ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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というわけで、圏内事件に関わるお話をやります!

さらっとキリトも登場しますが、ちょっとだけです。
…というか、彼らの方がまだ出ているという…

それでは、どうぞ!


第五話 「鼠と圏内事件」

「圏内でのPK…だって?」

 

昨日の夕方に起こった事件…キー坊とアーちゃんが遭遇した事件を簡単に伝えたところ、意外な反応がシグから返ってきた。

 

急な呼び出しにも関わらず、緊急を要するという文面でメッセージを送ると、すぐさま待ち合わせ場所を指定してきた。47層にある『羽休めの宿』という喫茶店で、オイラとシグは落ち合った。

 

余談だが、宿屋という名前なのに喫茶店というのはどういうことなのだろう?隠れた名店というのか…この層を攻略していた時に丁度できたようだが…流石に4~5カ月も前だと、ちょっと細かい部分が思い出せない。

 

まぁ、店のことはまた暇な時に調査するとして…今は圏内PKの話だ。

 

信じられないといった反応…ではなく、疑うかのような、そして、何かを確信したようなものが入り混じった反応と言えばいいのか…いつもは素っ気ない反応ばかりのこいつにしては珍しいものだった。

 

「そうなんダヨ…どうにもキナ臭い話でナ。ちょっと情報を集めてくれないかって頼まれたんだが、同時に厄介なことが起こっててナ」

 

「厄介なこと…?」

 

「…あるダンジョンの調査を頼んだフォン坊…夢幻の戦鬼が行方不明になっちまったんダヨ」

 

圏内での殺人…有り得ない筈のPK(プレイヤーキル)が起こったと二人がメッセージで報告と同時に情報収集を依頼してきたのだ。

 

本来であれば、圏内の安全性を覆しかねない事件なので協力を惜しみたくないところなのだが…偶然にも、一昨日あるダンジョンの探索依頼を頼んだフォン坊の行方が掴めなくなってしまったのだ。

 

昨日、攻略に出向いた筈が…あれから行方が追えなくなっていたのだ。攻略に一日も掛かる筈のないダンジョンだったのだが…もしかすれば、フォン坊に何かあったのではと思わざるを得なかった。

 

「…なるほどな、あの有名な夢幻の戦鬼が行方不明とは…確かにそっちもおおごとだな。分かった、その圏内PK疑惑の方は俺が引き受けよう」

 

「えっ…?」

 

こっちから本題を言う前に、その内容を先読みしたどころか了承の答えを返してきたシグの反応に…オイラは思わず変な声を出していた。

 

いやいやいやいやいや……ちょっと待て!?

 

「…ちょっと……ちょっと待て!?」

 

「うん…?お前は夢幻の戦鬼の行方を追いたいから、そっちの情報収集を代わりにやってほしいってことだろう、違うのか?」

 

「いや、確かにオイラの方の手が空くまで中継ぎを頼みたいとは思ったけど……いいのか、ボディガードの仕事じゃないんダゾ?」

 

「それはそれ、これはこれ…以来として受けるだけだ。それに……」

 

「…シグ?」

 

「…圏内でのPKなんて、おいそれと放置できる話じゃないだろう。一歩間違えれば、このゲームの基幹が崩壊しかねない案件なわけだし…俺の仕事にも関わることだからな」

 

(…まぁ、圏内にまでボディガードの依頼をこなさないといけなくなると…こいつの仕事にも支障をきたす。それは積極的にもなるか…)

 

あまりに積極的な姿勢を見せるシグ…その訳を答えられ、納得する。半分は私情だが、それでも、今回の一件がSAOの根幹を揺るがしかねないことだと悟ってくれていたからだ。

 

「そういうことで、悪いんだが、すぐに情報収集に動いてくれないカ?」

 

「了解だ。場所は57層だったな…」

 

コーヒーを飲み終え、確認を終えたシグはすぐに動き出した。まだ話は終わってないのに…!

 

「ちょ…ある程度、情報が集まったらキー坊…黒の剣士と合流してくれヨ!お前のことは向こうに伝えておくから…!…って、行っちまいやがった。ああいうのはどうなんだよ、ったく……とりあえず、キー坊にメッセージを送った後、シグにも確認のメッセージを送っておくか」

 

聞こえていたとは思うが、何の反応も返すことなくシグは店を出て行ってしまった…相も変わらない無粋な態度に物申したいことはあるが…ひとまず、キー坊とシグの両名にメッセージを送ろうとしたところで…

 

「…あっ、あいつ!コーヒー代、払わずに行きやがった!?」

 

先に来て既に注文して飲んでいたくせに…自分のコーヒー代を払わずに出て行ったことに気づき、思わず言葉として出してしまった。

 

別にコーヒーの一杯や二杯ぐらいたいしたものじゃないが…そういう金額の問題じゃないんだ!

 

オイラが何度も何度もいいようにやられているのが…どうにも許せないのだ。

 

(といっても、今回、依頼の代理を頼んだのはオイラだもんな…仕方ない、必要経費として割り切るか…)

 

だけど、今回はオイラからの依頼だ…これぐらいは依頼料として我慢するところなのだろう。オイラものんびりしている暇はない…フォン坊が行方を眩ませた謎のダンジョンに早く向かわないといけない。

 

「すみません、お会計を…」

 

「ああ、お代は結構だよ」

 

「えっ…?」

 

二人分のコーヒー代を払おうとしたところで、カウンターでグラスを磨いていた店長らしき男性から、まさかのタダでいいよ発言が飛び出し、オイラは驚く。

 

「シグ君の知り合いだろう?なら、今回はお代は結構だよ。その代わり、店を気に入ってくれたのなら、今度はお客として通ってくれる方が有難いからね」

 

「…ありがとナ。えっと…」

 

「この店の店主のアジアと申す。以後、ご贔屓にしてもらえると嬉しいかな…ああ、シグ君のコーヒー代はちゃんと彼から回収しとくから、気にしないでいいよ」

 

「…わ、分かった…それじゃ、お言葉に甘えて。今度来る時は知り合いも連れて来るヨ」

 

「またのご来店をお待ちしております」

 

どうやらこの店はシグの知り合いがやっていたらしい…店主であるアジアとそんなやりとりをしてから、店を出たのだが…

 

(あのプレイヤー…どっかで見たような気が………いや、そのことよりもまずはフォン坊の行方を捜す方が先だ…!)

 

アジアといい、この『羽休めの宿』といい…何かで見たような気がしてならないのだ。オイラの情報屋としての勘がそう告げているのだが…すぐには思い出せず、まずはフォン坊の居場所を突き詰めなければと思考を切り替え、オイラは同じ層にある『希零樹の洞窟』へと向かった。

 

「…なるほどね。あれが、鼠のアルゴと呼ばれている少女か。下手をすれば、色々とバレることになりそうだね」

 

グラスを拭いていた手を止め、アルゴが去っていく姿をガラス越しに見ていた店主がそんな意味深なことを呟いているとは知らずに、

 

 

…そして、オイラは思い知らされることになる。

シグのことを本当に何も理解しないでいたことを…

 

 

 

「はぁ~~~~~~…」

 

「…先ほどから…うるさい」

 

霧が漂う枯れ木の間を通る男たち…その誰もが、顔を覆うように被れるフード付きのポンチョを身に纏っていた。ドブ川の水をそのまま染色に使ったような濁ったそれはある意味で、彼らのシンボルであり、そして、襲撃される者にとっては悪夢の象徴だった。

 

そんな恰好をした中、一番小柄の男は、その腕に装備している小手…まるで拘束具のようなそれの金属音を揺らし、何度目になるか分からない溜息を吐いていた。

 

その溜息は後悔と退屈が入り混じった声色であり、これまでは黙って我慢していた連中の一人…赤い双眼が特徴的な骸骨マスクを上顔に装備した男が、また特徴的な話し方で注意していた。

 

「だってよぉ~…!せっかく盛り上がりそうなところだったのにまた邪魔をされたんだぜぇ!?あの青竜連合の幹部をやれるぜひとないチャンスを……またあのビーター様が邪魔をしてくれたんだからよぉ!?なんなんだよ、あいつ…いっつもいっつも!絶対に俺が殺してやる!?」

 

「…お前じゃ…無理、だ…それに…あいつの…首は…俺が…取る…」

 

「おいおい、いくらザザの兄貴の言うことだからって、それは譲れねぇなぁ~…そ・れ・と・も……ここであんたを殺っておくのもありっすかね?」

 

「…麻痺…という姑息な手段しか…使えない、お前に…勝てる要素は…ないと思うがな…」

 

テンションの上がり下がりが激しい男に対し、赤目の男は一音も変えることない…まさしく感情のこもっていない声で言葉を交わしていた。

 

一生即発…いや、彼らにとっては楽しみの延長戦の一つにしか過ぎない殺し合いが始まろうとする空気が漂い、それぞれの獲物…麻痺毒付きのナイフとエストックを抜こうとした時、

 

「…くだらない真似は止めろ。やるなら、俺の見えないところでやりやがれ」

 

それまで黙って静観…いや、果てしなくどうでもいいと思っていたこともあり、放置していた最後の一人が口を開いた。

 

その男の言葉に、口喧嘩から手を出そうとしていた両者の動きがピタリと止まった。そのことから、男の発言力がどれほど高いかが伺い知れた。

 

「ジョニー、我慢しろ。もっと面白いショーがこれからも控えているんだ。それまでの辛抱だ」

 

「ちぇ……まぁ、ヘッドがそう言うのなら、我慢しますよぉ~。命拾いしたなぁ、ザザの兄貴?」

 

「……弱い奴ほど…よく…吠える…」

 

「ああぁぁん?!」

 

男の言葉を受け、ジョニーと呼ばれたプレイヤーはナイフに掛けていた手を放した。同じくエストックから手を放した男…ザザへと負け惜しみの言葉を放つも、ばっさりと返されたことで再び怒りが再燃していた。まぁ、ヘッドと呼んだ男の忠言もあり、手を出すことだけは我慢したが。

 

…これだけ見れば、少し発言が過激なパーティに見えるだろう。

 

しかし、彼らの頭上に表示されているプレイヤーカーソルはオレンジ色となっていた。

 

『笑う棺桶』…レッドプレイヤーと呼称される、PKを専門としたイリーガル集団が彼らの正体だった。

 

その中でも三大幹部として最も有名な三人…ジョニー・ブラック、赤眼のザザ、そして…最恐最悪のプレイヤーとして最も名高いPoHがこの場に揃っていた。

 

もっとも、ジョニーが不満を漏らすのも無理はない話だった。今の彼らは作戦が失敗し、逃走しているのにも等しい状況だったからだ。

 

ある依頼人から部下を通して依頼を受けた三人…それは、ある人物たちを始末してほしいという依頼だった。

 

SAOでは禁忌とされるPKの依頼…普通ならそんな依頼は下位の者にやらせていたのだが、今回は話が違った。あの攻略組としても有名な青竜連合の幹部プレイヤー シュミットがターゲットの一人としていたからだ。

 

攻略組となれば、殺しがいがある…殺しを愉しみとしてしか受け取れない彼らにとって、今回の獲物は大物だった。だからこそ、三大幹部が揃って依頼の実行人としてこの場に来ていたのだ。

 

だが、ターゲットのシュミットをジョニーが麻痺毒で動けなくし、その場にいた二人のプレイヤーも制圧しようとした直前…なんと、今回の一件に偶然ながら遭遇していた黒の剣士…キリトが事態に気づき介入してきたこと、さらには彼が呼んだという(実はブラフだったのだが、彼らは知らない)大勢の攻略組を相手にするわけにはいかないということで、依頼を果たすこともできず、彼らはその場を去ることになったのだ。

 

これまで何度も自分たちの思惑を邪魔してきたキリトに、またしても…しかも、折角の大物である獲物を手にかけることができなかったこともあり、ジョニーが殺意を抱くのも無理ない話だった。

 

もっとも、それはジョニーと…思っていてもあまり心情を口にしていないザザだけが思っていたことであり、PoHはというと…

 

(いいぜ…最高だぜ、キリトォ!お前はやっぱり俺を愉しませてくれる!何もかもが思うようにいくよりも…お前という存在が立ちはだかってくれるショーこそが、最も俺の心を滾らせてくれるんだからよぉ!!)

 

全く残念とも、もったいないとも思っていなかった…むしろ、キリトに邪魔されたことを喜びとして受け止めていた。

 

彼にとって、殺しは一時的な退屈しのぎにしかならないでいた…だからこそ、自分が執着するもの以外はどうでもいい存在だと認識していた…それは彼が創った『笑う棺桶』でさえ例外ではなく…自分の心を満足させる駒の一つとしか思っていなかったのだから、彼の倫理観がどれほど異常かは分かってもらえるだろう。

 

「…ほら…さっさと…結晶を…出せ…」

 

「ちっ、偉そうに……へいへい」

 

そんなPoHの内心など知らず、ザザに急かされる形で悪態を吐きながらジョニーは右手でメニューを開こうと…

 

「…!伏せろ!?」

 

「っ…!?」「はぁ…?ぐぅ…?!」

 

何かを感じ取ったPoHが思わず叫ぶも、自身が反応するのがやっとだった。その言葉にザザはエストックに手を、更に反応すらもできていなかったジョニーが間抜けな声を出すも…その時には、それは既に通り過ぎた後だった。

 

…パリン…!

…カラン…!

 

宙を舞っていた右手とエストックがそれぞれ地面に落ち、破砕音と金属音を鳴らした。空気が静かに落ちている枯葉を揺らす中、一同は一瞬茫然としてしまった。

 

「…お、俺の腕……俺の腕がぁぁァァァァァ…?!」

 

「敵襲?…だが、姿が…見えなかった…」

ペインアブソーバー機能によって痛覚が大きく緩和されているとはいえ、右手を容易く斬り落とされたことに痛みを覚えたジョニーの絶叫が木霊する。

 

ザザもエストックが代わりとなって手を斬られることは防いだものの、獲物のエストックが弾き飛ばされ、痺れた手を左手で抑えながら周囲を見渡すも…彼ら以外にその場には姿も影も見えず…

 

「……どうやら、最近噂のやつがお出ましのようだ…」

 

『…一度だけ警告する…投降しろ』

 

「……………」「「…!」」

 

少しだけ笑みを浮かべてそう告げたPoH…それに遅れ、風に乗せたかのような感じで謎の声が聞こえてきた。それが襲撃者の声だと警戒するジョニーとザザに対し、PoHは平然としていた。

 

「ショーが拍子抜けに終わったところに…なんとも奇怪なゲストが来てくれたものだ。おい、ザザ…ジョニーを連れて、先に行け」

 

「……俺が…殺す」

 

「無理だな…お前には荷が重い。死神の使徒様気取りを相手にするのはな…」

 

「………来い」

 

「て、てめぇ、ザザ!?もうちょっと丁寧に運べや、糞がぁ!?」

 

襲撃者の言う通りになどさらさら従う気はなく…愛剣である『友切包丁』を抜いて、PoHは二人…ザザへと命令する。

 

やられたままでは気が済まないと残る意思を示すも、敵の正体をPoHから知らされたこともあり、呑み込むまで多少時間を要したが、未だに喚き続けるジョニーの首根っこを掴み、転移結晶を使ってその場を離脱しようと…

 

『…!』

 

…ガキン!?

 

「おっと…!そうはさせないぜ」

 

『…っ…?!』

 

ザザの行動を妨害すべく、またしても何かが高速で動くも…今度は先程のようにはいかなかった。まるでその動きを予想していたかのように、PoHが盾にした魔剣によって防がれたからだ。

 

その間に、ザザは転移結晶を取り出して、そのままどこかへと転移してしまった。二人が離脱したことを確認し、PoHは眼前…魔剣の刃を交わしている相手へと声を掛けた。

 

「悪いが、あいつらには死んでもらうべき…もっと相応しいショーの舞台があるんだ。ここで殺されちゃ……俺が詰まらないんでな」

 

「…狂人が…お前はそうやって、何人の人生を狂わせてきた…!」

 

受け止めたのは刀の刃…全身を覆い隠すような黒いローブを被っていることもあって、表情を伺うことはできなかったが、短くも答えた声に怨嗟の色が籠っているのをPoHは感じ取った。

 

「知るかよ…覚える必要もないことを覚えているのは馬鹿がやることだろう?俺は、俺が満足できることだけを知り、覚えていれば十分なんだよ」

 

「……やはり、お前はここで…!」

 

「殺すってか?正義の味方気取りのお偉いさんにしては過激な発言だなぁ!」

 

相手の感情をわざと刺激するような発言をするPoH…思惑通り、相手の殺気が一気に膨れ上がり、その気配を感知しやすくなった。読み通りと、内心思考を巡らせながら相手の刀を払いのける。

 

「こっちもちょっと不消化で終わったからな…少しだけはつきあってやるよ、噂の狩人さんよ」

 

「…狩人…?」

 

一定距離を取り、仕切り直しと言わんばかりのPoH…それに対し、襲撃者は聞き覚えのない呼ばれ方をされたのもあり、困惑していた。

 

「下っ端共が何度もお世話になってるらしいじゃねぇか…警告した上で、多くのレッドを牢獄送りにしたり、逆らう奴のHPをゼロにすることも問わない…『死神の狩人』…俺たちの中で、新しいターゲット候補として定めた呼び方だ。まぁ、命名者は俺じゃないがな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

その名の由来を告げられ、風に吹かれたことでその顔が少しだけ見えた。鼻の部分まで隠した銀色の仮面が見えた。だが、不自然なことに、PoHの目には狩人のプレイヤーネームはおろか、HPさえも見えないでいた。

 

何かしらの認識阻害系のアイテムを使われている…狩人に関する集められた情報通りだと思いつつ、PoHは魔剣を構える。キリトほどではないが、狩人が動き出してから『笑う棺桶』の活動の一部が邪魔されてきたのだ。

 

もちろん、PoHにとってはそこまで気にしていること(というよりも、正直どうでもいいとさえ思っている)ではないのだが、組織の長としてはそうも言ってられず…一応の対策は下がやっている。

 

だが、それとは別に…先ほども幹部である二人が視認できなかった抜刀術を使う襲撃者…狩人の正体には少しばかり興味を持っていた。もっとも、知ったところですぐに殺すだけなのだが。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

(おお、おお…いい殺気だね!だが、だからこそ動きが読める…!)

 

刀を鞘に納め、静かに構える狩人…先ほどのように、得意の居合術を使ってくるに違いないと確信したPoHは警戒し、内心ほくそ笑んだ。初撃の奇襲も、僅かに感じ取った殺気に気づき回避したのだ。

 

PoHにとって殺気を感じ取るとのは容易いことだった…現実世界から何度も死地を巡ってきたこともあり、もはや習慣と化した行動だった。

 

目で追うことが困難な斬撃であっても、殺気の気配さえ読み切ることができれば、避けれないわけではない…眼前の狩人がいつ動いてもいいように、姿と殺気両方を探る。

 

「…っ!(来やがる…!)」

 

僅か…ほんの僅かだが、殺気が揺らめいたように感じたことで、PoHの警戒も最大限にまで引き上げられる。そして、

 

「…っ!」

 

音を立てることなく、狩人の姿が消えた。

 

だが、PoHの目は消えた狩人の姿を捉えていた。

 

(さっきと同じスピード…狙うはもちろん、首だよなぁ!?)

 

初撃の一撃を僅かながら見ていたこともあり、目が慣れたことで居合のスピードへと追いついていたのだ。これなら余裕で防御が間に合う…そう思い、魔剣を…

 

(…っ!?なに…?!)

 

だが、その動きの中、PoHは息を呑むこととなった。それよりも先に嫌な予感が走ったこともあり、本能的に左腕を盾にするように顔の前へと持ってきて…

 

「っ……!?」

 

「やってくれるじゃねぇか…」

 

手ごたえはあったものの、想定していたものではなかった結果に狩人は刀を振り抜いた姿で、歯を噛み締めていた。それに遅れ、間合いを取るように後退るPoHだが…その左腕は手首から先が消失していた。

 

狩人はまだ本気を出していなかったのだ。

 

初撃でわざとPoHに目を慣れさせ、あれが最高速度だと誤認させていたのだ。先ほど、PoHが息を呑んだのは、急加速した狩人の動きに驚いた結果だった。

 

だが、それを類まれなる直感で危機を感じ取ったことで、左手を犠牲にして防いだのだ。狩人としては、確実に殺すための策だったのだが…それが不発に終わったことに歯噛みするも、PoHを逃がしてなるものかと追撃を掛けようと…

 

「おおっと…足元には気を付けた方がいいぜぇ?」

 

「っ…!?」

 

だが、PoHもやられっぱなしというわけではなかった。狩人の足元へと視線を向けており、そこには先ほど斬り落とされた自身の左手がポリゴンへと変わろうとしていた。そして、手が消失すると、握られていたものが地面に落ち…

 

それを視認した時には時遅し、狩人の足元で爆発が起こり、その姿を毒々しい煙が包み込んだ!

 

(これは……毒煙玉を仕込んでいたのか!?)

 

視界を遮られただけでなく、煙にも何かしらあるだろうと狩人は察するも…少量吸い込んでしまい、バックステップで煙の中から脱出した時には、ステータスに麻痺毒が表示されていた。

 

状態異常耐性スキルを上げているおかげで完全に動きを封じられることはなかったが、思うがままに動かすことは難しくなってしまっていた。だが、PoHの方も負傷していることもあり、これ以上の戦闘継続は考えていなかったらしく、

 

「できることなら、お前みたいな厄介者には会いたくないもんだぜ…じゃあな、ハンターさんよ」

 

遠くなるその言葉を追いかけようとするも、狩人の身体は意思に反して鈍い動きしかできず…毒煙が晴れた頃には、既にPoHの姿は消えてしまっていた。

 

「…っ!?…~~~~~~~~~~~~~?!」

 

目的を果たすことができなかった狩人は、麻痺で不規則に振動する身体を無理やり動かし、刀を地面へと突き刺した…それだけでは収まらなかったいらだちを解放するように、声にならない叫びを上げていた。

 

 

 

「…なるほどな、まさしく幻の復讐者だったわけだ」

 

「まぁな…色々と考えさせられたよ。価値観っていうか、思い込みの怖さというか…結婚に関しても、な…」

 

後に『圏内事件』と呼ばれるようになる騒動から二日後…

 

フォンの安否を確認できたのもあり、ようやく事情を聞ける時間が取れたアルゴが、最前線の攻略の合間である休憩中に、キリトと会っている光景がそこにはあった。

 

昨日は突如として喪失した『希零樹の洞窟』の調査に時間を費やしたのもあり、こちらもまた短期間で事態が解決したこともあり、事情を知っている当事者に話を聞くだけで終わりそうだとアルゴは考えていた。

 

「それにしても、ユニークスキルに関連したダンジョンか…俺が行ってたら、フォンみたいに閉じ込められたのかな?」

 

「…どうだろうナ。フォン坊が持っているスキルにだけ反応する、っていう可能性もあるしナ…まぁ、フォン坊もあんまり多くは教えてくれなかったから、真相はGMのみぞが知るってところだけどナ」

 

「(…そこに、幽霊を見たなんて…とてもじゃないが言えないよな)…でも、フォンが無事で良かったよ。鑑定スキルとか今回の一件でアドバイスを貰おうとしてメッセージを送ろうとしたら、ずっと音信不通状態だったからさ」

 

「そうダナ…でも、キー坊とアーちゃんにとってはそっちの方が好都合だったんじゃないのか?フォン坊とアーちゃんは先日のデュエルの件で仲が拗れてるみたいだし、お前さんらも久々に二人っきりになれたんじゃないのか?」

 

「…っ?!そ、そんなことはない!別におかしなことは何にもなかったからな!?」

 

「キー坊…それ、なんかあったって言ってるようなもんダゾ。ちょっとはフォン坊から腹芸の一つや二つくらい学んだ方がいいんじゃないカ?」

 

互いの情報を交換し合う中、カマを掛けただけなのに見事に自爆してくれたキリトの反応に、流石のアルゴも呆れるしかなかった。

 

それと同時にアスナとの関係に何か進展があったのではと探りを入れようとしたのだが…

 

「そういえば…アルゴが寄こしてくれた助っ人って誰のことだったんだ?」

 

「…えっ?」

 

キリトから問われたことに、アルゴはすぐに答えを返すことができなかった。問いの意味は理解できていたが、自分の知る由のない事実を突き付けられたことに驚いていた。

 

「メッセージで情報を集めてくれる助っ人を寄こしてくれるってあったけど…結局、それらしい人物と会わなかったと思ってさ。まぁ、すぐに真相が発覚したから、今さらどうこうってわけじゃないんだが…その人にも一応はお礼を言っておきたいと思って………アルゴ?」

 

キリトの言葉はアルゴに届いていなかった。

 

アルゴの脳裏に思い浮かんでいたのは…あの時、珍しく見せたシグの積極的な姿勢と…そこから生まれた疑念だけだった。

 

 




圏内事件に関してはアニメ第一期の第5~6話をご覧ください(投げやり)

もう大概の方は察して頂けたかと思いますが、まだその正体に関しては触れないであげてください。

というか、本編でも登場したのに、まさかのこっちでも登場です、PoH…そして、ザザとジョニー・ブラックまでもの登場でした。
まぁ、どっちかといえば、PoHの狂気の引き立て役だったような気もしますが…この時からヤバかったんですね(苦笑)

そういうわけで、次回はシグの疑惑を探るお話になるのかと…それが終わったら、回想話を一つ入れて、シリアスな話に入っていくことになるのかと…

それでは、また!

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