ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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さてと…どうして、前話であのようなお話を書いたのか…
何が、フォンをあそこまで追い詰めてしまったのか…

それを紐解くのが今回のお話となります。

皆さんは、どこかおかしいと感じた部分はありませんでしたか…?

フォンがあまりにも清廉すぎると、
フォンの正義感が暴走しぎているのではと、
フォンが…違う世界に来たと言うのに、その後も動揺する姿が見受けられなかったことを…

WoU編を書き始め、いくつもの問題作を書いてきましたが、おそらく一番の問題作となります。

闇と、影と、罪と…一人の哀しい少年の過去のお話が、ようやく明かされる時が来ました…

それでは、どうぞ…!



第ⅩⅬⅢ話 「             」

『音弥さんちの息子さんは何でもできるわね』

 

…そう言われ始めたのはいつの頃だっただろうか…

 

記憶にあるのは、幼稚園の年長組だっただろうか…他の母親や近所の人が、俺を見てそう評価していたことをよく覚えている。

 

『あの年で、ピアノを弾いたそうよ?しかも、先生がちょっと教えただけで、ほとんど弾けるようになったとか…?』

『幼稚園のクラブサッカーでも、かなり上手らしいですよ?』

『それに加え、そこらの中学生や高校生よりも礼儀正しいのよね?本当、手が掛からない良い子って感じね』

『彼みたいな色々なことができる才能を持っている子を神童と言うのかしらね』

 

今から思えば、言いたい放題言われていたなと思うが、そんなことなど気にしてもいなかったのが、視線の先にいる小さい時の俺だった。

 

《おとうさんやおかあさんのめいわくにならないようにしなくちゃ…!》

 

当時の俺は、そんなことを考えていた…はっきり言えば、可愛げのない子供だったと思う。しかし、その時の音弥家の家庭事情からすれば、そうなってしまうのも当たり前だったのかもしれない。

 

当時は、父さんも個人事務所を独立したばかりで方々に赴くことが多く、母さんも丁度産休が空け、大手企業からの依頼が重なり忙しくしていた。

 

父は弁護士、母はバリバリのキャリアウーマン…そのせいもあって、俺は子供の頃から一人でいることが多かった。明日奈が言う様に、ある意味ではお坊ちゃま家庭と言われても違いなかったとも思う。

 

彼女と違うのは、俺の周りには家政婦さんみたいな人はいなかったし、祖父の家も西の方であるため、必然的に幼稚園にいる以外は家で一人でいるのが当たり前だった。

 

だからといって、変な方向に性格が捻じ曲がったわけでもない。幼稚園の送迎には父さんか母さんが送ってくれて、遅くなろうとも必ず迎えに来てくれていた。誕生日には、無理をして時間を作ってまで一緒にいてくれていた。

 

…それだからこそ、忙しそうにしている両親を見て、俺は自分ができることはできるように、迷惑を掛けない様に良い子にしていようと思っていた。

 

その結果が、周りの過剰な評価だったわけだ。

 

ピアノを弾けたといっても先生が弾いているのを見て真似しただけ、サッカーだって必死にやっていた結果だ。礼儀正しいと言われるのも、ただでさえ忙しい両親の負担を掛けたくないから、わがままを言わなかっただけだ。

 

だが、周りはそんなことなど知ってくれるわけがない。幼稚園児にしては異端、異常に大人びているその姿は、他と比較すればまともに見えるだけで、子供としては間違っていたと今では思う。

 

《蓮…欲しいものはないの?》

《ううん、ないよ…それよりも、りょうりのしかたをおしえてほしい!》

 

時たまの休みにも、自分の欲よりも母親にそんなことを願っていたのだから、本当に可愛げはなかったと思う。両親も、俺があまりにも良い子であることに疑念を抱いていたようだが、いつも一人にしてしまっていることもあり、強く何かを言うことはできなかったのだろう。

 

《…何かスポーツをやるべきかな…》

 

小学生になって、できることが広がってきた中で、俺は部活に興味を持っていた。一人の時間を潰すためにという不純な動機もあったが、それ以前、部活をしていれば、両親が俺を一人にしていることを気に病む機会も減るかという打診もあった。

 

だが、これといったハマるものがなく…一年の間は色々な部活を入っては辞めてを繰り返していた。

 

サッカー、野球、水泳、駅伝、バスケ、卓球……あるもの全てを試すも、イマイチ馴染まないというか、違うような感じが強かった。できなかったとかいうわけではない…むしろ、それなりにできた方だと記憶している。

 

そんな感じで、小学校二年の時に始めたのが剣道で…ようやく自分に合っている部活を見つけられたと思った。

 

両親も、俺が剣道を始めることには反対する理由もなく、むしろ様々な部活を転々としていたことや、俺が初めて主導でやりたいと言ったことを喜んでいた。

 

 

最初は竹刀を振るのがとにかく楽しかった…そして、自分がどんどんと強くなっていくことを感じられたのが良かった。

 

それだけを考え、部活で剣を振り、家では料理を始めとした様々な家事をどんどんとできるようになっていき、勉強もかなり良い成績を取っていた。『どこぞのラノベの主人公かよ』というツッコミが出てしまいそうになりながらも、必死でそれらを頑張っていく子供の俺が視界に入っていた。

 

勉強ができるのは、小学生というそこまでハードルを求められていないものでの基準だ。それでも、クラスメイトに何かを聞かれた際に、勉学以外のこともスラスラと答えられる姿は、確かにできる子という印象だったのかもしれない。

 

『音弥ははくしきだよなぁ!』

 

そんなことを言われることも少なくはなかった。まぁ、そう言われても天狗にならなかったので、この時から謙虚でいすぎたのだろう。

 

そして、勉学以外…剣の腕もメキメキと上達していたわけなのだが…

 

『優勝おめでとう、音弥君!まさか、一つ上の剣士に勝ってしまうとはな…』

 

…こういうのもあれだが、確かに俺には剣の才能があったらしい…

 

先生に勧められ、低学年の部の大会に出た俺は地方大会を勝ち抜き、都大会を初出場ながらに優勝を勝ち取ってしまったわけだ。

 

先生や部のみんなから賞賛され、思わず笑みが零れてしまったその姿は、ようやく子供らしいところを見せたといっても良かっただろう。もちろん、両親もその結果を喜んでくれた。

 

…だからだろう…俺はこの時から、歪み始めたんだと思う。

 

歪み始めたと言っても、勝ちにこだわり始めたとか、剣の道に邁進して勉強におろそかにしたとか…そんな単純なものではない。

 

《良い事をすれば、皆が喜んでくれる!できることをもっと広げれば、色んな人の役に立てる!自分は誰かに役に立てる人間にならないといけない…!》

 

それは見方を変えれば、一種の強迫観念に近かった。

 

俺は人の期待や反応ばかりを気にして、自分のことをおざなりにするようになった。できることが多い自分は、その分、人の役に立てるような人間にならなければならないと…

 

《蓮…別にそこまでしなくていいんだぞ?》

《ううん…もう買い物ぐらいできるから。夕飯もほとんど俺が作ってるんだから、そこも任せてよ!》

 

仕事が少し落ち着いてきたこともあり、俺の家事の負担を減らすべきだと思った両親が心配するも、俺は今のままで問題ないと返した。

 

《えっと…この料理は……うん、できた》

 

単純な料理だけでなく、オリジナルの味付けまでも加えていき料理していく。そして、それを作るに当たり、どういう材料が必要で、どう買えば出費を抑えられるを計算できるようになっていた。

 

《音弥君、君なら全国での優勝も狙えるじゃないか!?》

 

高学年になり、全国大会へも出場できるようになったこともあり、剣術の腕を見込まれて、部活の先生からもそう評価されるようになった。

 

聞いていれば、恵まれている話ばかりだろう。しかし、それが毒ともなった。

 

求められることを俺は望んでいた…できることがあるからこそ、そこに俺の居場所があるのだと思い込んでしまっていたんだ。

 

(できることがありすぎるから…押し潰されそうになっているとも知らずに、期待を背負いまくっていた…子供にはあまりにも大きすぎたそれが…)

 

…刃となって、俺を襲い掛かったと言ってもいいだろう…

 

『若き天才剣士』…地方紙でその二つ名が取り上げられた頃、俺は夏の都大会を控え、全国大会出場、そして、優勝を目指して稽古に励んでいた。

 

《音弥!試合しようぜ!》

《おう!悪いが、今日こそ勝ち越しさせてもらうからな!》

 

懸命に竹刀を振るう俺に、そう声を掛ける人物がいた…同い年の竹原という剣士だ。ライバルと呼べる人がいたのなら、彼こそがそうだった。他の剣士たちと戦っても、圧倒していた俺に、唯一互角に戦えていたのが竹原なのだ。

 

細身でありながら、早く強い一撃だけでなく、技巧面に秀でていた俺に対し、竹原はその大きな体格を生かした豪快な攻めを手法とし、小手先の技すらも封殺してしまう攻勢を得意としていた。

 

人は俺たちを比較してこう評価していた。『天才肌の音弥』と『努力で天才を追い越す竹原』と。

 

実際、俺たちの勝敗は一進一退…勝った次の日には負けて…その勝敗すらも、一本ずつ取ってから、三本目をギリギリの攻防で奪取するという、どちらが勝っても負けても不思議ではない試合ばかりだった。

 

俺も竹原を好敵手として、竹原も俺をそうだと認識していた。だから、俺たちはこう約束していた。

 

『本番の試合で、どっちが勝っても恨みっこなし…正々堂々、互いが持てる全力をぶつけて戦おう…!』

 

そう約束していた…していたんだ…

 

だから、あんなことが起こったんだ。

 

都大会決勝…俺と竹原は順調に勝ち上がり、決勝戦で相まみえた。

 

言葉を交わす必要なんてなかった…約束通り、全力を以て戦うだけ。

 

…決着は一瞬だった…おそらく30秒も掛からなかったと思う。小手と面…その二本を奪った俺が圧勝した。

 

約束通り、全力を以て対峙した。その結果、あまりにも早く終わり過ぎた決勝を見ていた観客は一瞬言葉を失っていたが、勝敗が着いたことを認識し、歓声を一気に上げた。

 

《流石は天才剣士…》

《あんなにあっさりと勝敗が着くとはな…相手の体調が弱かったのか?》

《まぁ、音弥なら…この結果は当然だよな》

 

周囲からそんな声が聞こえてくるが、俺は怒りを覚えていた。

 

《竹原ぁ!?》

 

授賞式などどうでもよかった…防具を乱暴に脱ぎ捨て、姿を消した竹原を探し求めた。そして、一人裏口からどこかに行こうとする竹原を見つけ、俺は掴み掛かった。

 

《どうしてだ!?全力で戦おうって…悔いのないように戦おうと約束しただろう?!なのに、さっきの試合は何だ!?お前なら、…っ…!?》

 

怒りのままに、久しぶりに感情をむき出しに竹原を壁へと追いやったが…その言葉が続くことはなかった。されるがままになっていた竹原が、俺を掴み返して壁へと叩き付けたからだ。

 

《全力だと…?全力じゃなかったのは、お前の方だろうがぁ!!》

《な、何を言ってるんだよ…俺は全力だった…!》

《そうだろうな…お前の全力はあれがそうだったんだろうな!どんな気分だ?さぞかしいい気分なんだろう!?》

 

竹原の言っていることが理解できない…怒りたいのこっちの筈なのに、竹原の目には…今まで一度も見たことのない憎悪が込められていた。その目、その表情に、何も言えなくなってしまう。

 

《いつもの試合じゃ、手を抜いていたんだろう!?俺をお前のライバルだと思わせておいて、心の底では嗤っていたんだろう!》

《そ、そんなことは……》

《こんな大舞台で、ああもあっさりと勝てば、最高の気持ちだろう?!俺を絶望させて、この上なく嬉しいだろう?!俺が…俺がどんな思いでお前に追い付こうとしてきたかも知らず、お前は俺を掌で躍らせていたんだろう?!》

《…っ…!?》

 

心外だと、そんなことを考えてなどいなかったと…反論したくても、声が出てくれない。竹原の言葉が、心を突き刺すかのように聞こえる。反論どころか、拘束されていることに抵抗する気もなくなっていた。

 

《天才様はいいよな!?何でもできる、考えたことが思うがままに実行できるんだからよぉ!できない人間のことなんて、少しも考えたことなんてないだろう?!》

《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》

《良い子のつもりで、笑って、明るく、気さくに話し掛けてきて…どこにも非がない!見てるだけで、その姿を見せられてるだけで、相手がどんな風に思うかを知らずによぉ!?》

《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》

 

《お前なんて…お前なんかがいなかったら…!?》

 

《(…っ!?)》

 

その一言…それに今までの全てを否定されたような気がして、過去の俺と今の俺が揃って息を呑んだ。その先は言われなくても、理解してしまった。

 

言いたいことを言い切ったのだろう…俺の襟元を掴んでいた手を離した竹原は、それ以上は何も言わず、どこかへと行ってしまった。

 

そして、俺は呆然としたまま、その場にへたりこんでいた。

 

《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》

《蓮……少しはご飯を食べなさい?食べたくないかもしれないけど…それでも、少しは食べないと…》

 

その日から一週間、俺は引き籠った。竹原との一件から後のことはほとんど覚えていない。辛うじて覚えていたのは、偶然休みが取れ、試合を見に来てくれていた両親が、自室呆然と化していた俺を見つけ、授賞式を強引に断り、家に連れて帰ってきてくれたことぐらいだ。

 

学校も休んだ…食事も碌に取れずにいた…そんな俺が、いや、初めて弱さを見せた俺の姿に、両親は仕事を休み、ほとんど付き添ってくれた。

 

何かがあったことは両親も…もしかしたら、事の次第も知ったのかもしれない。それでも、下手に聞き出さなかったのは、俺のことを思ってのことだったのだろう。

 

もしあの時、両親がそうしてくれてなかったら…俺は間違いなく壊れていたと思う…最悪の意味で。

 

一週間後…俺は自室から出ることができた。そして、両親に…人生で生まれて初めての我儘を言った。

 

《…剣道を…やめたいんだ…》

 

 

 

両親はその意向を半ば叶えてくれた…部活の顧問には、両親から退部することを伝えてくれた。都大会優勝者に与えられる権利…全国大会出場も辞退することを伝えてくれた。

 

だが、それとは別にあることを模索してくれていた。

 

《…剣術道場…?》

《ああ…お前が剣道に、嫌な記憶を覚えていることは分かってる。だが、お前が初めて真剣に打ち込めたのも、またそれだ》

《もちろん、あなたが本当にやめたいと言うのなら、無理強いはしないわ。でも、もし少しでも剣道を続けたいというのなら…》

《……少しだけ…考えさせて…》

 

父さんと母さんは、俺の本音にも気付いていた。

 

剣が嫌いになったわけじゃない…大会に…自分の力を見せることが嫌になったんだ。その思いを理解した両親は、大会出場などとは関係ない、鍛錬のみを目的とした道場を探してくれていたのだ。

 

全力を…できることをやった結果、あんな憎悪を向けられるとは思ってもみなかった。もうあんな思いはしたくなかった。

 

それが、今通っている剣道の道場だった。そこの師範は、俺のことを知っていたが、深く詮索することせずに受け入れてくれた。

 

《君の剣術の腕は、我が道場の活気にも繋がるからのう。経緯などはどうでもよい。君は、君が思う様に剣を振るうがよい》

 

その言葉に救われた気がした…あの言葉がなければ、俺は完全に剣をやめていたと思う。

 

でも、俺の闇はあまりに深かった。それを見通せというのは…いや、まだ小学生がそこまで思い込んでいることを察しろというのが無理な話だった。

 

《何を間違った?》

《何が悪かった?》

《どうすれば良かった?》

《何が正しかった?》

 

閉じ籠っていた間、ずっとそんな考えが頭を巡っていた。

 

…正しい事をしてきたつもりだった…

 

…できることをやってきたつもりだった…

 

…誰かの期待に応えたくて、力の限りを尽くしてきたるつもりだった…

 

でも……間違った…俺は、失敗してしまった…

 

《両親に迷惑を掛けた…心配すらさせた》

《俺の行動が、竹原をあそこまで追い詰めた》

 

失敗したのなら、間違ってしまったのなら、それを繰り返してはいけない。

もう二度と間違えてはいけない…あの過ちを犯してはいけない。

 

《…今度こそ、できることに見合ったことをするんだ。もう間違えない…間違えちゃいけないんだ…!》

 

この時だ…俺という、歪な性格が形成されたのは…

 

そこからはただただ必死だった…人間関係は希薄なものに、何かに追われる様に俺は知識や技術を貪欲に集め出した。

 

《蓮、進路を進学校に決めたと聞いたが…》

《うん…将来的には法学部に行きたいと考えてて…その為にも、今からいい学校にいるべきだって思ってさ》

《そうか…だが、別に私みたいに弁護士になる必要はないんだぞ?》

《分かってるよ…でも、俺は弁護士にならないと…父さんだって、後継ぎがいた方が安心だろう?》

《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》

 

中学に上がり、高校の進路を父さんに聞かれた時に返した反応を今でもよく覚えている。父さんの為に…そう告げた筈なのに、父さんは良い顔をしなかった。

 

【なんでだよ…俺は父さんの為に…!?】

 

それからだった…父さんと、微妙に距離ができてしまったのは。父さんは分かっていたのだろう。今思えば、父さんがあんな顔をした理由がよく分かる。

 

《今回の一位も音弥かよ…》

《いや~、あいつに勉強で勝てる奴いるのかよ?》

《それで運動もできるんだもんね…》

 

《何でもできるって…凄いよね》

 

【何でもできるって…俺の何を知ってるっていうんだよ…!?】

 

クラスメイトたちのそんな声が聞こえつつも、俺は何も気にしていなかった。できることをしているだけ…求められることをしていただけだった。

 

 

【…俺は…俺は何のためにこんなことをしているんだ…?】

 

高校に進学した時、俺は空っぽのままだった。

 

誰かの役に立つ居場所にいたい…できることが活かせる場所にいたい…自分という一人の人間を見てくれる場所がほしい…

 

今なら…いや、こうして客観的に見れば、よく分かる。

 

俺は、自分という個人を受け入れてくれる場所が…自分を受け入れてくれる人がほしかったんだ。

 

自分の意見を隠し通すのが上手すぎて、その代わりに、誰かのために自分を犠牲にすることを当然と思ってしまっていた俺が…唯一求めていたものがそれだったのだ。

 

何でもできるという期待を、それに伴う責任を捨てたいと…もうそれ以上、背負いたくないと心が悲鳴を上げているのに、誰かに失望されることを…自分の居場所がなくなることが怖くて、それを言葉にすることが出来ない…心が中途半端に大人になってしまった子供が、俺という人間だった。

 

…音弥蓮という人間は、本当はちっぽけで、強くなどない…

 

…だが、周囲が求める音弥蓮という人間は、それを求めてなどいない…

 

だから…俺は、あの世界が…SAOの世界で生きているキリトたちが羨ましいと思った。

 

VRMMOという、もう一人の自分を…本当の自分を知らない人たちと、過ごすその世界が…音弥蓮という人間を知られずに、生きることができるかもしれないと…

 

そう願った結果なのか、それとも偶然か…その両方か…俺は突如として、SAOの世界に迷い込んだ。

 

 

鋼鉄の城で、友と共に攻略に精を出した日々…

 

空を駆ける妖精として、七つの国を飛び回った日々…

 

銃の世界で、自身が招いた災厄に決着をつけた事件…

 

再会した彼女と、様々な思い出を作ったこと…

 

そして、もうひとつの世界で、大事な友たちと共に壮大な冒険を繰り広げたこと…

 

 

俺にはどれもが忘れられない大切な記憶だ。望んでいた生活、求めていた居場所…そう思っていた。でも、

 

【そこはお前の居場所じゃねーよな…?】

「っ…!?」

 

記憶を映し出していた光景が、ガラス片のように一気に砕けた。ドスの効いた暗い声に、俺の思考はそちらへと無理矢理引き戻された。

 

【なに驚いてやがる…】

 

「お前は…何だ?」

 

眼前にいる人…いや、人と呼んでいいのか…?黒が混ざった赤い影は、驚いている俺を見て、それを馬鹿にするかのように嗤っているように見えた…というのは、そいつには表情がなく、全身が赤黒い影のみで構成されていたからだ。

 

【おいおい…とっくに分かってるだろう?まぁ、どうでもいいや】

 

その声に聞き覚えがあったが…その正体が分からない。しかし、奴はそんなことなどどうでもいいとばかりといった感じだった。

 

【それで…どうだ?ちょっとはヒーローごっごしていた記憶を思い出して、満足だったか?】

 

「ヒーロー…ごっこ…?」

 

【そりゃそうだろう!異世界から転入し、小説の主人公のピンチを救い、物語の中心人物として活躍しまくって…これをヒーローごっこと言わずして、何だって言うんだよ!いや、お前にとっては、心がボロボロに傷ついていたところに巡ってきた幸運ものだったと言うべきかもな!】

 

「俺は…そんなつもりじゃ…!」

 

影の言葉を否定しようと口を開くが、俺の反論など許さないとばかりに、影は言葉を畳み掛けてきた。

 

【そういうとこだよ!自分はそんなつもりじゃない…できることをしていた結果だと…自分の過ちを認めない、その結果がしょうがないと、やるべきことをやったせいだとばかりに誤魔化すのが駄目なんだよ!】

 

「俺は…!自分が絶対に正しいなんて思ってない…!?」

 

【はぁ…?だったら、なんでアドミニストレータを糾弾した?やり方は間違っていたとしても、あの女が取った手段は結果的に見れば、アンダーワールドの人界の防衛という意味では理に適っていたかもしれないだろうが?】

 

「人が死ぬことが…誰かの命を犠牲にすることが正しいわけないだろう!?」

 

【だが、一歩間違えていれば、人界に住む人間全てが死んでいた結果にもなっていたわけだ…それともあれか?お前なら、菊岡たちを止められるとでも本気で思っていたのか?】

 

「そんな悲劇を起こさせないために、俺は…俺たちは闘ったんだ!?その可能性に賭けるために、できることをしようと…!」

 

【そうやって美談にすれば、全てが赦されるとでも思ってるのかよ!本当に、ヒーロー気質のつもりだから、笑いを通り越して薄ら寒く感じるぜ…!】

 

「正しいと思ったことをすることの何が悪い!?俺もキリトもユージオも…そうすべきだと思って…」

 

【他人の考えを巻き込むなよ…!分かってるんだぜ?お前は自分が正しいと思ったことを押し付け、強制してるただの偽善者だってことはな!?】

 

「偽善なんて…そんなことは…!?」

 

【なら、どうしてフィゼルやリネルが襲ってきた時、必要以上に恐怖を与えた?お前が、彼女たちの何を知って、あんなことをする権利があったって言うんだよ?】

 

「彼女たちは…殺しを楽しんでいるように見えたから……そんな間違ったことをしていることにも、させているアドミニストレータにも…キレて……!?」

 

【だったら、ウンベールに過剰な制裁を加えたのは何だよ?お前があいつを裁く権利でもあったのか?ウンベールを斬る権利があったのは、ユージオだろう?】

 

「自分のことを棚に上げて、ユージオたちのことを化け物扱いしたんだぞ…それを聞いて、キレないほうがおかしいだろう…!?」

 

【自分のことを棚にあげて、ね…フフッ…アハハハハハハハハハハハハハハハ?!】

 

「…何が可笑しい!?」

 

認めたくない、そんなことはない…その思いで、俺は影の暴言に次々と反論していく。だが、いきなり笑い出した影に、俺は堪らず怒鳴ってしまった。

 

しかし、影はそんな俺の様子までも滑稽だと言わんばかりに嗤い続ける…そして、いきなり嗤うのを止めたかと思った瞬間、これまで聞いたことのない冷たい温度の言葉が、奴の口からは放たれた。

 

【なら、教えてくれよ…それは本当にお前の役目だったのか?】

 

「…それは…どういう、意味、だ…?」

 

掛けられた言葉の真意が分からず…いや、理解したくないと思いつつも、俺は尋ね返してしまっていた。

 

目が存在しない筈なのに、冷たく、まるで見通されてるかのようなその雰囲気に、俺は心臓を圧迫されるような感覚を味わっていた。

 

【…心の底では分かってるだろう?お前が犯した、決して償えない罪を…】

 

「…つ、み…?」

 

【そうだよ…本当は気付いていたくせに、見ないフリをしていたんだろう?

そりゃそうだよな…折角自分がいていい意味を…居場所を…大切な人たちとのつながりができたんだ…それをみすみす手放したくなんてないよな?】

 

「…だ、から…なにを、いって……?」

 

【…そこはお前の居場所じゃないって言ってんだよ…】

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

言葉を失った…いや、認識しないようにしていたことを無理矢理認識させられ、頭を殴られたような感覚に襲われたというべきなのか……視界が大きくふらつき、酷い耳鳴りまでしてきた。

 

【分かってただろう?でも、手放したくないから、そのことを今まで考えてなかった…いや、無意識のうちにその罪悪感に襲われて、自己犠牲することで自分に酔って、見ないふりをしてきたんだろう?

 

アインクラッドを駆け巡り、剣を振るった記憶も、

 

世界樹でキリトに立ちはだかったのも、

 

GGOでデス・ガンたちの野望を阻止したのも、

 

アンダーワールドの歪みを正そうとしたのも、

 

本来はお前がすべきことじゃなかった筈だろう?】

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

その先を聞きたくない、言わないでくれ…そう思いつつも、口が上手く動いてくれない。荒い呼吸だけが口から漏れ、心臓が激しく鼓動している。

 

…そして、その一言が放たれた…

 

【お前は奪ったんだよ…この世界に生きていた筈の、音弥蓮という人間の人生をなぁ!?】

 

「っ?!!?!?!?」

 

視界がぐにゃりと歪み、立っていることができず…俺はその場にしゃがみこんだ。だが、そんなことなどお構いなしに影は更に捲し立てる。

 

【自分がSAOの世界に来たと分かった時、疑問に思った筈だろう?元々いた筈の自分はどこにいったんだろうってな!

SAOもALOもGGOもアンダーワールドも…本来であれば、この世界のお前が経験する筈だったんだ!

 

お前はそれを乗っ取ったんだよ!何が人が死ぬ方法は間違っているだぁ?お前自身が、他ならない自分自身の人生を奪っておいて、よく言えたもんだよな!

 

そんなことを…その事実を気付かないフリをしてまで、今の居場所を守りたかったんだろう?!自分の存在意義を保ちたかったんだろう!?】

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

何も反論できない…違うと言いたくても、心がそれを受け入れてしまっていた。

 

【お前が殺したんだ…この世界のお前自身を…!】

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

【お前に…キリトたちの隣に立つ資格なんてない…】

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

【お前に…世界をどうにかできる力も、誰かを助ける権利もない…】

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

【…お前が…ユウキの気持ちに応えることがあっていいはずがない…】

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

まるで同調を求めるかのような言葉の波を、俺は呆然と聞いていることしかできなかった。そして、そこでようやく気が付いた。

 

【お前が…この世界で生きようとすること自体が…間違いだったんだよ…………そうだろ……俺…?】

 

その影が、破滅を求める俺の闇なのだと理解できてしまったのだ…眼前にまで迫ったことで、その正体が…夥しい量の血を被った俺の姿だと…それが今の俺そのものなのだと認識した途端、俺の体は地面に…いや、黒血の海へと引き釣り込まれた。

 

 

 

「なんでだ!?どうしてなんだ、フォン君!?」

 

悔しそうに拳をロフトの格子部分に叩き付けた比嘉の声がその場に響いた。

 

フォンを目覚めさせるために、ユウキのフラクトライトをSTLを通して接続したところまでは作戦通りだった。

 

だが、フォンのフラクトライトは以前の状態に戻ることはなく、それどころか不規則な変動を絶えず繰り返しており、ユウキのフラクトライトを繋いでしまったことが裏目に出てしまっていたのだ。

 

「くそっ…!君が駄目だったら、キリト君にはこの方法は試せないんだ!?どうすればいい…アスナさんたちのSTLを今から接続し直すには時間が掛かり過ぎる…!このままじゃ、フラクトライトが更に変質して、本当にフォン君自身の人格が消えちまう…!どうしたらいいんだ…!?」

 

打つ手なし…このままでは、フォンの人格そのものが完全に崩壊してしまうと分かりつつも、それを見ていることしかできない…自分はこんなにも役に立てないのかと、悔しさのあまり、比嘉が目を瞑った時だった。

 

Piiii…GA!?GAAAAAAAAAA!?

 

「っ…!?なんだ…?」

 

フォンとユウキのSTLの状況を移しているパソコンの画面に大量のノイズが入り混じり、異変に気付いた比嘉が慌てて状況を確認する。

 

「……っ!フォン君のSTLに謎の介入…?!こんな時に、一体何が………なぁ?!こっちの操作を完全に受け付けないなんて…!?」

 

これ以上、何か起こるのを避けるべきだと必死に抵抗しようとする比嘉だが…謎のプログラムは比嘉の介入を完全に拒絶し、フォンのSTLへと接続しようとしていた。

 

「こいつは何をしようと……っ?!嘘、だろう……なんで…?」

 

STLへの接続を完了されてしまい、ようやくプログラムの正体を把握した比嘉から驚きの言葉が漏れた。

 

「これは…フォン君のフラクトライトの直接介入していた、あの謎の武器…アンダーワールドのオブジェクトが…意思を持って介入したっていうのか?」

 

フォンたちがアンダーワールドに再びダイブした時に生まれた、ラースすらも存在を認識していなかった武器データが、STLへと介入した正体であることにも驚いたが、それよりも更に驚くことがあった。

 

「…それに…この武器が持ってるパターンデータ……さっきまでこんなものじゃなかったのに…………これは、フォン君の元々のフラクトライトの波長によく似てる…どういうことなんだ…?」

 

武器データ…映現世の剣に新たに生まれたパターンデータが、変質する前のフォンのフラクトライトの波長と酷似していることに、比嘉は目の前に起きていることが信じられずにいた。

 

「…フォン君…君は一体……何者なんだ?」

 

そんな疑問の言葉が漏れる…科学者である自分の眼前で、未知なる出来事が起こっていることに…比嘉は言い知れぬ恐怖を覚えつつ、こうなった今となっては、この武器の介入に賭けるしかないと、その動向を見守ることしかできずにいた。

 

 

 

…どこまで暗く、どんよりとした海へと意識が沈んでいく…

 

…目を開けることも、何も考えることも、もう全てがどうでもよくなっていた…

 

…全身にいくつもの鎖が繋がれ、ずるずると底が見えない闇へと引きずり込まれていく…だが、それがどこか居心地が良く感じていた…

 

…もういい…全部を気にしなくていい…ここが俺の本当の居場所…

 

『本当にそうかい…?』

 

…脳裏に声が響いた瞬間、全てが砕ける音が聞こえた…

 

体を拘束していた鎖が、全てを呑み込もうとしていた海が、絶望を表したかのような赤い空が、割れて砕け散った。

 

底が見えていなかった海がなくなったことで、体が地に叩き付けられ…るようなことはなく、痛みどころか倒れている感覚までも認識できなかった。

 

濡れた髪が顔に張り付き、晴れた視界の一部を塞ぐ…未だに様々なものが砕ける音が聞こえていたが…その中でも、はっきりと聞こえる声があった。

 

『酷い顔を…いや、それほどまでに自分を追い詰めていたんだね?』

 

【…誰だよ、あんた…】

 

『フフッ…野暮なことを聞かないでくれよ』

 

声の主…光が人の姿を象ったものが、少し離れたところに立っていた。思わず、その正体を尋ねたが、答える気はないと…いや、はぐらかされたようで癪に障った。

 

『今のが君の望んでいた場所なのかい?随分寂しい場所が好きなんだね?』

 

【……お前に何が分かる…?!】

 

『さっきの空間を見れば、嫌でも分かるさ。君は…優しい人間なんだってね』

 

【っ!?】

 

その一言が…全てを見通しているかのようなその姿勢が、イラつきを最高潮にさせた。

 

【俺が優しいだと!?ふざけるなぁ!俺は身勝手だ?!それで、何人もの人を傷つけてきた!?】

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

【俺は自分の罪を忘れて、ただその喜びを享受してきたんだ…!この記憶は…これまでの生活は、俺が得ていいものじゃなかったんだ?!】

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

【俺が俺を殺したんだ!?俺が、この世界に生きてきた俺の存在を奪ったんだ!?なのに…俺にどうしろっていうんだよ?!絶対に取り返しがつかないのに、どうすればいいっていうんだよ!?それでも、お前は分かるってほざくのかよぉ!?】

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

【だから……だから………俺にみんなと一緒にいる資格なんてない…俺に…誰かの想いに応える権利なんてないんだ……俺に…ユウキと一緒に歩む未来なんて、なか…がぁ?!】

 

言い切ろうした言葉が遮られた…その言葉を、その言葉だけは言わせないとばかりに、それまで黙っていた光に殴られたのだと分かったのは、頬に鈍い痛みを覚えた時だった。

 

『いい加減にしろよ…もう一度そんなことを言ってみろ!?』

 

【…何すんだよぉ!?さっきから勝手なことを言ってやがったくせに…!】

 

『何度でも言ってやる…!何が権利がないだ!?何が資格がないだ!?誰がいつ、お前にそんなものを求めた!?』

 

【…っ…?!】

 

『そう言って、お前は怖いだけだろう…!誰かと距離を詰めて、裏切ることになるのが怖いんだろう。自分の選択が間違っているじゃないかって思って、その責任から逃げようとしているだけだろうが…!』

 

【…逃げて…逃げて何が悪い…!俺には…俺は強くない……何の力もない……そんな人間じゃない…】

 

取り繕っていた物が剝ぎ取られたように、その言葉が…本音が漏れた。

 

【俺は見た…見たんだ……ユウキが逝ったあの世界の記憶を…!】

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

【ユウキだけじゃない…SAOでも、アンダーワールドでも…もっと多くの人間が死んでたのを見た…!

知ったんだ…この世界はあくまでも、SAOに…ソードアート・オンラインによく似た世界なんだって……全部決まっていたことなんだよ…俺は誰も救ってない…!

 

いや、本来の俺がすべきだったことを俺が全部横取りしただけなんだよ……俺が何かをしたわけじゃない……それがこの世界に定められていた運命だったんだよ……俺は…何も変えられてない、何も選んでなんて……いなかったんだ…」

 

記憶開放術を始めて発動させた時…映現世の剣と完全につながったあの時、いくつもの世界を一気に垣間見た。

 

アインクラッドを100層まで攻略し続けた世界も、未知なる未来の戦士とALOに起きた異変に立ち向かう世界も、SAO以外の世界も…

 

そして、本来あるべきだった…小説の通りの世界そのものも…

 

 

命の炎を燃やし尽くし、アスナに看取られながら逝ったユウキを、

 

友のために、その体を剣へと変えたユージオの最期を、

 

幻視したように、その命を奪われたカーディナルの姿が、

 

 

思い出せるだけでも、沢山の人が苦しみ、悲しみ、そして…

 

だが、この世界ではその悲劇のいくつかは回避されていた…しかし、この世界の俺が為すべきだったことだった筈だ。

 

それを奪ったんだ…元はいた筈の俺がやるべきだったことをなぞっただけのだ。

 

【誰かの力になれたつもりでいた…できることをしてきた筈だった…それが蓋を開けてみたらどうだ…?ヒーローになったつもりで、やるべきことを見つけたと勝手に思い込んでいただけだった…】

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

【…これが俺の運命なんだよ…だから、これでいいんだよ…】

 

『確かにな…お前の言う通り、変えられないことの方が多かったのかもしれないな』

 

【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】

 

肯定されたことで、視線が自然と落ちてしまう…分かったのなら、このまま静かに眠らせて…死なせてくれと思った時、光は言葉を発した。

 

『だが、そうじゃなかったものも確かにあった筈だ』

 

【…えっ…?】

 

『確かに、お前の言う様にいくつかの事象は避けられなかったことなのかもしれない。けど、この世界のここまでの未来を作ってきたのは、お前自身だろう?』

 

【……どういう、意味…だ…?】

 

『映現世の剣と繋がったのなら、分かっているだろう?この世界にだって、様々な可能性の未来があったわけだ…なら、ここまで来たのはどうしてか…お前がそう生きてきたからだろう?』

 

何を言っているんだ…光の言葉の真意が理解できず、言葉を失う。選択なんてしてきた覚えはない…そう思いつつも、何も言うことができなかった。

 

『全部が決まっていた?これが運命だった?そうじゃないだろう?!

お前がユウキのことを大事に想ったから、ユウキもお前の気持ちに応えたんだろう!?

カーディナルを死なせたくないと思ったから、あの時、剣を振るったんだろう!?

キリトのことも、アスナのことも…お前が大事に思っている人たちに対して、様々なことをしてきたのは、今あの世界を生きていたお前自身がそうしてきた結果だろう!?』

 

【…っ…!?】

 

『本来のお前がやるべきだったこととか、運命なんか関係ない!?お前が取り返しのつかない罪を背負っていたとしても、お前だったからこの未来へと辿り着いたんだろう!?お前がいたから、この未来が出来たんだろうがぁ!?』

 

【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】

 

その言葉が胸に刺さる…俺だったから、辿り着けた未来…だけど、それは本当に正しかったと言えるのだろうか…

 

【…でも…俺がいなかった方が…俺じゃなかった方が良い未来だってあった筈だろう?!】

 

『それは…これを見てもそんなことが言えるのか…?』

 

そう言って、光の言葉と共に、何かの映像が映し出された…そこには、

 

≪があああ?!あああぁぁ!?うああああ?!くそがぁ?!くそ、くそ、くそぉぉぉ?!ふざけた真似しやがって、このガキがあああァァァァ?!!?もういいよぉ!?死ねよぉ!!死んじまえよぉォォォォォ!?!≫

 

≪フォン…お願い…もう、闘わなくていいから…ボクがフォンを守るから…支えるから…一緒にいるから…だから…だから?!起きてよ…戻って来てよ!フォン!?≫

 

男が絶叫を上げ、その命令に従った人形らしき沢山の物体が魔法を唱えようとしていた。

 

そして、倒れているその人に…願うように、求めるように、声を掛けるユウキに照準を定め、止めを刺そうとしている光景だった。

 

すると、人形たちから無数の魔法が放たれ、ユウキの身体を…

 

【っ…?!】

 

それを見ていることができず、その手を伸ばそうとして…

 

『どうして手を伸ばした』

 

その光景が消えた瞬間、光がそう問い掛けてきた。

 

『それがお前の答えだろう…本当にどうでもいいのなら、手を伸ばさなかった筈だ。全てがどうなってもいいと思っていたのなら、助けようとする必要もなかった筈だ』

 

【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】

 

『だが、お前は選んだ!他でもない、この世界に生きていたお前がそうするべきだと選んだんだ!それを選ぶことに、権利も資格も必要ない!大事なのは…!』

 

【…そうしたいと思う…心…】

 

思わず零れた言葉に、光がそうだと言わんばかりに笑ったように見えた。

 

『お前がこの世界の人間でないとしても、お前が積み上げてきた記憶や思い出、絆は仮初のものでも、偽りのものでもない…お前自身が作ってきた確かなものだ』

 

【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】

 

『それでも、それが運命かもしれないと思っても、それが偽りでしかないのだと思っても…少なくとも、自分の気持ちに嘘を吐くな!?お前の為に、今も懸命に闘っている人たちの心を裏切るな!!』

 

【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】

 

『最後の最後まで足掻き続けろ!贖罪でもいい、我儘でもいい、偽善だろうと構わない!逃げるな!お前が差し出した手を…救いたいと思って差し伸ばした手を決して離すな!?』

 

【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】

 

それは…俺が何度も告げてきた言葉だった…

 

俺はキリトやユージオにそう言いながら、どこか自分にそう言い聞かせていたのかもしれない…心の奥底で蓋をしていた、見たくない真実を隠したくて、でも、それから逃れることなどできないと分かって、自分を犠牲にするような生き方を…どこかで望んでいたんだろう。

 

【…そうだな…そうだったよな……俺はこういう生き方しかできない。馬鹿は死んでも治らないっていうけど…俺も十分に馬鹿だってことだな」

 

偽善者だと思う…俺は、きっとこれからも必要以上に手を伸ばそうとするのだろう。

 

自己犠牲が過ぎる…俺は、自分を大事にすることなんて、これからもできないだろう。

 

このことを…もう一人の自分を殺したことを…俺はきっと忘れることなんてないんだろう。

 

だけど…それでも…俺の生き方はこれしかできないのだろう。

 

歪かもしれない…変わっているのだろう…

 

けど、

 

『フォン…帰ろう…帰ってきて…!?』

 

それでも…そんな俺でも、受け入れてくれる人がいる…大切に想ってくれている人がいる。守りたい人たちができた…期待なんか関係ない、その人たちのために応えたいと思った。

 

それが…俺という人間がこれまで歩んできた道で、作ることができた絆だ。

 

良くも悪くも…この先の未来を…俺はみんなと作っていきたい。

 

過去はもう変えられない…取り返しのつかない失敗だって沢山してきた…未来にだってそんな不安がいっぱいあるだろう。

 

でも、俺はもう恐れない…恐れちゃいけないんだ…!

 

「失敗も、後悔も、罪も、悪意も……全部背負っていく。この手に、想いを、願いを、希望を、未来を掴めるなら…何度だって立ち上がれる…!」

 

『…ああ…』

 

「…みんなが信じてくれた俺を…信じてみるよ。先の見えない未来でも、それを選んで進んでいくのが…この世界に生きる俺がすべきことだから…」

 

覆い尽くされていた闇が全身から剥がれていく…それに合わせ、光もまたその姿を現し、

 

『なら、後は君に託すよ。君がこれから築き上げてきた未来を…楽しみにしているよ』

 

「…ああ…任せてくれ…」

 

闇と影が完全に剝がれ、光が粒子と化していく…光と闇、白と黒が混じり合う。柔らかな笑みに、とても聞き覚えのある声……光の粒子となって俺に吸収されていくその人物に、俺は最後の言葉を掛けた。

 

「だから、そこから見ててくれ……俺…」

 

…そして、俺の視界が真っ白に染まっていき…

 

 

 

「これで終めえぇだぁ!?くそガキィィィィィィィィィィィィィィ?!!?」

「っ?!」

 

リッパーの命令に従った魔導士型の死人形たちが一斉に神聖術を放った!

 

避けることも防御することもできない…それでも、せめてフォンだけはと、ユウキは瀕死の身体を無理矢理動かし、フォンの身体を覆いかぶさるように抱きしめた。

 

炎・氷・雷・土・風・光・闇…あらゆる属性をもった無数の神聖術が、四方から飛んでくるのが見え、覚悟したユウキは目を閉じた。

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 

(…痛く、ない……もう痛みを感じなくなっちゃのかな…それとも、もう終わりだから、時間が長く感じるのかな…)

 

目をつぶり、魔法に焼かれるのを耐えようとしていたユウキだが…いつになっても衝撃が訪れないことに、そんなことを考えてしまっていた。

 

フォンだけは守ることができたのか…それとも、二人してやられてしまったのかもしれない…そんな不安が胸中をよぎり、ユウキは恐る恐る目を開けた。

 

「…ぇ…?」

 

呪血死による浸食と総攻撃を受けたダメージが重なり、激痛が走るせいで上手く声が出すことができないユウキは、目に見えていた光景にそんなことなど関係なく絶句した。

 

(…白銀の……嵐…?)

 

自分たちを守るかのように、周囲に白銀の光をばらまきながら渦を巻く風が吹き荒れていたのだ。それが盾となり、死人形たちが放った無数の神聖術を全て無効化していたのだ。

 

そして、何よりも…いつの間にか覆いかぶさるように倒れていた自分の身体が起こされて、視線の向きが変わっていることに気付いた時、

 

「…もう大丈夫…」

「っ…!」

 

自身の身体を抱きしめ寄せていた腕の力が少し強くなり、優しい音色のその声が、はっきりと耳に届いたユウキの心を震わせた。

 

その言葉を皮切りに、抱きしめていた彼はユウキからゆっくりと離れ、立ち上がる

 

その姿を見て、先程の言葉を聞いて…ユウキは、血が混じることなど気にせずに、涙を流した。

 

 

「ゴメン……おまたせ、木綿季」

 

「本当に遅すぎだよ……蓮…!」

 

いつもの優しい笑みに、穏やかな雰囲気…どこか困ったようにそう告げた最愛の人が…フォンが帰ってきたのだと理解できたユウキは、泣きながら笑顔でそう答えた。

 

…自らの闇と影に向き合った少年が、遂に世界へと戻ってきた…!

 

 

   第ⅩⅬⅢ話「背負う罪、選んだ未来」

 

 




ようやくです…本当にようやく復活しました!?

そんなかんやで、やっとのことで復活したフォン…!

(40話以上に渡って)全く出番がなかったのを挽回どころか、倍返ししていく勢いで暴れまくりますので!まずはね…どうなることやら、リッパーさん…(心配する余地も、憐れむ要素も皆無なんですが…)

さてと…それでは、少しばかり解説を…

今回、フォンが記憶を失って原因…それは、『元々存在していたであろう音弥蓮という人間の人生を奪ってしまった』こと、そのものでした。

そもそも、この発想に到ったのは、感想にて「フォンがあまりにも(異世界に転入したことに)平然としすぎている・受け入れすぎている」とご指摘を頂いたことからでした。

フラクトライトという要素が大きく影響するアリシゼーションだからこそ成立するお話かと思い、過去があまり明らかになっていなかったフォンのバックボーンを細かく定めたわけでございます。

前半で散りばめていたフラグがようやく形となり、その刃がフォンに見事に牙をむいた訳です。
フォンのスタイル『なんでもできるオールマイティキャラ』という部分を、逆転させた暗いお話でしたが、異常過ぎる正義感・清廉さを裏付けられた形にもなったかと…

それと、フォンを追い詰めた『影のフォン』、そして、映現世の剣により現れた『光のフォン』…
 前者は、フラクトライトにダメージを受けた際、罪悪感・後悔・自己否定が重なり、耐え切れずに自身の人格を破壊するために(フォン自身が)生み出してしまった負の塊です。
実は、フォンが記憶を失っていたのは、その精神から自分の人格を守ろうとして自己防衛の本能によるものだったわけです。そして、その罪悪感から逃れようと、『元々いたであろう音弥蓮』の人格を模倣しようとした結果が、ユージオたちの前で見せた姿だったわけです…言ってしまえば、知る由のない人間のフリを無理矢理しようとした訳です。
 そして、後者の『光のフォン』…これは、フォンのフラクトライトに僅かに残っていた『SAO世界にいた音弥蓮』の残光が映現世の剣によって具現化されたものでございます。
 ユウキのフラクトライトから記憶を受け取り、想いを繋がれたフォン…しかし、それは自身が受け取るものではないのだと否定していた中…彼を救えるのは、赦しを与えられるのは…自分自身という本来であればあり得ない者のみでした。

 そもそも、映現世の剣自体が、このフォンの罪悪感までもがその能力に影響を与えていたわけでした。
表と裏、肯定と否定…世界を映す力はそれだけでなく、自身の闇や光をも映す鏡でもあったわけです。
 
 期待を寄せられ、それに応えようと居場所を求め続けた少年は、もう既に自分だから作ることのできた居場所にようやく気付き、罪を背負い、また新たな未来を選んだことで、世界へと舞い戻ってきました!

ようやく鬱展開は終わりです!!
次回は、久々(かつ皆様予想済み&ご期待)のオリ主無双回でございます!
オリ武器も数多く登場しますので、お楽しみに!

それでは!

ミトを本作に登場させるとしたら、その後はどういう感じで登場してほしいでしょうか?

  • 半レギュラー化(物語にもがっつり絡む)
  • スポット参戦(閑話に出てくるレベル)
  • まさかのサブヒロインポジ
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