さてと、アンダーワールド大戦のその直後…キリトがどうなったのか、フォンたちは無事にログアウトできたのか、そして、ガブリエルたちはどうなったのか…
まずは襲撃者サイドからのお話…アニメ同様、大変ホラーなので苦手な方はお気を付け下さい。
それでは、どうぞ!
P.S. ようやく誤字修正の方へと目を通すことができました…
貯まりに貯まっておりましたが、ご指摘頂いた皆様、誠にありがとうございました!
「フーハッハッハッハッハッハッハッハッ!?!?」
先程まで感じて…いや、叩き込まれ、流し込まれていた力を受け続けていたガブリエルは嗤い声を上げ続けていた。
(…?ここは……そうか。あの少年の技を受け止めようとして…強制ログアウトになったのか…?)
寸前まで視界を覆い尽くしていた無限の色を宿した光から、薄暗い機械と鉄によって構成された空間へと視界が映し変わっていたことから、アンダーワールドから現実世界へと戻ってきたのだとガブリエルは悟った。
(…いいぃ…実に素晴らしかったぁ!?あの味ぃ!深みぃ!感覚ぅ!!…クククッ!この私が呑み干せないほどの力…魂の力ぁ…!?今度こそは…次こそは必ず呑み込んでみせよう…!?そうすれば、『A.L.I.C.E.』など手に入れることなく、私は魂の神髄に近づける筈だ…!!)
…そうと決まれば、しなければならないことなど一つしかなかった…
あの少年の…世界の心を集めた一撃を今度こそ呑み込んでみせると、なんとかアンダーワールドに再び行かなければならない…!メイン・コントロールルームにいるであろうクリッターに方法を考えさせるべきだと、ガブリエルは自身が静かに眠っているSTLから、足音を立てることなく降り立った…が、その時、何か違和感を覚えた。
(……なんだ?…何かが…何かが足りない…?)
音一つ立たない静かな空間に存在する自分…ダイブする前から変わらない景色…だが、ガブリエルは奇妙な感覚に襲われていた。その正体を探ろうと、振り返った時だった。
(…うん?…誰だ…?)
自分が使っていたSTLに誰かが寝ているのが見えた。気配を感じることがなかった為、一体誰がいつの間にそこにいたのかと思い、顔を確認しようと視線をズラした…だが、そこには信じられないものがいた。
(……な、に…?!これは…この顔はぁ?!……私だ……!?)
STLには…自分と瓜二つの顔が横たわっていたのだ。
髪から顔つき、体形…全てが自分と同じ…鏡に映った自分を見ているような光景にガブリエルは今まで見せたことがないほどに破顔し、驚く…そして、今の自分とは一つだけ異なる…この世の絶望というものを見たかのような歪んだ表情をしている自分とそっくりな顔に、更に困惑が深まっていく。
そして、驚きながら、ようやく自身が感じていた違和感に気が付いた。
…そう…今の自分は何も感じていないのだということを…
後退ったことで鉄床に響くであろう足音も、適温に保たれているであろう室内の温度も、軍艦特有の機械の匂いも、徐々に乱れつつある自身の息遣いまでもが感じられないことに、ようやくガブリエルは気が付いた。
(…なに、が…?何が起こっている…?!…っ…!?)
眼前の光景と、自身に起こっている現象に理解が追い付かず、困惑の声が自然と口から零れる…だが、そんなガブリエルの腰に手が触れた感覚が走る!人の気配を感じ、慌てて振り返ったガブリエルの視界に映ったのは…
『…ようやくこっちに来てくれたのね、ゲイブ』
「アリシア…?なんだ…そんなところにいたのか…」
一人の少女…しかし、ガブリエルにとっては一度たりと忘れることがなかった少女…過去に自身がこの手で殺害…人の魂を知ろうとその命を奪ったガールフレンド…アリスと似た姿と声をしていた『アリシア・クリンガーマン』が、その時の姿のままで立っていた。
「でも、どうして君がここにいるんだい…そっちって…?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
表情を伏せて黙ったままのアリシアに、ガブリエルは彼女がここにいる理由を知ろうと尋ねながら、手を伸ばした…その時、脳裏に彼女の言う『こっち側』という言葉が引っ掛かったが…その意味を考えるよりも先に、伸ばした自身の腕をアリシアが掴んだ時…
「…っ!冷たいよ、アリシア。手を離して『ダメよ、ゲイブ。これからはずっと一緒なんだから…ずっとね』…何を言ってるんだい…君はもう『気付いてないの?言ったでしょ…ようやくこっちに来てくれたって…』……っ…?!」
異様に冷たい彼女の手に驚き、離すように頼もうとした時、アリシアの冷たい声がガブリエルの言葉を遮った…そして、告げられたその言葉に息を呑んだ時には、気付くのが遅すぎた。
『…さぁ、行きましょう…?』
その言葉と共に…アリシアの身体が床に…いや、いつのまにかそこの見えない暗い海へと変わっていた床に沈み始める。そして、自身の身体までもが引き摺られる形で水面へと沈んでいた!
「…っ!?やめろ…止めろォォォォォォォォォ!?!?」
沈んでいく二人の身体を起点に、水面が血のような赤い色へと染まっていく…沈んでなるものかと足を水面から引き上げるガブリエルだが、どんなに強引に振り払おうとしても、冷たいアリシアの手が自身の腕を掴んで離さないのだ!
嘆願するように叫び続けるガブリエル…だが、そんな願いなど聞き入れるわけがないと、水面から無数の亡手が浮かび上がり、ガブリエルの脚を、身体を、腕を、顔を…逃がさないとばかりに掴み、抵抗しようとする身体を水底へと引き摺り込んでいく。
「止めろおおおおォォ!?ヤメロオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ?!!?!?!あああああああああぁぁ!?」
声が張り裂けそうなほどに叫ぶも…その言葉は誰にも届かない、聞こえない…許されることはない…そして、止めと言わんばかりに、ようやく表情を見せたアリシアの…自身が殺した際に、風穴を開けたことで左耳から流れ出る血と、光を失った虚ろな赤目をした彼女の言葉こそが、ガブリエルが最後に聞く言葉となった。
『…こっち側で、みんなが貴方をずっと待っていたの…さぁ、わたしたちと一緒に行きましょう…永遠にね…』
「…!?…ぁああ……うあああああああああああわわわわわぁぁぁぁぁああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
…それが恐怖だという感情をガブリエルはようやく知ることとなった…しかし、それを受け入れることは永遠にできないのだろう……そして、その恐怖に怯えた声は…亡者たちにしか聞こえていなかった。
「ミラー隊長!?大変なことが「うああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!?!?!?」っ…!?リ、リッパー…!?」
第一STL室…ガブリエルとPoH…ヴァサゴがいるであろうそこに、慌てた姿で駆けつけたのは、特殊部隊のクリッターだった。
『A.L.I.C.E.』がラースの手に渡ったことの報告と、最終手段として考えていた方法を実行するべくか相談しに第一STL室に来たのだったが、クリッターを出迎えたのは、絶叫を上げるリッパーの姿だった。
「お、おい…!しっかりしろ、リッパー?!」
「来るなぁ!?あああぁぁ?!もう殺さないでくれぇ?!やめてくれぇ!?俺が悪かったぁぁ!?もう殺すのだけは止めてくれぇェェ?!」
「…リ、リッパー…?」
なんとか落ち着かせようと声を掛けるも、肩に掛けた手さえも振り切り…いや、自分の姿さえも認識できていないリッパーの錯乱ぶりに、クリッターは思わず言葉を失ってしまっていた。
死霊人形師としてダイブするにあたり、GGOで使っていたアバターを統合させるためにアミュスヒィアを、ヴァサゴの使っていたSTLに接続していたリッパー。
フォンが呼び出し、怒りと共にその猛威を振るった戦恋葉刀『一千ノ輝』…それにより、僅かな時間に複数の強大な力で何十、何百回と殺され続けたリッパー。その恐怖と痛みが、フラクトライトには伝わっていなくとも、その脳に嫌という程に刻み込まれていたのだ。
何度も殺され、現実では味わうことのない激痛を幾度も味あわされ…リッパーの脳裏にはその記憶だけしか残っていなかった。迫ってくるものは全て危害を加えるものだと、いつどこで誰に襲われるかも分からない恐怖と幻覚、斬られていないにも関わらず絶えず起こる幻痛……リッパーは人としての何かを完全に喪ってしまっていた。
「ああああああああぁぁぁ?!来るなァァ!?俺に近寄るなァァぁ!?来ないでくれぇェェェェェェェェ!?!?」
(…こいつはもう終わりだな…)
しかし、悲しくもクリッターは軍人だった。
そして、特段仲が良かったわけでもないリッパーのことを早々に諦めた。こういう状態になった人間をクリッターは何度か見てきたことがあったのだ。
そして、優先度を下げた…今は、どうしようもなくなった者に割ける時間が惜しい程だった。阿鼻叫喚のまま叫び続けるリッパーを放置し、STLのジェルベットにいるであろうガブリエルへと声を掛けようと…
「ミラー隊長、指示を下さい!このままでは、我々も……隊長?」
そこで、クリッターも気が付いた…いや、おかしいとは心のどこかでは思っていたのだ。あれほどリッパーが喚き続けたというのに…もう既に強制ログアウトしていることをモニターで確認していたのに…全く反応しないガブリエルの異変を…
「…たい、ちょう……?……っ?!し、死んでる?!」
恐怖によって激しく歪んだ表情、何かに耐えようとして剥がれた爪…その手を取って感じられない脈と冷えていく体温…ガブリエル・ミラーがもう既に生きていないことを知ったクリッターは、思わず腰を抜かしてしまった。
一体何が起こったのか…たかが、VRMMOに近い世界にいただけだというのに、どうして死に至ったのか…突然のことに混乱したクリッターは、その横にあるもう一台にSTL…ヴァサゴがいるであろう場所へと駆け寄る!
「ヴァサゴ!?早く起きろ!隊長が……っ!?うああわわわぁぁぁ!??!」
ガブリエルの身に起こったことを伝えようと、ヴァサゴへと声を掛けようとして、その表情…いや、姿に気付き、クリッターの口から悲鳴が飛び出た。
ヴァサゴの表情はガブリエルのそれを上回る…いや、何をどうすれば、ここまで歪むのかと思う程に変容していた。人の顔の形は完全に崩壊し、身体のあらゆる部分から体液が流れ出ていた。髪は白髪を通り越し枯れ果て、知り合いでなければ、それがヴァサゴであることすらも区別するのも不可能な程に…原型を留めていなかったのだ。
「クソ…クソッ!?クソォォオオォォ!?何がどうなってやがる!?」
「…殺してくれぇ…?!コロセよォォォ!?うああああああああああわわわわわぁぁぁぁぁぁ!?」
「…っ!?うるせぇぞ、リッパー!?ちょっと寝てろ!?」
「…ぐっ?!がぁ…!」
あまりの惨状に錯乱しかかるクリッター…だが、未だに発狂したまま周囲とのた打ち回るリッパーの姿を見て、少しばかり落ち着きを取り戻した。そして、リッパーの首元に手刀を叩き込み、気絶させることで黙らせる。
…これからどうするべきか…隊長が死んだ今、指示を出せる者はもういない。ともかく、ここにいてもどうしようもないと…今後の方針の相談と、ガブリエルたちの死体の回収を残った仲間たちとしなければならないのだから…失望のまま、意識を失ったリッパー(意識を取り戻した際に、再び喚かない様に猿轡をして)を引き摺り、クリッターはメイン・コントロールルームへと戻っていった。
<Kirito View>
(…俺は…どうなったんだ…?)
意識を取り戻した時…俺は何が起こったのか、一瞬分からなくなった。
(確か…ガブリエルと闘って…アンダーワールドの皆の想いを剣に込めて…そうだ!?それで…!)
徐々に直前の出来事を思い出し、俺は身体を起こそうとして、変な感覚に襲われた。それが、宙に浮いているせいであり、翅を動かさなければ上手く体勢を変えられないのだと気付き、背中から生えている黒い翅を操作する。
そして、改めて自分の周囲へと目を向ける…先程まで見ていた星々が輝く夜空ではなく、蒼と白の狭い空間に変わっていることに驚く…あの大爆発を至近距離で受けたのだ…それに反して、身体のどこにも痛みを感じないことからも、もしかすれば、天命を全損してしまい、ここはあの世なのではという考えが頭を過ぎったが…
「…っ…?!そうか…最後の最後まで…本当にお前らは…」
しかし、その答えは突如としてもたらされた。
狭い空間がいきなり崩壊を始め、先程まで見ていた夜空が視界に映ってきたのだ。そして、俺の前には…大爆発の炎を完全に吸収し続けてくれたフォンの剣と、凍気をドーム状に展開することで熱の余波から俺を守ってくれたユージオの青薔薇の剣が浮いていた。
『どれだけ離れていようと、心は繋がってる』
それを証明するかのように…姿はなくとも、自分にここまで力を貸してくれた友たちの剣に、涙が苦笑いと共に零れそうになった。剣たちもそれに応えるように俺の周囲をゆっくりと漂っていたのだが、役目を終えたせいか、先程のように自在に動くことはなかった。
「…ありがとう…二人とも」
そう言って、俺は黒剣…じゃなかった。急ではあったが、ユージオの言葉を借りる形で銘をつけた夜空の剣を背中の鞘へとしまう。
そして、星薔薇の剣も背中の鞘にしまおうとしたのだが、力を使い果たしのか、それとも、持ち主がいなくなったからなのか…星薔薇の剣は、元の青い刃の片手剣に戻ってしまった。
それどころか、漂っていた赤い刃の剣と合体し、元の姿…確か、フォンは映現世の剣って名付けていたっけ?…まぁ、大剣の姿へと戻ってしまった。変身が解けたことで、背中にあった星薔薇の剣の鞘も消滅してしまった。ともかく、鞘がないとはいえ、手に持ちっぱなしなのもなんなので、とりあえずではあるが、腰に添える形で映現世の剣を固定する。
同じく鞘がない青薔薇の剣も、腰の横に差す形で装備する…とんでもなく、重心が偏った形になったが、急を要する闘いもこれ以上はないだろうと思い、当分の間は我慢することにした。
そんなことをしているうちに、夜空の剣の記憶開放術で呼び起こした夜空が薄まり、ダークテリトリーの特徴であった赤い空…ではなく、空間リソースを消費したせいか、人界と変わらない青い空が姿を見せていた。
「…ふぅ…終わったんだな…」
思わず零れた言葉…それは色々な意味を含んだものだった。
先程まで、人々の想いを集めた夜空と、それにより輝きを無限に増し続けた星々…それが幻想のように感じられる程に青く透き通った空を見つめながら、俺は少しばかり思いに耽っていた。
「…!あれは……」
だが、呆然としている俺の耳の轟音が届いた…何かが崩壊していく音…それは、アスナがステイシアの能力で作り上げた、果ての祭壇へと続く即席の階段だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は…確認するために、果ての祭壇へと向かった…もう既に手遅れだとは分かっていながらも、それでも、向かわずにはいらなかった。
「…良かった…5人は無事にログアウトできたみたいだな」
階段は完全に崩れ落ちてしまったが…果ての祭壇は無傷だった。浮島に降り立った俺は、扉が開けっぱなしにされている建物の中へと入ってみた。
…そこは、人の姿や影すらも見つけられないぐらい…空っぽだった。
安堵というか、肩の荷が降りたというか…後悔よりも、アスナたちが無事にログアウトできた喜びの方が勝り、思わず笑みが零れた。
そこにあるのは、起動していないコンソールパネルと…ログアウトポイントらしく祭壇の場所に残された二つの鞘…この世界で何度も見てきたフォンとユージオの…映現世の剣と青薔薇の剣の鞘だった。
「…これは使わせてもらうぜ…いいだろ、そのぐらい?」
届くことはないと分かりつつも、思わずそんな言葉が出てしまった。二つの鞘を拾い、それぞれの剣を納めていく中、フォンだったらやれやれと、ユージオだったら苦笑してそうな様子が目に浮かんでしまった。
そして、二つの剣を手に俺は建物の外に出て、再び空を見上げる。
「頑張れよ。ユージオ、アリス…そっちの世界じゃ覚えることもやることもいっぱいだと思うけど…お前たち二人ならできる筈だから。
それと、フォン…二人のこと、頼んだからな…アスナたちのことも任せることになるけど…そのぐらいのことなら、甘えてもいいよな?
…さてと…これから200年か……200年…そうか……はぁぁ…
アスナ…シノン…リーファ……ゴメン……」
言葉を取り繕って堪えようとしたけど…無理だった。
200年…そのあまりにも長すぎる時間を過ごすことに…いや、一人でいるということ現実に、俺は流さまいとしていた涙が零れ、本音が出そうになった。
「うううぅ…!うううぅぅ…!?」
泣いてはいけないと…こうなることは覚悟していた筈なのに…それでも…いや、誰もおらず、一人だからこそ零れてしまった。
アスナが、シノンが、リーファが…あれほどまでに傷つき、自分のためにこの世界に来てくれたというのに…
フォンが…自身の危険を省みずに共に歩み、この世界で闘い抜いてくれた頼れる友がいないことに…
半永久的に続くであろう孤独と、手を差し伸べてくれた人の想いを裏切る形になってしまった後悔が胸を締め付ける…嗚咽と共に涙が止まることなく零れ続け…持っていた友たちの剣を落としてしまう。
泣き止まないと…ここでいつまでも止まっていてはいけないと分かってはいても…身体が動いてくれなかった。このまま一生泣き続けることになるかもしれないと思っていた時だった。
「…キリト君…」
「…っ…!?」
…一瞬、幻聴が聞こえたと思った…
いる筈がない、ログアウトした筈だと…信じられないという考えが頭を支配するが…背中から抱きしめられているそのぬくもりと、彼女特有の清楚でありながらどこか甘い香りと…そして、視界の端にちらりと映った光沢のある栗色の髪に、首だけを振り返らせると…
「…ア、スナ…?」
幻聴でも、幻覚でもない…正真正銘の、創造神ステイシアの身体を使っている…俺が、最愛を共に誓い合った女性…背後から優しく俺を抱きしめているアスナの姿がそこにはあった。
…時間は少しばかり遡る…
「…コンソールは…あれか!?」
自身の剣を夜空に投げる形で託し、すぐさま祭壇へと飛び込んだフォン。それに続き、ユウキたちも祭壇へと駆け込む中、カセドラルでも見た筈のコンソールを見つけ、それに近づき操作していく。
「フォン、使い方分かるの!?」
「一応…カセドラルでもキリトと一緒に弄ったからな……あった、『外部監視者呼出』!これだ…比嘉さん!?神代さん!?誰か聞こえますか!?」
『…(ブーン!?)…フォン君?!聞こえてるわ、神代よ!果ての祭壇に着いたのね!?』
「はい!これからログアウトします!まず、ユージオとアリスを先に行かせるので、コンソールをどう操作したらいいのか、指示を下さい!」
大丈夫なのかというユウキに応え、あの時と同じように操作していくフォン。コンソールを通して、オーシャン・タートルにいる凛子と再び通信に成功したことで、現状を簡潔に説明して指示を仰ぐ。
凛子の方もすぐに対応できるように準備を終えていたため、すぐにコンソールをどう操作すべきかをフォンに伝えていく。
「ユージオ!アリス!その祭壇の部分に乗ってくれ!」
「分かった!」「ええ!」
アスナとユウキが横で見守る中、凛子の声に従ってコンソールを操作していき、ユージオたちに祭壇らしき場所へと移動するように指示する。
それに素直に従った二人がその場所に位置したことを横目で確認し、操作を最終段階へと移行していく。
「…『対象フラクトライトのライトキューブの排出』…これか。排出先をサブ・コントロールルームに設定……よし!ユージオ、アリス。今から、お前たちを現実世界に送るぞ!……あっちで会おう!」
「「(…コクリ!)」」
二人を安心させる意味もあって、焦る気持ちを抑えながら笑って言葉を送るフォン。頷いた二人の姿を確認し、コンソールの液晶パネルに表示された『実行』のタブを押した。
すると、二人の身体が青い光に包まれ、忽然と消えてしまった…それが、ログアウトできたのだと思い、フォンは凛子の反応を待つ。
『………!ユージオとアリスのライトキューブがこちらに届いたわ!リジェクトは完了、後は貴方たち4人だけよ!急いで!?もう残り時間は2分もないわ!』
「っ…?!ユウキ、アスナ!二人も急いで祭壇に登るんだ!もう時間がない!」
凛子から告げられた時間に、コンソールを叩く指の速度を上げるフォン。大まかな流れは先程と同じで、今度はSTLでダイブしている自分たちを対象にするだけなので、手早く操作を進めていく。
その最中、脳裏を過ぎったのは…今も闘い続けているキリトのことだった。
(…あいつは……あいつはもうログアウトすることを諦めてる…!それは分かってるが…あいつ一人をここに残すわけには…!?だけど…?!)
キリト一人を…200年もの間、アンダーワールドに残すわけにはいかないという考えが頭を過ぎるも…フォンの視線は祭壇で待機しているユウキへと向いていた。
(…これ以上、ユウキに負担を掛ける訳にも…どうする…?!)
ただでさえ、今回の件でユウキには精神的な意味で負担を掛けさせていることもあり…どちらを取るべきか…いや、ユウキの方を選ぶべきだということは分かっている。それをキリトが望んでいることも…だが、フォンという人間は分かっていながらも、それを素直に選ぶことができない人間だった。
『フォン君、急いで?!一分を切ったわ!』
「っ……!(…駄目だ…!やっぱり、キリトを置いていく訳には…?!)…よし、準備できた!今からログアウトするぞ!?」
一生帰れないかもしれない…そんな役目を二人に背負わせるわけにはいかないと…ユウキと二度と会えなくなるかもしれないことも…両親に多大な負担を掛けることにも…ユージオたちとの約束を早々に破ることになると分かりつつも…フォンはキリトを見捨てることなどできなかった。
「…っ!アスナ、何してる?!早く、祭だ…うわああああああぁぁぁ!?」
覚悟を決め、まずは二人をログアウトさせなければと思ったフォンが、背後にいたまま動こうとしないアスナを急かせようとした時…言葉が悲鳴へと変わった。
ふわりと宙を浮く感覚にいきなり襲われ、何が起こったのか一瞬分からなくなったフォン…それが、ステイシアのステータスを活かしたアスナによってぶん投げられたのだと気づいたのは、祭壇にいたユウキに受け止められた時だった。
「…ゴメンね…フォン君。ユウキ…」
「っ…?!アスナ、止めろぉ!?」
流石のユウキも、ルナリスによる超絶したステータスを持っているとはいっても、突然であったことに加え、体格差のあるフォンを受け止め切ることができず、共に祭壇に倒れ込んでしまった。
その隙に素早くコンソールを操作したアスナによって、ログアウト準備に入ってしまったフォンとユウキ。アスナを止めようとフォンが祭壇から出ようとするも、システム障壁によって囲まれ、出ることはおろか、伸ばした手さえも遮られてしまう!
「ゴメン…私は行けない…キリト君を一人置いては…行けないの。
それに、ここに残るのは私であるべきだから…フォン君にはそんなことをさせるわけには…ユウキを一人にさせるわけにはいかないでしょ?」
「…っ…!?お前、まさか…?!」
「フォン君って…キリト君みたいに、そういうことだけは分かりやすい顔をしていることが多いから」
自分の考えを読み、そして、そうはさせまいと彼女が取った行動にフォンも驚きのあまり、何も言えなくなってしまう。
「だから…ユージオとアリスのことをお願い。フォン君がいれば、きっと大丈夫だと思うから…二人をよく知っている君がいれば、二人を支えてあげられる筈だから…この世界から、あっちの世界のことを知ってもらう為にも、私たちがこの世界に生きる人々と共存できるようにするためにも…そのために消えていった魂たちのためにも…そして、キリト君のためにも……絶対に軍事利用なんて目的に、フラクトライトたちが使われない様にする為にも……お願い!!」
「・・・・・・・・・・」「止めて……止めてよぉ!?アスナ?!」
「それから…ユイちゃんやお母さん…みんなにも伝えてくれる?ゴメンねって…ありがとう……さようならって…」
「「っ…!?アスナァァァァァァ!?…………」」
最期の言葉の如く…そう告げるアスナに、フォンは何も言えなくなり、ユウキは聞き入れることができないとばかりに泣き叫ぶ。
しかし、悲しそうに笑みを浮かべたアスナの姿を前に、彼女の名を叫ぶ中、限界加速フェーズへの制限時間を迎えたのと同時に…フォンとユウキの意識はアンダーワールドから離脱した。
…そして、果ての祭壇にはアスナと…フォンとユージオが持っていた剣の鞘だけが残されたのだった…
「…ア、スナ…?…なんで…ログアウト、したんじゃ…?」
「やっぱりね…どうせキリト君のことだから、私たちの為に一人で残るんじゃないかって思ってたんだ。キリト君のことなら、何でも知ってるんだから…相変わらず一人の時には、泣き虫さんになるところもね…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「キリト君もフォン君も…そういう一人で背負い込む時は本当に分かりやすいんだから。それに…キリト君がいる場所が、私のいるべき場所だから…もう離れっぱなしでいるのは…あんな思いをするのは嫌だったから」
「……フハハ…そっか…そうか……ククッ…!」
嬉しい筈なのに涙が出そうになり…アスナの行動とその理由に思わず笑みが零れたキリトは、自身の表情を隠す様に手で覆う。そんなキリトを愛おしく抱きしめるアスナは、その力を少しだけ強める。
「…向こうに戻った時、ユウキやユイちゃんに怒られちゃうね」
「その時は俺も一緒に怒られるよ。ユイの方は怒るどころかもの凄く泣かれそうだけどな…その代わり、俺が怒られそうな時は一緒に怒られてほしい。ユージオとアリスはカンカンだろうし、フォンに至っては何言われるか分からなくて、想像できない分本当に怖いから…」
「あー…それは分かるかも……というか、私もフォン君の制止を振り切ってここにいるから…帰ったら、色々な人に怒られちゃうね?」
「かもな…でも、俺たちがみんなのことを一秒たりとも忘れたりしなければ…最後にはきっと許してくれるよ」
「そうだね…二人でならきっと覚えていられるよね…今から何百年が過ぎようとも…キリト君と一緒なら…大丈夫だよね?」
無謀かもしれない…不可能なのかもしれない…それでも、今の二人は…いや、キリトとアスナだからこそだろうが…きっと覚えていられる筈だと…途方に過ごすこの世界で、もう一人では、孤独ではないのだからと…立ち上がり、抱きしめ合った二人はそう確かめ合い、祭壇の端へと歩いていく。
「…ねぇ…私たちは、この世界でどのくらい過ごすことになるのかな?」
「最短でも200年って菊岡さんは言ってたな…もしかしたら、それ以上になるかも…1000年は…いかないとは思うけど…」
「…例え1000年であっても長くはないよ…君と一緒なら、きっと乗り越えられる…二人でしたいこと、やらないといけないことをしていたら、あっという間だよ…きっとね」
「…そうだな」
指を絡め、しっかりと繋いだ手を…確認するように握り直し、アスナは笑みと共にキリトへと言葉を掛けた。
「さぁ!行こう、キリト君!」
「…ああ!行こう、アスナ…!するべきことは沢山ある…この世界は生まれたばかりなんだから…!」
その言葉に応え、キリトは広大に広がるアンダーワールドを見据え、いつもの笑みを浮かべる。そして、すべきことをするために…キリトを真似て、心意によって天使のような純白の翼を具現化したアスナと共に、祭壇から飛び立とうと…
「…そういえば…フォン君とユージオの剣…置きっぱなしでいいの?」
「…あっ!?ヤバい、忘れてた…?!」
「もう…キリト君ったら…!」
アスナに指摘され、手放していた映現世の剣と青薔薇の剣の存在を思い出したキリトが慌てて回収しに向かう。その姿に呆れつつ、いつものキリトらしい姿にアスナも苦笑してしまう。
そして、今度こそ準備が整った二人は祭壇から飛び立った。
【…これから、人界とダークテリトリーの和平、人界における改革やらそれに伴く騒動、機竜などの革新的な発明など…キリトやアスナを中心に様々なことがアンダーワールドにおいて起こるのだが…その話はまた別の機会に語られることになるだろう】
●ソードスキル解説
幻想剣≪曲刀≫11連撃最上位ソードスキル〈アフタージュ・フレーム〉
淡い紫赤色のライトエフェクトを宿して発動する曲刀系統最上位ソードスキル。
右斜め斬り上げを初撃で放ち、右斜め袈裟斬り、空中三連撃での乱舞、肩を狙った二連突き、そして、横、縦、斜めの回転を加えた五連撃を最後に放つ。
ソードスキル発動中、使用者のAGIのステータスを二倍にする共通効果があり、対象がプレイヤーだった場合、出血・防御ダウンのデバフを必中で、対象がモンスターだった場合、弱体(AGIを20%ダウンさせる状態異常。ステータスデバフと重複可)・攻撃ダウンのデバフを必中で付与する上に、時間による解除がないため、対象に回復アイテムを(モンスターに対しては何かしらのスキルを)使わせなければならないため、妨害技としては恐ろしい程優秀である。更に無効化でなければ、耐性を無視して付与するため、初見ではまず対策が取れない。
その分、最上位ソードスキルでありながら、他武器種の最上位ソードスキルと比較すると、威力が少しばかり低いという特徴もある(それでも、既存下位ソードスキルと比較すれば、余裕で上回ってはいるが…)
ALOで使用した場合、火・闇の属性を半分ずつの割合で持つ。
幻想剣≪両手斧≫2連撃最上位ソードスキル〈ランダウン・スロチャーム〉
鈍い水緑色のライトエフェクトを宿して放つ両手斧系統最上位ソードスキル。
身体をのけ反らせるように振りかぶって放つ振り下ろしから、追撃の振り下ろしか、打ち上げかを選ぶことができる不規則な型を持つソードスキル。
最上位系統に違わない、ソードスキルのダメージ計算時、STR価を3倍にして加算するという威力強化もそうだが、何よりも2連撃目を状況に応じて選択できるという、既存ソードスキルの常識をぶっ壊す、虚を突くにはふさわしすぎる特異性を持つ。
また、初撃を受けた対象は必ずバウンドするという特性もあるため、もし初撃を直撃で喰らえば、2撃目はほぼ必中という仕様。その分、発動までのモーションがあまりにも大きすぎる為、それ相応の隙を相手に作らせる必要がある。
ALOで使用した場合、水3割・土7割の属性攻撃値を持つ。
幻想剣≪細剣≫6連撃最上位ソードスキル〈ゼクス・ペンタグラム〉
白黄色のライトエフェクトを宿して放つ細剣系統最上位ソードスキル。
初撃を喰らわせた相手を中心に六芒星の軌道を描くように高速移動しながら、残りの突き5連撃を喰らわせる技。
ダメージにAGI値を割合加算するだけでなく、技を放つスピードが速ければ速いほど、威力が底上げされるという特性を持つ。また、発動中はウルトラアーマー仕様で技が中断されることはないが、ダメージは受けなくなっているわけではなく、発動中、受けるダメージが二倍になってしまうデメリットがあるため、キリトやユウキといった反射神経が優れている相手には反撃を受けてしまう為、相性が悪い。
ALOで使用した場合、光属性を宿す。
幻想剣OSS 秘封『鳳桜ノ命雷』
幻想剣≪両手剣≫最上位超重単発ソードスキル〈エンド・オブ・フォーチュン〉に、霊装心刀『雷ノ焔』が混ざり合ったことで生まれた大技。
正確にはソードスキル(OSS)ではない新たなる剣技であるが、便宜上OSSという形に分類される。ライトエフェクトは白銀蒼の燐光と翡翠の霊雷光。
モーションは〈エンド・オブ・フォーチュン〉そのものだが、放つ直前に武器の記憶からオーバーフローした霊雷光の身体を持つ『神狼』と『鳳凰』を巨刃に宿し、降り落ちた神雷と共に技を放つものとなっている。
その威力は計り知れず、理屈や常識といった範疇では言い表せない超常的なものとなっており、光と同等以上の速さで放った一撃は、負の心意と殺してきた人の魂を吸うかの如く凶化されていた『友切包丁』を容易く破壊し、PoHに致命傷を負わせたほど。
但し、フォン曰く『あの技をもう一度再現することはそう簡単にはできない』と言わしめる程に繰り出すこと自体が困難な技で、肉体・精神共に極限状態で、心意を最大限にまで引き出している状態でやっと発動できる。
二刀流18連撃ソードスキル〈心意版スターバースト・ストリーム〉
キリトが終盤で繰り出したUW限定でのスターバースト・ストリーム。
原作と同じ部分の解説は省略するが、最後の2連撃を放つ直前に天日剣(映現世の剣)と青薔薇の剣が駆けつけており、星薔薇の剣の効果でキリトの心意に応じて、込められた心意が連動して剣を操るため、正確には18+αでの連撃を行うこともできる。(最後の斜め十字2連撃に合わせて、二つの剣もガブリエルの胸に刃を突き刺している為、20連撃ソードスキルという見方をすることもできる)
そういうわけで、UWに残ったのは原作同様にアスナでした。
前話に引き続き、キリトの正妻に止められる形でフォンは、ユウキと共に現実世界に帰還することになったわけで…そういうわけで、次回からはオリジナルを交えながらのフォン視点でのその後のお話を展開していく形になります。
先に宣言しておきますが、アニメと同じ部分は大幅にはしょります!
まぁ、同じ内容をダラダラ書いても仕方ないというのと、そこまで明確に書いているといつまで経ってもWoU編が終わらないので(オリジナルの部分が結構量あるのも大きいです)
…それでは、本話の解説を。
キリトに手元に残った映現世の剣と青薔薇の剣。
これは、キリトの元に集まっていた際に、ユージオとフォンがログアウトしてしまった為、所有権がキリトに移ったことで起きた現象です。
そのため、原作だとムーン・クレイドルにあたるお話以降のアンダーワールドにおいて、キリトが二刀流で闘うことができるわけでもあります。
一方で、フォン専用装備と言っても過言ではない映現世の剣は能力が使えない神器という扱いになり、キリトとある人物との相談の末、ある処分が下される形となります…これがWoU編の最終回へと大きく関わることになりますので、後の展開にご期待頂ければと思います。
そして、リッパーさん廃人化&ヴァサゴの結末…
ガブリエルは言わずもがな、リッパーは殺されまくった結果、完全に発狂した終わりを迎えたわけで…実は、クリッターに介錯させようという考えもあったのですが、そうなるとあのカオスな空間でクリッターまでもが錯乱しそうなイメージがあったので、生きながらも再起不能という結末にしました。
ヴァサゴさんは、原作以上の姿に変貌してしまいました…しかし、そうなったにも関わらず姿を消した彼は帰ってくるのか、否か……まぁ、違うPoHは後々出ることは確定しているわけですが(笑)
それでは、また!
ルコルンさん、
ご評価ありがとうございました!
ミトを本作に登場させるとしたら、その後はどういう感じで登場してほしいでしょうか?
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半レギュラー化(物語にもがっつり絡む)
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スポット参戦(閑話に出てくるレベル)
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まさかのサブヒロインポジ