ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

206 / 292
そういうわけで、ユウキ編開幕です!
序盤から結構真面目なお話です…というか、前置きがまぁ長い(苦笑)後々のお話で触れることもあって、フォンの工房である『ファントム・クラウド』についての設定やら発展版スキルコネクトの解説やらもしないといけなかったので…

あと、軽くプログレッシブの内容にも触れてますが、作者アニメ派なので、ストーリーも軽く知っている程度のせいもあって、ちょっとぼかしてます。
…その辺りは皆様の想像で補って頂ければと…

本来3話構成だったのですが、書き始めると「あっ、これ無理だわ」と感じましたので、4話構成でお届けします!

ちょっと今回設定がややこしいので、後書きにて解説します。
それでは、まずは本編をどうぞ!


ユウキ編① 「エルフの隠れ里」

「へぇ~…ボクたちがいない間にそういうことがあったんだ」

 

「そうなんだよ…あんなに余裕を失くしたキリトを見たのは久々だったから、俺も焦ってな。不甲斐ないところを見せたな、うん…」

 

月夜の黒猫団の二人を助けに行った事件(通称 デイリーダンジョン変異ボス討伐事件と全員の中では認識されてる)から二日が経った。

 

事件に関与していなかった面々には簡単に何が起こったのかはあの後伝えたが、詳細を聞きたがっていたユウキに、央都アルンの喫茶店にて人を待っている今の時間を使って俺は説明していた。

 

今回の一件は元々ほとんどのプレイヤーに周知されていたこともあって、関与した俺たちは注目を一段と集めてしまった…良い意味6割、残りは悪い意味でだ。

 

…まぁ、良い意味でというのは、決死の救出劇みたいなちょっと誇張された話によるものへの評価なわけだが、悪い意味というのは「運営が警告しているものに手を出す厄介者」「そこまでしてゲームリソースを手に入れたいのか」という内容だったりする。

 

といっても、俺たちはギルドを組んでいるわけでもないし、それなら面と向かって批判してくるような命知らずもいなかったので、実害はほとんどなかったに等しいのだが…一番懸念していたリズの工房の方も風評被害はほとんどなかったらしい。

 

ちなみに、俺の工房である『ファントム・クラウド』は基本紹介制ということもあって、そういうのは全く気にしなくてよかったりする。

 

増援として来てくれたシグさんには今度武器の研ぎ代やメンテンナンスを無償でするとお礼の約束をして、カレットとエイジにも何かお礼をしようと思い、提案したのだが…

 

「…何度も言うが、そんなものの為に来たわけじゃない。だから、「そうか、残念だな。俺のところって、アクセサリーも扱ってるから、ユナに似合いそうな奴とかも作れるんだが…」………紹介状だけはもらっておいてやる」

 

どうせ素直に受け取ってくれないだろうと、ユナを持ち出して無理矢理紹介状を手渡した。流石のエイジも、「アクセサリー?欲しい!」というユナの期待の籠った目線は無視できなかったらしい。

カレットはフレンド登録していることもあって、一度来てくれたことがあり、武器の強化を任せてもらっていたりする顧客の一人だ…彼にシグさんと同じお礼をすることにしたわけだ。

 

…といった感じで、ボスとの闘いやその後の細かいことを話し終えたところで、話題はキリトが土壇場で発展させたシステム外スキルへと移った。

 

「…まぁ、キリトのとんでもない能力をまた眼前で見せたられたのもあって…もう感心を通り越して呆然としたよ」

 

「変則系スキルコネクトだっけ…?フォンもできるの、それ…?」

 

「…いや、あれは無理だ。普通のスキルコネクトはまだ感覚が分かるが、手から足へと意識を切り替えるのは全然…キリトの頭がどういう風になっているかを知りたいぐらいだよ」

 

「そ、そこまで言う程なのはよっぽどだね…」

 

そう…実を言うと、手だけなく足までを加えた発展系…キリトが使った変則系スキルコネクトを俺は使うことができなかったのだ。

 

三刀流(いや、両足使うことを考慮すれば四刀流が正しいか?)といっても過言ではない、スキルコネクトの発展技術なのだが、片手ずつ意識を切り替える普通のスキルコネクトと比較し、その難易度は格段に跳ね上がるのだ。

 

実際にやってみせたキリトでさえ、あの後に再現しようとして成功率は二割を超えるのがやっとな程なのだ。

仕組みを聞いてやろうとした俺と、アンダーワールドでスキルチェインを早期かつ見て覚えた実績があるユージオ、そして、興味本位で試したアスナとリーファの誰もが一度も再現できなかったのだ。

あの土壇場でだからこそ、成功することができた…それほどに集中力を擁する超高難易度テクニックを使えるのは、今のところキリト一人であり、実質あいつ専用のスキルと化しそうな気配だ。

 

…まぁ、あの時のような土壇場でないと成功させられないのなら、普段から多用することはないのだろう。そもそも、普通のスキルコネクトも十二分に反則級に強いわけだし…

 

「でも…ちょっと安心したかな」

 

「えっ、何に…?」

 

「いや、フォンでもできないことが本当にあるんだなって。できないこともあるってフォンは言うけど、そういうところ見た事あんまりなかったから」

 

「…だから、散々言ってた通りだっただろう?俺なんて、ちょっと器用なだけだよ」

 

「フォンの場合、それがちょっとじゃないと思うんだけど…というか、そういう自分に対しての評価をとっても低くするの、フォンの悪い所だよ?」

 

「うっ…!そうだな…いかんな、ついつい出ちまう」

 

「なんで自分のことを紹介しようという時だけそうなるのかな…謙虚なのは良いことだろうけど、フォンは時折極端すぎるよ?」

 

ユウキからの苦言に反論することができず、言葉を詰まらせる…どうにも子供の頃からの悪癖はそう簡単に直らないようだ。自分を誇示しようという考えが希薄すぎるのだろうか…まぁ、目立つのがそもそも好きではないと思うのも大きいのだろうが…

 

(せめて、ユウキやカナデの前で卑下し過ぎるのは止めた方がいいよな)

 

他の面々ならまだしも、二人からすれば聞いていて気持ちの良いものではないだろう。自負かもしれないが、それほどに想ってくれている彼女らの気持ちに応えるべきだろう。

 

「…おーい、お二人さん。そろそろラブラブタイムは終わったカ?」

 

「「っ…!?」」

 

今後の改善点を心の中で呟いていると、背後から楽しそうながら、どこか呆れを含んだ声が飛び込んできて、俺とユウキは揃って身体をビクリとさせた。その声の主が誰か分かり、振り返った俺は、

 

「…いつからそこにいたんですか…アルゴさん」

 

慣れていたこともあって、すぐに驚きが引っ込んだ俺はジト目を彼女…俺たちを呼び出した張本人であるアルゴさんへと向けていた。悪戯成功と言わんばかりの彼女は、俺の目線など介することなく、背後の席から俺たちの正面へと席を移した。

 

「そうだナ…フォン坊が一昨日の事件のことを詳細に語り出したところからかナ?」

 

「俺たちが店に着いてすぐじゃないですか!結構話してましたけど、ずっと聞いてたんですか!?」

 

「いや、ラブラブなお二人さんを邪魔するのも悪いかと思ってナ…お姉さんが隠蔽スキルを使ってまで気を遣ったんダ、お礼の一つくらい言ってもいいじゃないカ?」

 

「ラブラブだなんて…!」

 

「ユウキ、照れてる場合じゃないぞ…あなたじゃなきゃそうするでしょうけど…アルゴさんの場合は揶揄いが大半の理由でしょうが」

 

「ニャハハ、フォン坊にはお見通しカ…まぁ、呼び出したのに遅れて悪かったナ。ちょっと野暮用が立て込んでてナ」

 

「…もしかして、一昨日の一件のことで…」

 

「あー…いや、そっちは全然ナ。オイラも色々てこずるかと思ったんだが…何故か先方はお咎めなしってことで見逃してくれてナ…むしろ、お礼を伝えてほしいと言われたぐらい気味が悪かったゾ…それに、あの件はオレっちが焚きつけたようなもんダ。フォン坊たちが気にすることじゃない」

 

俺たちの知らないところでかなり忙しくしているのだろうか…後からやってきたというアルゴさんの珍しい行動に理由を推測しつつ、俺は今日呼び出された訳を聞くことにした。

 

「それで、フォン坊とユウキを呼び出したのは…二人に調査してもらいたいクエストがあったからなんダ」

 

「珍しいですね、アルゴさんからそんな依頼が来るなんて」

 

「えっ、そうなの?」

 

「まぁな…SAO時代には結構あったが、アルゴさんにシグさんっていうパートナーが出来てからは激減…というか、ほとんど無くなってたからな」

 

珍しい…というよりも、本当に久々の調査依頼に俺は驚く。すると、意外だと思ったのか、別の意味で驚いているユウキにその理由を話した。

 

基本、アルゴさんがクエストやダンジョンなどの調査依頼を出すのは、自身の力量では難しいと判断した時だ。その時、最も声を掛けられていたのが俺やキリトだったわけだが、『鼠のボディガード』として知られるシグさんがパートナーとなってからは、彼がその役目を担うことになったわけだ。

 

「でも、俺たちに依頼するってことは…それほどシグさんも忙しいということなんですか?」

 

「いや、そうじゃない…シグもそのクエストに挑戦してクリアしたんだが…オレっち的にどうしても何かがあるんじゃないかって思ってナ…フォン坊たちなら何か気付くじゃないかって考えて、改めて調査を頼みたいんだ」

 

「クエストの再調査ってこと…?でも、それって、どんなクエストなんですか?」

 

どうやら理由は忙しさで手に負えないというわけではなく。アルゴさんなりに情報屋としての勘が引っ掛かったかららしい。彼女にそれほど言わせるクエストは何かと気になったユウキが尋ねると、

 

「…ALOにおいて初めて観測されたエルフの集団が依頼人のクエストなんダ」

 

そう告げたアルゴさんの言葉に、俺とユウキは顔を見合わせるのだった。

 

 

 

「エルフか…まさかALOの本土の方にもいたなんてな」

 

「フォンはエルフに会ったことがあるんだよね?」

 

「ああ…って言っても、旧・新アインクラッドではってことで、ALO本土の方っていうのは俺も初だけどな」

 

アルゴさんから詳細を聞き、早速クエストを受注した俺たちはALO本土の北西側…世界樹から見て南西に位置する猫妖精族、そして、同じく北西側に位置する音楽妖精族の領土の真ん中ぐらいのエリアへと来ていた。

 

エルフたちがいるらしい森へと辿り着き、クエスト発生場所である里を探して森の拓けた道を進んでいる最中、これから行く先のことについて触れつつ、エルフについても話していた。

 

「第3層の攻略の時で…あれはあれで色々あったから詳細は割愛するけど、まさかキズメルたちとは別のエルフがALO本土にいるとはな」

 

「キズメルって…確かダークエルフの剣士さんだっけ?アスナが前に話してくれたことがあったけど…」

 

「そうそう…まぁ、詳しいことはまたどっかでな(…旧アインクラッド初期の攻略って、人間関係の問題とかで悪い思い出も結構あったりするんだよな…キズメルとは第4層で別れて…そういや、アルゴさんと本格的に共闘したことがあったのは第5層の時だったか…)」

 

懐かしい話が出てきたこともあり、関係なかった筈の第5層のことも思い出してしまった…あの時は、キリトがボスのギミックに気付かなかったら、マジでヤバかったので今でも思い出すことがあるのだ。

 

…といっても、新生アインクラッドでもギミックがそのままだったので、体力とステータスが強化されていた以外は、全く苦労しなかったわけだが…

 

「…でも、どうして急にALO本土の方でもエルフが出たんだろう?」

 

「自然に考えるなら、新生アインクラッドのエルフたちが降りてきた…っていうのが真っ当っぽいが、でも今までそういった事例はなかったしな」

 

「それじゃあ、ALOが元にしている…北欧神話だっけ?それをベースにしたクエストが生まれたってこと?」

 

「…うーん…微妙なラインだな。そもそも北欧神話にエルフっているのか?有名どころならまだしも、そういう設定とか俺も把握してないからな。シノンなら知ってたかもしれないけど…」

 

オーディンとかバハムートとかロキみたいな有名どころであれば、俺も多少のエピソードは知っているが、詳細なものとなってくると実際に神話を読んだことがないので分からないのだ。

 

読書家であるシノンならおそらく分かるのだろう…以前、エクスキャリバーの綴りや名勝に関しても疑問を持ち出したことがあるって、(その打ち上げに不在だった俺は)アスナから聞いたことがあり、ここに彼女がいないことを悔やんでいた。

 

「まぁまぁ…クエスト自体はそう難しいものでもなさそうだし、行ってみてから判断してもいいんじゃない?」

 

「そうだな…それにしても『宝珠の守り手』っていうクエストだが、こういう防衛系のクエストを受けるのも久々だな」

 

アルゴさんから調査を頼まれたクエスト『宝珠の守り手』…要は、エルフの隠れ里にある宝珠を一晩守ってほしいという防衛クエストに該当するものだ。宝珠を奪おうとする敵から守るだけ…聞けば、そう難しいクエストでは確かになさそうだ。

 

実際に挑戦したシグさん曰く、迫ってくるのは狼型のモンスターだけで何も可笑しなところはなかったらしい。時折、エルフらしき影も見えたが、襲ってはこなかったらしく、何の問題もなくクエスト達成まで死守できたとのことだった。

 

「久々か…そうだね。こうやって二人っきりでクエストを受けるのも結構久々だし」

 

「ユ、ユウキ…?」

 

「最近はカナデと三人だったり、なかなか二人でいられることも少なかったし…ボク的には結構楽しみにしてるだけどな~…」

 

「…そうだったな。なら、ちゃんと攻略できるように二人で力を合わせて頑張ろうな」

 

「エヘヘ、うん!……あっ、フォン…あれじゃない?」

 

二人っきりということもあってか、隠すことなく甘えたいという感情を出すユウキに、その頭を優しく撫でながら応える。言われてみれば、ユウキと二人っきりでこうして冒険に来るのはご無沙汰だった。

 

考えすぎて根を詰めすぎるよりも、こうして二人で来たのだからちゃんとクリアする方が楽しい筈だ。気持ちを切り替えてすぐ、何かに気付いたユウキの指さす方を見ると、何かの集落らしき入り口が見えてきた。

 

(一先ずは、クエストを開始させるところからだな)

 

そう思い、テンションが上がって先に行ってしまったユウキに追いつくべく、俺は歩みの速度を上げた。

 

 

 

『お主らが、今回守り手として仕事を受けた妖精たちだな?』

 

里に着き、クエスト開始のマークを目指して入った建物にいた人物が第一声として放ったのは、横暴な態度での歓迎だった。

 

エルフは長生きだ…そんなどっかで聞いたような知識が混じったせいか、見た目は80歳ぐらいに見える、長老(里の主だから里老と呼ぶべきか?)らしき人物は一体何歳なのだろうと思わず現実逃避したくなったが、話を進める必要もあり会話に応えていく。

 

「そうです。里の宝珠を守ってほしいという依頼を受けてきたのですが…」

 

『ふん!守ってほしいのではなく、守らせてやるのだ。たかが、多少の魔法しか使えない妖精共に仕事をやっているのだと感謝してほしいくらいだわい』

 

「……!」

 

「(こらこら…)それは失礼しました。では、それ相応に頑張らせて頂きます。それで、守るべきという宝珠はどちらにありますか?」

 

 

どうやらこのエルフたちには独特の言語があるらしく、多少のタイムラグがあって翻訳された言葉が聞こえてきていた…いつぞや取得した〈古代語理解〉スキルのお陰ではないらしく、デフォルトで翻訳される仕様らしい…そうでないと、そのスキルを習得していないユウキが話を理解できるわけがないからだ。

 

…まぁ、この翻訳機能は余すことなく、こちらを見下している長老の言葉を見事に翻訳してくれているようで、あまりの物言いに対する不快感が表情に出そうになっていたユウキを諫めながら、俺は冷静に話を進める。

 

俺の態度が予想とは異なっていたのか、それとも、そもそもの素の態度なのか…不機嫌そうに、近くに控えていたエルフの一人に首を振って道案内をさせるよう指示を出していた。

 

「(…ねぇ、フォン。あの長老さん、明らかに態度が悪くない?)」

 

「(……だな。けど、この里に入ってからもしかしたらっていう予感はしてたよ)」

 

「(もしかして、もの凄く見られてるという感じがしてたこと?)」

 

「(ああ…それと同時に敵対心にも近い負の感情の籠った目線もね)」

 

長老の小屋を出て、(不機嫌を隠す努力もしない)エルフについていきながら、小声で話しかけてきたユウキに、聞かれていないことを確認してから答える。

 

里に足を踏み入れたから感じた視線は…SAOの時に嫌という程、味わったことがあるものだった。ユウキも同じく感じていたらしく、どうやら面倒くさい案件に首を突っ込んでしまったらしい。

 

「(元々排他的な考えがあるのかもしれないな…よそ者は歓迎しない的な奴が…)

 

「(ううぅ…それはちょっと厄介だね)」

 

「(まぁ、防衛はこっちに押し付ける気ということは、エルフたちは干渉しないってことだろうから、別に余計なことを話す機会も少なそうだけどな。向こうもそのつもりはほとんどないだろうし…)」

 

「(なんか想像してたのと全然違うな~…)」

 

ユウキなりに想像していたエルフ像というのがあったのだろう…今度、キズメルに会わせてあげようか?多分、そっちの方がいい気がしてきた…そんなことを考えていると、どうやら問題の場所に着いたらしく、エルフが立ち止まった。

 

そこは天然の祠とも表現すべき場所だった…森が拓けた場所に、岩肌の一画が少しだけ後退しており、そこに岩柱の上に鎮座する白緑の玉が見えた。

 

『これが、我らの守護の要…『リョースの宝珠』だ』

 

「リョース…?それがエルフの里に『エルフではない!?我らはリョースだ!?』…す、すまない!あなたたち、リョースたちの大事な秘宝なんだな?」

 

聞いたことがない名前に首を傾げていたが、激怒と共に飛んできた怒声にそれが彼らの種族を表わす名前なのだと理解し、慌てて謝罪する!

 

不機嫌だったほうがまだよかったと思えるぐらいにエルフ…リョース族の青年は起こっており、俺だけでなく、ユウキまでもが突然の豹変ぶりに戦々恐々としていたほどにだ。

 

『フン…!いいか、お前らにはこれを明日の朝まで守ってもらう!?誰かに奪われることがないよう、しっかりと見張っているんだ!?いいな!』

 

完全に気分を害してしまったらしく、必要最低限のことだけを言ったリョース族の青年は元来た道を戻って行った。

 

「…ビックリしたね。エルフって呼ばれるのがそんなに嫌だったのかな?」

 

「そんな感じだったな…リョース…全然聞いたことのない名前だったな。で、これが件の宝珠か…」

 

完全にリョースの姿が見えなくなったところで、胸元を抑えながらユウキが安堵した姿を見せた。どうやらアインクラッドのエルフたちとは本当に違う種族らしい…エルフという単語を知っているようだが、それを忌避するとは…彼らリョースの歴史について凄く気になるが、まずは防衛対象である宝珠を確認してみることとしよう。

 

「…へぇー…流石は祀っているもののことはあるね。すっごく綺麗…」

 

「ああ………うん?なんだ、これ?」

 

「どうしたの?」

 

「ユウキ、これを見てくれ」

 

宝珠は翡翠石が何かで作られたようで、ほんのりと中から光源らしきものが確認できてそれで少し光を放っているように見えるのだろう。頂点から半身から底まで風と雷を思わせる様な金の装飾がついた見事な造形だと思った。

 

感動を覚えるユウキに同感していると、俺は思わず疑問の声を出してしまった。どうしたのかとこちらを向くユウキに、俺はとりあえずといった感覚で発動していた鑑定スキルで見た鑑定画面を可視化して見せる。

 

「鑑定スキルの結果…?……えっ?でも、さっきあのリョースの人は名前を言ってたよね?」

 

「ああ…でも、そうなるとこの結果はどういうことを意味しているんだ?」

 

画面を見て、俺と同じ疑問を抱いたらしいユウキが見上げるように視線を向けてくるも、俺も明確な答えが言えないでいた。その鑑定画面には次のような表示がされていたからだ。

 

【???の宝珠 本来の加護のほとんどが失われしまい、力が褪せつつある宝珠。本来、???と???のそれぞれの???によって加護を強めてきたが、それらが壊され、忘れ去られてしまった今、真の輝きを見る日はないのだろう】

 

…と、明らかに意味深な解説が記載されていたからだ。アルゴさんの勘が引っ掛かったのは、もしかしてこれのことなのだろうか?これの謎を解くか、それとも、どこかで分岐となる出来事が起こったりするのだろうか?

 

「どうする、フォン?」

 

「一先ずはこの宝珠を防衛しようか。それで様子見ってところだな」

 

ともかく、宝珠を防衛しながら考えるべきだと判断し、俺はユウキと共に周囲を警戒し始めることにした。

 

シグさんの時には何も起こらなかったと言っていたが、今回は二人で参加していることもあり、時間差で何かが起こる可能性も視野に入れるべきだろう。

 

今回のクエストは一日を超すという長丁場になると事前にアルゴさんに聞いていたこともあり、ローテンションを組んで防衛にあたり始めた。

 

 

 

「…ただいま!何か変化あった?」

 

「いや、全然…強いて言うのなら、狼のモンスターがあれから20匹近く襲ってきたのを討伐したぐらいだ」

 

防衛を開始して2時間半…クエストを受注したのが21時過ぎだったので、ちょうど日付が変わったあたりになった頃、仮眠を取りに軽くログアウトしていたユウキが戻ってきた。

 

朝までという今回の防衛クエストだが、現実世界とALOとではもちろん時間の流れが多少異なる。そして、今回のクエストでは更に時間の流れが異なるらしく、里内においてはクエスト受注に限り、夜明けまで現実世界での時間において5時間となっているのだ。

 

だが、5時間も休まず、さらにちょうど真夜中の時間に現実世界のほうは掛かってくるため、俺たちは交代で休憩を兼ねての仮眠を取ることにしていた。

 

最初の一時間半を終えたところで、まずユウキが1時間ほど休憩を取るためにアバターを残したままログアウトし、戻ってきたら俺が代わりにログアウトして休憩しに行くという感じなわけだ。

 

そして、休憩を終えたユウキがログインしてきたわけだが…状況は全く変わっていなかった。確かに、モンスターが時折襲ってはきたが、ただそれだけ…他には何も起こらなかった。

 

もう退屈と戦う忍耐の試練かと思えてならないほどの退屈さだ…あまりに時間が過ぎるのが長く感じ、ユウキが帰ってきた時にはもの凄くテンションが上がった程だ…表には出さないけど…

 

「変化なしって…宝珠の方もなにも?」

 

「一応、定期的に鑑定スキルで見てはいるが…変化なしだな。これはやっぱり宝珠の謎を解くとかしないと、クエストが進まないのかもな」

 

あれやこれやと防衛の片手間で分析してみたり、鑑定画面で表示された文章に関して考えてみたりしたのだが、分からずじまいで完全にお手上げ状態だったわけだ。

 

宝珠の装飾に何か仕掛けがあるのではと思い、触ってみたり弄ったりもしたのだが…そういう絡繰り式でもないようで…ユウキの問いに、俺は両手を挙げるポーズと共にそう答えた。

 

「…まぁ、変化なしならしょうがないじゃない?アルゴさんの勘も外れることだってあるだろうし…」

 

「そうなのかな…あの意味深な文章を見る限りはどうしてもなぁ…」

 

「はいはい…フォンもちょっと休憩してきたら?考えすぎで、ちょっと煮詰まりしてるっぽいし」

 

「……そうだな。そうしようかな…ついでに、北欧神話に関してもちょっと調べてくるよ。なんかそういう知識がないと、今回の謎は解けそうにないみたいだからな」

 

指摘され、確かに凝り固まっていたかもと思った俺はユウキの提案に素直に従い、左手でメニューを開く。一番下の項目を展開し、ログアウトのタブを選択して、

 

「それじゃ、また一時間後に」

 

「うん、後でね」

 

石柱にもたれかかるようにして、ログアウトした俺の意識は一旦ALOから離脱することとなった。

 

 

「…暇だな~…」

 

フォンがログアウトしているから10分ほど経った頃、モンスターが来る気配もなく、ユウキは完全に暇を持て余していた。

 

最初は宝珠の謎でも解こうと考えていたのだが、フォンが解けなかったこともあり、開始して5分で無理だと判断したユウキは、手無沙汰状態となってしまっていたわけだ。

 

(寝ているフォンに悪戯するのもな…あとで仕返しが怖いし……もうちょっと何かあると思ってたのに、ここまで暇になるなんて…ちょっと仮眠したのに、これじゃすぐに眠たくなっちゃうよ……ふああぁ)

 

想定以上に何もない現状に、欠伸を噛み殺すユウキ…そんな状態でも一応周囲を警戒しているのは流石だが、もうちょっと歯ごたえがあるものだったらと思わないわけもないわけで…

 

そんなことを考えていたせいか、それとも、ちょっと気が抜けていたせいか…その気配に気づくのが遅れてしまい、

 

「…あの」

 

「ひゃぁ!?…え、えっと…君は…?」

 

突然の呼びかけに、思わず可愛い悲鳴が出てしまったユウキ…視線を横に向けると、いつの間にか、エルフの少女が森から姿を見せていた。自分よりも少しだけ年下だろうか…幼さを残した顔つきと身長、月の光を反射して輝く銀白のロングヘアーが綺麗だと思いつつも、ユウキは少女へと応える。

 

「私はシータ…お父様に言われて来ました」

 

「そ、そうなんだ…もしかして、心配になって様子を見に行ってこいってことなのかな?」

 

「…そんな感じです」

 

(なんか…変な感じの子だな。笑ってるようなのに、笑ってないというか…)

 

少し笑みを零しているにも関わらず、淡々と話す少女…シータの姿に違和感を覚えつつも、ユウキは会話を続けることにした。

 

「シータちゃん、でいいのかな…?君はこの宝珠について何か知っているの?」

 

「…お父さんが大事なものだって、いつも言ってます。あるべき場所にない宝珠は、必要とする者が使うべきなんだって」

 

「っ…!(この子は宝珠について何かを知ってる…?もしかして、この子がクエストの分岐点となる鍵なのかな)」

 

他のエルフと違い、友好的な態度で話してくれるシータの言葉に、ユウキは彼女こそが何かの鍵になっているのではないかと考え、更に情報を引き出そうとしてみた。

 

「ねぇ、もし良かったらこの宝珠について、もっと教えてくれないかな?」

 

「私も多くのことは知りません…それについて、一番理解しているのはお父様なので」

 

「お父さん…宝珠の研究者か何かなの?」

 

「そうです」

 

「…えっと…じゃあ、この宝珠が『リョースの宝珠』じゃない理由も、お父さんなら知ってたりするのかな?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

(あれ…?一瞬、表情が曇ったような……待って。そういえば、さっきのリョース族の人とは何か違和感が…)

 

リョースという単語に、シータが反応したように思えたユウキ…だが、その時、シータとの会話に違和感を覚えた。さっきまで部外者である自分たちに険悪感を覚えていたリョースたちと違い、友好的である彼女の態度よりも更に明確な違和感を…

 

しかし、それに思い当たるよりも前に事態が動いた…先程まで会話に応じていたシータが、それまでとは異なる冷たい声色を出したからだ。

 

「貴女には申し訳ありませんが、その宝珠を頂きに参りました」

 

「えっ…それは、きゃああああぁぁ?!」

 

どういうことかと尋ねようとしたが、少女が自身に向けて手をかざしたかと思った時には、ユウキの身体が後方へと吹っ飛んでいた。それが風魔法によるものだと遅れて理解したが、どうしてそれがいきなり発動したのかが分からなかった。

 

…ALOでは必要不可欠とされる魔法発動の詠唱を、シータはすることなく風魔法でユウキを吹き飛ばしたからだ。

 

後方に吹っ飛び、背中を木に強か打ちつけたユウキはすぐに動けないでいた。そんな彼女を横目に、シータは柱の上に鎮座する宝珠を奪取してしまっていた。

 

「っ…そ、れは……!…ど、ういうこと…?」

 

なんとか声を絞り出そうとするも、上手く空気が吸えずに声が途切れ途切れになる…だが、苦しさよりも驚きが優り、ユウキの目が見開く…シータが持ったことで、宝珠が少しばかり輝き出したのだ。

 

だが、もっと驚いたのは、リョース族と同じ白い肌をしていたシータだが、メッキがはがれるようにその白い肌の下から黒い肌へと変わっていたことだった。

 

(…ダークエルフ…?!それじゃ、彼女のお父さんも…!)

 

黒い肌…彼女がダークエルフ系統の種族だと気づいた時、ユウキは自身が感じた違和感の正体を悟った…リョースたちと話している時は、彼らが使っている古代語に遅れて翻訳された言語が聞こえてきていた筈なのに、シータは自分たちと同じ言語をそのまま使ってきていたのだ…だが、それに気づくのが遅すぎた。

 

「これはリョースみたいな血を淘汰する者どもが持つべきものではない…お父様のように、真の価値を見出せる者が持つべき代物だ」

 

その言葉…先程の違和感を持ったものとは異なる…しかし、憎しみが込められたその言葉に、ユウキは反応することができなかった。シータもそれ以上語ることはないとばかりに、もの凄いスピードでその場を離脱してしまった。

 

「っ!?ま、待って…!」

 

このまま逃がしてはいけない…事情は分からないが、それはリョースにとっても大事なものなのかもしれないと思ったユウキは、なんとか動かせるようになった体に鞭打ち、シータを追いかけ始めた!

 

幸いなことに追うのは容易かった…シータが持ったことで光を放ち始めたせいか、森を駆ける彼女の行方をそれが教えてくれていたからだ…だが、捕まえるのは全く容易ではなかった。

 

同じ森を走って追いかけるよりも空から追う方がいいと判断したユウキは、翅を展開してすぐに彼女が逃げる方角を捉えたのだが、先程の奇襲を受けたように無詠唱の魔法が森から飛んできて、回避をせざるを得なかったからだ。

 

風魔法だけでなく、火・水・土・雷・闇とあらゆる単発魔法が飛び交ってくるので、流石のユウキも避けながら跡を追うのがやっとな状態であった。

 

それでも、宝珠の放つ光でシータを見失うことはなく…5分ほど跡を追っていると、光が動きを止めた。併せて飛んでくる魔法も止んだため、警戒しつつもユウキはその場へと向かった。

 

そこは木々に覆われながらも少し拓けた場所であり、洞窟の入り口が顔を見せている場所でもあった。シータはその入り口前に立っており、上空にいるユウキを忌々しそうに睨んでいた。

 

会話する気はありそうだったため、ユウキも地上に降りたち、シータと対峙した。

 

「お前、しつこい…どうして追ってくる?」

 

「それがボクたちがあのエルフさんたちから受けた依頼だから。人の物を盗るのはダメだよ」

 

「奴らのものではない!?これは、お父様たちスヴァルト族が持つべきものだ!」

 

「えっ…(スヴァルト…?もしかして、ダークエルフの種族名…ってことは、リョースの対義語みたいなものなのかな…?)」

 

言われた文句に対し、思わず正論で返してしまったユウキだったが、次にシータの口から出てきた言葉に驚く…スヴァルトが彼女たちの種族を表わす名称なのだろうかと推測しつつ、なんとか宝珠を返してもらおうと説得を試みるが、

 

「例え、あなたの言うことが正しいとしても…それでも、いきなり奪うようなことをしちゃあの白いエルフさんたちの恨みを買うだけだよ。事情を話せば、あの人たちだって…」

 

「お前はリョースとスヴァルトのことを何も知らないから、そんなことが言えるんだ。あいつらにそんな情けなど存在しない」

 

「それは……でも、あなたがしていることも悪いことだよ!」

 

「私は間違ったことはしていない!…いや、お父様が指示したことが間違いである筈がない!」

 

シータは完全に聞く耳を持たない…いや、自分が信じているものが絶対に正しいといわんばかりの反応は、ユウキの言葉を全て否定するかの勢いだった。流石のユウキもその勢いに負けて閉口してしまった。

 

「これ以上追ってくるというのなら、命の保証はしない…やれ、しもべ共!」

 

「ま、待って……っ!?こいつらは…!」

 

これが最後の警告だと告げたシータは言い終えると、洞窟へと姿を消してしまった。それを追おうとしたユウキだったが、突如二体のモンスターが現れ、その行き先を塞がれてしまった。

 

洞窟だけでなく、周囲一帯が侵入不可能エリアと化したことから、これがイベントによる強制戦闘だと判断したユウキだが、自分と相対しているモンスターを見て、困惑していた。

 

「…このモンスターたち……キメラってやつなのかな…?」

 

斧を持ったミノタウロスタイプと四足歩行の猪タイプ…それだけであれば、そう珍しいモンスターではなかっただろう。問題なのは…

 

斧を持つ手とは逆の左腕が巨大な白蛇の頭となっており、それもミノタウロスの意志とは別に生きているようにユウキを威嚇し続けていた。一方の猪も巨大な二本の牙だけでなく、頭部に大きな鹿のような両角を持っており、その角は常時帯電していることから直撃どころか、ガードしてもダメージを受けそうだと見てとれるものだった。

 

明らかに普通のモンスターじゃない…二つのモンスターの姿が入り混じった姿に、よく小説などで見かけるキメラのような存在なのかと、ユウキは察していた。

 

とにもかくにも、この二体を倒さなければシータの跡を追うことはできない…明確にその事実だけは分かっていたため、ユウキは迷うことなく片手剣『女神の剣 イシスフィテル』を抜いた。

 

それが合図となったのか、それともモンスター特有の本能としての行動か…まず猪がユウキ目掛けて突っ込んできた!だが、目がいいユウキにとって反応するのは楽勝なことであり、電気を纏っている両角による余波ダメージを警戒して、いつもよりも距離を取るようにサイドステップで突進を回避する。

 

遅れてミノタウロスが距離を詰めようとしているのは視界の端に映り、そちらへも意識を向ける…動きはそこまで速いわけではなく、AGIの差もあってスピードはユウキに分があった…左腕の蛇頭さえなければ…

 

「っ…おっとと…!危ない、危ない…」

 

蛇頭が一瞬膨らんだかと思った矢先、明らかに体に悪そうな緑色の煙を放ってきたのだ。状態異常を付与させるブレスだと直感的に判断したユウキは、慌ててブレスの範囲外へとバックステップで距離を取る。

 

しかし、そこを狙って方向転換してきた猪がまたしても突進してきたため、ユウキは更に回避に徹さざるを得なかった。

 

(コンビネーションを取るような意思疎通はないみたいだけど…時間差でそれぞれが独立して攻撃してくるのがやっかいかな…飛行しようにも、状態異常のブレスは2秒ぐらい残るし、こっちも攻撃がし辛くなっちゃう…それに着地の隙をあの猪が突撃してきそうだし…)

 

自分を倒そうと本能で攻撃し続けてくる二体のモンスターを前に、ユウキは慌てることなく攻撃を捌きながら、攻略法を探っていた。

 

自分のステータス的に攻撃を受け止めるのは難しい上、この後のことを考えるとできるだけダメージは負うことなく戦闘を終えたいという考えもあり、どうするべきかと試行していたユウキは、ある方法を思いついた。

 

猪の突進を避けつつ、ミノタウロスとの距離を徐々に詰めていく。突進をしかけ続けてくる猪と違い、ミノタウロスは一定の距離にならなければ、蛇ブレスを使ってはこない。ならば、間合いの調整などユウキにとってはお茶の子さいさいレベルに簡単な話だった。

 

そして、何度目になるか数えるのを止めた猪の突進を躱したところで、一気にミノタウロスとの距離を詰めた!ユウキとの距離が2メートルを切ったことで、ミノタウロスが蛇ブレスを使ってくるが、

 

「…!よっ、と!!」

 

それを見切ったユウキが急ブレーキを掛けるのと同時に両足をバネにして、大きくバック宙を披露した!月夜にユウキの身体が舞うのに一瞬目を取られたのは、モンスターとしての習性のせいか…ミノタウロスはその背後に隠れていたものに気付いていなかった!

 

『ブオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!』

『ブロォ…!?』

 

ユウキがバック宙した直後、その背後に迫っていた猪が迫ってきていたのだ…ユウキを仕留めようと全速力で突進していた猪が急に止まれるわけがなく、しかも状態異常を付与する蛇ブレスをまともに受けた!

そんな状態でまともな力のコントロールができるわけもなく、放電していた両角が電撃を放つのを止めることなく、突進にパワーを加える形でミノタウロスに真正面から突っ込んだ!

 

『ブオオオオォォ…?!』

『ギュウウウウゥゥ…!?』

 

「…勝機!!」

 

見事に相打つことになった二体が硬直したことに、地面に着地した瞬間にすぐさま飛び出したユウキは、勝負を決めると言わんばかりに剣を構える。刃に宿る白紫の燐光から放つ剣技はもちろん…

 

「マザーズ・ロザリオ!」

 

自身の十八番である11連撃の刺突剣戟〈マザーズ・ロザリオ〉…猪の背後から貫通してミノタウロスにまで届いた11連撃は、無防備と化していたモンスター二体のHPを容赦なく削っていき…最後の正面突きでそのHPを二体纏めてゼロにした。

 

「……ふぅ…!」

 

スキル硬直が解け、封鎖されていたエリアも解除されたことで、これ以上の増援もないと判断したユウキは剣を腰の鞘に納め、洞窟へと視線を向ける。

 

(…中は明かりがあるみたいだ。これって…追わないとクエストが進まないって感じだよね。どうしよう…残り時間も考えると、あんまりのんびりしてる時間もないかも…フォンを呼びに一旦ログアウトすべきかな…)

 

入り口まで近づき、中を覗くと…何かしらの光源があるらしく、洞窟内は思っていたよりも明るそうだった。急な展開だったこともあり、一人で追跡してきたユウキだったが、ここに来てどうすべき迷っていた。

 

宝珠を盗まれたのは自分のせいでもあり、明朝までというタイムリミットを考慮すると、残りはあと二時間と少し…洞窟の構造によっては間に合わない可能性もあった。

 

フォンが戻ってくるにもまだ時間が掛かることもあり、一人よりも二人で挑むべきなのではという考えがユウキの頭を過ぎる。幸いなことに、今のところ、周囲にモンスターの気配は感じられない…フォンには申し訳ないが、こうなったらすぐに戻って来てもらおうと、一旦ログアウトして呼びに行こうと…

 

「(…ポン…)ひゃああああぁぁ!?……って、フォン?!」

 

「…いや、そんなにビックリされるとは…こっちがビックリなんだが…俺が近づいてるのに、気付いてなかったのか?」

 

肩にいきなり接触を覚えたユウキは思わず悲鳴を上げながら飛びのくも、視線を振り返らせ、その正体を見て驚く…そこには、先程まで肩に置いていた手を宙にさまよわせ、ユウキとは違う意味で驚いていたフォンの姿があったからだ。

 

「ど、どうして…!まだ休憩時間は終わってないのに…」

 

「聞きたいことがあるのはこっちもだが…まぁ、ユウキが驚くのも当然か。ちょっと気になることが分かったから、休憩を繰り上げて戻ってきたんだが…戻ってみたら、ユウキはいないし、宝珠はなくなってるし……これはなにかあったなと思って、フレンド機能で追跡して、さっき追いついたんだよ」

 

呼びに行こうとしていたばかりのフォンが自身の前にいることに驚きっぱなしのユウキだが、その意を解釈して苦笑いしながらフォンはその訳を答える。とりあえず、彼が早期に戻って来てくれたことに安堵したユウキだったが、自分の失態を思い出し、申し訳なそうに何が起こったのかを説明し出した。

 

「…ゴメン、フォン。その……宝珠を盗まれちゃって…ダークエルフの女の子が、あの宝珠は自分たちのものだって…」

 

「ダークエルフ…?……そういう、ことなのか…?」

 

「フォン…?」

 

宝珠をダークエルフらしい少女シータに奪われてしまったことを告げるユウキだが、意外そうなというか、少し驚いたフォンの反応は何か心当たりがるかのような反応だった。その反応にどうしたのかと首を傾げるユウキに、フォンはあることを尋ねた。

 

「なぁ、ユウキ…その子は、自分たちがスヴァルトアールブだ、みたいなことを言ってなかったか?」

 

「えっ……言ってた。お父さんの一族はスヴァルト族だって…」

 

「そうか…やっぱり、そういうことなのか…俺が休憩を切り上げて戻ってきたのも、それが理由なんだ」

 

ユウキの答えに何かしらの確信を持ったフォンは、早めに帰ってきた理由と共に、ユウキにあることを教えた。

 

「さっき休憩中に北欧神話におけるエルフについて簡単にだが調べてきたんだ。エルフに関する最も古い記述がされているのが北欧神話だとか色々気になることも多々あったが…一番目を引かれたのは、エルフの呼ばれ方だ」

 

「呼ばれ方……それって…!」

 

「そうだ…最初期にエルフは『アールブ』と呼ばれていたらしいが、種類によってはこう分けられている節もあったらしい…『スヴァルトアールブ』…スヴァルトはノルウェー語で黒…つまりダークエルフのことで、そうではないエルフを『リョースアールヴ』…光のエルフとして言及している書物や詩人たちがいたらしい」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「どうやら…アルゴさんの勘は大当たりだったらしい。これは…とんでもないクエストに俺たちは巻き込まれたみたいだ」

 

絶句するユウキを横目に、洞窟の先へと視線を送るフォンだが、その表情はとても硬いものだった。

 

光と闇のエルフ…二つの種族に絡むクエストが決して半端なものではないと、過去の経験からも、そして、自らの直感からしてもなんとなく感じ取っていたからだ。

 

 




…フォン、途中まで空気でしたね(苦笑)

さて、では簡単に解説を。
 最後にフォンが説明していたように、今回の軸となる二つのエルフは新生アインクラッドから降りてきたもの…ではなく、次々章のメインの場となるエリアから生まれたALO本来のエルフ…つまり、北欧神話に則ったエルフたちというわけです。

『スヴァルトアールブ』(もしくはデックアールヴとも分別しているみたいです)は洞窟に住む妖精=ドワーフを指している節もありますが、本作ではドワーフとALOのダークエルフは別種の存在と扱い、後者の種族名に『スヴァルト』を、あの偉そうにしてた(超絶面倒くさそうな)エルフたちを『リョース』族として扱う形になります。
ちなみにそう設定したのは、もちろんクエスト自動作成機能をお持ちの『ALOのカーディナルシステム』です…カナデと本名同じだから、ややこしい…!
 またしても、あの天才科学者少女のせいかと思われるかもしれませんが、今回のこのクエストは、アップデートデータに際してカーディナルシステムが影響を受けて作成したのであって、狙ってやったものではないので誤解しないであげてください。

 そういうわけで、まさかの二つのエルフに関わるクエストに巻き込まれたフォンとユウキ…フォンにとってはある意味二回目(新生アインクラッドの攻略入れたら三回目か?)かもしれませんが、アインクラッドとは異なるお話になりますので…無事に攻略できるのやら…(まぁ、作者が小説原作をそこまで熟知できてないので、難しいというのもありますが…)

次回にご期待頂ければと思います……と、いい所で申し訳ないのですが、次週の更新は作者の私事により、恐縮ですがお休みさせて頂きます。
では、また再来週に。


花咲か爺さん、ご評価ありがとうございました。

キャラエピソード第2弾 どのキャラのお話が見たいでしょうか?

  • 某トレジャーハンターF
  • リーファ
  • シノン
  • シリカ
  • リズベット
  • ユイ
  • クライン
  • エギル
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。