ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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本話も真面目なお話となります…書いてて、久々にメンタルダメージ負いました…そんなちょっと(?)重いものとなっております。

ちゃんとエンドは迎えさせますので、もうしばし見守って頂ければと。

それでは、どうぞ…!


第5話 「At the time of selection」

「…なぁ、ユウキ」

 

「しっ!…いいから」

 

8月27日…物陰に身を隠すかのように…いや、文字通りそんな怪しい行動を取っている俺は、同じく横にいるユウキへと声を掛けるが、静かにするようにと言われてしまう。

 

困惑する俺をよそに、隣のユウキの真剣な姿に何かを言うこともできず、今していることに戸惑いを覚えてならない…気が進まないのも事実で…どうしてこうなったのか。話は早朝にまで遡る。

 

 

「フォン、出掛けるよ」

 

「…えっ?」

 

突然の提案に、そのことを告げてきたユウキの方を見た。

 

今日は何の予定もないため、ALOのホームでゆっくり勉強していこうと思っていたプランが一気に崩された…それどころか、一体何事か目を丸くしてしまった。

 

「前に使ってた隠蔽重視の装備あったよね?それ、ボクの分も貸してほしいんだけど」

 

「あ、ああ…あれな。いいけど…というか、出掛けるってどこに行くんだ?」

 

「行き先は途中で説明するから…、フォン、早く!」

 

「わ、分かった…!」

 

珍しく強引な態度のユウキに押されるがまま、装備を倉庫からストレージに移し、オブジェクト化する。以前、ユウキと付き合うことになった際、(主に男性)プレイヤーからの嫉妬や怨恨の目を避けるために使った、隠蔽スキルを強化する黒ローブ…予備を併せて二着あり、一つをユウキに手渡す。

 

それを纏ったユウキは何も言わず、家を飛び出してしまい、ともかくあとを追わなければと思い、ローブを羽織りながら俺も家を出た…そして、先を行くユウキを追って着いたのは…

 

(アルン…?こっちの方でクエストを受けるのか?)

 

アインクラッドではなく、アルンか領土関係のクエストを受けるのかと思っていたが、どうやらユウキの考えは違うようだ。

 

周囲を見渡したかと思えば、身を隠すように物陰へと移動したのだ。

 

「…?ユウキ…これは、何をしているんだ…?」

 

「…スニーキング」

 

「…はい?」

 

さっきから行動の意図が読めず、いい加減に理由を教えて欲しいと思い、ちょっと苛立ちが籠った声で尋ねると、一瞥することなくそんな答えが返ってきた。一瞬聞き間違えたかと思ったが、自分たちの行動がそれに合致することに聞き間違えていないのだと理解し、

 

「…なぁ、ユウキ」

 

「しっ!…いいから」

 

…というわけである。

 

真剣な表情で、転移石が設置されている広場を見張るユウキ。理由を聞いても教えてくれなそうだが、そもそもスニーキング自体あまり褒められた話ではない…だって、ストーカーと語源が同じだし…というか、人を尾行する時点でどちらかといえば後者なわけで。

 

そろそろユウキの真意を教えて欲しいと思い、小さい声で問い掛ける。

 

「こんな装備をしてまで、誰を追うんだ?」

 

「……これ。昨日、アルゴさんから買った情報」

 

質問に答える代わりに、ユウキはストレージからオブジェクト化したメモを手渡してきた。それを見て、何かを察しろということなのだろうか。ともかくメモの内容を見ていく…どうやらダンジョンの一覧のようだが…見ていく内に、あるダンジョンの名前が目に止まり、

 

「…まさか、ユウキ。この情報って…」

 

「アルゴさんがあるプレイヤーに売った情報…事情を話したら、そのプレイヤーに売った値段の10倍で売ってもらった。フォンなら分かるよね?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

誰を追おうとしているのかが分かってしまった…しかし、ユウキがどうしてこんなことをしているのかが分からない。

 

(昨日…帰ってきた時には特段変なところはなかったと思ったんだけどな)

 

この行動の大元には彼女が関わっているのは確かだ…そして、ユウキがこんな行動に出たというには、何かしらのきっかけがあったわけだが…その直接的な要因となる出来事らしきことが起こった昨日はそうではなかったのだが…

 

「ねぇ、フォン」

 

「…!」

 

今日、初めてその目が合ったユウキに…思わず息を呑んでしまった。

 

その目は真剣で、俺を試すかのように見ていたからだ。

 

「…フォンは……もしボクが無茶なことを言ったら、どうする?」

 

「無茶って……まぁ、できる限りは応えようとはすると思うぞ」

 

「…それがボクを裏切ることになるとしても…?」

 

「…っ!?」

 

まさかのワードが飛び出し、言葉に詰まる…しかし、ユウキは答えないことは許さないとばかりに、俺の方を睨んでいた。

 

「…それがどんな願いであっても…俺はユウキを裏切らないよ。それだけは確かに言えるよ」

 

「…それが誰かを悲しませても?誰かを絶望させることになっても?」

 

「…それは……ユウキを裏切ることになるくらいなら…」

 

「ねぇ、フォン……本当は気付いてるんでしょ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

核心を突かれた…まさしくその言葉通りだった。

 

ユウキの言わんとすることは…いや、この問答の意味さえも薄々は気付いていた。もしかしたらという考えは頭にはあった…けど、俺の勘違いかもしれないと思っていた部分もあった。

 

いや、正確に言えば、甘えていたのだろう。

 

「フォンには…ちゃんと答えを出さないといけない責任があると…ボクは思う。ボクじゃ…ボクじゃ彼女の苦しみは分かってあげられないから…」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「だから…ちゃんと向き合ってあげて。ボクは…フォンが望む答えを出せるように…しっかりと支えるから」

 

「…それは…」

 

「…しっ。来たよ」

 

話はここで終わりだと…答える間もなく、打ち切られてしまった。彼女の視線がズレた先…転移石に近づく彼女の姿が見え、俺も覚悟を決めないといけないのだと悟る。

 

「行き先の見当はついているのか?」

 

「うん…昨日、こっそりと途中までついていったから。流石にバレる可能性があったから、入り口までだったけど」

 

「なるほど…今回は完全に最後まで追っていくつもりで、この装備を所望したってことか。ユウキ…一応、転移したら隠蔽の魔法も重ね掛けするから」

 

「お願い…ボク、そういうのからっきしダメだから…」

 

昨日からスニーキングしていたことは今は追及しないでおこう…転移石の独特の光が見え、彼女が姿を消したのを確認し、続くように物陰から出た俺とユウキも転移石へと向かう。

 

ユウキ曰く、昨日は猫妖精族の首都『フリーリア』のすぐ近くにある『オルブス・キャニオン』という困難度エリアに行っていたらしい…それは、さっき手渡されたリストにあった『畏符の深森』の一個下に記載されているもので…

 

ユウキの言葉からして、次の行き先は…

 

「…水妖精族の領土…『ネロディファーニ』か」

 

『オルブス・キャニオン』のその一つした…高難度エリア『弧月湖』は、水妖精族の首都である『ネロディファーニ』より少し離れた場所に位置しているようだ。

 

彼女もそこに向かったのだろうと、あとを追うべく、俺とユウキも少し時間を置いて転移石で『ネロディファーニ』へと向かった。

 

 

 

「…本当に来たな」

 

転移後、先回りする形でダンジョンへと辿り着いた俺たちは、少ししてやってきた彼女の姿を確認してホッとしていた…ちなみに、全速力で飛行する形で先回りしたので、既に結構疲れていたりするのは余談だ。

 

隠蔽強化の黒ローブに、隠蔽スキルの上に一番低いとはいえで隠蔽の魔法を重ね掛けしている…音を立てたり隠蔽破りの魔法を使われたりしない限りはバレないとは思う。

 

高難度エリア『弧月湖』…メモによれば、水槽系モンスターをメインとしたダンジョンであり、平均踏破時間はおおよそ1時間半から2時間くらいとある。難易度は『畏符の深森』以下、『オルブス・キャニオン』と同等なのだと、メモには難易度を表わす星が一つと半分ついていた…ちなみに、『畏符の深森』は星四つだ。

 

このダンジョンのやっかいな点は全てのモンスターが水面から襲ってくる…そして、ダンジョンの通路には必ず水辺が接している…つまり、常に警戒しながら進まないといけないわけだ。

 

まぁ、モンスターが姿を消している状態からの奇襲よりはまだマシであり、そもそもモンスターに感知されなければ襲われないため…

 

「…あいつ、いつの間にあそこまで魔法の腕を上げたんだ…?」

 

「うん、凄いね…っていうか、フォンは一昨日一緒に闘ったんじゃないの?」

 

「一昨日は途中からだったし、あの時はリーファとの三人パーティだったから、そこまであいつの魔法を見る機会はなかったんだよ。どちらかといえば、フォローとかをしてもらってた方が多かったから…今、こうして見てビックリしてる」

 

「…どれだけ頑張ったんだろうね…一人であそこまで立ち回れるようになるまで…」

 

少し離れた部分で隠蔽したまま、進んでいく彼女を見ていた俺とユウキ。その目に映るのは、高レベルのモンスター相手に、魔法と杖の殴打術で見事に立ち回っている彼女の姿だった。

 

本当に万が一の場合は、存在に気付かれようとも、正体がバレないように弓矢で援護しようと思っていたのだが…それは杞憂だった。

 

水面から飛び掛かってきた魚型のモンスターは杖で地面に叩き付けた後にファイア・ボールを喰らわせ、遠距離攻撃をしてくるタコ型モンスターにはその攻撃を打ち砕きながら迎撃するための雷系中級魔法『サンダー・ジャベリン』で貫き、数で押してくる群魚モンスターたちには風系中級魔法『トルネード・キャノン』で蹴散らし…

 

彼女のように近・遠距離関係なく闘えるメイジがどれだけいるか…ALOの上級プレイヤーでもそう多くはない。確かに彼女には経験とか知識はあっても…それを別世界でまた積み上げるのはそう簡単な話ではなかった筈だ。

 

(…俺は…あいつの何を知ってやれたんだろうな…)

 

特に苦戦することなく、ダンジョンを進んでいく彼女の背中を見て、そう思うところがあった。いや、話そうとしない姿に甘えて、聞こうとしなかったのだ。

 

…分かっていたはずなのに…そういう性格なのだと知っていたのに…それを知る機会を見てみないフリをしていた。

 

この先を追っていけば、彼女がこんな無茶ぶりをするわけを知ることができるのかもしれない…それは同時に、俺が彼女と向き合わないといけないことも同義で。

 

(…答えは決まってる…それがどんな結果になることも予想がついてる…あとは…俺の覚悟と勇気次第、か…)

 

俺が原因だというのなら…それと向き合って終わらせないといけないのもまた俺なのだ。少なくとも、これ以上、彼女を苦しめることを俺がしてはいけない…それは、ユウキをも巻き込むことになるのだから…

 

(地獄に足を進めるっていうのは、きっとこんな気持ちなんだろうな)

 

これまで何度も死地に足を踏み入れたことはあった…けど、今の気持ちはそれとは違うもので、しかし、それらとほとんど変わらない重さを感じていた。

 

薄暗い地下湖を、僅かな魔法石がもたらす薄緑の発光がその心境を物語っているかのようようだった…それでも、足を止めるわけにはいかず、

 

…最深部へと辿り着いた彼女へと、俺は声を掛けた…

 

「…カナデ」

 

「っ…!フォン…それに、ユウキまで……そういうことか」

 

「悪いな…黙って後をつけるフリをして」

 

ローブを脱ぐと同時に隠蔽スキル・魔法を解除したのもあって、声を掛けられた彼女…カナデはこっちの存在を認識できたようだ。

 

なんかこういうやりとりが最近多いような気がするが、今は置いておこう。

 

苦笑しつつも、こっそり尾行してきたことを謝罪するも、驚いていたのも少しの間で、すぐに落ち着いたカナデはどこか困ったように笑っていた。

 

「昨日、ユウキが途中まで来ておったのが見えておったからな。もしや今日もいるのではと思っておったが…完璧に気配を感じなかったのは、そのローブのせいか?」

 

「まぁな…他にも隠蔽スキルと魔法の重ね掛けもあったけどな…一応自慢の一品の一つだ。前にも色々あった時に使ったから、その性能は折り紙付きでな」

 

ばれてんじゃねぇか、と横目でユウキにツッコミを入れる…乾いた笑いで目線をズラす彼女にそれ以上の追及はしないでおこう…とりあえず、ユウキに諜報の役は向いていないことだけはよく分かった。

 

それはさておき…思考を話へと戻そう。

 

「ただ見ておったのは薄情ではないか?」

 

「それについては謝るよ…けど、助けが必要なら言ってくれと言ったのに、それでも一人で来たのなら、それを言うのは矛盾してるんじゃないか?」

 

「それは痛いところを突かれたの……腕試しと言ったじゃろう?」

 

「…カナデ。そろそろ本音で話さないか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そろそろ本腰を入れて話さなければならない…もう目を背けるわけにはいかないのだ。少なくとも、これから一緒にいる以上、一度しっかりと向き合わなければならない。

 

「…本音、か…わしが何かを隠しておると言いたそうじゃな」

 

「まぁな…お前がここの情報をアルゴさんから買ったって聞いた時点で、おかしいと思ってた。あのアルゴさんが、相手の力量も分からずに情報を売るなんてことはしない。

つまり、お前はここや『畏怖の深森』といった高難度エリアの情報を買ったのは腕試しのためじゃなく、別の目的のためだったんじゃないか?それだから、アルゴさんも情報を売った…お前一人で行くとは思ってなかっただろうから尚更だろうな」

 

「…なるほどのう。昨日、ユウキがわしの行き先が分かったのはそういうことか」

 

「腕試しでもないのに、こんな人が好んで来ない場所に来る理由は何か…お前の中でそうしないといけない理由があったってことだろう…?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「…いくらALOがゲームだからといって、無理が祟れば、それは現実世界にだって影響する。無理に一人で背負う必要はないんじゃないか?」

 

「…お主がそれを手伝ってくれるというのか?」

 

「……ああ。できることはするつもりだ」

 

「…そうじゃろうな…頼めば、お主はきっとそう言ってくれるのじゃろうな」

 

無理に聞き出すのではなく、諭すように聞いてみたのだが…カナデのその姿は、やはり本音を語っているようには見えない。

 

彼女をこっちに連れてきてしまったのは俺だ…その責任を果たすべきなのだ。彼女の願いもできる限りは応えたいと俺は思っている。

 

協力することに是非はないと告げるも、その答えが分かっていたとばかりに笑うカナデの目が…酷く冷たいものに変わった。

 

「そうやって、お主は誰彼構わず手を刺し伸ばすのじゃろう?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

重く、暗く、冷めた色がカナデの目に宿っていた。

 

そして、その目を俺はよく知っていた…知り尽くしていた。

 

…かつては、俺も同じ色を宿していたのだから…

 

何かが…カナデにそんな目を宿させる何かが、今のカナデに突き動かしているのだ。それが後悔なのだということはよく分かった。だからこそ、俺は彼女を放っておくことなどできなかった。

 

「カナデ…お前が何を背負っているのかはまだ分からない。けど、俺はお前にそんな目をしてほしくない」

 

「…それはお主がそう思っているだけじゃろう。わしは今のままで何も問題はない」

 

「アンダーワールドとこっちは違う…もうお前が何かを背負い続ける必要は…!」

 

「そんなことはない!!」

 

「「っ…!?」」

 

今まで一番…聞いたことのない音量のカナデの叫びに、俺とユウキは思わず息を呑む。その叫びこそが…彼女の本心なのだと嫌でも理解できてしまった。

 

「何も終わってなどおらぬ!?何も変わっていない!?わしは…わしが…これはわしが背負うべきものなのじゃ!?誰かに分かってもらう必要もない…わし一人が背負うべき罪なのじゃ…!?」

 

「…罪…?それは…」

 

「…!…もうよい、わしのことは放っておいてくれ!?」

 

聞き捨てならない言葉を拾うも、カナデはもう話すことはないとばかりに、俺たちを通り過ぎて来た道を戻ろうとしていた。

 

あと少し…もう少しだけ話をしなければと、カナデの腕を掴もうとするも…

 

「…っ!?」

 

涙を流す彼女の顔を見て気持ちが鈍った挙句、動きが止まってしまった。その一瞬が致命的だった…掴もうとした腕は空を切り、カナデの姿が遠くへと消えていくのを…俺は見ていることしかできなかった。

 

「…追わないの?」

 

「………分かってて聞いてる時点で酷いな…分かってるだろう…」

 

放っておけないとは分かっているが、ユウキの前でそんなことができる筈がない。責めるようなものではなく、本当にそれでいいのかと優しく問い掛けるユウキの言葉に…俺は苦笑しながら答えた。

 

その笑みが本音を隠したものだということは、ユウキにもバレているだろう…笑ったのはただの強がりだ。その隠した心の中で、俺は自分を殴ってやりたくなっていた。

 

こうなることは予想が出来ていた筈だ、そうなることを理解していたからこそカナデと話すべきだったのだ、しっかりと向き合って背負うべきだと分かっていた筈だ…なのに!

 

言うべきことも言えず、カナデを苦しめるだけ傷つけて、何も向き合えていない今を作ってしまった俺の…覚悟を決められない不甲斐なさを感じられずにはいられなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

…爪が手のひらに食い込むほど握り占めた拳は、何も掴むことができなかった虚しさだけを握っているように感じられた…

 

 

 

「…戻ってきたね」

 

「…だな」

 

いつまでもダンジョンの奥にいるわけにもいかず…呆然としていた俺は、ユウキに連れて帰られる形で22層のログハウスへと戻って来ていた。

 

今すぐにカナデを探しにいくべきだと頭では分かっていても、会ったところ伝えなければならない言葉を言う覚悟と勇気が定まっていない今、さっきの繰り返しになるだけとも分かっていて…

 

「…これからどうするの…」

 

「どうする、か………どうするべきなんだろうな」

 

「フォン…さっきカナデを追う前に聞いたよね、気付いてるよねって…」

 

「……ああ」

 

ユウキの言うそれは、カナデを追跡する前にした会話のことだろう。誤魔化しが効く訳もなく、俺は素直に答える。

 

「…ユウキは知ってたんだな…」

 

「…アンダーワールドで初めて会った時に、カーディナルが教えてくれたんだ。フォンには伝える気はないって…だから、ボクも言うべきじゃないって黙ってた」

 

「…そっか」

 

立ったままだが、沈黙がその場に浸透するかのように気まずい空気が流れていた。重たい雰囲気だったが、言わないといけないことは分かっていたため、俺は口を開いた。

 

「…俺が気付いたのはリーファに言われた時だ…いや、薄々もしかしたらと勘付いてはいたんだと思う。あれだけキリトたちの関係を見てきたから…なんとなくカナデの視線とか態度にそれを感じてはいたんだ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「思い起こしたらさ、アンダーワールドでもそういうことに繋がることがあってさ…あの時は俺も自分のことで一杯で…だから、カーディナルが映現世の剣の封印に就いたって聞いた時、嫌な思いがしたのも…もしかしたら、心のどっかで気付いていたからかもしんない」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

俺の独白をユウキは黙って聞き続けていた…その目は、背けることなく俺の目を見続けていた。

 

「…自惚れかもしれないけど、カーディナルが俺に好意を持っていることにさ…気付いてたんだ。けど、それと同時にこのままの関係でいることを…卑怯だけど望んでた」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「…酷いよな?最低だよな?…俺もそう感じてる。言い訳もしない…もしかしたら、キリトたちみたいな距離感が保てるじゃないかって…勝手に期待してさ…本当に最低だ…」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「分かってた筈なんだ…このままの関係でいることがよくないってことは。あいつに向き合わないと…ちゃんと告げないといけないって…分かってた筈なんだ……だけど、俺の心が弱かったから、またカーディナルを傷つけた…今の俺が会っても、もっとあいつを傷つけることになる…」

 

「それじゃあ……それじゃあ、そうやってカーディナルから逃げるの?それは…」

 

「…同じことだよな…目を背けることも、このままでいることも…何も変わらないよな」

 

やることは決まってる、選ぶべき道も理解できている…それが彼女を傷つけることになることも分かっている。

 

こうするしかないのだ…それが正しい選択だと…人としてあるべき姿なのだと分かっているのだ…けど、それでも…短いながらも、一緒に過ごしてきた彼女の顔が脳裏に映る…その笑みを曇らせることに迷いが生まれる。

 

人間としては感じて然るべき感情なのだろう…俺を想ってくれている人の、その想いを振り切る怖さが、辛さが、虚しさが…ここまで大きいものだとは思ってもみなかった。

 

(…でも、そうするしかないんだ)

 

終わらせないといけない…ここまで引っ張り続けてきたからこそ、俺から終わらせないといけないのだ。どんなに恨まれようとも、傷付けることになろうとも…それを背負う責務が俺にある。

 

「………!」

 

迷っている暇などないのだ…今もこうして、カーディナルを苦しめていることには変わりないのだ。行かなければと、迷いを振り切るように足を進めて家を出ようと…

 

「…バッカじゃないの!?」

 

「っ!?」

 

そんな一言が木家の中に響き、動き出そうとしていた俺の体を硬直させた。ここには二人しかおらず、俺でなければ声の主などもう一人でしかない筈で…

 

我慢の限界とばかりに怒気を露わにしたユウキのその姿に、俺は何も言うことができず、目を彼女の方へと向けることしかできずにいた。

 

「何が分かってるの!?何が最低なの!?このままでいたいって思う気持ちの何が間違ってるの!?」

 

「それは…ユウキが嫌な思いしかしないだろう…」

 

「…それだよ…そうやって、フォンは理由をつけてるだけでしょ!どうしようもないって、仕方ないっていう理由があるからって、逃げる理由にしてるだけじゃん!?

カーディナルの想いに向き合ってるんじゃない…想いを別の方向に捻じ曲げて、自分に言い聞かせてるだけだよ!?何も解決してない、誰の為にも答えてなんかない…それこそ最低だよ!?

正しさを武器にしないで!しょうがないからってあきらめないでよ!?…ボクのことを理由にして…カーディナルのことを見捨てないあげてよぉ!?!?」

 

「…っ!?!?」

 

その言葉が…俺の中の何かをぶっ壊したような気がした。

 

肩で息をするユウキのその姿に…俺は何一つ反論することができなかった。それどころか、受けて入れてしまっていた。

 

…カーディナルのことを何も見ていない、向き合っていない…理由をつけて目を背けて逃げているだけだと…本心を撃ち抜かれたかのような衝撃を受けていた…

 

「ボクの好きなフォンは…そんなことはしないフォンだよ!言ったでしょ!?フォンが迷う時や折れそうな時はボクが支えるって!?なんでも、一人でしようとしないでよ!一人で答えを出そうとしないでよ……ボクのためでも、全部を一人で背負うとしないでよぉ!」

 

「…ユウキ…」

 

今にも泣きそうな表情で、しかし、真剣な顔で俺を見つめるユウキに…自分の情けなさに本当に嫌気が差す。苦しみや怖さを打ち明ければ…彼女は受け止めて、支えてくれると分かっていたのに…無意識の内にそれを避けてしまっていたのだ。

 

…最愛の人がここまで覚悟を決めてくれているのだ…

 

ここで俺が覚悟を…勇気を出さないで一体いつ出すというのか…

 

「…そうだよな、そうだったよな……ありがとう、ユウキ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「…目が覚めたと思う。そうだよな…ユウキを、あいつの気持ちから逃げる理由にしちゃいけないよな。あいつの気持ちには…俺でないと応えられないんだから…」

 

「…うん。分かった?」

 

「ああ……よし!!」

 

背中を蹴っ飛ばしてもらったのだ…今度こそ、覚悟は決まった。ならば、やるべきことは一つだ。そう思い、今度こそ家を飛び出そうと…

 

「待った!」

 

「ぐえぇ…?!」

 

二度目は背中の服丈を引っ張られる形で止められ、思わず空気が詰まって変な声が飛び出た。咳込んで涙目ながらにいきなり引き留めたユウキを睨む…一体どうしたというのか、そんな思いと共に見ていた彼女は、深いため息を吐いていた。

 

「はぁぁぁ……フォン。人の話、聞いてた?」

 

「…?いや…どういうこと…?」

 

ユウキの言っていることが理解できず、首を傾げる。そんな俺の態度に、ユウキはますます困ったような表情…というか、やれやれといった様子を見せていた。

 

「言ったでしょ…全部を一人で背負いこまないでって?」

 

「それは…確かにそう言ってくれたけど……それがどうかしたのか?」

 

「そして、こうも言ったよね?『ボクはフォンが望む答えを出せるようにしっかりと支えるから』って…覚えてるよね?」

 

「…(コクッ)」

 

あの時、そう告げられたことを思い出し、素直に頷く。それを確かめたユウキは、息を大きく吸い…自分も覚悟を決めたように口を開いた。

 

「フォン………覚悟はある?それがどんな茨の道になるとしても…それでも、カナデと…ボクの笑顔を守りたいっていう覚悟が…どんなことになろうとも揺るがない覚悟を、ボクと背負ってくれる?」

 

「…どういう、意味だ…?」

 

「…それは…」

 

ユウキの放ったその言葉に…俺は思わず目を丸くした。

 

そして、覚悟を決めたユウキのその意志が本心なのだと理解できてしまった俺が返した答えは…

 

 




重たい話が続きますが、次回のお話である程度の姿は見えてくることになるかと…そういうわけで、次回はカーディナル視点での話をお届けします!

ユウキとの話や、カーディナル視点からのフォンがどう見えていたのか、そして、次々回へと繋がるお話ともなりますので、ご期待頂ければと思います。

それでは!

…200…?

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