ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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本日二話目の更新となります。前話をご覧になっていない方はご注意下さい。

頭使うのは変わらず、そして、後日談ではできなかったちょっと真面目なお話もします。

それでは、どうぞ!


カナデ編② 「その背中を信じて」

「これはまた…デカいな」

 

その一言が全てを物語っていた…一片500メートルといったところか?東京スカイツリーが確か634メートルだから…それよりは小さいが、巨大な辺を持つ立方体が俺たちの眼前に鎮座していた。

 

その大きさに圧巻されるのもあったが、その巨大なキューブは斜めに傾いてるような形で、一角のそれぞれが上下へと細い柱で天井と地面へと繋がっていた。そして、俺たちがいる通路から中に入れるような入り口が見えているので、とりあえず向かってみることにした。

 

「異様な光景というのは、こういうことを言うのじゃろうな」

 

そんなカーディナルの言葉通り、中はまた凄い光景が広がっていた。四角が視界いっぱいに入ってくるといえば正しいのだろうか…キューブの中は無数の空っぽな立方体が散在していたのだ。

 

外から見たキューブとは異なり、辺だけで構成されているために空っぽな立方体と表現したのだが…もっと分かりやすく言うのなら、理科の授業で出てくる分子構造を表わすあれで立方体を作ったものだと表現すれば、更に想像しやすいだろうか。

 

そんな無数の立方体が思うがままに不規則に回り続けている。縦に回っているものもあれば、横や斜め…そのスピードさえも同じものもあればそうでないものまで…まさしく無数のパターンがあると言っても過言ではないだろう。

 

そんな異様な光景を見渡しながら、俺たちは通路を歩いていく。通路はキューブの中心…さっき外から見えた部屋の上下に繋がっていた柱へと連なっていたらしい、支柱へと到達する。

 

反対側の通路はなく、しかし、さっきとは異なり、柱の向こうへと視線を向けると、閉ざされてはいるが出口らしき扉が見えた。ということは、この試練をクリアすれば、あの扉が開くということなのだろう。

 

そんなことを思っていると、今度は岩で形成されたシステムメッセージが表示され…

 

【観察の試練…唯一の箱を操作し、次の試練へと繋がる道を作り出せ 3/3】

 

「観察の試練か…ってことは、この無数にある立方体の中から正解を探し出せということか」

 

「そういうことじゃろうな。それで、最後に表示されたのが回数制限じゃろうな」

 

「この中からって……もう数えるのが億劫になるほどの数の中からか…?」

 

シンプルなお題だが、視界に入らないことがないこれらから正解を導き出せと言われれば、げんなりするのも無理ない話で…冷静に周りを見渡すカーディナルと違って、俺は眉を顰めていた。

 

【このフロア限定で、飛行が可能となりました】

 

どうやら近くに見に行くことは可能らしく、通知にて飛行が可能となったことが告げられるも…このやるせない感の前ではどうしようもない気がする。

 

「ひとまず思い思いに見て回ってみるか?」

 

「そうじゃな。一応言っておくが、不要に触れぬようにな、フォン」

 

「分かってるよ」

 

好奇心に駆られて動くことはあるが、そこまで子供ではない…カーディナルの釘指しに、俺は苦笑しながら翅を展開し、フロアを見て回る。

 

立方体は大小バラバラ、同じ速度で回転をしているものもあれば、そうでもない…どれもが一緒に見えてくるような気もするほどだ。番号が振られていないこともあって、さっき見たものをもう一度…いや、これは見てないか…?

 

(…ヤバい…あまりにも同じ立方体を続けて見ているせいか、そこら辺の区別がつかなくなりそうだ…!)

 

あまりにも同じものを見るせいか、頭痛を覚えてきた…さっきの試練のことも考えると、単純に問題を呑み込むべきではないのかもしれない。そう思い、立方体ではなく、フロア全体へと視点を向けるも…今度は全く模様がない壁面しかこのキューブにはなく、そうなると、問題文の方を読み解く必要があるのだろう。

 

「どうだった?」

 

「ふむ…わしが見た感じだと、唯一のものというのはなかったような気がした」

 

「俺もだ。ヒントも見当たない以上、答えをあの問題文とこの空間から見出せってことなんだろうな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「…?どうした、カーディナル?」

 

「うむ…少し引っ掛かることがあってのう。それが何かが分からぬのじゃが…」

 

「そうか…とりあえず、3回までミスが許されるのなら、何か一つ適当に動かしてみるか?」

 

「…頼めるか?」

 

ともかく、何か手掛かりを掴めないかと、適当な立方体を動かしてみることになった。カーディナルの傍から離れ、再度立方体の群体へと目を向ける。斜めにゆったりと回転している掌サイズの立方体が気になり、俺はそれへと触れる。

 

触れた立方体は回転を止め、俺の手の中に収まった。これは動かせるということなのかと思い、そうしたのだが…

 

…ブッブブー…!

 

(…不正解ってわけね)

 

予想に反して立方体はびくともせず、とてもあからさまなSEがキューブ内に鳴り響き、おもわず顔が引き攣った。まぁ、当てずっぽうでどうにかなるわけがないか、ちょっと落胆しつつも、俺はカーディナルの元へと戻った。

 

「流石にそう簡単はいかぬか」

 

「だな。これで正解だったら、拍子抜けだ…だが、状況は変わらずか」

 

カーディナルの方も予想通りだったらしく、苦笑しながらも出迎えてくれたが、状況はあんまり芳しくない。不正解になっても、やはり救済ヒントらしきものは出ない…謎は全然解けていないのには変わりないのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「…カーディナル、どうした?」

 

「フォン…もう一度立方体を見てもよいか?」

 

「えっ…あ、ああ」

 

さっき言っていた、引っ掛かっているという何かが気になっているのか、カーディナルは立方体の群体へと目を向けていた。そして、翅を展開したカーディナルは…さっきとは違い、周囲を飛び交うのではなく、キューブの中央辺りへと滞空し、周囲へと視界を向ける。

 

(唯一の箱…なんじゃ?さっき見て回った時に感じた何かがあった筈なのじゃ…この四角が飛び交う空間の中に…答えがある筈じゃ…!)

 

(カーディナル…何を探しているんだ?)

 

何かを見極めるように目を配らせるカーディナル…その真意を図りつつも、集中している彼女の邪魔をしてはいけないと、その様子を見守る。

 

(全てが同じに見える…正解の箱などないのではないかと思えるほどに……唯一の箱…?)

 

何かに気付いたのか、カーディナルの視線が激しく周囲を彷徨う。

 

(さっきの試練も…思い込みを利用した試練じゃった。これも同じものだとしたら…?例えば、この立方体の中に正解がないとしたら……もしそうじゃとしたら…!?)

 

その視線は一つ一つの立方体を見比べるかのように、無数のそれらを手早く見渡しくその姿に、どうやら確信を得たらしい。

 

「(あれも……あれも……やっぱりそうじゃ!ということは…このフロアにある唯一の箱とは……もしそういうことならば、どうしてここに限って飛行ができるようになったのかも納得がいくのじゃ…!)…フォン!」

 

「っ…分かったのか、答えが!」

 

「おそらくのう…じゃが、可能性としてはこれ以外に考えられぬ」

 

こちらへと降り立ったカーディナルは、まだ絶対という自信はないが、それでも答えを見出したらしい。見当がついていな俺からすれば、どういう答えを導いたのかが気になったが…次にカーディナルから告げられた答えは驚くものだった。

 

「この中に正解は存在せぬ…それがわしの答えじゃ」

 

「…えっ…はああぁぁ?!」

 

正解はない…その推理に驚いて叫んでしまう。どういうことだと、俺はカーディナルへと視線を向けると、カーディナルはその根拠を説明し始めた。

 

「まず、この立方体の中に唯一のものは存在せぬ。全ての立方体に同じ大きさ、回転の向きや速さ、それらが共通する相方が存在する。つまりは、二組で一つの立方体がこの空間に散在しておる」

 

「…ま、マジか…確かに似ているのが多いとは思っていたが、まさか全部にそれぞれ相方がいるってことなのか?…って、よく分かったな、カーディナル」

 

「わしも最初は違和感程度じゃったが…さっきの試練のことを思い出して、ふと思ったのじゃ。この中に正解は存在するのか、とな…そう思って、改めて立方体を見渡して気付いたのじゃ…その法則がこの群体にはあるとな」

 

「それでも、この無数の群体からそれを全部見極めるなんて……あっ…」

 

「前にも言ったじゃろ?物を見分ける場数をそれなりに踏んできたと」

 

夏休みの終わりに攻略したログハウスの改築に関わるクエスト…その時にも、カーディナルの観察眼に関する話題が出たが、まさかここまでのものだったとは…

 

ここに散在する立方体の群体にそんな法則があるとは…いや、例え気付いたとしても、それら全てを見極められるかと言われると難しい…しかも、こんな短時間で全てをなど…俺にはまずできっこない。

 

それを平然とやってのけたカーディナルに呆然としつつ、この群体の中に正解がないのだとしたら、結局答えはどうなるのかと考えていると、

 

「答えは存在するぞ、フォン。というよりも、ここに来たときから存在しておったがな」

 

「えっ…でも、立方体の中に正解がないのなら…まさか、中央にある柱が正解、っていうわけじゃないよな?」

 

「残念ながらハズレじゃ。じゃが、目の付け所は悪くないがのう」

 

そんなわけないよなと思いつつ答えると、苦笑いと共にカーディナルからそんな返答が返ってきた。

 

「問題文を思い出してみよ。『唯一の箱を操作し、次の試練へと繋がる道を作り出せ』とあったじゃろう?そして、入り口の反対側には、出口らしき閉ざされた扉があるが、そこに通路はない…そして、中央にある柱が、外から見た時にあった天井と床に連なる柱に繋がっているとして、そして、ここでのみ飛行ができるようになった…そのことを踏まえると、答えが見えてくるのではないか?」

 

「…………!ま、まさか…そういうことなのか…!」

 

言われたように問題文を思い出し、挙げられた要点を纏めていくと…まさかの答えが頭に浮かんだ。確かに…そう考えれば、さっきの試練同様に納得がいくわけだが…

 

「分かったようじゃな。ならば、やることは一つじゃろう?」

 

「だな…よし、早速やってみよう!」

 

同じ答えに辿り着いたことを察したようで、笑うカーディナルに不敵な笑みを返して応える。俺たちは翅を展開して、しかし、全く真反対の方向へと飛んでいく。

 

「…こっちはいつでもいいぞ、カーディナル!」

 

「こっちもじゃ!カウント合わせで同時に動かすぞ」

 

互いに配置についたことで、タイミングを合わせて同時に動かそうとする。俺のカウントでそれぞれが手を動かす。

 

「いくぞ!1、2の……3!!」

 

そのカウントによって…斜めになっているキューブの角…カーディナルが一番上部の頂点を、一番下に位置する頂点を俺が動かす!

 

さっきの立方体とは異なり、そのあまりにも大きすぎる部屋に関わらず、スムーズにキューブは動き出し、俺とカーディナルの手によって部屋の構造もそれに伴って動き出す!

 

「…なるほどな…確かに、これなら『唯一の箱』を動かして、『次の道』を作り出せれるな」

 

唯一の箱…カーディナルの言う様に、俺たちはここに来た時からそれを目にしていたわけだ。

 

他の立方体よりも遥かに大きく、しかし、唯一動くことなく鎮座していた…俺たちが中にいるこのキューブそのものが答えだとは、スケールが大きすぎる結論に唖然としてしまう。

 

だが、それが正解だと言わんばかりにキューブは動き続け…入り口に繋がっていた通路が、今度は出口へと繋がれたことでギミックが動き、閉ざされていた扉が上へと開いた。

 

【観察の試練を突破せしことをここに認める…汝、あらゆる事態を見渡せる目を持つ者なり。この先の最後の試練に心してかかるがよい】

 

そんな岩の文字が表示され、最初の試練同様の激励と次が最後だという告知に、俺たちは覚悟を決め、通路を渡って行った。

 

 

 

「次で最後か…できることなら、あんまり頭を使わないで済むものにしてほしいな」

 

さっきと同じような狭い通路を歩きながら、俺はそんなことを呟いていた。最初といい、さっきの試練といい、頭を使わされる試練が続いたことで、短時間でありながらちょっと疲れてきたからだ。

 

そんな俺を見て、カーディナルは苦笑と共に肩を竦める。

 

「どうじゃろうな…最後ということは、下手をすれば、一番難しい試練かもしれぬぞ?頭を最大限使わなければならないようなレベルのな」

 

「うわぁ、それはまた…俺的にはⅤRMMOにまで勉強漬けは勘弁してほしいんだが。多少は身体を動かしたいよ…」

 

「まぁ、ボス戦であれば、その機会もあるじゃろうに。そうであることを期待するのじゃな」

 

最後の試練も厄介そうだと思いつつ、これまで二つの試練を突破してきたこともあり、多少は余裕が持てている。焦らず対処すれば、攻略できる可能性はあるだろう…そう思っていた俺たちが軽口を叩いている中、俺は前から気になっていたことを尋ねることにした。

 

「なぁ、カーディナル…前からちょっと気になっていたことがあるんだが」

 

「うん、何をじゃ?」

 

「…やっぱり使い魔を使役する気はないんだよな?」

 

「…あー…そのことか」

 

俺の疑問…というよりも、確信を持った指摘に、珍しくカーディナルが罰の悪そうな笑みを浮かべ、返答に困窮していた。そこまで困らせるつもりではなかったのだが、彼女からすれば答え辛い質問ではあるだろう。

 

「…そうじゃのう。お主の言うように、今は考えておらぬよ。ALOをプレイする際に、アバターの説明を見ていた時には少し頭を過ぎったがのう」

 

「…やっぱりシャーロットのことか?」

 

「……わしにとって、あやつは特別じゃったからな。だから、使い魔を使役できると聞いて、猫妖精族を選んでしまった。選んでから、あやつの代わりなど誰にも務まらぬと気づいたのじゃがな…」

 

俺やユウキが予想していたのは、魔法が得意な水妖精族か風妖精族アバターをカーディナルは選ぶのではないかというものだったが…あの一件を踏まえて、どうしてカーディナルが猫妖精族を選んだのか、俺なりにもしかしたらという考えがあったのだ。

 

カーディナルにとって、一瞬代わりを求めてしまうほどに、やはりシャーロットの存在は大きかったのだろう。

 

全魔法取得のためのこのクエストに挑戦している今なら、それを確かめられるのではないかと思ったのだが…余計なことを聞いてしまったかと少し後悔していると…

 

「じゃが…あやつとの思い出はここに…わしの記憶の中にしっかりと残っておる」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「アンダーワールドと切り離され、多くの記憶が思い出せなくなった今でも、書物に封印せずにフラクトライトに残しておったお陰で、シャーロットのことは覚えておる…わしの記憶の中であやつは今も一緒じゃ…それに…」

 

何かを思い出すように懐かしみ、そして、笑みを浮かべたカーディナルは俺の方へと視線を向けると、

 

「今のわしにはお主やユウキといった大事な家族がある。キリトたちという頼りになる仲間がおる…そう思えば、シャーロットの代わりを探そうという選択肢などもう露も思うことはない…わしはもう一人ではないのじゃから…そうじゃろう?」

 

「…ああ、もちろん…そうだとも」

 

あの時とは…孤高の数百年を過ごしてきたあの時とは違う。シャーロットはもう傍にいなくとも…彼女の遺志をその胸に思い、前に進むのだというカーディナルのその姿は、少し前に見せていた自暴自棄の姿とは全く別のものだった。

 

そんな変わった彼女の頭を帽子の上から優しく撫でる…ちょっと抵抗されるかと思ったが、抗議されることはなく、しかし、少し頬を赤らめせた彼女はそれを受け入れてくれた。

 

「も、もうよいじゃろう!さっさと最後の試練へと向かうぞ!」

 

…だが、やはり恥ずかしかったらしく、数秒の内に耐え切れなくなったカーディナルが頭を振るって手を払い、先へと進み始めた。そんな姿に、溜息を吐きながらも後を追うのだった。

 

 

 

【最後の試練…番人を打ち倒し、我らにその力と智を証明してみせよ】

 

「…なんとまぁ…最後は至ってシンプルなお題だな」

 

通路を歩き終え、辿り着いた奥地…奥行きが深い長方形の空間に足を踏み入れた瞬間、雷を思わせるエフェクトによる文字が浮かび上がり、見た俺の口からそんな感想が漏れていた。

 

番人…ということは、どうやらボス戦らしいと考えるも、広場には俺たち以外には誰もいない。奥には儀式の祭壇を連想されるような3メートルほどの台があるが…そんなことを思っていると、

 

「…!フォン、誰か祭壇の上におるぞ!」

 

「えっ!…人…?っ…あれは…?!」

 

祭壇にある人影に気付いたカーディナルに言われ、祭壇へともう一度視線を向けると…いつの間にか誰かが祭壇の一番上に現れていた。それにも驚いたが、更に俺を脅かせたのはその姿だった。

 

「…黒い…カーディナル…?!」「わしが…もう一人じゃと…!?」

 

そう…祭壇の上にいたのは、猫妖精族特有の獣耳と尻尾を持つアバター…隣にいるカーディナルにそっくりな人物だったのだ。違いがあるとすれば、向こうは影に等しいほどに黒い色合いをしているのと、目が目立つように真っ赤であるといった点か。

 

しかし、驚いている俺たちに構うことなく、黒いカーディナル…ややこしいので、偽物と呼称するが…あいつはどこからか取り出したのか、その身を超える大きな棍棒を取り出しかと思うと、

 

…ドオオォォォン…!

 

それを降ろすように振るった瞬間、俺たちの眼前…広場の真ん中に真っ黒い何かが盛大な地響きと共に降り立った!

 

「黒い…人形か…?」

 

楕円の11の体…頭部が1、身体が2、腕がそれぞれ3、両足で2…まさしく人形といっても差し支えない真っ黒な巨人が俺たちに立ちはだかっていた。

 

「なるほどのう…これが番人というわけか」

 

「分かりやすくて、逆に助かるよ。ようはこいつを倒せばいいってことだな」

 

杖を構えたカーディナルに、俺もストレージから片手剣『クロス・サヴァイブ』を装備しながら答える。やることが分かりやすいと安堵していたが、そんな俺たちの前にある通知が表示されて…

 

【この戦闘では、ソードスキルでのダメージが全て無効化されます】

 

「「なぁ…?!」」

 

まさかの縛り通知に、俺とカーディナルの声が重なる。

 

カーディナルはまだ魔法メインだからいいとして、物理アタッカーであるある俺からすれば、この戦闘ではディーラーを担うことができないと宣告されたわけで…しかも、わざわざ『ソードスキルでダメージを与えられない』という書き方をしているところから見て、付与属性でのダメージも無効化されるということなのだろう。

 

だが、そんな俺たちを待ってくれる時間はないようで、通知が消えたのと同時に偽物が棍棒を動かすと、それに連動した巨大人形が同じ動きをし出した!

 

「…!フォン、炎の範囲魔法が来るぞ!」

 

「えっ、どうし「いいから、早く回避行動に移るのじゃ!?」わ、分かった!?」

 

詮索する時間もないまま、俺とカナデは散開する形でその場から離れたが、その数秒後…右腕を構成する楕円の一つ…腕の先端のそれから周囲に炎が撒き散らされたのだ!

 

カーディナルの忠告通り、事前に避けていたことで直撃は避けられたが、かなりの範囲にまかれた柵のような炎の魔法を俺は以前にも見たことがあり…

 

「中級魔法の『フレア・カーテン』…!?これって…!」

 

「フォン、次がくるぞ!今度は足元じゃ!」

 

「っ?!」

 

驚いている暇もなく、今度は右足を上げた人形がそのまま地面を踏み下ろした瞬間、俺やカーディナルの足元やそれ以外の場所に紫色の光が出て、次の瞬間には闇属性の棘が地面から出てきていた。

 

「今度は闇属性中級『ヴォイド・スパイク』か!?」

 

またしてもカーディナルの予想が当たり、ギリギリで回避に成功するも、いきなりの魔法ラッシュに息を吐く暇がない。なんとか体勢を整えたいところだが…

 

「フォン、こっちに来るのじゃ!次の魔法であれば、大丈夫じゃ!」

 

「…!分かった!」

 

その言葉を疑うことなく信じ、一気にトップスピードで駆けて行き、カーディナルの元へと向かう。追撃の魔法を放とうと、人形が今度は左腕を向けて来ていたが、カーディナルも負けじと詠唱を始めており、先に詠唱し終えたカーディナルの眼前に魔法の障壁…中級魔法『プロテクト・カーテン』が出現し、俺を追って放たれた氷の礫…水属性初級魔法『アイス・バレット』を無効化していた。

 

「サンキュー。助かったぜ、カーディナル」

 

「まだ安心はできぬ…次の魔法も…防げるが、この時間の間に戦法を決めねばな」

 

「とりあえず様子見だ。不可解なことがあるし、もう少しパターンを見切りたい。カーディナル、なんで奴が次に使う魔法が分かるかだけ、教えてくれないか?」

 

「簡単なことじゃ…祭壇におるわしの偽物が先に詠唱を始め、それが終わった数秒後に人形がその魔法を使っておるのじゃ。それに…これは推測じゃが、奴は上級魔法をつかってこれぬのではないか?」

 

「どうして……っ!?そうか、お前の偽物だからか!?」

 

稼げて数十秒…要点のみに絞ったやりとりの中、どうしてカーディナルが次の魔法を予知できたのかを教えられ、俺は一つの可能性に思い当たる。

 

「実に意地の悪い試練だな…最後は自分自身との闘いってことか?」

 

「それも、術者本人は安全なところにて、人形に闘わせるという…ある意味、魔法使いらしい闘い方でのう…!」

 

わざわざカーディナルの姿をコピーしたわけ…それは、魔法を使う媒体としてこの試練におけるギミックが発動したせいなのだろう。そして、カーディナルが使える魔法を、奴は全て使ってくるという仕様なのだろう…確かに、使える魔法が多ければ、多いほどにこの試練は難易度が増す、そういう意味ではとてもバランスが取れた試練だろう…どのみち、難易度が高いことには変わりないわけだが…

 

皮肉を言い合いながら、右腕で放たれた火球…中級魔法『フレイム・ブラスト』が魔法障壁に直撃し、罅が入る…これ以上は限界と悟り、俺たちは再び回避に専念する。

 

「俺はこの試練、ほとんど攻撃としては役に立たない!注意を集めるから、隙を見て魔法をぶつけてくれ!」

 

「任せるのじゃ!」

 

障壁が使い物になる前に、そんなやりとりをしてまた散る…その最中、高速換装スキルで盾『ドボルベルク』と曲刀『ゴジ・サーペンティア』を装備する。今回の俺は完全に非力な立場だ…こういうボスには状態異常の付与も効果が及ばないことが多いだろうが…だからといって、できないことがないわけではない!

 

「これでも喰らっとけ!?」

 

左足による蹴りの動作…それが風属性中級魔法『トルネード・キャノン』の発動動作だったようだが、直撃を受けないように最低限の動きで躱す。横を通り過ぎた暴風の余波を受けぬよう盾で身を庇いながら琥珀色のライトエフェクトを曲刀に宿す!

 

肉薄するのと同時に右足に二撃、返ってきた左足に一撃…逆三角形の軌道を描くように放ったソードスキルが全連撃直撃する…もちろんダメージはないが、その効果は目に見えて現れた。

 

(…よし!どうやら20パーセントの賭けのうち、いい奴を引いたようだ!)

 

幻想剣≪曲刀≫3連撃ソードスキル〈ラック・アクローチ〉…威力はそれなりだが、連撃を放ち終える速度が速く、硬直も少ない使い勝手のいいソードスキルだが…この技の一番の恐ろしいところは、曲刀に多い確定デバフの付与だ。

 

対プレイヤーには一秒ごと0.5%ずつHPかMPが減少するデバフを、対モンスターには攻撃力・防御力・スピード・抵抗値・回復力のどれかを確定で20%低下させる恐ろしい能力があるのだ。

 

まぁ、3連撃全てを直撃させることがあるのと、デバフの種類はランダムであるため、狙ったものを付与することが簡単ではない、同じデバフは重複しないという欠点はあるが、高架時間もかなり長いため、長期戦では結構重宝する技だ。

 

その証拠に、さっきまで魔法を放ち続けていた人形の動きが一気に鈍くなり…狙っていたスピードダウンのデバフを受けたようだ。偽物も、人形が思う様に動かなくなったのに、動揺しているようだ。

 

(これで少しはゆとりができた…だが…)

 

人形の動きが鈍ったところで、詠唱していたカーディナルの雷魔法が直撃するも…人形はダメージを受けた様子はなく、直前に攻撃してきたカーディナルにヘイトを向けていた。

 

そうはさせるかと、今度はがら空きになった背中に曲刀で斬り掛かるが…やはり同じようにダメージが入った様子はない。

 

(やっぱりそういうことか…こいつにはHPが存在しない…!?)

 

いや、ダメージを与える云々の話ではない…カーディナルの魔法も通じないということは、人形のHPバーが見当たらなかったのにも納得がいく。対峙した時から、こいつにはHPを表示するバーが…それどころか、ネームドさえも見えなかったのだ。

 

もしかしたらカーディナルの偽物の方が本体かと思ったのだが、あっちにもネームドやHPバーは見当たらない。つまりは、戦況に関して今どの状態にあるかが把握できないということだ。

 

(頼みの綱のカーディナルの魔法も効かないなんて…このボスにも、何かカラクリがあるってことか!?)

 

顔面の楕円に稲妻が走ったと思うと、次には中級魔法である『サンダー・ジャベリン』が飛んできて、俺とカーディナルそれぞれに雷の槍が降り注ぐ!

 

このままでは防戦一方だと歯がゆい気持ちに襲われていたが…少し離れた場所にいたカーディナルが叫んだ。

 

「フォン!注意を惹きつつ、敵の魔法を誘発してくれんか!」

 

「…っ!分かった、任せろ!」

 

訳など聞く間もなく、即座に了承した俺は『バトルシャウト』のスキルを使う!再び俺にヘイトが集まり、人形が左腕を俺へと向ける!さっきとは異なり、腕を大きく振りかぶるその動作に、別の水属性魔法が来ると盾を構えて迎え撃つ!

 

だが、俺はあくまでも囮であり、本命は…!

 

「…っ!そこじゃ!」

 

俺目掛けて水属性中級魔法『フリーズ・ランサー』による氷塊が飛んできた直後、詠唱を手短に済ませたカーディナルの火属性初級魔法『ファイア・ボール』が左腕に直撃した!氷塊を盾で逸らしながら、その軌道を見ていた俺は…

 

「…そういうことか…!」

 

左腕を構成する楕円の一つ…三つのうち、魔法が直撃した真ん中が黒から赤い色へと変わっていた結果に、どういう原理かを理解した。

 

「各部位ごとに属性魔法を放ってきておったからな…さっき胴体に雷の魔法が効かなかったからもしかしてと思ってのう」

 

「ってことは、各部位にその属性に反する魔法を当てれば…あの人形を倒せるってことか!」

 

「おそらくのう…フォン、まだ余力はあるか!」

 

「もちろん…カーディナル、お前は魔法を撃つことに専念しろ!あいつの攻撃は俺が全部受け止める!」

 

明確なダメージが加わったことで、人形が少しばかりたじろいでいた。その隙を使い、合流を果たした俺たちはフォメーションを整える。カーディナルを庇うように、前衛に立った俺は高速換装スキルを発動させる。

 

盾『ドボルベルグ』はそのままに、予備スロットである5番を選択し、防具一式を換装する!完成率80%…実践テストをどこでできればと思っていたが、ちょうどいい機会だ!

 

トパーズを思わせる黄色の重装甲に、身体の全身を巡る紫色のツーラインアクセント…そして、俺が使う防具の中では珍しいフルフェイスにより目以外の全てをカバーしたそれらを装備し終えた直後、鎧の重みが俺の体に伸し掛かった。

 

試作防具04…対モンスター用防御特化&重装備使用想定防具と共に重槍『エレファス・ボーデン』を右手に装備し、盾を左手に構え直し、更には対魔法装備ということで、両肩に装飾『ヴァリアブル・イルモバ』を追加装備した。

 

「行くぞ、カーディナル!」

 

「うむ、頼むぞ、フォン!」

 

攻略法さえ分かれば、話は早かった…人形が中級魔法までしか使ってこないというのなら、気を付けなければならないのは範囲攻撃だけになるわけで…魔法防御に特化したステータスになった俺は飛んでくる魔法を悉く受け止め、そのカウンターとしてカーディナルが魔法を叩き込んでいく。

 

水属性を放つ左腕には火属性魔法を、火属性を放つ右腕には水属性魔法を、闇属性を放つ右足には光属性魔法を、風属性を放つ左足には雷属性魔法を、雷属性を放つ頭部には土属性魔法を、身体を構成する上部の楕円は土属性の魔法を放ってくるので風属性魔法を…それぞれの楕円の数ぶんぶつけていく!

 

そして…

 

「…これでラストじゃ!」

 

回復を適宜に挟みながら、俺の前後によって魔法の攻防を繰り広げられていたが…それも終わりを迎えようとしていた。

 

残った最後の部位…身体の下部を構成する楕円は光属性魔法を使うようで、放ってきた光属性中級魔法『ホーリー・ランス』による貫通攻撃をいなし、カーディナルが闇属性初級魔法『ダーク・スフィア』を直撃させたことで…人形に変化が起こる!

 

まるで不具合を起こしたロボットのように、不器用な動きになった…と思いきや、各属性の色に染まっていた楕円だが、その色が急激な様々な色をランダムに点滅し出し、全身から異常な魔力が溢れ出し始めたのだ!

 

「最後の足掻きってことか…ヤバそうな一撃がきそうだな」

 

「…じゃが、よく見よ。全身が点滅している中、身体の中心が一つだけ黒いままじゃ。あそこに魔法を叩き込めれば…!」

 

両腕を上空へと掲げ、全身から集束していく魔法を見て、敵も決死の足掻きをしようとしていると察する。その魔法は全属性魔法『ビフレスト・レゾナンス』によく似ているが、あちらとは違い、人形が発動させようとしているものは一つの塊へと集まっていた。

 

あれを防ぎ止めるには生半可な防御は通用しないだろう…ならば、手段は一つだ。

 

「カーディナル…お前は前だけを見てろ。あの攻撃は俺が受け止める…!」

 

「…本気か?流石のお主でも、ただで済むとは…」

 

「大丈夫だ…俺を信じろ!絶対に、お前には被弾させたりはしないから」

 

「……分かった!お主を信じるぞ、フォン!」

 

首だけを振り返らせ、フルフェイスに僅かばかり存在する隙間…そこから目を覗かせ、カーディナルと視線を合わせる。無茶なことを言ってるのは分かっているが、あの大規模攻撃を連発されれば、こちらに勝機はない。

 

ならば、この一撃で勝負を決める必要がある…カーディナルも、俺の言葉を信じたらしく、いつでも動けるように構える。

 

「…すぅぅ……っ!?」

 

息を大きく吸い、持っていた重槍を放り投げながら飛び出す。ドボルベルグを右腕に持ち直し、左腕でメニューを開いて、もう一つの盾を装備する!

 

重盾『パラギアス』…真円形の白銀に金の円装飾が施された盾を左腕に構える。人形が魔法を放つまでもう数秒もない中、軌道を予測して跳躍する!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」

 

二つの盾底を地面に叩きつけるように構える…盾スキル『イノセンス・プロテクト』を発動させる。向かってきた攻撃を左右に分離する強力な防御スキルだが、もちろんそれ相応のデメリットも存在するが、今の俺には大して関係ないことで…!

 

無言で構えていた両腕を振り下ろした人形の動きに従い、複合魔法が放たれる!それに真っ向からぶつかった二つの盾に衝撃が走ると同時に…爆煙と轟音が響き渡る。

 

いくら魔法防御を上げているとはいえ、衝撃までを殺すことができるわけがなく…HPが半分にまで減った程度で済んだものの、鎧と盾らは半壊寸前にまで罅割れ、俺も大きく後方へと後退りさせられたが…!

 

(…カーディナル!!)

 

(…任せるのじゃ!!)

 

とんでもない勢いに押され、肺にあった空気が全部押し出されてしまうような圧迫感に襲われる。声が出ないが…きっと伝わるという確信に近い感覚を覚え、俺は心の中で叫ぶと、頭の中にカーディナルの声が響き…俺を追い越して、彼女がフィールドを駆ける!

 

「これで……終いじゃ!!」

 

大規模魔法を放ち終え、僅かに反動に襲われていた人形の胸元に飛び込んだカーディナルが、空中で詠唱をする!初級魔法ゆえに短い時間で唱え終わったその魔法…『エレキ・ニードル』が魔法杖の先端から放たれ、唯一残った黒い楕円へと突き刺さる!

 

『…?!?!?!!?!?!?!?!?!?!?』

 

ここにきて、初めて人形の声らしきものを聞いた気がする。いや、声というよりも、機械がエラーを起こしたような音と言った方が適切か…そんな感想を抱きながら、カーディナルの一撃によって人の形をしていた楕円の塊が崩れていくのを優雅に眺めて…

 

(…フォン!)

 

(分かってる!!)

 

…いられなかった。魔法を放ち終え、地面に着地したカーディナルの視線の先…思考を共有しているからこそ、まだ終わってないというその意志に応えるべく、俺は高速換装スキルを発動させ…すぐさま、それを抜いた!

 

『…ガァ…?!』

 

音がした時にはもう遅かった…短い悲鳴と共に、操縦棍で何かをしようとしていたカーディナルの偽物の体が硬直する。その背後には振り抜いた刀で残心を取る俺の姿があり…

 

幻想剣≪刀≫最上位ソードスキル〈俊過瞬刀〉…『蒼炎の烈火』と刀『真猛丸』に換装してすぐさまはなった技は、認識できない高速の一振りとして偽物を縦に一刀両断した。

 

硬直が解け、反動で全てのステータスが1/4に、HPが2割まで減少するも、刀を鞘に納める途中で棍と偽物の体が真っ二つになり、ポリゴンへと変わった。

 

刀を納刀し終えたところで、振り返った俺とカーディナルは…互いの健闘と勝利を祝うように、サムズアップし合って笑みを零していた。

 

 




一気にボス戦までで書き切りました…これで、カナデ編は終わり…ではなく、もう少しだけ続きます!

次回はエピローグっぽい、滅茶苦茶甘いお話になります!もう宣言しときます、はい!! 
ソードスキルと防具に関しての解説も次回で全部行います!


それでは、また!
次回更新13日0時

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