そういうわけで、カーディナル視点でのお話です。アンダーワールドから、前話に至る話までを描いていきます。ユウキが訪れた際の話や次回へと繋がるお話やら…詰め込んだお話となっております。
それでは、どうぞ!
…最初にあやつのことを見た時…わしは、イレギュラーな存在にある可能性と危険を覚えていた。
突如として、アンダーワールドに現れた二人の人間…最初は間もなく訪れるであろう最終負荷実験のため、ラースより遣わされた者共かと思ったが、その予想は大きく外れておった。
しかし、わしが知る限りの知識に存在しない大剣を持つフォンのことは注視していた…それこそ、シャーロットにずっと張り付いておくように命じるほどにじゃ。
シャーロットを通して見るあやつらの行動は見ていて飽きるものがなかった…ユージオに与える影響、腐った貴族たちに反感する姿勢、そして、禁忌目録への疑念を持つ姿…あやつらがセントラル・カセドラルに連行されることを知った時、わしはあやつらに接触することにした。
『……君は何者なんだ?』
『わしの名はカーディナル。そう言えば、少しは納得するか?』
いきなり自分たちに助けの手を差し伸べたくれたのはいいが、正体が分からぬわしを訝しむあやつらの顔は…それだけは今でもよく覚えておる。
そこから、わしはあやつらにアンダーワールドの真実と、アドミニストレータの野望を告げた。わしの見込み通りであれば、あやつらの協力を得られるのでは…そんな私心があったのも事実で、この機会を逃すべきはないと思っておった。
…じゃが、わしはあやつらのことを…いや、フォンのことを甘く見て…そうではないな。あやつのことを理解できていなかったことを痛感させられた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
最終負荷実験の真実を聞いたフォンは…隠すことなく、憤怒をその身から出しておった。怒りを堪えきれずに噛み切った唇から垂れる血を気にすることなく、憎悪までもが入り混じった目をしたあやつを見た時、思い知らされたのじゃ。
わしの見立てが間違っていたと…この者とキリトは信頼できる人物なのだと。
創造神を気取ったラースの行いに怒り、この世界に生きる者たちのことを思ってくれるこやつらになら、わしは背中を預けられると思ったのじゃ。
これで終わりにできる…背負ってきたものを終わらせられる…そう考えておったわしは、
『…必ず見つけてみせるよ…こんな絶望しか待っていない世界にも、何か方法があるってことを…その答えをさ』
『あまり期待せずに待っておるよ。もう期待するのには疲れてしまったからな』
セントラル・カセドラルへと突入する直前、わしの提示したプラン…全てが終わった後にアンダーワールドをリセットすることに対する考えをフォンが述べたのに、言葉通り、あまり期待はしておらなかった。
そこからのあやつらは整合騎士たちを破り続け、順当にセントラル・カセドラルを登り続けた…じゃが、忠告したというのに、フォンの奴は映現世の剣の力を迷うことなく使い続けよった。
反動があるにも関わらず、自らの身を省みないそのやりかたは…わしからすれば、死に急いでいるようにも見えた。
イーディス・シンセシス・テンをも破ったところで、限界が訪れたフォンを介抱している中、眠るあやつを見つめながら不安を覚えておった。
こやつらに協力を願ったことで現状を作ってしまった今、こやつらにもしものことがあった場合、それはわしが殺したも同然なのだと…そうさせてしまっているのも同義なのだと…わしを、プログラムではなく、まるで一人の人間のように接してくれながらも、回復し切っていないその身体を無理矢理に動かし前に進もうとするフォンに、わしは思わず声を掛けてしまった。
『わしがお主にも死んでほしくないと思っていてもか!?』
『っ…!?』
わしの言葉に驚いたように目を見開くフォン…その視線がわしに刺さる。その視線に応えるかのようにわしの口からは言葉が続いて飛び出す。
『お主もキリトも…!わしの中では死んでほしくないのじゃ!わしのこんな使命のためにお前たちが犠牲になる必要はないのじゃ!だから…!』
『死なないよ』
『…っ!?』
じゃが…わしの思いを汲み取ってか、それとも、本当にそう思っているのだと言わんばかりに、柔らかな笑みと共にフォンが告げたその言葉に驚く。
『俺は死ぬ気はないし、キリトたちも死なす気はない……そして、貴女を犠牲にする気もない。この手が、剣が届くなら…俺は助けたい。だから俺は…行くよ』
『約束するのじゃ…もし危険だと思えば、わしとの約束など忘れて逃げるのじゃと…短剣を使ってしまったお主にこれ以上、わしがどうこうしてやることはできぬのじゃからな』
『…分かった』
そう言われてしまっては…わしからそれ以上、どうこう言うことなどできるわけもなく…上階へと向かったフォンの姿を見送り、言葉にできない思いに襲われたわしは、その思いを振り払うように大図書室へと戻った。
そして、最上階に辿り着いたあやつらを待っておったのは、民の命を元に造られた「剣の巨人」じゃった…そして、フォンたちを救うべく、こっそりとあやつらについておったシャーロットの力尽きた姿じゃった。
…わしにとって、シャーロットは特別じゃった…
孤独であったわしの話し相手で、わしの存在を知る唯一の味方で、外に出られぬわしに様々なことを教えてくれた。
言葉に表すのなら、その関係は主従関係などではなく…友と呼ぶべきものだった。フラクトライトを持っていなくても…わしにとって、シャーロットはこの世界における唯一の存在じゃった。
『すまない…俺たちを助けるためにシャーロットは…』
自分たちの力が及ばずに…そう言わんばかりに悲しみの表情を向けるフォンの言葉に、わしは表面上を取り繕って答える…しかし、わしの表情を見たフォンの眉が更に顰められていた。
その思いをそれ以上出すまいと、わしはアドミニストレータへと意識を向けた。今日で全てを終わらせるのじゃと…わしは、もう一人の自分と闘おうとした。
…しかし、わしに待ち受けていたのは、ソード・ゴーレムが民の命を引き換えに造られたという、衝撃の真実じゃった…
カーディナル・システムの一端であるわしにとって、アンダーワールドに住むものたちの命を奪うことはタブーに該当する。
全ての選択肢を奪われたわしは…覚悟を決めた。
自らの命を犠牲にフォンたちをアドミニストレータの脅威から一時的に逃す…あやつを倒せるかもしれぬ希望を守らなければと、その身を差し出そうとした。
アドミニストレータ…クィネラはその取引を呑み、わしをいたぶるかのように神聖術を繰り出してきた。楽には死なせない…わしの苦しむ姿を楽しむかのように、次々と神聖術を発動させるクィネラ。
神聖術を受け続け、もう立っていることもできなくなったわしに…クィネラの勝利を確信した言葉が降りかかる。
『さぁ、そろそろ終わりにしましょうか?さようなら、リセリス…さようなら、私の娘…そして…もう一人の私!!』
その言葉が耳に届いた瞬間、わしは静かに目を閉じた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
しかし…いつまで経っても、衝撃はやってこず…何が起こっているのかと、ぶつかりあう光を感じていた瞼を開いた時、
『何が愚かだ…何が滑稽だ…!俺からすれば、アンタの方が愚目だ!』
わしの眼前にいたのは、映現世の剣の武装完全支配術によってクィネラの凶攻を食い止めていたフォンじゃった。
…どうして?…なぜ?…
わしは困惑するしかなかった…あやつが命を張って庇ってくれていることの意味が理解できず、逃げるように告げるも…あやつはその言葉を聞き入れず、
『お前が死んだら、俺たちがなんとも感じないと思ったのか!?お前にだって、見たい未来やもっとやりたいことがある筈だろう!?あの図書室で見せた涙はお前の本心だった筈だ!…だから…お前が誰にも頼れないっていうのなら、俺が守ってやる!…この世界を愛するお前をこんなところで死なせてたまるか!?俺がお前の未来を切り開いてやる!!』
こんな結末は認めない、あってたまるかと言わんばかりに、フォンは逃げるどころか、覚悟を決めたかのように…その力を解き放った。
『リリース!!……リコレクション!!!!!!』
そして…激闘を終え、フォンとキリトの二人は力を合わせ、遂にクィネラを追い詰め…致命的な一撃を喰らわせた。ユージオとキリトにそれぞれ両腕を斬り落とされ、フォンによって胸に風穴を空けられながらも、奴はしぶとく顕在していた。
しかし、その命も風前の灯火となった今、わしは存命を理由にやつに管理者権限を引き渡すように迫った。じゃが、あやつはそれを良しとせず、最後の足掻きを…わしにとって、絶望を与える策としてその命を断った。
『お前に管理者権限を渡せと…この私に生き恥をさらせと…?……いいわ…はっきり言ってあげるわ……そんなのはまっぴらゴメンよ…!』
『さよなら、おチビちゃん…滅びく世界を前に絶望しなさい!何もできない無力に打ちひしがれ、後悔しなさい!!アハハハハ!アハハハハハハハハハハ!?!?』
今でも…クィネラの最期の言葉は頭に残っている。
その言葉がどこまであやつを体言しているかのようで、そして、その言葉を受けたわしは…完全に心を折られることとなった。
終わりにするはずが、その手段を失い、大事な友までも失い、できることすらもなくなったと思ったわしは、
…もうよいのじゃ……もう、疲れてしもうた…
そう思ってしまった。その思いが言葉として口に出てしまった…そんなわしに、フォンの叱責が飛んできた。
『できることが…やるべきことがあるなら、最後の最後まで足掻け…生きろ!!』
その目はどこまでも真剣で、わしを想っての言葉だということが見てとれた。プログラムでも、フラクトライトでもなく…わしを一人の人間として、真剣に想ってくれているその姿と言葉が…あの時、わしを救ってくれた。
…今、思えば…あの時だったのじゃろう。わしが無意識の内に、フォンへと好意を抱くようになったのは。
最初は…フォンがくれた言葉が支えてくれたと思っておった。もしかすれば、自分の気持ちに気付かないようにして、見ないふりをしようとしておったのかもしれぬ。
じゃが…ダークテリトリーとの戦争が始まり、窮地に陥ったわしを…またしても、じゃが、記憶を失っているにも関わらず助けに来てくれたフォンの行動と、庇って倒れたその姿に…わしの頭は真っ白となった。
今までにない怒りが理性をも忘れさせ、右目が吹き飛んだことなど全く気にならなくなる程…わしの心が振るわされた。
…わたしはフォンが好きなのだと…「愛」という感情を初めて理解し、認識した…
でも…その想いに気付いたわしに、厳しい現実が突き付けられた。
フォンを追って、アンダーワールドへとダイブしてきた者…錯乱するフォンを心配するその姿は、彼女がフォンとどういう関係かを分からせるには充分過ぎた。
じゃが…あやつの…ユウキの存在を知って、わしはどこかホッとしたのじゃ。
わしとフォンには超えられない壁がいくつも存在する。
生きる世界も、その寿命も、立ち位置も…全てが違い過ぎた。
だからだろうか…ユウキの存在が羨ましくも思えた。
リアルワールドのフォンのことを話すその姿も、記憶を取り戻したフォンと共に戦場に降り立ったその姿も、激闘を終えたフォンに肩を貸すその姿も…
全てが羨ましく思えた…そして、そう思う自分を最低だとも思った。
そんなわしに…わしの想いをも知っている筈のユウキが優しくしてくれる理由が分からなかった。どこまでもわしのことを気遣ってくれるあやつの言動が理解できずにいた。
『ねぇ、蓮…カーディナルには僕たちと一緒にいてもらうっていうのはどう?』
『『…えっ…?』』
まさかの事態…意識を眠らせていたわしが、何故かリアルワールドへと来てしまった際に、あたふたするわしらへと、ユウキがそんな提案をしたのじゃ。
ユウキは分かっている筈なのに…どうしてそんなことを言い出したのか。どうして、わしのことを避けようとしないのか…表面には出さずとも、わしはユウキの考えが読めずに困惑しておった。
そんな日が続くかと思っておった矢先…突如として、ユウキがやってきた。
『ねぇ、カナデ。今日、カナデが借りている部屋に泊めてくれないかな?』
ALOのわしが泊まっていた宿を訪れたユウキのそのお願いを、わしは断ることができなかった。断る理由がないというのもそうだが、笑顔のわりには引き下がる気はないあやつの気迫に押されてしまったのもあったと思う。
フォンと喧嘩でもしたのじゃろうかと思ったが、そんな素振りは見せず、わしに用があったとしても、わざわざ泊りに来る理由が分からなかった。
個室だったこともあり、ストレージに入れて持ってきていた寝袋を具現化させたユウキを観察しながら、わしはユウキが泊まりに来た意味を考えていた。
「…それで。一体何をしに来たのじゃ?」
どう接したらいいのか困り、ともかく話題を提示すべきかと思い、寝間着に装備を換えたユウキにそう問い掛ける。
薄い紫色の斜めストライプ状のドット模様が入ったそれに身を包んだユウキは、備え付けの椅子へと腰掛け、わしの方をジッと見てきた。
すぐに答えを返すことはなく、ジッとわしを見つめるその目は…何かを見定めるかのように、しかし、嫌悪感を覚えるそれではなく、わしも逸らすことなくその視線へと目を合わせた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
時間を数えることも忘れ、いつまでも続く沈黙が終わらないのではと思っていると…やっと口を開いたユウキは笑顔と共に応えてくれた。
「カナデと話をしに来た…それだけだよ?」
「…話、じゃと…?」
「…うん」
話をしに来た…ただそれだけをしに来たのだというユウキの言葉に、思わず牙を抜かれたような思いだった。身構えていた時間は何だったのかと思う程だが、そんなことなどお構いなしなユウキは、わしが知っているものとはまた違う柔らかな雰囲気を纏っていた。
「カナデはさ…フォンのことが好きなんだよね?」
「…な、何を今さら…それはお主も「答えて」…っ…!それは…あの時、言ったように…そうじゃよ」
答えないことは許さない…その気質が混じった言葉に遮られ、はっきりと言わされることになり、わしは思わず目を逸らしてしまった。
ユウキの目を見る強さがわしにはない…いや、フォンやユウキの優しさを受ける権利も本来であればあるべきはないのではと思っていたのもあったと思う。
しかし、ユウキは怒ることも、拒絶することも…以前と同じような態度のままだった。
「そっか…ねぇ、カナデ。もしもだよ?もし、フォンがいなくなるって知ったら、カナデならどうする?」
「…っ?!」
話の流れが見えないことよりも、尋ねられた質問の内容に驚き、思わず息を呑んだ。ユウキが放ったその問いの真意は図り取れず、どう答えたらいいか分からず言葉に詰まった。
「ボクはね…フォンがいなくなったらなんて想像したくもない、そんなことになったりしたら…またひとりぼっちになったりしたらって考えたら…どうなるかなんて分からないと思う」
「…じゃが、フォンはお主の前からいなくなったりなどしないじゃろう?あやつがそんな無責任な人間ではないことはおぬしが一番分かっておるではないか?」
「…うん。でも、それがフォンの意志とは関係ないとしたら?」
「……ユウキ。すまぬが、もっと分かりやすく言ってくれるか。おぬしが言っているのは…」
まるで、フォンがこの世界から消えてしまう…そう言っているように聞こえてしまうのだ。それが冗談ではなく、本気でそう思っているかのように聞こえるのだから、わしは困惑するばかりじゃった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
対するユウキも、珍しく言葉に迷っているように見えた。
言いたいことがあっても、どう伝えるべきか…迷っている内に、なんとか言葉を見つけたのか、ユウキは口を再び開いた。
「えっと…カナデから見て、フォンってどんな風に見えてる?」
「…また話が飛んだのう。そうじゃのう………最初は死に急いでいるように見えた。人の為なら、自分の身体や命など二の次と言わんばかりのお人好しかという印象が強かったのう」
「カナデ…結構ストレートに言うね。まぁ、間違ってはないんだけど…」
「…それと、優しくて頼りたくなる…不思議な感じがする者じゃな。見ていて飽きないというべきか、見ているのが疲れるとも評するべきなのか……その本質が分かっていながらも、いつも変化し続けているように感じるというべきなのかのう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
三度、話が終わる前に話題が変わったことに戸惑いつつ、フォンに対する印象とやらを答える。それを聞き終えたユウキはまた考え込んだかと思えば、今度はすぐに口を開いた。
「…ボクはね、カナデ…多分、フォンは自分のことを省みない性格は直らないと思ってるんだ。自分を大切にしてほしいとは思うけど、いざという時には自分を捨てることを厭わないじゃないかって思うんだ…良くも悪くもね」
「…それは…確かにアンダーワールドの時にもそういった行動が見受けられたが…それがどうかしたというのか?」
「…だから…フォンが望まないと望まなくても、いつかフォンが消えちゃう事態が訪れることになるんじゃないかって…今回の件を通して思ったんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それとね…カナデがフォンのことを好きって知った時ね。嫌だなと思いながらも、ちょっと嬉しいと思っちゃったんだ」
「…はっ…?」
今度は変な声が出た…理解が及ばないというのではなく、ユウキの言ったことが信じられないという意味での驚きからだ。
「いつかさ…本当はそんな時がやってきてほしくはないんだけど…それでも、どうしてもそんな時がやってきた時に…ボク一人じゃフォンを紡ぎ止められないじゃないかとも感じちゃったんだ。
カナデがフォンのことを好きって聞いた時…どうしようかと思った。カナデが気持ちを伝えないと分かって、ちょっとホッともした。でも、併せて自分に嫌気も差した。
でも、映現世の剣のことをフォンから教えてもらって…カナデがこっちの世界にやってきた時に思ったんだ…ボクの他に、フォンのことを想ってくれている人がいたらって…
悪い言い方をすれば、カナデを利用するみたいな形になるとも思ったよ。でもね…それでもボクにとって、フォンはもう切っても切り離せない人なんだ。フォンがいない世界なんて考えられないぐらい…大事な人なんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…重たいかな?アスナほどじゃないけど、それぐらいに、ボクはフォンのことを想ってる。それぐらい思わないと、フォンの手を掴めないと思うんだ」
「…ユウキ……おぬしは何を恐れておるのじゃ?おぬしは何を知っているというのじゃ…」
ユウキなりに考えを伝えようとしてくれたのじゃろう…それをなんとなくとはいえ理解したからこそ、避けられている話題へと切り込む。その部分を知らなければと思い、尋ねたのじゃが、
「……ゴメン、それは…」
「おぬしの口からは話せぬ、とのことか…」
「…どうしても…フォンが話さない限りはダメだと思うから…」
「…そう、か………そういうことなのじゃな」
フォンの秘密をユウキは知っていて、わしは知らない…その事実がチクリと胸に刺さった。ユウキが悪いわけではないと分かっていても、そう感じられずにはいられなかった。
「…おぬしはわしに何を望むのじゃ…わしの気持ちも考えも分かっていながら、どうしてここまでするのじゃ?」
「…さっきも言ったけど、ボクなりにできることを、って思ってるだけだよ。それに…」
その部分だけは答えてもらわなければと思い、そう尋ねると…苦笑い交じりの返答がユウキから返ってきた。
「身近で見てきたせいなのかな、そういうのに慣れちゃって。それと、ボクもカナデのことは好きだから…もちろん、家族や友達の意味としてね。だから……放っておけないんだと思う」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
恋敵にも等しい自分を、友と呼んでくれるユウキの言葉にわしは閉口する他なかった。そこまで譲歩してくれるユウキの本心は結局汲み取れず、話は終わりだという形でユウキは世間話へと話題を移した。
そのまま眠くなるまで二人で話し続けたが、わしの中ではなんとも言えない感情が渦巻いていた。
…だから…あんなことになってしまったんだと思う。
「…カナデ」
「っ…!フォン…それに、ユウキまで……そういうことか」
『弧月湖』と呼ばれているハイエンドレベルエリアの最奥へと辿り着いた時、背後から聞こえてきたその声に振り返ると、気配のなかったところから姿を現したフォンとユウキが見え、思わず納得してしまった。
どうやら魔法だけでなく、スキルや装備をも併用して尾行していたようじゃ。やはり、そういった知識や道具という面では、まだまだ知らぬ部分があるじゃと思いながら、フォンの説明を聞いていた。
「ただ見ておったのは薄情ではないか?」
「それについては謝るよ…けど、助けが必要なら言ってくれと言ったのに、それでも一人で来たのなら、それを言うのは矛盾してるんじゃないか?」
「それは痛いところを突かれたの……腕試しと言ったじゃろう?」
「…カナデ。そろそろ本音で話さないか?」
思考が落ち着きを取り戻したところで、思わず棘のある言葉が出てしまった。こっそりとつけられていたことに対してか、それとも、昨日のユウキとの話から生まれた感情に答えがでていないことにか。
責めるような物言いに対し、謝罪しながらも返す言葉で反撃されたことで笑みが零れた。そして…先日と同じような建前を述べる。しかし、フォンはそれを見透かしているとばかりに、本音で話すように告げてきた。
「…本音、か…わしが何かを隠しておると言いたそうじゃな」
…強がりだった…誰にも知られたくない、抱えているこの思いを知られるわけには…私が背負うべきものなのだと…虚勢を張った。
けど、フォンは見逃してくれない…むしろ、手を差し伸ばしてくれた。
「…いくらALOがゲームだからといって、無理が祟れば、それは現実世界にだって影響する。無理に一人で背負う必要はないんじゃないか?」
「…お主がそれを手伝ってくれるというのか?」
その言葉に…思わず話そうとしてしまった。
フォンならば、確かに力になってくれるのじゃろう。
でも…それはフォンが優しいからだ…
「……ああ。できることはするつもりだ」
「…そうじゃろうな…頼めば、お主はきっとそう言ってくれるのじゃろうな」
フォンは誰にでもそうするのじゃろう…知り合いや仲間、友人…困っている彼らに手を貸すことは、フォンの中では当然なのじゃろう。
フォンにとって、わしは仲間の一人…特別などではない。フォンだって…わしに何かを想ってくれているわけではない…!仲間として大切に思ってくれているだけなのだと…
あやつの隣に立つユウキと、あやつと向き合っている自分…あやつを想っていることは変わりない筈なのに、どうしてこうも違うのかという声が頭に響く。
…だから…その心を言葉にするかのように、口が動いた。
「そうやって、お主は誰彼構わず手を刺し伸ばすのじゃろう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
…ここまで冷たい声をするつもりじゃなかった…でも、自然と出てしまったのがその声色だった。
言われたフォンは驚き、その目が揺れている様に見えた。そして、その目に悲しみの色を宿しているようにも思えた。
「カナデ…お前が何を背負っているのかはまだ分からない。けど、俺はお前にそんな目をしてほしくない」
「…それはお主がそう思っているだけじゃろう。わしは今のままで何も問題はない」
それでも…何とか言葉を交わそうとするフォンの言葉を拒絶するかのように返していく。
…違う…本当はこんなことを言いたいわけじゃない。
でも、感情に従った声は止まってくれず、諦めようとしないフォンの言葉に、わしは思わず叫んでしまった。
「アンダーワールドとこっちは違う…もうお前が何かを背負い続ける必要は…!」
「そんなことはない!!」
「「っ…!?」」
もういいと、もうわしを放っておいてくれと…フォンの優しさも、ユウキの気遣いも…どれもが今のわしが享受してはならぬものだと心が叫び、言葉が続いてしまう。
「何も終わってなどおらぬ!?何も変わっていない!?わしは…わしが…これはわしが背負うべきものなのじゃ!?誰かに分かってもらう必要もない…わし一人が背負うべき罪なのじゃ…!?」
…これは八つ当たりだ…そう分かっていても、限界だった。
言わないでおこうとしておったことまでも言ってしまい、我に返ったわしは二人の前にいるべきではないのだと、その場を去ろうとした。
「…罪…?それは…」
「…!…もうよい、わしのことは放っておいてくれ!?」
話はまだ終わってないと、行こうとするわしの腕を掴もうとしたフォンの動きが止まった。わしの顔を見て、ショックを受けたようなその表情を垣間見ながら、わしは来た見た道を走り抜けた。
走りながら、自分が涙を流しているのだと気付いた時…わしは自分がしたことに最悪な気分を感じていた。
フォンは真剣に話そうとしてくれたのに…わしはそれから逃げた。いや、正確にはその先を聞くのが怖かったのじゃ。
自分が否定されるのを…自分とあやつでは同じ道を歩めないのだと…受け入れる勇気が、わしにはなかった。
…わたしは…フォンと向き合うのが怖くなっていた。
…こんな思いをするのなら、こんな感情を知りたくなかった…
…傷つくことが分かっていたのに、少しでもと希望に縋った自分を恨み、これが罰だと言わんばかりの現状に、わたしは折れ掛けていた…
…それでも…これだけは為さなければと…あの娘にふさわしい場所だけは見つけなければと…それがわたしが償うことができる唯一のことだと、なんとか心を奮い立たせ、リストのダンジョンへと挑んでいた…
…わたしはフォンが好き…
…けど、フォンはユウキのことを愛している…ユウキが特別な存在だ…
…だから…フォンの答えは決まっているはずだ…
…ならば…わたしは二人の近くにいるべきではないのだ…
(一人でいることには慣れておる…ネットに生きるわしなら、どこへ行ってもなんとかなるじゃろう)
このまま消えることが最善手なのだと…そんな考えを頭のどこかでしながら、最後のダンジョンを攻略していく。
…けど…現実はわたしの想像を超えるように…ううん…彼はまたしてもその想像を裏切る形でわたしの前へと姿を現した。
「………カナデ」
「…フォン…」
ダンジョンの最奥…わしが来るのを待っていたかのように、到着していた先客がわしの気配に気付き、振り返った。
…以前はとてつもないタイミングで姿を現したが…今回ばかりは最も会いたくない最悪なタイミングでの邂逅に…わたしは逃げることは許されないのだと悟った。
それならば…この関係に終止符を打っていなくなるべきなのだろうと…わしは、フォンと対峙することを選んだ。
…例え…わたしの気持ちをフォンに受け止めてもらえることがないと分かっていても、この関係を終わらせられるなら…なんとかこの時間をやり過ごすべきなのだと…わたしは考えていた。
…だって……わたしに幸せになる権利なんてある筈がないと…わたし自身が分かっていただ。
今回、一人称がバラバラだったのはご察しの通り、ワザとです(苦笑)
『…』から始まったりする地文や口調が変わっているようなところも含めて、カーディナルの本音が出ていた部分になります。
そういうことで、次回で大詰めとなります!
多分、久々にとてつもなく長くなるのではないかと…直近の予定がどん詰まりしているので、来週お届けできるか確約できませんが、また何かあったらtwitterでご連絡させて頂ければと…
もう何を言ってもネタバレにしかならないので、詳細は伏せさせていただきますが、サブタイは大まか決めております(というか、二つ候補があって滅茶苦茶悩んでいるわけで…)ので、次回更新にご期待頂ければ幸いです。
それでは!
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