この話で、アリシゼーションが総話100を迎えることになり、何かしらの運命を感じております(笑)(併せて、書き始めた時には、ここまで壮大かつ長編になるとは本当に想像していなかったのですが(苦笑))
前話以上にコロコロと場面転換が起こりますので、お気をつけ下さい。
それでは、どうぞ!
「ユージオとアリスが消えたぁ?!」
「えっ!?」
朝食の片づけをしていたところに、電話が掛かってきたのだが、スマホから聞こえてきた凛子さんが告げた事実に、俺は思わずオウム返しをしてしまった。その言葉を聞いた木綿季も驚き、スマホの会話を拾おうと反対側から耳を近づけていた。
『ええ…さっき桐ヶ谷君にもこのことは伝えたわ。二人のことは、君たちに言われていたように気を掛けていたつもりだったんだけど…とりあえず、六本木分室の方に来てくれるって』
「…分かりました…とにかく、俺もそっちに向かいます!今後の対策を話し合う必要もあるでしょうし…多分一時間もあれば行けると思いますので」
既に和人の方にも連絡してくれているらしく、何かあった時に備える意味でも、二人を見つける方法を模索するためにも、今は凛子さんたちの元へと行くべきだと判断し、俺は身支度を整える。
「二人が消えたって…どこに行ったんだろう?」
「…土地勘はない筈だし、費用のことも考えるとどこか遠方に消えたとかは考えにくい。そもそも、二人ともある意味では時の人だからな…不用意に外に出たら、誰かしらに目撃されていてもおかしくない筈なんだが…」
身支度を進めていく中、木綿季と二人の行方について話すも、人目を避けてどこに行ったのかという疑問と、スマホでSNSを覗いてみるもそういった騒ぎは起こっていないことに不自然さを覚えていた。
「ともかく、俺は今から六本木のラースに行ってくるよ。木綿季は、他のみんなにこのことを伝えてくれ。あと、アルゴさんたちにも協力を…」
…ピンポーン…!
木綿季に他のみんなにも協力してもらうように伝えてもらおうとした俺の言葉が、飛び込んできた電子音によって遮られた。それが、来客を告げるインターンホンの音であることは、何度も耳にしてきた音だったからすぐに分かった。
「誰だろう……もしかして…!?はい!」
『ちわーす!お届け物です!音弥さんのお宅でよろしかったですか?』
「は、はい…!今、開けますね……違った。もしかしたら、ユージオたちかと思ったんだけど…」
「俺も一瞬そう思ったよ…あまりにもタイミングが良すぎたな、今のは……あれ?でも、荷物なんか頼んだ覚えはないんだけどな」
インターホンに映る宅配便の人に、木綿季は肩を落としながら、マンションのオートロックを解除する。
まさかのタイミングに残念そうにしている木綿季に、俺も同じことを思ってしまっていた。もしかすればと考えてしまうのは仕方ないことだと思う一方、宅配便を利用するものを頼んだ記憶がなく、一体の何の荷物が届いたのかという疑問が湧いた。
すると、今度は玄関のベルが鳴り、宅配業者が到着したことを知らせたことで、俺は木綿季と一緒に荷物を受け取りに向かった。これを受け取ったら、すぐに出なければと思っていたのだが…
「牡丹宅配をご利用頂き、ありがとうございます!音弥蓮さんですね?ラースからお荷物です!受け取りのサインを頂けますか?」
「「…えっ?」」
ラースからの荷物だと…宅配業者の方は仕事としてそのことを告げたんだろうけど、今度ばかりは本当にどういうことだと、俺と木綿季は思わず顔を見合わせてしまった。
驚いているだけにもいかず、渡されたペンで伝票にサインをして、荷物を受け取る。一礼をして、愛想よく気合の入った声をして業者の人は次の配達へと向かって行ったわけだが…
「…本当にラースからだ。しかも、日付指定で今日届くようにしてある…電化製品?そんなものが入ってるのに、なんで精密品扱いのシールが貼られてないんだ?」
「とりあえず開けてみる?」
「…そうだな」
受け取った荷物は段ボール一箱…少し大きめの、よく見る普通の段ボールだった。市販のものと異なる点があるとすれば、箱の側面にラースの会社ロゴが印刷されているくらいだろうか?
宛先がうちの住所と俺の名前で、送り主はラース六本木分室からになっている。日付指定の上、品目に『電化製品』と書かれている…が、そんな精密なものを送ってきたくせに、『貴重品』もしくは『割れ物注意』といったシールが貼られていないことに首を傾げてしまう。
考えていても埒が明かないと、木綿季の提案に従って俺は箱を目張りしているガムテープを剝がし、段ボールの蓋を開く。木綿季も何が入っているのかと一緒に中を覗き込む…入っているのは大量の緩衝材と…肌色の何かが奥底に埋まっていると気付いた時だった。
…中から何かが飛び出し、俺の腕を掴んだ…!?
「ラースから…?一体、誰がこんな荷物を…」
同じ頃…蓮とほぼ同タイミングで宅配業者から荷物を受け取っていた和人は、ラースから届いたその段ボール箱に首を傾げていた。ともかく中身を確認しなければと思い、蓋を開けたのだが…
「…やぁ、キリト。どうやら無事に届いたようだね?」
「っ!?!?…なぁ…えっ…な、なんで…!?」
箱の奥底で動いたそれ…いや、正確には目を合わせてきたものから聞こえてきた声に、和人は驚くあまり動くことができず、疑問の声を出すのがやっとの状態だった。
「色々と話したいんだけど…今はここから出るのを手伝ってくれるかな?入ったのはいいけど、出ることを考えてなくて…僕一人じゃ出れそうにないんだ」
苦笑しつつ、和人に助けを求める…身を衣服を纏っていないユージオがそう頼んできたことで、フリーズしていた和人はようやく動き出した。
「ふぅぅ……いや、それにしても凄いね。宅配便っていうだっけ?紙に宛先を書いておけば届けてくれるなんて…リアルワールドではあんな天職があるんだね」
「…ユージオ、教えろ。どうしてこんな真似をしたんだ?凛子さんもお前たちが突然いなくなったって、心配していたんだぞ?」
和人の助けもあって、箱から出ることができたユージオ。一緒に詰めていた制服を着て、リビングに通されたのだが、話を誤魔化そうとする彼に、和人は応じることなく問い質した。
ユージオ自身も誤魔化せないと分かっていたのか、表情を真剣なものに変え、和人の疑問に答えようとした。
「みんなに心配を掛けたことは…本当に申し訳ないと思っているよ。こんなことをしたのは……キリト。君とどうしても話をしたかったからだよ」
「…俺と?」
自分と話をするために、こんな無茶を仕出かしたのだというユージオの言葉に、和人は困惑しながらも話を聞き続けることにした。
「…僕は…僕たちは色々なものを見てきたよ。世界からすればちっぽけなものかもりれないけど…少なくとも、僕たちを取り巻く人たちがどういったものかを少しは知ったつもりだ。
このリアルワールドと、アンダーワールドの違いも…どんな社会が成り立っているのか、僕たちアンダーワールド人をリアルワールド人たちがどう捉えているのかを…
だからこそ…分からなくなったんだ。
君は…自分がこの世界に帰って来れなくなるかもしれないって分かっていたのに…僕と一緒に央都に行って、セントラル・カセドラルを登り詰め…そして、最後にはアンダーワールドで永い時間を過ごしてきたんだと思う……どうしてそこまでできたんだい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「僕もアリスも……ちょっと分からなくなってきたんだ。今、自分たちがしていることが本当に合っているのか…本当にアンダーワールドの…セルカやティーゼたちのためになるのかって…エルドリエさんたちが命を懸けてまで繋いだものがこんなことのためだったのかだって…
…君もフォンも…多少は迷っていても、その出口はブレることなく闘い続けていた。君は、迷うことなく自分を犠牲にして、あの言葉にできない心意を放っていた敵に立ち向かった。
…どうして、キリトはそこまで闘えるんだい…
…どうして、自分の行動に迷いを持たずにいられるんだい…
僕たちは…何を希望にして、頑張ればいいんだい…?アンダーワールドには帰れないかもしれない。もしかすれば、君とも会えなくなる時が来るかもしれない…ほんの僅かしか知らないこの世界で放り出されたりしたら、僕たちは…立っていられるか不安なんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…教えてくれ、キリト…これから先に、一体何が待っているっていうんだい?僕たちは…どこに向かおうとしているのかを…」
久々で、そして、短い時間でありながら様々なことを知ってきた親友の悲痛な表情に、キリトはすぐに口を開くことはなかった。だが、応えられなかったわけではなく、どれだけ悩み、耐えてきたのかを察し、ユージオへと…
「ていっ…」
「いたぁ…!」
その頭部へと手刀を繰り出した。
その場の空気に似合わない軽い声色と共に繰り出されたその一撃は、ものの見事にユージオにクリティカルヒットし、呆然とさせてしまっていた。
「…ったく。フォンから活躍を聞いた時には信じられないと思っていたぐらいにカッコいいと思っていたのに、本当に自分にイマイチ自信が持てないところは変わってないよな」
「なぁ…!いきなり何をするんだよ、キリト!?僕は真剣に…!」
「分かってるさ」
「…!」
ふざけないでくれと言わんばかりのユージオが思わず叫びかかるが、和人はそれをちゃんと理解した上で、敢えてユージオへと手刀を繰り出していた。少しでも、思い詰めている心を解きほぐそうと、わざと話を脱線させたのだ。
「そうだよな…お前たちがどれだけ不安を感じているか。俺やフォンがちゃんと分かっていてやるべきだったんだよな…本当にゴメン…でもな、ユージオ。俺はお前が思ってるみたいに強くなんてないんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「もしも俺が強く見えているんだったら…きっと、信じているものがあるからだと思う。ガブリエル…お前とアリスを捕まえようとしていた奴と対峙したのだって、お前たち二人がこの現実世界に渡ることで、新しい可能性が生まれるかもしれないって信じてたからだ。
迷っていないように見えているのは、自分の信じたものを最後まで信じ抜きたいと思っているから、その先にあるものを信じてみたいと思っているかだよ。
あの時…200年間、アンダーワールドに閉じ込められることを覚悟した時も…俺一人じゃきっと途中で折れてた。だけど…俺の傍にはアスナが…彼女が一緒に残り、俺と共に200年という悠久の刻を過ごしてくれた。
きっとフォンや仲間たちがお前たちを支えてくれるって…お前たちがこの世界に…今、ここにいてくれることそのものが可能性だって…世界を変えていくかもしれない希望だって…俺は信じたかったから、アンダーワールドに残る覚悟を決められた。
…そして…剣士じゃなく、友として必要としてくれたお前がいて、何も知らない世界の中、危険を省みずに共に来てくれたフォンがいたから…俺もお前たちの想いに応えたいと思って、アンダーワールドで闘ってこれたんだ。
俺にも…この先に…未来に何がまっているのか、これからどうなっていくのかをはっきり答えることは………ゴメン、できない。でも、これだけははっきり言える。
世界が変わろうとしている今、行きつこうとしているその先にこそ、カーディナルやベルクーリたちアンダーワールドに残った人々の、アドミニストレータやエルドリエといった命を賭していった人々の…彼らの想いや願いが必ず報われる時が来るって…俺は信じてる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その言葉が、その想いを伝えるべく、和人はゆっくりと、だが、はっきりと迷うことなくユージオへと告げた。全ての不安を、迷いを取り除くことは難しくとも…それでも、友の支えとなれればと思い込めたその言葉に、
「…ありがとう、キリト。少しだけ…ホッとした気がするよ」
「…おう」
歪んでいた表情から、少しばかり元気を取り戻した笑みを浮かべるユージオに、和人は応えながら腕を胸元まで上げる。それがどういう意味かを…アンダーワールドにいた時に教えられたユージオも自身の腕を持ち上げ…腕をぶつけるように合わせる。
「…さてと。そろそろ凛子さんにも連絡しないとな。いいよな?」
「…うん。これ以上、我儘を言って、凛子さんを困らせちゃ不味いしね」
「いいんじゃないか、別に我儘を言ったって」
「えっ…?」
落ち着いたところでそう切り出した和人だったが、彼の放った一言にユージオは驚きのあまり、何度目になるか分からない声を上げていた。
「そりゃ、言い過ぎるのは良くないけど、時にははっきりと休みたいっていうのは言っていいに決まってるだろう?ずっと頑張ってられる奴なんていないんだからさ…まぁ、こういう形なのはできることなら止めてほしいけど…少しは我儘を言った方がいいんだよ。お前たちだって人間なんだからさ」
「……そっか。そうだったね…うん」
「それじゃ、凛子さんに……うん?ちょっと待て。いきなりのことが続きすぎて忘れてたけど、お前がここにいるってことは…アリスはどこにいるんだ…?」
「えっと…実はアリスはね…」
再び凛子に連絡を取ろうとスマホを操作し掛けていた和人は、もう一人の首謀者とも言うべきか、アリスがどこにいるのかが気になった。そんな和人の問い掛けに、ユージオは恐る恐ると答え始め…
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「その……勝手なことをしたとは思ってるわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ゴメンなさい!?だから、そんな困ったようなものを見るような目をやめてくれない!?」
同時刻…アリスから事の顛末を聞き、同じようなやりとりをしていたのだが、
『ラースに登録されていた住所をこっそりと調べ、宅配業者を自分たちで手配して発送させた』
という、個人情報保護を度外視し過ぎてる点や手際の良さを自信満々に告げたアリスに、さっきまで真剣に彼女の悩みと苦しみに対して向き合っていた蓮は一転…ちょっとだけおこになっていた。
『アリス、正座』
『えっ…?』
『正座』
そんなやりとりの上、音弥家のリビングにて正座させられているアリスと、それを冷たい目で見降ろしている蓮の構図が出来上がってしまったわけだ。
蓮の後ろに立つ木綿季も、こればかりは弁護できないとばかりに苦笑いするしかなく、正座(を蓮に教えられた)アリスの身体からボディの充電用に伸びているケーブルがコンセントに接続されているイマイチ嚙み合っていない景色に、どこかシュールさが感じられていた。
「…はぁぁぁぁぁ……いなくなって聞いてから、さっきの話を聞くまでの心配を全部返してほしいは…というか、行動力がありすぎてビックリを通り越して呆れるわ」
「…うぅぅ…ゴメンなさい」
「まぁ、お説教やお小言はなしだ。悪いとはちゃんと分かってるんだろうし…やっちまったもんはしょうがない…それに、時には休みが大事なのもまた事実だしな」
「そうだね。というか、こういうとんでもないことをするのって、蓮の影響を受けてるじゃないの、ユージオもアリスも」
「ユージオに関しては否定できないけど…アリスに関しては微妙なラインだと思うぞ?こいつの場合、昔から和人と結託して色々やってたお転婆娘だからな」
「なぁ…!?ちょっと、フォン!それは酷いんじゃないの!?」
大きなため息を吐いたものの、あまりどうこう言いすぎるのもどうかと思うのが半分、ここまでするまで二人を追い詰め、フォローできなかった自分たちにも非があると感じたのが半分…呆れ顔から笑みを浮かべた蓮はお説教を諦めた。
もっとも、木綿季からの追及に前者に関しては否定しなかったものの、後者に関しては元々の気質が原因だと告げたせいで、アリスから抗議の声が上がっていたが…
「…ともかく、凛子さんたちに連絡をしないとな…」
そう言って、蓮はスマホを取り出し、凛子へと連絡を取ろうとする。少しばかり、話が長くなるかもしれないと思い、その間に木綿季へとアリスに自宅…マンションの紹介をしていてくれと頼んでから、コールを掛けた。
コールを掛け、すぐに凛子と繋がった蓮は、アリスが自分のマンションに来ていることを報告。それと併せ、和人からも連絡があり、ユージオが和人の元にいること、二人の行動には驚いたが怒ってはいないこと、今日の予定は既に調整できたので休みも兼ねてそれぞれの家に二人を泊めてくれないかと言われ、蓮はアリスを泊めることを承諾した。
通話を終え、スマホをポケットにしまうと、大まかな案内が終わったようで木綿季とアリスがリビングに戻ってきた。
「…フォンとユウキはこんな家で住んでるのね。鉄のような建物だけど、こんな小さな部屋がいくつもここにはあるなんて、想像できないわね」
「う~ん…まぁ、マンションだからね。でも、明日奈の家はとっても大きいよ?明日奈の部屋自体もこのリビングよりも大きいし!」
「そうなのね…リアルワールドの伝統的建築物の…モクゾウといったかしら?それも見てみたかったのだけど…」
「ここは西洋…どちらかといえば、アンダーワールドの建築物に近いからな。それでも、雰囲気はかなり別物だけどな」
「話がついたのね…その……凛子は怒っていましたか…?」
「いや、怒ってなかったよ。むしろ、申し訳ないって伝えてくれって。それと、今日は二人を泊めてくれないかって頼まれた。アリスさえ良かったら、こんな狭い家だがどうだ?」
「えっ…本当?!狭いなんて気にしないわよ!ラース以外で泊まるのは初めてだから!是非泊まらせてもらうわ!」
話の途中で入った蓮から、凛子との話を聞いたアリスはホッとし、それと同時に外泊の許可が出たことに心の底から喜んでいた。そんなアリスに、蓮はある提案をする。
「それじゃ、折角だし外に出るか…アリス。その身体…ニエモンの「私が使ってるのはシエモンよ」…そ、そうか。そのシエモンの髪って、確か人工毛だったよな?」
「ええ。それがどうかしたの?」
1LDKという空間を既に紹介し終えてしまったこともあり、周囲の環境でも散歩がてら見せた方がいいと思い、その為に蓮はアリスの金色の髪を構成している物質を確認する。
途中、ニエモンではなくシエモン…エレクトロアクティブ・マッスルド・オペレーティブ・マシーン四号機だとアリスが訂正したが、その微妙な違いに蓮も頷くことしかできなかったのだが…
ちなみに、ユージオが使っているのが三号機…通称サンエモンである。誰がネーミングしたのかなど、もう分かり切っているセンスであった。
「流石に全国中継されたその顔で外に出たら、色々と問題だが…髪型を変え、サングラスか何かで目元を隠して、帽子か何かを被ればなんとかなるだろう。ということで、木綿季…頼んだ!」
「りょーかい!ほら、行こう。アリス!」
「え、ええ…」
女性の髪形に関しては自分よりも適任だと、蓮は木綿季にあとを託し、元気よく承知の声で応えた木綿季は寝室の方へとアリスを連れて行った。
(…まぁ、ちょっと時間が掛かりそうだし…その間に、どの辺りに連れて行くかを決めておくか。それにしても……段ボールから腕を掴まれた時は、本当にホラーものだったな)
オーグマーを装着し、二人がまた戻ってくるまでに散策コースを決めておこうと周辺地図をAR空間に展開した蓮。
その時、ふとリビングの入り口に転がっているラースのロゴ入り段ボールが目に入り、アリスがここにやってきたことが頭に思い浮かんでしまった。
『ちょ、ちょっとストップ!?蓮はあっち行ってて!僕が手伝うから!?』
その上、アリスは制服を脱いだ状態…まぁ、肌を晒した素体状態だったこともあり、流石に彼女の素肌(?)を見せる訳にはいかないと、段ボールから出るのを手伝おうとしたところで慌てた木綿季に寝室へと追いやられたわけでもあったのだが…
何よりも、いきなり段ボールから出てきた手に掴まれたのは、下手をすれば当分の間、夢に出るかもしれないと…嫌な感じで夏の風物詩たるものを味あわされたなと蓮は思うのだった。
そんなことが音弥家で行われている一方で…同じく外泊許可を得たユージオは、
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
和人と静かに向き合っていた…互いに竹刀を持った状態でだ。
どうしてこんな状況になったのか…時間を少しだけ遡ろう。
桐ヶ谷家に泊まっていいという話になり、折角の機会だから和人が住んでいる家を知りたいというユージオは要望したわけだ。
確かに桐ヶ谷家は家屋の中では結構大きな部類にはあたるわけだが、どういう風に紹介していくべきかと悩んでいたが、あそこに…同じ敷地に建てられている道場を見せることにしたわけだ。
アンダーワールドの修練場とはまた違う…しかし、その雰囲気から感じ取れる厳格さに、道場に来たユージオは一瞬息を呑むも、興味深く道場内を見渡していた。
その時、ユージオの目に留まったのは…道場に置かれていた竹刀だった。それが修練用の道具だと和人から聞いたユージオは…あることを思いつき、和人へと竹刀を差し出した。
「…キリト…僕と試合をしないかい?」
親友の…笑みを浮かべつつも、真剣な目で提案してきたそれに和人は戸惑いつつも、思わず竹刀を受け取ってしまった。
「…なぁ、ユージオ。いくらなんでもいきなりすぎないか?それに、お前の身体は…」
アンダーワールドとは勝手が違うのでは?そもそも、ユージオの思考に身体がついていけるのか?下手をすれば、故障の原因になるのでは?…そんな心配が頭を過ぎり、イマイチ乗り気ではなかった和人だが、
「気遣いはいらないよ…それとも、キリトは僕に負けるのが怖いのかい?」
「……いいぜ。そこまで言うのなら、やってやろうじゃないか」
ユージオの挑発にカチンときて、ついつい誘いに乗ってしまった和人。互いに竹刀を腰の後ろに隠す様に回し、腰を軽く落とし、剣を持っていない左腕を牽制の意味も兼ねて半身の前へと構える。
師匠と弟子、そして、互いにいくつかの死闘を潜り抜けた戦友同士…同じ流派の構えで対峙するという構図が出来上がったわけである。
「こうやって剣を交えるのは…修剣学院以来かな?」
「そうだな…けど、蓮と違って、お前と本気で闘うのはこれが初めてだけどな」
「君にもフォンにもほとんど勝つことはできなかったけど…あれからどれだけ成長したか、君たちの剣にどれだけ近づけられたか…ここで見せるよ」
「…だったら、なおさら師匠として受けてやらないといけないよな」
気合十分、遠慮は一切しないとばかりに言葉を交わす二人…間合いを見極めながら、剣を構え合う。蝉の泣き声だけが響き渡る中、沈黙だけが道場を支配していた。しかし、その拮抗はいつかは破られるわけで…
「…っ!せやあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「…っ!でやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
飛び出したタイミングは完全に同時、繰り出した技までものが同じ…アインクラッド流剣術として、アンダーワールドで何度も繰り出してきた、片手剣単発ソードスキル〈ホリゾンタル〉を模した一撃を、和人とユージオは竹刀で繰り出した。
…だが、竹刀がぶつかり合った時に予想外のことが起こった…
剣道にはない、剣術ともいっていい回転斜め水平斬りを勢いよく繰り出したせいか、それとも、ユージオのボディが想像以上の馬力を発揮したのか。
ぶつかり合った竹刀が二人の剣戟・衝突に耐え切れなかったように砕けたのだ。もちろん、全力でぶつかろうとしていた二人が、そんな予想の事態が起きたことに反応できるわけもなく…
「…?!う、おぉぉ?!」
「…?!うわぁ!?」
…ゴチン!…という鈍い金属音と共に、互いの身体を激突させた二人はもつれ合う形で地面へと倒れ込んだわけだ。
「…いつつ…!」
「だ、大丈夫かい、キリト…?!」
「あ、ああ…いてぇ。まさか、竹刀がアームブラストされる形になるとは…しかも、おまけに頭突きを喰らうって」
鈍い金属の正体は、ユージオと和人の額がぶつかり合ったもので、鉄の身体が幸いしてというべきか、問題なさそうなユージオに対し、和人の額は少しだけ赤くなっていた。
現在、ユージオが和人を押し倒す形で倒れ込んでいるわけだが、以前、蓮を押し倒してしまった経験から、体重を掛けない様に床に手を着いているため、和人は鉄の身体の重みを味あわずに済んでいたりする。
「…やっぱりそう上手くはいかないか」
「いや…気合だけは十分だったと思うぜ?」
「そうかな……久々に剣を振るったから…この身体で剣を振るうのも初めてだったし」
「初めてであれだけ動けるのもなかなかだろう?そう考えたら、整合騎士としての記憶もあるアリスがやったらと考えると…」
「…竹刀を何本も折っちゃいそうだよね?」
とても微妙な形で終わってしまい、不完全燃焼になってしまったが、それでもそんな会話が零れ、二人は笑い合う。
「キリト…ありがとう」
「…どうしたんだよ。いきなり」
「…なんとなく…なんとなくだけど言いたくなったんだよ。僕はまだ闘える…闘っていかないといけないんだって…君たちが一緒に闘ってくれると分かっているから…今は、前だけを見て進んでいかないといけないんだって…そう思ったら、ここに来たことにもやっぱり意味があったんだって…そう思ったら言いたくなったんだよ」
「……おう。どういたしましてだな」
もう自分は大丈夫だと…そう告げたユージオに、和人も安堵したように答えるのだった。
『進路を変更したい…アメリカへの留学ではなく、東都工業大学に進学し、将来的にはラース(正確には海洋資源探査研究機構)に就職したい』
『学問を修め、進学・就職することは確かにプロセスではあるが、それは同時に人生が与えてくれる果実でもある。迷い揺れることはあっても、後悔はしないように生きなさい』
既知の仲である直葉もユージオがいることに驚き、そして、仕事から帰ってきた両親にユージオを紹介し、談話している最中、(珍しく両親二人が揃って家にいることもあり)和人はそう話を切り出した。
それは蓮と同じように、アンダーワールドの…いや、人工フラクトライトという新たな可能性を知り、触れ合ったことで、自分の行きたい道が見えた和人の決断だった。
そんな和人の言葉を聞き、ユージオの言葉も聞いた両親は、息子の…和人の意見を尊重し、激励と共に受け入れてくれたのだ。そんな桐ヶ谷家のやりとりを見守っていたユージオが、
『いいご両親じゃないか』
と言ったのに対し、和人は照れながら肯定していた。
そんなことがありつつも、自室へとユージオと共に向かい、ユイを交えながら談笑していた和人とユージオだったが、夜も更けてきた頃合いで寝ることになった。のだが…
「キリト……起きてよ、キリト」
「…う~ん……なんだよ、ユージオ。まだ夜中じゃないかよぉ…ふああぁぁ…」
一緒に寝ていた筈のユージオに起こされた和人は、ベットの横棚に置かれた時計を見て、欠伸をしながら悪態を吐いていた。まぁ、やっと寝たところ、夜中の3時に起こされれば当然の反応かもしれないが…
ちなみに、今のユージオの恰好はというと、和人の冬用の寝間着を借りて身に纏い、床に敷いた布団で寝ていた。余談だが、アリスは蓮の寝間着を貸してもらっていたりする。
「ゴメン…でも、君にどうしても見てもらいたいものがあるんだ」
「見てもらいたいもの…?」
真剣なユージオの姿に、ただ事ではないと察した和人も眠気を強引に払い、部屋の電気を点けたところで話を聞く体勢に入る。
「5分前ぐらいにおかしな文章が…えっと、確かメールっていうだよね?それが、ネットワークを通じて僕に…正確にはこのサンエモンのボディへと届いたんだけど…その内容が奇妙なんだよ」
「奇妙なメール…?迷惑メールとかそういうのじゃなくてか?」
「差出人の名前がないんだ。それで、その内容っていうのが…いや、直接見てもらった方が早いかな。出力機を借りるよ?」
突如届いた奇妙なメール…何者からか届いたそれに、ユージオも和人も首を傾げていた。ともかく、内容を呼んでくれとケーブルを通じて桐ヶ谷家のネットワークを介して、ユージオは届いたメールをプリンターを通して印刷した。
「【白き塔を登りて、かの世界へと至る。
第二修練場.媒体保管庫.元老院.地理記録室】
…白き塔……っ!待てよ…これって、もしかして」
メールの内容を一読し、ある可能性を思い至った和人は机の上に置いてあったオーグマーを装着し、AR画面を起動する。
「ユイ、起きてるか?」
『…ふぁい…おはよぅございますぅ、ぱぱぁ…』
「寝ていたところ悪いが、ユイ…これを見てくれないか?」
『うん…?………これは…!セントラル・カセドラルのフロア名称ですね』
「ああ…俺もどこかで見たことがあると思ってな。元老院は96階だったのは覚えてるけど…他のフロアはどうだったかな…」
「アリスに聞いてみたらどうだい?彼女だったら、他のフロアも覚えてるじゃないかな?」
「そうだな…蓮が電話に気付いてくれたらいいんだが…もう寝ちまってるだろうし…」
『…あっ!パパ、話をしてたら、フォンさんから着信です!』
寝ぼけ眼の愛娘の様子に悪いと思いつつ、呼び掛けた和人はユイにもそのメールの内容を見せた。寝ぼけていたユイだが、その内容がセントラル・カセドラルのフロア名称を指していることに気付き、目が覚めたのと同時に驚いていた。
自分の考えが合っていたと確信を持った和人は、ユージオのアドバイスに従い、アリスと連絡を取ろうとするが、タイミングよく連絡しようとしていた蓮から電話が掛かってきた。
「蓮、ちょうどよかった!もしかして、アリスの方にも…」
『…その様子だと、ユージオの方にも届いたんだな?ちょっと待て…今、スピーカーに切り替える』
『キリト、ユージオ、聞こえるかしら?』
「ああ、聞こえてる」「うん、聞こえてるよ」
ユージオだけでなく、アリスの方にもメールが届いていたことを認識した5人は、それぞれの会話が聞こえるようにスピーカーへと通話を切り替える。そして、和人は残りのフロアの階層名をアリスへと尋ねる。
ユージオの予想通り、アリスはしっかりとそれぞれの階層名を覚えており、それらの名称を答えてくれた。
『第二修練場は52階、媒体保管庫は68階、元老院は96階、地理記録室は58階にあった筈よ』
「52,68、96,58っと………これは、IPアドレスか?」
『はい。【登るべき白き塔】という部分は、二行目のアドレスそのものを指しているんだと思われます。そして、【登った先でかの世界へと至る】…ということは、このアドレスが示すサーバーは…つまり…』
「…!そうか…!」『…!そういう、ことか…!』
ユイの言葉で、和人と蓮は同時にこのIPアドレスが指し示す場所…いや、世界がどこなのかを確信した。
「ユージオ、アリス!このアドレスはあの世界…アンダーワールドに繋がる道なんだ!」
「『っ…!?』」
そう…誰が送ってきたかは分からないが、アンダーワールド固有の名称を使った文章から、これがアンダーワールドのサーバーへと通じる道なのだと告げた和人の言葉に、ユージオとアリスは息を呑むしかできないでいた。
「アンダーワールドに…繋がる道…?」
『戻れる…?いや、帰れるの…あの世界に…私たちの…セルカたちが待ってくれているあの世界へ…行けるの…?』
「ああ…帰れるさ!」
全く見えていなかった道が突如として繋がり、安堵と喜びの感情が入り混じった声がユージオとアリスから零れる。そんな二人の反応にこうしてはいられないと、和人は動き出すことにした。
「よし、こうなったら善は急げだな。蓮、聞いての通りだ」
『了解だ…とりあえず、ラースに集合でいいか?』
「そうだな…一時間後に集合にしよう」
『分かった…ただ木綿季が完全に寝ちまっててさ。俺とアリスだけが行く形になるんだが、そっちはどうする?』
「…それなら、俺もユージオと二人でラースに向かうよ。ユージオとアリスはともかく、STLが二台しかない以上、俺とお前だけの方が都合がいいだろうしな」
『あとで木綿季と明日奈の二人に文句を言われそうだけどな』
「仕方ないさ…ともかく、あっちで落ち合おうぜ」
それぞれの彼女から絶対に誘わなかったことを責められると苦笑しつつ、今は一刻も早くこのアドレスがアンダーワールドに繋がっていることを確かめるべきだと判断した面々は準備を整え、ラースへと向かった。
「これが、さっきお伝えしたメールに伏せられていたアドレスです」
ユージオとアリスをそれぞれのバイクへと乗せ、ラースへと到着した和人と蓮。事前に今から向かうことを連絡した時、偶然にも夜勤として滞在していた凛子が4人と、端末にいたユイを含む計5人を出迎えてくれた。
そして、件のメールで判明したアドレスが書かれた紙を和人から手渡され、凛子はその差出人の心当たりを告げた。
「多分…あの人が関わっているんでしょうね」
「ええ…だと思います」
あの人…それが茅場明彦を指していることは応えた和人も、話を聞いていた蓮も分かっていた…むしろ、茅場以外には考えられないという思いもあった。
「ユイ。例のメールを送ってきたアドレスについては分かったか?」
『いえ…サーバーの中継点までは辿り着きましたが、防壁が手強くてその先までは探査できません』
「ユイちゃんでも追い切れないのか…まぁ、茅場がそんな証拠を残すようなことをするわけもないか」
「ユイ、ありがとう。とりあえず、俺たちはあのIPアドレスの先に行ってみるよ。流石にもう危険はないと思うから…多分」
IPアドレスの紙を手に、接続準備へと入った凛子を横に、和人は例のメールを送ってきた正体を探っていたユイに成果を尋ねるも、途中で追えなくなってしまったと少し残念そうに応える愛娘の反応を見ることとなった。
もっともあの茅場がそうそう足を掴ませる真似はしないだろうと、蓮も和人も予想はしていたため、落胆することはなく、ともかく今はそのメール主を信じ、ダイブしてみようと思っていた。
『安心してください!もし何かあったら、ユイがすぐに助けに行きますから!それに、ママやユウキさんたちにも駆けつけてもらえるようにもしてみせますから!』
「お、おう…できることなら、そうならないように頑張るよ」
「た、頼りにしてるよ……じゃあ、またな」
そうなったら、お説教されることは確定だなと思った男子二人は動揺しながら、ユイの励ましを受け取るのだった…蓮に至っては何を頑張るのだろうか?
「さてと…もしあのIPアドレスがアンダーワールドに繋がっていた場合、今のアンダーワールドは俺たちが知っている時から200年が経っている状態だ。人界と暗黒界がどうなっているか見当もつかない…十二分に注意して行こう」
「200年か…アドミニストレータが支配していた300年のうち、そこまで文化が発展していたってわけでもないから、何かが大きく変わっているとは考えにくいが、心の準備だけはしておいた方がいいだろうな」
気を取り直し、現在のアンダーワールドが自分たちが知っている時よりもかなりの年数が経っていることから、何かがあってもいいようにと気を引き締めるよう告げる和人と蓮。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…アリス」
「…っ…ユージオ…」
「…大丈夫。セルカは待ってくれてるよ。だから、あっちに行ったら、真っ先にセルカを起こしに行こう…セルカとの約束を果たしに」
「…そうね…早く行って、起こしてあげないとね…!」
アンダーワールドに帰れる…その不安と期待に複雑な表情をするアリスだが…その思いを察したユージオの言葉に、笑みを浮かべて応える。アリスも、そして、ユージオも…今度こそ交わした約束を果たすべきなのだと視線を前へと上げる。
…そして、凛子の手によってSTL、そして、ユージオとアリスの接続準備が完了し…
「準備はいいかしら?」
「「「「…はい!」」」」
「…それじゃ…STLを起動させるわよ?」
「「「「…リンク・スタート!」」」」
凛子の声に気合の入った答えを返し、4人はそのキーワードを発した。
すると、STL独自のダイブ画面…七色の光子が飛び交う画面が4人の視界を覆い、すぐに光が開けると…!
「…!うああわわぁぁ…!?」
「っ…!?なぁ、これって?!」
「えっ…何が…!?」
「…!これ、は…!」
真っ先にダイブが完了したキリト…だが、視界に入ってきた光景に驚き、思わず悲鳴を上げてしまった。続けてフォン、ユージオ、アリスがダイブしてきたものの、三人ともキリト同様、広がる光景に思わず驚きの声が漏れていた。
「…宇宙…なのか?」
大地がある場所にダイブインするかと思っていたところ、自分たちが無重力空間…星々が散りばめられたように輝く宇宙にいるのだと、真っ先に状況を理解したキリトの言葉通り、フォンたちも認識できた。
そして、ふと振り返ったアリスがそれに気付いた。
「ユージオ…キリトにフォンも…あれを見て…!」
「あれって…いや、あれこそが…!」
200年が経ってしまったことで星が消えてしまったのではないかと錯覚した面々だったが、アリスの指差した方向…それを目にしたユージオが零した言葉に…キリトとフォンも、その認識は間違いなのだと分かった。
「帰ってきた…本当にアンダーワールドに…僕たちが生まれ、住んでいた世界に…あの星に…帰ってこれたんだ…!」
4人の視線の先…そこには、キリトとフォンがよく知る地球ととてもよく似た星があった。そして、その星こそが、ユージオとアリス…二人が生まれ、育ち、守ろうとした世界がある星なのだと理解した。
ようやく…やっと帰って来れたのだとユージオとアリスは…嬉しさとなつかしさとが混ざり合った感情と共に涙を流していた。そして、零れた一言が…
「「…ただいま…」」
様々な想いが込められたその一言が…静かに宇宙へと響いた。そんな二人の姿を見たキリトとフォンも思わず笑みを浮かべて…
「…っ…なんだ、あれは…?」
しかし、そんな感動的な場面をぶち壊すかのように、前方の空間にて連続した爆発が起こり、遅れてやってきた音にフォンは何事かと顔を顰めた。
次々と起こる爆発が、何かが闘っているものによるものだと判断した4人は、放っておくわけにはいかないと、意識を戦闘状態へと切り替え、すぐさま移動を開始した。
…宇宙空間を自在に飛び回る影が四つ…
そのうちの三つは鉄の機体…現実世界で言うところの戦闘機の形をしたロケットだった。かつて、二つの惑星を開拓し、アンダーワールドを統一し、発展させた『星王』が開発した『機竜』と呼ばれるものが、そのロケットの正式名称だった。
そして、その三体の機竜を、まるで撃墜すべく追いかけているもう一つの影…岩のような緑の緑色の球体ボディに、大きな口の中にある一つの黄色い目玉、そして、全身から無数の口がついた触手を生やした異形なる姿。
『アビッサル・ホラー』という神話クラスに属する宇宙獣…星王とそのパートナーであった『星王妃』すら、その得意なる特性によって滅ぼし切ることが叶わなかった、正しく生きる災害とも呼ぶべき化け物が、機竜たちを殲滅しようと追跡し、攻撃を仕掛けていたのだ。
口から放たれる無数の暗黒光弾を機竜たちは隙間を掻い潜って回避していくが、その物量の前に、爆発が掠めて被弾していく。
「くぅぅ…!ローラン、アーミィ!無事!?」
なんとか最小限のダメージに抑えることはできたものの、被弾状況が芳しくないことは、コクピットに表示されたモニターと警報によって理解しつつ、赤い装飾が首機に施された機竜を操るパイロット…今のこの世界において『整合機士』と呼ばれている者の一人…スティカ・シュトリーネンは、仲間の二人へと安否を確かめていた。
「大丈夫よ、スティン…私は無事…でも、もうこの子は、これ以上飛べない…!」
「こうなったら、機外に脱出するしかないわ…騎士服の噴射機だけで、なんとかカルディナまで辿りつけれれば…」
「お二人は離脱してください!?私の機竜はまだなんとか高機動状態で稼働できます!
あいつは私が食い止めますから…!?」
「駄目よ、そんなの!約束したでしょ!?三人で必ず…ううん、この子たちも合わせて一緒に帰るんだって!」
スティカの呼び掛けに答えた整合機士ローランネイ・アラベルはなんとか無事であることを告げるも、彼女の機体もまた限界を迎えつつあった。さらに、先程の爆発で右肩を強打し、思う様に操縦もできなくなっていた。
対するスティカも衝撃で頭部を斬り、右側頭部から出血しており、状態はあまりよろしいものではなかった。
そんな中、二人を逃がすべく、三人目の整合機士アーミリア・ネフィリアムが殿を務めることを進言するも…そんな提案を呑めるわけがないと二人は拒絶する。
「そうね…そうだったわね。私たちの約束も…先代たちが守り続けてきた約束を果たすためにも…諦めるわけにはいかないわよね…!」
「ええ…!ここまできたら、三人で最後まで闘おう!それで、三人一緒に、この子たち共にカルディナに戻ろう!」
「…分かりました!なら、私が奴の気を引きますから、お二人は攻撃に集中してください!」
「「了解!!」」
最後の最後まで諦めるものかと…アーミリアを先頭に、死力を尽くした反撃に出ようとする整合機士たち。そんな三人をなんとしてでも屠ろうと、宇宙獣は先程以上の光弾…いや、光線を口の中にある眼球から繰り出そうと…
「…バースト・アウト!!」
「「「…!?!?」」」
一瞬幻聴かと思えた言葉が…いや、式句が聞こえ、整合機士たちは驚く。しかし、それが神聖術の発動であったことを認識できたのは、宇宙獣が放った光線が、風素で構成された竜…『機竜』のモデルでもある、かつて騎士を乗せ、地上の空を自在に飛び回っていた飛竜に酷似したものにより相殺されたことによってだった。
「…さてと…お膳立てはしたぜ?後は頼んだぞ!」
風還龍…いや、その上位互換である崩風龍が放たれた方向…風素系最上位神聖術を放った、かつてセントラル・カセドラルにて保管されていた蒼色の礼服に身を包んだ少年は、役目は終わったとばかりに後続に後を託した。
整合機士たちも宇宙獣もその存在に気が付くも、注意がそちらに取られた宇宙獣は接近していた二つの影に気付くのが遅れてしまった。
「…凍てつかせろ、青薔薇!リリース・リコレクション!!!」
友から返された自身の愛剣…久々に使う筈のその剣の力を限界にまで引き出した力…青薔薇の破界鎧を身に纏った栗色の髪を持つ少年は静かに、しかし、しっかりと気合を込めた式句と共に、青薔薇の剣を宇宙獣へと向けた。
「まさか…剣で宇宙獣と闘おうというの!?危険だ……えっ…?」
その行為が無謀だと…危険だから下がれと言葉にしようとしたスティカだが、その言葉は続くことはなかった。
青薔薇の剣から完全に解き放たれた、永久凍土の力を宿した薔薇蔓が、少年の数十倍の大きさを誇る巨体を瞬く間に捕え凍らせてしまったのだ。
「…さぁ、次は任せたよ…キリト」
「任せろ、ユージオ……リリース・リコレクション!!」
入れ替わるように、前へと出た黒髪の少年…その装備、剣までもが黒一色の…まさしく『黒の剣士』とも呼ぶべきその姿をした少年は、夜空のような黒を宿した刀身を記憶開放術で巨大化させ、凍結から復帰した直後で動きの鈍っている宇宙獣をバラバラに斬り裂いた!
「…凄い…あの位階の宇宙獣をあんなに簡単に仕留めるなんて…」
「っ…!?まだよ!まだ本体が残ってる!あれを全部殲滅しないと…!?」
苦戦することなく、宇宙獣の身体を見事な連携プレーで倒してみせた人たちに、アーミリアは感嘆の声が出てしまっていた。しかし、身体はあくまでも器の一つ…それに巣くう絶大なる再生力を持つ細胞全てを殲滅しなければ滅ぼすことができないことを分かっていたローランネイが逃すものかと追撃を図ろうとするが…
「そう…200年も経てば、こんな未知なる化け物も生まれるのですね」
黄金の…金木犀を連想させるような一筋の光が走り、星と見間違うような光源の正体…黄金の騎士鎧に聖青職のマントが翻る少女は、騎士時代の口調で逃げようとする化け物を冷静に分析していた。
「なんであれ…私の…私たちの生まれた世界を壊そうとするのなら、容赦はしません…リリース・リコレクション…屠りなさい、花たち!!」
黄金の刀身を持つ騎士剣…金木犀の剣を抜き、記憶開放術を発動させながらの一振りは、刀身を無数の金木犀の花へと変え、逃亡しようとしていた宇宙獣を塵一つ残すことなく殲滅していく。
いくら再生力が強かろうと、空間における広範囲殲滅攻撃において右に出るものがいない金木犀の剣の力の前では無下に等しく、宇宙獣は整合騎士の下、完全に滅ぼされた。
「さっきの氷の薔薇…もしかして、あの人…昔、お祖母ちゃんがご先祖様から聞いたっていう…暗黒神を打ち倒したっていう伝説の…」
「…曾祖母様から言い伝えられてる大切な人…約束を伝えないといけない人…その人とよく似てる…」
「あの姿…星王様にそっくり…それにあの騎士様も…大戦を終わらせた立役者の一人…アリス様の絵と一緒…」
スティカ、アーミリア、ローランネイはその姿に見覚えがあった。直接見たことはなくても、先祖から伝わってきた話が、彼らの面影と重なって見えたのだ。
宇宙獣を無事に討伐し、手を叩き合い勝利を喜ぶ四人…そして、彼らは三人の整合機士へと手を振っており…
「「「…おかえりなさい」」」
それは先祖が告げることができなかった言葉だった。しかし、彼らの存在を代々聞かされてきた彼女らにとって、その言葉は先祖の代わりに伝えるべき言葉だと思ったのだ。
星界暦582年…ここに、200年前に姿を消した二人の騎士と、大戦を終わらせた英雄の一人、そして、かつて星王と呼ばれていた者が…再びアンダーワールドへと帰還した。
『ユージオとアリスで二人いるから、それぞれ別の方へと行かせてもいいんじゃね?』という考えから、配置を逆にして行かせた形になりました、突撃お宅訪問(宅配)。
アニメ見返して思いましたが、段ボールから手が出てくるのは本当にホラー…(偶然にも某ホラーゲームで、井戸から出てくる人がテストプレイにて実装されたのは何の因果やら)
そして、きっと期待している(?)方も多かったに違いない、キリトを押し倒すユージオの構図!正妻差し置いて、親友CPでの最高の絵!…とりあえず、アスナさんに事案報告しないといけませんね(黒笑)(そもそも、こっちの方が先にアイデアとしてあったので、逆算する形で前々話でユージオにフォンを押し倒させたわけなんですが…)
いや、本当に長かったです…これで、ユージオを中心として始まり、幾多物の激動の展開が続いたWoUの原作エピソードは消化し切りました!大団円を迎えられ、作者もホッと一息吐いております!
ホント…読者の皆様も、ここまでお付き合い頂きまして、誠にありがとうございました!
……誰が、これが最終話だと言いました?……
LAST EPISODE 『もう一つの結末』
2/21 7:00 更新予定
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