ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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日本の観光といえば、やっぱり和服ですよね(超個人的な偏見)

そういうわけで、ユージオとアリスの着物デビュー…かと思いきや、まさかのトラブル発生…そんなお話となります。

それでは、どうぞ!


ユジアリ編② 「和装と古寺」

「…よし、これでいいな」

 

「ありがとう、蓮…それにしても、ちょっと不思議な感じだね」

 

帯を締め終え、着付けが完了したことを告げると、ユージオは身動きを確かめるように腕や脚を動かしていた。

 

高速を使って30分足らず…東京タワーからここ浅草へと来た俺たちは、近くの着物レンタルショップへと足を運んでいた。

 

こちらもタワーと同様に事前に予約していたのもあり、スムーズに手続きを済ませ、男女に分かれて俺たちは着替えに向かった。その直前に、何故自分たちのサイズを把握しているのかと…特に女性的な観点から疑いの目を向けてきたアリスに問われたのだが、

 

「誰がALOでお前たちの防具を作ってると思ってんだ。そこから推定しただけだ、変な邪推をすんじゃねぇよ…だから、その怖い笑みを引っ込めてくれないか、ユージオ!?」

 

前言撤回…ユージオの方が滅茶苦茶気にしてた!もしもの可能性だったら、間違いなく首元を掴まれて…ALOだったら、剣を抜かれていたかもしれない程の気迫だったと語っておこう。

 

…ともかく、そんな誤解も解け、俺はユージオの方を、母さんがアリスの方の着付けを手伝いに別れたのだ。もともと、母さんの職業柄、昔から何度か服の試着などを手伝っていたのもあって、和装をする機会もあって着方をマスターしていた。

 

なので、ユージオの方は問題ないのだが、アリスの方をどうしたものかというのが問題だった。シエモン(アリスが使っている素体の名称で、ユージオの方がサンエモンだそうだ…もちろん命名者は比嘉さんだ)のボディを店員に伝えるのはちょっと色々マズいところがあり、だからといって、異性の俺が手伝うのも問題があるわけで…

 

そんな中、母さんが運転手として手伝ってくれることでこの問題が解決したわけだ。母さんなら着物の着付けも完璧だし…まぁ、そういうこともあって、クライン…遼太郎さんに運転手を頼み辛かったという裏事情が計画段階ではあったのだ。

 

「まぁ、慣れないうちはそんな感じだよな。あっちだと…確かベルクーリが着ていたのがちょっと近いか」

 

「…あー、そういえばそうだね。でも、ベルクーリさんが着ていたのはもう少しラフなものだったような…」

 

「甚平っていうものに近かったのかな…オーシャン・タートルにいた時には菊岡さんも着てたしな」

 

「なるほどね。でも、これはこれで…身が引き締まる感じがしていいね?」

 

そうやって、その場で回転するユージオ…下地に濃い水色と上の羽織は薄い青が入った白に水色の刺繍によるバラがポイントして入れられたデザインの着物を身に纏っていた。

 

対する俺は濃淡の異なる蒼が上下地で構成された無地の着物を予約していた。シンプルイズベスト…というわけではないが、やはり好みの色を選んでしまうのは仕方がないということで。

 

そんなわけで、着替えが終わったことで更衣室を出た俺たちは…

 

「遅いわよ、蓮。女の子を待たせるなんてマナー違反よ」

 

「無茶言うな、本職にどうやって勝てって言うんだよ…なぁ、ユージ……ありゃりゃ」

 

店先で既に着替え終わっていた二人…その片方である母さんがお小言を飛ばしてきたので、躊躇いなく反論する。俺に着付けを教えた諜報人である母さんの方が経験も手慣れ度も段違いなのだ…思わず助けを求めようと隣のユージオへと声を掛けようとしたが…

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

その言葉が止まった…というか、隣の友人は見事に言葉を失っていたのだから、思わず唸ってしまった。まぁ、無理もないか…ユージオの目には今は彼女しか映ってないわけで…

 

金木犀の花をモチーフとした髪留めで和風に纏められたロングヘアー、そして、様々な色どりの花が随所に散りばめられた鮮やかな着物…髪色が違うとはいえ、全く別の雰囲気を纏ったアリスの姿を目にしたのだから、ユージオが硬直…見惚れてしまうのも無理ないわけで…

 

一方のアリスも、普段とは異なるユージオの和装姿に言葉を失くして、見惚れてしまっているようで…

 

「いいわね、青春って感じで」

 

「…バカップルってやつだよな、あれ。まぁ、ユージオの気持ちは分かるぜ…アリスのあの姿は誰もが見惚れるわ。というか、アリスのあの髪型どうやってやってるんだ?ウィッグってそんなに弄れるものなのか?」

 

「道具があれば案外できるものよ…それにしても、もう30秒ぐらいずっと黙って見合ってるけど…いいの、あれ?」

 

「気が済むまでそうして…と言いたいところだが、そろそろ正気に戻すか」

 

ちょっと離れて、小声で母さんとそんなやりとりをしていた。流石は本職…これ以上の適任はいない人選だったと思う。着物のセットを予約したのは俺だが、人工毛であるウィッグのセットの仕方など知らなかったからな。

 

そんな会話の間も二人は見合っているままで…このままだとずっと見惚れているだろうなと俺も思ったので、SDカードを差し直したカメラを構え、

 

…パシャリ!

 

「「っ!?」」

 

「あー、こっちのことは気にしないでくれ。ほら、そのまま自然体でもう一枚…」

 

「できないよ!?」「できないわよ!?」

 

一枚撮ったところで次の要求をすると、正気に戻った二人の叫びによる反論が返ってきた。ともかく、現実に意識が戻った二人を確認し、俺たちは移動を始めたのだった。

 

 

 

「大きな門だね…いかづちもん…?」

 

「雷門な…正式には風神雷神門っていう、ここの象徴の一つだな」

 

「あの周りに人が凄い集まってるわね。写真…を撮っているのかしら?」

 

歩いて数分…人が徐々に賑わい始めた街中を歩き、辿り着いたのは浅草の有名スポットの一つである浅草寺の入り口である雷門。

 

東京タワーほどではないが、巨大な門を見上げるユージオと、観光客の行動に目を奪われるアリス…そんな傍らで俺はガイドを続ける。

 

「映えというのか、写真のスポットとして選ばれるのは確かにここが多いな。かなり古くからあるお寺で…えっと…」

 

「1400年の歴史を持つ東京都最古の寺院がこの浅草寺よ。ちなみに、日本最古の寺院は奈良…西日本にある飛鳥寺と言われているわ。もっとも、この雷門や浅草寺も含めて、震災や火災によって何度も損失しては修復や再建をされて、その姿を構成に残してきたのよ。

中央の大きな赤ちょうちんに目を取られがちだけど、その左右…左の雷神と右の風神にも注目してちょうだい」

 

「雷神風神…風と雷の神様ですか?」

 

「そうそう。雷神は雷を、風神は雨や風を操るということから、災害から守ってくれるということで民から祭られていたの。

古くから遺っている屏風にも描かれているほどで、2対併せて五穀豊穣の願いも込められていたりもするのよ。

あと、二対の神像に注目が集まりがちだけど、提灯の下を見てごらんなさい。龍の彫刻が施されているでしょ?昔の浅草は木造建築が密集していて火災が最も恐れられていたから、雨を降らせると言い伝えられていた龍は神として崇められたことから、モチーフとして選ばれたのよ」

 

「リアルワールドの神様…こっちにも色々な神様がいるんですね」

 

「日本は八百万の神で有名な国だもの。伊邪那岐、天照と知られる日本の神から、古来に伝達された仏教から貿易と共に流入してきたキリスト教…様々な宗教を受け入れ、それぞれの文化を享受してきた国ならではの特色とも言えるわね」

 

(…あ、あれ…?もしかして、俺っていらない子?)

 

解説を途中で取って代わられ、そのまま流れるような勢いで解説を雄弁に語る母さんに、アリスとユージオが次々と質問をしていく…そんな光景を見せられ、俺は笑みが引き攣っていた。

 

…いや、母さん。あんた、どんだけ予習してきたんだよ。

 

溜息を吐きたくなりそうな事態にそう思いつつも、俺はその解説が終わるのを待つことにした。元々歴史に興味があったユージオと、勤勉なアリスからすれば話を中断させる方が悪いと思って、事の成り行きを見守ろうと…

 

「すみません!」

 

「えっ?」

 

「修学旅行で来てるんですけど、写真撮影をお願いできますか?」

 

「…あぁ、構わないよ」

 

後ろから声を掛けられ、振り返ると学生服を着た男の子が立っていた。その手にはスマホが握られ…どうしたのかと思っていると、頼まれたのは写真撮影だった。

 

視線の先を辿ると、雷神の方に同じ制服を着た男女の集団がいた…人がやけに多いとは思っていたが、時期的には修学旅行の時期か。そう思い、俺はその頼みをスマホを受け取りながら引き受けた。

 

「…ありがとうございました!」

 

「ああ、旅行を楽しんでな」

 

写真を撮り終えてスマホを返すと、学生は班へと戻って行った。俺も学生とはいえ、年齢的には上だからな。彼らは中学生ぐらいだろうかと思い、視線を戻すと…

 

「っ…!ユージオたちがいない…!?」

 

少し目を離しただけというのに、三人の姿が消えてしまっていたのだ!どうやら、人込みに押されて先に行ってしまったようだ。確かに浅草は混むだろうと予想していたが、まさかこんな形で逸れる形になるとは…

 

「……和人のアドバイスを採用しといて大正解だったな」

 

冷や汗を拭いながら、俺はスマホと…一緒に取り出したオーグマーを装備して、人でごった返す浅草寺の通りへと身を紛れ込ませた!

 

 

 

「…やらかしました」

 

浅草寺の一画…方角的には馬道通りと面する二天門が位置する東の方にて、アリスは一人困り果てていた…そう、一人でだ。

 

蓮の母親である久美子の案内を聞きながら、浅草寺を巡っていたアリスとユージオだったが、経験したことのない人の波に思うように身動きが取れないでいた。

 

久美子の方も二人が逸れない様にかなり注意を払っていたのだが、予想を超える人込み…修学旅行などの過半期の勢いに押され…そして、本殿へと繋がる仲見世通りの飲食店に興味を惹かれている内に、波に押されて一人逸れてしまったわけで…

 

まさしくやらかした事態に、アリスは自分の迂闊さを呪いたくなった。

 

旅行ということで、ちょっと気分が浮かれていたのも否定はできなかった。蓮が計画してくれた、ユージオとの観光巡り…前々からしたいと思っていたことが早期に叶ったこともあって、いつも持っていた筈の警戒心が薄れてしまっていたのも大きかった。

 

さらに問題なのは、一人になったことだけでなく…

 

「…困ったわね。脚をやられるなんて…これまでの人混み、アンダーワールドでもなかったわね。負荷の耐久性は大丈夫だと言ってたけど、攻撃されることの可能性も比嘉には今度から考えておくようにって言っておくべきね」

 

自身の視界…シエモンのインターフェイスに表示される状態を見て、顔を顰めるアリス。充電自体は大丈夫だったが、問題の箇所は右足にあった。

 

先程の人混みに押された際、何度か足を踏まれてしまい…その反動でどうやら細かいところが不具合を起こしてしまったらしく、思うように動かせなくなってしまったのだ。

 

ここまではなんとか動いてこれたが、あまり動かし過ぎると更に不具合を起こすかもしれない…そんな懸念が頭を過ぎり、アリスはその場で待つことを選んだ。

 

少なくとも、ユージオと久美子は自分が逸れたことに気付いている筈だ…もしかしたら、蓮にも連絡をして自分を探してくれているかもしれない…そう思い、待つことにしたわけだ。

 

(…そういえば、一人になるのは久々ね)

 

待つ間、ふとそんなことを思ったのは、賑わう人々を見たからだろうか…アリスにとっては、整合騎士の時にはずっとそうであり、それが当たり前だったのだが…

 

(ユージオたちと再会して、あの大戦を乗り越えて、リアルワールドに来て…その間、一人になることなんてなかったものね。大半はユージオが一緒だったり、もしくは付き添いで凛子博士が傍にいたから………騎士時代の私が見たら、どう思うでしょうね?)

 

自虐が少し籠った思いに、思わず苦笑交じりの笑みが零れるアリス。寂しいと思うのは、見知らぬ土地に一人でいるせいもあるのだろうか。

 

(悪い事をしちゃったわね…折角の旅行なのに…)

 

そのまま浮かぶは悪い感情なわけで…気持ちに黒いものが出てきて、その表情が曇る。早く誰かが来てくれないかと思っていると、近づく影に気付き顔を上げると、

 

「へい、彼女…一人かい?」

 

「…はぁ?」

 

視界に入ったのは黒い髪の毛…しかし、望んでいた顔とは全く異なる男が映ったことで、アリスはもしかしてと向上した気持ちを下げられた。おまけに、普遍なナンパ文句を向けられたことで、思わず殺気が少し混じった声が出た。

 

「おおぉ…怖い怖い。俺たち、実はこの辺りの無料ガイドをしててさ。もし良かったら、案内しようか?お姉さん、綺麗だから是非ともエスコートさせてもらいたなって」

 

「結構よ。一人じゃないし、連れが来るのを待っているだけだから」

 

男は1人ではないらしく、少し離れた場所で3人ほどの取り巻きがこっちを見ているのが視界に入った。

アリスにはその辺りの知識はなかったが、男の目を見て理解した…自分を下劣な目で見るその色は…騎士時代に何度か経験したことがあるそれにとてもよく似ていたからだ。

 

気分を害されたのもあって、騎士口調で受け答えをするも…男は全く意に介さず、相手は全く諦めるつもりはないらしく…

 

「でも、足を痛めてるんだろう?さっきから見ていたら、歩き辛そうにしていたし…このまま立ちっぱなしなのも辛いだろう?せめて、そのお友達が来るまで、お茶でもするぐらいいいだろう?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「それに、こんな綺麗なお姉さんを置き去りにしている相手なんかどうでもいいだろう?どうせ相手もどっかで休んでいるよ」

 

「…そんなことないわよ!」

 

「おっと…」

 

どうやら自分の事を少し前から見ていたらしい…痛いところを突かれ、返答に困るアリス。だが、次に放った言葉が彼女の怒りに触れ、そして、続いた言葉がその導線に火を点けた!

 

初めて感情を乗せた言葉が怒りのものだったことに、ナンパ男は地雷を踏んでしまったと気付き、冷や汗を流し出した。

 

「あなたみたいな男と、彼を一緒にしないで!彼はちゃんと探してくれてるわ…だから、あなたについていくことは絶対にないわ!それが分からないほどに、その頭は空っぽなのかしらね?」

 

「っ…このアマぁ!黙って手に出てれば、調子に乗りやがって…!?」

 

「っ…!?」

 

だが、その先の言葉がマズかった…アリス的には思わず言ってしまったことだったのだが、それが男の怒りへと火を点けた。

 

逆ギレした男はアリスの腕を強引に掴もうとして…次の瞬間、逆にその手を取られて、綺麗にその身体を宙へと浮かせられ投げられた!

 

その見た目に反して、長年闘い続けてきたのだ…男の1人や2人、剣がなくとも倒せる自信がアリスにはあった。もっとも、現実世界で腕投げをしたのは初めてだったが…

 

しかし、代償はそれなりにあったわけで…

 

「っ…(しまった…さっきので脚が…!)」

 

万全な状態であれば全く問題なかっただろう…しかし、脚を損傷していたのがここで響いた。不具合を起こしていた箇所に更に負担がかかり、遂に足のバランサーが狂ったのだ。

 

それをアリスが認識したのは、異常がインターフェイスに表示されるのと自身が崩れ落ちるのと同時だった。

 

「…やりやがったな、このアマ!?」

 

「っ…?!」

 

しかも、男の方もさっきの投げに耐えたらしく、落ちた背中を片手でさすりながら、今度こそアリスに危害を加えようと近づいていた。

 

躱すことは不可能…そう悟ったアリスは咄嗟に防御しようと、迫る拳から顔を庇おうと腕を構えて…

 

 

 

 

…ガァン…!?

 

「「っ!?」」

 

その衝撃音はアリスから発されたものではなかった…彼女の前に割り込んだ彼から発されたものだった。自分を庇うように立ちはだかった…今は黒の色に染めているが、見間違う筈のないその背中を見たアリスは安堵して…

 

「アリスに…彼女に触れるなァァ!?」

 

眼前の…最愛の人に危害を加えようとした男に、ユージオの怒りが爆発した。逸れたアリスを探しに来て、見つけた途端にヤバい状況になっていたのを見た瞬間、ユージオの頭から冷静さが綺麗に抜け落ちた。

 

そんなことをさせない、させてたまるかという思いと共に男の右拳を受け止め、咆哮と共に…なんと一本背負いを繰り出したのだ!

 

どこでそんな柔術を学んだのかと…アリスが驚いている間に、男の身体は再度宙から地へと叩き付けられていた。

 

男の取り巻き達もまさかの事態にどうしたものかと遠巻きに見つつ行動すべき迷っていた。周囲の観光客もただ事ではないと気付いてざわつき始め…決定打となる一言がその場に響いた。

 

「おまわりさーん、こっちです!?」

 

「…や、やべぇ!?ずらかるぞぉ!」

 

その一言を聞いた取り巻き達の顔が青ざめる…ユージオによって投げ飛ばされ、完全にのびたナンパ男を背負い、すぐさまその場からトンズラした!

 

「…ユージオ」

 

「大丈夫だったかい、アリス!なにかされたりとか…!?」

 

「だ、大丈夫よ…ちょっと脚をね」

 

「足…!?あいつら…!」

 

「ち、違うの…!人込みで脚を踏まれて、ボディがちょっと不具合を起こして、歩くのがちょっと難しくなっただけだから!」

 

「…それじゃ、あいつらには何にもされなかったんだね?」

 

「え、ええ…大丈夫よ。逆に投げ飛ばしてやったから」

 

「そ、そうなんだ…でも、良かった」

 

「…えっ?」

 

「今度は間に合ったから…君を危険から防げたから」

 

「っ…~~~~!?ば、バカ…!それなら、もうちょっと早く来てよ…!」

 

男たちが逃げていくのを見送ったところで、怒りを抑えたユージオがアリスに視線を合わせるようにしゃがんだ。

 

心配する彼の言葉にちょっと誤解させそうな報告をしたものの、すぐにそれを解くアリス…一瞬零れたユージオの殺気は確実に本気だったとホッとしたのも束の間…次に放たれた言葉に、アリスは悪態を吐きつつも、ユージオの顔が真っすぐに見れなかった。

 

今がシエモンのボディであることを多分今までで一番感謝しただろう…そうでなかったら、今の自分の顔は真っ赤になっていただろうからだ。

 

「オホン…そろそろいいか?」

 

「あっ…ゴメン、フォン。ほったらかしにして…それにしても、さっきのおまわりさんってなんだったんだい?」

 

「警察官の言い方の一つで、アンダーワールドでいう衛兵みたいな……まぁ、ああいう連中を追い払うのに便利な言葉の一つだよ」

 

空気を読んで大人しくしていた蓮だったが、今が声の掛け時だと悟ったらしく、わざとらしい咳払いと共に、二人に割って入った。

 

ユージオも、さっきの叫び声が蓮のものだと気付いていたのもあって、登場に驚くことなく反応していた。

ユージオと蓮が現場に駆け付けたのはほぼ同時だったが、先に動いたユージオをフォローすべく、蓮がブラフをぶちかましたわけで…説明が途中で面倒くさくなった端折った蓮は肩を竦めていた。

 

呼び方がいつものアバターネームに戻ってしまっていたが、蓮もユージオもそこを気にするほどに、あまり余裕が持てないでいるようだった。

 

「見つかってよかったよ、アリス。母さんから、アリスが逸れたって聞いた時はマジで焦ったわ…動けるか?さっきの騒動で、人の目が集まってる…何人かはスマホで撮影もしてるみたいだから、あんまり長居しない方がいい」

 

「…ゴメンなさい。ちょっと脚を損傷して…すぐに動くのは…」

 

「分かった…ユージオ、俺が注意を引くから、合図をしたら……………いいな?」

 

「…うん!」「えっ…ちょ、それって…!?」

 

すぐにアリスが動けないと悟り、蓮はすぐさま小声でどう動くかを指示し、懐からサングラスを取り出した。万が一に備えて、顔を少しでも隠せるようにと持ってきていたのだ。

 

指示を聞き、即座に了承したユージオに対し、予想していなかった策にアリスは待ったを掛けたくなったが、残念ながら蓮にはそれを聞き入れる余裕はなかった。

 

「はい、カーット!皆様、突発の撮影にご協力頂きまして、誠にありがとうございました!それじゃ、撤収するぞ!はい、撤収!!」

 

「っ!」「ちょ…きゃああああああぁぁ!!」

 

大声で周りの人たちに聞かせるように…いつものテンションとは打って変わった明るい声でそう告げた蓮の嘘に、まわりがざわつき始める。どこにカメラがあるのかと注意が逸れた瞬間、蓮の目配せにユージオが動く!

 

アリスの背を強引に自身の肩へと引き込むようにして、その身体を背負った!アリスの悲鳴など無視し、すぐさまに立ち上がり、逃げるように走り出した蓮の後を追い始めた!

 

「ともかく、今の内に人目のないところまで逃げるぞ!」

 

「了解!」

 

 

先頭を走る蓮は、人混みの合間を抜けるように掛け、それに追従するユージオが遅れまいと駆ける。しかし、いきなり背負われたアリスからすれば、堪ったものではなく…

 

「お、降ろしてぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

そんな可愛い悲鳴を上げながら、三人は一先ず寺院の区域から出ようと、走って行くのだった。

 

 

 

「むぅぅぅぅぅ…」

 

「まぁ、そう怒るなって、アリス。あれしか、あの場から速やかに去れる手段がなかったんだから」

 

「別にもう怒ってはないわ…ええ、怒ってなんかないわよ」

 

「そうか…なら、もうユージオの背から降りていいじゃないか?」

 

浅草寺から少し離れ、人が少ないところへと辿り着いたところで、俺たちはようやく一息を吐くことが…できたかと思えば、次に待っていたのはアリスのお怒りの声だった。

 

なんとか機嫌を直してもらおうと宥めていると、アリスの方も仕方がなかったと理解はしてくれているようで、すぐに怒りを収めてくれた。まぁ、その割にずっとユージオの背から降りようとしないので、一応そのことについて触れると、

 

「いやよ…私を待たせた罰で、ユージオにはもう少しこのままでいてもらうわ」

 

「まぁ、ユージオがいいのなら俺からは特に言わないが…(大変だな、ユージオ)」

 

「…(アリスを一人にした罰ってことで、甘んじて受け止めるよ)」

 

罰という名目の甘えだな…という野暮なツッコミは心にしまっておき、目でユージオに同情の意を込めた視線を向けると、彼は苦笑いしていた。まぁ、ユージオの方もあながち嫌がってはなさそうだったからよしとするか。

 

「でも、思っていたよりも早かったわね、私を見つけるの」

 

「あ~…それはフォン…じゃなかった。蓮のお陰なんだ」

 

「俺の…というか、和人のアドバイスのお陰だけどな。まぁ、一番の功労者は彼女たちだけどな」

 

どうやってすぐに自分を見つけたのかというアリスの問い掛けに、ユージオから目線を送られた俺は肩を竦め、画面に映っている彼女たちへと合図を送ると、

 

『残念ながら、愛の力という劇的な演出ではなくてすまんのう』

 

『でも、パパに頼まれてお二人の位置情報を見張っておいて正解でした!』

 

「か、カナデ殿にユイちゃん!…そうか、二人が私の居場所をユージオたちに…!」

 

今度はアリスのインターフェイスにその姿を見せた二人…カナデとユイちゃんの登場にアリスは驚き、そして、すぐに納得した。

 

そう…今回の旅行計画を相談したところ、浅草がやはり一番混む関係上、迷子になるリスクが避けられないのではという意見が多かったのだ。

 

そんな中、意外な解決策をあげてくれたのが和人だったのだ。

 

二人のボディ…サンエモンとシエモンにはGPSが搭載されており、ユイちゃんならその情報を正確に追える。ならば、旅行中は滞在先の周辺カメラにユイちゃんと…一人では手が掛かるだろうということで、カナデも協力を申し出てくれたわけだ。

 

…まぁ、カナデには別件で頼んでいたこともあったので、俺のスマホの中とを行ったり来たりしていた感じでもあったわけだが。

 

「和人の事前策が見事に嵌ったようで良かったぜ…だけど、問題なのは…」

 

「アリスの足だよね…」

 

「うぅぅ…」

 

トラブルは解決したが、問題は残っているわけで…俺とユージオの視線が、アリスの右足へと集まる。当の本人は気まずそうに視線を伏せていたが。

 

「蓮、流石になんとかできないよね?」

 

「流石に無理だな、道具を持っているとか云々の前に専門外だし…和人の方がまだ分かるだろうけど」

 

「だよね…どうしようか?」

 

ユージオは一応といった感じで尋ねてきたが、こればっかりは俺にもどうしようもない。簡単な機械でもお手上げなのに、精密なロボットであるシエモンの修理など、逆立ちしたってできそうもない。

 

力なく笑うユージオに、俺もどうしようかと頭を悩ます。

 

「…ごめん、なさい」

 

「アリス…?」

 

「ユージオとの旅行だったのに…折角フォンが色々と計画してくれたのに…私のせいで、台無しにしちゃって…」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

ユージオの呼びかけに応えず、深く沈んだ声でそう告げるアリスに、俺とユージオも思わず黙ってしまう。涙は流れていないが…鋼鉄の身体であれば、確実に泣いていたであろうその表情のアリスへと、声を掛けたのは…

 

「泣かないで、アリス。君だけが悪いわけじゃないよ」

 

「…ユージオ?」

 

「君を一人にした僕のせいでもあるよ…それに、旅行ならまたできるさ。今日だけじゃない…また時間ができた時に、東京だけじゃない…色々なところに行こうよ。世界は広いんだから…二人一緒なら、またいつか行けるさ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

静かに、そして、優しく語り掛けるユージオにアリスは何も答えない…正確には、泣くのを堪えるのと同時に嗚咽が漏れないよう歯を喰いしばっていたのだろう。

 

それでも…ユージオが大丈夫だと言っても、アリスにしても思うところがあるのだろう。だからこそ、俺ができることは…

 

「ユージオ、今の言葉に二言はないな?」

 

「えっ……う、うん」

 

「アリスも…お前も同じ気持ちか?」

 

「………」

 

「…アリス!」

 

「っ……もちろんよ…!」

 

確認するように…しっかりしろという意味を込めて、二人にそう問い掛けると、ユージオは当然…そして、活を入れられたことでようやく顔を上げたアリスの意志を確認して…俺はすぐさまに頭を働かせる。

 

(…時間はそもそも余裕を持たせてあったし、最後の準備をする時間を確保するために旅程を組んでたわけだから…ここから着物を返して六本木に戻る時間を逆算して……いくらかの工程を省略すれば、もう準備は終えられる筈…あっちにはアスナがいるから、なんとか上手くやってくれるだろう。着替える時間もあっちならそう掛からないし…むしろ、二人の準備の方に時間を掛けるから、なおさら少し多めに余裕をもって……これなら、なんとか…!)

 

当初のプランを一度分解し、これからのスケジュールを考慮して組み立て直していく。もともと少し時間が押していたのも、逆にプラスになった。向こうの面々には多大な負担を掛けることになりそうだが…まぁ、二人のためなら頑張ってくれる筈だ。

 

「カナデ、ユイちゃん。予定変更だ…待機メンバーにスケジュールを超前倒しにすると伝達してくれ!特に来賓への時間変更の連絡を最優先にするようにってアスナには伝えてくれ。あと、その足でラース六本木支部へも行って、このことを告げて一時間後には早くとも戻る旨を併せて伝言を頼む。それが終わったら、みんなの手伝いを…かなり無茶なスケジュールになるが、なんとか頼むって伝えてくれ」

 

『分かったのじゃ』『分かりました』

 

オーグマーのAR画面に映る二人に即座に伝達事項を頼み、それを理解した彼女たちはすぐさまALOへと向かうために姿を消した。

 

一気に捲し立てるように告げた俺の言葉に、ぽかんとするユージオとアリス…完全に置いてけぼりにしている二人に、俺は笑みを浮かべて応える。

 

「安心しろ、二人とも…この婚前旅行を企画したのは俺だ。想定外な事態が起こっても、なんとかするのも俺の仕事だ。ちょ~っと予定よりは早いが、本命のイベントをすることにしたから」

 

「…本命?さっきカナデさんたちに言っていたことに何か関係が…?」

 

「まぁ、ここで全部を明かすと楽しみと驚きが軽減されちまうからな…あとのお楽しみってな。まずは母さんと合流して、着物の返却……って、ユージオ!お、お前…」

 

「えっ……あっ~…えっと、これは…」

 

別に焦る理由はなく、むしろゆっくり戻ってもいいくらいなので、慌てずに…まずは母さんに連絡を取って合流すべきだと思ってスマホを取り出そうとした時…俺はふと視線を下ろして、それに気付いた。

 

ユージオの方も心当たりがあったらしく、気まずそうに視線を逸らすが、俺はそれを許すわけがなく、

 

「その着物!?破ったのか!それに下駄も履いてないし…!?」

 

「えっ?!」

 

「えっと…ゴメン。アリスを助ける前に、走りづらいと感じて思わず…下駄もその時に脱いじゃって…」

 

「…レンタルだから修繕費がぁ…!?まぁ、費用はラース持ちだから、俺はいいんだけどさ」

 

「そうだったの!?」「そうなの!?」

 

そう…ユージオの着物は足元が大きく破かれており、更には下駄を脱いで素体が見える裸足状態わけで…着物一式をレンタルしている仕様上、破損と紛失では違約金が請求されるわけで…

 

まぁ、今回の旅行計画を含む全てを相談した際に、

 

「費用はうち持ちで構わないから、気にしないでいいよ」

 

と、とてもいい笑みで菊岡さんがそう言い切っていたので、多少の増額はなんとかしてくれるだろう。

 

まさかの事実にユージオとおんぶ状態のアリスが驚く中、俺は気にすることを止め、途中で手を止めてしまった母さんへの連絡を取ることにしたのだった。

 

 




アリスって、ちょっとツンが入るキャラだと作者は思っているんですよね(またしても勝手な偏見)

途中まで影薄かった蓮ですが、最後の最後でまた何かを企んでいたのを晒したわけで…次回はその企みの全貌が明らかとなる最終話となります。

どうして蓮の母親がこのお話にここまで介入することになったのか、その理由も明らかとなる次回に是非ともご期待頂ければと思います。

それでは、また明日の更新で!

キャラエピソード第2弾 どのキャラのお話が見たいでしょうか?

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