ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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お待たせ致しました、後日談の開幕です!
章のタイトルも決めているのですが、ネタバレに繋がるので途中までは非公開とさせて頂きます。

キリト君がイキイキと活躍してくれます(笑)あと、フォンがちょっと精神的に詰められます(アスナさんに)

おかしいな、カーディナルの出番が思った以上に少なくなった…次回からしっかりと出しますので。というか、先のお話の為の布石を打ち過ぎました(苦笑)

あのキャラが(名前だけですが)本編初登場となります!

それでは、どうぞ!


Cardinal Heart
第1話 「Real Prelude」


…カタカタカタカタ…

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

『パパ。設定はパパの家のパソコンとほぼ同じにしますか?』

 

「そうだな、ユイ…ただ、こっちのだと、蓮と木綿季に加えて3人がVRに接続できるように設定しないといけないから、そこを変更するのだけは忘れないでくれ」

 

『了解です!』

 

「…(何かしら、手伝えたらと思っていたが…ここまで複雑だと、何しても足手まといにしかならなさそうだな、うん)」

 

8月22日…夏休みも終わりに…いや、今年の色々ありすぎて、夏っぽいことは何一つできずに終わりを迎えようとしているわけだが。

 

外に出ていたこともあり猛暑によって上がっていた体温が、冷房が程よく聞いた自室の温度によって冷まされてきた中、俺は作業をしている和人と、設定をしてもらっているPCのデスクトップに映るユイちゃんを見ていた。

 

二人に何をしてもらっているのかというと、新たに新調したPCの設定を手伝って…というよりも、ほぼ全て任せているのだ。

 

というのも、木綿季の提案でカーディナルにうちに住んでもらうことになったわけで…そうなってくると、ネット環境を更新する必要があるわけで…すると、そういった専門知識がある人に助力を求めなければならないわけで…

 

そういうことで、俺が助けを求めるべく白羽の矢を立てたのが、和人とユイちゃんだったわけだ。知り合いの中で最もその分野に精通しているのもそうだが、ユイちゃんという存在

からして、これ以上ない助っ人だったわけだ。

 

…まぁ、昨日は昨日で色々なことがあり、急遽ラースに呼び出された際、ユージオとアリスと共に、カーディナルがこっちに来ることになった経緯を…一部は誤魔化したが…説明することになったわけで、最初は大変驚いていたが、事情を理解した和人とユイちゃんは快く協力を承諾してくれたのだ。

 

そういうわけで、自宅のPCのスペックを説明したのだが…

 

「…これは無理だな。買い替えないと…」

 

「…やっぱり?」

 

苦い顔をしてそう告げた和人に、俺は予想してとはいえ、そう呟かずにはいられなかった。どうしてかというと、今年の3月…木綿季と同棲することになった際、二人でVRMMOができるように、PCを買い替えたばっかりだったのだ。

 

半年も経たぬ内に買い替えることにはなると思ってなかったこともあり、流石に笑みが引き攣った。もっとも、オーシャン・タートルの一件でとんでもない貯金ができてしまったので、多少の出費は痛くも痒くもないし、一旦預かると決めた以上、カーディナルが不自由になることは避けたいわけで…

 

前回は市販の物をそのまま購入したのだが、高スペックのものにアップグレートにするにあたって、一から組み立てた方がいい…そんな和人のアドバイスもあって、朝一で和人と共に秋葉原の電気街に繰り出していたわけだ。

 

そして、買い物を終えて、俺の家に戻り、和人にPCを組み立ててもらい、あらゆるネットワークや機器の接続をしてもらい、現在はPCの初期設定と、ケーブルを通して繋いでいる俺と木綿季のスマホにあるシステムを入れてもらっているわけだ。

 

(…俺、お金しか出してないよな…アハハ…)

 

あまりにすることがなく、今日一日の出来事を振り返っていたわけだが…ほとんど和人に頼りっきりになってしまっていて、内心で苦笑してしまっていた。この後、設定の説明をしてもらうわけだが、どういう仕組みになっているか理解できるか一抹の不安も感じていた。

 

「……よし、これでいいだろう。ライトキューブとの接続を通して………カーディナル、聞こえてるか?」

 

『………うむ。よく聞こえておるぞ、キリトよ』

 

そんなことを思っていると、どうやら全ての設定が完了したようだ。和人の呼び掛けに応えるカーディナルの声がPCのスピーカーを通して聞こえてきた。

 

「大丈夫そうだな。それじゃ、ユイ。カーディナルを誘導して、画面に姿を見せてくれるか?」

 

『はい、パパ!こっちです、カーディナルさん』

 

『う、うむ…こうか?』

 

「おっ…そうそう。二人とも、ちゃんと映ってるな」

 

「よっ、カーディナル。一日ぶり、って言えばいいのかな?」

 

『…フォンにキリト、なのじゃな?そうか…その姿が本来のお主たちの姿なのじゃな…といっても、アンダーワールドの時とそう大差はないようじゃがな』

 

デスクトップの画面外からユイちゃんが現れ、彼女に引っ張られるように姿を現したのが…アンダーワールドの時と…初めて出会ったセントラル・カセドラルの中でも秘匿された大図書室の司書とも、賢者とも取れる姿をしたカーディナルが出てきた。

 

和人と俺が姿を確認できたのに対し、カーディナルも初めて目にした俺たちの姿に少し驚きつつも、どこか安堵したように見えた。

 

ふと視線を上げると、さっき部屋の天井の角部分に設置したカメラが動いていた。あれは、前に和人が開発した双方性アプローチの室内版だ。木綿季が使ったこともあり、その存在は知っていたが、それを自室にセットしたことで、オーグマーを装着していなくても、カーディナルはこっちの様子を部屋を通して見ることができているわけだ。

 

「PCの設定は大丈夫そうだな。じゃ、次はスマホだな。ユイはユウキのに、それを真似してカーディナルはフォンのスマホに移動してみてくれ」

 

『はい!』『わ、分かった…』

 

次に接続しているスマホに移動ということで、二人が画面から消えたと思えば、すぐさまユイちゃんが木綿季のスマホの画面に現れた。そして、少し遅れてカーディナルが俺のスマホに姿を現した。

 

これも、和人と明日奈のそれぞれのスマホに入れているプログラムと同じものを、俺たちのスマホにインストールしてもらったのだ。これで、外出時にもカーディナルとコミュニケーションを取ることができるわけだ。

 

それも問題なくできたことで、再びPCの画面へと二人が戻ったことを確認してから、和人は繋いでいたケーブルからスマホを外し、傍に置いていた俺たちのオーグマーへと繋ぎ直す。

 

「ユイ。俺は、これからオーグマーの方の設定を変更するから、その間にカーディナルのPC関連のシステムやら色々と教えてあげてくれないか?終わったら、俺のスマホに戻って知らせてくれればいいから」

 

『分かりました!では、カーディナルさん。まず、このPCの中について説明していきますね!』

 

『う、うむ…手柔らかに頼む』

 

すると、二人が三度姿を消し、和人はオーグマーのプラグラムを開き、設定を変更し始めた…かと思えば、もう作業が終わったのかエンターキーを打ち込んだ和人は背伸びを始め、

 

「う~~~~ん…!終わった~…」

 

「お疲れ。なんか悪いな、一から全部任せちまって」

 

「いいよ、気にすんなって。俺も楽しくてやってたところもあるしな」

 

「…というか、PCって部品から組み立てられるもんなんだな。てっきり、専門的な知識が高い分野かと思ってたけど…」

 

「まぁ、いきなりやれと言われれば難しいだろうけど…やり方やPCの構造さえ分かったら、そこまででもないさ。フォンでもすぐにできるんじゃないか?」

 

「…だといいんだけどな(できたとしても、和人には一生敵わないような気もするけどな)」

 

できるようになっても、和人レベルにまで追い付いた時には、こいつは更にその先を行ってそうだと思うのはきっと間違ってはいないだろう。まぁ、多少の修理とか故障の原因が分かるぐらいにはなっていても損はないのだろう。

 

「さてと…それじゃ、今回のPCについて説明するぞ」

 

「ああ…できれば、分かりやすいように説明してくれよな?」

 

ともかく、オーグマーの設定も、あとはインストールを待つだけらしく、今の内に大方の説明をしようと和人が口を開こうとした時、

 

「はーい、お待たせ!」「出来たよー!」

 

作業が一段落したところを見計らっていたのだろう…二人の…明日奈と木綿季の声がダイニングキッチンから聞こえ、説明は中断させられることとなった。

 

時計を見れば、14時過ぎ…朝イチで買い物に行って、すぐに戻って来てPCの設定をしてもらっていたわけだが、既にお昼の時間をとうに過ぎていた。

 

やってもらっている俺はともかく、作業に集中していた和人は昼食を取ることが頭から抜けていたようで、俺たちと一緒に食べようと待ってくれていた二人が、タイミングを見計らって声を掛けてくれたようだ。

 

「…まぁ、話はご飯を食べてからにしようぜ」

 

「そうだな」

 

時刻を理解したせいか、それとも、キッチンから流れてきた良い匂いのせいか…急速に空腹を感じ、苦笑している和人の言葉に従い、俺たちはリビングテーブルの方へと移動する。

 

それと同時に最後の料理…沢山のサンドイッチが載せられた大皿をもった木綿季と、その後ろを追ってきた明日奈もテーブルへと来て、それぞれが椅子に座ったところで、

 

「「「「いただきます」」」」

 

手を合わせて、お決まりの言葉と共に昼食を摂り始めた。各々が好きなものを、小皿に取っていく中、俺は料理を作ってくれた明日奈へと声を掛けていた。

 

「ありがとな、アスナ。留守番だけじゃなく、料理の方まで手伝ってもらったりして」

 

「いいよ、気にしないで。午前中はユウキと一緒に勉強していただけだし、料理だって半分はユウキが作ったしね」

 

「エヘヘ!お泊りに言った時とかに、アスナが教えてくれたお陰だよ!」

 

そういえば、以前にもお泊りから帰ってきたとき、一緒に作ったものがどうだかと教えてくれたことがあったな…俺も時折一緒に作ったり、教えたりはしていたが、木綿季の腕が上がるのが早かったのは、明日奈のお陰でもあったわけか。

 

「…いいよな、ユウキ。俺だって、明日奈の家に泊まりに行ったことないのに」

 

「アハハ…ゴメンね、キリト君。お付き合いのことは認めてくれたけど、流石にお泊りとかは……お母さんがね」

 

「大丈夫、分かってるさ。アスナのお母さんの気持ちも理解できるし…まぁ、それはそうとして、そうなると、フォンとユウキが羨ましいんだよな。この部屋で同棲してるとは…」

 

そんな二人のやりとりを見て、ちょっとだけ嫉妬する彼氏の和人に、苦笑しつつも謝る明日奈。もっとも、和人の方もワザといじけてみせただけだったようで、ハムとからしマヨネーズが挟まれたサンドイッチを齧りながら、部屋を見渡していた。

 

ちなみに、今日の昼食は二人が作ってくれたサンドイッチ、ソーセージと玉ねぎを具材としたコンソメスープ、明日奈が手土産として買ってきてくれたクロワッサンに、メインとして供えられたじゃがいものガレット(チーズとベーコン入り)だ。

 

冷蔵庫にあるものを好きに使ってくれとはいったが、他人の家のそれを見て、すぐにレシピを立ててみせた明日奈の力量には驚かされた。簡単なものとはいえ、時には家族以外の人が作ったものを味わうのもいいのかもしれないと思いつつ、クロワッサンを口に放り込みながら、俺は和人の言葉に応えた。

 

「羨ましいって言ったって、ALOじゃお前たちだって同じことしてるだろうが…というか、こっちではなかなかできないことだってしてるだろうし」

 

「うっ…それは、まぁ…」「え、えっと…アハハハ…」

 

(まぁ、それは俺もそうなんだけど…)

 

ALOの新生アインクラッド21階の住まいのことを指摘し、更には夫婦の営み関係で追撃する。図星だったのか、少し顔を赤くして閉口する二人だが、それはこちらにとっても諸刃の剣でもあったので、早々に話題を別のものへと切り替える。

 

「そういえば、ALOと言えばだが、ユージオとアリスも始めるんだって?」

 

「ああ。アンダーワールドとの道が見つかった今、現実世界との交流を予期して、まず二人がALOを体験することになったってさ」

 

「いわゆるテストダイバーって感じよね。もう少し落ち着くまで時間が掛かるかと思っていたけど…」

 

「確かにラースは色々と手一杯だけど、そっちは凛子さんたちで対応するってことで、ユージオたちはVRMMO関係の方に専念することになったんだってさ。まぁ、半月に一回はどこぞのパーティには参加しないといけないらしいけど…」

 

「まぁ、ちょっと前までの頻度に比べたら、大分マシになったんじゃないかな?確か、明日の午後には二人ともアカウントを作ってダイブして…キリトとリーファが案内するんだよね?」

 

「ああ、その予定だよ。カーディナルが今夜からALOにダイブするなら、もしかしたら、明日はどっかで会うかもしれないな」

 

ALOといえば、ユージオとアリスが来る日が決まったのだ。

 

凛子さんと比嘉さん曰く、二人には二つの世界の架け橋となる存在として、そして、長らくお預けにしてしまっていた自由な時間を堪能してほしいという意図があってとのことらしい。

 

昨日、そのことを和人と俺は二人から聞かされたわけで…どんな種族にしようか相談していた二人の姿が思い起こされる。

 

…その時には、カーディナルの件と、昨日、突如と起こったある出来事と渦中の人物のことで、一気に色々なことが起こり過ぎ、ラースだけでなく、俺たちもその対応に追われることになったのだが…その話はまた後程にするとしよう。

 

「ともかく、二人の案内はキリトたちに任せるとして…カーディナルさんはフォン君とユウキがするんだよね。二人とも、大丈夫?」

 

「もう~、心配性だな、アスナは。僕だってVRの経験は深いんだし、ALOはフォンがよく知ってるから、大丈夫だって!」

 

「…それはそうかもしれないけど…どちらかといえば、フォン君がまた何かしでかすんじゃないかって心配の方が大きいのよ」

 

「お、俺…?どういうことだよ」

 

どうやら明日奈の心配は、木綿季ではなく、俺らしい。どういうことかと口を尖らせながらも、ガレットを刺したフォークを口に運ぶ。うん、良い塩加減で大変美味しい。

 

「えっとね…この前までは、フォン君ってちょっとだけやらかすイメージだったのが、ここ最近の出来事でそれ以上のことをやらかすんじゃないかっていうイメージに変わって…アンダーワールドで使ってた剣とか、カーディナルさんの件とか…」

 

「「「…あー…」」」

 

申し訳なさそうにそう告げる明日奈の言葉に、思わず納得してしまった。おそらく同じ思いだったのか、和人や木綿季も唸ってしまっていたぐらいだ。

 

「…そこを突っ込まれると、反論の仕様がないな」

 

その二つのことを持ち出されると、確かに何も言えなくなってしまう。言い訳しようにも、半分以上は俺に原因があるわけで…

 

セントラル・カセドラルで、俺が映現世の剣を使っていたところを何度も見ていた和人やユージオならば、少しは耐性もできていただろうし、木綿季には剣のことを全て話し、その謎に関しても知っているからいいとして…

 

それ以外の面々…明日奈たちからすれば、あれほど規格外な力を見れば、そう思ってしまうのも無理ない話なのだ。

 

「キリト君の二刀流や技術連携を見た時以上に圧倒されたんだから…今でも、鮮明に思い出せるくらいに…」

 

そう言いながら顔を振るう明日奈に、俺はもう苦笑いするしかなかった。

 

明日奈がアンダーワールドに降り立って、再会した俺は記憶を封じている状態で、次に会った時には、海外のコンバートプレイヤーたちに包囲された絶体絶命の中だったわけで。

 

そんな中、突如として空から舞い降りながら大地をいとも容易く斬り割き、2万人近くのプレイヤーをたった一撃で戦闘不能に追い込み、複数人に分裂したかと思えば、炎が溢れ出ている黒刀を振るい、そして、再び2万の大軍を今度は地面へと引き摺り込むような大技を放ち…

 

…うん。確かに、どこぞの神様級のチート野郎ですね。

 

そんなものを眼前で見せられたりしたら、明日奈の反応こそが至極真っ当なものなのだろう。現に、その後のPoHとの闘いを見ていたリズたちにも、こっちの世界に戻って来てから、散々問い詰められたわけで…

 

そういう意味では、アスナの(限界加速フェーズが開始してからの200年の)記憶が消されたことは痛かったのかもしれない。同じ立場のキリトは映現世の剣のことを理解していたようだし…いや、あの剣の秘密はやはりそうそう広めるべきではないとすれば、やはり記憶を消したのはよかったのかもしれない。

 

それで、代償が当分の間、明日奈たちに引かれることとすれば、リスクと比較すれば、十分軽いものだ…俺のメンタルへのダメージは結構大きいが。

 

「映現世の剣、って言ったよね。キリト君が様々な世界の武器に変わることができるって説明してくれたけど…なんかしっくりこないのよね」

 

「アハハ…まぁ、俺もあの剣の全容が理解できてないし…それに、あの剣を使うことはよっぽどのことがない限り、ないから安心してくれ。そうおいそれと安易に使っていい物でもないだろうしな」

 

『様々な世界の武器へと変わる剣』…皆には、映現世の剣についてはそう説明してある…真実と少しだけ嘘を交えたものとして。でっちあげでは、いつかバレる可能性があることを考慮して、真実を織り交ぜた嘘を伝えることにしたのだ。

 

もともとイレギュラーな要素が折り重なって生まれた武器なのだ…多少、強引な話でもその背景を知ることがなければ、バレることはないと思ってのことだ。

 

…流石に、あの剣が生まれたのには並行世界が関係している、そして、自分はその並行世界の人間だ、と話したとしても、流石の明日奈たちもすぐには信じられないだろうしな。

 

それと、意外かもしれないが、実は和人にもこのことは話していない。時が来たら話すべきとは思っているが、映現世の剣の実態やら正体がはっきりするまでは告げないでおこうと思ったのだ。

 

なので、今分かっている剣の秘密を知っているのは、木綿季と比嘉さんだけとなるわけだ。後々、和人にも教えるとしても、これ以上教える人が増えることはないだろうと今のところは思っている。

 

「確かにデータはサルベージされて、フォン君は使うつもりはないとして…その余波で、カーディナルさんをこっちに連れてきちゃうなんて…もう、フォン君が歩く爆弾フラグにしか思えなくなってくるんだけど…」

 

「それに関しても…俺も流石に想定外だったと言いますか。狙ってやったわけではなくてですね…」

 

「…まぁ、私としてはユイちゃんの仲間…っていいのかな。お姉さん?妹?…そういう人が増えたから、嬉しい話なんだけどね」

 

ジト目が溜息と共に解除され、親の顔になった明日奈の言葉に、ようやく胸を撫で下ろせた。まぁ、明日奈の言う通り、ユイちゃんにとっては同じ立場の人が増えたわけで、その気合の入用はもの凄かった。

 

『任せてください!私が、お姉さんとしてカーディナルさんに、この世界のことについて…そして、電脳世界の歩き方を教えますから!』

 

昨日、ラースにて今日の件を和人に相談した際、ユイちゃんにも助力を頼むとそんな気合の入った答えが返ってきたのだ。

 

やはりユイちゃん自身、仲間が増えたのもそうだが、お姉さんとして振舞えるという気持ちが強かったのだろうか、とても嬉しそうにしていた…ただ、

 

(確かに生まれたのはカーディナルの方が後なんだけど、年齢的にはあっちの方が遥かに上なんだよな)

 

ユイちゃんの年齢を、アインクラッドの2年とそれからを加算しても4才に満たない…見た目やらできることを考慮しても10歳前後としても、カーディナルの場合はアンダーワールド時間軸でとはいえ200年も生きているわけで…

 

あの見た目に反して、俺たちの中では最年長というとんでもないことになってるんだよな。まぁ、こっちの世界に不慣れだから、そういう見方はし辛いだけど…

 

「にしても、夏も終わりだっていうのに夏らしい事を何もしてないんだよな…木綿季とプールに行ったりとか、お盆には爺ちゃんの所に行こうかと今年は考えてたのに、全部吹っ飛んだからな」

 

「あー…そうだよね。僕も宿題を終わらせるだけの夏になったね。オーシャン・タートルの一件以降、なんやかんやでバタバタしてもんね」

 

「今からは難しいけど、ALOならどうかな?去年みたいに海に行ってもいいし、キャンプをしに山に行くのも一つの手だし」

 

「そうだな。今年はユージオたちもいるし、もう一回海に行くのもアリだな。というか、アンダーワールド組は泳げるのか…?」

 

「まぁ、泳ぐだけが楽しみじゃないしな…俺も去年は剣道道場の合宿で参加できなかったからな…そういえば、ユウキも泳ぎの方は大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫だよ!…た、多分…昔は泳げてたし…」

 

ふと思ってたことを呟いた俺の一言から、木綿季に続く形で明日奈と和人が反応する。去年は直前で剣道道場での夏季合宿が被ってしまい、俺は参加できなかったのだ。なんでも、バハムートとかクラーケンとか、ギリシャ神話ではとてつもなく有名な神たちに関するクエストに遭遇したらしいが…

 

…エクスキャリバーの一件といい、俺は神様関連のクエストとの縁がなさすぎるような気がするのだが…そういった類のものから嫌われているのだろうか?

 

一方で、和人の心配通り、確かに3人は泳げるのだろうか?勝手なイメージだが、ユージオとアリスは大丈夫そうなのだが、何故かカーディナルが泳げない感じがしてならないのだ。

 

それと同時に、ここ最近普通に過ごせるようになった木綿季にもその不安の矛先が向く…大丈夫だと言っているその様子が、珍しく自信がなさそうだったので、浮き輪とか小型ボート、釣り道具やらビーチボールといったものも準備した方が良さそうだと思った。

 

「バタバタしてたと言えば、昨日二人は聞いてきたんだよね?あの話…」

 

「…ああ…もうちょっと事体が落ち着いてから話そうと思ってんだけど。二人には先に説明しておくか」

 

「ラースと人工フラクトライトに関する意見を表明した七色博士のことだよな…菊岡さん曰く、あれはかなりマジな話らしい」

 

明日奈からそう話を振られ、俺と和人は昨日、急遽ラースに呼び出されたことを…いや、昨日、突如として世界の話題を集めることとなったアメリカに在籍しているVR研究を専門とする科学者の話をすることになった。

 

「突然のことでラースはその対応に追われまくってたけど、ニュースで流れた通りだってさ。俺もそのニュースを見た時は本当に驚いたさ」

 

「一日経ったのに、ニュースは昨日のあればっかりをずっと流し続けてるよね。ラースと、人工フラクトライトの存在を認め、支援するって言った…七色・ある…あるび…」

 

「七色・アルシャービン博士、だろう?確か…アメリカに住んでる天才少女だったか?」

 

昨日の惨状…至る所から電話が掛け捲られまくっているラースのことを思い出したのか、苦笑いする和人に、俺も釣られて笑ってしまう。一方で木綿季から、俺と和人が昨日ラースに呼び出されることとなった理由…その要因となった当事者の話が出て、昨日の朝に起こったそのニュースを思い出していた。

 

『七色博士がラースの研究内容に大変興味を持っており、博士が在籍しているアメリカの研究所を挙げて、人工フラクトライトの人権の主張、及び、その存在に関して支援する旨を発表した』

 

そんな声明が国際ニュースを介して発信され、世界が震撼したのだ。そして、渦中の中心にいたラースは更なる注目を浴びることとなり、大変慌ただしかった業務が更に加速することになったわけで…

 

もともとカーディナルのライトキューブとそれに付随する設備を受け取りに行く予定があった俺はともかく、流石に事情を説明しておくべきだということで和人もラースに呼び出され、どういう経緯でそうなったのかを菊岡さんから聞かされたのだ。

 

そもそもの話、10月に予定されているALOの大型アップデートが、七色博士が在籍している研究所との提携開発によるものだったらしく、その主導者であった彼女がそれに合わせて、拠点を日本に移すことになっていたらしい。

 

そんな矢先、ラースが人口フラクトライトの発表をし、世間の目が集まっているのに、それを彼女が見逃すわけもなく、『支援』という形で声明を発表したのだという…まぁ、研究拠点はアメリカであって、そのせいで国が慌ただしくなっていて落ち着いて研究し辛いというのもあったから、尚更好都合だったのかもしれない。

 

「それって…オーシャン・タートルを襲った特殊部隊みたいに、ラースやフラクトライトの研究や技術を目的に近づこうとしているじゃないの?」

 

「いや、菊岡さんが言うにはどうやらそうじゃないみたいだ。アメリカ自体は世論からのバッシングを浴びているが、ロシア生まれの博士はどちらかといえば政府のやり方に反感を覚えて抗議している側らしい…だから、七色博士なりに別の目的はあるのは確かだが、フラクトライトを支援するって言ったのは、純粋にVR研究の一人者として、その存在と考えに酷く関心を惹かれたからみたいなんだってさ」

 

「ユージオたちがALOに急遽ダイブすることになったのも、その大型アップデートが行われた際に、実際に博士と会って、フラクトライトがどういったものなのかを体験してもらうためでもある…そう言ってたからな」

 

明日奈の懸念はもっともだが、和人と俺は菊岡さんから聞かされた話をそのまま答えとして提示した。まぁ、確かにいきなりすぎる上に、あまりにもラースにとっては有難い追い風的な話なので、明日奈みたいに心配するのが普通だ。

 

けど、菊岡さん曰く…彼女の本命は日本に移住してからの研究であり、人口フラクトライトに関しては科学者としての視点からの意見であり、興味を持ち、その存在に可能性を感じてのことで、今のところ、技術流出の心配はないとのことだった。

 

むしろ、自身の研究に人工フラクトライトまでも巻き込みたいと考えている節があるらしい…それは彼女が研究に利用できるとまでに、人口フラクトライトの価値を認めているといってもいいとのことだった。

 

…まぁ、そう語る菊岡さんの顔が酷く真面目だったことから、七色博士の研究にも何かしらあることは感じられたのだが…

 

『それを素直に教えるのは流石にね…僕にも立場ってものがあるから』

 

その研究の内容を把握しているだろうに、教えてくれなかった菊岡さんがとてもいい笑みを浮かべていたのは、和人と揃って大変イラっとはしたが…そりゃ、情報漏えいの観点からすれば当然だろうが、もう少し言い方ものがあるだろうに…

 

「というか、海外の研究のことまで精通しているあの人が怖いんだけど…」

 

話を聞いて苦笑いする明日奈に対し、口を尖らせながら不満げにそう呟いた木綿季に、俺も同意するしかなかった。

 

というか、どうやってそんな細かな情報まであの人は手に入れたのだろうか。今、思えば、菊岡さんだけは他の人たちに比べて、かなり落ち着いていたように思える…まさか、事前に情報をキャッチしていたということなのだろうか。

 

そうとしか思えなくなってきたところで、その手際の良さに呆れを通り越して、もう感心するしかなかった。アリシゼーション計画の構想を立てたのと同時に、おそらくそういうことにも手を回していたのだろう…やっぱり敵に回したくないタイプは菊岡さん一択だ。

 

まぁ、そんな菊岡さんが今のところは静観しているならば、そこまで危険な研究というわけでもないのだろう。何かあるのなら、わざわざはぐらかす様な言い方もしないだろうし…何かあってから話すつもりだという可能性があるのも否定はできないけど。

 

「でも、その七色さんって、どうしてそんなに注目されてるの?」

 

「ああ、それは彼女がVR技術の『光』として捉えられているからだよ」

 

先に食べ終えた木綿季の質問に、最後のクロワッサンを掴んだ和人が、七色博士がどう呼ばれているかを教えていた…そのクロワッサンを狙っていた俺は、ちょっとだけジト目で和人を見ながらも、たまごサンドへと標的を切り替えつつ話を聞いていた。

 

「SAOやALOといった事件を始めとした、GGOとかのVRMMOに関連した事件が続いていただろう?それに続き、今回のオーシャン・タートルでの一件もそうだけど…どうしても、VRMMOに対しての懐疑的な見方が生まれてしまったのもまた事実なんだ。

 

けど、七色博士はSAOやALOでの一件を敢えて否定はせず、その中で進化を遂げたVR技術をより良い方向へと発展させていくべきだって主張したんだよ。そういう姿勢から、SAO事件を引き起こした茅場を『VR技術の闇』と評する一方で、希望と意味で彼女が『VR技術の光』と揶揄されるようになったってわけだよ」

 

「まぁ、確かにSAO事件だけ見れば、茅場が悪役に見えるけど、その後のザ・シードによるVRMMOの風評被害からの復活・発展、そして、アリシゼーション計画という一つのゴールに、設計を遺したメディキュボイドとかの功績を考えたら、一概にそうと断定するのはどうかと思うんだけどな」

 

まぁ、きっと本人は公表されるようとされまいと気にしないだろうけど、と一言を添えたところで、残っていたガレットをスープで胃に流し込み、俺も昼食を食べ終えた。

 

茅場自体、名誉とか賞賛ではなく、自身の夢のためにVR技術を研究し、SAO事件を引き起こしてしまったのだ。

 

そこには悪意も善意もない…だから、茅場を許せるかと言われれば素直に首を縦に触れず、茅場のしたことが全て正しいかと言われても答えに困ってしまうのだ。そういう意味では、純粋すぎて、表現しにくい…それが茅場明彦という人間なのだとしか言えないわけだ。

 

少なくとも、自身の欲望の為だけに、盗み積み上げ、己のものだと思い込み、傲慢にも全てを得ようとした須郷は悪だと断定できるし、あの時の和人の言葉の通り『茅場と比べるまでもない』と評せられるだろう…むしろ、あいつこそを『VR技術の闇』と揶揄すべきではないのだろうか?

 

「でも、もっと驚きなのは、団長に匹敵する程の天才だって言われてる彼女が、まだ12歳の女の子だってことだよね…」

 

「うん……えっ?ちょっと待って……僕より年下なの、その七色さんって?!」

 

そういえばそうだよなと明日奈の言葉に頷こうとしたところで、隣の木綿季が悲鳴に近い声で驚いていた。まぁ、俺たちの中だとカーディナルに対して、木綿季が最年少だもんな。驚くのも無理はないか…しかも、彼女は確かロシア人と日本人のハーフだって話だから、出身ではない国で活躍していることからも、その凄さは言うに及ばざるといったところだろう。

 

「まぁ、こっちと違って外国じゃ未成年の範囲が違うし、やろうと思えば、司法資格を取ることもできたりするからな」

 

「そういえば、俺も聞いたことあるな。アメリカとかだとこっちよりも低い年齢で弁護士とかにもなれるんだっけ?」

 

絶句したままの木綿季の頭を撫でることで慰めながら、日本と海外のそこら辺の違いについて述べると、和人も聞いたことがあったらしく、同調してくれた。まぁ、制度上はできるというだけで、そう簡単な話ではなく、やはり七色博士みたいな天才でないと、そういうことは机上の空論となってしまうのだろうけど…

 

「それでラースは今てんてんこまいなわけなんだけど…言っても、七色博士が来るのは来月の頭で、ALOの大型アップデートはもっと先だから、俺たちまでもがそう慌てる必要はないと思うけどな」

 

「まぁ、会えるかどうかも分からないしな。当面の間はユージオたちがALOに慣れるまでのサポートだよな。大型アップデータの余波で新生アインクラッドの更新は一時的にストップするし……まぁ、それと並行して受験勉強もあるんだが…」

 

今から慌ててもしょうがないという和人の言葉に同意する形でこの話は終わったわけだが、俺の放った言葉に、同じく該当者である明日奈も半笑いになっていた。

 

「…やっぱり大変なのか?アスナも以前受けた模試は結構良い成績だったじゃないか」

 

「それとこれとはまた別だよ、キリト君。本番だとちゃんとできるかどうか不安だし、偶にとんでもない問題が出てきたりもするんだから」

 

「そうそう…キリトだって、来年は同じ立場になるんだから人のこと言えるもんじゃないぞ。まぁ、あんまり根を詰めすぎるのも確かに良くはないんだけどな」

 

「ログハウスに戻ってからも、寝る前に結構勉強してるもんね、フォン…2年後には僕も同じことしてるんだろうな~…」

 

食後の珈琲と紅茶を淹れ(前者は和人だけだが)、明日奈と木綿季が食器を持ってきてくれたところで会話から抜け、食器を水に漬けながら、洗い物の準備を進める。三人は受験勉強について盛り上がっているようだ。

 

「フォンとアスナが受ける大学って一緒なんだよね?」

 

「学部は経済と法学で別れるけど、一部取る授業は被るから、そこだと一緒に講義を受けることになるかもね」

 

「リズも同じ大学で経済学部だったよな。三人とも同じ大学なので狙ってなのか?」

 

「私とリズはそうだけど、フォン君は本当に偶然だよ?進学先を決めたのが最近だったから、同じ大学だって聞いたのも、こっちに帰って来てからだったし」

 

「まぁ、フォンも法律の道に進むのを決めたのは、事件の後だったからね。キリトはやっぱり工学関係?」

 

「ああ。凛子さんや比嘉さん…それに茅場が通ってた東都工学大学に行こうと思ってる。行く行くはラースに就職するか何かして、VR関係の仕事はしたいと思ってるよ。そういえば、ユウキはその辺り、どう考えてるんだ?」

 

「えっと…実はね…」

 

談笑の声が聞こえてくる中、俺は穏やかな雰囲気が流れる三人の姿を眺めていた。6月から一気に色々なことが起こり続けて、変わっていることがあっても、木綿季たちと、みんなとこうやってゆっくりと過ごす時間を見て、元に戻ってこれたような感覚を覚えていた。

 

もう夏も終わるが、また忙しくなるんだろうなと思いつつも、それがどこか待ち遠しいと思っているのもまた事実で…まずは今日のカーディナルにとってALOデビューをなんとかサポートしないと、俺は頭の中で考えていた。

 

 




●原作・ゲーム版との変更点
・ユナイタル・リングに続かないため、ラースやフラクトライトに対し、七色博士が肯定的な意見を出したことで世間の風潮が良い方向へと大きく傾く。
・[スヴァルト・アールヴヘイム」の実装自体はゲーム通りだが、そこに至る経緯に多少の誤差がある。また、それに伴って新生アインクラッドの更新が一時停止。

そういうわけで、七色博士ことセブンが間接的に登場しました。本格登場はもうちょっと先…ではなく、意外な形で近々もう一回登場しますのでお楽しみに(笑)

そして、本章のメインである筈のカーディナル…次回からしっかりと中心となっていきますので、もうしばしお待ち頂ければと…アバターも次回公開&アバターネームも、ある事情で設定することになっております!是非ともご期待頂ければと思います!

あと、キリトさん、PC関連万能説…フォンだとそういうのが(すぐには)できなさそうなので、大変助かりました。ユイちゃんもイキイキと活躍しておりました…年齢差ネタは絶対に外せないと思っての描写でした(黒笑)

他にも色々と仕込んでおりますが、それは後々回収していくってことで…
まずは次回のALOにおけるお話を楽しみにして頂ければと…

それでは!

レイ・ブラドル・ドラニスさん、アオキリアウルさん、さかな96969さん、
ご評価ありがとうございました!

…200…?

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