス。ベクタは俺が仕留める…お前さんたちは、嬢ちゃんを連れて、この場所からできるだけ遠くに離れろ」

「「っ!?」」

「…ベクタはまともに闘ってる相手じゃねぇ。安心しろ…俺の命が尽きようが、奴の命も道連れに…「駄目です!?」…っ!?」

 

自分一人を置き、アリスを連れて逃げろ…そう告げたベルクーリの言葉を遮り、ユージオが拒絶の言葉を叫んだ。まさかの反論にベルクーリが呆けるも、ユージオはベルクーリへと視線を向け、更なる言葉を投げ掛ける。

 

「ベルクーリさん…僕に言いましたよね?力を持った責務として、命を懸けることを当然だと思うことは違うって…僕が死ねば、どうなるかって…!だったら、それはベルクーリさんも同じじゃないんですか?!」

「…だが…」

「なら、ベルクーリさんが犠牲になってあいつを倒せたとして…!本当にそれをアリスが望むと思うんですか!ファナティオさんたちがどう思うか、分かってるでしょう!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ベルクーリさん、あの時の言葉をお返します…ベルクーリさんが闘ってきたのは、どうしてですか…?!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「貴方は…僕たちは一人じゃありません!それで、みんなで帰るんです!アリスも、ベルクーリさんも、イーディスさんも…綺麗事かもしれませんが、みんなで一緒に大事な人たちの元へと戻らないといけないんです!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

断固として、ベルクーリをここに残していくことなど認められない!自分の危うさを気付かせくれたあの時のことを思い出しながら、ユージオはベルクーリへと言葉を投ぶつける。

 

苦渋と不安…それらが十二分に入り混じった表情を浮かべ、ユージオ、イーディス、それと息絶えた暗黒飛竜の横に倒れているアリスへと順に視線を向けるベルクーリ…その表情が、ため息と共に崩れたかと思えば…

 

「ハハッ…まったく。この場所こそが俺の死地かと思っていたが………そうだな。お前さんにそう言っておきながら、それを破るなんて…男としても、剣士としても、最低だな」

「…!」

「…ユージオ、イーディス…お前たちの命、俺に預けてくれるか?」

「…はい!」

「…あたしは最初からそのつもりだったわよ、騎士長」

「……お前らの命、確かに預かった…!二人とも、耳を貸せ…時間が惜しいから、一回しか話さんぞ」

 

ユージオの言葉に、命を賭した決死戦ではなく、全員で生きて帰るために闘うことを決めたベルクーリ…その表情に、いつもの掴みどころがない笑みを取り戻し、一か八かの起死回生の策を二人へと話し始めた。

 

(…何やらコソコソとしているようだが…さて、どう出てくることやら…)

 

もちろん、その様子をベクタが見逃すわけもなく…ユージオたちがそろそろ仕掛けてくると予期していた。

 

敵がすぐに攻勢に出てこないことに、自分を仕留める手段がないのだろうと分かっていたが、自身が心の底からその魂を味わいたいユージオが相手にいることもあり、その出方をワザと待っていた。

 

ベクタのステータスを十分に理解しているこその余裕…自分が負けることはないと自負していたベクタは、どうやってユージオたちを倒し、ユージオをどのようにして味わおうかと、思考を回してしまっていた。

 

「…いいな?ユージオはともかく、イーディスはユージオの支援だ。意識を失った時には、命はないと思え?俺たちの助けがあるとは思うな」

「分かったわ…まぁ、なんとかするわよ」

「…10分…10分凌げればいいですね?」

「ああ……自信がないか、ユージオ?」

 

手短に自身の策を伝え終わったベルクーリ…ベクタの負の心意には十二分に気を付けろと忠告されたイーディスが真剣に頷く。確認するように問うユージオに、敢えて焚き付ける様に返したベルクーリ。

 

もちろん、そんな言われ方をすれば、答え方など一つしかなく…

 

「やってみせます…ベルクーリさんを信じてますから…!」

 

強がりも混じっていたが、自分が相手を信じているように、ベルクーリもできると信じて、託してくれたのだ…それに応えるのが、今の自分がすべきことなのだと、笑みと共にそう答え、ユージオはベクタの前へと進み出た。

 

「もういいのか?時間はくれてやったが、私を楽しませてくれる策は出来たのかな?」

「お前に話してやる必要はない…剣士なら、剣で語るだけだ」

「剣士……また古典的なことを。兵士は兵士であればいい…剣は単なる武器、能力は誇示するための手段…それらに意味を求めるなど、ナンセンスだ」

(…冷たい…本当に生きてる人間なのかと思うぐらいに、何の感情も感じられない…!)

 

改めて対峙し、ユージオはベクタのことをそう感じ取っていた。

 

先程の笑みも、喜びの声も…本能のままの声に感じられたが、まるで何かを模しているかのような違和感が拭えず、ユージオの中にこびりついていた。

 

(分からない…理解もできない…けど、はっきりしてることはいくつかある。奴はキリトたちとは違う…アスナが言っていたように、リアルワールド人の悪い面を集約した人間なんだろう…こいつが、アリスを手に入れようとしなければ、この戦争だって起きなかったかもしれない…!)

 

怒りが再燃しようとする思考をなんとか抑え、ユージオは青薔薇の剣を持つ手を、確かめる様に握り直す。

 

(憎しみや怒りじゃ勝てない…そんな力じゃ底が見える…分かってるよ、キリト、フォン…!)

 

剣に込める気持ちが強い程、その力は限界を知ることはない…守るべき人を、自分が剣を振るうべき理由を強くイメージした想いが、ユージオの金色の瞳が更に強くし、凍気を極限にまで強化する。

 

(天命は底知れず、能力も未知数…けど、付け入る隙がないわけじゃない…その力を持っているからこそか…奴は全力を出し切っていない…!それならば…いける!)

 

以前の出来事…セントラル・カセドラルで初めてエルドリエさんと闘った時のように、ベクタはこちらを舐め切っている。それは、自分がまともにやり合えるチャンスなんだと、ユージオは考えていた。

 

相手が1人に対し、自分たちは3人…状況までもが、あの時と似ており、思わず心の中で苦笑してしまったユージオ…あの時と違うのは、頼れる友たちはおらず、自分が主力となって闘うわけだが…

 

「すぅぅ…!剣士ユージオ!いざ、参る!」

「…さぁ…思う存分に踊ろうではないか!」

 

一呼吸置き、名乗りを上げたユージオを迎え撃つべく、ベクタも剣を構え直す。その勢いのままに、ユージオが斬り掛かったことで、遂に火ぶたが落とされた。

 

「ぐぅぅ…!おおおおおおぁぁ!」

「フフッ…!その程度かぁ!」

 

込められる力を出し切るユージオに対し、片腕一本の余裕な姿で受け止めるベクタ。互いに小細工が通用しないことは理解しており、純粋な剣技での勝負になるのは必然だった。

 

しかし、あくまでも心意による特殊能力強化をメインとした心意の破界鎧を纏うユージオでは、スーパーアカウントとしてのステータスを誇るベクタに競り勝つのは難しい…それを証明するかの如く、青薔薇の剣を受け止めていたベクタは、虫を払うかのようにユージオを剣ごと吹き飛ばした。

 

「くっ…!」

「それがお前の全力ではないのだろう?さぁ、もっと私に吞ませてくれ…魂の味を…!」

 

これで終わりではないのだろう…そう言いたげにベクタはユージオを見つめる。そして、吹き飛ばされながらも、空中で体勢を整えたユージオが着地する瞬間を狙い、追撃を掛けた。

 

上段から繰り出された一撃を剣で受け流すも、その体格以上の筋力から放たれた斬撃は、地面へと逸れたことで氷を割り、更には地面を容易く砕いた。

 

その威力に、安易な反撃は危険と判断し、ユージオはすぐさま繰り出された次の一撃を受け止める。こっちが両手で受け止めるのがやっとの状態にも関わらず、その強撃を片手一本で次々と、まるで玩具を振り回すかの如くの勢いで繰り出していくベクタに、ユージオの表情に苦い色が映る。

 

「この…これでどうだ!」

 

まるで暴風のような乱撃を捌き切り、一瞬の隙を見出したユージオがアインクラッド流片手剣秘奥義〈バーチカル・スクエア〉を放つも、涼しい表情でベクタはそれを受け止めた。

 

そして、お返しとばかりに両手剣ソードスキル〈サイクロン〉を繰り出す。ソードスキルの威力までもが加わった剣戟は一撃必殺以上のものと化し、咄嗟に身を屈めたユージオは回避に成功するも、剣戟の威力で発生したソニック・ブームが、正面に位置していた岩柱を砕いた。

 

そして、緊急回避で体勢を少し崩したユージオが立て直すよりも先に、更なる一撃を放とうと、ベクタが剣を掲げ、

 

「そこよ、影ノ傀儡!!」

「…!ちぃ…!?」

 

背後から飛び出してきた何かに、ベクタは思わずその場から飛びのいた。標的を失ったことで、イーディスの形をした影…影ノ傀儡の一撃が空を切る。だが、

 

「ユージオ!!」

「ぐっ…!うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ぬぅん!?…そうだ、いい調子だ…!」

 

それがイーディスの放った技だとすぐに認識したベクタは、彼女の意識を奪おうと自身の剣先を向ける。それを見て、負の心意が到達する前に、その場から移動するイーディスがユージオへと合図を送る。

 

それに応えるよりも先に体を動かし、イーディスへと気を取られたベクタへと再び切り掛かる。先程よりも重みを増した一撃がベクタを一歩下がらせる。だが、お返しとのばかりに、笑みと共にユージオを剣ごと弾き飛ばす。

 

「もっとだ!もっと、もっと…もっとぉ!!私を楽しませてくれぇ!?」

「ぐっ…!(一撃、一撃が……重い!?)」

 

狂気の笑みを更に増していくのに比例するかの如く、凶撃の威力までが劇的に増していく…それらを受け止める青薔薇の剣から物凄い衝撃が伝わり、ユージオの顔が歪む。

 

剣筋が読めないながらも、なんとか剣戟を逸らし、僅かばかりの隙を狙って反撃するユージオだが…青薔薇の剣の一撃や凍気などまるで効いていないかのように、ベクタはユージオを攻め立てる。

 

(こいつ…!自分が死ぬことを恐れてないのか…!?)

 

恐怖、不安、怒り…負の感情というものがこの段階になってまで何も伝わってこないことに、ユージオは困惑していた。今まで闘ってきた相手とは何かが違う…!まるで、

 

(人じゃない、何かと……戦ってるみたいだ…!?)

 

上段からの振り降ろしを、左手を添えて平行に構えた青薔薇の剣で受け止めたユージオ…相対する相手の考えや感情が、あまりにも不気味過ぎて、剣の威力以外にも冷や汗を覚える。

 

「くっ…システムコール!フォーム・エレメ……」

「させると思うか…」

「イーディスさん…!」「っ…ヤバい…!?」

 

徐々に押し込まれていくユージオを援護しようと、神聖術を放とうとするイーディスだが…そう何度も妨害などさせぬと、イーディスの動きを把握していたベクタが左手を彼女へと向ける。

 

その動作で、負の心意を向けられると警戒したイーディスは神聖術の詠唱を中断し、回避の為にその場を動かざるを得なくなってしまう。もちろん、剣を向けなければ、ベクタの能力は使用できないのだが…初めて対峙するユージオたちがそれを知る術があるわけもなく、ブラフに乗せられしまったイーディス。

 

邪魔者を追い払い、再びユージオを追い詰めに掛かるベクタ。これでもかとばかりに、剣へと力を込め、ユージオの顔が更に苦痛に染まるのが見え、ベクタの凶笑が深くなる。

 

「ぐぅ…!うううぅぅぅぅ……!?」

「フフフ…フハハハハハハハハハハ!!」

「ぬあぁ…!何がそんなに面白い…!?」

「決まっているだろう!お前が苦痛になるその姿をだ!人が生きているということを証明するこの瞬間…!魂が悲鳴を上げ、人の感情が最も浮きぼるとなるこのタイミングこそが、私が最も望む姿だ!!」

「そんなことで…!お前は………狂ってる!?」

「狂っている…?それはお前の価値観だろう?誰が何を言おうと、これが私…これが私の最も生きていると感じる瞬間…人の命を…いや、魂そのものを壊し、触れるために私は生きているのだ!」

 

その言葉と共に、一段と剣と負のオーラを高めるベクタ…しかし、

 

「…そんなのは……生き甲斐でもなんでもない!?」

「…うん…?」

 

そのまま青薔薇の剣を押し切ろうとするも、先程とは違い、自身の剣が動かなくなった…それどころか、今まで押されていたのが嘘かのように、剣を僅かに押し返してきたユージオの一言に、ベクタは眉を顰める。

 

「お前が何者だろうが、どんなことを考えようと分からない…だけど!?誰かを犠牲にしてまで、自分の欲望を満たそうとするなんて、あっていいわけがない!そんな…そんなことの為に、こんなことを引き起こしたお前なんかに、負けられるかァァァァァ!?!」

 

感情が爆発した叫びと共に、ベクタの剣ごと、ユージオが逆襲とばかりにその巨体を吹き飛ばす!

 

ベクタの剣戟をこれまで受け止めてきたことで、その動きを見切ったユージオ。多少のダメージを犠牲に、青薔薇の剣の高速剣撃を繰り出す。幾度となく、ベクタの剣と青薔薇の剣が斬り結び、火花が散り、地面が衝撃に耐えきれず、砕け散っていく。

 

(…駄目…!?あの速さじゃ、下手に攻撃したら、ユージオの邪魔になる!それに、あんな勢いで闘っていたら、ユージオの体力が尽きる…!騎士長、まだなの!?)

 

ここぞとばかりに攻め立てるユージオとベクタのラッシュに、援護することを憚られるイーディス。影の傀儡ではスピードについていくことができず、心意の破界鎧を発動させているユージオにダメージは通らないとしても、神聖術の衝撃でノックバックを与えかねないからだ。

 

しかし、問題はそれだけではなかった。

 

互角にベクタと剣をぶつけ合うユージオだが、その勢いがどこまで続くかも問題だった。ただでさえ、精神的負担が存在する心意の破界鎧を限界以上に発動させており、多少の負傷を覚悟でフルスロットルのユージオ。

 

今の均衡状態が続けばいいのだが…イーディスの懸念通り、ユージオに限界が迫りつつあった。

 

(腕が…身体が悲鳴を上げてるみたいだ…!?今にも身体が砕け散りそうだ…!時間がいつも以上に長く感じる…!?)

 

特殊能力が効かず、自身の力のみでベクタへと喰らい付いていくも、ベクタの剣戟を見切り、受け止め、斬り掛かる…格上のステータス相手にそれをすることが、どれだけユージオの体・精神に負担を掛けているか…

 

だが、攻撃を続けなければ、やられるのはこちらであることを分かっているユージオは手を止めることができない。徐々に集中力も切れていき、受け止めそこなった斬撃が右額を掠めた。

 

頭部から流れ出た血が剣を握る手に散るも、その熱や感覚をほとんど感じられない程に、どんどんと手が痺れていく…いつ限界がきてもおかしくない状態だが、それでも、ユージオは剣を振るい続ける。

 

「ううううぅぅぅぅぅ…!ううううおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「…ちぃ…(少々遊び過ぎたか…これ以上、時間を掛けるの面倒か。もう少しばかり遊んでいたいが…作戦時間の都合もある。これ以上、増援が来る前に…)…終わらせるとするか」

「っ…!?」

 

想像以上の力を発揮し、自身と互角以上に渡り合ってくるユージオに、喜びを隠し切れないベクタ…だが、サイコキラーであるベクタはあくまでも軍人…作戦のリミットやこれ以上の邪魔が入ることを想定し、早々に勝負をつけようと動いた。

 

その不穏な一言…眼前で対峙するユージオに聞こえない筈がなく…!

 

「はぁぁ!!」

「っ…!?」「きゃああ!?」

 

軽い気合に見合わない…負の心意までもを加えた秘奥義…両手剣ソードスキル〈アバランシュ〉によく似た一撃をベクタが地面へと放った。その衝撃で岩柱にいくつものヒビが入る。咄嗟に後ろに飛んだユージオは直撃を避けるも、その異常な威力にユージオ・イーディス共に悲鳴の声が上がる。

 

「っ…アリス!?」「なぁ…!」

 

「…さぁ…どうするかな?」

 

まるで狙っていたかのようなベクタの一言…衝撃に耐えきれなかった岩柱の端が崩れ落ちていく…そして、それは暗黒飛竜の傍に倒れていたアリスの場所も例外ではなく…直撃個所の近くにいて、ユージオは振動で動けず、気付いたイーディスが咄嗟に落ちそうになったアリスの手を掴んだ。

 

「…そう動くだろうな…お前たちにとっても、アリスは大事なんだろう?」

「っ…!?」

 

ギリギリの体勢で掴んだため、すぐにアリスを引き上げることができないイーディス…そして、その動きを予知…死神の如く、彼女の背後には感情の籠っていないベクタが剣を振り上げていた。

 

ベクタは分かっていた…ユージオかイーディスが、アリスを助けようと隙を見せるであろうことを…

 

ベクタは諦めた…こうなれば、多少傷つこうが、死なない程度にアリスを危険に晒すことを…どうせ、向こうに連れて行けば問題ない…落下ぐらいで即死はしないだろうと…

 

ベクタは思った……遊びの時間は終わり…まずは、端に見えていた蠅から確実につぶしていくのだと…

 

(しまっ…!?)

 

イーディスがそう思った時には、ベクタは剣を振り降ろしており…

 

ガァ…!!

 

「がぁ……あああぁぁ…!?」

「っ………ユ、ユージオ…!?!」

 

眼前に飛び出した影がその一撃を受け止め、苦痛の声が漏れた彼の姿に、目を見開いたイーディスがその名を叫んでしまった。

 

間に入ることだけを考え、かなりの距離を、更には不安定な足場を無理矢理駆け抜けたのだ…まともな防御姿勢を取ることも敵わず、青薔薇の剣で止めの一撃を受け止めようとすれば、どうなるか…完全に相殺することなど適う筈がなく、

 

「ああぁ…ぐぐぅぅぅ!?」

 

青薔薇の剣は完全に押し込まれ、優先度が高いベクタの剣は心意の破界鎧を砕き、ユージオの右肩から鮮血が大量に溢れ出していた。剣を持っていられるのが不思議な程の深手を負ったユージオ。

 

「そして…君が二人を見捨てられないことも…予測していた」

 

ベクタはユージオを知った気でいた…眼前にいる少年は、戦争には向いてないガキのような甘さしか持っていないのだと…

 

「…言っただろう…!お前の望みなんて叶えさせない…!お前は…ここで……止める!!」

「強がりを…その腕で何が……うん?また氷か…つまらない手、をぉぉ…!?」

 

未だに眼から光が消えないユージオ…眼前で抵抗を続けるその姿を嘲笑うベクタ。剣を握る右手から氷が伝ってくるのが見え、呆れた声を出し掛けたが…その言葉が驚きと共に途切れた。

 

腹部に感じた微かな違和感…その正体を見た時、ベクタの表情が驚愕の色で染まる。

 

ベクタは分かった気でいて、本当は理解できていなかったのだ…ユージオという戦士は、その程度で測り知れる人物ではないのだと…

 

ユージオは最初から見切っていた…ベクタは自分たちを舐め、油断し切っているのだと…そして……自分一人で勝とうなど、ユージオは最初から考えてもいなかった。

 

「こ、これは……まさか…」

「流石のお前も…即席で作ったこの武器は……予測できなかっただろう…!」

「自分の血を…凍らせて…!?」

 

右肩から流れ出た血を青薔薇の力で固め、即席の剣を作り上げた…歪で、優先度だって神器に比べれば遥かに劣る…だが、この状況で予想外の戦法としてはこの上なく最適の武器…そして、そんなことを咄嗟にやってのけたユージオの行動に、ベクタの思考が一瞬止まってしまった。

 

その一瞬に、迷うことなく左手の凍血剣を更に深く刺し込み、秘奥義名をあらん限りの力でユージオが叫ぶ!

 

「貫けェェェェェ!!ヴォーパルストライクゥゥゥゥウウウウウウウゥゥゥ!!!!」

 

青薔薇と心意の力が極限にまで混ざり合い、凍血剣がその刀身を赤き絶対零度の氷塊へと肥大化させる。

 

『ベクタは痛みを感じない』…だから、ダメージを与えることはできないとユージオは分かっていた。しかし、ノックバックによる行動の阻害を与えることは僅かにだが可能であることもまた理解していた。

 

初手の記憶開放術で、ほんの少しだけ氷塊に閉じ込められたことを覚えていたユージオは、心意版〈ヴォーパルストライク〉の勢いで、ベクタを吹き飛ばすことを選んだのだ。

 

「うううううおおおおおおおおおぉぉぉ!!」「…!?」

 

想像していなかったまさかの攻撃に反応できる筈がなく、抵抗することもできずにベクタが一気に吹き飛ばされた。

 

…そして、その瞬間がようやく訪れた…

 

「ユージオ!イーディス!」

「「っ!?」」「…!」

 

ここまで完全に気配を消していたベルクーリの声に、ユージオとイーディスがその時がきたのだと悟る。しかし、それにベクタも気付かない訳もなく、何かをされる前に止めようと、標的をベルクーリへと変える。

 

「イーディスさん!?」

「分かってるわ!ダブル・ディスチャージ!!」

「…っ…!(これは…水蒸気…?)」

 

「全てを凍てつかせろ!リリース・リコレクション!!!」

 

そうはさせまいと、事前に策を用意していたイーディスが詠唱を途中まで保持していた二つの神聖術をそれぞれ両腕から放つ。右手から火球を、左手からは水球を放ち、ぶつけ合ったことで周囲一帯が水蒸気に包まれ、ベクタの視界を塞いだ。

 

そして、水蒸気を媒体にして、青薔薇の絶対零度が一瞬にして空間ごと凍らせた。無差別に等しい範囲攻撃だったが、心意の破界鎧を纏うユージオと、彼のすぐ背後にいたイーディスとアリスは、破界鎧の恩恵を受け、凍ることはなかった。

 

…だが…

 

(この程度…!効かないと見せた筈だ…)

 

最後の悪足掻きだと、空間までもを凍らせた記憶開放術すら一度受けたことのあるベクタにとっては意味を為さない…何の苦労もなく、全身の氷をあっという間に砕き、凍気の中に見えるベルクーリの影を見つける。

 

(何を狙っているかは知らないが……潰す)

 

ユージオとイーディスが時間を稼いでまで、ベルクーリがしようとしていることが、彼らの切り札なのだと瞬時に悟ったベクタは、剣を掲げているであろうベルクーリの背後を取った。

 

これさえ…この男の攻撃さえ潰してしまえば、もう奴らに打つ手は残っていない…そう考え、技を仕掛けようとして隙だらけの背中を見せているベルクーリの背中へと剣を振り降ろした。

 

(終わっ……っ!?)

 

完全に取った…そう思ったが、斬った感覚にある覚えがあったベクタは絶句する。自分が刃を振り降ろした相手…確かにそれはベルクーリによく似ていた…しかし、全身が真っ黒…影のような人の形をしたそれに、ベクタの記憶が蘇る。

 

(これは…あの女騎士の術…!)

 

そう…ベクタには覚えがあって当たり前だった。なぜなら、それは自分が一度見た技だったからだ。

 

イーディスの闇斬剣の武装完全支配術の技の一つ『影ノ傀儡』

 

そう…イーディスが水蒸気を発生させたのも、ユージオが記憶開放術で空間一帯を凍らせたのも、ベクタの足止めが目的ではない…ベクタの視界を一瞬でも奪うことで、ベルクーリと、ベルクーリの姿を真似させた影ノ傀儡を誤認させることこそが、本当の目的だったのだ。

 

「…残念、だったな…」

「っ…!?」

 

その少し離れた場所…3メル程離れた場所から聞こえてきた声に、少し晴れてきた視界で、ベクタは視線を向ける。

 

青薔薇の記憶開放術をまともに喰らい、身体の節々が凍結し、凍傷を負いながらも…そんな体を無理矢理に動かし、時穿剣を掲げているベルクーリの姿がそこにはあった。

 

そして、時穿剣の刃には、記憶開放術の発動を意味するシステムコマンドが浮かび上がっており、

 

「これで…終わりだぁァァァァァ!!」

「そうは…させるかぁぁ!!」

 

やらせない…やらせてなるものか…!

 

ベクタが持てる力の全てを出し、ベルクーリの行動を阻止しようと飛び出す。だが、その焦りが完全に視界を狭めてしまい、

 

「ぬああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「はああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

最後の気力を振り絞ったユージオとイーディスが、青薔薇の剣と闇斬剣をベクタの体へと突き刺した!完全に意識の外から攻撃され、前進していたベクタの体が止められる。そして、

 

「時穿剣……裏斬りぃぃィィィィィィィィィィィィィ!!!!」

 

…記憶開放術を発動させた時穿剣が振り降ろされた…

 

何もない空間…それを斬ったベルクーリと、眼前で起きた現象に理解が追い付かないベクタ、必死にベクタを押し留めるユージオとイーディス。

 

一瞬の後…それは起こった。

 

「…?…なん、だ……こ、れ……は…?」

「時穿剣…裏斬…これは過去を斬る剣だ」

 

身体に違和感を覚えるベクタ…困惑するベクタに、剣を持つ手をだらりと下げたベルクーリが静かに答える。

 

「今、俺はお前の過去を斬った…10分前のお前をな。この技は、言うなれば、過去のその場にいたものを斬る術だ。時とは縦に繋がる軸…過去のお前がいるから、今のお前がいる……ならば、過去が斬られれば、今のお前は存在できなくなる…いくら暗黒神だろうが、過去の自分を斬られれば、無事じゃいられないだろう?」

 

時穿剣『裏斬』…10分前のその場にいた者の過去を斬る技

 

ベルクーリは『過去との繋がりを断つ』と認識しているが、この技はそんな理屈よりも上をいく技である。

 

この技の真意…それはアンダーワールドのシステムログに直接干渉し、攻撃対象の過去にいた場所…すなわちログ座標を斬ることによって、対象を過去に遡って消滅させる…システムに直接干渉する技であるため、あらゆる防御・回避・心意が通用しない、いわゆるチート技なのだ。

 

だからこそ、ベルクーリはこの技を「あらゆる技や努力を裏切る」という、騎士としても、剣士としても、それらを否定してしまう技であることから強く忌避し、封印してきた。

 

何よりも、「10分前の過去しか斬れない」という明確な弱点が、この技には存在していた。もしも、ベクタと一騎打ちで闘い、この技を使おうしていれば、自分の命を懸けてやっと放てたかどうかというぐらいに、発動するのが困難な技でもあったのだ。

 

ユージオが真正面からベクタに挑み、イーディスがユージオを支え、作り出した10分…そして、その刃は確実にベクタの「10分前の過去」を正確に斬り裂いたわけで…

 

「ぬうううぅぅぅ…!?ううううぅぅぅ……うううおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!?!?

 

全身が一気にひび割れし、ベクタの口から苦痛の声が漏れたとか思えば、全身がヒビ割れに沿って、一気に崩壊を始めた。ベクタがこれをどうにかすることなとできるはずもなく、今まで一番の絶叫を上げながら、消滅した。

 

『造られた命』如きと侮っていたユージオ、イーディス、ベルクーリの連携に、油断していたところをつけこまれ、見事なまでに敗れたベクタ。

 

「これが…俺たち整合騎士…いや、この世界に生きる人間の力だ……って、もういねぇか」

 

既に消滅したベクタに、聞こえないと分かっていながらも、ベルクーリは呟いた。

 

「…勝…った…?」

「そう…ね…」

「…そう…だな…」

 

ユージオの呟きに、イーディスとベルクーリが応えるも、三人とも既に限界の一歩手前だったこともあり、それぞれその場に倒れ込んでしまった。

 

こうして、暗黒神ベクタは、最後までアンダーワールドに生きる人々の力を舐め、理解することなく、この世界から去り、辛勝ながらも、全員が生き残ったという確かな勝利を騎士たちは掴んだのだ。

 

 




…徹夜で書くものじゃないですね…(苦笑)

滅茶苦茶長くなりました、ベクタ戦!

さてと、色々と語りたいことはあるのですが、後書きまで長くなっては読者の皆さんも読むの大変だと思うので、要点だけ簡単に解説です!

まず、ユージオがベクタの能力に贖うシーン。
 元々、心意の破界鎧の心意耐性は発現者の心意によって変動するという設定をつけたのは、このシーンの為でした。キリトやフォンが言っていたように(原作でも、最終決戦でのキリトがベルクーリたちの残留信念から聞かされていたのもありましたが)、怒りや憎しみといった負の心意では完全に無効化できなかったわけです。
そして、それを悟り、心意を限界にまで高めたユージオの両眼も金色に代わり、ベクタの能力を無効化できるようになったわけです(まぁ、心意の破界鎧が初めて出た第ⅩⅩⅢ話でフラグは立ててたわけなんですが…)
 そして、終盤の自身の血から作り上げた血の剣『凍血剣』。
当初は赤薔薇の剣(青薔薇の剣とは別に)を出そうかと思っていたのですが、大ダメージ負っている中で、そんな器用なものが作れるのかと思った結果、上記の剣になったわけです。流石のベクタも、まさか血を武器にするとは思ってなかったでしょうし…(笑)

 まだまだありますが、大体このぐらいで後書きは筆を置こうかと思います。
これで、ユージオメインのお話は大体終わりです…というか、ここが最後の見せ場でございました。あとはシノン、ユウキ、フォン、キリトがメインになってきますね。
 次回は…アスナたちか、もしくはユージオたちがシノンと合流してからの現実世界のお話になるかと思います(どっちから書くか決めてないので、一応予定とさせて頂きます)。
 年内に完結するかどうか怪しくなってきましたが、今後もご期待頂ければ有難いです。

 それでは、また。

世界一孤独なチンパンさん、
ご評価ありがとうございました!

武器解説に関して、新調と古いものだとどちらがいいですか?

  • 物語の語り部を新調版
  • 今までと同じ旧式版
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