あと、菊岡さん初登場+キリトこと、和人との再会回になります
それでは、どうぞ!
それから一週間
両親と感動の再会、精密検査、警察の取り調べ、俺が寝ている間に世の中で何が起きていたのか……などなど、色々と慌ただしかったのだが、これだけははっきり言おう……
ほとんどが初めての出来事すぎて、もう俺の頭はパニック寸前だ。
まず、両親。
確かに俺の両親…………訂正しよう。俺が元いた世界とそっくりの両親と再会した時には、俺の心境は複雑だった。
知っているはずだが、俺にとっては初めまして、なのだから、どう接すればいいのか、距離感を掴めずに困っている。
ちなみにどうして俺が入院していたのかというと、
なんでも道路に飛び出した猫を助けるために自分も飛び出し、車にはねられる……ことはなかったのだが、
側道に強く頭を打ったらしく、意識が戻らない状態だったらしい。
そこで医療用VR機器……たしか《メディキュボイド》といったか……に接続して、検査しようとなった時に、SAOの回線に巻き込まれ、事故でSAOにログインしてしまった……らしい。
なんともベタな展開だと、自分でも笑うしかなかった。
精密検査は、筋肉の衰えの問題はあったが、特段異常はなく、リハビリすれば、元の生活に戻れるだろう、とのこと。
次、警察の取り調べ……そこで俺は茅場が死んだことを聞かされた。
なんでもSAOがクリアされた時に、大出力の脳スキャンを行って、死んだらしい……
あいつのことだから、なんやかんやで生きてそう気がするが……
あと、俺をALO、というゲームに閉じ込めていた主犯の……確か、須郷とかいったか……奴も捕まったらしい。
どうやら俺やアスナ以外にも、100人近いSAOプレイヤーをVR世界に閉じ込め、非人道的な実験を行っていたらしい。
最後は、発狂して、少年を病院で襲おうとして、返り討ちにあったらしい……なんとも哀れな最後だ。
最後は、この世界の常識だ。
この世界では、俺がいた世界よりも科学……主に
IT技術が進化しているらしい。まぁ、VRMMOなんてジャンルが確立しているくらいだ。ある意味、当たり前か……
まぁ、3Dディスプレイが実物化していると知ったときにはカルチャーショックを受けたが……
と……激動の一週間を過ぎたところで、俺の生活はようやく落ち着いた。
そんなことを思い出しながら、病室のベッドでゆっくりしているときだった。
コンコンコン
「……?はーい」
ノックが聞こえ、俺は外の人に入っていいことを伝えた。
「失礼するよ」
「……すみません、どちらさまでしょうか?」
「ああ、これは失礼……僕はこういう者です」
部屋に来た謎の訪問者から名刺を渡され、それを見る。〈総務省SAO事件対策本部:菊岡誠二郎〉と書かれていた。
「よろしく、音弥蓮君……いや、夢幻の戦鬼、フォン君と呼んだ方がいいのかな?」
「……すみません、気分が優れないんで、帰ってもらえますか?」
「す、すまない!……少し空気を和らげようと」
「…………あんた、人から信頼されにくいだろう」
「……アハハ」
図星かよ……俺の指摘に苦笑いしている菊岡さんを俺はジト目で見つめていた。
「オ、オホン……改めまして、菊岡って、言います」
「……どうも」
「フゥ……ファースト・インプレッションは失敗かな?申し訳ないんだが、SAOの世界で何があったのか、色々と話を聞かせてほしいんだ……一応、お医者様の許可はもらっているだけど……」
「……構いませんよ……ちょうど、暇でしたから」
「そうか……それじゃ「その代わり」」
菊岡さんの言葉を遮った。菊岡さんは思わず、面食らっていた。
「条件が一つあります……それを聞いてくれるなら、話しますよ」
「僕でできる範囲なら……なにかな?」
「ある人に、俺がここに入院してることを伝えてほしいんです」
「……それは、一体誰にだい?」
「黒の剣士……キリトにです」
ということで、更に三日後。
コンコン……
「……どうぞ」
「し、失礼します……」
控えがちな声の後に、姿を現したのは……もちろん……
「……よう、キリト」
「…………また会えたな……フォン……」
もう会うことはないと思っていた、戦友キリトだった。キリトも俺を見て、信じられないといった表情をしていた。
「そうだ。ちなみに俺の本名は音弥蓮だ……蓮と呼んでくれ」
「そ、そうだった……プレイヤーネームはマナー違反だったな。俺は桐ヶ谷和人。俺も和人と呼んでくれ」
「桐ヶ谷、和人……ああ、本名をもじったのか……」
「まぁな。安直だろう?」
「……そうでもないさ。アスナに比べれば、マシだろう?」
「アハハ……そうだな」
こんな他愛もない会話ができる……SAOをクリアした時やALOでキリトと別れた時には、こんなことができるとは思ってもみなかった。それはキリトも同じだったようだ。
「……それで……その、聞いてもいいのか?」
「うん……?何をだ?」
とりあえず近くにある椅子に腰かけたキリト……もとい和人は恐る恐る尋ねてきた。
(……ああ、そういうことか……)
「……茅場が言っていたことか?」
「……ああ」
「…………分かった…………少し長くなるが、いいか?」
「……もちろんだ」
そこから俺は話し始めた……茅場の言った意味、それが俺はこの世界の住人ではないことを指していたこと。和人たちの世界が俺たちの世界では、小説の世界の話だということ。和人と明日奈の関係を知っていたこと。SAOに関して、知っていることもあれば、知らなかったこともあったこと。幻想剣と自分が本来いないはずの10001人目のプレイヤーであったこと。ALOから生還した際、何故か現実の体もSAOに来てしまっていたこと……全てを話した。
「………………………………」
「…………これで全部かな」
俺の話は終わった。話を聞いていた和人は、最初は驚きまくっていたが、今は冷静に事実を受け止めているのか、さっきから黙ったままである。
……やっぱり軽蔑しただろうか?
「…………はぁ~~……なるほどな」
「……か、和人さん……?」
ため息をつき、空を見上げた和人に、思わず敬語交じりのしゃべり方になってしまった。
「蓮……ありがとな」
「……えっ……?」
和人から予想外の言葉が出てきた。
……ありがとう……?なんで……?
「な、なんで……?」
「えっ……いや、だって普通は別の世界にきて、帰れるかどうかも分からない状況だったんだし、それなのに俺やアス「そうじゃなくって!!!」蓮?」
「……俺はお前たちを騙してたんだぞ!それだけじゃない、俺は74層の軍の暴走だって知ってた!お前がクラディールに襲われるのもだ!全部知ってて、しょうがないって、見逃した……!お前にお礼を言われる資格なんて……ないんだよ……!!!」
「……………………………………」
俺は思いの丈を叫んだ。
……今日、会ったことだってそうだ……俺は間違いなく、和人に嫌われると思った……それを覚悟して、全てを告白した……なのに……こいつは!
「……はぁ……はぁ……!」
「…………俺はそうは思わない」
病み上がりなのに、思わず叫び、息を切らした俺に和人ははっきりと言った。
「お前は、黒猫団の事件で俺やサチを助けてくれた。それだけじゃない、ディアベルやシリカだってそうだ……お前がいなかったら、死んでたやつだって、本当はいたんじゃないのか?」
「……っ…………!」
「……むしろ、謝らないといけないのは俺の方だ」
「和人……?」
「……お前が異世界から来てるなんて知らずに、あんなに頼って。アスナと出会うまで、俺はSAOをクリアすることに、生き残ることを考えるだけでいっぱいだった。ゲームさえクリアすれば、現実世界に帰れるって……
だけど、お前は違ったんだよな……
茅場との決戦だって……本当は俺が戦って、負けてたんだろう?
……それを回避するためにお前が…………」
「………………………………」
「……その後の戦いだって、お前がいなかったら、お前が知ってるように絶対負けてた。だからだよ。俺はお前に感謝してる……恨んでなんかないさ……」
「っ……か、ずと…………」
「……まぁ、恨んでることがあるとしたら、二度と会えないくせに、お礼を言う前にとっとと消えたことか?あの後、アスナたちもかなり心配してたんだぞ?」
「…………そう、なのか?」
「……だからさ……気にするなって」
「………………………………分かったよ」
その言葉に、俺のどこかで救われたような気がした。
最悪、殴られる覚悟もしてたのだが、
(……本当……キリトには敵わないな)
そう思った。
「そうだ!そういえば、蓮がいた世界って、どんな感じだったんだ?」
「お前……それを聞くのか?」
さっきまで感動していたのに……デリカシーのない和人の言葉に俺は思わず苦笑いしてしまった。そこからは時間がくるまで、色々な話をした。
和人の妹の話、ALOというVRMMOの話、明日奈や俺を助けるまでに何があったのか、帰還者学校のこと……
時間が来たことで、エギルさんやクラインたちの連絡先を教えてもらい、その日は別れた。
後日、連絡先が分かる仲間たちに無事を知らせた。怒られたり、心配されたりしたが……
皆、俺が無事だったことを喜んでくれたのだった。
オリ主も決して、強い人間ではないということです