ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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ユウキ編ラストバトル回です!

キリト編に引き続き、まさかの大ピンチを迎えるフォン、そして、一人残されたユウキ…果たして逆転はできるのかどうか…!

ここで語るとネタバレにしかなりませんので、まずは本編をどうぞ!


ユウキ編③ 「共鳴する個性」

「…フォ、ン……?」

 

眼前で起こったことが信じられず、思わずそんな声が漏れた…あんなに勝手なこと言って、一人で飛び出してピンチになったのでも自分のせいなのに…そんなボクを庇って、キルされたフォンの姿に…リメイントライトに変わってしまったそれに、ボクは呆然としていた。

 

…そして、ボクの眼前にあるのはフォンの…工匠妖精特有の赤茶色の小さな炎だけで、自爆魔法を放ったシータの姿はどこにもなく…

 

「仲間がいたのか…しかも、片割れしか仕留められんとは…所詮は紛い物というわけか」

 

「…!」

 

その言葉が…ガッカリとも、分かっていたとも…そして、自身の命にただ従っただけのシータの献身を小馬鹿にしたような、男の言葉が耳に届き、ボクの中で何かがキレた。

 

「…今、なんて言ったの…」

 

「うん?…命令を完遂できない造り物を正当に評価しただけだが…まさか、あの人形に同情しているのか?これは傑作だな…!」

 

「っ…あなたは……シータが死んだっていうのに、どうしてそんな酷いことが言えるの!?」

 

「たかが模造品がまた死体に帰っただけのことだ…あんなものなどいくらでも作り出せる。いや、アルフの宝珠が手に入った今、もうそんな機会も訪れはしないか」

 

「アルフの…宝珠…?」

 

ボクの言葉など全く気にならないとばかりに、男は歪んだ笑みを浮かべ、シータが盗んだ宝珠を取り出した。どうやら、それは『アルフの宝珠』というのが正式名称らしいが…どこかで聞いたことがあると思い、ボクが記憶を辿っていると…

 

「お前たち妖精にも関係ない話ではない筈だ…世界樹に住む民アルフのことを!この宝珠は、アルフの一族、わが種族…いや、スヴァルトとリョースの優れた方にこそふさわしいと授けて下さった神の珠だ!」

 

(…世界樹……っ!思い出した、前にフォンとアスナが教えてくれた、古いALOにあった設定に出てきた種族アルフ…!)

 

世界樹というワードが引き金となって、どこで聞いたのかを完全に思い出した…SAO事件の後、フォンとアスナが悪い人に捕まっていた時に、ALOでは世界樹のグランドクエストを攻略したら、妖精王によって高位種族『アルフ』に転生できる仕様があったって。

 

それはあくまでもゲームを活発化させるための看板で、その妖精王こそがキリトやアスナたちを苦しめた黒幕で、グランドクエストも攻略不可能な仕様な上に、幻想剣スキルを使えるようにして人形と化したフォンを操って、更にクリアさせないようにしていた…それが、旧ALOの真実だって、フォンとアスナが教えてくれたことがあった。

 

…9種族間の争いが激化したのはそういう背景もあってのことで…今は新生アインクラッドという協力しての攻略が重視されるようになったこともあって、緩和され出したってことだったけど…

 

「…なるほどね。あなたたちも、ボクたち妖精みたいに試されたわけだ。アルフの人が授けたその宝玉がどっちにふさわしいかって…」

 

「妖精の割には理解がいいな。百パーセントその通りだ。そして、リョースとスヴァルトはくだらない競争を始めた…そこに答えなどないことを知らずに、悠久の時を無駄にするようにな…」

 

「…まるで、あなたは答えを知っているような言い方だね」

 

「フフフッ…もちろんだとも。あのリョースの馬鹿どもにも、愚かな我が一族をもが気づかなった答えとは……我が娘だ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

望みがもうすぐ叶うということもあってか、偉く機嫌のいい男の態度に、どんどん何かが冷たくなっていくのを堪えながら、ボクは奴の話を聞き続けていた。

 

「リョースとスヴァルトはそれぞれ闇と光といった相反する魔法が使えない…そのため、高位の存在となるアルフに一歩及ぼない存在とされていた…だが、我が娘だけは違った!?私と妻の二つの力を全て使えた!

 

その時、確信したのだ…娘にこそ、この宝玉は相応しいと…我が娘であれば、全てのアールブを超越する存在となることができると…私や妻を見放した奴らなど取るに足らない者になれると……!

 

だが…妻は先立ち…そして、娘も死んだ……私の全てが…世界が壊れた…だが、その時に気付いたのだ…!いなくなったのなら、また造ればいい…二度といなくなれないよう、完全な存在として、娘を造り出せばいいのだと!?」

 

「(…狂ってる…)」

 

復讐でも、悲願でもない…目の前で光悦しながら野望を語る男は、完全に狂気に染まってしまい、現実を受け入れるどころか虚像に縋ることしかできなくなった…本当は、奥さんや娘さんのことが大好きだったからこそ…二人の死が受け入れられない、認めたくない…だから、それを別のもので誤魔化そうとしている、自分を…騙している。

 

「…もういいよ…あなたの考えはよく分かった」

 

フォンは…もしかしたら気付いていたのかもしれない。あの日記の内容には、この男の狂気があふれた記述があったのかもしれない…だからこそ、ボクを止めようとあんなことを言ったのかもしれない。

 

…けど、それを確かめることなんてもうできない…いや、する余裕なんて、ボクの頭にはなく…限界を迎えた我慢を捨て、剣を構えたボクは堪えていたそれを解き放つ!

 

「あなたはもう人じゃない…!そんなことを平然と言える相手に、その宝珠は渡せない!それがあなたを…あなたたち家族をここまで狂わせることしかできないっていうのなら……ボクがあなたを止める!」

 

悲しみの入り混じった怒りが声に籠り、思わず男を睨んでしまう。男も、ボクが闘うつもりなのだと判断したらしく、宝珠を地面に置き、戦闘態勢に入った。

 

「ククククッ、無駄なことを…!お前ら妖精が私に勝とうなど、100パーセントあり得ないことを、その身をもって味わうがいい!!」

 

その言葉を皮切りに、闘いが始まった!まずは近づかなければとボクは持てる力で地面を蹴り、肉薄しようとトップスピードで走った。

 

そんなボクを、余裕の笑みを浮かべたままの奴は右手をこちらに突き出していた。おそらく、シータと同じ無詠唱魔法の攻撃…でも、それは初級魔法に限られるはず。ならば、躱せると踏んでいたボクだったが、

 

「ふん…!」

 

「っ!?…あつ…!」

 

予想に反したスピードと火力を持った火柱が右手から生まれ、ボクは慌てて横っ飛びで躱す!躱し切れなかった炎が左肩を焼き、HPを大きく削られた。

 

「あんな紛い物と同じだと思ってもらっては困る。あの偽物と違い、私が魔法を使うのに詠唱を必要とするわけがないだろう?それに…こんなこともできる」

 

地面を転がるような形で着地したボクを嘲笑う男は、更に右手を…いや!今度は、左手までもをボクに突き出したと思えば…今度は右手から氷塊を、左手からは巨大な岩が出現していて…!?

 

「(…ヤバい…!?)」

 

それが上級魔法のどれに分類されるかなど分からなくても、直撃するのはマズいと体勢をなんとか立て直し、すぐさま剣を振るう!

 

『イシスフィテル』の特殊能力である斬撃飛ばしを、単発ソードスキル〈ホリゾンタル〉で繰り出す。相殺できたのは右手から放たれた氷塊のみだったけど、それで十分…硬直が解けてすぐ、迫っていた岩石を躱す!

 

直撃はしなかったが、余波の衝撃波と礫が腕や肩、脚といった部分を掠め、更にHPが削られる…けど、そんなHPの減少など気にすることなく、ボクは前を見据える。

 

(無詠唱の上級魔法発動…その上に、シータと違ってロスなしので両手による同時詠唱可能………なんだ、それだけか…)

 

あれだけ偉そうなことを言っているからには何かもっと凄いものを持っているのかと思っていたけど…たかが魔法を同時に無詠唱で使えるだけなのかと分かり、ボクは思わずそんな暗い考えが浮かぶ。

 

あいつを倒す…それだけが思考を占め、怒りで胸がいっぱいにも関わらず、そんな冷静な分析ができてしまっていた。距離を詰めるための障壁としてはたったそれだけかと思い、笑みが零れてしまう。

 

「…?何がおかしい…」

 

「別に……あんな偉そうなことを言っておきながら、意外に大したことないって思ってさ。それのどこが凄いの?たかが詠唱しないだけで、使っているのは普通の魔法じゃん。その魔法を使うことができる人なら、ボクの周りにはいっぱいいるよ?そう思ったら、大したことないって思ったんだよ」

 

「っ…!?この…下等種族の妖精如きがぁぁ…!?」

 

聞かれたのに対して、答えるのに合わせてちょっと挑発すれば、簡単に冷静さを失ってくれた…再び両手をボクへと向けるも…そっきみたいにはいかないとばかりに、ボクは先に動き出した!

 

「っ!……どこに……そこかぁ!」

 

確かに魔法は速い…けど、速いのは弾速であって、放つまでとは話が違う。一気にトップスピードに加速した奴は、ボクを一瞬見失った。

 

出せる全力で壁際へと掛け続けるボクのスピードは落ちない…遅れて、奴は僕を補足して火と闇の魔法を放ってくるけど…それが到達するよりも早く、ボクは壁を駆け上がる!

 

システム外スキル『ウォールラン』…いわゆる壁走りで天井近くまで走った直後、ボクを追跡していた魔法は壁へとぶつかり、霧散する…その隙に、落下しながら魔法の詠唱を始める。使える数少ない魔法の中でも、そこまで詠唱時間が掛からない魔法を唱え終わると、片手剣に赤色の温光が宿る。

 

着地の硬直を狙って、岩の槍と氷のレーザーが襲い掛かってくるも、先に到達した槍を躱し、レーザーをすれ違い様に剣で斬り裂く!

 

「なぁ……バカな!?魔法を斬っただと…!」

 

「別に大したことじゃないよ…フォンができるんだ。こんな真似をすることくらい簡単だよ」

 

システム外対魔法スキル『切魔相殺(スペルインターセプト)』…以前、フォンが使っていた、属性をエンチャントした武器によってキリトが使う『魔法破壊(スペルブラスト)』を模倣した技だ。

 

火属性を付与した今の『イシスフィテル』であれば、水属性に該当する魔法であれば斬り裂くことができる…他の属性は無理だけど、奴はそれを知らない。

 

エンチャント魔法の効果時間は5分…闇以外だと火しか付与できない闇妖精族のアバターでは、今の状態で魔法を斬ることをできるのは水属性魔法だけ…硬直の起きるソードスキルは使えない。つまりは、5分で奴の眼前に接近して斬るしかないということだ。

 

(…これなら、いける…!)

 

魔法は見切れる…『イシスフィテル』にはHPが減るごとにDEF・AGIを上げる効果がある。多少の被弾であれば、ダメージはそこまで大きくない筈…一撃を喰らわせるには十分持つ筈だ。

 

「…すぅぅぅ……っ!」「っ…小癪な!?」

 

集中と共に大きく息を吸い、吐くのと同時に駆け出す!ボクを近づけまいと奴は魔法を連発させてくるも、ボクを狙ってくる都合上、左右に大きく動き回れば、多少の誘導をすることはできる!

 

だけど、魔法を躱す程のスピードを出すために、全力で動くことはそう簡単なことじゃない…ボクの体力が奴を倒すまで持つかどうか怪しい…けど、そんなことなんかどうでもよかった。

 

(…こいつだけは…絶対に許せない…!)

 

どうなろうとも、こいつだけは絶対に許しちゃいけない…その思いが怒りと共に剣を握る手と掛ける足へと力を注ぐ!

 

(……勝負!!)

 

風と雷の魔法によって、壁がえぐられ土埃が周囲に漂った瞬間、大きく剣を振るい、煙を周囲へと拡散させる!それにより、視界の確保が困難になったのを狙い、一気に前方へと突っ込む!

 

ボクが逃げるのを止めたのだと悟り、奴は魔法を放とうと両手をまっすぐ構えてくる…そして、ボクが予測していたようにやはり岩と…水の魔法を放ってきた!

 

(あらゆる魔法を自在に使えるみたいなことを言ってたけど…それにもパターンがある!火と闇、風と雷…そして、水と岩…それの繰り返しで同時発動の魔法は放ってきてる…さっきが風と雷だったのなら、そうだよね…!)

 

ただ思うがままにフィールドを駆け回っていた訳じゃない…確実に一撃を決めるために、攻撃パターンを分析していた…属性がランダムな単発は偶につかってくる程度で、主力は二種属性の同時発動魔法…だけど、NPCならではのパターンがあるはずだと思い、それを待っていたんだ!

 

小岩を拡散してきた魔法を…急所に当たる攻撃のみを見極め、真正面から突っ込む!頬と左腕に被弾するが、構わず更に加速する!そこに追撃と遅れて水の弾丸がかなりの数で飛来するも…

 

「…っ!?」

 

その軌道を見切り、ルートを確保しながら一部を斬り飛ばしていく!その甲斐もあって、奴との距離は飛び込めば剣が届く距離にまで接近できた!

 

「…いけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

この距離であれば、魔法を放つよりもソードスキルを発動させる方が僅かに早い!右手を後方へと引き、剣にライトエフェクトを宿す!

 

もらった!…その思いと共に、ボクは〈マザーズ・ロザリオ〉を繰り出す!右足の踏み込みにより加速した剣が、その一撃目を奴に届かせようと…!

 

…グワァン…!

 

「っ……えっ?!」

 

全く聞いたことのない音と共に突き出した剣が止まった…いや、〈マザーズ・ロザリオ〉を発動していた剣の紫のライトエフェクトまでもが消えてしまっていた!それどころか、奴に眼前で止まった剣を動かすことができなくなっていた。

 

(どういう……あれは…!?)

 

何が起こったのか一瞬分からなくなったボクの視界に、白と黒紫の障壁が奴を囲うように発生しているのが見え…それが奴の足元にある宝珠から発生していた。それが宝珠の効果によるものだと理解できたが、その直後に歪な笑みを浮かべた奴が無防備となっていたボクへと右手を突き出していて…!

 

「…っ!?きゃあああああああああああぁぁぁ…?!」

 

剣を動かせないボクはそれを防御することができずに、その身に炎を受けた!全身が熱く感じながら、後方へと吹き飛ばされ…地面へとその身を転がすことになり、回転が止まった時には、広場の入り口の近くにまで戻されてしまっていた。

 

「近づけば勝てると思ったのか?言った筈だ…お前が勝てる確率は100パーセントないとな…」

 

「うっ……ううぅ…!」

 

「これが宝玉の力!宝玉に秘められた加護の力だぁ!!我らの身血を糧に、全てを防ぎ止める力を発揮するのだ!」

 

そんな絡繰りが宝珠にあったんだ…完全にやられたと思いつつも、もう遅かった…HPはレッドソーンに突入していて、『イシスフィテル』の効果がなければ、完全にやられていたと思う。

 

…でも、それも多少早いか遅いかの違いなんだろうけど…

 

「うぅ…!(身体が……動かない…!)」

 

一気に大ダメージを負ったのと、HPがレッドになったせいで身体に酷い疲労感を覚え、すぐに体勢を整えることができない…地面に身を伏せている状態では魔法を避けることもできない。

 

「これで終わりにしてやろう!貴様が消えれば、宝玉は私のものになる!!」

 

(…やられる…!)

 

右手を掲げ、頭上に巨大な火球を発動させた奴は勝ち誇ったように叫ぶ…視線の先に見える火の魔法が、この後ボクを焼くのだろう。

 

このままではと思うのと同時に…心に影が差す…

 

(…あの時、フォンと別れてなかったら…フォンに酷いことを言ってなかったら……フォンと一緒に闘っていたら……こんなことにはなってなかった筈なのに…)

 

分かってた…フォンの言うことも一理あるって…フォンも全部を否定せず、話を聞いてから判断しようとしてたって…でも、ボクはそうすることができなかった。

 

シータが過去のボクと被って見えたんだ…病気のことで、虐められていたボクと…お姉ちゃんがいつも助けてくれてはいたけど…子供も大人も…ボクたちをまるで違う存在のように扱って…

 

日記を読んで、あんな奴とはいえ…親の為に行動していたシータが…子供の頃のボクに重なったんだ。

 

フォンにムキになってまで抵抗したのはそれもあった…そのツケが今になって回ってきたのだと…罰が当たったんだ。

 

(…ゴメン、フォン……)

 

せっかくフォンが助けてくれたのに…あんな酷いことを言ったにも関わらず、追い掛けてきてくれたのに……ボクのせいで全てを無に帰してしまったことに…悔しさで涙が流れそうになって…

 

「消えろォォ!」

 

叫びと共に振り下ろした右手に従い、火球がボクへと迫り…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思わず目を瞑ったボクを、何かが飛び越したような感じがして、つい目を開けてしまった…そこに映ったのは…

 

「…うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」

 

倒れ伏すボクの身体を飛び越した影が両手剣を大きく振り上げ、迫り来る火球へとソードスキルを繰り出そうとする光景だった!?

 

気合と共に緑光の剣筋は火球を斬り裂き…硬直に襲われたその身体はボクを庇うように立っていた。

 

「…フォ、ン…?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

どうして…いや、どうやって…!?

 

軽装装備で、ソードスキルを放ち終えた両手剣を振った状態で持つその姿…自爆魔法によってキルされてリメインライトとなっていた筈のフォンが、窮地を再び救ってくれたことに、ボクは信じられないといった気持ちに襲われていた。

 

 

 

【Phone View】

 

…広場に戻ってきた瞬間、地面に倒れ伏すユウキと、そんな彼女に止めを刺さんとばかりに火球を繰り出そうとするダークエルフの姿が見え、慌てて俺は背負っていた両手剣『エンプレス・ジェイル』を抜刀し、火球を両手剣単発ソードスキル〈サイクロン〉による『魔法破壊』を試みた!

 

正直なところ、キリトやユウキに比べると成功率は半々といったレベルだったのが…必死だったおかげもあり、無事に成功したそれは火球を見事に相殺できた。

 

「…フォ、ン…?」

 

いきなりの乱入に、ユウキが信じられないようなものを見ているかのような声色で俺の名を呼んだが…今の俺はそれに応えられるような状態ではなかった。

 

「…っ!かはぁ?!…ゴホッゴホッ!?ヒュー…ゴホゴホカハッ!??!ゴホッ…!」

 

「っ…フォン!?」

 

限界を迎えた身体が悲鳴を…いや、呼吸が完全に乱れ、膝を突いた…!息をいくら吸っても、苦しいのが止まらない…!?過呼吸の一歩手前の状態で、身体が急に酸素を求めているのがよく分かる程、頭の中に響く鼓動が全く収まらない!?

 

立っていることどころか、頭を上げることもできない…!呼吸をしなければならないのに、呼吸をすることが苦しい、という相反する事態に陥っており、俺の視界に表示されるユーザーフェイスには、過呼吸と心拍の乱れによるアミュスフィアの危険信号が表示される程のことが起こっていた。

 

(こうなるかもしれないと…覚悟していたとはいえ、ここまでキツイとは…?!)

 

今、自分は陥ってる状態になることを想定はしていたが…その想定を遥かに超える苦しみに、俺はなんとか回復しようと呼吸を落ち着かせようとしていた。

 

どうして、俺がこんな状態になっているのか…いや、そもそも、どうやって復活したのか…話は簡単だ。

 

 

俺は一度死に戻りしてきたのだ。

 

 

『仲間がいたのか…しかも、片割れしか仕留められんとは…所詮は紛い物というわけか』

 

『…!』

 

(っ…マズい!?)

 

リメインライトとなってから、ユウキが復活させてくれることを期待していたのだが…ダークエルフの言葉に、ユウキが完全にキレてしまい、冷静さを失くしてしまったことに気付いた俺は、復活させてもらうことを諦め、デスペナ覚悟でセーブポイントまで戻ったのだ。

 

もちろん死に戻りすることなど予想してなかったので、セーブポイントに設定していたのは新生アインクラッドの21層にある自宅なわけで…

 

いきなり戻ってきて寝室から出てきた俺に、リビングでゆっくりしていたカナデがビックリしていたが、それに謝罪する暇もなく自宅を飛び出した俺は、すぐさま転移結晶で猫妖精族の領地へと転移した!

 

防具『縁結を背負いし者』へと換装して、そこからエンカウントしたモンスターなど無視し、全速力で空を駆け、ダンジョンへと落下寸前の如く着地してからは、後のことなど気にせず、一本道を駆け抜けてきたというわけだ。

 

もちろん、全速力かつ息継ぎなど二の次に十数分の道を駆けて来れば…いくらⅤRとはいえ、脳に感覚や疲労が伝わる関係上、ただで済むわけがなく…到着と同時に過呼吸を起こしてしまったわけで…

 

(呼吸を…ととの、えろ…!早く…立ち上がれ!?)

 

 

間一髪、ユウキの危機を救えたとはいえ、まだ闘いは終わっていない。むしろ、これからが本番だ…なのに、身体が言うことを聞いてくれない!?

 

空気を補充するための呼吸をする度に喉が痛い…呼吸はまだ整わず、吐き気と共に酷く咳込む…!

 

「ゴホゴホ!?カハッ…!うううぅぅ…?!」

 

「…まだうろついているのがいたか…まぁ、いい。その状態じゃ何もできないだろう…女の前に、まずはお前を葬ってやろう!」

 

「っ…?!」

 

なんとか頭を上げることできるようになったが…それでも、身体はまだ言うことを聞かずじまいだ。そんな俺を仕留めようと、ダークエルフは左腕をこちらに突き出し、その手から雷の飛礫を放とうと、

 

「…させない!?」

 

4つの雷礫が向かってきたが、さっきの俺のように…回復できたユウキが前に出ていた。ソードスキル〈バーチカル・スクエア〉での水平4連撃は見事に魔法を斬り裂き、俺を窮地から救ってくれた。

 

「ゴホッ……すぅ……はぁぁぁ……ヒール…!」

 

「あっ……フォン………その…」

 

「…話は後だ。今は…あいつを止めるんだろう?」

 

「…!…うん!」

 

やっと呼吸が落ち着き、多少の疲労感を身体に感じるも、HPが危険域になっていたユウキを回復させるべく、腰のポーチに入れておいた回復結晶を使う。全回復したものの、お礼よりも何かを言い掛けたユウキだったが、それを制して今すべきことへと意識を共に向ける。

 

すぐに死に戻りしたこともあって、何があったのかは分からないが…キレたとはいえ、ユウキがダークエルフと闘っているということは、ユウキも迷いをどういう形でか振り切れたのだろう。

 

ならば、やるべきことはあとひとつ…狂った者に終止符を打つだけだ。俺とユウキがまだ闘うつもりだと悟り、仕切り直しだと言わんばかりに、奴は語り出した。

 

「…バカな奴らだ。たかが愚かな妖精共が二人になっただけで、私に勝てると思っているのか?」

 

「逆に聞きたいんだが、なんで勝てると思ってんだ、あんた…悪いが、俺たち二人が一緒なら…誰にも負けない自信があるぜ?あんたみたいに…絆から目を背けた奴なんかには特にはな」

 

「…なんだと?」

 

「あんたの日記を読んでて気になってたことがあったんだが…シータが宝珠のレプリカを使っていることや、ユウキを倒すために自爆魔法を行使させたのを見て、納得がいったよ。

 

…『紛い物がお父様と私のことを呼ぶ。何度痛めつけようとも、拒絶しようとも…お父様と娘と同じ声で呼ぶ。あんな偽物が私の娘の真似をすること自体、虫唾が走る』…そう書いてあったな」

 

「それがどうした…至極当然のことだろう?」

 

…ああ、ユウキがキレるのもよく分かる。こいつはPoHと同じ人種だ…いや、狂気と悲しみに呑まれて、そうなってしまったという方が正しいのだろう。

 

「シータは…いや、彼女の他にもいたホムンクルスたちはあんたが生み出したんだろう?なら、彼女たちにとって、あんたは父親とも言える存在じゃなかったのか!

 

あんたの都合で生まれた彼女たちにだって、その権利がある筈だろう!彼女たちを生み出したあんたにはその責任がある筈だろう!

 

彼女たちも…あんたの大事な娘なんだとは少しでも考えなかったのか!?」

 

「フハッ…!アハハ、フハハハハハハハハハハハハ!!…何を世迷言を…あんなもの、生み出したでも感謝してほしいものだ。私が生み出したものだ、私がどのように扱おうと、私の勝手だろうが!!」

 

「ふざけるなぁ!?」「ふざけないで!?」

 

これまでの行いから確信めいたものはあったが…奴の言葉に、俺は覚悟を決めた。それと同時に、ブチ切れたあまりに叫んだが、どうやらユウキも同じ思いだったらしく、俺たちの声が重なった。

 

「生きるってことは死に向かうことだ!だから、できること、やりたいこと、やらないといけないことを沢山しながら過ごしてるんだ!お前の意志でシータたちの人生を操っていいわけがない!」

 

「あなたにとって、シータはその程度にしか考えられないものだったの!?誰もが平等に…健康に過ごせるとは限らないんだよ!それを…そんなことも知らずに、子供の人生を好き勝手にしていいわけがないよ!あなたが親だっていうのなら…絶対にしちゃいけないことだよ!?」

 

「…はぁ~…わけのわからんことを…やはり馬鹿な妖精と話すことは100パーセント無駄だったか……もういい、私の眼前から消えないというのなら、排除するまでだ!」

 

言語モジュールに接続されているとはいえ、NPCとしては俺たちの言っていることを理解するには限界があったのだろう。

 

だが…例え、これがゲームだとしても…それがクエストの一環のストーリだとしても…こいつだけはこのままにしておけないという想いが俺の中で渦巻き、同じ想いであろうユウキも片手剣を構えていた。

 

「…こんな悲劇はここで終わりにするぞ、ユウキ!」

 

「うん…絶対に止めよう、フォン…!」

 

併せて両手剣を構え、背中合わせでダークエルフと向き合う。話は十分だと、両手を構えた奴を見て、ユウキが口を開く。

 

「あいつはシータみたいに無詠唱で、でも、違いとして両腕で二種類同時の魔法を放ってくるよ!しかも、上級まで含めて!」

 

「それはまた…どんなチート魔法使いだよ…!?」

 

「単発はランダム、同時使用の場合は、火と闇、風と雷、水と岩のパターンで来るよ!」

 

手短に説明してくれる最中、火属性の魔法と闇属性の魔法が飛んでくる!中級魔法『フレイム・ブラスト』と中級魔法『ヴォイド・スピアー』…火球と複数の闇の小槍を躱し、ユウキの言葉を体験していた。

 

「魔法による打ち合いでやり合うのが愚策だな…接近戦一択か」

 

「でも、近づいて攻撃しようとすると、剣を止める障壁みたいなのがあるんだ。マザーズ・ロザリオも止められちゃって…」

 

「マジか…発動を無効化じゃなく、剣自体を止める仕様か」

 

標的が二人になったせいか、右腕はユウキに、左腕で俺に魔法をそれぞれ繰り出してくるも、狙いを定める関係上、無詠唱とはいえ多少狙いにバラつきが出ていた。そのお陰もあって、ギリギリではあるが、ユウキとコミュニケーションが取れていた。

 

それにしても…まさか、マザーズ・ロザリオが止められるとは…!

 

(この前の、変異ボスとは違う仕様みたいだな…ソードスキルがっていうよりも、物理攻撃自体が止められるといったところか…)

 

本来であれば、レイドパーティを組んでの攻略が正攻法で、主力となる魔法ディーラーを守りながらと討伐する流れになっていたのだろう。

 

だが、俺たちは二人だけなわけで…強力な魔法もほとんど使えない。マザーズ・ロザリオが止められたということは、属性付きソードスキルも属性付与した武器も止められるということだろう。

 

「……ユウキ、ちょっと確認したことがある。わざと攻撃して、障壁に止められるから、フォローを頼めるか?」

 

「えっ…わ、分かった!」

 

ユウキから貰った情報を分析し、土属性中級魔法『ロック・ブラスト』による岩石の落下を避け終えたところで、俺はユウキに援護を頼み、装備を換装する!

 

両肩に追加装備である装飾『ヴァリアブル・イルモバ』…エメラルドカラーの宝石を中心とした追加装甲は、魔法への防御力を上げるだけでなく、走行時の空気抵抗を減らす能力がある。

 

重量は少し増すが、もともとが軽量装備である『縁結を背負いし者』を装備中だ…ほとんど変わりないどころか、薄くなっている防御力の向上を図れたのでいいぐらいだ。

 

ユウキが囮となって先行して飛び出すのに遅れ、俺は広場を少し大回りするような形で、奴へと距離を詰めていく。ちょこまかと動き回るユウキに気を取られ、俺が近づいているのに気付くの遅れた奴は、いつのまにか俺が接近していることに気付き、風と雷の魔法を放ってくる。

 

慌て過ぎて、初級魔法を咄嗟に使ってしまったらしく、『ウィンドウ・カッター』、『エレキ・ショット』による風の刃と雷の紋章が飛んでくるも、刃が掠めるも無理して前へと突進し、飛び込みながら剣を振り下ろす!

 

「っ…(この感じ、やっぱりそういう仕様か!?)」

 

ユウキの証言通り、全力で振り下ろした筈の剣が止まる…いや、もっと正確に言えば、剣の力をゼロにされたというべきだろうか。受け止められたのではなく、軌道そのものがなくされた感じがした。

 

「…フォン!」

 

魔法が放たれる直前で、タゲが外れたことでフリーとなっていたユウキが俺を身体を横から掻っ攫うようにタックルしてくれたことで、障壁に捕まっていた剣が離れ、俺の身体も解放された。

 

その直後、・魔法が空を切ったわけだが…すぐに追撃の魔法が飛んできて、一度距離を取らざるを得なかった。

 

「確認したいことは分かったの?」

 

「ああ、バッチリとな。それと…あの障壁の攻略の仕方もな。いいか、ユウキ。俺が………‥……………………、って感じだ。一撃で決めるにはこれしかない」

 

「……分かった。任せといて!」

 

作戦を手短に伝え、迷うことなく応えてくれたユウキと併せて再度接近を試みる。この作戦の要はユウキだ。その目と腕を信頼してこその連携であり、武器の性質をも考えると、そうなってしまうのだ。

 

俺たちが一纏めになって突貫してくると悟り、ダークエルフは両腕を真っ直ぐに伸ばして、魔法を乱発してくる!小規模の攻撃は躱すことすら諦め、ただ単に距離を詰めることだけに集中する。

 

半端な魔法では足止めできないと判断したらしく、パターン通りに水と岩の上級魔法を使ってくる!ここで速度と手数の多い連撃魔法までを使ってくるとは驚くも、それで俺たちが止まるわけもなく…!

 

「…でりゃああああああああぁぁぁぁ!!」

 

アイコンタクトを躱し、先に飛び出したユウキが気合と共にソードスキルを発動させる!片手剣7連撃ソードスキル〈デッドリー・シンズ〉が水と岩で形成された斧たちを斬り飛ばす!その影を追い越すように抜いた俺も、一気に距離を詰めるべくソードスキルを発動させる。

 

幻想剣《両手剣》重3連撃ソードスキル〈クラッシュ・エンカウンター〉…斜め十字斬りは空を斬るも、その勢いをも加わった最後の回転突きが、ダークエルフへと迫る!

 

…グワァ…

 

だが、もちろん奴の障壁を突破することができず、突き刺した両手剣が止まってしまい、ソードスキルも解除されてしまう。

 

「何度やっても無駄だぁ!貴様らの武器では、この障壁を破ることなどできはしない!?」

 

三度目となる行動に、ダークエルフは完全にこちらを嘲笑い、今度は逃がさないとばかりに魔法を放とうと右手を…

 

「それはどうかな…!」

 

「っ…!?」

 

だが、俺の言葉に嫌な予感がしたのか、その表情が微かに曇る…もう既に遅い。俺にここまで接近を許した時点で、作戦はほとんど終わったようなものだった。

 

「…ヴォーパル・ストライク!!」

 

硬直が解け、いつでも動けるように控えていたユウキが、背後から駆け出していた。片手剣に宿った赤き燐光を解放した時、ジェット音と共に加速したユウキの剣は、障壁に阻まれている俺の両手剣の柄頭を押し出すようにヒットした!

 

…グ、バキッ…!

 

二種類の鈍い音…ソードスキルの直撃を受け、ダメージを負った両手剣のひび割れる音と、障壁に罅が入る音が重なったものだ。

 

この障壁の特徴は『衝撃をゼロにする』というものだ…さっきわざと防がれるのを覚悟で振った剣の感覚からして、そうだと確信した俺はユウキにこう頼んだ。

 

『俺が剣を障壁に突き刺すから、それをソードスキルで押し込んでくれ』と。

 

システム上の仕様として、振ってきた武器の衝撃をゼロにする=無効にする仕様となっていたのだろうが…それはあくまでも直接的な攻撃に対してのみだ。一度防いだ武器を、外部からの攻撃によって無理矢理押し出すという方法には対応していないわけで…

 

「…っ!?な、ぐおおぉおぉぉぉぉ?!」

 

障壁が罅割れたのが信じられず、慌てて魔法を使おうとするも…それよりも早く、障壁が砕け散り、勢いに押された両手剣がダークエルフの胸元へと突き刺さった!

 

そして、阻むものがなくなったその無防備な身体に止めを刺すべく、俺は剣を握り直し、ソードスキルを発動させる!

 

「…これでダメ押しだ!エンド・オブ・フォーチュン!!」

 

突き刺さっている状態から、奴の身体を振り切りように剣を操る!胸元から袈裟斬りのように、横に一回転する勢いで奴の身体に巨大な刃を振り抜いた!

 

「がぁぁ…ぐううぅぅぅうううぅぅ…!?」

 

…胸元への突きと、身体に大きく広がる切創…誰がどう見ても致命傷だ。反動で後退り、硬直に襲われた俺と傍に駆け寄ったユウキが、奴の動向を警戒しながら見張っているも、ダメージエフェクトに染まる奴は膝を突き、

 

「…まだだぁ!?こんなことで…こんな程度で私を止められると思うなぁぁぁ!?」

 

「「っ!?」」

 

まだ動けたらしく、絶叫と共に奴は地面に置いていた宝珠を両腕で触る。何かを注ぎ込むかのようなポーズに見えたが、それが文字通りそうしているのだと気づいたのは、奴から異様なオーラが見えた時だった!

 

「っ…!?止めろ!宝珠に自分の残った命を全て注ぐつもりか!?」

 

「それは少し違うなぁ!?私の持てる才能を100パーセント引き出すために、宝玉の力を利用するのだぁ!!娘ほどではなくとも…私の悲願を達成するためにも、ここで死ぬわけにはいかないのだぁぁ!?」

 

命を賭す行為ではと思わず待ったを掛けるが、それとは違い、宝珠の力を無理矢理に引き出すのだと、ダークエルフは言う。そんな企みが上手くいくのかという懸念が頭を過ぎるも、オーラはどんどんと強くなっていき…そして、その懸念が当たることになった。

 

「…ぐああぉ!?や、止めろぉ!!宝玉の加護が…‥‥わ、私が…私でなくな…があああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!?」

 

「「っ?!」」

 

宝珠から光と闇を連想させるような光が漏れ出し、逆にダークエルフへと注ぎ込まれた。絶叫と悲鳴が入り混じるも、もう止めることはできないようで…歪に膨らんだと思った次の瞬間、ダークエルフの身体は一気に変貌した。

 

「…馬鹿野郎が」

 

その変わり果てた風貌を見て、俺は思わず声が漏れた。

 

膨らんだ身体は二メートルを超えるであろう大きさになっており、褐色の肌は古木とよく似た樹皮のように枯れ肌となっており、さっきまで狂気な科学者面を見せていた顔は肥大化し目や口、鼻といった期間は空洞となって、まるで人面樹といったばかりの姿に変わってしまっていた。

 

『The life sucker of Yggdrasil』…訳して『世界樹の生贄となった者』という名のモンスターとなってしまったらしく、さっきまで表示されていなかったHPゲージが表示されるも、二本あるうちの一本が既にゼロとなっており、まるでこれが第二形態だと暗に示しているように思えた。

 

「そこまでして…そんな姿になってまで家族を取り戻したかったんだろうが…本当に…家族が、お前にそこまでさせることを望んでたと思うのかよ…!」

 

「…フォン…」

 

「止めるぞ、ユウキ…!こんな悲劇はもう懲り懲りだ…全部終わりにするぞ!」

 

「…もちろん!」

 

今回のクエストは本当に散々なことばかりだ…ここまで展開させる運営…というか、正確にはクエストを作り出したシステムに物申したくなるレベルのことがまた起こっているわけだが…それを終わりにできるのは俺たちしかいないのもまた事実で…

 

ユウキと共に意識を再び闘いに集中させると、待っているのはもう終わりだといわんばかりに、ボスは両腕が変貌した巨大な二つの枝から四つの魔法を放ってきた!

 

そこもパワーアップしているのかと驚きつつも、散開して攻撃を躱す俺たち。降り注ぐ魔法から逃げながら、さっきの連携で半壊し耐久値が限界を迎えた『エンプレス・ジェイル』をストレージにしまい、新たに片手剣『クロス・サヴァイブ』を装備する。

 

その時、眼前にシステムの通知が届き、

 

【一時的に飛行が可能となりました】

 

…なるほど…あの巨体にどうやって攻撃しようかと考えていたところだったが、どうやらこのボス戦は飛行がメインとなるようだ。

 

ユウキの方を見ると、どうやら同じ通知を受け取っていたらしく、俺たちは互いに翅を展開し、空へと飛翔した。

 

ダークエルフがボスに変貌した影響で、ダンジョンの天井も消失しているらしく、多少は高く高度を取ることもできるようになっていた。

 

『オオオオオオオオォォォォォォォォォォ…!?』

 

さっきまでの理性溢れた姿は完全に消え、獣の如くボスは雄たけびを上げて、魔法を連発してくる!一気に四つの魔法を放てるようになった代わりに、理性を失ったせいか、さっきのように上級系魔法を使ってくる気配はなかった。

 

「(っ…!?それでも、中級と初級が入り混じるこの弾幕網を突破するのは楽な話じゃないな…!)…ユウキ!俺がヘイトを集めるから、ディーラーを…」

 

「フォン、見て!?何か様子が変だよ!」

 

俺ではこの弾幕を掻い潜るのはかなりキツイと判断し、ユウキのサポートに回ろうかと思って作戦を伝えようとするも、ユウキの言葉に俺はボスへと視線を向ける。

 

魔法を放ち続ける巨枝の他に…背後から真っ黒な枝が更に二つ生えてきたのだ!まだ魔法を放つ元が増えるのかと警戒していると、その枝先に二つの属性エネルギーが集結し始めた!

 

(なんだか知らないけど…このまま放置するのはマズいか!)

 

放置するのは危険だと判断し、ユウキに本体の攻撃を任せ、俺は単独で新たに出現した枝の方へと飛んで行こうとしたが…それよりも早くチャージが完了したのか、炎と氷を宿した黒枝の先端がぶつかるように合わさり…

 

…次の瞬間、世界が止まったとか錯覚するような衝撃波がフィールド全体に襲い掛かった!

 

「「…うぅぅ!?」」

 

防御する間もない範囲系の大技に、俺とユウキは反応することも敵わず、もろに喰らった!?全身に振動が走った時には波動によって壁へと叩き付けられていたほどだ。その上、デバフ付きの攻撃でもあったらしく、痺れる身体とは別に、酷い耳鳴りに襲われ聴覚が封じられていた!?

 

これまでブラインドといった盲目や、魔法が発動できない詠唱封じの沈黙といった状態異常は見たことがあったが、まさかの聴覚そのものを封じてくるとは想像しておらず、これではユウキと密な連携を取ることができなくなってしまった。

 

その上、あの衝撃波による大技はかなりのダメージを与えてくれたらしく、軽装装備の俺やHPを全快にしていたユウキまでもが、再びレッドゾーンにHPが突入していた!

 

(…っ!またチャージを…さっきのは初回で早かったのか。あれに比べればかなり遅いが…そう何度も喰らえるものでもない…!?)

 

十数秒で放たれたさっきの技は初回として必ず発動する類いのものだったのだろう。さっきのそれに比べれば、チャージする時間がかなり遅くなっていたが…ボスは再びあの技を放とうと黒枝に…今度は雷と風の属性を集め始めていた。

 

スタンが解け、なんとか痛む身体を動かし、追撃とばかりに放ってくる魔法の嵐を避ける。

 

(…ここで…終わっていいわけがない…!まだ…!?)

 

次の大技が打たれる前に阻害し、そして、ボスの残ったHPバー一本を削らなければならない…長期戦は圧倒的な不利だと悟り、耳鳴りが酷いせいで集中できない思考を無理矢理働かせようとしていた時だった。

 

(まだ終われない…そうだよね、フォン!)

 

「っ……ああ!」

 

聞こえる筈のないユウキの声が聞こえ…いや、頭に響き、思わず応えるように声が漏れた。再びボスに接近しようと翅を操り、空を駆ける俺だが…そんな中、不思議な感覚を味わっていた。

 

(これは…なんだ?…まるで、)

(これは…なに…?…まるで、)

 

視界に入っていないのに、ユウキがどの位置にいるのか…いや、どんな動きをしているのかが分かるような感じがしていた。

 

確かにアインコンタクトをすれば、多少の意思疎通を取るくらいのことができるという自負はあるが…今の感覚はそれすらも生ぬるいと思える程に…まるでユウキと感覚を共有しているかのように、完璧な意志疎通が取れるといっても差し支えない程に互いのことが分かれるように…

 

(…ユウキになったみたいだ…)

(…フォンになったみたいだ…)

 

さっきのが幻聴ではなかったように、互いの声が頭に響く。耳が聞こえなくても…声を掛けなくても、視線を交わすことなく…互いにどう動きたいのか、どう動いてほしいのか…全てが理解できるような感覚に陥ったような気分だ。

 

(フォン、魔法が上と左からくるよ!)

 

(っ…!了解、まずは隙を作る!ユウキは牽制を!本命は俺がやる!)

 

(任せて!フォンは突っ込むことだけを考えて!魔法の軌道は、ボクが全部見切る!)

 

頭に響く声に従い、遅れて飛来してきた魔法を旋回することで回避する。この状態なら、即座に連携が取れる!迷うことなく互いをカバーしながら空を縦横無尽に駆け、飛び交う魔法の嵐をすり抜けていく。

 

何が起こっているかは分からないが、この状態を活かさない手はない…思考によって、ユウキと息を合わせ、俺たちは互いをフォローしながら魔法の包囲網を躱しながらボスへと肉薄する。

 

「っ…これで…どうだ!」(いくよ、フォン!)

 

さっきまでとは全然違う俺たちの動きに対応しきれないボスは接近を許し、人面を思わせる顔へと斬り掛かったユウキの片手剣2連撃ソードスキル〈バーチカル・アーク〉に気付き、咄嗟に普通の魔法を放っていた枝を防御に回し防ぐ!

 

だが、そうするように誘導したユウキの合図に合わせて、上部から急降下した俺がその隙間を掻い潜って、奴の目らしき場所へと片手剣を突きつける!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ…!」

 

赤紫のライトエフェクトを纏った剣が片目らしき穴を貫き、そこを起点にもう片方の穴へと回転斬りを放つ…幻想剣《片手剣》重2連撃ソードスキル〈ブレイス・ホイール〉によって、急所らしき部位を連続して傷つけれらたことで、ボスが悲鳴を上げる!

 

『ギャアアアガガガガアアアアアアアアアアァァァ?!』

 

(おっとと…!手当たり次第に攻撃してきたよ!)

 

(視界を一時的に失って混乱しつつ、暴れまくってるようだが…あの黒枝はボスの意志とは無関係で動いてみたいだな…次はあれだ!)

 

(オッケー!)

 

目を傷つけられたことで、放っていた魔法を止め、二つの巨枝を乱雑に振り回してきたボスだったが、あの大技を放った黒枝は未だに魔法を収束しようとするのを止めない。チャージなどもうさせてたまるかと、思考を共有した俺たちはそれぞれの黒枝へとすぐさま飛ぶ!

 

(合わせろ、ユウキ!)

 

(うん!)

 

同時に叩くべきだと、思考でタイミングを合わせた俺たちは剣を構え、そのままの勢いでソードスキルを発動させる!風を収束させていた右手をユウキの〈バーチカル・スクエア〉が、雷を収束させていた左手を俺の〈ホリゾンタル・スクエア〉が…水平と平行の片手剣4連撃が、全くのズレなく同時に黒枝の先端へと剣戟を刻む!

 

『グゴゴゴゴゴォォォ…!?』

 

どうやら今の収束しつつあった属性が霧散したらしく、黒枝に集まっていた魔法エネルギーが消えた。それに気付き、冷静さを取り戻したボスは、自分の上部にいる俺たちを撃ち落とそうと再び魔法の弾幕を放ってくる。

 

(決めるぞ、ユウキ!)

(決めるよ、フォン!)

 

その合間を掻い潜るように飛び落ちながら、俺とユウキは勝負を決めると剣を構えようと…

 

(っ…!この感じって…!?)

 

(…!ユウキ!俺の思っているように剣を振ってくれ!)

 

(えっ……分かった!!)

 

ソードスキルを発動させようとしたその時、俺の持つ剣とユウキの剣に宿っていたライトエフェクトが変化した。ユウキはいきなり起こった現象に驚いていたが、俺はそのライトエフェクトから、もしかしてと思い、ユウキにソードスキルのイメージを伝える。

 

その時、ユウキの目がこれまで見たことないものに変わっていることに気付いた…心意のオーバーロードによる金色でも、映現世の剣と完全同調したことによる銀色でもなく……ルビーのような赤い目の動きの軌道を表わすかの様な光が追従していることに…そして、ユウキの剣に反射して映る俺の目にも同じ光の軌道が発生していることに気付いた。

 

だが、今はそれよりも眼前のボスへと集中すべきだと思い、肉薄したボスの顔面目掛け、俺たちはソードスキルを繰り出す!

 

「はあああああああああああああああああああああぁぁぁ!!」

「でりゃぁあああああああああああああああああぁぁぁぁ!!」

 

鏡合わせの如く、右斜め斬りからの袈裟・逆袈裟・兜割りの切り捨て、そこから縦列さんれ撃突き…そこに止めの一撃を繰り出すべく、二人揃って剣を背後へと大きく構えると…片手剣の刀身を遥かに超えるオーラが形成され…!

 

「「これで……最後だあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

因縁を断ち切るように、古き樹木の巨体を真っ二つにする如く、俺とユウキの声が重なり、同時に最後の一撃…ユウキが使える筈のない、幻想剣《片手剣》7連撃最上位ソードスキル〈ファントム・スイープ〉の二つの7連撃目が、ボスの巨体を斬り裂く!

 

『ぐわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!』

 

地上近くまで続いた剣戟は7割近くまで残っていたHPを全て削り切り…最期の悲鳴を上げるかの如く空へと咆哮する様を見ながら、俺とユウキは地面の僅か上を滞空しながら見ていた。

 

それが…ダークエルフの心の痛みを表わすかのように…樹木の巨体が根から岩のように固くなっていき…そして、徐々にその身体がポリゴンへと変わっていった。

 

『……我が家族よ…今、君たちの…もとに…』

 

絶叫を最期まで続けるボス…だが、全身が岩に変わり果てる直前、まるで憑き物が取れたかのように悲しく笑ったように見えた直前、そんな声が聞こえたような気がして…その全身が一気にポリゴンへと変わり、俺たちの周囲にその光の破片が散りばめた。

 

「…終わったん…だよね…?」

 

「そう…だな」

 

戦闘が終わったのか、それとも時間経過で回復したのか…聴覚が元に戻っているのと同時に、さっきのような感覚がいつのまにか解けていることに気付く間もなく、ユウキの言葉に俺もぼんやりとだが応える。

 

終わった、勝ったのだと…そう思うと、全身を張り詰めていた力がドッと抜けて…

 

「「…つ、疲れたぁ~……」」

 

もう思考が共有しているような状態でもないにも関わらず、同時に気の抜けた俺たちは背中を合わせるような形で地面へと座り込み、安堵の息を吐くのだった。

 

 




…まさかの物理で解決しにくるとは…(苦笑)

チートアイテムも便利なスキルもない…なら、物理で解決すればいいじゃないか…!今回、フォンがキルさせるにあたって、どうやって復活させようかと考えた結果、まさかの物理技に頼る形となりました(笑)

時間的に厳しいかと思っていたのですが、

・ユウキとダークエルフが会話する時間…2分ちょっと
・戦闘時間=エンチャントバフが切れるギリギリ…6分ちょっと
・止めを刺される直前…1分ちょっと

…計10分前後……よしいける!という感じでして…
フォンには死力の限りを尽くしてもらいました…まぁ、残念ながらどこぞの鬼殺隊士みたいな呼吸法はマスターしておりませんので、あの神楽を使ったかのような反動に襲われましたが…流石に愛の力だけではどうにもならないこともあったということで…(苦笑)

そのせいか、攻略法も魔法に頼らない物理が中心となったお話となりました。改めて、純粋な魔法ディーラーであるカナデの大切さがよく分かったかと(笑)

本作では魔法に相性が存在する形にしており、火と水、光と闇がそれぞれ相対する属性となり、同威力では相殺されるという形になります。久々に出したオリジナルシステム外スキル『切魔相殺(スペルインターセプト)』も上記、または下記の属性相性に則ったものになります。
また、風・土・雷は三すくみとなっており、風→土→雷→風…といった感じで相性の優劣が存在する設定となっております。
…まぁ、ソードスキルで相殺する『魔法破壊(スペルブラスト)』にはあんまり関係なかったりするのですが…(そして、意外にもフォンの場合、成功率が50%という事実。マザーズ・ロザリオの頃よりは成長してますが、やっぱりキリトやユウキの反射神経がヤバイんですよね…)

さてと…サブタイでも表現しておりましたが…まさかの新要素がここでお披露目となりました!これが、本作でのロスト・ソング編での新機能となり、本章で先行登場させる形となりました。
詳しい解説は次回となりますが、心意の派生形でもあるこの新機能は『レゾナンス』という名称になります。だから、サブタイが『共鳴する個性』というものだったわけです。
実はプロット段階では、キリト編で初披露するつもりだったのですが、あちらは解決手段をキリトに譲ったのと、やっぱりそういうお披露目はユウキたちヒロインでやりたいと思ってのシナリオを変えた形になったのでした。

…ということで、なんとか一段落着いた…わけもなく、ある意味次回が本章のもう一つの本題となるわけでして…激闘を終えた二人がどのような答えを出すのか、そして、二人に何が起こったのか…ユウキ編最終話にご期待頂ければと思います!

次回、ユウキ編が最終話となりますが、その後の更新スケジュールについてお知らせできればと…
流れとしては、カナデ編(3話予定)→???編(1話)→アスナ編(3話予定)→ユージオ&アリス編(3話予定)を考えております。
映画も休みの日に鑑賞でき、プロットのシナリオに多少追加要素を加えるだけでいいと判断できましたので、ちょっと順序を変える形にはなりますが、上記のスケジュールで更新していく予定です!
彼女のファンの皆様はもうしばしお待ち頂ければと…

なんとか年内にはキャラエピを終わらせ、次章に入れればなと考えておりますので、もうしばしお付き合いください。

それでは、また!


P.S. アンケートの途中経過を見たのですが、某トレジャーハンターが圧倒的すぎて…そして、まさかの予想外でユイのエピソードが二番手という…そんなに皆さん、キリトとアスナが困っているところがみたいのか、それとも、ユイの人気が高いのか…作者は判断に困ってます(苦笑)
〆切はキャラエピの更新が終わるまでですので、まだ投票されてない方は一票を頂けるとありがたいです!

キャラエピソード第2弾 どのキャラのお話が見たいでしょうか?

  • 某トレジャーハンターF
  • リーファ
  • シノン
  • シリカ
  • リズベット
  • ユイ
  • クライン
  • エギル
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