まぁ、アスナといったら、やっぱり料理関係かなと思っていたのですが、プログレッシブを見て、今回の話にシフトチェンジしたわけです(なので、プロット段階から真っ新にして考え直したというお話でもあるわけで…)
そういうわけで、お待たせしました、皆様!遂に彼女の…登場の筈だったのですが……?
意外なあの姿が登場です!それでは、どうぞ!
注意!SAOP『星なき夜のアリア』に関する盛大なネタバレがございますので、映画をまだ視聴されていない方は、ご注意下さい!?
「でも、良かったね、ユウキ…フォン君、凄い嬉しそうだったし」
「うん!本当にありがとうね、アスナ!…でも、なんでか今日になったら、顔が青くなってたんだよね、フォン…」
帰還者学校からの帰り道…明日奈とお茶をして帰ることになった木綿季は、昨日行われたフォン…蓮の誕生日会について話していた。
実は木綿季から相談を受け、誕生日プレゼントの候補決めや買い物に明日奈は付き添っていたのだ。妹のような木綿季が頑張った結果が報われたことに、明日奈の方も嬉しくなっていた。
…まぁ、当の主役は早々に帰宅し、この後に控えている母親からの追及に顔を青くしているわけなのだが…
「でも、ゴメンね。アスナも受験勉強とかで忙しいのに…」
「大丈夫だよ。ちゃんとそこら辺は時間を取ってるし…この前の模試も成績良かったから」
「アスナは凄いなぁ…フォンも勉強できるし。なんかちょっと劣等感…」
「ユウキもかなりできるじゃない?テストとかも結構いい点数を取ってるでしょ?」
「そうだけどさぁ…そうなんだけどさ…!」
明日奈や蓮レベルのできると、自分のできるレベルとちょっと格差があることに、流石の木綿季も苦笑いして頭を抱えるわけで…明日奈もフォローの言葉が見つからず、目線を明後日の方へと向けていた。
「まぁまぁ…だから、今日もお茶会を兼ねての勉強会をするんでしょ?」
「…うん!よーし、頑張るぞ!」
お茶会と称しつつ、今日は二人で勉強をするつもりでもあったわけだ…ALOとかだと、誘惑も多いので、それを避けるための意味もあってだった。
「どこでしよっか…やっぱりいつものファミレスかな?」
「そうね…でも、今日は二人だけだし、違うところでも………」
「…アスナ?」
話の途中だというのに、声が途切れた明日奈。どうしたのかと木綿季が振り返ると、その足も止まり、何かを見上げているようだった。明日奈が見る先…そこには、大型の電子モニターがあり、格闘ゲームのPVが再生されていた。
「アスナ、どうかしたの?」
「えっ…あ、ああ、ゴメンゴメン。ちょっとね、思い出したことがあって…」
「へぇ…あれって、結構昔からあった格闘ゲームだよね。また最新作が出るみたいだね。でも、僕はやっぱり自分の身体を動かす方が性にあってるかな」
「えー…ああいう格闘ゲームもやってみると面白いよ?コンボが決まった時の爽快感とかもあるし」
「…アスナ、やったことあるの?」
モニターに映し出されるPVに、木綿季も何度か見たことがあったが、プレイしたことは一度もなかったため、そんなコメントが出ていた。ところが、意外にも明日奈からそんな発言が飛び出し、驚く。
「ちょっとだけね…というか、私が生まれて初めてやったのが、あのゲームのスマホ版だったんだよ?」
「えっ、そうなの!?で、でも…ゲームはSAOが初めてだったんじゃないの!?」
「VRMMOはね…でも、ゲーム自体はあれが初めてだったんだ。まぁ、それも人に勧められて始めてプレイしたんだけどね」
「へぇ~…アスナにそんな人がいたんだ。どんな人だったの?」
「…そうだね。私よりも勉強ができて、でも、周囲には見せないようにしてた隠れ凄腕ゲーマー…って言えばいいのかな?」
「凄腕…って、アスナよりも勉強ができたの!?」
「そうなのよ…彼女がいっつも一位で、私は万年二位でね。街中でゲームをしているところに遭遇するまで、いつもクールで独りでいるみたいな人だって思ってたんだ。でも…そうじゃなかったんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「彼女がいたから、今の私があるっていうか…彼女にSAOの話を聞いてなかったら、私はプレイしてなかったかもしれないの…ううん…もしかしたら、SAOで命を落としてかもしれないの」
「…それって……その人もSAOにダイブしてたったこと…?」
「…うん。丁度いい機会だから、話そうか。私がキリト君やフォン君と出会うまで、どうやってSAOの序盤を攻略してきたのか…彼女が私を助けてくれて、そして、なんで別れることになったのかを…」
「…えっ…?」
別れた…その言葉に木綿季は目を丸くした。
その言葉を口にした明日奈の表情は懐かしそうに、しかし、少しばかりの悲しみを含んだものになっていた。
…どうやら、今日のお茶会は勉強会ではなく、明日奈の思い出の話を聞くことになりそうだった。
以前、蓮が木綿季に話した、明日奈と初めて出会った攻略会議前日よりもその前の話…彼女がどうやってSAO序盤を生き抜いてきたのかを…明日奈は木綿季に話すことにした。
「…ぁぁぁぁぁぁぁああ……」
場面は変わり、新生アインクラッド21層の街を歩くプレイヤーが一人。蒼炎の烈火…ではなく、普段着の蒼色を基調としたふわっとした少しぶかついた洋服に身を包んだフォンは物凄く疲れた様子を表情と体の二つで表していた。
げっそりとしたような表情に、肩と腕をだらしなく垂らして歩くその姿は、まさしく疲れたという表現を通り越して、こってり絞られたというのが適切だろう。
(母さんめ…最後には了承してくれたけど、二時間に渡って説教するとは…こっちの言うことを全部潰してくる話法とか反則だろう…いや、俺に非があるのは分かるけどさ…)
どうしてここまで疲れているのかというと、まぁ、簡単に言えば、ユウキとカナデの二人と付き合っていることが母親にバレて、さっきまでこってりお説教を受けていたわけである。
笑顔のまま、一切の弁解を聞き入れずに正論でグサリグサリと責め立ててくる母親の言葉に、流石のフォンもかなりやられたわけで…今でも風妖精族アバターのあの恐ろしい笑みが頭にすぐに浮かぶほどにだ。
『あなたたちが納得してそうしているのなら、これ以上は何も言わないけど…分かってるでしょうね、蓮。どっちかを泣かしてみたりしなさい…義娘の代わりに私があんたをぶっとばすから、そのことをちゃんと頭に置いておきなさい』
最初からカナデのことは受け入れるつもりだったらしく(さりげなく義娘扱いしていることからも分かるが)、最終的には三人の関係を認めてくれることとなった…まぁ、その辺りは当人たちの自己責任だと割り切っていたのも大きいだろうが。
(…結構遅くなっちまったな。もう夜中近くか…とりあえず、鍛冶工房の依頼を見に行って、なかったらそのまま工房で寝ちまうか。出来たら、防具の改良案を仕上げたかったんだが…また明日だな)
予定していたスケジュールが時間的に…というか、精神的に厳しいと思い、フォンは頭の中でそれを組み直す。
いつもはリズの工房同様に、フォンの工房『フォントム・クラウド』は不在時にも依頼を受け付けができるように簡易的では設定がされている。
もっとも、リズの工房『リズベット武具店』とは異なり、フォンの方は完全なる紹介制によるので、顧客はあまり多くはないのだが…一週間に最低限一回は店に立ち寄るようにしているのだ。まぁ、武具のメンテナンスをすることもあって、結構工房にいることも多いのだが…
「…来客はなしか。新しい依頼もないし……よし、ログアウトするか…」
ここ数日、色々とありすぎた上にさっきまで説教続きだったのだ。予定が何にもない日がくらいは何もせずに休むのもありかと考え、フォンは工房の二階にある応接兼簡易寝室へと向かおうと…
…チャリン…
「…っ!」
クローズの設定をする前に、来客を告げる鈴の音が鳴り響き、その行動がストップさせられる。こうなってしまえば、無碍に断るのも思うところがあるわけで…来訪者には見られないように心の中で溜息を吐きながらも、フォンはカウンター越しに振り返る。
「…すまない、店主。まだやっていただろうが」
「…ええ。いらっしゃいませ、ファントム・クラウドへようこそ」
営業スマイルで出迎えたフォンの目に入ったのは、大柄な体格の男性だった。
(…でかいな。二メートルはあるか)
こんな遅い時間にやってきた来訪者…紫色の短髪に、筋肉がぎっちりした大柄の体格。一言で言うのなら、まさしくマッスルという言葉がふさわしいのだろうか…だが、そんな姿に俺は違和感を覚えていた。
(…なんで室内なのに、フードを被ったままなんだ?)
外に出ているときであれば、フードを被りっぱなしなのはまだ理解ができる。しかし、来訪者は店に入ってきたにも関わらず、ローブのフードを被ったままだったのだ。まるで、顔をあまり見せたくないといった様子で…
「(…まぁ、人それぞれだから、こっちからツッコむのは野暮か)今日はどの用で、当店へいらっしゃったのでしょうか?」
詮索し過ぎるのも良くないと割りきり、俺は営業スタイルで来訪者の用件を尋ねる。すると、男はストレージから何かを取り出し、
「…紹介を受けて、ここに来た。鼠にな」
「…アルゴさんに?」
『鼠』…そのフレーズにもしかしてと名前を出すと、男は静かに頷いた。手元には一枚の紙…見覚えのあるそれを受け取った俺は、この店『ファントム・クラウド』に入れるようにするための招待状だった。
うちの店『ファントム・クラウド』は基本紹介制だ。店自体の存在は結構知られている方だが、顧客が少ないのはそれが理由だ。フレンドか紹介状を持っているプレイヤーしか店には入れないわけだ。
で、後者に関しては主にリズかアルゴさんに受け持ってもらっている感じだ。リズの方は、リズベット武具店の方で対応できない…主に細かいオーダーメイド武具や装飾品・アクセサリー関連のお客さんをこっちに流してもらったり、逆に俺がリズの店を紹介したりすることもあるわけで。
アルゴさんの場合は、信頼できる人物にのみ店を紹介していいと伝えている感じだ。まぁ、これはSAO時代から続いた風習がそのまま継続している感じだ。
受け取った招待状にはアルゴさんの名前が二つ名と共に書かれていて、男の言うことが正しいと証明されていた。複製できないように結構希少な素材を使っているため、生産数もそこまでは多くないのだ。
貰った招待状を返し、俺は来訪者…お客さんの用件を今度こそ尋ねようと…
「夢幻の戦鬼…お前に依頼したいことがあって、ここに来た」
「…!」
その二つ名を出してきたことに…いや、俺を見るその目の色を併せて、俺は彼が言う依頼というのが、あまり楽なものではなさそうだと察した。
「…SAOを攻略に導いた最前線プレイヤーの一人…夢幻の戦鬼、それがお前だな?」
「…だったらどうします?わざわざそのことを話に出すなんて…人としてどうかと思いますが?」
VRMMOで現実世界やプライベートのことを話に持ち出すのは基本的にタブーだ。親しい間柄ならまだしも、赤の他人がしていいわけがない…特に、デスゲームと化したSAO…ソードアート・オンラインの話を軽々しく話題にあげること自体が非常識だ。
帰還者学校でさえ、暗黙のタブーとして話題に持ち上がることはないのだ…そんな失礼なことをする男に、俺も多少の苛立ちを込めて返すと…男から返ってきたのは意外な答えだった。
「…ご、ごめ……悪かった。話を飛ばし過ぎたな…俺もお前と同じSAO帰還者だ」
「…っ!そう、なんですか…?」
俺を不愉快にさせたのだと分かった男は慌てた様子で謝罪し、なんと自分もSAO帰還者だと告白したのだ。まさかの事実に、流石の俺も驚く。
「ああ。俺の名はミト…SAO以来、VRMMOはプレイしていなかったんだが、最近になってまたプレイしたくなってな。だが、かなりブランクがあって、できることなら勘を取り戻したいと思っていてな…鼠にその辺りの相談をしたら、ここを紹介されたわけだ」
「…そういうことですか。アルゴさんとは知り合いだったんですか?」
「SAOをプレイしていた者なら、彼女のことを知らない者はモグリだろう?それに、MMOトゥデイでなら、そういったプレイヤー間のやりとりをすることができるだろう?そこで鼠への依頼を書き込み、ALOで会ったわけだ」
MMOトゥデイ…元アインクラッド解放団のリーダーであるシンカーとその奥さんユリエールさん、そして、副リーダーのディアベルが主軸となって運営している情報サイトだ。俺も時々覗いているし、最近こっちにきたカナデやユージオたちも結構見ているとのことだ。
長らくVRMMOから遠ざかってわりに、どうしてアルゴさんとやりとりできたのか疑問に思っていたが…そういうことなら、納得がいく。ついでに…
(アルゴさんめ…俺は便利屋じゃないんだぞ。これは、また何かしらの形でお礼をしてもらわないと割にあわないぞ…)
紹介を任せているとはいえ、こんな依頼を回してきたアルゴさんへと内心怒りが沸々していた。まぁ、彼女を問い詰めるのはまた今度の機会にするとして…まずは彼…ミトの依頼というのを聞くべきだろう。
「話は分かりました。ですが、どうして俺のところに?それに、SAO帰還者に限定しなくても、ALOには沢山のプレイヤーがいた筈です」
「鼠が言うには、俺が使う武器の都合上、お前がALOで最も使いこなせているのはないかということだったが…」
「武器…?一体どんな武器を使っているんですか?」
「…見せた方が早そうだな。ここでオブジェクト化してもいいか?」
内容を聞き、理解した俺はその理由を尋ねると、武器を出すと言われたので許可すると…
「…なるほどな。そういうことか」
その武器を見て、俺は納得の声を出した。ミトが手元に出現させたのは大鎌だった。SAOならば、曲刀の派生スキルではあるが、武器さえ持てばスキルが発現するという仕様で、鎌自体も第一層の『始まりの街』で入手できるものだった。
だが、デスゲームと化したSAOでは、βテスターであることを悟られやすくなるという理由から、序盤は逆に使われなかったのだ。俺もその存在を知ったのは、中盤以降…30層以降の攻略を初めてからだった。
そして、最近のアップデートで鎌系統の武器スキル・ソードスキルが追加されたことで、ALOにも普及し出した…だが、まだ一ヶ月と少しの期間ではマスタリーしているプレイヤーもそう多くはないわけで…
いるとすれば、俺のようなSAO帰還者か別のVRMMOで鎌を使っていたプレイヤーになるわけで…アルゴさんが俺へと話を振ったのも分からないこともないわけで…まぁ、それと便利屋扱いされたのはまた別の話だが。
「鎌スキルはマスタリーしてますが…ミトさんは「ミトでいい。敬語も不要だ」…分かった。ミトはどれくらいスキルを上げているんだ?」
「俺もマスターしている。ソードスキルも全て使えるようにアンロック済みだ」
「なるほど…分かった。勘を取り戻したいとのことだったが、いきなり実戦に入る方式でも問題ないか?場所は…新生アインクラッドの第一層迷宮区とかどうだろうか。あそこなら、ミトも戦ったことがあるモンスターばかりだろうし、多少のレベルギャップを無視できると思うんだが」
「構わない。時間はどうする?」
「今日はもう遅いし…明日の19時以降はどうだ?俺は学校があって、そのあと家事とかするのを考えると、その時間とかになりそうなんだが…」
「問題ない…では、明日は宜しく頼むぞ」
「ええ…そうだ。メッセージのやりとりができるよう、フレンド登録しておかないか?」
そういうことで、明日の夜はSAO帰還者である彼…ミトのリハビリに付き合うことになった。なんというか…
(…またスケジュールが埋まっちまったよ…トホホ)
あっちの計画もあるっていうのに…なんでこうキツキツにスケジュールを組んでしまうのだろうか、俺は。
そんなことを思いつつ、ミトとフレンド登録した俺は彼と別れ、今度こそログアウトしたのだった。
「…ちょっと早く来すぎたか?」
翌日…新生アインクラッド 第一層迷宮区前。
アインクラッドの入り口ともいえるこの迷宮区前はそれなりのプレイヤーが出入りしており、時間の10分前に来た俺はメニューを見ながら、ミトを待っていた。
ブランクを取り戻すためのリハビリということで、俺も鎌を使うことになっているため、装備は軽装備の防具『縁結を背負いし者』と鎌『クロノ・スワール』を選択していた。ちなみに、幻想剣のスキルはオフにしている…鎌の固有効果はデメリットが大きすぎるからだ。
ユウキとカナデには、今回の依頼のことは簡単に伝えている。なので、彼女たち二人で他のクエストに行くと言っていた。まぁ、その時にその依頼人が女かどうか尋ねられた時は、どんだけそっち方面の信用を失くしているんだよと内心ツッコんでいたが…
そんなことを思っていると…転移門からミトが現れた。向こうも俺に気付き、しかし、待たせてしまったと焦ったのか、少しばかり早足でこちらへと駆け寄ってきた。
その様が猫背で腕を大きく振るってくるもので…一瞬、ゴリラに見えてしまったほどの野性的だなと思ったのは余談だ。
「すまない、遅くなったか?」
「いや、こっちが早く来すぎただけだ…その恰好で挑むのか?」
気にしてないと答えるも、どちらかと気になったのはミトの装備だった。武器の大鎌はともかく、防具は昨日と同じフード付きのローブ…性能がいか程かは分からないが、ずっとフードを被りっぱなしのその姿で挑むらしく、俺は一応の確認を取る。
「まぁな。どうにも人に顔を見られるのがちょっとな…俺の顔はいかつく、人を威嚇するにはもってこいだが、逆に怖がられてしまうのもあってな」
「…まぁ、個人のことだから、とやかくは言わないが…鎌の戦闘スタイル的に動き辛いかと思ったんだが…」
ミトが言う様に、彼の顔はその…言葉を選んでも、大変厳ついものだ。確かに怖いと思う、特に笑うと…得意げに笑う今のように。
…まぁ、言いたいのはそこではなく、ミトの体格はがっしりしている。全身を使って刃を振るう大鎌の性質上、フードを被ったままだったり、全身を覆う形で身に纏うローブは戦い辛いのではないかと思ったのだ。前を開いて着るのなら、まだ分かるのだが…
(…とりあえず、潜って様子を見るか。ヤバそうなら、俺がフォローすれば、問題ないだろうし…)
本人が問題ないと言うのなら、まずはそれを信じるべきだろう。動きや連携をどうするか、それらを簡単に確認し終えた俺たちは、早速迷宮区へと潜ることにした。
…と、心配していた俺の杞憂を晴らすかのように…
「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
気合と共に放った鎌3連撃ソードスキル〈グレイズ―ル〉が、コボルト・ナイトをオーバーキルし、ポリゴンへと変えていた。
灰色のライトエフェクトがⅤ字と水平斬りを描いたのを見ながら、俺は少し後方で手持ち無沙汰になっていた。
(…俺、いらねー…)
最初は様子を見ながらの闘いで、ミトの方も大鎌の使い方を確かめるように立ち回っていたが、一切の不安要素も見せずに、数々のコボルトたちを屠っていった。
いつでも援護に入れるように警戒していたのだが…ミトの戦い方を見ていると、どうにも俺に依頼を頼む必要が感じないのだ…そうなると、どうして彼は俺に…アルゴさんに頼んでまでこんなことをしているのだろうか?
(何か裏がある…でも、一体何が?)
ブランクが理由でなければ、一体何がという疑問に繋がるわけで…昨日と今日のやりとりを踏まえても、何か悪意があるとは思えないのだが…しかし、違和感はやはり残るわけで…
「…ふぅぅ」
「お疲れ。一旦休憩にしないか?」
「…そうだな。なら、セーフティエリアに向かおうか」
14体目を倒し終えたところで、そろそろ休憩にすべきかと思い、戦い終えたミトに声を掛け、そんな提案をする。ミトの方も特に反対する意見はなかったらしく、俺たちはそのままセーフティエリアを目指し移動した。
「…それにしても、ミトの闘い方はワイルドだな。独学なのか?」
セーフティエリアに着き、先客もいなかったため、陣を取って休む俺たち。飲み物を用意し、ミトに手渡したついでに、さっきの闘い方について尋ねていた。
「まぁな。それにしても、そこまで言われるほどにか…?確かにそう見えるかもしれんが…」
「いや、普通駆け出す時に、空いている手を地面を掴むようにして駆け出し、大鎌を肩で担いでいったら、見てるこっちがそう思うのは当然だろう」
「そ、それは……確かに反論できないな」
「俺としては始めて見る戦闘スタイルでもあったが、やっぱり独学か…というか、SAOでもまずいなかったような気がするが…ミトは最前線の攻略には関わってなかったのか?」
「っ……あ、ああ。俺はそこまで…強くはなかったからな…」
「…?…まぁ、攻略組だったら、面識がありそうだしな」
口篭もったその姿に疑問を感じつつも、敢えて触れるべきではないことだと勝手に悟り、俺は強引ながら話を変えた。
「フォンは…攻略組だったんだよな?」
「ああ…一応な。といっても、俺は基本ソロかコンビといった感じで攻略に関わっていたから、ミトが知っているようなギルドには参加してなかったんだけどな」
「…でも、血盟騎士団のメンバーとは交流があったんだろう?」
「えっ…あったはあったけど、攻略に必要な最低限度はって感じだが…」
血盟騎士団…そのワードが出た時、ミトの語気が少し強くなったような気がした。それに少し気圧されつつも答えるのだが…
「一時期は敵対…とまではいかないけど、結構仲が悪かった時期もあったし。副団長とは、一度デュエルして負かしたことも…って、ミト!近い近い!?」
血盟騎士団とはあまりいい思い出がないというか…俺自身があいつが皮として演じていたヒースクリフを避けていたのもあって、そこまで好意的に接していなかったのだ。
特に、そんな態度を取っていることやキリトとよくコンビを組んでいた(今、思えば、あれはちょっと嫉妬も混じっていたのではないか?多分、本人は無意識だろうけど)俺は、副団長だったアスナと時折衝突していたし…
圏内事件の少し前にやったデュエルでも、一切の容赦なく剣を向けた…ことを語っていると、物凄い距離でミトが顔を近づけてきていた。そして、何故か俺を射殺さんとばかりに睨んでいた…目が充血するほどにだから、マジで怖い!?
「っ…!?すまない」
「い、いや…とにかくそんな感じだよ。俺よりもキリ…黒の剣士の方が血盟騎士団と絡んでいることは多かったと思うぞ」
「…そう」
そもそも、俺はヒースクリフとの接触を避けたいのもあって、血盟騎士団とはできるだけ一緒に行動しないようにしていた。あっても、ボス攻略の作戦会議に参加した時と、アスナとやりとりしてたぐらいか?
そういう意味でも、キリトの方が絡んでいる率は高いだろう。アスナ自身が、圏内事件以降によく一緒に行動するようになったらしいし…そういえば、その時からキリトのことを意識し出したって言ってたな。
(…まぁ、第五層のボス攻略後から、そんな雰囲気はあったんだけどな)
第五層の迷宮区攻略後…あのなんともいえない…キリト一人がまた辛い役目を背負うことにあの結末と、アスナのあの言動からして…結構早期から好意を抱いていたと思うのだが…あの時も隠蔽スキルで気配を消していた俺の視線など忘れてたぐらいだし…
(…なんか変なことまで思い出した…うん、忘れよう)
余計な思い出までもが蘇ったこともあり、頭痛を感じて頭を振って掻き消す。それにしても…さっきのミトの反応は何だったんだろうか?何か血盟騎士団とあったのか…それとも、そのこだわりぶりこそが俺が感じている違和感の正体なのか…
「休憩はもういいだろう。先に進もう」
「…そうだな」
俺の訝しむ視線に気付いたのか…話は終わりだと先に立ち上がったミトに続き、思考を切り替えた俺もその後を追うのだった。
…そこからも、先程と変わらず順調に迷宮区を進んでいき、多くのコボルトたちをミトが一人で屠っていった。それを背後で見守りながら、俺はマップを確認してガイドをしていた。
3分の2は迷宮区を進んできた…もう30分もすれば、ボス部屋へと到着するだろう。といっても、ボスは既に撃破済みなので、待っているのはもぬけの殻の部屋なのだが。
…そう思っていた時だった…
「おい、フォン…あれは何だ?」
「えっ…?」
そんなことをぼんやりと考えていた俺に、ミトの疑問の声が聞こえてきた。どうしたのかと思い、ミトが見ている方へと視線を向けると…そこには扉があった。
「っ…!?これは…」
その扉に俺は見覚えがあった…SAOでも一度だけで遭遇したことがあるそれに、俺は思わず息を呑んだ。
「…まるでボス部屋のドアだな。細部が少し違うような気がするが」
「いや、ある意味では間違ってはないさ。これはエクストラボスの扉だ」
「…!なに…?」
ドアを触りながら確かめるように言うミトに、俺はそのドアの正体を告げる。それを聞いたミトは目を丸くして、俺を見ていた。
エクストラボス…言ってしまえば、迷宮区の殿を務めるフロアボスとは一線を画する強力なボスだ。SAOでも三度だけその存在が確認された、かなり希少な存在だ。
基本的にその階層の安全マージンから更に+20前後のレベルを持つボスが出るようになっていて、撃破できれば滅多に入手することができないアイテムを確定でドロップする。もちろん、撃破するのは簡単なことではないが…
過去にSAOで発見された時にも、血盟騎士団を筆頭に攻略に挑み、ギリギリ攻略できたほどのレベルだったわけで…そして、俺は一人でそれを攻略したことがあった。
…そう、SAOに混線したことで偶然にも迷い込んだユウキと初めて出会った、幻想剣専用のダンジョンのあのボス…あの時のボス部屋の扉も、眼前にあるものとそっくりだったのだ。
(だが、なんで今になって…?何かしらの条件が達成されたからか?そんな条件なんて…)
この第一層でエクストラボスが発見されたことはSAOを含めて一度もなかった。そもそも、エクストラボスの解放条件自体が不明なものが多い。
何よりも…その実態自体に謎が多いだけでなく、内容自体も得体の知れないものが多い。下手をすれば、アインクラッドの迷宮区ボスを超えるレベルのボスが出てくる可能性がある。俺の時も、キリト一人にしか使うことができない筈のユニークスキル『二刀流』を、ボスモンスターが使ってきたのだ。
俺とミト…二人で挑むのはあまりにも無謀だと思い、ここはひとまず撤退すべきだと考えていたんだが、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…!ちょっと待て、ミト!?」
扉を開こうとしたミトの大きな右腕を掴み、制止する。止められたことに、多少のイラつきを覚えたのか、ミトは俺の方へと視線を向ける。
「このまま挑むのは危険だ。エクストラボスは迷宮区を凌駕するレベルのボスである可能性が高い。少なくとも、レイドパーティが構成できる人数は揃えて挑むべきだ」
「…だが、ボスの様子が分からなければ、対策の仕様もない筈だ。それに…他のプレイヤーに先を越される可能性もあるのではないか?」
「それはそうかもしれないが…」
「無理だと悟ればすぐに退く…それならば、どうだ?」
「……分かった。そういうことなら構わない」
ミトの方は折れるつもりはないらしく…最悪、無理矢理にでも引っ張り戻すのも一つの手かと思い、半ば折れる形でその意見を受け入れた。
そして、ミトがエクストラボスの扉を開いた。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
…それは迷宮区とは思えない空間だった。
暗い…まるで闇のような黒く、何も存在しない空間。しかし、壁に掛けられた燭台に灯された紫色の炎に関わらず、視界は酷く良好だった。足場は古い遺跡のような石造りのようだが…
言葉で表すのなら、まるで虚無の空間に取り込まれ、僅かばかり残った残骸が安置されている場所だと言うべきなのだろうか。
しかし、もっとも不可解なのは、虚無に広がる空間の中に、俺たち以外の存在がいないこと…いる筈の空間の主であるエクストラボスがいないのだ。
ボスが姿を見せないことに、スカル・リーパー戦のことが頭を過ぎる。周囲に対する警戒を全開にし、広場の中央へと進んでいく俺たち。その足が中央へと辿り着いた時、
「…っ?!ミト、散開しろ!?」
「っ!?」
嫌な予感がして、足元を見た次の瞬間には叫んでいた!
俺の怒号に、それに気付いたミトもその場から飛びのき、俺たちは左右に分かれる形で広場の端へと退避した。そこに魔法陣が現れ、姿を現したのは…
「…こ、こいつは…!」
「…ネペント…!?いや、この大きさは…!」
正体を目にし、ミトが呆然とする中、俺は見上げる形でその存在を確認しながら鎌を構える。SAO生還者ならば、知らないプレイヤーの方が少ないのではないだろうか。
リトルネペント…アニールブレードといった序盤の攻略に大きく貢献してくれる良武器を入手するためのクエストを受けるにあたって、必ず闘うことになるモンスターを数倍大きくしたその巨体が、俺たちに立ちはだかっていた。
『The Producer of Death Nepenthes』…直訳で『死のネペントを生み出す者』といったところか。8本の触手を不規則に動かす緑と紫の色が入り混じった体色をしたボスのネームドの横に6本のHPバーが表示された!
(HPは驚異の6本…!流石はエクストラっていったところか!?長期戦になるのを考えると、やっぱり二人で討伐するのは難しいか…攻撃パターンを見極めたら、即座に撤退すべきか…!)
討伐することは選択肢から外し、様子見からの情報収集に徹するべきだと判断し、頭を切り替える。まずはミトと合流すべきだと思ったのだが…
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…ミト…?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
ボスを目にしたミトは何故か不自然に硬直していた…まるで、ボスのことしか目に見えていないといったその姿に、俺はどうしたと思うも…ボスが待ってくれるわけもなく、
「ミト、来るぞ!?」
「っ…!」
俺とミト目掛けて、それぞれ触手による乱打が飛んでくる!
俺の叫びに、ようやく我に返ったミトが動くも、やはりその動きが鈍い!俺も自身に迫る触手たちを鎌で捌くも、さっきまでとは全く異なるミトの動きは精彩さを欠いているように見えた。
(…このままじゃ観察どころじゃない!?こうなったら…!)
ミトの不調の理由は分からないが…このままやられるわけにもいかず、幻想剣スキルを使ってでも、状況の打破を狙うべきだと考えた。まずはその隙を作らなければと、俺はソードスキルを発動させる!
「…はあああぁぁぁ!!」
薄青の刃が迫ってきた触手の三本を切り刻む。鎌6連撃範囲ソードスキル〈シックルタント〉…鎌を頭上で大きく回すようにして放つ6連撃が、ボスから触手を切り離す。
硬直が解け次第、左手でメニューを開こうとしたが…その前に異変が起こった!切り離した筈の触手だが…普通ならば、即座にポリゴンになる筈が、未だに動き続けていたと思えば…
「っ…なに!?」
一気に膨張し、なんとよく知るサイズの大きさ…リトルネペントへと成長したのだ!残りの二本の職種もそれぞれリトルネペントへと成長して、俺たちへと迫ってきた!更には、ボスの方も触手も再生しており…これこそが、このエクストラボスの特異性なのだと悟り、思わず舌打ちをしたくなった。
(ふざけんな…こんなのフルレイドパーティで挑むレベルだぞ…!?)
触手を斬り落とせば、無限にネペントが湧き続ける…そして、その触手もまた無限に再生する…あの第一層迷宮区ボス『イルファング・ザ・コボルド・ロード』を更に凶悪にした仕様に、そんな悪態が頭に浮かんでいた。
撤退一択に頭が切り替わり、ミトに合図をしようとしたのだが…
「…いや……なんで…なんで、ここに…?」
「…っ!ミト、どうしたんだ…?!」
それは何度か見たことがある姿で…俺は嫌な予感が的中したことを悟った。顔を真っ青にしたミトは大鎌を持っていることを忘れて、視界を振り払うように頭を抱えてしまっていたのだ!
理由は分からないが、錯乱しかかっているミトに声を掛けるも…俺の言葉は彼には届いていなかった。俺の方もリトルネペントたちに邪魔をされ、すぐに駆け寄れない状態で…無防備になっているミトへと、ボスの触手の一本が振り下ろされた!
「っ…防御しろ!?」
「…!…きゃあああああああああぁぁぁ!?」
なんとか届いてくれと…警戒しろと叫ぶも、やはりミトの耳には届かず、その一撃はミトの身体を大きく吹き飛ばした!
しかし…予想していなかった叫び声がミトから聞こえたのだ!男がまず発するわけがない悲鳴の種類に驚きつつも、宙へと吹き飛ばされたミトの姿に怒りが勝り…
「そこを…どけえぇぇぇぇぇ!?」
多少のダメージ覚悟で、強引にリトルネペントたちを斬り飛ばす!二発ほど直撃を受け、HPが1割減るも…そんなことよりも、ミトの安否を確かめるべく、触手の乱撃を避けて駆けていく。
「ミト、大丈夫…か……っ!」
なんとか傍に駆け付け、倒れ込むミトの元へと辿り着くも…HPがレッドに突入してはいるも、まだキルされていないことに安堵したのも束の間、その姿がブレ始めたのだ。
まるで何かを隠蔽していたかのように、その巨体にノイズが走り…その顔を覆い隠していたフード付きローブが、ダメージによって耐久値が限界を迎え全損しポリゴンへと変わった。
そして、その真実が俺の眼前へと晒された。
「…女の…子…?」
さっきまでの巨体がノイズと共に消え去り、倒れていたミトが一人の少女へと姿を変えたのだ。紫色の髪をポニーテールに纏めた彼女のその姿に…俺はボス戦の最中だというのに、呆然としてしまったのだった。
オリジナルスキル解説
鎌3連撃ソードスキル〈グレイズ―ル〉
灰色のライトエフェクトを纏い、右・左と袈裟斬りのように鎌で相手を抉り、最後に水平斬りで相手の胴体を一断するソードスキル。初級と中級の相中に位置する威力を持つ。
名前の由来は灰色を意味する『グレイ(gray)』を捩ったもの。
鎌6連撃範囲ソードスキル〈シックルタント〉
薄青のライトエフェクトを纏い放つ範囲ソードスキル。鎌を頭上に掲げ、そこから大きく振り回すようにして放つ6連撃。威力的には中級でも高めの位置に入り、混戦時には大いにその威力を発揮する。
名前の由来は鎌を意味する英語の『シックル(sickle)』と六分割の英語『sextant』を組み合わせたもの。
ユウキ・カナデ「キュルルリィン…!」(浮気を感知した瞬間)
…どこぞの水星関連のガンダムに影響されてないとは言えません…(黒笑)
そんなわけで、ミト…どころか、βテスター時代にカスタムしていたアバターによく似たあの姿も登場でした!(もちろん、CVはかの某宇宙の帝王様をご想像して頂ければと)
以前、投稿したSAO編第3話やAfter Story第1話のように、フォンがアスナと初めて出会ったのは第一層ボス攻略の前日だったため、実はキリトとアスナが初めて会った時のことを直接は見てない(=原作小説1巻での出会い方だと思い込んでいる)ことから、ミトのことはおろか、それ以前の出来事を知る機会がなかったという展開になっております(一応、近くにはいたのですがニアミスしていた感じです)
なので、ミトの方もフォンのことは間接的にしか知らない=一番正体を悟られる危険性が低いということで、接触を図った流れになったわけです。
第1話で早くもボスが出るという珍しい展開ですが、主軸はアスナとミトを中心としたお話ですので、早くも特性も公開という(まぁ、ミトからすれば、トラウマの塊でしかない仕様ですが…)
本来、アミュスフィアでは性別が違うアバターを作成することはできない(設定だった筈、確か…!?)仕様ですが、ミトのできるだけ正体を悟られたくないという考えもあって、ある装備で姿を変えていたというのがカラクリでした(これについては、次回触れる予定です)…まぁ、もちろんあの情報屋が絡んでいるわけですが…
そういうわけで、次回は本作におけるミトの過去のお話に触れる予定です。次回の方が多分ネタバレ要素多めだと思いますが、できるだけしないように気をつけながら書いていこうと思ってます。
それでは!
P.S. ちょっと急ですが、アスナ編のラストに関するアンケートを実地します。期限は2、3日ぐらいを目安にしてます。宜しくお願いします!
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