情報屋とボディガードの駆け引きが行われる邂逅後半です。
それではどうぞ!
アインクラッド第57層…最前線に最も近い街のレストランの一角。
彼はそこで食事を摂っていた…もっともその表情はあまりいい物ではなかった。まぁ、当然か…その眼前に原因となるのがあるわけだから。
その不満を一向に隠す気のない視線を…向かい側に位置するこちらへと向けて、彼は口を開いた。
「…それで、もう一度言ってくれないか?」
「うん?だから、ここのお代はオイラ「違う…!」…ハァ、冗談が通じないな」
若干イライラした態度を見せる彼に、眼前に座っていたオイラはニコニコと笑みを浮かべていた。先程助けてくれたこのプレイヤー…シグと名乗った彼の問い掛けに、オイラの返しは気に食わなかったらしい。
そんな彼を見たオレっちは、やれやれといった表情をしながら、さっき言った頼みをもう一度言葉にすることになった。
「だからサ…オイラのボディガードをお願いしたいんだヨ」
「……断る」
「…チェッ。だから言ってるダロ…報酬はちゃんと払うって」
「断る」
「なんなら、おねーさんを好きに「断る!!」…わ、悪かったヨ…!」
サーモン(もどき)のカルパッチョを食べながら、さっき聞いた言葉が間違いではなかったのを確認したシグは容赦なくその頼みを断ってきた。
冗談半分の色仕掛けを混ぜた提案もしたのだが、フォークでマリネを突き刺すことで怒りを露わにしていた…どうやら、本当に冗談が通じない相手のようだ。思わず大きな声を上げてしまったことに気まずくなり、周りに軽く謝ってからシグはオイラに視線を戻した。
「……大体、なんで俺なんだ?それこそ知り合いの『黒の剣士』に頼めばいいだろう」
「黒の剣士も色々と忙しいんだヨ。同じ理由で閃光もナ」
「なら、夢幻の戦鬼は…彼も忙しいのか?」
「いや~、あいつも結構多忙…逆にこれ以上色々と頼むが難しくてサ」
「それは残念だったな」
シグの問い掛けにオイラは気まずい顔をする…キー坊やフォン坊、アーちゃんは攻略組として普段は前線にいることが多い。特にアーちゃんは血盟騎士団としての活動もあるから…最前線の攻略に関係ない情報収集の護衛とかは頼み辛いんだよな。
まぁ、それは半分建前…オイラの興味は眼前のこのプレイヤーにで、ちょっと情報を知りたいのもあって、ボディガードを理由にこうやって接近しようとしているんだが…思った以上にこいつのガードが堅いのだ。
…いや、キー坊たちが緩いのかもしれない。特に、キー坊とフォン坊はユニークスキルらしき、エクストラスキルをオイラなんかに打ち明けていたりするぐらいだしな…
まぁ、今は眼前のこいつだ…この鉄壁ぶりをどうしたものかと思っていると、先程、シグが注文していたパスタ料理がNPCによって運ばれてきた。
「…悪いが、俺にも色々都合があるんだ…他を当たってくれ」
「本当にダメなのカ…?」
届いたパスタをつつきながら、オレっちの頼みを断るシグ…こうなれば、泣き落としはどうかと悲しそうな表情で問いかけるも、
「何度言われようとも、どんな表情をされようが断る。これで話は終わりだ。ごちそうさま、それじゃあな」
「エッ、早!?ちょ、ここはオイラが!?」
「奢られる筋合いはない」
さっきまで皿に盛られていたパスタは…ちょっと目を離した僅か十数秒で消えており、オイラの制止を振り切って、シグは振り返ることなく店を出た。
「…オイラがこの程度で諦めると思うなヨ」
完全に闘志に火が付いたオイラは、既に背中が見えなくなったあいつに宣言するように、そう呟いた。
数日後…第50層『アルケード』の滅多に人が立ち入らない一角の路地で、オレっちは人を待っていた。こちらが指定した時間までもうそろそろだと思っていると…その人物はやってきた。
「ニャハハ…やっぱり来たか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
笑いながら挨拶をしたオレっちに対し、やってきたあいつは…人を殺せそうなレベルの不機嫌さを顔に表していた。ここに呼び出した件のプレイヤー…シグが開口一番に口を開いた。
「どうやって、俺の連絡先を知った?」
「ニャハハ…オイラは情報屋ダゾ?そのくらい調べようと思えば、お茶の子さいさいだ。それに…中層より下のプレイヤーからはちょっとした有名人みたいじゃないカ。ボディガードのシグ…そう呼ばれてるんだろう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
調べてみると、思ったよりも早く情報は集まった。
『ボディガードのシグ』…別に本人から名乗ったわけではないが、依頼を受けたプレイヤーたちからその仕事の出来と腕前から、自然とそう呼ばれるようになったのが由来だった。
その二つ名の通り、主に低・中層をメインに活動するプレイヤーたちの依頼を受け、クエスト攻略のための人数合わせ、レベリング目的としての万が一の護衛…あらゆるボディガードとして活躍しているのが、眼前の男の本職だったわけだ。
「いやいや、まさか依頼したことが本職だったとはナ。それなのに、おねーさんの依頼を断るとは、どういう了見ダ?」
「…依頼を受けるのも断るの俺の自由だ。そもそも、最前線に出られるほどの腕前を持っているお前が、俺を必要とする機会の方が少ないだろう?」
「いやぁ~…それがそうも言ってられないのが現状でナ。アインクラッドの攻略が進んでいく度に、おねーさん一人では調べるのがキツくなってきたところでナ。折角だから、腕のいいボディガードを雇うのも一興かと思ったんダ」
「…うさんくさい言い分だな。鼠のアルゴがそんな殊勝なことを言うわけがない」
「おや、そっちもおねーさんのことを調べたのカナ?」
「お前ほどの有名人を知らないプレイヤーの方が少ないだろう?」
まぁ、シグの言うことにも一理ある…基本、オイラは顔を晒すことはそうない。しかし、人の口に戸を立てるのもまた難しいのも事実で…それなりの腕が立つプレイヤーならば、オイラの情報を求めたこともあるだろう。
「だが、知らなかったこともあったぞ…まさかここまでしつこいとは思ってもみなかったからな」
「かなり苦労はしたけどナ…」
「よく言う…ここ数日、ずっと俺に付きまとうとは…警察がいれば、相談に行っているところだぞ」
物凄く苦々しい顔をしながらそう告げるシグに、オイラの方はしてやったりという笑みを浮かべていた。まぁ、ここ数日の出来事を思い出せば、互いにそんな表情になるのは当然か。
まず、泊まっている宿屋を突き止め、ボディガードとしての連絡先をも突き止め、ダンジョン、食事中、買い物…すべてにおいてオイラが見張っていたのだ。
勘も優れるようで、シグはオイラの気配に気付いていたようだが、流石に俊敏性ではオイラが勝り、何度か姿を捉えようとしては、オレっちを取り逃していた。
で、そろそろ向こうさんも我慢の限界だろうと思ったタイミングで、ボディガードの依頼を受けている第一層の掲示板に書き込んだのだ…『もう一度依頼の話をしたい 鼠』…そのメッセージを見て、シグはこうしてやってきたというわけだ。
「それで…どうして俺にそこまでこだわる?」
「一応は命の恩人だからナ…それに、オイラが全く情報を掴めていなかったあんたのことを知りたくなった…っていうのじゃダメか?」
「プライバシーの侵害だな…そんな安直な理由での依頼は受けたくない」
茶化したり冗談を交えるような言葉は逆効果だと以前のことで悟り、オイラは真面目に答える。多少の好奇心が理由と言われれば、シグも良い顔をするわけがなく…回答は前と変わらずノーだった。
「…どうしてもダメか?」
「………悪いが断る」
真剣な表情のまま頭を下げるも…迷いを見せつつもシグの答えは変わらない。
「そうか…それじゃあ、しょうがないカ…」
「…分かってくれたようで助か「ならば、奥の手を使わせてもらうしかないナ!」…はい…?」
シグの言葉を遮ぎり、オレっちはいつもの飄々とした笑みを浮かべてそう告げた…この程度で諦めていては、鼠の名が廃るというものだ。ストレージからそれを取り出したオイラはそれをシグに突き付けた。
その一枚の紙きれ…それを見たシグの目が見開かれる。
「依頼を受けてくれないって言うのなら、シグ坊のプライベート情報や活躍を新聞で流すしかないナ!」
「なっ…!?」
その暴挙にシグが言葉を失う…こうでも言わないと、こいつは話に乗ってこないと思い、心を多少は痛めつつも、オイラは言葉を続けていく。
「さて、シグ坊。おねーさんは優しいからナ。選択肢をあげよう…このままおねーさんの依頼を素直に受けるか、かなり脚色された記事で一有名プレイヤーとしてデビューするか…後者になったら、そんな凄腕プレイヤーを放っておかない連中がわんさか集まるだろうな…血盟騎士団やらDDAとかがな…さて、シグ坊はどちらがいいのカナ…?」
「…っ!」
「おっと…!!別に奪ってもいいけど、その場合はそのことも加えた記事を流すゾ?」
「ぐぅ…!?」
咄嗟に記事を奪おうとシグが動くも、オイラのスピードに負け続けていた彼が勝てるわけもなく、オイラがバックステップしたことで掴もうとした手が空を切る。
「さぁ、シグ坊、どうする…?オイラはこのまま転移結晶で逃げることもできるダゾ?」
「くっ…!?」
脅しに近い言動にシグは何もできなくなっていた…まぁ、後者の提案に関してはブラフで、流石のオレっちもそこまで本気でするつもりはないが…こういう輩にはこれぐらいの強硬手段を取らなければ意味がないと思っていたのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…さぁ、どうするんだ、シグ坊?」
黙ったままの駆け引きが続く中、オイラは再度問いかけた。これ以上、考える時間を与えては何かしらの策を思いつかれる可能性がある。優勢の今、この流れを断ち切らせまいと攻めるオイラに、シグは黙ったままこちらを睨んできた。
不敵な笑みを浮かべつつも、声色は真剣な色を込めて問い掛けたオレっちの姿勢に…何かを見極め思うところがあったのか、大きなため息を吐いて…
「……はぁ…分かったよ」
「っ…それじゃあ…!」
「但し!…3つ条件がある」
シグはオイラの動きを制止するように手を挙げながら、言葉を続けた。
「1つ…そのメモもそうだが、俺のプライベートには必要以上に関与しないこと…詮索もなしだ。2つ目、何か用がある時以外は必要以上に連絡を取らないこと…」
「まぁ、依頼する側だしナ、分かったヨ…それで3つめは?」
「…そのシグ坊という呼び方は止めてくれ…俺はガキじゃない」
「あらら、お気に召さなかったカ?まぁ、おねーさんからすれば、シグ坊はかわいいお子様だからナ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
三つ目の要求として呼び名を訂正するようにと言ってきたが…照れたように目を逸らすような反応のシグに、オイラの悪戯心が擽られる。これは変えてなるものかと思っていると、
「そうか、なら俺はアルゴのことをアル姉と呼ぶとしよう…」
「なぁ!?あ、アル姉…!?」
まさかの呼び名返しという手段に、今度はシグが悪戯めいた笑みを浮かべ、オレっちが言葉を失う番だった。
「いや、人を脅迫するくらいだからな、アルゴのあねさんの方が相応しいか…もしくはボディガードをするわけだから、アルゴの姉貴と呼ぶ方がいいか」
「ま、待て待て!」
「うん…?もしかして、姐さんの方が良かったか?人の呼び方をそっちが勝手に決めるというのなら、俺も自由にしていいだろう?それとも、アルゴっちとでも呼んでやろうか?」
「う、うううう、分かった!分かったから!頼むから、普通にアルゴって呼んでくれぇぇ!」
「…それじゃ、契約成立だ」
「ううう…意外に鬼畜ダナ、お前…」
そんな呼び方をさせていると周囲に知られれば、オイラの評判に関わってくる…!意地でも呼び方を変えさせてやるといわんばかりの態度のシグに、オイラは白旗を挙げるしかなかった。
フォン坊とはまた違う…別の意味で容赦のない性格をしているこいつ…シグにジト目を向けつつも…あいつが差し出してきた手をオイラは取った。
「これからよろしくな…依頼主さん」
その言葉と共に、オイラとシグの契約は成立した。
こうして、シグはオレっちのボディガードを務めることになったんだ。
脅迫してくる相手に容赦はしない…それぐらいに尖ってたシグとアルゴは一応ではありますが、こうしてコンビを組むことになったわけです。
そういうわけで次回からは二人の行動について語って…といったところになってくるかと思います。
それでは!
P.S. 外伝のサブタイは「○○と△△」という法則でつけてます。基本的にアルゴを指す「鼠と△△」が多くなると思いますが(苦笑)
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