前話以上に『星なき夜のアリア』に関するネタバレがございますので、ご注意下さい。本作における、ミトの動きを描写するお話となります。
アインクラッドのお話と言うことで、久々にあの設定が出てくるという…(笑)
それでは、どうぞ!
「…女の…子…?」
俺の眼下に倒れ伏す少女…さっきまで俺の身長を超す巨体が、今は俺よりも低い身体に変わっていることに、理解が追い付かず呆然としてしまう。
だが、そんな隙を見せていい空気ではなかったわけで…
「‥ぐはぁぁ!?」
ぼけーっとしていた意識を引き戻すかの如く、その剛撃が俺の背中へと振り下ろされていた。咄嗟に存在を思い出し、背中を逸らしたことで僅かに被弾箇所は減らしたものの、直撃したことに変わりなく、ボスの触手が俺のHPを大きく削った!
「…っ!あー、もう!?考えるのはあとだ!文句言うんじゃねぇぞ…!」
このままミトらしき少女を庇いながら戦闘を継続するのは不可能だと悟り、ボスが再び攻めてくる前に、こんなこともあろうかとすぐに取り出せるようにポーチにしまっておいたそれを…
「…転移!」
転移結晶を取り出し、発動させる。
…一瞬、結晶無効化エリアだったらという嫌な考えが頭を過ぎったが、その不安は見事に外れ、俺と肩に手を担がれた少女の姿は光と共に消え、獲物を見失った触手は見事に空を切ったのだった。
『…ごめん、アスナ……約束、守れない……!!』
その脳裏に蘇るのはいつもと同じ記憶…これを見るのはもう何回目だろうか。
囚われた鉄の城からなんとか帰ってきたあとも…いや、あの最低な選択をした時から、少女は同じ悪夢を見続けいてた。
大量のリトルネペントに足止めされ、大切な親友の元に駆け付けられず…そのHPがどんどんとレッドゾーンに突入していき…そして、
「…いやあああああああああああぁぁぁ!?」
…その先をいつも見ることができず、少女の意識は逃げるように覚醒するのだった…
「…はぁ…はぁ……また、同じ夢…」
「起きたか?」
「っ…?!」
絶叫と共に突如として跳ね起きた彼女に驚きつつ、呆然とする彼女にそっと声を掛けると、もの凄い勢いで振り替えられた。
…さっきの絶叫といい、今の行動といい…頼むから、こっちの心臓に悪いことを連発しないでほしい。これが現実世界なら、近所迷惑を通り越して通報ものだ。
(万が一と思って、ログハウスじゃなくって、工房の方に連れて帰って正解だったな。あんな状態の姿をユウキたちに見せたら、何を疑われるか堪ったもんじゃない)
ボス部屋から逃げるように転移した俺は、意識を失った少女を背負い、転移先の21層へと無事に戻ってきたのだ。
そのまま、彼女を放置するわけにもいかず…ログハウスに運ぶよりも、俺の工房への方が遥かに近かったこともあり、工房二階の簡易住居へと運んだわけだ。
とりあえず、彼女の意識が戻るまで待つつもりだったが、30分ほどして目覚めたと思ったら、絶叫をあげられるという憂き目に遭ったわけだ。
そんなことを思いつつ、俺は零しそうになった珈琲(もどき)が入ったカップに口をつける。俺の言動が理解できていないのか、少女は俺の方を呆然と見ていた。
「あっ……えっと…ここ、は……どこなの?」
「君が昨日訪れた鍛冶屋の二階だよ。ここは簡易住居と応接室を兼ね備えているんだ。ここに運ぶ方が早かったからね。それにしても…その口調が君本来の話し方なんだな?」
「話し方…?…っ?!」
寝起きで完全に気が抜けていたのだろう…風貌に違わない話し方をしているのを指摘すると、彼女は慌てていた。そして、自身が身に纏っていたローブがないことにも気が付いたようで…
「ローブはボスに攻撃された時に耐久値を全損したようで、消失したぞ。まぁ、何かあるとは思っていたが、予想外過ぎて一瞬思考が止まったけどな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
事の経緯を説明するも、彼女は気まずそうに目を伏せていた。まぁ、俺を騙すかのようなことをしていたのだから、色々と思うところがあるのだろうが…
「…食欲はあるか?」
「…えっ?…ちょっとは、あるけど…」
こっちから話題をぶったぎるように質問を投げかけると、彼女は戸惑いつつも応えてくれた。それを聞き、さっきまで作りかけだったそれを仕上げていく。
溶かし混ぜ合わせていたそれに最後の仕上げとして、パウダーを入れ、用意していたマグカップに注いで…
「…ほら」
「っと……これは、ココア?」
「に近いけどな。とりあえず、一口飲めよ。結構熱いから、気をつけろよ」
ちょっと押し付けるような形になってしまったが、ベッドの上にいる彼女は恐る恐る…しかし、一旦息を吹きかけて冷まし、カップへと口をつけた。
「…!…甘い…でも、しつこくなくて、凄く美味しい…!」
「だろう?疲れた時によく作るブレンドなんだ、それ…といっても、珈琲とかじゃないんだけどな」
「…これって、チョコレート?でも、何か他にも使って…」
「はちみつと砕いて粉状にして溶かし混ぜたナッツだ」
俺が作ったのはホットチョコレート…適量の牛乳に、チョコレートをメインに隠し味のそれらをバランスよく混ぜ合わせた自慢の一品だ。
「疲れた時には、甘いものがいいってよく言うだろう?まぁ、血糖値とかそういう原理になるんだろうが…気持ちもリラックスするだろう?」
「ええ…そうね」
納得がいったのか、続けて二口目を呑む彼女の様子を見て、ちょっと安堵した俺も空になったマグカップにおかわりの珈琲を注ぐ。今度はブラックではなく、ミルクと砂糖を加えたカフェオレだ。
「………気にならないの?」
「どうして、姿を変えていたのか…そして、俺にあんな依頼をしてきたのか、ということがか…?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
カップの中身を混ぜている俺の背中に飛んできたのは、そんな疑問の声だった。その内容を確かめると、無言の肯定が返ってきたわけで…俺は振り返ることなく、その疑問に答えた。
「気にならないと言えば嘘になるが…君が話したくもないかもしれないことを無理矢理聞き出そうとするのは…性分じゃないんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それに…そんな酷いことをしたら、彼女に怒られるからな」
最後のは冗談が半分混じっていたが…ユウキやカナデに知られたら、マジで怒られることになるだろう。
俺的には別にこっちに何か被害があったわけでもなく、特段騙されたようなわけでもなかったため、彼女が何も話したくないというのなら、別に追及するつもりはなかった。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
沈黙が漂う中、俺は彼女がどう決断するかを待っていた。時間にしたら数分も経っていなかったと思うが、長い様に思えたその間を破ったのはやはり彼女だった。
「私は……大事な友達を…見殺しにしようとしたの…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その独白に…俺は、目を向けるだけで聞きに入っていた。静かに…だが、後悔の色が濃く映るその声色は、何度も聞いたことのある…しかし、最上級といっても過言ではない暗いものだった。
「あなたも覚えているでしょ…あの悪魔のゲーム、SAOが正式サービスされた日のこと」
「…ああ。今でも鮮明に覚えてるよ」
「誰もがあんなことが起こるなんて予想してなかったでしょうね…βテスターだった私も、βテストで味わったあの楽しみと…実現できなったリベンジが今度こそできるって…あの時には思っていた。
…そして、その感動と凄さを…友達にも伝えたの……伝えてしまったの…」
βテスターだったという事実と…ギリギリのラインのプライベートに関わる情報を告げられていく中、ミトの目には懐かしさの色が、後悔と共に映っているように見えた。
「その子はゲームなんて知らない、凄く真面目な子だった…ちょっとした偶然で、私のある一面を見て…そこから、ちょっとずつゲームに誘っていったの。真面目過ぎて…見ていて、つぶれてしまいそうなぐらい真っすぐで…私の周りには滅多にいないタイプの子だった。
私、協力プレイを重視したゲームがどうしてもダメで…ずっとソロでゲームをやってきたの。ソロなら、誰にも迷惑を掛けない…誰の信頼も裏切ることもないでしょう?そこまでしてでも、私はゲームがしたかった…それぐらいに、私の中でゲームは人生の軸の一つになっていたと…言っても過言じゃなかったと思う。
でも…その子は違ったの。
どんなにプレイがうまくいかなくても、どれだけ負けを重ねようとも、何度ボコボコにされようと…ゲームをとことん楽しんでいたの。純粋だったとも言えるのかもしれないわ…そんな彼女の反応が…私にとっては眩しく見えた。羨ましいと思えた…そんな彼女を見て、私も楽しいと思えたの。
…だから、思わずSAOのことを教えてしまったの…」
「…それじゃ、その子も…」
「その子の家は凄く厳しくて…本来であれば、SAOどころか、ゲームも買ってもらえるような家じゃなかったわ。けど、偶然にもその子のお兄さんがSAOを購入していて…お兄さんのナーブギアを使って、SAOにダイブしたのよ」
その経緯を聞き、俺はある少女のことが頭に浮かんだ。SAO時代、どうして彼女がSAOをプレイすることになったのかを簡単に聞いたことがあった…俺は、その友達のことをおそらく知っている。
だが、その名を出していいか判断がつかず、ひとまずは眼前の彼女の話を聞き続けることにした。
「あの日…SAOがログアウト不可能のデスゲームと化した日、私はその子を連れて、始まりの街を出た。βテスター時代の経験から、すぐに街周辺のリソースが枯渇していくのは分かっていたから。
自信はあったの…経験も、知識もあったから…私なら、あの子の力になれるって…絶望しそうになっていたあの子の支えになりたいって…私の背中を預けられるのは彼女しかいないって…私は思っていたの。
でも……そうじゃなかった。
私は…あの子を見捨てた。
絶対に……私が絶対に死なせないって誓ったのに…一緒に帰ろうって、強くなろうって約束したのに……信じてと言ったくせに………私は逃げたの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「最低でしょ……私は怖くなって逃げた。その現実を目にするのが怖くなって、逃げたの…」
「それは……」
「慰めの言葉はいらないわ…私が彼女を裏切ったことに変わりはないんだから。何度も…何度も後悔したわ…私はまた過ちを犯したんだって…私はやっぱり独りよがりでしかないんだって……見たくないものから目を背けることしかできないんだって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…それから、その時のことを何度も夢に見るようになったわ。それを、私は罰だと思っているわ…あの子のことを裏切った天罰だと…何度も死のうと思ったわ。あの子が死んだ場所で、自分も後を追おうとしたことがあったわ…だけど、できなかった…!?
怖かったの、死ぬのが…それに、そんな死に方が本当に許されるのかって…頭を過ぎる度に私の足は止まってしまった」
「…その友達を探そうとは…思わなかったのか?」
「…思ったわ。でも、もしその子が本当に死んでいたらと…それを目にするのが嫌で、できなかった。その子が攻略組の筆頭として知られるようになるまでは…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「25層の攻略が終わった時…あのアインクラッド解放軍が大敗を喫し、血盟騎士団の活躍が新聞に掲載された時、始まりの街に閉じこもっていた私はその姿を目にした。血盟騎士団副団長として、トッププレイヤーにまで成長していた彼女を…」
「閃光のアスナ…だな」
予想通り…二つ名と共にその名を告げると、彼女は静かに頷いた。
そうか…彼女がアスナをSAOに誘い、キリトが俺を導いてくれたように、アスナを彼女が序盤は導いていたのか。
俺が読んだ小説では、アスナはキリトと出会うまでソロで無茶な攻略を繰り返していたみたいな話だったが…どうやら、この世界ではそこに至るまでの流れが違ったらしい。
今、思えば、アスナと初めて出会ったタイミングに微妙なズレが起こっていたのも、そのせいなのかもしれない…バタフライエフェクトという現象が当て嵌まるのだろう。
そんな余計な推測を交えつつも、彼女の言葉を聞き続ける。
「…安堵した…と言えれば良かったのかもしれない。でも、そうじゃなかった…アスナが生きてくれたっていうのに…私は謝りにも…会いに行くこともしなかった、できなかった…
会って何を言えばいい…?どんな顔をすればいい…?そもそも…私にアスナと話す権利すらあるのかって…友達でいる権利すらも、自ら放棄した私に…!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…会いに行く勇気すらも出すことができず…SAOは攻略された。
現実に帰ってきた私には…もう何も残ってなかったわ。
唯一の友達も自ら失くして…また私は一人ぼっちになった。
それからはゲームも止めた…私の人生から色が消えたような感じだったわ。
生きた心地がしない…現実世界に帰ってきたっていうのに、まるで死んでいるような感覚をずっとし続ける人生…そして、悪夢を見続ける地獄…罰としては、これ以上にふさわしいものはないでしょう?」
「なら…どうして、ALOをプレイし始めたんだ?」
長い独白が終わり…そして、やはり気になったのは、そんな心境になっていた彼女がどうしてALOを…忌避していたVRMMOを再開したのかということだった。
「…きっかけは偶然だったわ…少し前に、人工知能に関する記者会見があったでしょ?」
「…!海洋研究機構ラースが発表した、フラクトライトのことか?」
「ええ。たまたまその記者会見を目にして…気になって調べたのよ。その時に行われたっていう、未知のVRワールドの事件も…あるプレイヤーが協力を求めるために演説している動画を見て……そこから辿り着いたの…ALOにてトッププレイヤーとして活躍する、黒の剣士、夢幻の戦鬼、絶剣…そして……今はバーサクヒーラーとして知られる、閃光によく似た女性プレイヤーのことを…」
(…リズがALOプレイヤーに協力を求めるためにしたっていう説明の時の奴か…確か、アルゴさんたちが他のVRプレイヤーにも協力を求めるために、拡散したっていう話は聞いていたが…それを見て、更に情報を突き止めていったってことか…)
ユウキはまだALOから二つ名が有名になったからまだいいが、俺とキリト、そして、アスナの二つ名はそれなりに知られ、もしかしたらという程度で俺たちが同一人物だとALOでも思われていた。
まぁ、あくまでも知られているというだけで、本人に直接確かめるという愚行をしてくる輩はそう多くはなかったが…あの一件でそれが確実となる出来事があったのだ。
アンダーワールド大戦で、対峙したPoHがコンバート軍の前で何度も連呼してくれたせいでだ。まぁ、良心的な人たちが多かったので、帰ってきて以降もあまり問われることはなかったが…
SAO帰還者からすれば、俺たちを特定することなど容易いことには変わりないわけで…
「…それで、アスナがもしかしたら、ALOをプレイしているじゃないかって思ったわけか」
「…ええ。でも、直接確かめる勇気はやっぱり持てなかったから……掲示板を頼りに、情報屋の鼠とコンタクトを取ったの。それで…あなたを紹介してもらったの。閃光のことをよく知るプレイヤーを知りたいってお願いして…」
「…なるほどな。それで、俺からそのバーサクヒーラーが本当にアスナなのか、そして、その情報を知れればと考えたわけか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ようやく合点がいった…彼女の方も流石に騙し…というよりは、本心を隠していたことに罪悪感は覚えていたらしく、気まずそうに目を逸らす彼女は無言で肯定を示していた。
まぁ、何かあるとは思っていたし、別に害があったわけではないので怒りは全然感じていないのだが…ちょっとした溜息は吐きたくなったが…
「…ごめん、なさい…」
「…別に怒ってはないよ。色々と納得がいっただけだから」
「人がいいのね、あなた…」
「お人好しとかお節介とも言われるけどな。なぁ…もし良かったらだが、俺からアスナに伝言を伝えようか?直接会うのができないというのなら…」
「それは……できないわ…」
「どうして…君がアスナに対してどう思っているか、伝えたいことがあるじゃないのか?」
「…あるわよ…あるに決まってるじゃない?!」
「っ…!」
その叫びに俺は言葉を止められた。
悔しそうに叫ぶ彼女のその姿は…見ているこちらまでもが辛くなるものだった。
「でも…今更何を言えばいいのよ!?何年も、アスナのことを放置しておいて…今更になって、言い訳なんて言っても意味がないじゃない!?それに…私とアスナはもう会うべきじゃないの……お互いにね」
「それは……アスナが君のことを友達と思っているとしてもか…?」
その可能性があれば、どうなのかと問い掛けるも…彼女は沈んだ声で、暗く答えた。
「怖いのよ……またアスナを…誰かを裏切ることになるんじゃないかって……私は、そうするかもしれない自分が怖いの……」
その本心を吐露した言葉が一番の鎖なのだろう…その鎖は、俺がこれ以上どうこう言っても、砕くことはできないと思うほどに鈍く、そして、雁字搦めに彼女を縛っているように見えた。
(…裏切り、か…)
彼女を見送り、工房の戸締りを終えてから22層のログハウスに戻る最中、さっきの話を思い返していた。
知らなかった…というよりも、俺が予期していなかった事実が次々と明かされたが、やはり気になったのは彼女がアスナに対して抱く罪悪感だろう。
ある意味では過剰と言ってもいいほどのそれは、彼女を今も縛り続けて、彼女を苦しめている。そして、その痛みと重みがどれほどのものかが俺には嫌という程に伝わっていた。
要因は異なれど…俺やキリトもそうだったのだ。
確かに、彼女とアスナが見捨てるような形で離別することになったのは事実だ。しかし、それを責められるかと言われれば、そうではない。
物語の在り方を知っていた俺ならばともかく…死が隣り合っているようなあの世界で、友達の死を直視するのを避けようとした彼女の行動を誰が責められるだろうか…ましてや、当時の彼女たちは確か中学生だった筈…精神的な負担を考えれば猶更だ。
だが、彼女からすれば、裏切りだと断言するほどに忘れることのできない悪夢の鎖として残り続けているのもまた事実で…
(なんとかしてはやりたいが…これっばかりは当人同士の問題だしな)
お節介焼きでも、今回のケースは彼女とアスナの問題だ。
俺からアスナに話してもいいが…そもそも、アスナが彼女をどう思っているかが分からない。下手をすれば、更に話を拗らせることになりかねないわけで…
そもそも…話を切り出すにしても、やはり彼女と出会ったことを話すのは避けられないわけで、そうなると、二人が離別した時の話に繋がってしまうわけで…
おそらくこのことはキリトも知らないのだろう…旧知の俺やあいつが知らないのなら、他の面々に情報を尋ねるのも難しい。可能性があるとすれば、親友のリズだろうが…おそらくアスナの性格からして、話していないように思える。
さっきの話のことを口止めされていることも含めて、どうにも八方塞がりな気がする。せめて、アスナが彼女のことをどう思っているかが分かれば、まだやりようはあるのだが…
解決策を見出せないまま、ログハウスに着いた。やはりアスナに話を聞くしかないかと思いつつ、俺は扉を開けた。
「あっ。おかえり、フォン!遅かったね」
「おじゃましてるね、フォン君」
「…ア、アスナ…来てたのか、いらっしゃい。ただいま、ユウキ。まぁ、色々とあってな。依頼がごたついたというか、なんというか…」
リビングにはユウキの他に、遊びに来ていたらしいアスナまでもがいて、俺は思わず驚きの言葉を喉元で呑み込み、平静を装って静かに答えた。
もう結構遅い時間だが、明日は土曜で学校も休みだから、あまり時間を気にせずにいいのもあって来ていたのだろう…俺からすると、なんとも都合のいいタイミングでと思ってしまうが…
「あるプレイヤーのリハビリに付き合ってたんだよね。それが上手くいかなかったの?」
「いや、途中までは上手くいったというか…更なる問題が発生したというか…ちょっと明言し辛いことがあってな」
「へぇ~…ボクたちはさっきまで勉強してて、今は休憩中のところ。カナデはリーファやリズ、シリカと一緒にクエストに行ってるよ」
「なるほどな…休憩中ってことは、会話の途中だったか?もし男子禁制の会話だったら、ちょっと席を外すが…」
「ううん、そんな内容の話じゃなかったから大丈夫だよ。ちょっと昔の話を昨日ユウキにしたから、その続きを話していた感じだから」
俺の反応からして依頼の内容がそこまで明かせないと察してくれたらしく、話を変えるようにユウキが今何をしていたのか、不在のカナデの行方などを教えてくれた。
ガールズトークの邪魔をすべきではないかと思って席を外す旨を伝えるも、アスナがそこまでのものではないと答えたので、俺はそのまま話に混ぜてもらうことにした。
「昔の話って、またキリトとの馴れ初め話とかユイちゃんに関する親バカ話の類か?」
「そんなんじゃないよ…SAOの頃の話だよ」
「っ……SAOの…?」
その名が出た時、俺はまさかと思い、思わず動揺が顔に出てしまった。しかし、その可能性を肯定するかのように、話の内容を教えてくれたのはユウキだった。
「アスナが一緒にSAOを攻略していた人のことを教えてくれたんだ。フォンたちと出会う前の話だから、フォンも「…ミト」…えっ?」
「…フォン君…今、なんて…」
「そのプレイヤーの名前はミトって言うんじゃないのか、アスナ…?」
ユウキの話を遮り、呟いた名前にアスナは驚く。確認するような問いかけに、俺ははっきりとその名を告げながら、逆に尋ね返した。
恐る恐ると…どういうことか分からないと困惑した様子で頷くアスナに、俺は深い息を吐いて、覚悟を決めた。こうなったら、黙っているよりは話すべきだと判断したからだ。
「俺がさっきまで一緒にいた依頼人がミトというプレイヤーだったんだ…彼女は自分のことをSAO帰還者だって、言ってた」
「…う、そ……ミトがALOに…ALOをプレイしているの?」
「最近出戻りしたって話だ…理由は……口止めされているから言えないがな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちょ、ちょっと待って!今日の依頼の人、男の人だったんじゃないの!?」
「変装用の装備をしていたんだ。エクストラスキルが必要になるが、アバターネームを変えられる装備を作れるんだ。俺は存在だけを知ってて作ったことはないんだが…おそらくそれ関連のアイテムだと思う」
かつての友がALOにいる…そう聞いたアスナはショックを受けたようで呆然としていた。一方のユウキも、事前に俺から聞いていた話と違うと驚いていたが、その経緯を聞いて更に驚いていた。
彼女が男性アバターを偽装するために纏っていた防具のカラクリを知った時、SAOで一度だけ見たことがある…あの人が自身の姿を偽る時に装備していた仮面のアイテム『偽将の仮面』が頭に浮かんだ。
あれは装飾品スキルと、そこから派生する『保護道具作成スキル』によって作り出せるかなり高位のアイテムであり、仮面を被っている間は別のアバターネームを表示することができるという、まさしく暗殺者向けの黒い面を持つ装備だ。
もちろん、プレイヤーネームを知られるリスクを回避するためのアイテムでもあるのだが、使いようによって善にも悪にも傾倒しやすいものの一つというわけだ。
アルゴさんが仲介という形で関わっている以上、おそらく彼女経由であの人から渡ったとみるべきだろう。そう考えると、偽装装備の出所に納得がいくのだ。
「ねぇ、フォン君……ミトは、元気だった?」
「…とは言えないな。正直に言えば、見ていられないぐらいの感じだった。無理してるとも言うべきなんだろうな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼女がどんな様子だったのか、気になったアスナが尋ねてくるも、俺は言葉を選びながらもそう答えることしかできず…アスナの顔色も曇ってしまった。
「…なぁ、アスナ…もし、ミトに会えるとしたら、どうする?」
「…!?」
結局、この問題をどうにかするにはこれは避けられない…そう思い、俺はアスナにそう問い掛けた。
当人同士の問題である以上、その場を設けるぐらいしか俺にできることはない…しかし、それと同時にアスナがミトをどう思っているのかを知らなければ、その機会を作るべきかどうかというのも話が変わってくるわけで…
「俺は彼女とフレンド登録をしてる……まだ解除されてはないみたいだから、場所を突き止めて、会わせることは「会うよ」…即答だな…」
俺の提案を言い終わるよりも先に、回答がアスナの口から飛び出し、逆に俺が圧倒された。だが、まだ話は終わりではない。
「けど、本当にいいのか?話は彼女から聞かせてもらったが…」
「…そっか。フォン君もミトから聞いたんだ……そうだね。確かに私とミトはあんな形で別れることになっちゃったよ……私もね、最初は裏切られたって…もう誰も信じられないって……無茶な攻略に走るようになって……
でもね…実は………」
アスナとしては、やはり彼女に思うところがあるのでは…俺のそんな不安と疑問に、僅かに顔を顰めたアスナだが…その口から意外な事実が告げられた。
それは…俺も…そして、彼女すらも知る由がなかったもう一つの真実だった。
「…ハハッ…そうか、そういうことだったのか…まったく…!」
恥ずかしいことに…第一層からの付き合いだというのに、そんなことがあったとは知らずに…小説にはなかった出来事に、俺は思わず笑みが零れ、顔を手で覆っていた。
そういうことならば、何も問題はない…憂いていた懸念は全て払拭されたも同然だ。これで俺にも迷いはなくなった。
「なら、あとは全部お前に任せる、アスナ…俺にできるのは、お前と彼女を引き合わせることぐらいだ」
「…うん!」
アスナに丸投げする形にはなってしまうが、こればかりは第三者である俺にはできることなど限られている。少なくとも…過去に囚われている彼女に手を出し伸ばせるのは、もうアスナしかいない。
もう今日は遅いこともあり、アスナも明日は朝から空いているとのことだったので、向こうのメンタルのことも考え、朝イチで会いに行こうということになり、その日はお開きとなった。
さりげなくPoHの名前も出ましたが、UW大戦で二つ名呼びまくられまくったフォンたちって、滅茶苦茶風評被害受けてそうだなと思ったので(なんやかんやで二つ名でALOでも呼びまくられてましたけど…)
ちょっと作者の主観も入ってますが、ミトから見たアスナを描写したお話でもありました。実はこの前行われた『フルダイブ』や絶賛公開中『冥き夕闇のスケルツォ』の設定もぶっこうもうかと考えたのですが、流石にネタバレが過ぎるかと思い、ボツにしました。
そういうわけで、次回でひとまずおおまか話に決着をつける形…の予定ですが、アンケートの結果を見て、④もやります!
ある意味ではアスナ編④というよりも、ミト編に近いお話になるかと…とりあえず、ミトファンを怒らせそうな内容ですが…ミトをレギュラーメンバーにしようと思うと、やっておいた方がいいと考えた結果ですので…
まずは、次回の再会編となる第三話にご期待頂ければと思います。
それでは!
キャラエピソード第2弾 どのキャラのお話が見たいでしょうか?
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某トレジャーハンターF
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