ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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タイトル通り、リーファ&シノン回です!
先に言っておきますが、次回に続きますので!!

ちょっと短く感じるかもしれませんが、前話・前々話が以上に長すぎただけですので…今回もちょっと長めではあるんですけど…

とりあえず、一言…ベクタ、ガブリエル、サトライザーと、ころころ名前変わるのがややこしい!?内訳が面倒くさい!?…と、今回初めてサトライザーの名前が出たことで、そう思ったことが幾多もあったお話です(何言ってるんんだか…)

それでは、どうぞ!


第ⅩⅩⅩⅧ話 「地母神と太陽神」

「ぬぅぅん!?」

 

咆哮と共に、拳を振るう…頭で考えるよりも先に、眼中に入ってくる敵を次々と屠っていくイスカーンだが、その姿は無事とは程遠いものになっていた。

 

自らの武器でもある拳は何十、何百と赤鎧を砕き、撃ち抜き続けたことで原型を留める寸前にまでボロボロで、赤鎧たちから受けた斬撃・打撃により全身は傷つき、赤銅の皮膚は自身から流れ出た血で更に赤黒く汚れていた。

 

(何人、倒した…!?残りの敵は……いや、それよりも…!あいつは…シェータは…!?)

 

限界が差し迫っているのはイスカーンだけではなかった…彼の周囲で今も闘い続ける拳闘士たち…腕や脚を失った者、刃を刺し込まれながらも頭突きで反撃する者、疲弊困憊で膝を突いてしまった者、力尽き動けなくなってしまった者…

 

倒れゆく仲間たちに声を掛ける余裕もなく、限界など気にすることもできずに、イスカーンは拳を振るい続ける。その最中、いつの間にか背中を預けているシェータの姿を目で求めていた。

 

「Kill you?!」

「訳分からねぇこと、言ってんじゃ……ぐっ…?!(しまっ…脚の腱が…!?)」

 

眼前から迫ってきた赤鎧の叫びなど、うっとおしいと思い、反撃の拳を叩きこもおうとした時…踏み込んだイスカーンの脚から血が噴き出した。精神よりも先に身体が限界を迎えようとしていたが、その激痛すらも無理矢理抑え込み、更に前へと踏み込んだイスカーンは、

 

「ぐぅぅぅ!?せやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

体制を崩しかかったイスカーンを仕留めようと、剣を振りかぶった赤鎧の胴体に、渾身の一撃を直撃させた。拳法により生まれた炎が鎧を簡単に撃ち破り、赤鎧をポリゴンの光へと変えたが…

 

「がぁ…?!ううううぅぅぅ……!?」

 

一撃を放った右拳までもが限界を迎え…感覚すら失ったその手は、もう拳を握ることすらもできなくなってしまっていた。

 

イスカーンが仕留めた赤鎧が最後だったのか、イスカーンたちの周囲には赤鎧たちは見えなかったが、もう拳闘士部隊にも闘う力は残っていなかった。傷つき、倒れる同志たちを見渡し、そして、自らももうこれ以上拳を振るえない状態に、イスカーンは天を見上げてしまった。

 

(くそったれ…やっぱり皇帝の顔面に一発入れることはできなそうだな……)だが…最後にこれだけ拳を振るって闘えたのなら、あの世で先代に会っても、恥ずかしくはねぇ死に様だろう……(心残りがあるとしたら…皇帝どうこうよりも……)」

 

拳闘士の長として、もう悔いることはないだろう…自分の死期を悟ったイスカーンだが、彼個人としては、まだ一つだけ心残りなことがあった。その原因となる人物…一人奮闘する彼女へと自然と視線を向けてしまっていた。

 

「っ……はあああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

気合と共に、黒百合の剣で赤鎧たちを一閃していくシェータ…彼女も無事とは言い難い状態だった。整合騎士の象徴でもある鎧は所々が欠け崩れ、自身の獲物である黒百合の剣も天命がゼロ寸前に迫っていた。

 

次々と敵を斬り裂いてきたことで、荒れる息をなんとか整えようとするシェータ…その彼女の目も、またイスカーンの姿を求めていた。無事であった彼と目が合い…今まで感じたことのない思いがシェータの中で渦巻いていた。

 

(この痛みは何だろう…あの人を斬りたい筈なのに…!?)

 

始めて対峙し、自身とまともに撃ち合えたイスカーン…これまで斬れないものを探し続けていた筈で、ようやくそれに値する人と出会えた筈なのに…それなのに、今はそうしたくないと思う自分がいたことに、シェータは困惑していた。

 

しかし、赤鎧たちがそんな彼女の心境など考慮してくれる筈もなく、容赦なく斧をシェータへと差し向ける。それを寸前で黒百合の剣で逸らし、反撃の一閃を繰り出しながらも、シェータの思考はそればかりに傾いてしまっていた。

 

(…私は…この剣と…黒百合と出会ったあの戦場のように、何もかも焼き尽くすような闘いを、もう一度味わいたい…そして、あの金剛石よりも硬い拳を断ち切りたい…それだけが私の望みだった筈なのに……なぜ…?)

 

閃激を繰り出した黒百合の剣が限界寸前を迎え、その刀身に罅が入ったことで、シェータの思考は現実へと無理矢理引き戻される。槍を乱暴に振り回す赤鎧の攻撃を軽々と避ける彼女の脳裏に、あの言葉が蘇った。

 

『斬って、斬って、斬り続けなさい…その血塗られた道の果てにのみ、貴女の呪いを解く鍵がある……かもしれないわ』

 

黒百合の剣を授けられた時…、アドミニストレータが放った言葉…その言葉に従い、シェータは闘いの中で斬り続けてきた。そして、今やっと…その言葉の答えを、シェータは知った。

 

「…ああ、そうか……私は…」

 

その思いに気付いたシェータは、自然と笑みを浮かべて、そう小さく呟いた。そして、赤鎧が振り降ろした槍をひらりと躱し、逆にその槍を跳躍に利用し、飛び上がったことで赤鎧の頭上を取った。

 

そのまま重力と体重全てを加算した下突きは、一切の遠慮もなく赤鎧の頭部へと刺し貫かれた。急所を突かれた赤鎧は為す術もなく、その体をポリゴンへと変えた。だが、罅割れいた黒百合の剣も、同時に限界を超えてしまい…

 

「…長い間…ありがとう…」

 

天命がゼロとなった黒百合の剣の刀身は砕け、その姿を光へと変える…愛剣との別れを惜しむ様に光を優しく掴み、そして、これまで共にあり続けてくれたことに感謝の言葉がシェータの口から零れた。

 

黒百合の光が完全に霧散し、シェータはイスカーンたちの元へと歩み寄る。負傷した右足を引きずる形になり、少し時間が掛かってしまったが、彼らの元へと向かい、共に闘い続けて傷だらけになった自身の飛竜『宵呼』へと言葉を掛ける。

 

「あなたもありがとう、宵呼……疲れたね。もう、休もう…?」

「…すまねぇ。大事な剣…折らしちまったな…」

 

武器を失っただけではない…もうシェータ自身も闘う力は残っていなかった。飛竜へとそう労いの言葉を掛ける彼女に、イスカーンは剣を犠牲にしてまでシェータをここに残させ、闘わせたことを謝ろうとしたが、

 

「…いいの。私がなぜ……あらゆるものを斬り続けてきたのか、やっと分かったから…」

「…っ!?シ、シェータ…?」

 

謝罪を受け入れるどころか、自身の顔を両手で触れてきたシェータの行動に、イスカーンは彼女の顔を見る形になる。

 

「それは…斬りたくないものを見つけるために、守りたいものを見つけるために、私は闘い続けてきた。そして、それは……貴方」

「っ…!……そう、か…」

 

好敵手、宿敵……そう呼ぶべき間柄だったのにかかわらず、戦場で出会い、そう時間が経っていないにも関わらず、二人は互いに惹かれ合っていた。

 

自身の剣技ですら斬り裂けなかった相手と、自身の拳を剣で受け止めた相手…戦場という場で、全く異なる環境・生き方の二人が出会ってしまったのは、運命の悪戯とでもいうべきなのか。

 

「…あぁ…あんたみたいな強い女と所帯を持ちたかったな…!…そうすりゃ、俺とあんたに似た強いガキが生まれただろうにな……!先代より、俺より…!ずっと強い…拳闘士の子がよぉ…!?」

「…それは駄目よ…その子は強いんだから、私以上の騎士にしないとね…」

「ふん…それもいいかもしれねぇな…」

 

これが最期だから…残されている時間はもうほとんどないなか、二人は最低限の言葉を交わす。もしも…もしも、そんな未来があったら、どんなに嬉しかったことか、きっと笑顔が少なくても楽しい家庭が作れたかもしれない…

 

互いに抱き合い、そんな未来を想像すると、イスカーンにもシェータにも、自然な笑みが零れていた。

 

…しかし、そんな時間など壊すかのように、地面を揺らすような大量の行軍の音が聞こえてきて…

 

「……これで本当に最期みてぇだな…」

「…うん」

 

前方から、先程と同等以上の数の赤鎧たちが向かってくるのが、二人にも、拳闘士部隊にも視認できていた。

 

「でも……死ぬ時は一緒…」

「…ああ。どんなに死に方でも、この手は離さねぇからな……シェータ」

 

自然とつないだ手を優しく、しかし、強く握るシェータの応えるように、イスカーンも握り占める。そして、赤鎧たちがイスカーンたちに止めを刺そうと、一気に進行の足を速めた時、

 

 

…最後の女神がその場に降り立った…

 

 

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「「…!?!?!」」

 

突如、光が天空に表れたかと思った時には、赤鎧たちの背後に彼女…地母神テラリアの体を使っているリーファが降り立ち、奇襲を掛けたのだ。

 

いきなりの、更には一撃一撃で数十人を吹き飛ばしていくリーファの攻撃に、赤鎧たちは対処することができず、一気に混乱が広がっていた。

 

それは、イスカーンたちも同じで…死を覚悟していたところに、いきなり降り立った人物のそう行動したことに驚かずにいられないでいた。

 

「だ、誰だ、あいつは…!?どことなく、あの谷を作り出した女に似てたような…!」

「…まさか、アスナと同じリアルワールドの……待って、あれは…」

 

アスナやユウキが身に着けていた防具や装飾が似ていたことに気付いたイスカーンの言葉に、もしかしたら別のリアルワールド人が来たのかと悟ったシェータだったが、さらに別の影…いや、何かの大群までもが来ていることに気付いた。

 

その大群は、リーファの介入により大混乱を引き起こしている赤鎧たちを後方から一気に打ち破り、包囲されそうになっていたイスカーンたちの元へと辿り着いた。拳闘士たちを守るように、内側から円陣を組んだその部隊…そこからイスカーンとシェータの傍に歩み寄ってきたのは、

 

「お前たち、大丈夫か!?」

「あんたはオーク族の…!なんでだ…皇帝の命令で後方で待機してた筈じゃ…?!」

「そんなの関係ないでしょ!!」

 

オーク族の長…リルピリンの姿を見て、イスカーンは驚く。ベクタの命に従っていた筈の彼が、いや、彼らオーク族がここに…しかも、オークだと見下していた自分たちを助けてくれたことに、どうしてだと尋ねてしまったが、リルピリンが答えるよりも先に、彼らと協力関係になれたリーファが、敵を打ち倒しながら答えた。

 

「皇帝の命令だとか関係ない!貴方たちも、リルピリンの仲間なんでしょ!同じ人間同士、誰かが危なくなっているのに、助ける助けないとか…理由なんて関係ないわよ!!」

「…っ!?」

「あたしはリルピリンと友達に…仲間になったわ!だから、リルピリンの仲間の貴方たちも助けるわ!理由が必要だっていうのなら、そういうことよ!!」

(仲間……こいつは、初めてあった暗黒族の俺たちを…リルピリンの仲間だからって、簡単に信じると言うのか……それに、オークたちのことを人間って………!)

 

リルピリンの…仲間のことを信じるというリーファの言葉に、オークを自分と同じ人間だと言うリーファの姿に、イスカーンは息を呑んでしまった。一切の迷いもなく、そう断言した彼女の言動に、敗北感のような何かを感じたのだ。

 

「(こいつも、シェータも……これが人族の心の強さなのか…?)……すまねぇ、援軍感謝する…!」

「あたしよりも、お礼はリルピリンに言ってあげて?あたし一人じゃ、ここに来れなかったから」

「リーファ!これからどうする!さっき突破してきたところからなら、このまま離脱できると思うが…」

「リルピリンは、拳闘士のみんなと一緒にそこから下がって!ここは…あの赤鎧たちは全部、あたしが引き受けるから!」

「全部!?それは無茶だ!オデたちも一緒に…!?」

「駄目よ!?貴方たちに…この世界に生きている人に、あたしたちの世界から来た奴らのために、犠牲になってほしくないの!」

 

目視では数えきれない程の赤鎧たちを一手で引き受けるというリーファに、あまりにも無謀すぎると自分たちオーク族も残ると主張するリルピリンの意見も退け、リーファは赤鎧たちに対峙する。

 

「大丈夫…!こんな奴ら、何万人いたって…負けないわ!!」

 

その眼に宿る強き意思を言葉としても表し、リーファは幾多ものの赤鎧たちへと突っ込んだ!

 

 

 

一方、ユージオたちへの追撃を阻止すべく、岩柱の山群の上空で哨戒していたシノン。ユージオたちが去って少しした頃、彼女が危惧していたように、空に暗黒の雲が渦巻き、そこから何かが降ってきた。

 

「…っ!?…来た…!」

 

コールタールのように黒く、粘り、見ているこちらを深淵へと誘いかねない程に暗い、液体のようなものが岩柱へと一筋で降り注ぐ。あまりにも、他のダイブとは異なるその様子に、シノンの警戒も一段と強くなる。

 

「…っ…!?!?!!?」

 

そして、暗黒の沼からその人物が姿を現した時、シノンは自分の息が止まったかと錯覚するほどの驚きに襲われた。

 

金の短髪に濁った青い目、外国人らしい顔をした少しやせ気味のアバター…アサルトジャケットというミリタリー装備を身に着けたその全貌が、同時に呼び出したであろう暗黒系の使い魔にのって、自身と同じ高さにまで上昇してきたことで、嫌という程に目に入り、シノンは自分が対峙している人物が、思っている人物に違いないと分かってしまった。

 

(…間違いない……私は、こいつを知っている…!?私は、この目を、この顔を、知っている……!?!?)

 

シノンが忘れられるわけがなかった…だが、まさかの人物がここに…オーシャン・タートルを襲い、アリスたちを奪おうとしている特殊部隊にいるとは思ってもみなかったので、未だに眼前の人物がいることを受け入れられずにいた。

 

しかし、その人物が、シノンの心境など気にすることなど絶対にありえず、驚きの余りに隙だらけになっているシノンへと、その両腕を向け、笑みと共に両こぶしで空を握った瞬間、

 

「がぁ…!?~~~~~~!?!?」

 

手が届かない位置にいたにも関わらず、シノンは自身の首が絞められる感覚に襲われた。叫びたくとも、呼吸すらもままならず、声にならない叫びしか出なかった。そして、絞り出した言葉は…

 

「…サト、ライザー……!?」

「…そうか…どこかで見たことがあると思ったが…」

 

シノンに、自身のアバターネームを呼ばれたその人物…サトライザーはシノンの首を絞めていた心意の腕を解除すべく、自身の手を開いた。首絞めから解放されたシノンは、咳込みながらも、確認せざるを得ず、再度問いかける。

 

「ゴホッ、ケホッ!?やっぱり…お前は、サトライザー…なの…!?」

「…アリスたちは逃げたか…まぁ、いい。すぐに追いつく。君とは確かガンゲイル・オンラインの公式大会で戦ったね?名前は…Sinonだったかな?まさか、こんなところで会えるとは…」

「お前こそ…なぜここに…!?」

「必然だからに決まっているじゃないか…?」

 

サトライザー…ベクタのアカウントを使っていたガブリエル・ミラーがガンゲイル・オンライン…通称GGOにて使用しているアカウントがサトライザーだったのだ。PoHと同じく、サトライザーのアカウントをアンダーワールドへとコンバートし、ガブリエルはアリスとユージオの追撃を試みたのだ。

 

GGOで一度対峙した、まさかの人物に、シノンは震える体を抑え、なんとか問い掛ける。さっきの心意の腕もそうだが、それとは別に、シノンはサトライザーへと恐怖を覚えていた。

 

そんなシノンの姿を見て、仰々し両腕を横に広げたサトライザーは自身がここに来た理由を語り出す…その姿には焦りなど全く見受けられず、余裕しか感じさせない程に落ち着いていた。

 

「これは運命さ。私と君を引き付け合う魂の力が呼び寄せたのだ。しかし、これは思ってもみなかったことができそうだ。これで色々なことが分かるだろう…STLを介せば、生身の人間からでも、魂を吸い取れるのかどうかを…そして、」

 

そこで言葉を切ったベクタの笑みが一段と深くなり、その続きの言葉が口から放たれる。

 

「BoBでは味わえなかった、君の魂がどれほど甘いのかも、ね…」

「…ぁっ…!?」

 

その言葉がシノンの恐怖を…記憶を最大限にまで引きずり出した。

 

忘れる訳がなかった…第4回BoBにて、シノンはサトライザーと対峙……全く抵抗することも敵わず、敗れたのだ。

 

あの時のことは、シノンの脳裏に鮮明に焼き付けられていた。

 

得意の狙撃をするために、ビル群のスナイプポイントに身を潜めていたにも関わらず、一切の気配を感じ取れず、気付いた時には軍隊用格闘技…CQCを全身に叩き込まれ、背後から首を絞められた、あの敗北の記憶と、

 

『Your soul will be so sweet.(君の魂は、きっと甘いだろう)』

 

「…?!はぁ…はぁ…はぁ…!?!」

 

意識を失う直前に囁かれたその言葉が、シノンの脳裏を恐怖で染め上げる。恐怖のあまり、抑えていた震えは止まる兆しがなく、過呼吸寸前にまでシノンの息遣いが荒くなる。

 

「フッ…(取ったな)」

 

自身に絶対なる恐怖を抱いたシノンの姿に、サトライザーはその隙を…心の闇を見逃さない。ベクタのアバターを使用していた能力…『フラクトライトへの強制干渉』をその強力すぎる心意によって、サトライザーのアバターにも保持していた。

 

笑みと共に負の心意を解き放つ…一瞬、サトライザーの両眼が黒く濁り、その次には全身から心意の触手が噴き出した。

 

それらは拡散し、シノンの周囲を取り巻く…ようやく何かが起こっていることに気付くシノンだが、もう既に遅かった。負の心意に捕まったシノンの体がサトライザーの方へと引っ張られていく。

 

(ダメ…!抵抗、しないと…たた、かわ…ないと……!?)

 

抵抗しようとするも、意識は働いても身体が動いてくれない。さらに、負の心意に侵食され、

意識すらもどんどんと遠くなっていくを感じるシノンの体が、サトライザーの眼前にまで引き寄せられてしまった。

 

「シノン、君はサトライザーという名前の意味を考えてくれたことはあるかな?」

(い、み…?なにを……い、ってる、の…?)

 

疑問が声にならず、薄っすらとなりつつある意識の中でシノンが思っていることを見透かしたかのように、サトライザーがその先を話し続ける。

 

「意味は…研ぐ物、薄くする物、選ぶ者…そして、盗む者……私は君を盗む、君の魂を盗む」

(ぬす、む……?い、けない……)

 

心はそう叫びながらも、身体が言うことを聞いてくれない…一切動けない状況のまま、シノンはサトライアーにされるがままになっていた。再びサトライザーの目が濁り、その顔をシノンへと近づける。

 

(や、めて……ぬすま、ない、で…!?……っ…や…め……て)

 

眼からもうほとんど光が消えようとしていた。意識すら…自分が何を考えているのかも稀薄になってきたシノン…その唇が、サトライザーに奪われようと、

 

ガアアアアアアアアァァァァ!!!

 

「えっ…きゃあ!?」「っ!?」

 

シノンの唇が奪われそうになった直前…不可思議な光がシノンとサトライザーを引き離すかのようにスパークした。その衝撃と光で奪われそうになっていたシノンの意識を覚醒させた。

 

自身の心意を打ち消した光にサトライザーはどういうことだと顔を顰めるが、何が起こったのか分かっていなかったのはシノンも同じだった。少なくとも、シノンの意識で何かをしたわけではない。

 

光の正体…自身を救ってくれた胸元でスパークを散らすそれを目視したシノン。その正体を知り、シノンの目が見開かれる。

 

「…!…これは……キリトの…?!」

 

首元から下げられた円形の物体…真ん中に吸盤が付いたそれは、キリトが身に着けていた電極パットだった。

 

死銃事件の時、主犯の一人である新川恭二が、自宅にいたシノン…詩乃を襲おうとして、キリト…和人が割り込んだ際、和人を殺そうとした恭二の凶手…筋肉弛緩剤『サクシニルコリン』を打ち込もうとした際、それを防いだのが(慌てて詩乃の自宅へと駆け付けた為に外し忘れていた)その電極パッドだったのだ。

 

「な、なんでここに…!?だって、これは現実世界のもので……っ!?」

 

その後、キリトたちと出会えた記念という形で、シノンが貰っていたのだ。だが、それは現実世界の話であり、アンダーワールドに存在する筈がない『大切な思い出』が顕在していることが信じられずにいたシノンは、まさかの可能性に辿り着いた。

 

「また…助けてくれたのね…?」

 

STLは人の魂…フラクトライトを読み取る機械である。ベクタの特殊能力をサトライザーが自身の異常なまでの心意で保持したのと同じように、シノンもまたキリトとの深い絆を、その強い想いで具現化させていたのだ。

 

死銃事件の時、自分を救い、過去のトラウマからも手を引っ張ってくれたキリト…そんな彼を救った『大事な思い出』が、今度は自分を助けてくれた…サトライザーが語る運命よりも、これこそが運命なのだと感じたシノンの眼に再び光が灯る。

 

「…なら、私にも出来る筈…!」

 

思い出に口づけをし、その意志を宿した眼光をサトライザーへと向ける。もうシノンの中から、サトライザーへの恐怖は消し飛んでいた。体の震えも止まり、負の心意すらも受け付けないその姿に、サトライザーはチャンスを逃したことを少しばかり惜しんでいた。

 

そして、神器『アニヒレート・レイ』を構えたシノン…神器がシノンの強い心意に応え、水色の燐光に包まれ、その弓身を変える!

 

シノンが最も信頼し、彼女をGGOトップクラスのスナイパー『冥界の女神』という二つ名を与えることとなった愛銃…対物ライフル『ウルティマラティオ・ヘカートⅡ』が、その手に顕在した。

 

「サトライザー!お前は、神でも、悪魔でもないわ!ただの…人間よ!!」

 

弾丸を装填したヘカートを構え、サトライザーも自分と同じ人間だと言い切ったシノンはヘカートのスコープを除く。その照準をサトライザーの胴体へと定め、引き金を引く!

 

アンダーワールドに似合わない重音が鳴り響く…しかし、それをサトライザーは左手一本で難なく受け止めてしまう…だが、シノンは諦めることなく、ヘカートのボルトを引き、次弾を装填する。

 

「負けるな…!負けるなぁ、ヘカートォォ!!」

「……っ…!」

 

自身の分身に呼び掛けると共に、再びトリガーを引くシノン…その心意が上乗せされたヘカートの二発目が、初撃を完璧に防いだサトライザーの左手に風穴を開けた!

 

まさかの出来事に、サトライザーの顔に驚きの色が浮かび、遂に一矢報いることができたシノンが不敵な笑みを浮かべる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

シノンの予想外の一撃…防ぐことができると思っていた攻撃が通ったことに、少しばかり驚いていたサトライザーは既に冷静さを取り戻していた。風穴を開けられた左手も、負の心意を応用し、もう既に塞いでいた。

 

そして、対峙するシノンが、一方的に略取する存在から、抵抗する意思を持ち直した獲物だと認識を改め、サトライザー自身の銃を右足のホルスターから抜いた。

 

その銃も、心意により、シノンと同じ種類の武器…スナイパーライフルへと変化させたサトライザーに、シノンは同じ土俵で勝負を持ち掛けられたことで、それに乗った。

 

「上等じゃない…!前回の借りも含めて、お前の体に嫌という程、ヘカートの風穴を開けてあげるわよ…!!」

 

ボルトを三度引き、シノンの顔が再びスナイパーの顔へと変わる。

 

アンダーワールドでは存在しない筈の銃と銃の闘いの火蓋が切られようとしていた。

 

 




最初が死亡ルートそのものの空気でしたが、見事にリーファが阻止!
今、思ったら、アリシゼーション原作では少ない方ではないでしょうか?(本作だと、フォンやユージオがそこら辺ぶっつぶしてますので(笑))

そして、シノンを喰らおうとしたベクタもとい、ガブリエルもとい、サトライザー…アニメ見直して本当に思いました…「NTRじゃん」と…

今、思ったら、本作ではシノンやアリスだけでなく、ユージオまで狙ったことになるんですよね……うわぁ、ヤベェな、色々な意味で…
これでユウキまで対象になってたらと思うとゾッとしますね…フォンが黙ってないと思いますが…

次回はそれぞれの決着回です…終わりの部分だけ、少し原作と変える予定です…原因はユージオなんですが……ご期待頂ければと思います。

それでは!

ミトを本作に登場させるとしたら、その後はどういう感じで登場してほしいでしょうか?

  • 半レギュラー化(物語にもがっつり絡む)
  • スポット参戦(閑話に出てくるレベル)
  • まさかのサブヒロインポジ

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