話が冒頭からズレました…そんなわけで、またしてもサブタイ通りのお話です。次回が詰め込むのと、キリのいいところで分けるから短くなるかと思ってたら、そんなことはなかったです。
お話の展開上、場面転換がコロコロ起こりますのでお気をつけ下さい。
それでは、どうぞ!
「お忙しい中、お集まり頂きましてありがとうございます。本日、当機構は世界で初となる、新生汎用型人工知能の誕生を発表させて頂きます」
8月1日…ラース六本木分室にも近い、六本木ヒルズの屋外広間にて設営された記者会見の会場に俺はいた。
多くの記者にカメラマン、フラッシュが何度も光り続ける中、凛子さんが会見を始めたのを、俺は舞台の裏…パーテーションを挟んだそこでモニターを見ていた。
俺の恰好自体も、流石に制服のままでは子供に見られてしまうこともあり、父さんに借りたスーツを身に纏っている。数年後にはデフォルトになるんだろうなと思い、慣れない首元のネクタイの感覚に耐えつつ、出番を迎えるであろう二人の背を激励の意を込めてゆっくりと押す。
「それでは、紹介致します…彼らがユージオ、そして、アリスです」
それに応えるよう、自信が込められた笑みを浮かべてこっちを見た二人…凛子さんの言葉に従い登壇していくユージオとアリスの背を見送る。一段とフラッシュが激しくなるも、冬用の制服に身を包んだ二人は問題なく凛子さんがいる会見席へと向かって行く。
「「…(コクッ)」」
(…あいつら…!まったく…)
凛子さんの隣に並び立ち、目線を合わせたと思えば、拳を作った右手を胸元へ構え、左手は今は所持していない剣へと手を掛けるように…まさしく騎士が礼をするかのようなポーズで一礼したその姿に、早速アドリブをやりやがってと思わず内心でツッコんでしまっていた。
「リアルワールドの皆さん…始めまして。僕の名前はユージオ…ユージオ・ツーベルクです」
「同じく…アリス・シンセシス・サーティです」
自己紹介をしたその言動と表情が人と全く変わらない二人の姿に、記者たちやカメラマンから驚きの声が一気に上がる。それとは別に、二人が必要以上に緊張していないようで、俺は安堵していた。
二人の名乗り…昨日、VR空間で最終確認をしていた時に議題に上がったのだが、『できることなら、騎士としての私の名前を出したい』という強い希望もあり、敢えてアリスは整合騎士としての名を出すことにした。
一方で、ユージオだけが家名…名字がないのは些か不自然さがあるのではという意見と、同じ整合騎士の名を語るのは色々と誤解が生じそうなのもあり、(二人が付き合っているのもあって)、勝手ながらツーベルク性を名乗ったらどうかと俺が提案したのだ。
アリス自身も反論しながらも、顔を真っ赤にしてどこか嬉しそうな雰囲気を出していたので、照れ隠しだとは敢えて指摘せずに、それを理解していたユージオも何も言わず承諾したわけだ。
(木綿季たちも、今頃、この中継をダイシーカフェで見ているんだろうな)
今、この会場にいるのは俺一人だ。流石に木綿季たちまでもがこの会場に入ることは叶わず、里香たちと一緒にダイシーカフェで中継を見ることになったわけだ。
まぁ、里香や圭子、直葉ちゃんに詩乃、遼太郎さんにエギルさんといつものメンバーに、ディアベルたちを始めとした加勢に来てくれたコンバート組の一部もダイシーカフェに行くとの話は聞いていたので、今、ダイシーカフェは貸し切り状態になっていることだろう。
一応、アルゴさんたちやエイジたちにもこのことは教えているので、自宅のテレビなどでもしかしたら見ているのかもしれない。
(それにしても、非常勤職員とは…あいつの用意周到さには本当に頭が上がるよ)
スーツの胸元…首から下げられている関係者を表わすパスケースには俺の顔写真とラースに所属することを示す身分証が入っていた。
ユージオとアリスをサポートする為…という名目半分、自分たちとの繋がりを証明する為のものとしても機能するそれを準備し、今朝、凛子さんを通して渡してきた菊岡さんの手腕に思わず苦笑いが零れる。
今はラース六本木分室でこの会見を比嘉さんと一緒に見ているのだろう。できることなら、この会見を…和人や明日奈と一緒に見守りたかったのだが、二人は未だに目覚めていない。
ともかく、今はこの会見を見守っているのは俺だけだし、見届けなければとモニターへと注視する。
…まぁ、記者会見は一通り問題なく進行していった…一応は。
事前にこういう意見や質問が飛んでくるのではという予想や想定を、俺やユージオ、アリスと凛子さんの四人で話し合っていたこともあり、色々な質問が飛んでくる中、ユージオとアリスは的確に対応し、答えていた…そう、恐ろしいほど的確に。
例えば、配布資料にデータの記載があるのに、二人の心情を全く配慮していない記者が、
「頭蓋を開いて、内部の光子量(フラクトライトが記録されているライトキューブ)を直接見せてくれ」
なんていう、『その身体はロボットなんだから、頭を開くことぐらい簡単でしょ?』という遠慮のなさすぎる要望をふっかけてきたのだ(しかも、それを求めるのが当然という態度だったのから、尚更酷かった)。
ところが、それに対し一言申そうとした凛子さんを遮り、アリスがこう切り返したのだ。
「ええ、構いませんよ…しかし、その前に貴方自身もロボットだということを証明してくれませんか?その頭蓋を開いて脳を見せてくれるというのなら、私も同じことをしますから」
『貴方は自分ができないことを他人に要求するのですか?それとも、相手が人間でないというのなら、そんなことを要求するのが当たり前だと思っているのですか?』…恐らく本音はそうだという言わんばかりの強烈な皮肉を込めた要求をし返したわけだ。
そのアリスの一言に、たかがAI如きと思っていたのか、それとも自分の想像を超えた対応をされたせいか…きっと両方なのだろう、その記者は閉口し、おとなしく席へと座った。
自分がした失言に対し、謝罪をしなかったところを見ると、プライドが最後まで邪魔をしたのだろうが、周囲の記者は侮辱の目を向けていると共に、下手な質問をすれば自分も同じ目に遭うと理解したのか、変な緊張感が場に浸透していた。
流石に全国中継されていることを分かっているため、アリスとユージオの二人も表情は薄っすらと笑みを浮かべているが、内心は相当キレていることだろう。アリスは特にそんな感じが見て取れたし、俺もちょっとやり過ぎだとは思ったが、完全に記者の方に非があったので、思わず拳を握り占め、グッジョブと賞賛してしまった。
次に飛び出してきた質問は、女性の記者から発信された当然ともいえるものだ。
「高度な人工知能の産業利用は失業率上昇に繋がるのではという懸念はどうなのか?」
それに対し、凛子さんが切り返す…そもそもラース自体に産業利用の為にフラクトライトたちを提供する意思がないこと、そして、人工フラクトライトは大量生産…いや、多くを一気に成長させることができないのだと、その成長過程が赤ん坊として生まれ、子供から大人に育っていくことで個性を獲得していく…人間と変わらない生き方をしている彼らを人間の意志で強制的に労働に従事させるべきではないと考えていると。
だが、記者は納得できないと再び質問するべく口を開く。
「それは…AIに人権を認めるべきだと言いたいのか?」
その質問に対しても、凛子さんは感情的になることなく答えた。
現在の価値観、思考、法律…それらに則っている今の社会において、人工フラクトライトたちを人と認め、人権を与えて欲しいと主張しても受け入れ難いだろうと。
しかし、100年や200年という時間が経てば、人工フラクトライトたちも人間社会に当然のように適応し解け込み、深く関係を結ぶ未来が訪れることになるだろうと…その確信を持っているからこそ、人工フラクトライトたちを物扱いすることも、虐げることもすべきではないのだと凛子さんは語った。
けど、それでも…そんなことが認められないと、理解できないとばかりにヒステッリクな声で叫ぶかのように、記者は本心を込めたかのような質問を飛ばしてきた。
「人工フラクトライトたちは自分たちとはあまりにも存在が違い過ぎる…人間によって作り出された機械を、どうすれば同じ人類と認められるというのか」
その言葉は、この場に…いや、この中継を見ているであろう人たちの考えを集約したかのような言葉だった…恐怖とも、困惑とも…自分たちが理解できない、受け入れられないものに対する疑念が込められたその言葉に、根気よく返そうと口を開きかけた凛子さんを制したのは…ユージオだった。
「あなたのその疑問は当然だと思います」
「っ…!?なら…」
「では、あなたは僕たちと同じではないと、どうして言い切れるんですか?」
「…えっ?」
マイクをスタンドから外して持ち、立ち上がって質問に答えるユージオは真剣に記者と向き合っていた。真っ直ぐ見てくるユージオの言葉に、記者は答えることができず、思わず視線を外してしまっていた。
「僕たちは、あなたたちリアルワールドで生きているみなさんが創造者だということを理解し、受け入れています。生み出したことにも感謝もしています。でも、創造者だからって、自らが生み出したものに対し命令や強制させることが…本当に正しいことだと、当然のことだとあなたは思いますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「僕はそうは思いません…僕がかつて対峙したある一人の女性…同じ世界で生まれ、世界の全てを愛することを渇望していたその人はこう言っていました。『リアルワールドもまた、創られた世界だったら?その外側に更なる創造者が存在していたとしたら』…と」
「…っ…!?」
「もしも…突然、あなたたちの目の前にその創造者が姿を現し、服従しろと、命令に従えと言われれば、あなたたちはどうしますか?それを聞き、沈黙したままあるがままを受け入れますか?
…僕も…その時は何も答えることができませんでした。自分が作られたものだって…外にある、このリアルワールドの存在も知りもしませんでした。
けど、何も知らなかった僕に…いえ、僕たちに考えることを、現実を知り、悩み、そして、答えを見つけていかないといけないのだと教えてくれたのは、大切な友たちでした」
どこか悲しそうに、しかし、優しさを感じるユージオのその姿に女性記者だけでなく、その場にいた全ての人が圧倒され、その言葉を聞き入れていた。それに続くようにアリスも立ち上がり、ユージオの話を引き継ぐように口を開いた。
「私たちは既に多くのリアルワールド人たちと交流を重ねています。こちらの世界のことを何も知らない私たちを支え、励まし、沢山のことを教えてくれました…様々な場所をも案内してくれました。
私たちは彼らのことが好きです…友だと言ってくれる彼らを、私も胸を張って友だと言えるのをとても素晴らしいことだと思っています」
「それだけじゃありません…僕には親友といってもいい友達が二人います。一人は、僕たちがみなさんと一緒に過ごせるようにと、そうできるようにすることが夢なんだと堂々と言ってのける人です。
そして、もう一人は、僕たちをリアルワールドに送り出すために、自分の命すらも賭け、その身を…魂を犠牲にしてまでも最後まで闘い続けた勇敢な人です。
その二人が信じ、支えてくれている僕を…いえ、僕たち自身がそれを無下にするのは友達の想いすらも裏切ることになると僕は思っています。
先程、僕たちとあなたたちは違いすぎるとおっしゃっていたかもしれませんが…確かに、僕たちはあなたたちとは違い、この身体も鋼の偽物です。けど…誰かを想う、親友たちを想うこの気持ちは、あなたたちと同じものだと思っています。
世界が違っても…今は会えないのだとしても…僕たちが彼らと過ごした記憶は消えていません。そのことを思い出す度に、この偽りの身体に宿っている心が彼らのことを想うことになるんだって、僕は考えます」
「…だから、これだけは貴女方にも知ってほしいのです。私たちはみなさん…リアルワールドの人々に差し出す右手は持っています。しかし、地に突く膝と平伏する膝は持っていない。なぜなら…
…私たちは人間だからです…」
(…あいつ…)
交互に、心のままに言葉を出していく二人に…特にユージオの口から自分のことが出たこともあり、思わず笑みが浮かんでしまった。
確かにユージオたちにそのことは話したが、まさかここでそのことを持ち出すとは思ってもみなかったのだ。完全に台本にはなかったことだが、思ったことをそのままに言っていいとは事前に決めていたのもあって、俺も凛子さんも慌てることはなかった。
むしろ、人工フラクトライトがどういうものか…AIを下に見ている連中や、懐疑的な姿勢を取っている人たちに見せつけ、知ってもらうという意味では大成功と言ってもいいだろう。
会場の雰囲気も開始直後の、悪意的な思考が入り混じったようなものから、興味や関心を強く持ったものが主となったものへと変わり、記者から活発的な質疑応答が求められるようになってきていた。
そろそろ予定していた時間的には終わりまでもう間もなくといったところだったのだが、記者たちの勢いはそれを忘れ、聞きたいことは山ほどあるのだと言わんばかりのものだった。
こうなったら、記者たちの気が済むまで延長するか、別の機会に場を設けるかして切り上げるか…その辺りは凛子さんが判断するだろうと思い、俺はモニターに映る、今も尚、質疑に応えていくユージオとアリスへと視線を向けた。
好意的な質問が増えたこともあり、穏やかな笑みを浮かべ、次々と応えていく二人のその姿に、俺は喜びと共に、少し残念な気持ちを感じていた。
さっきのユージオの言葉のように…この姿を、この光景を…本来であれば、一番に見るべきはあいつだった筈だという考えが、一緒に見届けたかったという思いと併せて頭を過ぎったのだ。
(…キリト…お前が信じたフラクトライトの…いや、仮想世界と現実世界を繋ぐ可能性は確かに出来上がり続けているぜ……お前にこそ見て欲しかったよ…)
『……ああ。ちゃんと見てるよ』
「っ…?!…えっ…?」
そうしてほしかったと…いる筈がないと、届かないと分かりつつも思った時、声が聞こえたような気がした。思わず耳を疑い、振り返ったがそこにはあいつの姿はなく、ラースのスタッフが何人かいるだけだった。
幻聴にしては、あまりにもリアルすぎたその感覚に驚いていると、上着の左内ポケットに入れていたスマホが振動していた。マナーモードによるバイブ音が着信していることを告げ、俺はその画面を…『ラース六本木分室』と表示された着信画面を見て、まさかと思い、通話に出た。
「「フォン!?さっき…!」」
それと同時に、まだ会見の途中だった筈のユージオとアリスが裏方へと飛び込んできた。その姿に、彼らも俺と同じものを感じたのではないかと察知する。そして、スマホから聞こえてきたのは、比嘉さんの慌てた声だった。
『音弥君!?今すぐに…今すぐにこっちに来てほしいッス!?』
「フォン、早く!?」
「分かってる!」
タクシーを拾い、ラース六本木分室へと急ぎ駆けつけた俺たち。スマホで手早く清算を済ませ、ユージオの焦る声に応えながら建物へと駆け込む。
ユージオとアリスは顔パスで、俺自身も首の身分証を提示したことですぐに受付を突破できた。その足でエレベーターへと入り、ラースのフロアへと向かう。徐々にパネルが階数を変化させていくが、それすらもどこか焦れたく感じ、早くしてくれと内心で思う。
そして、エレベーターが到着し、オフィスへと入るも、菊岡さんや比嘉さんの姿はそこにはなく、俺たちはすぐさまモニタールームから移動する。廊下に俺たちの走る足音が響き、向かった先には、
「比嘉さん!?さっきのって…!」
「音弥君…!ユージオたちも一緒に来たんッスか!?」
「さっき、二人のフラクトライトが徐々に活性化し始めたんだ!今、STLからの接続を断ったところだ…!」
「それって……ぁ…」
実験ルームとも称される…二台のSTLと、未だに眠り続けている二人がいるそこの自動扉をくぐると、既に到着していた比嘉さんと菊岡さんが状況を簡潔に説明してくれた。それが意味することを確認しようとした時…俺の目にある光景が映った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その光景を見て、思わず言葉を出すことができず…だからといって、驚いているばかりもいかず、俺は傍に歩み寄る。すると、あいつも俺の姿に気付いたようで…
「……よう、フォン。久しぶりだな」
「…本当に……本当にお前はどこまで寝過ごせば気が済むんだよ…キリト」
本当に200年も過ごしてきたとは思えない…しかし、どこか違う雰囲気を纏い、目覚めと再会の挨拶をしてきたこいつの…キリトのその姿に、俺は言葉を絞り出すようにして応えた。
帰ってきたのだと…安堵と心配が一気に心に広がり、思わず涙が零れそうになる。すると、ユージオとアリスも、キリトの傍へと近づいてきていた。
「…キリト」
「…ユージオ…アリス…二人も、本当に久しぶりだな」
「よかった……本当によかったよ!もう目覚めないじゃないかって…!?」
「俺が寝過ごすのはお前もよく知ってるだろう?今回はちょっと寝過ぎちまったようだけどな」
「本当だよ……君は学院にいた時からそうだったんだから」
「…ううん。子供の時からそうだったわ。あなたはいつもマイペースで…でも、無事に戻ってきてよかったわ…おかえりなさい、キリト」
「…ただいま、三人とも」
二人の言葉に、キリトは落ち着いて応えていく…その姿勢に、態度に、キリトでありながら、そうではない感覚を覚えてしまう。しかし、キリトは迷うことなく…いや、済まさなければならないことを終えようと、口を開き続けた。
「…アリス、ユージオ……セルカはディープフリーズ…天命を凍結させることで、君たちがアンダーワールドに帰ってくるのを待ち続ける道を選んだ」
「「…!?」」
「セントラル・カセドラルの80階…あの丘の上で、今も眠りに着いている。イーディスやベルクーリたちからの伝言も預かって…君たちがいつか戻ってくると信じて待っているよ」
「そう、なんだ…」
「…セルカが…そう…そうなのね…!うううぅ…!セルカ…」
「それと、フォン…」
「うん…なんだ…?」
二人を待ち続ける道を選んだセルカのことを告げたキリト…それを聞いたユージオは泣きそうになりながらも笑みを浮かべ、涙を流すかのように崩れ落ちそうになったアリスを支えていた。
そして、キリトは俺にも告げることがあるとのことで、目が傍に近寄るようにと告げていたため、俺はキリトの顔のすぐ近くにまで近寄った。そして、キリトが告げた事実は…
「 」
「…っ!?!?………お前、まさか…」
「フッ…時間だけはあったからな。さてと…これで俺の仕事は全部終わったわけだ……さぁ、比嘉さん……」
告げられたその事実に…いや、キリトの放ったその言葉に、俺は完全に言葉を失くした。そして、そんな俺の姿を予想していたかのように笑うキリトは、比嘉さんにあることを頼んだ。
「…限界加速フェーズが始まってからの200年分の記憶をデリートしてくれ…俺と王妃の役目はもう終わった」
「お見舞いのフルーツ…これで良かったかな?」
「十分だろう。明日奈も見舞いに…というか、様子を見に来てる筈だから、あいつが食べれないとか言ったら、四人で分けたらいいだろうし」
8月10日…キリトとアスナ…和人と明日奈が意識を取り戻してから少し経った頃、俺は木綿季と共に和人の見舞いへと、あいつが入院(といっていいのかどうかは微妙だが)している所沢防衛大病院に訪れていた。
バイクを駐輪場に止め、受付で面会の手続きを済ませた後、階段を登りながら、そんな会話を木綿季としていた。
一応、手土産がなしというのはどうかということで買ってきたのだが、ようやく普通の体形に戻ってきたのだから、肉を付ける意味ではフルーツは優しすぎたのかもしれない…そんなことを考えつつ、目的のフロアに着き、病室目掛けて廊下を歩いていた時だった。
「…おや、音弥君。君も桐ヶ谷君のお見舞いかな?」
「菊岡さん…あんたも来てたんだな」
「まぁね…もっとも近況報告も兼ねてだけどね。明日奈君も来ていて、一緒に話を聞いてもらったところさ……ところで、音弥君。木綿季君の目線が凄いことになってるから、できるなら警戒を解くように言ってほしいんだが…」
向こうからやってきた菊岡さんに気付き、挨拶を交わす。どうやら、さっきまで和人たちと一緒だったらしい。俺も色々と近況は聞いていたが、菊岡さんの様子からすると大きく変化はないらしい…悪い意味でだ。
それを理解していると、困った様に菊岡さんは木綿季の姿に関して言及してきた。それに倣い、木綿季へと視線を向けると、彼女は俺の腕を掴んだまま、菊岡さんを凄い表情で睨んでいた。
言葉にするのなら、疑いの眼差しに、少しばかりの怒りが籠った表情…ジト目で警戒心をマックスにしていると言えば分かりやすいのだろうか。
まぁ、木綿季の中では未だに菊岡さんに思うところがあるらしく、完全には許していないのが原因なわけだが…いつまでもそうするわけにもいかず、俺は木綿季の頭を優しく撫でながら、菊岡さんに答える。
「まぁ…今は耐えてあげてくれよ。木綿季もずっと怒り続けはしないと思うからさ。なぁ、木綿季?」
「…死んだふりまでした、嘘つきの人を信じろって言うのは無理だと思う…」
「……ゴメン、菊岡さん。これは当分ダメっぽい」
「君、木綿季君に関して甘すぎやしないかい?」
流石の木綿季も、俺の言葉に折れることなくジト目と態度を変えず、その姿に説得は無理だと早々に白旗を菊岡さんに振った。そんな俺たちのやりとりに、菊岡さんも苦笑いするしかなかったようだ。
「さてと…それなら、嘘つきのお兄さんはお邪魔するとするよ。それじゃ、音弥君。また連絡するよ」
「ええ…さようなら、菊岡さん」
ほとんど分が悪かったのと、本当に帰るところだったらしく、それ以上語ることなく菊岡さんは手を振って、俺たちが来た方向へと歩いて行った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まぁ、なんだ…今すぐじゃなくていいから。木綿季の気が済んだところで、許してあげてくれよ。結構怪しいけど、菊岡さんもそこまで悪い人じゃないからさ」
「…わかってるよ。わかってるんだけど……どうしても、つい…」
「だから、今すぐにじゃなくっていいって。どっちといえば、木綿季の反応の方が当たり前だろうし、菊岡さんも分かってて、受け止めているだろうしな。ほら、早く和人の病室に行こうぜ?」
「…うん」
菊岡さんの姿が見えなくなったところで、どこか悲しそうに目を逸らした木綿季。そんな彼女の肩を抱き寄せ、フォローの言葉を掛ける。
木綿季自身も分かっていても、どうにも抑えきれない部分があるのだろう。こればっかりは時間と、あとは菊岡さんの今後の行動次第だろう。
気にしない様にと言って、俺たちは本来の目的へと頭を切り替え、止めていた足を進めた。
「…ここだな」
一般病室とはいえ、個室だと聞いていたこともあり、『桐ヶ谷和人』と書かれたネームプレートを見て、ここがあいつの病室だと判断し、ドアを4回ノックする。すると、
「…どうぞ」
という声が聞こえ、俺は病室のスライドドアの取っ手へと手を掛け、開いた。
「…一週間ぶり、と言えばいいのか。大分元気そうだな、和人」
「おう…久しぶりだな、蓮。ラースで別れた以来、であってるのかな?」
ドアを開いたことで俺たちを認識したあいつ…ベットに寝座っていた和人と、傍の椅子に腰を掛けていた明日奈が笑みを浮かべ、出迎えてくれた。
ラース六本木分室で目覚めた時には痩せていたものの、リハビリと併せて食事をしっかり取ったせいか、しっかりと肉がついたその姿に、和人が順調に回復しているようでどこか安堵してしまった。
「お邪魔しまーす!あっ!これ、お見舞いの品だよ!」
「おっ、ありがとう、木綿季。フルーツか…結構量あるな。俺一人で食べきれるかな…?」
「…ハハッ…予測通りのことを言うなよ。まぁ、今日は見舞いも兼ねて、色々と話したいことがあったからな。持ってきておいてなんだが、今、ここで四人で分けて食べないか?」
「そうね。和人君だけだと、持て余しそうな量だもんね。私、看護士さんにお皿借りてくるね」
「僕も一緒に行くよ、明日奈」
そう言って、明日奈と木綿季は病室を出て行った。残された俺は、明日奈が座っていた椅子を借りる形で腰を掛けた。
「それにしても…元気そうで何よりだ。あとどれくらいで退院できそうなんだ?」
「明々後日だってさ。まだみんなには知らせてないんだけどな」
「そうか…みんなが聞いたら、喜んで退院パーティをすることになりそうだな」
「ハハハ…明日奈にも同じことを言われたよ。ALOと現実世界と…去年にやった忘年会以上の規模になりそうだよ」
「俺はそっちに参加できなかったから、ちょっと楽しみではあるけどな。それに、今回の一件でとんでもない金額がまた振り込まれてるからな。気を付けないと、忘年会の時みたいに奢らされることになるぞ?」
「…一応聞いてはいたけど、そんなに凄い金額なのか?」
「…多分、金額見たら驚くぞ?まぁ、菊岡さん曰く、それ相応のことだったってことなんだろうな…アンダーワールドの…いや、アリシゼーション計画は…」
冗談を交えながら、そんな他愛もない会話をしていく中、俺が放った一言で、互いに真剣な表情へと変わる。
「菊岡さんから聞いたよ…アンダーワールドの現状を」
「ああ…俺も定期的に話は聞いてる。かなり際どい状況だってこともな」
おそらく、菊岡さんがさっき和人たちを尋ねたのは、そのことを伝えるためだったのだろう。先程の反応からして、現状は聞いている点から大きく変わっていないのだろう。
…現在、アンダーワールドは酷く不安定な状況に置かれている…
言ってしまえば、所在を巡り、政府間において討論が勃発…そのため、アンダーワールド…いや、アンダーワールドのサーバーが置かれ、人工フラクトライトたちの本体の集合体ともいえるライトキューブクラスターがあるオーシャン・タートルは政府監視下の下、立ち入り禁止の状態となっている。
しかし、それはあくまでも暫しの猶予におけるものであり、論争が落ち着いた頃には、ラース自体が組織を解体され、アンダーワールドを含む設備の全ては大型企業か何かに接収、ライトキューブクラスター…フラクトライトたちも全て初期化されてしまうだろう、というのが菊岡さんの予想だった。
だが、自身の死までも演出してみせたあの男が、ただ手を咥えて黙って見ているわけもなく…
「…人工フラクトライトの人権を認めさせる、か…少なくとも、世論の動き自体を作ることができればいいわけか」
「それが希望だって、菊岡さんはさっき言ってたよ。そのために、アンダーワールドに生きる人々が、ザ・シードを通じて、現実世界の人々と触れ合う必要があるって」
「茅場が残した種…今のALOを始めとした、同じ基幹システムを使っていることで、全てのVRMMOを繋ぐザ・シード連結体、だったか…俺がログアウトした後に、お前に託したそれがこんな形になるとは思ってもみなかったな」
和人が聞いた話を反芻している中、俺の頭は茅場が残したザ・シードへと移っていた。旧ALOにて、俺がログアウトした後、和人…キリトは電子生命体となった茅場と邂逅し、それを託されたというのは聞いていた。
それがアンダーワールドという一つの可能性の花を生み、更には、それを存命させようとする最後の希望となろうとしているとは…あの時には想像もできなかっただろう。
「…問題は、その接続方法…オーシャン・タートルに繋がる大容量回線が存在しないことだって。リズたちがコンバートする時に用いた衛星回線は政府によって切断されてしまったって」
「ユージオとアリスの記者会見で、かなりのインパクトは世間に与えられたからな。かなり時間は稼げるって菊岡さんは読んでるけど…それがいつまでかが分からないというのは痛いな」
「…できることがないっていうのは…歯がゆいな」
「…ああ」
その和人の言葉は…音弥蓮としてはかなり深く、そして、酷く同感できてしまった。何も掛ける言葉が見つからず、そう返すのがやっとだった。
俺も和人も…こっちの世界では、世界を映し出す剣を振るうことも、二刀流と共に神聖力を自在に操ることも、できはしない…あくまでもVRMMOが得意な子供だ。
このままでは、ユージオやアリスが…いや、あれほどまでに尽力し、守ろうとした世界が…一つの可能性が消えてしまうかもしれないと分かっているのに…大事な友達を失うかもしれないと理解できているのに、何もできないということに嫌気を覚えてしまうのも当然だった。
「…ともかくだ。あまり悲観的になりすぎてもしょうがない。もう少しポジティブにも考えようぜ。菊岡さんがまだ焦っていないところからすれば、すぐにどうこうっていうわけじゃないかもしれないしな」
「…そうだな…そういえば、蓮。ユージオとアリスには、あれから会ったか?」
「…いや、会えてない。今や、二人と凛子さんは引っ張りだこだから。さっき菊岡さんが言った世論の声を集めるためにも、無下に断ることもできないみたいで、色々と走り回ってるみたいだ」
「そうか…あれ以来、一度も会えてなかったから、大丈夫かどうか確かめたかったんだけどな」
「二人とも、責任感が強いからな。凛子さんが付いているとはいえ…無理してないといいんだけどな」
しんみりした話から話題を変えようとしたら、和人にユージオとアリスのことを尋ねられた。しかし、残念ながら、俺もあの記者会見以降、二人とは顔を合わせられていないのだ。
かなり忙しくしていることだけが人伝に聞いたのだが…二人とも自分の立場を分かっているからこそ、無理をしてまで頑張ろうとしないかと、俺たちが危惧するのも当然の話だった。
「…無茶かもしれないけど、俺から凛子さんの方に言ってみるよ。休めでも言わないと、あの二人は休まないって」
「その時は、俺も一緒に行くよ。二人とは色々と話したいしな」
「二人も、お前には聞きたいことや話したいことがいっぱいあると思うぞ?俺の時だって、大変だったんだからな?……さてと。もう入ってきていいぞ、二人とも」
「…えっと…気付いてた、蓮?」
「なんか…入っちゃマズいかなって思ってたんだけど…」
とりあえず一通りのことは話し終えたのもあり、さっきからずっと病室の外で待ってくれていた二人…木綿季と明日奈へと声を掛ける。どうやら気を遣ってくれていたようで、恐る恐るといった形で二人は病室へと入ってきた。
「もう大丈夫。結構待たせて、悪かったな」
「ううん、大丈夫。はい、蓮君。和人君も」
待たせたことを詫びるも、気にしてないと答えた明日奈は分けてくれた見舞いの品である果物が乗った皿を、俺と和人に渡してきた。それを受け取り、入れ替わる形で明日奈に席を譲り、木綿季が新たに用意してくれた椅子へと腰を掛けた。
そこからは、談笑を交えながらの話しになったわけだが、そんな中、俺はあることを考えていた。
(…ユージオとアリスの帰る世界を守るためにもそうだが……あのキリトが残した言葉通りなら………俺はなんとしても、もう一度アンダーワールドに行かないといけない)
もちろん、一番の目的はユージオとアリスの故郷であるアンダーワールドを、そして、人工フラクトライトたちを守ることではあるが…
俺はあの時、…アンダーワールドで200年を過ごしたキリトが、記憶を消す直前に残した言葉が未だに忘れられず、ある懸念を覚えていた。もしも、アンダーワールドが誰かの手に渡るようなことがあれば……最悪の出来事に発展するかもしれないと…
なんとかしなければと分かってはいるものの、ここは菊岡さんたちに任せるしかないのもまた事実であり、…情けない思いに駆られている時だった。
『ユージオとアリスが失踪した』
和人が退院した4日後…そんなとんでもない一報が、凛子さんから俺と和人に知らされたのだ。
もう間もなく最終話を迎えるというのに、ここにきてまだフラグを立てていくスタイル…(黒笑)ちゃんと回収しますので、ご安心下さい。
さてと…キリトとアスナが原作通り、無事に帰還したわけですが…星王となったキリトは何かを見通したかのような言動をし、フォンを驚かせたわけですが…その真相は、きっとみなさんが予想されている通りでございます。
本作では大まかな描写はカットしますが、比嘉と星王キリトのやりとりもこの裏では原作通り行われておりますので、その辺りのお話が次回へと繋がっていく形になります。(というよりも、最終話においてもこの二人の会話が重要となってくるのですが)
そして、原作プラスという形で、アリスだけでなく、ユージオまでもが失踪するという事態に…その後のお話を、来週の更新で一気に描いていきますので、
次回『ニューワールド』にご期待頂ければと思います!
それでは!
P.S. アンケートに関しまして、ミトに関するものは来週の最終話更新まで、200回記念のものは後日談最終話までを期日とさせて頂きます。
後者は投票が100になった時点で初めて見たのですが…驚くことに作者の予想を覆す結果になっていて、本当にビックリしております。
何が驚きって、そこまで需要はないかなと思っていた「おふらいんシリーズ」がトップであることに一番驚いて、次点で優勝候補かと思ってた「SAO戦隊」が投票少ないことにです。(IF学園系は予想通り、上位に食い込んではいるんですが)
…おふらいんシリーズのネタ、どうするべきか…アリシゼーションのおふらいんだって、まだ残ってるのに(涙笑)ちなみにですが、アリシゼーションのおふらいんは後日談終わった後にやる予定です(しかも、一番話数が多くなるかと…)
お楽しみに!
…200…?
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