次回に繋げるインターバル回ってことで。どちらかといえば、後半の方が本題です。
それでは、どうぞ!
…港区六本木の一画…所狭しと並ぶビル群の一つ、そこの数フロアを占有しているベンチャー企業という形で体裁を取っている海洋研究開発機構…通称『ラース』六本木分室。
『アンダーワールド大戦』と称された、アメリカの特殊部隊によるオーシャン・タートル襲撃事件終結から3週間程が経った7月26日…俺はある用事でここへと足を運んでいた。
何度か木綿季と、もしくは直葉ちゃんや詩乃たちと…未だに眠り続ける和人と明日奈の様子を見に来たことはあったのだが…今日は一人で来ていた。
エントランスで受付を済ませ、目的のフロアへ向かう為エレベーターに乗る…一応夏休みに入ったため、私服でも良かったのだが…今日の目的からして制服の方が色々と都合が良かったため着てきたのだ。
駅から歩いてきたことで外気に晒され、夏服である半袖のカッターシャツが汗によって肌に張り付くも、程よく吹き込んでくる冷房の空気に火照った体が冷やされていく。
すると、目的のフロアに着いたことですると、目的のフロアに着いたことで鉄の扉が開き…
「よく来てくれたッスね、音也君」
「どうも、比嘉さん。お世話になります」
「いやいや…今日はこっちの頼みで来てもらっているッスから」
「比嘉君の言う通りだとも…折角の夏休みだというのに、ここに来てくれたことには感謝しかないぐらいからね」
フロアに入った瞬間、振り向きながら出迎えてくれた言葉と視線が二人分…モニターから目を離して、こちらを向いた比嘉さんと…マゼンタカラーのアロハシャツを纏い、サングラスを掛けた、夏という季節をこれでもかと体言してみせている、この部屋にはとても似合わない死人扱いされている人がいた。
「はぁ……木綿季から聞いた時にも思っていたけど…あんた、ファンションセンス皆無だろう」
「おや…これは手厳しい意見を貰ったものだ。僕としては夏を過ごす格好としてはこれ以上ないものだと思うんだが…その辺りに煩いのは、やはりお母さん関連なのかな?」
「…撃たれて、性格だけじゃなく、プライバシーの侵害に関する感性のネジまでぶっ飛んだじゃないのか?だから、木綿季に叩かれたんだろうが…」
「…その節は……ちゃんと反省して、言う相手を選んでるつもりだよ」
溜息と併せて指摘するも、相も変わらずこちらの神経を逆なでする言葉に容赦なく切り返してやった…流石にその時のことは本人も本気で悪いと思っていたらしく、バツの悪い笑みを浮かべたその人…菊岡は目線を逸らしていた。
…そう…菊岡は死んでなどいなかったのだ。
正確には、報道上は死んだという形にし、実はこうしてピンピンしていたわけだ。本人曰く、もしあのままだったら、襲撃事件の全責任を押し付けられて左遷させられるか、下手すれば本当にこの世から抹消されかねない可能性が高かったらしい。
だから、ラースの全権限を新たに代表取締役に着いた凛子さんに託し、比嘉さんと共に裏方に徹することにしたというのだから、こいつのしぶとさと周到さには頭が上がる思いだ。
まぁ、余談だが…木綿季たちがオーシャン・タートルに辿り着いた時、『海上にずっといるから、気分だけでも日本人でいたい』という呆れた理由で甚平を着ていたというのだから、センスがおかしいと疑うのは当然だと思う。
ちなみに木綿季が思わず叩いたと聞いた時には…まぁ、ちょっと複雑な気分にもなったけど…菊岡も菊岡で口を滑らせたのが悪いということで俺の中では結論づけた。
「人を選んでる時点でどうかと思うけど…まぁ、いいや。それで…二人はどこに?」
「隣で凛子先輩と一緒にボディの最終確認をしてもらっているッス…音也君が来るのを凄く楽しみにしてたから、早く行ってあげてください」
いつの間にか菊岡のペースに呑まれかかり、ここに来た本題を思い出した俺は比嘉さんの言葉に従い、隣の部屋へと向かう。専用のⅠDカードをタッチパネルへとかざし、開いた扉の先には…
「…久しぶり…といよりも、こっちでは初めましてと言うべきかな……ユージオ、アリス」
俺が入ってきたことに気付き、会話を中断した三人がこちらへと一斉に振り返る。一人はもちろん凛子さんであり、そして…
「「…!フォン…!!」」
あっちの世界…アンダーワルドと全く変わらない姿をした二人…俺と同じ学校の冬用制服に身を包んだユージオとアリスがこっちに気付いた。驚いてか、一瞬呆けていた二人…だけど、ユージオは何を思ったのか、俺へと駆けてきて…!?
「フォン!?」
「うおぉっと……うわぁあああぁ?!」
感極まって抱き着いてきたユージオを受け止めようとしたのだが…あまりにもそっくりすぎたその身体にあることを忘れてしまい、押し倒せされる形で俺は地面へと金属音と共に倒れ伏せた。
「いつつ…ユ、ユージオ…大変申し訳ないんだが…どいてくれぇ…重すぎる…!」
「あぁ!?ご、ゴメン、フォン!?大丈夫!?怪我はないかい?!」
「何をやっているのよ、ユージオ?!」
その見た目に反して結構な重さがあるユージオの身体に、内臓が圧し潰されそうな感覚と共に体が悲鳴を上げていた!思わず床をタップして声を上げたことで、気付いたユージオが謝りながら身体を退けてくれ、慌てて駆け寄ったアリスが体を起こすのに手を貸してくれた。
「ゴホ…ゴホ…!いや…俺も避けるか、声掛ければ良かったから…大丈夫。それにしても……いやはや…これが仮初の身体とは全然分からないな」
咽ながらも、間近にあったユージオとアリスの顔が自然と目に入る。頭では分かっていながらも、こればっかりは本当にそっくりだと…二人の今の身体がロボット…茅場が使ったというニエモンという機体だと思えないものなのだから驚きだ。
「どこからどう見ても、あっちの世界のお前たちと瓜二つだな…いや、目の部分とかをよく見たらレンズだって認識は…といっても、映像だとかだったら見分けるのは無理だな。さっきの動きだって違和感なく走っていた訳だし…動きのスムーズはどうにかできたとしても、平衡感覚とかそういった技術までもがこっちだと進歩してるなんて…VRMMO技術だけでもカルチャーショックだったが、これはこれでまたビックリというか…」
「音弥君、ストップ…二人が混乱してるから」
「…あっ…すみません。つい…」
いつものというか、SAO時代からの悪癖が出てしまい、観察と共に考察を口から垂れ流してしまい、凛子さんから待ったの声が出たところで我に返った。
バツの悪い表情をする俺を見て、若干引きながら苦笑いするユージオとアリスだが、フォローの言葉を掛けることはできなかったらしい。
「…さてと。さっきの動きからしてボディの最終チェックは問題ないみたいね」
「アハハ…そうですね」「ええ…大丈夫だと思います、リンコ」
「そう…なら、私は席を外すわ。音弥君、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます、凛子さん」
どうやら最終チェックは終わったらしい…俺という犠牲を伴ってというのはちょっと思うところはあるが…気を遣ってくれた凛子さんが退出したところで、俺は再び二人へと視線を向ける。
「こっちに戻って来てから、VR空間だとすぐに会えたけど…さっきも言ったけど、こっちだと初めましてだな。フォンこと、音弥蓮だ…って、記憶を失っていた時に二人には教えていたんだっけ?」
「オトヤ・レン…本当に二つ名前があったんだね。こっちだと、レンって呼んだ方がいいんだよね?」
「そうだな…フォンっていうのはアバターネーム…まぁ、仮想世界での名前だからな。人によってはプライバシーとかあるし…色々とやっかみが絡むこともあるしな…」
「…フォンって、何か悪いことでもしたの?」
「いや、特段何かをやったわけじゃないんだけどな…(意識してはという限定はあるけど…)…あと一応言っておくけど、音弥が名字…家名だからな?」
「「…えっ?」」
ユージオとアリスはこっちでもあっちでもどう同じ名を呼ばれるのは問題ないだろうが、俺たちはそうはいかないわけで…改めての自己紹介をしながらその旨を告げる。
納得したようなユージオの横で、アリスが疑うような視線を向けてくるがそれを躱しながら答える。まぁ、アバターネームよりも、俺たちの場合は二つ名とかの方が有名だから微妙なところではあるのだが…
それと、勘違いしてそうだなと思ったところを指摘したら、ものの見事にそうだったらしく、二人の揃った声が飛び出て、俺は思わず笑みを零してしまった。
ともかく、いつまでも長話していてもしょうがないと、俺たちは席に着いて話を続けていった。
「…それにしても…リアルワールドというのは本当に私たちの世界…アンダーワールドとは全然違うのね」
「うん…映像だけど、馬なしで走る鉄の馬車とか沢山走っていたり、セントラル・カセドラルほどじゃないけど、沢山の高い建物が並んでいたり…」
「まぁ、そう思うよな…俺からすれば、アンダーワールドみたいな近世・近代みたいな世界観を実際に過ごすことの方が驚きなわけなんだし、それが逆になっているのが二人の現状だもんな」
「それに、フォン…じゃなかった、レン。「今は他に人もいないから、フォンでいいぞ?」そう…フォン。貴方もこっちでは剣士じゃなくって、学生っていう身分だっていうのも驚きよ」
「アハハ…一応、こっちの世界でも剣道っていう武道はやってたからあながち剣士だっていうのが嘘って訳でもないんだぜ?あくまでも本業が学生っていう身分ってだけだ」
ラースによって作成され、管理されているVRチャットルームで帰還直後に一度会ってはいるのだが…それから大分時間が経っていることもあり、あれから色々と(おそらく凛子さんを中心にだろうけど)教えてもらった二人が驚きやら嬉しさやら好奇心やらが入り混じった話をしてくるわけで…
…まぁ、再会した時には…
『結局、フォンとキリトはどうしてあんなことになったの?』
『ユウキとアスナとはどういった関係なのか?』
『ベクタを倒した時の話…主にユージオがベルクーリやイーディスとどのように闘ったのか』
『ユージオが覚醒させた力…心意の破界鎧に関して』
などなど…俺が認識できていたことからそうでないこと、聞きたいことから聞いてほしいことも多岐にあったようで…というか、幼馴染のユージオがとんでもない力に目覚めていることに驚いたわけで。
下手をすれば、映現世の剣の力抜きで普通に闘ったりしたら、ほとんど勝ち目ないんじゃないだろうか?弟子の成長を喜ぶべきなのか、幼馴染が化け物の領域に足を踏み込みかけていることを危惧すべきなのか…いや、俺も十分にそうなりかけていたわ。
『ユージオとアリスが付き合い出した』
という話に関しては、逆に驚かなかった。だって、ルーリッドで過ごしていた時から、無意識の内にバカップルレベルでいちゃついてたからな。あの時はようやく自覚してきたのかなと思っていたし、くっつくのは時間の問題だとも思っていたので…
とりあえず、おめでとうと言ったら、二人とも顔を真っ赤にしていた。まぁ、アリスは照れて上手く言葉を紡げなくなっていたのに対し、ユージオは照れながらも返事ができていた。意外にもアリスの方が初心だったのと、ユージオの精神が成長していたと捉えるべきなのだろう。
「でも、本当にその恰好で良かったのか?流石に騎士の鎧とかは、コストとかTPO的にはありえ…コホン‥難しいとは思うけど」
「フォン…貴方、今、私を馬鹿にしたでしょ?」
思わず本音が出かかったのを言い直したが、アリスは聞き逃さなかった。笑いながら怒気を発しているが…申し訳ないが、ニエモン作成にあたってどんな格好がいいかと聞いた時に、純金製の騎士鎧を希望したお前が悪い。
それが駄目だと分かったところで、ならば、俺や救援に来てくれたコンバート勢と同じ格好がいいとのことで、帰還者学校の制服が選ばれたわけだ。
「まぁ、俺としては二人としてお似合ってるし、外出する時とかには下手に目立たずに自然に溶け込めるからいいとは思うんだが…アンダーワールドの衣服を再現できるっていう話もあったんだろう?」
「まぁね…でも、これだからいいんだよ。君やユウキたちと同じこの恰好を…僕たちやアンダーワールドの為に助けに来てくれた人たちとの繋がりを示せるからこそ、ね…?」
「それに、こっちの世界にはこっちの流儀があるんでしょ?それに従わないといけないのもあるし、あっちの世界のことを気にしすぎるのも…ちょっとね」
(…忘れたいって訳じゃないんだろうけど…それでも、行くことができない故郷を気にすることをしないようにって…そんな感じなのかもな)
ユージオの肯定的な言葉に対し、アリスの放った言葉から俺は二人の心情をなんとなくではあるが読み取った。
…二人の気持ちはよく分かる…俺がそうだったんだから。
この世界に来てから、元の世界のことを俺は敢えて考えないようにしていた。戻れないかもしれない…それと、元いたであろう自分を殺したにも等しい事実を受け入れることができないでいたから、今目の前の出来事に集中していたかったのだから。
「…数日後には記者会見だったよな?凛子さんと打ち合わせはしてると思うが、準備は大丈夫か?」
「ええ…でも、ちょっと不安もまだあるわ」
「確か…てれびやいんたーねっとっていうもので、その場にいない人も僕たちを見ているんだよね?う~ん…上手く話せるかな」
「何言ってんだよ…少なくとも、暗黒神って呼ばれてたベクタや、最高司祭として君臨していたアドミニストレータと対峙するよりは遥かに簡単だろう?」
「いや、比較対象がおかしいよ」「いや、比較対象がおかしいわよ」
「まぁ、あれだ…普段のお前たちみたいに話せば問題ないってことだ。それに、会場には俺も行く予定だから、気休めかもしれないが、ちょっとは安心して臨んでくれよ」
あまり暗い話をしていてもしょうがないと思い、話題を変える意味もあって、もう間もなく差し迫るラース主催の記者会見のことを持ち出す。
二人にとっては俺たち以外の人間と話す機会でもある…はっきり言えば、人工フラクトライト…AIに対する見解というのは未だにお茶の間を賑わせ続けている。
未知なるものとどう接していくのか…否定的な意見が多いのもまた事実であり、アンダーワールドで対面してきた悪意とは異なる質疑が出ることも考えられる。
もちろん、二人も同席する凛子さんと打ち合わせはしているだろうけど…俺は二人が思ったことを、感じたことをそのまま答えてもらえればいいじゃないかって思ってる。
俺たちはともかく、世間に人工フラクトライトがどういったものかを知ってもらう最初の一歩とするのが、この記者会見の狙いだ。表に出るわけではないが、何かしらのフォローができるように当日は俺も会場の袖にいる予定なのだ。
…半分冗談ではあったが、あれらと対面した二人がそう気圧されることもないだろうと思って言ったのもあり、大丈夫なんじゃないかという感じもあるんだが…
「でも、やっぱり夏服っていうものにした方が良かったかな?リンコさんもフォンも涼しそうな恰好してるし…」
「でも、こっちだと正装はこういう長袖がいいってことだったし…今回の反応次第でまたヒガにでも相談したらいいじゃないかしら?」
(それに……あいつらとの約束でもあるからな)
他愛もない話をするユージオとアリスを見ながら、俺はあの約束のことを思い出していた。あいつらが…キリトとアスナが目覚めるまで、ユージオとアリスのことをよく知っている俺が支えていこうと、心に決めて。
『…音弥君。お楽しみのところ悪いんだけど、そろそろ時間よ』
二人と話し込んでいたわけだが、いつの間に時間を迎えていたらしい。ここに着いたのが11時過ぎだったが、スマホで時間を見ると15時手前だった。
時折、凛子さんが飲み物を持ってきてくれていたが、時間を忘れて話し続けていたらしい。スピーカーから聞こえてきた凛子さんの声に、名残惜しくはあったが、そろそろお暇しなければならない。
「…あっという間だね。フォンとはもっと話したいことがあったんだけど…」
「しょうがないさ。それに、事態がもっと落ち着いたら話せる機会は増える筈だし…二人に話したALOで会うことだってできるかもしれないだろう?」
「そうね…その為にも、まずは記者会見を頑張らないとね」
「おう…それじゃ、今度は記者会見の時に来るから。二人とも、ちゃんと凛子さんの言うことを聞くんだぞ?」
「分かってるよ」「は~い」
真面目とお転婆…苦笑と渋々といった異なる返事を聞き、二人に見送られながら俺は手を振って部屋を出た。
「音弥君、ちょっといいッスか?」
「…?構いませんけど、何かまだありましたか?」
凛子さんと入れ替わりで部屋を後にし、帰る前に和人たちの様子を見に行ってからにしようと考えていたところで、比嘉さんから声を掛けられた。まだ何か用事があったのかと思い、尋ね返すと、比嘉さんは苦笑しながら答えてくれた。
「…菊さんが二人で話をしたいって…何か妙に覚悟を決めた顔をしてたッスから……音弥君さえ問題なかったらお願いしたいッスよ」
「(…そういうことか)いいですよ。俺も腹を割って話さないといけないとは思ってましたから」
比嘉さんの言葉に、俺も苦笑しつつ了承した…アンダーワールド大戦以降、菊岡とは話し込む時間がなかったから、こちらからしてもそれは有難い提案だった。
俺の返事を聞いた比嘉さんが、目線で奴が待っているであろう部屋を教えてくれたので、それに従って歩く。さっきの部屋と違い、暗証番号などは必要ないその扉は、俺が前に立ったことで自動で開いた。
「…帰る前に呼び止めてすまない。本当はもっと早くこういう場を設けるべきだったとは思うんだけどね」
4人用の小会議室…俺を待っていたであろうその人物…菊岡はコーヒーを片手にそう声を掛けてきた。その飄々とした相変わらずの姿に笑みを浮かばながら、俺は備え付けの椅子に腰かけた。
「しょうがないさ。あれから色々と忙しかった筈だし…俺も俺で学校やら何やらで手一杯だったし。撃たれたあんだにそこまで望むのは酷な話だからな」
「そう言ってもらえると助かるよ。コーヒーで良かったかな?同じインスタントではあるが、紅茶も用意できるが…」
「いや、コーヒーでいいよ。砂糖とミルクもいらない」
「今日は、木綿季君は一緒じゃなかったんだね」
「…木綿季はまだ明日奈のことを気にしてる。この前、見舞いに来たばかっりなのに、そう頻繁に連れてくる方が心労になりかねないと思ってな」
「なるほど…それは野暮なことを聞いてすまなかった。ほら」
「ありがとう…そういう分かってる風みたいな態度を取りながら、聞いてくる時点で本当にいい性格をしてるよ、あんた」
インスタントマシンからコーヒーを作り、手渡してくれた菊岡にお礼を言いながら皮肉を飛ばす。どうにも喧嘩腰になってしまうのは、やっぱり菊岡に思うところがあるせいだろう…そういう意味では俺もまだ子供なんだと実感するわけだが。
「いやはや…本当に大変だったよ。アメリカの襲撃部隊と繋がっていたのが、国の防衛事務次官だったというのは、僕も驚きだったけどね」
「身近な存在が敵とか…フラクトライトたちにコードを仕込んだスパイもそうだけど、身内へのチェックが甘いんじゃないか?」
「前者に関してはAIに対する認識の差…国土と個人の利益を鑑みない馬鹿のせいだと言い訳させてもらうが、後者…柳井君のことに関しては重々受け止めているよ。まさか、ALO事件の主犯である須郷の部下だったとは知らなかったんだ。
できるだけ、VRMMO関連の知識を持つ者をということで人選を進めていたのが裏目に出てしまったわけだ…すまない」
「…須郷…確か、俺や明日奈をALOに閉じ込め、人体実験をしていた奴だっけ?茅場や凛子さんの同僚だって話は聞いたけど…」
「そして、比嘉君の先輩にもあたるわけだ。ALO事件が明るみに出たことで完全に失脚し、牢の中にぶちこまれたわけだが…まさかこんな形でも彼の影響が出てくるとは…いや、茅場明彦の技術を流用していたからこその因縁だったのかもしれないな」
オーシャン・タートル襲撃事件における大まかな話は聞いていたが、酷く疲れた顔をしながらその詳細部分を語る菊岡の姿に内心同情する。流石の菊岡も、ここまでの事態になるとは思ってもみなかったのだろう。
コード871を仕掛けた裏切り者が、ALO事件に関与し、その罪をひっそりと逃れていた上に、アリシゼーション計画に参加しているなど夢にも思わないだろう。
父親繋がりで知っていたのかもしれないが、オーシャン・タートルを散策中の明日奈もすれ違った時には微かに見覚えがある程度にしか覚えていなかったと、木綿季も言っていたぐらいだからな。
俺も写真(履歴書に添付されていたもの…流石に死んだ時に撮影された現場写真は見せられないレベルで酷かったらしい)を見た時には分からなかったし、旧ALOで操られていた時の記憶は酷く朧げなものが多い為、尚更だった。
「まぁ、幸いだったのが、いの一番に抗議の声を上げてきそうだった法曹界の面々が予想以上に静観を保っているというところかな」
「…あー…そう、なんだな」
「ああ…どうやらどこぞの敏腕弁護士が弁護士会副会長の弟子だったらしく、その付き合いで様子見してもらえるようにと進言したらしいよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いやはや…君たち二人への面談をどうやって強引ながらも取り付けたのかと思ったが調べてみたら納得し、驚愕したよ。それと、君の無鉄砲さが誰に似たのかもよく分かったよ」
明言こそしてないが、完全に言い回しでそうだと伝えてきている菊岡の眼鏡が光ったように見える。俺は俺で返す言葉がなく、視線を逸らしながらコーヒーカップに口をつけることしかできずにいた。
「まぁ、些細な話は置いておくとして…」
(全然些細じゃねだろう…!?)
「さてと、音弥君…色々と話が長くなってしまったが、これからが本題だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
手前に置いていたカップを横にどけ、真剣な表情でそう話を切り出した菊岡に、俺も思わず身構えてしまう。一体何を言うつもりなのだろうか…
「…ここには監視カメラもない。会話の音も外には聞こえない完全防音仕様となっている」
「…あ、ああ…それがどうかしたのか?」
「そして、何があっても君が入ってから30分間は誰も入室しないようにとも言ってあるし、比嘉君にもそう伝えてある」
「…その…えっと……結局どういうことだ…?」
「すぅ……つまり、ここで煮るなり焼くなりし放題ってことだ」
「…あんた、まさか…?」
…ようやく菊岡の言わんとすることが分かった…
眼鏡を置き、いつもの裏表の読めない仮面を捨てたかのように俺の目をまっすぐ見つめてきた菊岡に、俺は驚くことしかできなかった。
「…君には、僕を殴る権利がある…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そう告げられた言葉に、俺は応えない…応えられなかった。
しかし、菊岡は黙っている俺を憚らず言葉を続けた。
「あれだけ偉そうなことを言っておきながら、僕は君を…君とキリト君の命を危険に晒し、木綿季君と明日奈君までもを巻き込み…目覚めさせると豪語しておいたキリト君を、そして、明日奈君を限界加速フェーズへと追い込んでしまった。
そして…君に真実を告げず、人工フラクトライトの最終フェーズを…戦争を勃発させ、君たちの想いを知りながら押し通そうとした。もちろん、今でも間違ったことをしたとは思っていないが……君たちを裏切ったこともまた事実だ。
…その怒りをぶつける権利は君にある…ぶつけられる責任が僕にはある…覚悟はできているし、僕は法律上は死人だ。多少のことは目を瞑られる……君に全てを任せる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
立ち上がり、俺を見降ろす菊岡…その口から語られる言葉に、今度は嘘偽りは何一つ感じられなかった…少なくとも、信用していない俺から見ても、そう感じ取れた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アンダーワールドで最終実験フェーズのことを知った時には、正直に言えば殺してやりたいと、殺意を…アドミニストレータを倒した後に話した時、どれだけの憎悪を抱えたか…あの時の感情のままであれば、今すぐにでもぶん殴っていただろう。
…でも、今は違った…
「………止めてくれ…菊岡さん」
「…!」
苦笑いして、俺は菊岡に…いや、あの時から変えてしまっていた呼び方を使い、その行動を制止した。その呼び方に菊岡さんも気付き、目を見開いた。
「…はっきり言えば…いや、アンダーワールドにいた時だったら間違いなく殴ってたよ。どこまでも…下手すれば、とても言葉にはできないぐらいに…
でもさ…今は違うよ。俺はあんたに感謝してるんだ」
「…感謝、かい…?」
俺の言葉の意図が読み取れないのか…珍しく困惑する菊岡さんの姿に苦笑いが深まるが、そのまま言葉を続ける。
「ああ…俺はアンダーワールドに行って良かったよ…人工フラクトライトの可能性を知れた…大切で忘れちゃいけない記憶がまた増えた…自分の進みたい道を見付けらた……それに、背負わないといけないことも覚えておかないといけない責任も自覚できた…
だから…赦しはしないけど、感謝もしてる…ありがとう、菊岡さん」
「あ、ああ……どういたしまて、というべきなのかな?」
「…ということで、殴ってくれとかそういうのはなしでいいよ。っていうか、木綿季があんたを叩いたって聞いて、殴りにくいし…」
「……その一言がなかったら、感動してたんだけど…!」
「まぁ、あれだよ…信用はしてないけど、信頼はしてるってことだから。あんたとの関係を切るのも、色々と損することも多いし…」
「…そう言ってもらえるだけありがたいよ。君との繋がりが切れるのはこちらも痛手だし…少なくともその信頼には応えられるようにするよ」
混乱しまくっていた菊岡さんだが、軽く冗談を言うと少しばかりいつもの調子を取り戻したようだ。
確かに菊岡さんとは相容れない部分があるし、分かり合えないことの方が多いかもしれないし、この先もそういうことがあるとは思う。
でも、菊岡さんの考えは決して間違ってなどいないのだ。俺たちの考えが絶対に正しいということがなければ、菊岡さんの考えが絶対に正しいわけでもない。
どちらも正しく間違っている…それが現実なのだと思う。そう思うと、どうしても赦せない部分はあっても、俺は菊岡のその姿勢を受け入れることができたのだ。
「…でも、本当にいいのかい?後から殴らせてくれというのはなしなんだが…」
「本当に本当だって…まぁ、下手したらキリトには殴られる覚悟はしといた方がいいじゃないか?」
「…ハハハ…そうかもしれないね」
(まぁ…キリトはキリトで絶対そんなことしないとは思うけどな)
二言はないかとしつこく尋ねてくる菊岡さんに、もう一度その気はないと告げる。併せてあり得ない可能性をジョークで告げ、菊岡さんと共に笑い合う。
「……ふぅ…そうかい。それにしても…」
「…?なんだよ、人を変なもので見るような目をして…」
「いや……オーシャン・タートルに来た時にも感じたんだが、君には時折年齢に見合わない雰囲気を感じされっぱなしだと思ってね。なぁ、音弥君……君は一体何者なんだい?」
「………こことは違う世界の人物…なんて言ったら信じる?」
「…っ…?」
俺の言葉を聞き、安堵したように椅子に座り込んだ菊岡さん…すると、以前から感じていたのか、安心感からそんな疑問が菊岡さんの口から零れ、俺は少し考えてから意味深にそう呟いた。
その言葉が…俺のその姿が冗談に感じられなかった菊岡さんが息を呑んだが、
「…な~んてね?本気にしないでくれよ」
「ア、 アハハハ…音弥君もそんな冗談を言うんだね。オジさんにはちょっとビックリする
内容だったけどね」
(…冗談じゃないんだけどな)
もちろん真実を告げるわけにもいかないので、俺はそう言って誤魔化した。流石の菊岡さんも揶揄われたのだと悟ったらしく、乾いた笑みを浮かべていた。いつもやられてばっかりなので、これぐらいの仕返しは許してもらいたいものだ。
「…話は終わりだよな?そろそろ帰りたいんだけどいい?その前に、キリトたちの様子を看てから帰りたいんだけど…」
「もちろんだとも…すぐに係の者に連絡を入れるよ」
話を終え、今度こそ帰ろうと…その前に、キリトたちへの面会(といっていいのか?)を求めると、菊岡さんは内線で連絡を取ってくれた。そして、先導するように部屋を出ようとした菊岡さんに、俺はあることを思い出して尋ねることにした。
「そういえば…俺の口座にとんでもない金額が振り込まれていたんだけど…」
「あー…政府からの口止め料…というよりも、賠償金だろうね。民間人である君たちを、軍事行為に近いことに巻き込んだわけだからね。少なくとも、僕がどうこうしたわけじゃないよ」
「マジでびっくりしたんだからな?死銃事件の時の報酬はまだ納得できたけどさ…明らかにあの時を遥かに超える金額が振り込まれてたんだから…」
そう…木綿季と二人で軟禁されていたホテルから解放された翌日…俺の個人口座に国の…いや、もっと正確にいえば見知らぬ宛先からとんでもない金額が振り込まれていたのだ。
死銃事件の調査報酬が50万以上という破格なものではあったが、それでも3桁には届いていなかったのに対し…今回は三桁を余裕で超え、それまで貯めていたお金と合計して余裕で四桁を超える金額が振り込まれていたわけで…
納得半分、驚き半分…どれだけ自分たちがとんでもないことに巻き込まれていたのかを、現実という形で突き付けられたのだ(隠し事はしないとの約束で、もちろん木綿季にはこのことは教えている…その際、自分の見ている物が信じられずに何度も0の数を数える彼女の姿を見ることにもなったが)
「…あの資金源って、税金だろう?いいのかよ、国民の血税をあんな形で利用して」
「良いも悪いも、国がそう判断してやったことだからね。その分の見返りは、アリシゼーション計画にはあったということでもある」
「あんたといい、国といい…いい加減、人間不信になりそうだよ」
「それはすまない…そうそう。言い忘れていたが、その振り込まれた金額は手付金…確か、ユージオとアリスの記者会見が無事に済めば、もう半分を払うという話だった筈だけど…」
「…えっと………マジで?」
「…よし。そろそろ向こうの準備も整っただろうから行こうか」
まさか、あれが全額ではなかったと聞かされた俺が二度見するも、沈黙することでそれが真実だと肯定した菊岡さんは先に部屋を出てしまった。
…とりあえず、俺や木綿季が大学に行く時に学費には困らなそうだと、俺は思わず現実逃避しながら、その背中を追うのだった。
菊岡が殴られることを期待(?)されていた方、申し訳ございません!
いや、木綿季に殴ってもらった時点で、こうすると実は決めていた展開でした。赦しはしないけど、その気持ちを留める…そういうのもありかなと思ってのお話でした。
そんなわけで、次回はいよいよ記者会見のお話です。
あと数話ですが、もうしばしお付き合いいただければと存じます。
それでは!
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