アスナ、リーファ、シノン視点でのお話になります。
お読みになる前に、注意勧告です。
本話は、過去一となる程に鬱展開となっております。現状、全く希望がないといっても差し支えないお話になりますので、それらが苦手な方は十二分にお気を付けください。
更に、(原作通りの展開とはいえ)かなりのとんでも描写も入っており、一部キャラの描写が賛否よぶものになってます。そちらにもお気をつけください。
それでは、どうぞ…
…その戦場はまさしく地獄絵図と呼ぶべきものへと変わっていた…
「クラインさん!このままじゃ、取り囲まれます!?どこか突破口を作らないと、この地形じゃ、この数に囲まれ続けたりしたら…!」
「そんなことは百も承知だ!けどな、どんどん後ろから敵が来てんだ!?突破口どころか、陣形を維持するのもヤバいぐらいだ!」
赤鎧たちを纏めて斬り倒し、打開策を告げるシグ…だが、それが分かっていながらもできない状況にクラインが怒鳴り返す様に答える。歴然の剣士である彼らであっても、次々と向かってくる赤鎧…中国・韓国のコンバートプレイヤーの軍勢を一手に抑えることは無理に等しかった。
「アルゴ、どけぇ!?」
「っ……エギル?!」
「ぐぅぅ……おらぁぁぁぁぁ!!」
背後を取られたアルゴを庇い、肩に斬撃を受けたエギル。痛みを咆哮と共に力へと変え、隙だらけになっていた赤鎧へと斧の一撃を見舞う。
「ピナ、お願い!」『ピャアアア!!』
「くっ…このぉぉ!!」
シリカの指示で、ピナがコンバート軍へと支援バフを掛け、先陣に混じり奮闘するリズのメイズが敵を打ち砕くも、赤鎧たちはその数を更に増して迫ってくる。
サクヤたち各領主たち、シウネーたち『スリーピングナイツ』、名を知らぬ女性影妖精、連携プレーを見せていく闇妖精と影妖精…エース級のプレイヤーたちを筆頭に奮戦するもの、遺跡の上部から攻めてくる地形の理と、圧倒的な数の前にコンバート軍は押されていく。
「っ……このままじゃ…!」
「アハハッ……フハハハハハハハハハハハハハハ!!」
戦況を立て直そうにも、手が思い付かず、焦燥感がアスナを襲う。そんな彼女を嘲笑うかのように、遺跡の柱に立つ男…PoHが戦況を見下ろしていた。その姿が、数分前の出来事をアスナへと思い出させた。
「同志たちよ!呼び掛けに応えてくれて、深く感謝している!」
中国・韓国勢のコンバートプレイヤーたちが戦端を開こうとした時…PoHが全てのプレイヤーに聞こえる様に英語で大声を演説を始めた。アンダーワールドに来たばかりで、状況が呑み込めていなかったコンバートプレイヤーたちの視線がPoHに集まった。
「残念ながら、この場所でテストをしていあアルファプレイヤーたちは、既に日本人によって殺されてしまった!?更に、奴らは別のテスト場所に移動し、また同じことを繰り返そうとしている!
卑劣な日本人たちはサーバーをハックし、ハイスペックな装備を好きなだけ作り出せる!一方、管理者権限を奪われた我々は、呼び掛けに応じてくれた君たち同志に、そんなデフォルト装備しか用意できなかった!?
だが!君たちの正義と団結心は、どんな剣や鎧にも負けはしない筈だ!!」
『…そうだ!その通りだ!』
『卑怯者!下劣な日本人がぁ!』
『奴らを追い出せ!俺たちのサーバーを守るんだ!』
事態が全く呑み込めていない…いや、クリッターが作成したアンダーワールドへの不正コンバート用のURLと共に添付されていた動画を見て、
『コンバート軍が、赤鎧の仲間たちを次々と虐殺していっている』
と認識があったコンバートプレイヤーたちは、PoHの演説を全て鵜呑みにし、信じてしまった。その感情が言葉となり、悪意ある声が次々と上がっていく。
「…なに、この感じ…あの声、頭の中に入り込んでくる…」
「あいつ、本当に運営の人間なのか?ハッキングを受けているのなら、なんでサーバーの電源を切ればいい筈なのに…」
だが、中にはPoHの言動に違和感を持つ者もいたが、多くの者が納得している現状に流されてしまい、疑問を声にすることはできずじまいだった。
「敵は目の前だぁ!ゴーー!!」
そのPoHの掛け声と共に、コンバートプレイヤーたちは一斉に攻勢へと出た。
「(っ…!今は目の前のことに集中しないと…!?)…死守して!?アンダーワールドの人たちだけはなんとしても…!「うわあぁぁ!?た、助けてくれぇ!?」っ!?駄目ぇ!?」
思考を眼前の最悪ともいえる状況へと切り替えたアスナ。迫って来ていた赤鎧を突き倒し、コンバート軍になんとか指示を出そうとするも、その言葉が悲鳴で遮られる。
視線を向けると、抵抗できなくなっている兵士に赤鎧たちが剣や斧を振り降ろそうとしていた。距離的に離れすぎており、間に合わないと思ったアスナが叫ぶ。
「そうはさせん!?」
『がぁ!?』『ぐえぇ!?』
しかし、アスナが予見していたことは、咄嗟に割って入ったカーディナルが杖で受け止めたことで阻止された。そのまま、カウンターの打撃を打ち込み、赤鎧たちをポリゴンへと変えたカーディナルは、背中をアスナに合わせる。
「アスナ、これ以上はマズい!お主たちは引け!?」
「駄目よ!そんなことは…そんなことは絶対にできないわ!何か…何かきっかけがあれば…」
このままではアスナたちまでもが危険だと撤退を促すカーディナルだが、アスナもアンダーワールドに生きる人々を見捨てることなどできるわけがないと反論する。
なんとか状況を打開したくても…指揮官であるアスナにも、総指揮を担うカーディナルにも妙手を思い付くことができず、戦況はますます悪化していく。
「…止めろぉ!?ルーに手を出すな!?」
「っ…駄目!?サクヤちゃん、危ない?!」
風妖精部隊で突破口を開こうとしていたサクヤだが、完全に包囲されようとしていたアリシャ・ルーを助けようして、背後から槍の一撃を受けたことでその場に倒れ、ユージーンも抵抗するのが精一杯で乱戦から抜け出すことができないでいた。
「…!きゃああぁぁ?!」
「…!?サチ…!」
「っ…させるかぁ!?があああぁ……!?」
「シグ…?!このぉぉ…!」
窮地に陥っていたサチを庇ったケイタを守るべく、赤鎧に突き刺していた刀を置き去り、盾となったシグの両腕が斧によって斬り落とされしまう…!すぐさまアルゴがフォローに入るも、シグはまともに闘える状態ではなくなってしまった。
「アルゴ…頼む…!?俺の短刀を口に…!」
「無茶するナ!?いくらお前でも、あの状態になったとしても、この乱戦じゃ…!?」
「だからって……このまま見てるだけにもいかないだろう?!」
「…あー、もう?!どうなってもしらないからナ!?」
シグのある一面を知るアルゴが制止するにも関わらず、目さえも訴えかけるシグのその姿に、アルゴの方が押し負けてしまい、腕を失ってしまった彼の代わりに、腰に装備されていた短刀を口へと咥えさせる。
「ふぅぅぅ………っ!」
息を大きく入った直後、さっきまでとは全く違う雰囲気…目までもが冷たくなったシグが、姿勢を一気に低くしてその場から消えた…と思えば、次の瞬間には赤鎧の足元へと移動しており、咥えていた短刀でその喉元を掻っ切った。
奇襲でなんとか時間を稼ごうと冷徹に次々と仕留めていくシグだが、数の暴力を覆すことはできず、脅威対象とヘイトを集め、集団での抵抗を受けてしまう。
どんどんと戦況が悪化していく中…一人、いちかばちかの可能性に賭けようとする者がいた。
(私が…私がなんとかしない…!韓国語が話せる私なら…コンバートしてきた人たちに話を聞いてもらえるかもしれない…!)
圧倒的な数に潰されていくコンバート軍・人界軍の状況に、シウネーは僅かな可能性に出て見ようと考えていた。
シウネーは、現実世界では在日韓国人の父を持つハーフであり、韓国語を理解できていた。数の差をひっくり返すことはできなくとも、誤解を解くことで向こうの侵攻を止める、もしくは緩めることはできないかと思ったのだ。
「(ぶつからなきゃ、伝わらない…あなたも、この世界のどこかで今も闘っているんでしょ、ユウキ…!だったら、私も、私にできることを…!?)…みんな、お願い!一回だけでいいから、ブレイクポイントを作って!?」
「…分かった!テッチ、タルケン、ノリ!シンクロソードスキルで大技をぶちかますぞ!!」
「「「了解!!」」」
「カウント!…2,1……ゴー!」
ユウキ不在のため、リーダー代理を務めるシウネーの指示に、最低限のやりとりでタイミングを合わせ、ジュンの合図で同時に発動させることでその威力を倍増させる、4人合わせてのシンクロソードスキルが発動し、スリーピング・ナイツの周囲にいた敵を一斉に吹き飛ばすことに成功した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「……!っ、おおおぉぉぉ…!?
その一瞬の隙に、シウネーは怯んで動けなくなっている赤鎧たちへと近づく。なんとか持ち堪えていた赤鎧がそれに気づき、剣をシウネーへと振り降ろすが、
「……っ…!…聞いて…!」
「…お前…同じ韓国人か…?!」
「…ハーフですけどね…それよりも、私の話を聞いて下さい…!」
「話を聞けだと……卑怯な日本人に味方をする奴の話など聞いてどうしろと…!」
「あなたたちが騙されているとしても、そう言えるんですか…!」
「…何だと…」
反撃の意思を示さず、剣を右手で受け止めたシウネーの動きに驚いた赤鎧…コンバートプレイヤーだったが、シウネーが韓国語で話し掛けてきたことで、その驚きは更に大きくなった。
敵対する者の話など聞いたところでと思っていたところ、シウネーの放った一言でその動きが鈍くなってしまう…剣を直で受け止めたことで、血が流れ、痛む右手を堪え、シウネーは言葉を投げ掛ける。
「あの黒フードの男が言っていたことは全部嘘なんです。このサーバーは日本企業のものだし、私たちはクラッカーではなくて、正規の接続者です!」
「嘘をつくな?!見たぞ…お前たちはさっき、俺たちと同じ色の鎧を着ていたプレイヤーたちを皆殺しにしていただろう!?」
「あれは…あなたたちと同じように、偽の情報でダイブしたアメリカ人プレイヤーたちです!日本企業の妨害をさせられているのは、あなたたちなのよ!?もう一度よく考えて…!その怒りは、憎しみは…本当にあなたたちのものなのか…あの男の言葉に扇動されたものでないと本当に言えるのかどうかを…!?」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
最初は信じるなど言語道断といったコンバートプレイヤーたちだったが、シウネーが必死に訴えかけるその姿と雰囲気に、自分たちが今行っていることが本当に正しい事なのか、迷いが生まれていた。
シウネーに剣を向けている者も、体勢を立て直していた周りの者たちも、顔を見合っているも、どう判断すべきか分からないでいた。そんな中、シウネーの元に歩み寄る者がいた。
「それは…その話は、本当なのか…?」
「……ええ」
「…………俺の名はムーンフェイズ。そっちは?」
「私は…シウネーと言います」
シウネーの目を見て、その言葉に嘘偽りはないのだと確信した彼…ムーンフェイズと名乗った、緑の長髪が特徴の青年は兜を取り、シウネーへと自身のキャラネームを告げた。話を聞いてくれる彼に、シウネーも名乗り返す。
「そうか。シウネーさん…俺も、この話は妙だと思っていたんだ」
「なぁ…お前、何を言って…?!」
「っ!!」
「「「「「…!?」」」」」
ムーンフェイズが放った一言に、迷いを抱いていたコンバートプレイヤーたちが問い詰めようとするも、彼の睨みとワザと音を立てて剣を鞘に納めたことで、一斉に怯んでしまった。外野を黙らせたムーンフェイズは、そのままシウネーと話を続ける。
「ちょっと通してちょうだい…!ムーンフェイズ、やっと見つけた…乱戦になって逸れた時はどうしようかと……でも、やっぱりおかしいよ、このゲーム…それにあのサーバーの管理者って言ってた男も嫌な感じがするし…」
「メイシャン…お前もそう思うか?」
「…ええ」
乱戦が沈静し、ムーンフェイズが兜を取ったことでその姿を見つけた彼のゲーム仲間…メイシャンが同じく兜を取り、自身が感じていた違和感を伝える。そう…彼らは、PoHが演説していた姿に、疑念を抱いていた数少ないプレイヤーたちであった
「日本のハッカーたちが攻撃を仕掛けているって話だったけど、俺にはむしろ彼らが何かを守ろうとしているように見える…」
「っ…信じてくれるんですか…!?」
「でも、その話が本当なんだとしたら、それを証明できるものがないと…他の皆に信じてもらうのはちょっと難しいかも…」
違和感が確信へと変わりつつあったムーンフェイズとメイシャン…二人が自分の言葉を信用してくれたことにシウネーの表情に安堵が浮かぶ。しかし、他のプレイヤーたちの信用を勝ち取るためには、それ相応の証拠が必要だとメイシャンが口にした時だった。
「そこで日本人と何をしている…!」
「「「っ!?」」」
三人の足元に包丁に酷似した凶剣が投擲され、向けられた言葉に三人の視線が、その持ち主の方向へと向けられる。凶剣を投げたのと同じ人物…ムーンフェイズたちコンバートプレイヤーを扇動した、PoHが三人を見降ろしていた。
右腕を投擲した凶剣へと向けると、三人の足元の地面に突き刺さっていた剣が、PoHの元へと心意によって引き寄せられ、冷酷な指示がPoHの口から放たれる。
「裏切り者はこの戦場にはいらない!?お前たち!汚い日本人に騙されるなよ?!ここが日本のサーバーで、お前たちが正規の接続者だって言うのなら、なんでお前らだけがそんな高級装備だけを持っているんだ?チートで好き勝手に作り出したに決まってるぜ!」
「そ、そうだ…そうに決まってる!?」「やっぱり…俺たちを騙そうとしていたのか!?」
「ち、違います!?装備が異なるのは、私たちのメインキャラクターをこの世界にコンバートしたからよ!?」
「…ハッ!テストサーバーにメインキャラクターを移すなんて、そんな間抜けがいるかよ!?嘘だ!その女が言っていることは全部嘘だぞ!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
「本当よ!?信じて…!私たちはキャラクターを喪失する覚悟で、ここに来たの!?」
シウネーが声を振り絞り、叫びながら訴えるが…あまりにも相手が悪すぎた。
そのカリスマ性と演説力…事実を捻じ曲げて伝えるPoHの言葉は、日本に対する中国・韓国プレイヤーたちの憎悪を容赦なく燃え上がらさせ、容易くその狂気を伝染させていた。
それに加え、無意識の内に心意…まさしく『扇動の心意』とも呼べるPohの心意が、戦場にいるコンバートプレイヤーたちのほとんどを、自身の言葉を疑うことなく信じさせる人形へと仕立て上げていた。
そして、その狂気がシウネーへと刃を向けた。
「黙れ!?この…卑怯者の仲間が!?」
「ううぅ!?」「「!?」」
完全にPoHの邪気により先導された赤鎧がナイフを投擲したのだ。その一撃をまともに右肩へと喰らったシウネーは倒れ込み、ムーンフェイズとメイシャンの口から驚きの声が漏れる。
「ぐぅ………っ?!」
「シウネーさん…!大丈夫か……まさか、痛覚緩和機能が働いていないのか!?」
「そんな……みんな、落ち着いて!?この姿を見ても、まだ変だって気付かないの?!」
尋常でないその苦しみ方に、シウネーを心配して駆け寄ったムーンフェイズは、アンダーワールドにペインアブソーバーがないことに気付き、メイシャンは必死に周囲の人たちへと制止の言葉を掛けるも…既に手遅れだった。
PoHの思うがままに虚言を信じたコンバートプレイヤーたちの狂気は止まることなく、敵を殲滅させることだけに意識が集まってしまっていた。そのあまりにも狂った姿は、勇敢に戦ってきたスリーピング・ナイツの面々も思わず呑まれかけてしまうほどだった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
…そこからは、一方的な虐殺劇だった…
「…やめて…」
狂気に駆られたコンバートプレイヤーたちは、次々とコンバート軍とアンダーワールド人を無差別に殺していき、
「…やめ、て…!」
なんとかアンダーワールド人を守ろうと奮起するコンバート軍を嘲笑うかのように斬り刻み、もう動かなくなった体にまで執拗に攻撃を加え続け、
「…もう…やめて…!?」
友が、仲間が、守りたい人たちが…次々と傷つき、倒れていくその姿に…アスナの心が折れてしまった…願うように、そう呟いた言葉は誰にも届かない。
(お願い…誰か…誰か助けて…!?キリト君、フォン君…!)
心の中で、いつも自分を助けてくれてい大事な人と、頼もしい友の名を想うも…その願いは届かず、気力さえも完全に失われてしまったアスナの手から細剣が滑り落ちる。
戦意を失くしたアスナを仕留めるチャンスだと、赤鎧の一人が飛び出し、彼女の顔面に剣を叩きつけようと…
「…ストォォォォォプ!!」
「「……!?」」
突如、制止の声を掛けられ、赤鎧の剣がアスナの顔直前で止まる。代わりに、止められた腹いせとばかりに、赤鎧はアスナを殴りつけ、後退していった。
殴られたことで意識を現実へと引き戻されたアスナが見たのは…地獄といっても差し支えない光景だった。
「ぐううぅぅ…っぅぅぅ?!」
「がぁ………?!」
「…エギルさん!?しっかりしてください!?エギルさん?!」
トレードマークのバンダナを失い、左腕を斬り落とされたクライン、
シリカを庇い、腹や肩へといくつもの槍が打ち込まれたエギルが地面に横たわり、シリカが泣きながら声を掛けていた。
「シグ?!止まれヨ…止まってくれヨォォ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
腕だけでなく、右足までもを失い、首から尋常でない血が流れ出ているシグは意識を失い、地面に倒れていた。その血をなんとか止めよとうと、自身の服を押し付けるアルゴ…だが、その叫びとは裏腹に、血はどんどんと流れ出て、彼女の手さえも真っ赤に染め上げていく。
「はぁ…はぁ……!」
「…リズ…」
「ア…スナ……ううう……ううううううううぅぅぅぅぅ!?!?」
満身創痍で崩れ落ちてしまったリズ…その背中をアスナが優しく抱きしめたことで、堪えていたリズの感情が崩壊した。
「…みんなが…!あたし…あたしが…みんなを…!?」
「違う…違うよ……リズ…!?」
後悔、悲痛、苦しみ…全てを涙と共に嗚咽しながら吐露していくリズに、アスナも涙を零す。そんな空気を察することも、憚ることもせず、奴は赤鎧たちが譲った道を通り、アスナの元へと来た。
「武器を捨てて投降しろ。そうすれば、お前らも、後ろの連中も殺しはしない」
「ふざけるな!?この期に及んで、我らが命を惜しむとでも…!」
「駄目ぇ!?その人の言うことを聞いて!?」
「っ…何を言うておる、アスナ?!あやつの言うことなど…信じられるわけがないじゃろう!?」
「お願い!?それでも、今は従うしか…貴女たちの命をこれ以上失わせたくないの…!お願い……生きて…屈辱を味わおうとも、生き延びて下さい…それが…それが私たちの…たった一つの…!?」
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
冷然と降伏勧告を迫るPoh…その言動が信じられないリーナとカーディナルが反発するも、悲痛な叫びで懇願するアスナに、言葉を呑み込むしかなくなってしまう。
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
アスナの嘆願に、人界・コンバート軍共に剣を捨てた…その姿…勝利したことに、コンバートプレイヤーたちから勝鬨が上がる…その狂喜する姿に、ムーンフェイズとメイシャンは顔を伏せることしかできなかった。
「よう…久しぶりだな、閃光」
「……本当に貴方だったのね……PoH」
「おっと…懐かしい名を言ってくれるな。覚えてくれてて嬉しいぜ」
フードを取ったその素顔…それが、SAOで…『園内事件』と呼ばれた事件で対峙した時や、ラフィン・コフィン討伐戦の会議にて出た写真にあった、少しだけ垣間見た素顔と同じ…PoHだと、はっきり認識したアスナが少し鋭くなる。
しかし、そんな敵意など痒くもないと、それどころか、感動の再会だと言わんばかりに笑みを浮かべるPoH。その姿に、アスナは思わず問い掛けてしまう。
「…これは…復讐のつもりなの!?ラフィン・コフィンを壊滅させた、私たち攻略組への…!」
「フッ…フフフフフッ、フハハハハハハハハハッ!!……バッッカァじゃねーの!?」
「っ!?」
真剣に尋ねるアスナの姿を…今度は的外れだと、滑稽だとでも評するかのように高笑いのち、罵倒の言葉を飛ばすPoH。どういうことかと驚くアスナに、その訳を喜々として語り始めた。
「優等生面の閃光様に教えてやるよ!ラフィン・コフィンの隠れアジトを、てめぇら攻略組様に密告したのは……この俺様なんだぜ?」
「「「「「…!?」」」」」
まさかの事実がPoHの口から飛び出し、攻略組の…いや、SAOメンバーは思わず口を開き驚く。
「…そ、そんな……ど、うして…」
「…決まってるだろう?俺はな…お前ら、攻略組とかいう自分たちが正しい事をしていると思い込んでる連中を、人殺しにしてやりたかったんだよ。お偉い勇者面して、最前線でふんぞり返っている攻略組様たちをよぉ!!」
「それが……狙いだったの…!私たちや…キリト君にPK行為を背負わせるために…あんなことを…!?」
「イエース…といいたいところだが、その答えじゃハーフコレクトアンサーだな。もちろん、黒の剣士がPKすることで、心が壊れることを望んいたが…俺の標的はもう一人いたんだよ」
もう一人の標的…それを口にしたPoHの表情が凶喜から一転、怒りへと変わる。
「…いっつも、いっつも黒の剣士の隣にいるあいつ…黒の剣士の相棒は自分と言わんばかりに見せつけ、自分の行いに迷うことなく動いて、どれだけ黒の剣士を追い詰めようととも、必ず助けに入る……夢幻の戦鬼が俺のもう一人の標的だったわけさ…!」「
「…!フォン君まで……」
「ああ、そうさ!黒の剣士の横にはいつもあいつがいやがった!?俺がそれを見て、どれだけの思いに駆られたことやら…!黒の剣士の相棒に最もふさわしいのは、俺様だ!SAOで初めて対峙した時から感じていたぁ!
あの殺気、剣筋に反応速度…あいつだけが俺を殺してもいいのだと…黒の剣士は俺にそんな希望と喜びを与えた…だから、俺はずっと考えてきたんだ…俺を殺してもいいと思えた黒の剣士を殺せるのなら、自分の命を捨ててもいいくらい、俺は黒の剣士を愛しているんだってなぁぁ!
それなのに…!?あのガキが…どんな時にも、あのガキが邪魔をしてくる!まるで、俺の居場所を奪うかのように!?自分こそが黒の剣士の傍にいるべきだといわんばかりになぁ!?」
爆発した感情…歪み屈折した愛、ドロドロと怒りへと力を変えていく嫉妬、狂気を通り越した願望…自分が考えていたPohのイメージとは、あまりにもかけ離れたその様子に、アスナだけでなく、その場にいる者全員が圧倒されていた。
「……だから、あの討伐作戦を仕掛けさせたんだよ。あの時は、本当に腹がよぎれるかと思ったぜ…!あの戦場で、俺はハイドしてこっそりと見ていたわけだが…ブラッキー先生がブチギレて二人もブッ殺した時にも爆笑してたが…
夢幻の戦鬼が完全にプッツンした時には……あの姿を録画できてなかったのを後悔する程に笑ったさぁ!全く迷うことなく11人のプレイヤーを次々と屠っていきやがったからな!我に返って、武器を落とした時なんかは……心の底からざまぁみろと思ったさ!!あの場で、全部俺が仕組んだことだとばらして、どんな表情をするのか見てみたくなるほどになぁ!!!」
「貴方はどこまで…!?…どれだけキリト君やフォン君がその時のことを悩んで…苦しんできたと思ってるの!?」
「ヒュー!それは良かったぜ。というか、お前には感謝してもらいたいぐらいだぜ。黒の剣士を愛しているお前なら、いつもあいつの傍にいる夢幻の戦鬼がどれだけ目障りだったか…邪魔者は消したいと思う俺の気持ちを解ってくれると思ったんだがな」
「ふざけないで!?私は、フォン君のことをそう思ったことなんて、一度もないわ!?」
「そりゃ残念だな…だけど、お前さんの言ってることは怪しいもんだぜ?」
「…どういう意味よ…」
討伐戦のキリトとフォンの姿を思い出したのか、笑いを堪えきれずに浮かべるPoh…もはやまともな思考ではないと…キリトやフォンが背負った傷を嘲笑るその姿に、アスナの言葉に怒気が入るも、PoHは気にせず矛盾をしてきた。
「お前さんの言う通り、本当にそのことを後悔しているっていうのならよぉ…普通
VRゲームなんざ嫌になるんじゃねーの?殺した奴に申し訳なくてさ…なのに、黒の剣士もあのガキも平然とやっているじゃねーか」
「…そ、それは……」
「…まぁ、いいさ。真実は本人の口から語ってもらおうじゃねーか。分かってんだぜ…お前さんがここにいるのに、あいつらがここにいないわけがないよな?」
「っ……!」
PoHの指摘に反論することができず、言葉を詰まらせるアスナ。そんな彼女など眼中にないPoHは次のように要望を出してきた。
「俺の前に連れて来てもらおうか…愛しい、愛しい黒の剣士と……尤も憎い邪魔者の夢幻の戦鬼を…!!」
そこにいることなどお見通しとばかりに、キリトがいる馬車の方を向きながら、PoHはそうアスナへと…人界軍へと、キリトたちを連れてくるように命令した。
ザシュ!
「がぁ…!?」
鈍い音が複数重なり、激痛が走った体が悲鳴を上げたかのように、リーファの口から息が吐き出される。
リルピリンたちにイスカーン、シェータたち殿部隊を任せ、無数のコンバートプレイヤーたちの相手を引き受けたリーファ…だが、それは余りにも無謀な闘いだった。
鈍い音の元である大剣が何本も彼女の背中に突き刺さっており、鎧は所々が砕け、傷が少々しか見受けられない全身に対してその心は限界寸前にまで摩耗し切っていた。
(何人倒したの……何人斬ったの……もう数なんて覚えてない……なのに…!?)
何十人、何百人…途中から数えることを諦めたリーファの眼前には、尽きることを知らないかの如く、赤い鎧を纏ったコンバートプレイヤーたちが迫って来ていた。
受けた傷だけでなく、痛みや疲労を無理矢理押し込むために食いしばった歯からも血が噴き出すも、リーファは離すことなく握っていた剣へと更に力を込めて構える。
「はぁ…!はぁ…!っ……うわわあああああああああぁぁぁぁ!?!?ヴァーデュラス・アニマァァ!!!」
自身の負担を振り切るかのように、神器の名を叫び、リーファがその力の一端を解き放つ。地母神の大地の力と、リーファ自身の心意が形として現れた暴風、それぞれが混じり合った一撃を、両腕で振るった神器から放たれた。
「「「「「?!?!?!?!?!?!」」」」」
二つの人外の力が乗算した一撃を咄嗟に躱すことなどできる者などそういる筈もなく、気付いた時には、その身が地の祝福と暴風を纏った斬撃に刻まれ、前方に展開していたコンバートプレイヤーたちを一掃した…だが、
その後方から、更なる増援が前へと出てきた…まるでいたちごっこと感じるリーファの心が更に削られる…そんなリーファの心情などお構いなしに、大技を放った隙を狙うべく、彼女の左右から、プレイヤーたちが迫って来ていた。
「くっ…!?はぁぁ!…っ…!ぐぅぅぅ?!」
切り掛ろうとしてきた一人目を蹴り飛ばし、背後を取ろうとした敵へはカウンターの一撃を剣で喰らわせて倒す…しかし、心身…特に精神的ダメージの蓄積が祟り、死角を突いてきた三人目への反応が遅れてしまう。
ギリギリで致命傷は躱すものの、左腕の肘から先を斧で斬り飛ばされてしまった…激痛で一瞬動きが鈍るものの、それを無視して、後ろにいた四人目と共に敵の胴体を斬り飛ばす。
「はぁ…はぁ…はぁ……まるで、呪いね…」
近くに落ちた左腕を拾い、切断面と併せながらリーファが言葉を零す…そして、そのまま、右足で地面を蹴りつけると、枯れていた地面…リーファの足元に草木や生花が生まれ、その恩恵を彼女へと与える。
(テラリアアカウントに付加されたスーパーアカウントの権限…『無制限回復能力』…聞こえはいいけど、この世界じゃそんな生易しいものじゃない…どれだけ傷ついて激痛を味わっても、倒れることは許されない…!)
全身の傷が癒えていき、切断されていた左腕は元通りに繋がり、背中の傷が塞がると共に剣たちが抜け落ちる…だが、リーファの考え通り、どれだけ体が治ろうとも、現実世界と同様の苦痛を味わうこの世界…アンダーワールドにおいては、無制限自動回復能力は呪いと言っても同然の力だった。
死にたくても、天命が一定値以下になった途端、オートで能力が発動してしまうのだ…今、リーファが無制限に湧き出てくる敵たちに挑めるのは確かにこの能力のお陰だが、言い換えれば、リーファの心が完全に折れない限り、天命を全損するという方法では、この地獄から逃れることができないということも同義なのだ。
そして、地獄にも等しい事態にも関わらず…むしろ、それを承知の上でこの世界へと来たリーファの心が折れるわけもなく…
(でも、お兄ちゃんなら……どんなに辛い時でも、どんなに苦しい時でも…こんな傷ぐらいで絶対に倒れたりしない…!?)
自分の兄なら…義妹である自分が憧れ、愛おしく思ってきたキリトなら、絶対に諦めたりしないと…
『嫌だ……俺が生きている限りは、パーティメンバーを殺させたりはしない…今度こそ、誰も死なせたくない…それだけは絶対に嫌なんだ!』
『友達になりたいと思っているからこそ…例えどんな理由があっても、自分の利益の為にそういう相手のことを斬るのは……俺は絶対にしない』
『フォン!お前がどんなに邪魔をしたって、もう俺は迷わない!!!お前が敵になるのなら、お前を倒してでも、俺はアスナを取り戻す!!!』
『リーファ…俺、ステータスリセットして弱っちくなっちゃったからさ……手伝ってくれよな?』
「(そうだよね、お兄ちゃん……ここが地獄だろうと何だろうと、守りたいもののために、お兄ちゃんたちは闘ってきたんだよね…)なら、あたしも倒れない…!これくらいの敵、一人で斬り伏せてみせる…!!」
あの時…ルグルー回路で火妖精の大群に追い込まれた時も、目的の為に自分を斬ってもいいと告げた時にも、操り人と化したフォンと再び対峙した時にも、自分が一人だけ空気に馴染めないと泣いていた時にも、
何度も見てきたその背中とくれた言葉がリーファの脳裏に蘇り、限界を迎えているであろう身体を動かす心に力を与える。
「だって、あたしは……お兄ちゃんの…黒の剣士キリトの……妹なんだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その言葉と共にリーファが神器を構える…それは、キリトが得意とし、ここぞという時には何度も放ってきた技…その姿が、キリトと重なったかの様にそっくりな構えをしたリーファは、兄がその技を放つ姿を強くイメージした。
神器『ヴァーデュラス・アニマ』の膨大な力に、更なる心意の上乗せがされたことで、その刀身が真っ赤な燐光を纏う…そして、咆哮と共に突き出された剣から、先程以上の速さの突き…いや、レーザーといってもいい程に射程が拡張された心意版片手剣重単発ソードスキル〈ヴォーパルストライク〉が、赤鎧たちを再び一掃していく。
その姿…いや、心意を剣に乗せた技そのものが、チュデルキンを葬ったキリトとほとんど同じだったのは偶然だったのか…だが、そんな大技を何度も連発できるわけもなく、
「ぐぅ……ごほッ…がはぁ…!!」
立て続けに大技を放った反動は確実にリーファの身体を蝕んでいた。込み上げてきた血を口から吐き出し、その場に崩れ落ちる…それを無理矢理抑え込み、立ち上がろうとするも、
「はぁ…ぐぅぅ…!…っ、ぁぁあああぁ!?あああぁぁっ……ぐぎうぅぅぅううう…!ああああああああああああああぁぁぁああっ!?!?」
立ち上がって瞬間、その隙を狙い、投擲された槍がリーファの左顔面を穿ち抜いたのだ。視界の半分が消え、残った視界も飛び散る血で塞がり、あまりの激痛にリーファの口からも、言葉になっていない悲鳴が上がる。
それを無理矢理引き抜き、更に噴き出す血すらもお構いなしに、痛みを掻き消す様に右足を地面へと踏み込み、無制限回復能力を発動させる。
「…へへっ……まだ、よ…!まだまだ…あたしは闘えるわ…!?」
どれだけ身体が治ろうとも、人が痛みに耐えられるのは限度があると言われている。その言葉を自分に言い聞かせるように、呟いたリーファ…涙を流していることも忘れ、強がりの笑顔を浮かべ、残っているコンバートプレイヤーの元へと一気に突っ込んだ。
「…はあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
三度目となる神器の力の解放…自分がどうなるかなど分からない。それでも、リーファは迷うことなく、その力を解き放った。
一撃目、二撃目を大きく超える燐光と暴風がその戦場を大きく揺らし、一閃の光が戦場を包んだ。そこに残っていたのは、
「……あたし……頑張った、よね…おに、い…ちゃん……」
リーファただ一人がその場にしゃがみこんでいた…もう身体の感覚はなにもなくなってしまい、周囲の敵を全滅させることができたのをなんとか確認した彼女はそう呟き、瞳を静かに閉じた。
「くっ…!?」
空中で二回…銃声と共に金属音がぶつかり合い、それぞれの弾丸が狙いを外され、あらぬ方向へと逸れる。
スナイパー同士の対決としては、遮蔽物のない、更には相手の姿を肉眼で捉えることのできる近すぎるという異様な距離間にて、シノンとサトライザーが撃ち合っていた。
ALOでは空中戦においての弓の経験があるものの、GGOでは…更には、愛銃であるヘカートを使っての空中戦は初となるシノンは、自身のセンスを掛け合わせ、なんとかサトライザーへと食らいついていた。
しかし、その闘いはあまりにも一方的なハンデが働いていた。
苦痛の声が漏れるシノン…ヘカートのボルトを引き、素早く次弾を装填してから、スコープでサトライザーを捉えようとしたが、
「っ…!?ぐぅぅ……!」
スコープを覗いた瞬間、向こうの発砲光に気付いた時には、シノンの左足が銃撃によって吹き飛ばされていた。他のVRMMOでは感じたことのない…現実世界の痛みと全く変わらない激痛をなんとか堪え、ヘカートを構える。
自身は飛行しながら回避することにさえも専念しなければならない一方で、サトライザーは降り立つと同時に召喚していた暗黒獣に立つことで、意識を狙撃にのみ集中させることができていた。
そして、サトライザーには特殊部隊で培ってきた技術と経験があった…それこそ、VRMMOだけでなく、現実世界でのそれも加えた力量の差は、いくらGGOエースクラスのスナイパーであるシノンであっても埋めることは容易ではなかった
更には、不利なことはそれだけではなかった。
「……!」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
二連射の弾丸を左右に揺れ飛ぶことで躱し、反撃の一射を放つ…しかし、それを冷静に見極めたサトライザーは弾丸を撃ち合わすことで相殺する。
負けじと続けてトリガーを引くも…それすらも、サトライザーは何の苦労もなく相殺し、ヘカートの弾丸があらぬ方向へと弾かれてしまう。
(ヘカートⅡの装弾数は1マガジンで7発…!?これが……その7発目…!対して…バレットXM500の装弾数は10…!)
シノンはサトライザーの持つスナイパーライフル…バレットXM500のことをよく知っていた…どうしても埋められない差……装弾数という物量的差に、最後の一発すらも相殺され、スコープを覗いていたシノンの表情が凍る。
「(あと2発……!あいつには弾が…!?)…ゃああぁぁ!?!?」
スコープ超しに見えたサトライザーが引き金を引き、銃声から僅かに遅れた弾丸が、シノンの残っていた右足を吹き飛ばした!
痛みと、残っていた足をも撃ち飛ばされたことで体勢を崩してしまったシノンが、もう飛んでいることさえできず、重力へとその身体を引っ張られる。
(や…られ、る……!でも……もう、私には…弾も、飛ぶ力も……ない…!)
どんどんと加速していく自身の身体…激痛が襲い、意識も飛び掛かっているシノン…その視界に、落ちていく自分へと狙いを定めるサトライザーの姿が映るも、動くことも…もう何もできないと感じてしまったシノンの心が慚愧の念で一杯になっていく。
(ゴメンね…アスナ……ゴメンね…ユイちゃん………ゴメンね…)…キ…リト…」
「…さようならだ…シノン」
全く心の籠っていないその一言と共に、引き金へと指を掛けたサトライザーの銃が火を吹き、鳴り響いた銃声と共に弾丸がシノンを貫こうと…
「っ…!?えっ……ぁぁあ…!!」
衝撃と痛みを覚悟し、目を瞑るシノン…弾丸に撃ち抜かれたと思った彼女だったが、貫かれる感覚が来ず、代わりに鈍い衝撃音が彼女の目を見開かせた。
鎧を砕き、衣を撃ち破った弾丸は…彼女の身体を貫く手前で制止していた。いや、正確には、それによって制止させられていたと言った方が正確だった。
先程、サトライザーの負の心意からシノンを守った電極パット…『大切な思い出』が盾代わりとなり、弾丸がシノンへ直撃するのを防いでいたのだ。
(…キリト……!そう、だ…負けられない…!キリトなら、こんな時にだって絶対に諦めたりしない!?私も……絶対に諦めない!!)
またしても自分を救ってくれたそれに…キリトがそうするであるように、自分もこの程度で折れるわけにはいかないと……シノンの眼に再度光を…先程以上の力を込めた光を灯した。
(例え…イマジネーションによってヘカートに…銃に変形したとはいえ、この武器に与えられたシステム上の特性は持続している筈…!…絶対に諦めたりしない…!!)
もう一発も弾丸が残っていないヘカートを構えるシノン…既に弾丸は残っていない筈のその行動にサトライザーはどういうことだと訝しむ…だが、シノンは最後の可能性に賭け、ヘカートのスコープでサトライザーを捉える。
飛ぶことに意識を集中させていたさっきとは異なり、落下している中、狙撃にのみ集中できている今の状況は…シノンのスナイパーとしての能力を最大限に活かされる時だった。
(信じるんだ、私を…ヘカートを……キリトを…!!)
シノンの想い…心意が力へと変わり、電極パットまでもが光り輝き、ヘカートへと神聖力を媒体としたエネルギーがリチャージされていく!
(周囲の空間からリソースを自動吸収し、攻撃力をチャージするソルスの弓…アニヒレート・レイの力なら…!)
スコープにて、拡大と縮小を繰り返すバレットサークルが収束した瞬間…最大限にまでリチャージされたヘカートの引き金へとシノンの指が掛けられ…
「…!!いっ、けえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「……!?!?」
神器『アニヒレート・レイ』に対物ライフル『ウルティマラティオ・ヘカートⅡ』の威力が相乗された、光の弾丸がシノンの咆哮と共に放たれた。
予想外の…完全に油断し切っていたところに繰り出されたシノンのあり得ない一撃を、対応するどころか、反応することすらも完全に遅れたサトライザーがどうにかできる筈もなく、弾を撃ち尽くしていた銃と共にサトライザーを爆炎が襲った。
対するシノンも、狙撃することにのみ意識を集中させていたせいで、爆風をもろに喰らい、地面へと叩きつけられていた。幸いなことに落下していたことで、地面からの距離が近かったため、そこまで酷いダメージを負うことはなかった。
両脚を失っていながらも、攻撃が直撃したサトライザーの生死を確認すべく、腕で体を支え起こし、爆煙に包まれている空を見上げる。煙が晴れ、見えてきた光景は…
「…っ…!?」
サトライザーは生きていた…その事実に、シノンは一瞬息を呑んでしまう。だが、流石のサトライザーも無傷とまでは済まなかった。
銃を持っていた右腕は肘から先が完全に消し飛び、顔面の右部分の大半が焼きただれていたのだ。
「…!……!!……!?!?(あり得ない…たかが、たかが娘一人にここまで傷を負わされるとは……こんなことが…!?)」
シノンと対峙して初めて、サトライザーの表情が崩れた。怒り、困惑、悔恨…自分は狩る側だった筈なのに、狩られる側であったシノンからダメージを負わされたことが、サトライザーに屈辱を与えていた。
「…いいわよ……何度だって、相手をしてあげるわ…!」
サトライザーは認められなかった…眼下にて地面に伏しているシノンが、未だに闘う意志を目に宿していることが…圧倒的な力で押していた筈が、その心をいつになっても折ることができないという現実が…
何よりも、シノンの目に宿る強き光が…ベクタの体を使っていた時に対峙したユージオの目とダブって見え、記憶を刺激されたことでサトライザーの怒りと悔恨を更に増加させた。
(あの目……あの目だ…!忌々しい……その目をした者にまたしても、やられたというのか…!?)
油断していたことは認める…だが、それでも、眼下にいるシノンの姿が…ユージオと重なったことがどうしても許せず、サトライザーは大きく息を吐き、その狂気を解放する。
「(ここで始末しなければ…色々と面倒になりそうだ)…いいだろう。そんなに死を望むのなら、ここでひと思いに死なせてあげよう…!」
シノンがやってみせた空間からのリソースを吸収する術を、負の心意で無理矢理ではあるが再現したサトライザー…失っていた右腕が、人の腕の形…ではなく、いくつもの触手が絡み合った異形の、先端が銃口を模した凶腕へと変わった。
「……!くっ…!?」
シノンもヘカートを構え、再度空間リソースを集めようと試みるも、それよりも俄然速く、サトライザーの凶腕の銃口へと空間リソースが、闇を連想させる黒光となって集まっていく。
「……消えろ……」
無情な宣告と共に、サトライザーは銃腕からエネルギーを放とうとし、銃口から凶弾がシノンへと放たれようと……その場を揺らす撃音が鳴り響いた…!
PoHの歪んだ愛炸裂……アニメだとそこまででしたが、本作は原作の設定を織り交ぜた結果、とんでもないことになりました。
そして、シノン側もまさかの展開…ユージオたちに一杯食わされたサトライザーが、止めを刺そうとするとは…
色々と改変しておりますが、それぞれの結末はもうしばしお待ち頂ければと思います。
あまりにも重たく暗い話が続いてますので、少し明るいお話を…
リーファの視点で描かれたキリトの言葉…本作では大幅にカットした『フェアリィ・ダンス』からのチョイスでした。(操り人形と化していたフォンと世界樹にて二度目対峙した時のですが)虫食いになっていた台詞の完全版も公開した形ではございますが…実は少しだけ台詞をアニメと変えているものもあります…これが、キリトが自我を喪った理由に大きく繋がっておりまして…
滅茶苦茶シリアスなお話が続きますが、もうしばし辛抱頂ければと思います…!
そんなわけで次回は現実世界へとお話が一旦移ります…というか、この話をやらないと、キリトもそうですが、フォン復活のためのピースがどうしても埋まらないものでして…
おそらく一話で終わりますので、その後、ようやくユウキ視点へとお話が戻ります。つまりは……そういうことですので、もうしばし重たいお話にもお付き合い頂ければ幸いです。
それでは、また!
蓮丸さん、
ご評価ありがとうございました!
ミトを本作に登場させるとしたら、その後はどういう感じで登場してほしいでしょうか?
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半レギュラー化(物語にもがっつり絡む)
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スポット参戦(閑話に出てくるレベル)
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まさかのサブヒロインポジ