ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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アスナとミト…すれ違い続けた二人がようやく再開します!

『星なき夜のアリア』に加え、最新作『冥き夕闇のスケルツォ』に関するネタバレも少し含みますので、ご注意ください!

それでは、どうぞ!




アスナ編③ 「双星のアリア」

『このっ…!えっ…えっと…!?あっ!…あ~、また負けたぁ~!?』

 

『明日奈は守ることばかり考えすぎなのよ。もっと攻めなきゃ』

 

…ああ、これは夢だ。

 

とても懐かしく、楽しかったあの記憶を見ているような気がして、アスナはそう思った。あの時だ…あの時、彼女があのゲームを教えてくれたんだのだと…

 

『ソードアート・オンライン…?』

 

『略称SAO。ねぇ、一緒にやってみない?』

 

彼女の言葉を受けて、偶然に兄が部屋に放置していたナーヴギアを被って…アスナはSAOに囚われることになった。

 

最初は現実が受け入れられず、そして、死を目前にしたこともあって、八つ当たりに近い形で、彼女へと感情を爆発させてしまった時も…彼女は拒絶することなく、アスナを受け止めてくれた。

 

『私が…絶対にアスナを死なせない』

 

その言葉のお陰で、アスナは絶望しそうになっていた心をなんとか繋ぎ止めることができた。

 

 

だけど、アスナはその少女と別れることになった。

 

どうして、なんで、わからない…その感情がアスナの胸中に渦巻き、独りとなった彼女は、攻略して死ぬことをよしとする命知らずとなりかけた。

 

連日、迷宮に籠りまくり…そして、かつて自身の窮地を救ってくれた少年と再会し、倒れた自分を運んでくれることになって…

 

『ゲームは…人そのものを変えてしまうの…?』

 

後に友人となるもう一人の少年がどこかに行っている間に、黒髪の少年の勧めでボス戦に備えて武器の強化をしに行った帰り…アスナは思わず、そのことを少年に尋ねてしまう。

 

だが、彼は…涙を流すアスナに対し、

 

『SAOは普通のゲームじゃない…命が懸かってる。ましてや、戦いの最中、本当に生死が関わる極限状態では、自分が生き残るためにどんな行動だって取るだろう。

でも…そんな状況下で表れるのが人間の本性とは限らない。確かに君の友達が、その場から去ってしまったのは事実だろう。けど………』

 

 

 

「…っ!?……やっぱり、夢か…」

 

目が覚めたのと同時に、見ていたものが夢だと確信した明日奈はどこか残念そうにしていた。懐かしい友の存在を聞いたからか…あの時の記憶を思い出してしまったのだろうか…

 

ベッドから身体を起こし、時計を見る。待ち合わせの時間までまだ余裕がある。

 

(…ミト…)

 

今日、これから彼女と会う…正直に言えば、不安なところはある。

 

でも、それでも…明日奈は彼女に会いたいと心の底から思っていた。

 

はやる気持ちを抑え、まずは朝食を食べて…すぐにALOへと向かいたいと思い、明日奈は準備を始めた。

 

 

 

『深澄ちゃんはゲーム上手だから楽しいかもしれないけどさ』

『いっつも一人だけ生き残るだもん』

 

…それらは、少女がかつて友達だった女の子たちに言われた言葉だった。

 

小さい頃からゲームにのめり込んでいた少女にとって、その言葉はあまりにも鋭すぎた…友人たちもきっと楽しんでくれている、全滅してクリアできないよりは一人でも生き残ってクリアした方がきっといい、できる限りのフォローはしたつもりだと…少女がそう思っていただけに、その言葉はあまりにもショックだった。

 

 

だからこそ…少女はソロでゲームをプレイし続けた。ゲームをし続けたいという渇望だけを満たしたく、ゲーセンに通い詰め、スマホゲームをやりこみ…表に出すことなく、し続けた。

 

…まぁ、学校がいわゆるお嬢様系のタイプだったため、表に出せなかったというのもあるが…

 

そんな中、隠していた裏の顔を見られたのが、同級生の結城明日奈だった。

 

しかも身バレした原因が、自身が一切の仮面を被ることなく相手を圧倒していた格闘ゲームが街頭モニターでプレイ中継されていたのに気付かず、うっかり見られたことだった。

 

最初は口止めするだけのつもりだったが…主席争いの相手として注目していたこともあって…そして、明日奈の方も、当時母親からのプレッシャーを受けていたこともあって、互いの本音を唯一明かせる存在として…二人はこっそり放課後にゲームを一緒にやりあう友達になった。

 

少女にとって、明日奈は自分とは全く違うタイプの女の子だった。

 

ゲームを全く知らないお嬢様、けど、それはとてもいい意味であって、誰からも好かれる学校のマドンナ…孤独でいることが平気な自分とは真逆の存在…同時にどこか放っておけないとも思っていた。

 

『ソードアート・オンライン…?』

 

『略称SAO。ねぇ、一緒にやってみない?こっちでも…明日奈に会ってみたいな』

 

ある日、βテスターでもあった少女は、あの時に経験した感動が忘れられず…それを明日奈にも知ってほしいと思って、紹介し提案した。

 

それは、久しぶりに仲良くなれた友達に対する、少女なりの信頼からくる行動だった。

 

それが、デスゲームに友達を巻き込むことになるとは知らずに…

 

 

 

(…ああ…これもまた天罰なのかな…)

 

荒れる空気音は、乱れた自分の呼吸なのだろう…眼前に広がる虚空の暗闇と怪物を前に、少女は内心でそんなことを呟いていた。

 

昨日、ここに来て…こいつと遭遇した時、これは最後のチャンスなのではないかと少女は感じた。

 

過去を振り切る試練なのではないかと…あまりにもタイミングの良すぎるその遭遇は、少女にそう思わせるには十分過ぎた。

 

だが、それが自分があまりにも勝手な思い込みであり、どこまでも自分勝手な人間なのだと思いやられることになる…天罰なのだと思い直させることになった。

 

ウツボカズラのような巨体を目にした途端…またしても身体が動かなくなったのだ。少女の視界に、あの時の悪夢がダブって見えた。

 

『…ごめん、アスナ…約束、守れない……』

 

裏切りと後悔の記憶が、少女の心を絶望へと突き落とす。

 

立っていることもできず、持っていた鎌を落とし、膝が地面へと突く。

 

きっと…自分はこの世界にいる資格はないのだと…少女が現実から目を背けるように、瞼を閉じ…その思いを果たさせるかのように、怪物は一本の触手を少女目掛けて振り下ろそうと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

…その時、戦場に飛び込んできた一筋の剣閃が少女を追い越し、触手へと刃を突き刺した!

 

「…えっ?」

 

背後からの突風と、そして、眼前に現れたその気配に、少女は閉じていた眼を開けた。剣戟による衝撃波と属性余波による煙が漂う中、自分の目に飛び込んできたのは、水色のロングヘアーに、忘れることのない髪の編み方をしたプレイヤーの姿で…

 

「…明、日奈…?」

 

「やっと……また会えたね、深澄」

 

硬直が解け、名を呼ばれた少女…アスナが懐かしさを含んだ笑みと共に振り返る。自分が見ているものが信じられず、呆然とする少女だったが、

 

「っ…!?後ろ…!」

 

「…!」

 

先程の攻撃で触手が斬り落とされ、そこからネペントが出現していたのだ。それに気付いた少女が叫び、身構えようとしたアスナだったが、

 

「アスナ、動かないで!?」

 

「「っ!?」」

 

背後から聞こえてきた更なる声に従い、アスナは動きを止める。その次の瞬間、紫の影が駆け抜け、片手剣重3連撃〈サーベジ・フルクラム〉を放ち、ネペントを斬り刻む!

 

「…フォン!」

 

「おう!」

 

そして、少し遅れて駆けつけた少年がその勢いで跳躍し、弓を構える。空から持てるMPを魔法矢に変えた技…幻想剣《弓》魔法兼用連射ソードスキル〈ヘクセレイ・アンフィニ〉による無数の魔法矢がボスへと放たれ、直撃と共に大爆発を起こす!

 

「…どうして…ここに…?」

 

「それはこっちの台詞だ…ったく。まさかと思って駆けつけてみれば…」

 

アスナだけでなく、知らないプレイヤーと、そして、自分が騙した筈のフォンが駆けつけたことに、少女は思わず疑問を口にしていた。

 

それに答えるフォンは肩を竦めながら、ここに来るまでの経緯を思い出していた。

 

 

 

「ごめん、お待たせ…って、どうしたの?」

 

「アスナ、おはよう。ボクたちもさっきログインしてきたところで、フォンがフレンドリストを見てるんだけど…」

 

「……どういうことだ?」

 

家族に今日は一日ダイブすることになるかもしれないと告げてから、ALOへとダイブしたアスナは、待ち合わせ場所であるフォンたちのログハウスを訪れていた。

 

しかし、そこにあったのはメニューを睨むようにみているフォンと、それを覗き込むようにしていたユウキの姿だった。どうしたのかと尋ねると、代わりに答えたユウキに続き、アスナの来訪に気付いたフォンが口を開く。

 

「ああ、アスナか。ちょっとミトの場所を調べていた所なんだが…補足できないんだ」

 

「えっ…フレンドの追跡機能で追えないってことだよね?それって、追跡不能に設定されているか、ダンジョンに潜っているから探知不能になっているかじゃないの?」

 

「おそらく後者だな…追跡拒否なら、まず表示自体がされないからな。だが、ミトの現在地は不明扱いだ」

 

「まぁ、追えないじゃ仕方ないよ。とりあえず、細目にチェックして……フォン?」

 

アスナの確認に、フォンは後者だろうと告げる。それでも、フレンドリストを目視し続ける彼に、ユウキがまた後で確認しようと言うのだが…嫌な予感がするフォンは、別の提案をするのだった。

 

「なぁ、二人とも…第一層の迷宮区に行ってみないか?」

 

「「…えっ?」」

 

どういうことかと、フォンの提案に首を傾げる二人。フォンは、昨日遭遇したエクストラボスに関する情報を教えていく。

 

あの時、ボスと対峙したミトの様子が急におかしくなったことを含めて話すと…ボスが分身体を生み出す巨大なネペント型モンスターだと知ったアスナが血相を変えた!

 

「フォン君!そのボスの場所はどこなの…!?」

 

「…どうやらただごとじゃなさそうだな。案内するから、急ごう…!」

 

詳細は聞きながら行くことになりそうだと感じつつも、アスナの問い掛けにフォンは手短に答え、二人と共にログハウスを飛び出した。

 

 

「…それじゃあ、お前とミトが別れた原因が実付きのネペントだったってことか!?」

 

「そうなの!多分、ミトはその時のことを…!?」

 

すぐさま第一層に転移し、迷宮区の入り口で目撃情報がないかと確認すると…迷宮から戻ってきたプレイヤーたちがミトらしきプレイヤーを見かけたと聞き、フォンの嫌な予感とアスナの予想が的中したのだと悟り、三人は迷宮区内を駆け抜けていた!

 

ポップしエンカウントするモンスターなどものともしない強行突破の最中、アスナが当時の出来事を簡潔ながら話すも、フォンもユウキも苦い表情になっていた。

 

特にフォンは、実付きのネペントの脅威をその身を以って味わったことがある故に、そして、キリトと月夜の黒猫団の一件を知っているからこそ…アスナとミトが体験した悲劇の辛さが分かってしまった。

 

『ゲームの相手は明日奈だけでいいわ』

 

『こっちでも…明日奈に会ってみたいな』

 

『そういうのはアスナだから似合うのよ…私には、そういう髪型は…きっと似合わないわよ…』

 

 

「(…ミト…!?)…フォン君、エクストラボスの扉は、迷宮区ボス部屋に至る道の途中までだったよね!」

 

「えっ…あ、ああ」

 

「…ゴメン、先に行くね!」

 

「ちょ、アス、うおぉ!?」「アスナ…きゃ!?」

 

今朝見た夢は予兆だったのかもしれない…それを思い出したアスナの脳裏に焦りと同時に彼女との思い出が蘇り…確認と共にその姿が一気に加速した!

 

制止しようとしたフォンとユウキの眼前から消えたアスナ…それが持てる力での全力疾走を開始したのだとは思えない程のスピードだった。その直後に、アスナの進行を妨害しようとしたコボルド・ソルジャーが……突然とポリゴンと変わってしまうという事態に…

 

「…ユウキ。今の見えたか?」

 

「な、なんとか……まさしく閃光だったね、あれは」

 

自分の目では何が起こったのかが分からず、思わず並走するユウキに尋ねるフォン。彼女の類まれなる反射神経を以って、ギリギリ視認できたが…その動作は納刀していた細剣を抜いてからの一撃でモンスターの急所を刺し貫き再び納刀…それらをコンマ単位の瞬間でやってみせた技巧は…まさしく閃光の名にふさわしいものだった。

 

「…って、あいつ一人で突っ走ってどうするつもりだ!なんで、そういうところは夫婦同士似てんだよ!?」

 

「アハハ…とにかくボクたちも急ごう!」

 

「だな…本当に世話が掛かる奴らだ」

 

ここ最近走りっぱなしだなと、そして、つい先日にもどこぞの相棒が同じことを仕出かしたのを思い出し、フォンは思わず手を顔で覆った。そんなパートナーの苦労に苦笑いしていた。

 

ともかく、アスナを独走させるわけにもいかず、苦笑しつつも二人も更にスピードを上げて、その後を追うのだった。そして…

 

 

「とりあえず、今回もギリギリセーフで間に合ってなんとかってな」

 

回想を手短に終え、冷や汗と疲労の汗…その二つの意味のそれを拭い、ミトの傍にいるアスナへと視線を向けながら、フォンは弓に矢をつがえる。

 

「アスナ、ボスは俺たちで抑える。その間に彼女と話をしろ。但し…俺たちがボスを倒す方がもしかしたら早いかもしれないけどな?」

 

「…別にいいよ、倒しちゃっても。でも、危なくなっても助けてあげないよ?」

 

「ハハッ、それは手痛い反撃だな。こっちは任せて、そっちに集中しとけ…いくぞ、ユウキ!」

 

「うん!」

 

軽口を叩きながらも、時間稼ぎを受け持ったフォンとそれに続いたユウキが触手を再び振るってきたボスネぺントへと立ち向かう!

 

「…ミト…」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

頼りがいのある友たちに背を任せ、アスナはもう一人の友…かつての親友と対面していた。座り込んで視線が合わない友の姿…久しぶりに見た親友の姿はあまりにも違っていて、アスナはショックを受けつつも、その傍に歩み寄ろうと…

 

「っ…来ないでぇ!?」

 

「…!?」

 

しようとした最中、拒絶の言葉がその場に響き渡った。その言葉にアスナの手と足が止まる。

 

「会いたくなかった…こんな酷い私をアスナに見て欲しくなかった!?」

 

「ミ、ミト…落ち着いて…!」

 

「アスナを絶対に守るって…絶対に危ない目には逢わせないって約束したのに……私はアスナを置いて逃げた…!?最後まで助けようとせずに見捨てたの!?そんな私が…明日奈と一緒にいていいわけがなかったのよぉ?!」

 

「ミト!お願い、私の話を…!」

 

「怖くて、嫌で…ずっと逃げ続けたの!?今までもそうやって目を逸らし続けてきたの!?自分さえ良かったら、他人のことなんかどうなったっていいって思っているのが私の本性なの!?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「…私は明日奈みたいに強くなれなかった…!?明日奈みたいな人になりたかった!私だって…私はもう嫌なの!?誰も裏切りたくない、約束を破りたくない、友達を失くしたくない!?私は明日奈とは違うの!?もう私のことなんか「ミト!!」…っ!?」

 

嗚咽交じりの、錯乱したようなミトの悲痛な叫びに…アスナは過去の自分がダブって見えたような気がした。

 

ああ、そうだ…あの時も…そう思った時には、ミトの悲鳴を受け止め、否定するようにアスナはしゃがみ込んでいた親友の身体を優しく抱きしめていた。

 

かつて…SAOがログアウト不可能のデスゲームと化した現実を受け入れられずにいた自分を救い、支えてくれた時のように…それを今度は自分が親友にする形となった

 

「…明日、奈…?」

 

「『お願いだからそんな事を言わないで』」

 

「っ…!?」

 

「…ミトが…ううん。深澄が私に言ってくれた言葉だよ。あの時…全てに絶望しようとしてた私に、あなたがそう言ってくれたんだよ。だから、私はあのゲームで折れずに…絶望して死のうと思わずに済んだの」

 

「…でも……でも!?私はあなたを裏切った…約束したのに、あんな偉そうなことをあなたの前で宣言したのに……私は…!」

 

「確かに…深澄と別れた後、色々と思ったよ…どうして見捨てたのって、なんで来てくれなかったのって……何にも分からなくて、悲しくて…裏切られたんじゃないかって辛くて………深澄が変わっちゃったんじゃないかって……自分が信じていたものが虚像だったんじゃないかって……」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「でもね…そうじゃなかったんだって……深澄は、私が知っている貴女のままだったんだって、教えてくれた人がいたの…」

 

ミトへと告げるアスナの口から語られたのは…彼女たちが別れた後、アインクラッド第一層のボス攻略前夜の出来事だった。

 

 

『ゲームは…人そのものを変えてしまうの…?』

 

『…βテスターと何かあったのか?』

 

フォンがアルゴに呼び出されていたのと同時刻…キリトにアドバイスを受け、隣町の鍛冶屋へと足を運んでいたアスナは、思わず尋ねてしまっていた。

 

それは、第一層攻略会議にてβテスターのことが話題にあがったこともあり、彼女がどうしても気になっていたことでもあった。アルゴを始め、βテスターの中には攻略を手助けしようとする者がいる一方で、そうでもないプレイヤーもいるかもしれない…そう聞いた彼女の脳裏に浮かんだのは、ミトのことだった。

 

一緒にいた際、ミトもβテスターだと聞かされていたアスナからすれば、ミトが取った行動が、どうしても頭を離れないでいたのだ。

 

『…そうか…君のパーティメンバーがβテスターだったのか』

 

ミトと別れた直後、突如出現したフィールドボスに殺されそうになっていたアスナを救ったのがキリトだった。そして、また少ししてダンジョンで無茶なレベリングをした結果、過労で倒れたアスナと再会して、宿まで連れて帰ったのだ。

 

助ける前にそんな経緯があったとは知らず、その時のことを知ったキリトは少し悲しそうにアスナの話を聞いていた。

 

『現実世界でも友達で…こっちに来てからもずっと一緒で……でも、あの時、彼女はモンスターのレアアイテムを手に入れていた…だから、私よりもそのアイテムを優先して……ずっと…ずっと一緒だったのに……どうして…』

 

『………そのモンスターはどんな奴だった?』

 

『えっ…?』

 

分からないとばかりに…泣きそうになっていたアスナの話を聞き続けていたキリトが、いきなりそんな質問をしてきた。突然の問い掛けに驚きつつも、アスナは答えていく。

 

モンスターの種類、その特徴、そして、ミトがメインとしていた武器のカテゴリーを…アスナが記憶を辿り、小柄なフードを被った鼠人間っぽいモンスターで、ミトが鎌をメインとして使っていたことを伝えると、

 

『……!そうか…だから、彼女は…フォンもドロップさせたあのアイテムを狙っていたわけか…』

 

自身が知る情報と、そして、先日その狩場でレベリングしていた際に、相棒が偶然に遭遇して見事に仕留めた際に手に入れた武器…βテスト時と変わっていなかったそのドロップアイテムの正体を知り、キリトは納得の笑みを見せた。

 

そして、ミトの考えを理解したキリトはアスナへと言葉を掛けた。

 

『SAOは普通のゲームじゃない…命が懸かってる。ましてや、戦いの最中、本当に生死が関わる極限状態では、自分が生き残るためにどんな行動だって取るだろう。

でも…そんな状況下で表れるのが人間の本性だとは限らない。確かに君の友達が、その場から去ってしまったのは事実だろう。けど………

 

 

普段の生活に垣間見える何気ないその姿こそが、その人の真実なんじゃないかな…俺はそう思う。その子がβテスターかどうかは問題じゃない…彼女がどんな人間なのか、それはずっと一緒にいた友達である君が一番知ってる筈だろう?』

 

『私が…知っている姿……』

 

『…ああ。その子は凄いと思うよ。一緒にゲームをクリアしようって言ったんだろう?ビギナーの君を見捨てずに……俺はそうはできなかったから。

それだけじゃない…βテスターのプレイヤーも助けようと動くこともできなかった…俺の相棒もビギナーなのに、βテスターのことも見捨てないで助けようとして…そんな俺からしたら、彼女がどれだけ凄いかがよく分かるよ』

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

少し陰りを見せたキリトの言葉に、アスナは言葉を詰まらせた。もしかしたら、目の前にいる人も、自分とは違う辛いことを目の当たりにしたことがあったのではと…しかし、すぐにキリトがその表情を隠し話題を変えたことによって、それ以上追及することができなかった。

 

『…相棒と言えば、実はその相棒が、多分君の友達が仕留めたモンスターと同じ奴に遭遇したことがあったんだ。本人は当分使う気はないって言って、俺が預かってたんだけど…そのモンスターがドロップさせたのが、さっき強化した、今、君が持ってる、…』

 

『…えっ…』

 

 

 

「『ウインドフルーレ』…あの時、あれを落とすモンスターを倒しに行ってたんだよね?」

 

「っ…?!」

 

アスナが告げた武器の名前…それを聞いたミトは、アスナが自身の行動の理由を知ったのだと悟り、目を丸くした。

 

そう…ミトが傍を離れている間に、アスナが実付きネペントの他のモンスター誘発事故を引き起こしたことで、二人が離別することになった原因となったのは、第一層では高ランクに位置するレア武器の一つ…細剣カテゴリーの武器をドロップするモンスターが現れたからだった。

 

それは偶然にも同じ経緯でフォンが入手していたこともあって、当時は片手剣をメインにしていたこともあって、キリトに預けてあったものを、ボス前夜にアスナに譲渡したのだ。

 

そして、親友が自分のために…自分が使っているメイン武器の高ランクのものを手に入れるためだったのだと知ったアスナは、ずっとその武器を使い続けた。攻略レベルに追い付けなくなってからも、インゴットに変えてその血統を継ぐ細剣を使い続けていった…そうすれば、友がすぐ近くにいるのではと…お守りのように大事に使ってきたのだ。

 

…まぁ、当時、勝手に細剣をアスナに譲ったことで、第二層に行った後、そのことを知ったフォンがキリトにお小言の嵐をぶつけたという余談があるが、今は置いておこう。

 

「…深澄は…ずっと私が知っていた深澄だよ。ゲームが上手で、オシャレに無頓着なところがあって、すっごく可愛くて……そして、私の大事な親友だよ」

 

「…っ!?…でも…私は明日奈を見捨てたんだよ…?!約束をしたのに…明日奈が死んじゃうかと思ったら、それを目にするのが嫌で……自分のことを優先して逃げたんだよ!?恨まれて当然のことをしたんだよ!?」

 

「それでも!!」

 

「っ!?」

 

「それでも……私の信じている深澄は優しい人だよ。あの時…あの世界じゃ、誰もが死と隣り合わせだった…私が折れそうになっていたのを支えてくれた、私にあの世界で生き延びる術を教えてくれた、私が生きるためにその手を引いてくれた……だから、もう自分を責めないで…」

 

「…明日、奈…!」

 

「私はもう怒ってないよ…恨んでもない…でも、深澄が泣いてる姿を見てると私も嫌なの。苦しんでいると私も痛いよ……あの世界でしてくれたように、今度は私が深澄を助けるから…もう自分を赦してあげて?」

 

「明日奈……私…私!?」

 

「うん…もう大丈夫だよ……深澄」

 

「ううぅぅぅ…うわああああああああん!?ああああああああああああああぁぁぁぁ……!?」

 

きっと彼女が赦せなかったのは自分自身だったのだろう…しかし、それを救ってくれる人はやはり唯一の友しかいなかったわけで…

 

親友の言葉に、限界を…いや、本音を隠していた仮面が外れた彼女の慟哭がフロアに響き渡った。

 

長年の悲しみや後悔を吐き出すかのように泣き叫ぶ友を、アスナは優しく抱きしめていた。

 

「ぐずぅ…ゴメン!ゴメンね、明日奈!あの時、助けに行けなくて…約束を守れなくて…本当にゴメン!?」

 

「うん…私の方も…ちょっとでも深澄のことを疑って…ゴメンね」

 

「…ねぇ、明日奈…こんなことを言う資格はないとは分かってるけど……私と…また友達になってくれる…?」

 

「なに言ってるのよ…さっきも言ったでしょ。今でも、私たちは友達…深澄は私の親友だよ!」

 

「明日奈……明日奈ぁ!!」

 

「ちょ…!?もう、仕方ないな…一体いつから、そんな甘えん坊になったのよ」

 

抱きしめていたとはいえ、まさか押し倒されそうになる程の勢いで抱き返され、アスナは困った様に笑う…が、そう見えるだけでやはり嬉しいのだろう。声が明かるいのがその証拠だった。

 

「でも…深澄の泣き顔なんて初めて見たかも…ちょっとかわいい」

 

「なぁ…!?人の泣き顔を見て可愛いって…どういう評価よ!」

 

「え~…だって、深澄、元が美人だし…クールぶってる割に、すぐに熱くなるところもあるし」

 

「そういう明日奈だって、ゲームを始めたらすぐに熱くなるじゃない!それに、今やバーサクヒーラーとかも呼ばれてるんでしょ?」

 

「その名で呼ばないでよ!?私だって、そんな二つ名で呼ばれてかなり困ってるんだから!」

 

わだかまりが解けたこともあって、これまでの溝を埋めるかのように言葉を交わす。傍から見ていれば、親友同士の親密な会話に見えるのだが…場としてはそれ以上のイチャイチャを容認できるような場合ではないわけで…

 

「…なぁ!盛り合ってるところ、邪魔して悪いんだが、手が空いてるなら、そろそろこっちを手伝ってくれないか!」

 

「「…あっ」」

 

本人的には邪魔をしたくはなかったのだろうが、そうも言っていられない状況なわけで…弓矢を連射する最中、少しだけ振り返って叫ぶフォンの姿に、アスナとミトはボス戦だったことを思い出し、思わず顔を見合わせる。

 

既に6本あるうちのHPを2本も削っており、戦況は優勢だが、アタッカーであるユウキには疲弊の色が見え始め、触手を斬り離されたことで出現し続けるネペントたちがユウキに迫らないように、矢で屠り続けるフォンにも限界はあるわけで…

 

「…そういうことで、積もりに積もった話はまたあとでしようか?ミトには、私の友達や結婚相手と娘も紹介したいし」

 

「そうね、まずはここを乗り越えて……ちょっと待って、今なんて言った?結婚相手に…娘ぇ?!」

 

「えっ…あっ…え~っと…」

 

「あ、あ、アスナぁ!?あなた、いつのまにそんな…子供まで生んで、結婚って…どこの馬の骨よ、その馬鹿は!首を刈ってやるわぁ!?」

 

「お、落ち着いて、ミト!?言い方はあれだったけど、SAOの時からの話で…」

 

「っ…!そ、そんな前から……あんなクソ真面目だったアスナが、私よりも早く、かなり上の大人の階段を登っているなんて…!」

 

「だ、だから、誤解だって…「いい加減にしろ、お前ら!」…ご、ゴメン、フォン君!?」

 

気が抜けたのか、それとも、昔のように少しは戻れたのか…戦場の空気に似合わないやりとりをしていると、フォンから催促のツッコミが飛んできた。慌てて謝ったアスナはミトを見て、

 

「それじゃあ、私たちも行こうか…!ミト、ブランクがあるからって、ヘマしないでよ」

 

「むぅ…生意気言ってくれるじゃない。でも、アスナの方こそ忘れてるんじゃない?私の方が断然ゲームが上手だったことも、経験値も豊富なことも…」

 

「忘れてなんかないよ…でも、私もあの時とは全然違う…もう、ミトの背中を追いかけてるだけのニュービーじゃないってところ…見せてあげるんだから」

 

細剣と大鎌を互いに構え直し、互いを挑発するかのように鼓舞する二人。それを横目で確認したフォンは、疲労の色が濃いユウキへと指示を出す。

 

「ユウキ、援護するから後退しろ!主役交代だ!」

 

「…!了解!」

 

その指示を素直に聞いたユウキは迫ってきていた触手を斬り落として、後方にいたフォンの元へとダッシュする。それをボスの代わりと言わんばかりに5体のリトルネペントが追いかけようとするが、

 

「させるかよ!」

 

僅かに自然回復したMPをまたしても枯渇させ、フォンはもう一度〈ヘクセレイ・アンフィニ〉で魔法矢を繰り出す。1セットしか出せない魔法矢だが、HPの低いネペントたちを葬り去るにはオーバーキルの威力であり…爆発と同時にその身体がポリゴンへと変わる!

 

「今だ!?」

 

「「っ…?!」」

 

爆煙から逃れるように下がってきたユウキが急ブレーキで地面を擦るのと同時に、フォンが叫んだことで、控えていたアスナとミトが飛び出す!

 

「ボスネペントの弱点は触手だ!触手を斬り落とせば、HPを大きく削れる。その代わりに、斬り落とされた触手から取り巻きのネペントが生まれる仕組みだ!出てくる取り巻きは俺が矢で始末するから、二人は触手への攻撃にだけ意識を集中しろ!」

 

「分かったわ!」「了解!」

 

ユウキと共にボスのHPを削っていた最中、判明した事実をフォンは叫ぶように前方に駆けていく二人へと伝える。

 

ボスネペントの増殖効果は確かに脅威だが、それと同時に弱点でもあったのだ。瞬時に再生する触手の特異性から、半永久的に弱点を攻撃手段として使わなければならないわけで…ユウキに触手が斬り落とされる度に、HPの減りが大きいことに気付き、フォンは代償として出現する取り巻きを受け持ったのだ。

 

全力で動き続けていたユウキは疲労もあって、少し息を乱してフォンのすぐ後ろで休んでいた。そんな彼女に変わり、前線に出たアスナとミト…しかし、ミトは未だに不安を胸に抱いていた。

 

(…本当に闘えるの…?)

 

誰に問いかけたのかは一目瞭然…さっきはアスナの発破の声掛けに思わず乗ってしまったのもあったが…今の自分に、この脅威へと立ち向かえる心が本当にあるのかと、ミトは不安を感じていた。

 

近づくにつれ、ネペントの巨体が嫌でも目に入ってくる…それだけで、あの恐怖感が体の動きを鈍らせる。

 

(やるしか……やってやるのよ、ミト!)

 

自分を鼓舞するように、そして、言い聞かせるように呟いたミトは触手の一本へと接近する!そして、振り下ろされたそれをギリギリの距離で躱し、お返しに鎌単発ソードスキル〈モーアー〉を叩き込む!

 

その一撃によって、切断された触手が地面へと落ち…それを媒体としたリトルネペントが新たにポップする!

 

「っ…!」

 

それを目の当たりにしたミトの身体が一瞬硬直する。自身と対峙するネペントと、そして、奥で既に二本の触手を斬り落としたことで、二体のネペントにタゲを取られたアスナの姿が視界に入り、嫌でもあの光景が…あの悪夢が脳裏に蘇る…!

 

「…っ…!(動いて…動いてよ?!)」

 

ここで止まってはいけないと分かっているのに…ミトの考えと反して、身体が上手く動かせない。呼吸が荒くなる中、自身にタゲを取ったネペントが迫って…

 

…ヒュ!ヒュ!ヒュ!…

『ァァア…!?』

 

「…えっ…?」

 

ところが…迫っていたネペントの身体に三本の矢がほぼ同時に横から刺さり、HPをゼロにしてポリゴンへと変えたのだ。

 

一瞬、何が起こったのか理解が遅れたが…この場にいる人間など4人しかいないわけで…矢が飛んできた方向へと視線を向けると、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

矢を放った直後のフォンの姿がミトの視線上に入る…だが、すぐさまフォンは視点を切り替え、背中の矢筒から…なんと6本の矢を同時に取り出し、その半分を即座に弓につがえ放った!

 

今度はアスナに迫っていたネペントの一体へと三本の矢を同時射ちして仕留め、そのまままたすぐに残った三本の矢で、もう一体のネペントも仕留めてしまったのだ!

 

速射剛撃…それがフォンの弓矢で闘う際の戦闘スタイルだった。シノンのように超遠距離に対する精密射撃はできないが、矢を連射するスピード、数本の矢を同時に放つ器用さはシノンを凌駕するものだった。

そんな射撃に重きを置いた戦法をメインとすることから、フォンが愛用する短弓に該当する『風月の灯火』はそれ専用にチューンアップした一品だった。

 

「…凄い……」

 

「(スッ…)・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「…っ!」

 

その鮮やかな速射にミトは唖然としてしまうも…アスナへのフォローをし終えたフォンは、ミトへと視線を向ける。その目は…『信じろ』…そう言っているように見えた。

 

自分自身を、アスナを、俺たちを…信じろと言っているように見えたその目の光に、硬直した身体が動かされた!

 

「…!はああああああああああああああぁぁぁ!!」

 

精彩さを取り戻したミトの猛攻が始まる!

 

次々と触手の残骸からポップしてくるリトルネペントたちをフォンが即座に始末していく中、大鎌を体の一部のように…攻撃の隙間を掻い潜りながら舞の如く、ミトは大鎌を振るっていく!

 

大男アバターの時と違い、全身のバネを見事に活かしたその動きは大鎌に振り回されることなく、変幻自在な斬撃の軌道を描いていく!

 

それに負けじと、二本の触手を受け持つアスナの剣裁きも更に苛烈になっていく。競争するように、剣戟の速さが上がっていく二人の動きに、フォローする側のフォンが追い付くのがやっとになっていくほどに…

 

そんなフォンの苦労など知らずに…いつしかアスナとミトの表情に笑みが浮かんでいた。それは…あの時、ずっと一緒にSAOを攻略していた時のような笑みに似ていた。

 

…そのうち、ボスのHPが4本目を切り…!

 

『…!ギャアアアアアアアアアアア!!』

 

「…っ!フォン君、パターンが変わるわ!」

 

「…!なんだ…!?」

 

その直後、咆哮を上げたボスの姿に、アスナが警戒を促すと、広場に花びらが舞い散った。一体なんだとフォンが身構えると…

 

『『『シャアアァァ!!』』』

 

「「「「…!?」」」」

 

触手の残骸とは別に、三体のリトルネペントが新たにポップしたのだ!?いきなり現れた新手のネペントたちだが、その速さは今までのものとは異なりとても速く…不意を突かれたアスナとミトがその攻撃を受けた。

 

咄嗟に武器での防御が間に合ったが、大きく吹き飛ばされた二人のHPが2割も減ってしまっていた。足止めを狙い、フォンが矢を穿つも…なんと、二本同時射ちした矢が弾かれた!

 

「…なに!?」

 

「強化…!?さっきの花びらはバフだったってことね…」

 

「…!見て、ボスの頭!」

 

矢が弾かれ驚くフォンの斜め前で、アスナが何が起こったのかを理解していた。どうやら、さっきの花びらは取り巻きのネペントたちを強化する効果があったらしい。

 

その時、休んでいたユウキが何かに気付いたらしく、ボスの頭上を指さした…その先にはさっきまでなかった小さなピンクの花が咲いていた。

 

「あれがバフを付与した根源か!だったら…」

 

花がバフを付与した大元だと察し、フォンはすぐさま矢を放つ。あの距離であれば、ギリギリ狙うことができそうだったのだが…なんとこれまで攻撃しかしてこなかった触手が、軌道上に壁となって矢を弾いたのだ!

 

「っ…!?まじかよ…アスナ、魔法で狙い打てるか?」

 

「ちょっと厳しいかな…魔法だと、あんなに小さなものは狙えないから」

 

自分の手札では対処できないと、アスナの魔法ならどうかと尋ねるフォンだったが、その答えはあまりよくないものだった。

 

普通の矢よりも威力のある魔法であっても、あの触手が壁として存在するならば、その軌道をズラされかねない。それは、フォンの幻想剣ソードスキルも同じで、そもそも、ソードスキルを使うと、威力が跳ね上がる分、精密射撃の難易度が一気に上がる。

 

ソードスキルを使っても、超遠距離での精密射撃を成し遂げるシノンの腕前が凄すぎるのだ。しかし、取り巻きのネペントたちが迫っている中、考えている時間はそう多くは残されておらず、

 

「ねぇ、アスナ…もしかしたら、なんとかできるかもしれないわ」

 

「…ミト?」

 

打つ手を探る中、案を出したのはミトだった。その作戦を聞いたアスナたちは…迷うことなく、その言葉を信じた。

 

「よし、それでいこう。ユウキももう動けるな?…やるぞ…!」

 

「うん!」「ええ!」「任せて!」

 

左手でメニューを高速操作し、自身も鎌『クロノ・スワール』へと変え、フォンが飛び出したのに続き、三人が続く!

 

「削り取れ…ブラッド・パイルド!!」

 

装備を換えるのと同時に、幻想剣スキルの武器固有効果が適応され、代償としてHPが減り始めたフォンが、叫びながらソードスキルを発動させる!

 

まるで鎌を血染めにしたかのような赤黒いライトエフェクトが刃に宿り、振り下ろされたその一撃が地面を叩いた直後、血を媒体にしたような棘が波紋のように地面から飛び出した!

 

幻想剣《鎌》単発範囲ソードスキル〈ブラッド・パイルド〉…突き刺した刃を起点に、前方に地面から飛び出す棘の波状攻撃を繰り出す、超範囲攻撃。今の上位ではダメージ量はそこまで大きくないが、この攻撃の最大の特徴は直撃した敵を僅かに浮かせるといった点であり、

 

「ユウキ、アスナ!」

 

「うん!」「ええ!」

 

硬直で動けなくなったフォンを追い越し、ユウキとアスナが前方に掛け、宙に浮いたことで無防備と化した取り巻きのネペントたちへと追撃を繰り出す!取り巻きを弾丸のように、ボスへと目掛けて刺突によってぶつけようとしたのだ。

 

迫ってくるものに反応する特性らしく、弾丸とされた取り巻きたちを触手で防御したボスだが…そこまでをフォンたちは読んでおり、

 

「今だ、ミト!」

 

「…!行くわよ!」

 

フォンの言葉に応えるように、駆け続けていたミトがボスの足元へと辿り着き、そのギミックを起動させる!

 

フォンも鎌スキルをマスタリーしていることから、その存在を知っているそのエクストラスキルを…!

 

「…弾けろ!!」

 

分割した鎌から飛び出したのは鎖であり、ライトエフェクトを纏わせ柄頭の方を投げ飛ばしたミトの意志に従い、その長さが一気に伸びる!

 

エクストラスキル『鎖鎌』…鎌スキルを5割、投擲スキルを5割まで上げることで解放されるそのスキルを、ミトも習得していたのだ。

 

かなりのスピードでボスの花へと迫る鎖鎌…しかし、それにも反応したボスの触手は軌道に立ち塞がろうと…

 

「そうは…させない!!」

 

しかし、ミトの方が一枚上手だった!

 

鎖を手繰り寄せるように操り、触手を躱すように鎖鎌の軌道を修正したのだ。フェイントに見事に引っ掛かった触手を擦り抜け、鎖鎌はボスの花に直撃し…!

 

『ギャアアアアアアァァァ…?!』

 

ダメージを受けたことで、ボスが悲鳴を上げ…開いていた小さな花が閉じた!そのことによって、バフ効果が消え、取り巻きのネペントたちの能力も元通りに…いや、活性化していた反動として弱体化した!

 

「各自迎撃!また花が開いたら、ミトをカバーして!」

 

「「「了解!」」」

 

パターンが確立できたことで、今度はアスナの指示に従い、各自が散開する。パターン変化後に増援として出てきた三体のリトルネペントは無限に湧いてくるタイプらしく、触手を斬り落としてポップするのに併せて、さらに取り巻きの数を増やすことになったが…今の四人にとっては些細なことだった。

 

それぞれが思うがままに攻撃を仕掛ける中、隙を狙おうとしてくる取り巻きたちをカバーするように倒し、再びボスの花が開いた時には密集し、ミトが鎖鎌で閉じさせる…それを繰り返していった。

 

…そのうち、遂にボスのHPが最後のバーへと突入した…!

 

『ギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!』

 

最後の抵抗とばかりに激高状態に入ったボスが触手を乱雑に振り回し始めた!流石に、その嵐を掻い潜るのは難しく、一旦引き下がった四人だったが…

 

「…!また新手か…!?」

 

フォンたちが引き下がったのを契機に、ボスの周囲にネペントたちが次々とポップし始めたのだ!無数のネペントを相手にしなければならないのかと…危惧したフォンだったが、次に起こったのは衝撃的なことだった!

 

「…なぁ!?」「「「…っ!?」」」

 

なんと…ボスが自身の四本の触手で出現し続けたリトルネペントたちを捕まえたと思えば、頭上の蓋が開き、そこから垣間見せた口に放り込み始めのだ!

 

共食い…迷うことなく、ボスが取り巻き達をたいらげていくその光景に、フォンは絶句し、女性陣も顔を青くしていた。そして、ネペントの出現が終わるのと同時に、ボスの食事も終わり、その背後から新たな触手が二本出現した!

 

だが、今までの触手とは異なり…グローブのように分厚く、複数の棘が装着されたそれは、直撃すれば一たまりもないと思わせるものだった。

 

さらに、パワーアップはそれだけで終わらず、なんと元々あった触手のパワーとスピードも桁違いにまで上がっていた!

 

様子見で接近したフォンたちだったが…ボスに近づくどころか、振るわれた触手たちの風圧で体勢を崩しそうになるほどだ。このままでは、攻撃するどころか防御や回避も難しい…となれば、取る手段は一つだった。

 

「アスナ!俺があの触手たちを纏めてなんとかする!三人は、その後にボスのHPを一気に削ってくれ!」

 

「フォン君…分かったわ!ユウキ、アシストをお願い!ミト、ラストのソードスキル、一緒にお願い!」

 

「うん、任せて!」「了解!」

 

なんとしても決定打を繰り出す隙を作り出す…そう告げたフォンの言葉を迷うことなく信じたアスナに従い、ユウキとミトも即座に動けるように体勢を整える。

 

そして、左手で再度メニューを開いたフォンが…操作ではなく、スキルの発動を選択する!『高速換装スキル』…それにより、装備していた防具『縁結を背負いし者』から、フェイバリット装備の『蒼炎の烈火』に、武器も鎌から鞭「ラナウ・エルドール」へと装備を瞬時に変えた!

 

「…!なに、今のスキル…!?さっきのソードスキルも見たことなかったし…」

 

「説明は後だ…今は前だけに集中してろ」

 

幻想剣関連スキルを見慣れているユウキやアスナからすれば熟知していることだったが、初見であるミトは、フォンがしてみせた高速換装に気を取られるわけで…特にヘビーゲーマーとしての血が騒いだものの、説明している暇はないとフォンに一蹴され、意識を再びボスに集中させる。

 

「すぅぅ……巡るは輪廻、背負うは業……っ!」

 

集中するために、その言葉を自然と口にしたフォンが背後に鞭を隠すように腰を落として構える。そして、息を大きく吐いたのと同時にトップスピードで駆け出した!

 

高速で迫ってくるフォンを潰そうと、ボスが6本の触手を纏めて振り下ろしてくるが…それを迎い撃つように、フォンが鞭でソードスキルを発動させる!

 

「さぁ…狂い暴れろ!!」

 

幻想剣《鞭》複撃最上位ソードスキル《ボイド・カーネイション》…フォンが大きく薙ぎ払うように振るった鞭が…なんと、六本に分裂したのだ!

 

火・水・風・雷・光・闇…それぞれの属性を宿した強力な六つに枝分かれしたそれらが、迫って来ていた触手に一本ずつぶつかる!

 

「…ううぅ……うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」

 

同時に6連撃の鞭を振るえるこの大技だが…それは逆に、反動自体も6本同時に受けるということにもなるわけで…ボスの触手6本を同時に相殺しようしたことで、フォンの身体にダメージのフィードバックが走る!

 

だが、そんなものに負けてたまるかと…声を荒げ、フォンは鞭を握る手へと力を込める!そして、持てる力を全て注ぎ込み、鞭を振り切った!

 

それにより、相殺された鞭と触手が宙を舞い、フォンも後方へと吹き飛ぶ!

 

「…スイッチ!!」

 

「でりゃあああああああああああああああああぁぁぁ!!」

 

フォンの言葉に応え、入れ替わるようにユウキが飛び出す!ガラ抜けになったボスの前を駆け、その胸元へと飛び込む…もちろん繰り出すは、十八番の11連撃OSS〈マザーズ・ロザリオ〉で…!

 

高速の刺突11連撃がボスの胴体に直撃し、そのHPを大きく削りながら、後方へと吹き飛ばす!

 

「スイッチ!!」「決めてこい!!」

 

「いくよ、ミト!」

「ええ…決めるわよ、アスナ!」

 

その最大のチャンスを逃さまいと…控えていたアスナとミトが、ユウキとフォンの言葉を受け、飛び出す!

 

全く同じタイミングで駆ける二人をボスが認識した時には既に間合いに入っていた…細剣と大鎌にライトエフェクトを宿した二人の最後の一撃が繰り出される!

 

「「はあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

細剣単発最上位ソードスキル〈フラッシング・ペネトレイター〉、そして、鎌重単発最上位ソードスキル〈シャドウネット・プレイーター〉…閃光と紫影の交差した一撃が、ボスの巨体を斬り裂き、その刃を振り抜き切った!

 

『ガァ…ガアァァァァァァ?!?!』

 

マザーズ・ロザリオによってレッドゾーンに突入していたHPが全て削り切られ…断末魔の最中、その身体を硬直させたボスがその身をポリゴンへと変えた…そして、一瞬静寂となった場に…

 

【Congratulation!!】

 

ファンファーレと共にボス撃破のシステムメッセージが表示され、広場に盛大な花火が打ち上げられた!それを見て、集中していた四人の緊張の糸もほどけ…

 

「…勝った、か…」

 

終わったのだと…ほっとしたこともあって、そんな言葉が漏れたフォンは肩の荷を下ろし、装備していた鞭を腰のベルトに装着しようと…

 

「勝ったよ、フォン!」

 

「っとっと…危ない、危ない。なんとかなったな」

 

喜びのあまり抱き着いてきたユウキをギリギリで受け止め、今度こそ落ち着くフォン。確かに闘いは終わったが、まだ少し残っていることもある。

 

「…ミト」

 

「えっ……あー、なるほどね」

 

その件の二人へと目を向けると…細剣を頭上に軽くあげたアスナと、それを見て理解したミトの姿があり、

 

…カツン…

 

細剣に軽く大鎌をぶつけていた…かつて、共に闘っていた時に、互いの健闘を称え合う一瞬の彼女たちのルーティンだったそれをやりたかったのだと、ミトはアスナの意志を察したのだ。

 

「(どうやら…大丈夫そうだな)アスナ!俺たちは席を外すぞ!多分、当分の間は大丈夫だと思うが、何かあったらすぐに出て来いよ!俺たちは部屋の外にいるから!」

 

「…うん。フォン君、ユウキ…本当にありがとう」

 

「気にすんな…それじゃ、お邪魔虫は退散しようぜ、ユウキ」

 

「…そうだね」

 

そう言って、フォンはユウキを伴って部屋を後にした。

 

その後のことをフォンは知らない、二人がどんなことを話していたのかを敢えて聞くことはしなかった。どうしてかというと…かなりの時間を話していたようだが、出てきた二人の顔に…特にミトの方には、これまで見えていた影がかなり緩和されたように見えたからだった。

 

少なくとも…かつてのように、親しい仲へと戻れたのだと…フォンはそう思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…と、思っていたのだが…

 

「フォン君、ミトと勝負して」

 

「…はぁ?」

 

数日後…ある服の仕上げをしていたフォンのもとに、そんなお願いを突如としてきたアスナの姿があり…驚きの声を上げることになるとは、フォンは思ってもみなかったのだから。

 

 




オリジナルソードスキル解説
幻想剣《鎌》単発範囲ソードスキル〈ブラッド・パイルド〉
 真っ赤なライトエフェクトが特徴なソードスキル。
地面に突き刺すことでその前方に扇情的に広がる血槍で範囲攻撃するソードスキルだが、HP量によってその内容が変化する特徴がある。
 HP量が多いほどに攻撃範囲が拡大するも一発当たりのダメージが減り、逆にHPが少ないと範囲が減少する代わりに威力が上がり、さらにクリティカル率も上昇する。
 また、この攻撃が直撃した敵を必ず中へと浮かせるという利点もあるため、味方の次の攻撃に繋ぎやすいという側面もある。

幻想剣《鞭》複撃最上位ソードスキル《ボイド・カーネイション》
 発動時は真っ白なライトエフェクトを宿すが、その直後に各属性の色を宿した6つの鞭に分裂する最上位ソードスキルの一つ。
 上記のように、強力な6本の鞭を同時に叩き込む、6連撃ではなく、6連同時攻撃を可能とする大技。それぞれに、火・水・風・雷・光・闇の属性が宿っており、更に、各属性に個別で付随する特殊効果も存在する。
 しかし、同時に6つの鞭を振るう関係上、ダメージのフィードバックも6つ分同時に受けることになるため、そう意味ではエルドリエが愛用していた霜鱗鞭には劣る部分がある。
 名前のモチーフは輪廻転生を意味する英語の「reincarnation」、無効にするの英語「void」を捩ったもの。6つに鞭が別れるのは、輪廻転生に密接に関わる六道を意味するもの。

鎌重単発最上位ソードスキル〈シャドウネット・プレイーター〉
黒紫のライトエフェクトを纏って発動させる最上位ソードスキルの一つ。
発動時、武器の1.5倍に値するオーラを纏い、下から斜め上に全身を軸にして斬り開く大技で、STRだけでなくAGIのステータスまでをダメージ値に換算するシンプルながら、威力の高い大技。現状、ミトが使える最大火力の技の一つ。
 名前の由来は影を意味する「シャドウ」に、捕食者を意味する『プレデター』や網で捕まえるといった言葉を捩って組み合わせ、アスナが使う〈フラッシング・ペネトレイター〉の対義語を意識したもの。



…フォン、ミトと闘うってよ(知ってた)
まぁ、次回のお話はさておき…

悪夢に等しい場面にて、ようやく再開したアスナとミト。
プログレッシブ原作とは立場が真逆となった二人でしたが、時間や環境の違いから、これも自然かなと思っての展開でした。

さり気なく幻想剣スキルが大暴れしておりますが…(笑)
なんやかんやで、次回でアスナ編もラスト…まさかのフォン対ミトのお話となります。
対ミトだからこそ、あの武器が映える対決になるかと思いますので、ご期待頂ければと思います!

それでは、また!

キャラエピソード第2弾 どのキャラのお話が見たいでしょうか?

  • 某トレジャーハンターF
  • リーファ
  • シノン
  • シリカ
  • リズベット
  • ユイ
  • クライン
  • エギル
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