ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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遭遇…えっ、誰と…?みたいなお話です(語彙力ゼロ)

前回姿を見せたあの人の正式な呼び名(?)もお披露目です……イタタって感じが凄い凄い(棒)

そして、ようやくあいつも外伝初登場です。

それでは、どうぞ!


第六話 「鼠と遭遇」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

いつものように最前線のダンジョンの情報収集を終え、取り纏めるのもあって街の喫茶店で一休みしていたんだが…流通させる見通しなどの算段も終えたところで、オイラは最近気になったことへと思考を割いていた。

 

(…シグは何かを隠してる)

 

前々から秘密主義らしき性格だと思っていたし、それを特段追及するつもりはなかった。ボディガードとしての依頼も、一定期間…というか、シグの情報をある程度知れれば取り下げるつもりでいたのだ。そもそもの話、腕が立つプレイヤーでありながら、オイラが把握していなかったシグのことに興味を持ったことが事の発端だったわけで、それは当然の帰結だった。

 

だが、ここにきてまだ把握できてないシグの秘密が出てきたことで、オイラの関心はさらに引っ張られることになった。好奇心で人の懐に立ち入るのは好としない主義なのだが…今回はそうも言ってられないような気がした。

 

情報屋なんて仕事をしているせいか、そういった勘が働くことがある…例えば、この情報は逃すととんでもないことになると感じることや、もしくは、これ以上深入りするとただでは済まないことになると…経験則からくる直感ともいえばいいのだろう。

 

…そして、今回はその両方に当て嵌まる…

 

(あのシグが…頼まれた依頼を放棄も同然の行為を取るなんて、どうにも考えにくい。ということは、それを後回しにしても何かしなければならないことがあった…ってことだよな)

 

それなりにシグの性格は理解しているつもりだった。だからこそ、先日起こった圏内事件の調査をしなかったということが、どうにも引っ掛かるのだ。もしも他に依頼があったのなら、オイラが依頼した時点で断っていた筈だ。

つまり、圏内事件に関わる中で情報収集よりも何かを優先させることになったということになるわけだが…問題はそれが何かということだ。

 

(圏内事件を引き起こした首謀者たちは判明し、それに乗じて過去の仲間を抹殺しようとしたプレイヤーは捕まったって話だし…それ関連の話じゃないとすれば…)

 

キー坊から詳細を聞いたこともあり、圏内事件に関する情報を頭の中で列挙していくも…そのほとんどが既に関係ないものだとすぐさま思考から削除していくことになった。そして、残ったのは…

 

(レッドプレイヤー…殺人ギルド『笑う棺桶』か)

 

唯一残ったのはSAOの中で最も忌避される奴らのことだった。キー坊も偶然の遭遇だったらしく、会敵したのも一瞬だったとのことだが…もしもの可能性があるとすれば、あいつらに関連したことなのかと思った。けど…

 

(あのクソ真面目のシグと、あいつらの接点が全然思いつかないんだが…)

 

PKを快楽とし、殺しを生業とする奴らと、プレイヤーを守り戦うシグの在り方は真逆といっても言い程に違うのだ。水と油といってもいいだろう…関わることさえも避けられるレッドプレイヤーとシグの関係性が全く結びつかず、考えていた思考がごちゃごちゃに混ざる。

 

(…やっぱりオイラの気のせいだったのかな。たまたまシグの仕事が間に合わず、キー坊と接触できなかっただけなのか…)

 

変に考え過ぎなのか…根拠がオイラの勘であることもあり、違和感の正体に無理矢理答えをつけようとしているだけなのかもしれない。

 

(まぁ、分からないものをこれ以上考えても仕方ないか…さて、今日のノルマは早くも終わったからなぁ~…どうするかなぁ)

 

メモ帳をストレージへと放り込み、少し冷めてしまったホットミルクを口に含みながら、この後の予定を考えていた。

 

この層の必須調査項目は終わっており、特段急ぎの仕事もない…のんびりできる時間が生まれたことで暇を持て余す結果となっていた。どこかで休息を取るのもありか…そういえば、前にシグと待ち合わせした喫茶店に行くのも手か…マスターにサービスもしてもらったし、アーちゃんの予定でも聞いて……って、多分攻略に出てるよな。

フォン坊もキー坊も多分二人一緒にダンジョンに籠ってそうだし…交友関係で知り合いと呼べる面々は空いてなさそうだ。

 

それならシグを呼べばと思うかもしれないが…あの頑固者が依頼以外のことで誘いに乗ってくれるわけがないので、最初から除外している。

 

「……っ!またこいつか…」

 

最悪一人で向かうかと考えながら、昼に更新された広報(有志によって結成・運営されている広報ギルドの面々が朝・昼・夕の三回配信しているメッセージのこと。迷宮区攻略やらアインクラッド内の日常を届ける新聞みたいなものだ…広報ギルドで登録すれば、誰でも受け取られる仕組みだ)を見ていたのだが、そのある一面を見て、オイラは顔を顰めた。

 

『3人のレッドプレイヤー、黒鉄宮送りへ!

今朝未明、黒鉄宮へと新たにプレイヤー3人が牢獄へと送られていたことが分かった。どのプレイヤーも殺人などの行為を行っていたとのこと。『笑う棺桶』所属ではなかったようだが、プレイヤーに対しての脅威がまた一つ減ったことには変わりないだろう。

ここ連日、レッドプレイヤーの牢獄送りが話題となっているが、投獄された者の話を聞くと「仮面を被ったプレイヤーに捕まった」という多数の証言をしていた。正体は分からないが、有志ある者が何か動いていると見るべきだろう…我ら広報ギルドも件の正体を探ろうかと検討している』

 

(正義の使者のつもりなのかね。まぁ、うろつくレッドプレイヤーの数が減るのは確かにいいことなんだろうけど…誰がこんな酔狂なことをしてるのか…)

 

記事の内容を目にして、オイラは溜め息を吐きたくなった。少し前からオイラの耳にも入ってきてはいたが、こうして話題になるまでとは…

 

『仮面の狩人』…正体不明で、その素性からつけられた呼び名を持つ人物がしているのは、レッドプレイヤーの捕縛行為だ。ここ数カ月、少しずつレッドプレイヤーが牢獄送りにされる案件が増えてきた頃、捕まったプレイヤーたちが口にするようになった捕縛主に対する証言から、いつからか誰かがそう言い出したのだ。

もっとも、捕まえられる側であるレッドプレイヤーからすれば、警察とか正義の味方みたいな印象で覚えられてそうな気もするが。

 

(問題なのは…これに影響されて同じ真似をする奴が出てきそうなことだよな。一番厄介なのは、偽物みたいな連中が出てくることも…)

 

一見いいことをしているように見える『仮面の狩人』(とりあえず世間で流通している呼び方で呼ぶが)だが、この世界…SAOに至っては一概にそうとも言えない。

 

命が懸かっていることは現実世界と同じだが、あくまでも、この世界はゲーム上のものだ。だから、人によってはロールを演じる気分で道を踏み外してしまう者も決して少なくないのだ。

そんな世界に正義の味方なる者が出てくればどうなるか…大義名分を得た馬鹿が誘発されかねないわけで…

 

(…止めだ止めだ…せっかく暇ができたのに、嫌なことに思考を割けるとか生産性がないことはするべきじゃないな)

 

頭痛を覚えたせいか、思考を振り払うのも兼ねてメッセージを閉じた。オイラは情報屋だ…まだ情報にもなっていないことを考えても仕方ない。

 

そう思い、改めて今後の予定をどうしようかと思考を割こうと…

 

「…うん?メッセージ…?」

 

次から次へとオイラの思考を遮ることがまた一つ…閉じたばかりのメニューにメッセージ受信の通知が入った。一体誰からだと思っていると…

 

『狩人の潜伏先の情報をあなたに託す』

 

「…はぁ?」

 

その一文だけが書かれたメッセージに、オイラは思わず間抜けな声を出すことしかできなかった。

 

 

 

「絶対に駄目だ」

 

「えっと…」

 

その数十分後、オイラは喫茶店『羽休めの宿』にて、シグからそんな一言を頂戴していた。いつもの無茶ぶりであれば、このやりとりはそう珍しくないのだが…今日のそれは違った。

 

事の発端はオイラの頼みが理由だが、経緯は少し異なる。

 

差出人不明のメッセージに添付されたマップデータ…それは36層にあるダンジョンに関するものだった。確か…結構広い廃墟風のダンジョンだった筈だ。

 

メッセージの『狩人の居場所の情報』という部分からして、あの『仮面の狩人』の居場所を指しているのだろうが…流石にソロで真偽を確かめに行くのは危険かと思い、シグへと依頼を出そうと待ち合わせたわけで…そこまでは今まで通りだったが、調査の内容を伝えると、開口一番でさっきの言葉が返ってきたわけだ。

 

「危険すぎる。あのダンジョンは隠れられるポジションが多かった筈だ。そもそも、宛先不明のメッセージなど信憑性に欠ける情報を鵜呑みにする時点で論外だ。それがお前を狙った罠の可能性もあるだろうが…ともかく、お前が行くのは認められない。俺一人で調査してくるから、お前はおとなしくしていろ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

だが、そこからが今までとは違った。

 

饒舌と言うべきか、これでもかという程に反対理由を淡々と述べていくシグのそれに、オイラは少し圧倒されながら驚いていた。

 

シグはそこまで物多くは語らないタイプだと思っていた。フォン坊とはまた違った意味で冷静な奴な印象があった。だからだろう…ここまで意見を述べてくるシグの姿は珍しいものだった。

 

しかし、こっちはこっちで引けないわけで…

 

「あくまで情報の真偽を確かめるのが理由ダヨ。危険だと判断したらすぐに撤退するつもりだし、念を押してお前についてきてもらおうとこうして呼んだんダ。それに…もしかしたら、このメッセージの送り主がいる可能性だってあるだろう?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「あと…もし情報が本当だっていうのなら、少し気になるしナ…噂の狩人の正体」

 

「……『死神の使徒』ってやつか?」

 

「死神…?まぁ、レッドプレイヤーからしたらそうかもな」

 

オイラとしてはガゼならガゼで構わないのだ、そういうイタズラも少なくないしな。逆に送り主が待ち受けているのなら、逆にとっちめてやるいい機会でもある…そして、情報が正しいのなら正しいで利があるわけで…

 

死神…シグが評した表現に首を傾げつつ、どこか的を得ているような気もして少し納得した。そう口にした張本人は何かを悩んでいるようだったが…

 

「…アルゴはそいつの正体が気になるのか?」

 

「別にそこまで、ってところかナ…レッドプレイヤーたちと違って、今のところは攻略やプレイヤーたちに害がある存在でもないし…ただこのまま活躍が目立つようなら、色々と弊害が出てくるだろうなとは思ってるヨ」

 

「………そうか。まぁ、そういう物好きは気が済むままにやらせたほうがいいのかもな。余計に干渉することは逆に危険だろうしな」

 

「…?まぁ、それはそうだけど…(なんだ、今の感じは…?)」

 

何と表現すればいいのだろう…言葉にできない違和感を覚えつつ、シグの言葉を受け止める。達観しているようで…呆れているといえば一番分かりやすいのだろうか。

 

「正義の味方…誰かがやらないといけないことをやっているつもりなのかもしれないな、その狩人って奴は」

 

そんなシグの言葉がやけに印象に残っていた。そして、オイラはその言葉の真の意味をまだ知らなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

オイラたちの会話をこっそりと聞いていたマスターの顔が少しばかり曇っていることにも気づかずに…

 

 

 

『危険を感じたらすぐに転移結晶を使って離脱すること、俺の指示には絶対に従うこと』

 

その二点を条件として、シグはオイラの同行を渋々認めてくれた…本当に渋々だ。この条件を引き出すまでにも泥沼の言い合いを繰り広げたくらいだからな。

 

『まぁまぁ、シグ君もアルゴさんもその辺で。シグ君、例え置いて行ったとしても、君が捕らえることができない彼女のことだから、必ずこっそりついていくと思うよ?』

 

見かねたマスターが仲裁役となり、そんな言葉と共に条件を引き出してくれたわけだ…あの人、本当に何者なんだ?というか、オイラのことも知ってるのか…って、それはシグが話したのか。

 

流石にマスターにまでそう言われては反論のしようがなかったらしく、珍しく顔を顰めたシグは渋々…本当に渋々といった感じでオイラの同行を認めてれくれたわけだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

(あんなことを言いつつ、仕事はちゃんとしてくれるんだよな…そういう公私をきっちりと分けられるところは流石というべきか)

 

警戒しながら先導してくれるシグの背中を追いかける形で、ダンジョンを探索していた中、オイラはそんな感想を抱いていた。

 

ここに来る前はあんなに反対していたのに、到着してからは滅茶苦茶反対していた態度が嘘のようにいつものボディガードの仕事ぶりを見せつけてきていた。

 

「…もうすぐ最深部だ。ここから先は一番死角の多いエリアになる。俺が合図をしたら…」

 

「すぐに転移結晶を使って離脱しろ、ダロ?…もう10回は聞いたゾ、しつこいナ」

 

ダンジョンに入る前に9回は聞いた…これで10回目になるお小言に、流石のオイラも嫌気を覚えてしまう。

 

こういうクソ真面目なところはちょっとどうかと思う。さっき評したことは少しだけ撤回しよう、うん。

 

「それにしても、人の気配すらないナ…どうやら情報はガゼの上、送り主もいないオチにおわりそうダナ」

 

「ボディガードとしてはその方がありがたいがな。狩人って奴の実力も分からないのに、危険な勝負はしたくないしな」

 

「…情報屋としてはあんまり嬉しくないことなんだがナ…まぁ、暇つぶしにはなったカ」

 

「暇つぶし…?お前、予定がなかったから代わりにこんなことをしてたのか?」

 

「仕事が早く終わったんダヨ。でも、お茶とかに誘えそうな知り合いは全員忙しいだろうし…お前はそういうのに付き合ってくれないだろう?」

 

「よく分かってるじゃないか」

 

一応ダンジョンの隅々まで探索したのだが、これまで何の痕跡も…いや、モンスターとのエンカウントはあったか…人影などは見当たらず、残すは最深部のみとなり、これは当てが外れたかと思っていた。

 

もともと怪しいと疑っていたのでそこまで落胆はしていない。むしろいい暇つぶしになったと口にしたところで、それを聞いたシグはどこか呆れた声色で反応してきた。

 

本当は別のことを予定しようかと考えていたのだが、その前に今回の一件が舞い込んできたのだ。そのことを口にして、確かめるのもあって問い掛けると、シグは遠回しに肯定してきた。

 

…そう、オイラとこいつの関係はあくまでビジネス、依頼人とボディガードの関係だ。だから、そういう答えが返ってくるだろうと予想通りの…

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「…シグ?」

 

そんなことを考えていたせいか、それとも、何もないことに油断していたからか、オイラは急に立ち止まったシグの背中にぶつかりそうになった!

 

言葉も身振りでも合図せずに立ち止まったという、こいつらしくない挙動にどうしたのかと顔を覗き見ると…何かに集中するように、シグは目を閉じていて…

 

「…アルゴ、すぐに結晶を使え」

 

「えっ…いきな「いいからはや…ちぃ!?」」

 

静かに…だが、オイラにはハッキリと聞こえるように告げられたその指示の意図を尋ねるのを遮ったシグの言葉は最後まで続かなかった。

 

…ガキィン!

 

「っ…!?」

 

何かが飛び出し、それを迎え撃つようにシグが抜刀した次の瞬間、金属音と共に薄暗いダンジョンを照らす火花が散った。

 

そして、息を呑んだオイラはようやくシグの意図を察した…いや、その言葉に疑問を抱いたことを後悔した。

 

(…オレンジプレイヤー!?なんでここに…!)

 

シグの振り払った刀に押される形で後退したプレイヤーのカーソルはオレンジ…普通のプレイヤーではない襲撃を受けたことを認識するも、その背後から更に数人が…

 

「っ…アルゴ!?」

 

「えっ…うわあああぁ?!」

 

名を呼ばれるのと同時に空いていた左手で無理矢理胴体を担がれた直後、オイラがいた場所に棍棒が振り下ろされていた!3歩ほど後退り、オイラを解放してくれたシグ…乱暴な助け方に文句を言ってやりたいが、今はそれどころじゃない…!

 

前に7人、後ろに3人…全てカーソルがオレンジのプレイヤーがオイラたちを挟み撃ちしていたのだ。

 

「…聞いてた情報通りだな。まさか本当に来るとはなぁ」

「ガキと女…女の方は捕まえろって指示覚えてるよな?ガキは…殺しちまうか」

「ヒッヒッヒッ…最近はボスの指示でおとなしくしてたからな…いい悲鳴を聞かせてくれよ」

 

「アルゴ、俺が囮になる…お前は離脱しろ」

 

「なぁ…何を言ってる!?だったら、お前も…」

 

「…この数相手に、結晶アイテムをストレージから取り出してる暇があるかよ…!早くしろ!?」

 

「だ、だけど……!」

 

いつもの口調が崩れるほどに…冷静ではないシグの言動にオイラは素直に従えるわけがなかった。

 

数は10人…しかも、それぞれが手慣れている。さっきまで気配を消していたのも加え、単なるPK連中ではない。この数相手に、いくらシグでも一人では…

 

「っ…!くそっ…恨み言はなしだからな!?コリドー、オープン!」

 

「なぁ、シ……うっ、わあああああああああぁぁぁ!?」

 

戸惑うオイラを見かねたのか、痺れを切らしたシグは素早い動きでポーチから何かを取り出し…そのうちの一つを地面に叩きつけると煙幕が発生した!

 

そして、その直後に同時に取り出したアイテム…回廊結晶を起動させ、繋がったそこにオイラを放り込んだ!

 

掴もうとした手は空を切り、オイラはあの転移特有の浮遊感を味わうことになった。だが、それは一瞬のこと…次の習慣には、重力に引っ張られた身体は地面を横がっていた。

 

「いつつ……ここは、始まりの街か…?…っ!そうだ、シグ…!?」

 

痛む頭を手で抑えながらも、周囲を見渡すと回廊結晶が繋がっていた先が、第一層の始まりの街だと気づいた。その直後、オイラは自分が何をすべきか、即座に頭を働かせた。

 

ここで休んでいる暇はない…!すぐにでも、シグの救援に行かなければならない!?オイラが出てきた回廊は既に閉じてしまっている!

 

「頼む…誰でもいい、すぐに答えてくれ…!?」

 

直接36層のあのダンジョンに向かわなければならないと理解しつつ、メニューを開き高速でメッセージを打ち込み、知り合いに一斉送信する!夕方のこの時間…もしかしたら、探索から戻っていることを祈っていると…

 

『すぐに向かいます!今どこですか?』

 

『助けてくれ』…その文面から只事ではないと悟ってくれたようで、20秒も掛からない間に返事を返してきてくれたのは、『夢幻の戦鬼』ことフォン坊だった。

 

 

 

「…コリドー、クローズド!…っ!?」

 

アルゴを回廊結晶で出現した転移門へと放り込んだ直後、効果時間の一分が過ぎるよりも前に門を閉じたシグは、そのまま煙に紛れて前方のプレイヤーたちの隙間を掻い潜るよう強引に駆け抜けた!

 

「っ…逃げたぞ、追えぇ!?」

 

煙玉の時間はそこそこだが、範囲はそこまで広くない…通路を掛け、その優位性を捨てたシグの挙動に一瞬遅れつつ、オレンジプレイヤーの中の一人が叫び、シグのあとを追った。

 

AGIのステータスも高めにしているシグの走りに追い縋ることは難しかったが、それでも追跡を振り切られるまでではなかった。

 

「…どこに行きやがった…!?」

 

ダンジョン最奥…その先は大きな部屋に三つの小部屋が連なっているだけのフロアだったが、大きな部屋にシグの姿はなかった。

 

そうなると、三つの小部屋のどこかに姿を隠したのだと推測したオレンジプレイヤーは動き出そうと…

 

「…一度だけ警告する…投降しろ」

 

静かに、だが、はっきりと耳に届いた声が聞こえた方向を向いた面々が目にしたのは…

 

「…お前………誰だ?」

 

鼻までを隠した顔をモチーフとした銀色の仮面、フード付きの黒いローブは無風であることもあり地面に引っ張られるように…その風貌はまるで亡霊やレイスといった印象を与えるものだった。

そして、その腰に携えた鞘から抜いた刀は…系統としてはかなり珍しい灰色の光沢を放っていた。それは、オレンジプレイヤーが先ほど目にしたシグの刀とは全く異なる種類であり…いや、それ以前に纏っている雰囲気やその容姿すらも全く違う印象を感じていて…

 

「…死神の使徒、なのか…?なんで、お前が…?!あの情報はあいつが作ったガセだった筈じゃ…!」

 

その風貌…いや、どちらかといえば仮面で気づいたというべきか…オレンジプレイヤーの一人が対峙する相手の正体に気づき、そして叫ぶ。

 

ありえないといったばかりの反応に対し、狩人は全く介することなく刀を構える。

 

「…怖気つくな?!相手は一人だぁ?!囲んで、確実にやるぞ!」

 

「降参する気はないんだな…だったら……死んでも恨むなよ」

 

恐怖を振り切るように誰かが発した号令に、オレンジプレイヤーたちも戦闘態勢に入る。それを見た狩人は冷静にそう告げ、次の瞬間…

 

「…なぁ、きえ……!?」

 

消えたと錯覚したのと、一番先頭にいたプレイヤーが吹き飛ばされたのはほぼ同時だった。

プレイヤーは壁に勢いよく激突し、その胸には斬られたことを証明する赤いダメージエフェクトが発生していた。

 

「死なないことを祈ってろ…手加減はできないからな」

 

ソードスキルでもないのに関わらず、神速の一撃を放った狩人の仕業だと気づいたのは、吹き飛ばされたプレイヤーがいた場所に彼がいたからだった。

 

そして、そのまま狩人の狩りが始まった。

 

 

 

「アルゴさん、あとどれくらいですか?!」

 

「もうちょっと先…ダンジョン最奥の少し手前ダ!悪いな、フォン坊。いきなり呼びつけたりして…!?」

 

「気にしないでください…ともかく今は急ぎましょう!」

 

メッセージの返信があってすぐに問題の36層に来てほしいと告げて、すぐさま中央にある転移門へと飛び込むと、送り主であるフォン坊が転移してきたのに出くわした。

 

どうやらフォン坊は探索を終えて、武器のメンテナンスをするべく最近買った鍛冶場に戻った直後だったらしい。そこから、オイラのSOSに気づき、すぐさま転移結晶を使ってきてくれたのだった。

 

全速力で先導するオイラのスピードについてこれるよう、軽装装備(『骸骨頭の海装束』だったか…海賊っぽいようで、どこか盗賊っぽい感じもする装備だ)のフォン坊には走りながら事情を説明済みだ。

 

緊急事態ということで、シグとの関係など気になることはあとで聞くとのことで、まずはシグの救援が最優先事項だとオイラたちはもう間もなく問題の地点に……あそこだ!

 

「っ…いない…!」

 

「アルゴさん。確かこのダンジョン、最奥に小部屋がいくつかありましたよね?もしかしたら…」

 

「…!そうだナ、行ってみよう!」

 

オイラとシグがオレンジプレイヤーたちに襲われた通路…しかし、そこには誰の姿もなかった。

 

だが、フォン坊の言う通り、このダンジョンの最奥には大部屋と三つの小部屋がまだあった。そこで、今もシグが戦っている可能性もあると思い、オイラたちは止めていた足を再び動かす。

 

そして、二分も経たない内に最奥へと辿り着いたオイラたちが目にしたのは…

 

「これで最後っと……うん?」

 

誰かがプレイヤーを空間へと放り込んでいる場面だった。

 

プレイヤーが放り込まれたのは、回廊結晶により発生した転移門だ…さっき目にするどころか、この身で味わうことになったのだから、まず間違いない。

 

そして、そいつがオイラたちの接近に気づいた時…

 

「っ…!?」「…ぅ…!?」

 

濃厚な殺気が放たれ、フォン坊とオイラは思わず息を呑んでしまった。反応できたフォン坊が片手剣を抜くほどに…そいつが放った殺気はあまりにも重たすぎたのだ。

 

だが、オイラたちの姿を視認したせいか、奴は纏っていた殺気をすぐさま収めたようで…

 

「すまなかった、咄嗟に敵意を飛ばしてしまった。連中の増援かと思ってしまったんでな」

 

「っ……あなたは一体…何者なんですか?」

 

「そうダ…シグ……刀を持ったプレイヤーを知らないカ?!」

 

敵ではないと分かり謝罪をする向こうと違い、オイラたちは…特にフォン坊は未だに警戒を解けずにいた。そんな中、オイラはシグの姿が見えないことが気になり、尋ねてみると…

 

「……あー、彼のことか。彼なら、俺が逃がしたよ。HPがイエローになるまで奮闘していたところに駆けつけてね…今は圏内にいるんじゃないか?」

 

「…証拠はどこにある…?」

 

「証拠か…それを提示するのは難しいが、俺が彼に手をかけていないことの証明は容易い。フレンドリストを確認してみればいいじゃないか?」

 

思い出したように告げられるも、こいつの言うことを真に受けていいのかと思っていると、確認する術を提案され、慌ててメニューを開きフレンドリストを確認すると…そこには確かにシグの名前があった。

 

ということは…こいつの言う通り、シグは無事に離脱できたということなのだろう。

 

「少しは信頼したか?」

 

「…ああ。だが、ここには複数のオレンジプレイヤーたちもいた筈ダ。そいつらは…」

 

「10人全員纏めて牢獄に送ってやったよ。この回廊結晶は牢獄へと直結している…あとはNPCが勝手に投獄してくれるさ」

 

一応、念のために麻痺毒も付与しておいたしね…そう足して告げられた事実に、オイラは目を丸くした。そして、こいつの実力のヤバさを感じ取っていた…こいつは…

 

「…仮面の狩人…最近、巷で有名なハンターはお前のことダナ?」

 

「そう呼ばれているらしいな…俺としてはどうでもいいことなんだが…」

 

直感で…いや、見た目からしてそうだと思ったことを口にすると、奴は…狩人は否定することなく素直に認めた。どうやら、本人的にはどう呼ばれようとあまり気にしていない様子だった。

 

「アルゴさん、仮面の使徒って…?」

 

「悪い、フォン坊…詳しい説明は後でする。お前は何者ダ、何の目的でオレンジプレイヤーを狩るようなことをしてるんダ…!?」

 

「目的…」

 

「そうダ!あんな危険な……アインクラッドにいるプレイヤーの意識へと影響を与えかねない偽善行為をしているのは、何故ダ…!」

 

隠すこともなく正体を肯定され、思わず思っていた疑問を口にしてしまっていた。フォン坊はまだ深くは知らないでいたようで、詳細を聞きたがっていたが…オイラの言葉に今は聞きに徹することにしたようだ。

 

そして、オイラの質問に狩人は…

 

「…それをお前に話す必要性がどこにある?」

 

冷たく、そして、突如として突き放すように拒絶の答えを返してきたのだった。

 

その声色に思わずゾッとした…今まで聞いたことのないほどに暗く、感情が抜け落ちたかのような声に、オイラは息を呑んでしまった程だ。

 

「俺は俺の考えのままに動いているだけだ…赤の他人のあんたらに関与される筋合いはないはずだ……じゃあな」

 

「…!待て…!」

 

「…転移(ボソッ)」

 

その瞬間に、言いたいことを言って狩人は転移結晶を手にしていた。まだ聞きたいことがあり呼び止めようとするも、オイラが捕まえるよりも奴が結晶を発動させる方が遥かに早く…転移の光と共に奴は消えてしまった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

中途半端に駆け寄ったオイラの足は止まり…静寂だけがその場に佇んでいた。フォン坊も何かを察してか黙っていた。

 

(…なんでだ……なんで…)

 

見た目も雰囲気も…全く違うというのに、オイラはそう心の中で問い掛けていた。

 

『後悔するよりもマシだろう、しなかった時にそうなるよりは…』

 

仮面をしていてその目は見えなかった筈なのに…以前にそんなことを言った時のシグと同じ目をしているような気がして…どうして冷たさの中に、同じ辛さを感じたのかが分からず、オイラは困惑するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…へぇー…まさかの結末だったなぁ」

 

圏外の片隅…昼間にも限らず薄暗い環境のある建物の中、無数の書類が散らばる部屋にいたフードを被った男はそう呟いていた。

 

その感想は、さきほど扇動したプレイヤーたちが捕まったことと、そこに予想外のゲストが現れたことの報告を受けたことに対するものだった。

 

しかし、その表情に悔しさは全く移っておらず、右人差し指の第二関節を断続的に噛みながら笑みを零していた。

 

視線の先…目下、自分たちの脅威とされる『仮面の狩人』に関する、決して多くはないが、ほぼ全ての情報が掲載されたことで、その3分の2は埋まっている黒板の文字を辿っていると、その背中に少しばかり苛立ちのこもった声が掛けられる。

 

「おい、てめぇ…貴重な玩具の駒を減らしといて何を笑ってやがる」

 

「え~…あんなザコ共、いてもいないとの一緒でしょ?それに、もっと面白い玩具を見つけたし……ねぇ、ヘッド。偶には俺のゲームを手伝ってよ?そろそろ目障りなヒーローもどきを片付けたいでしょ?」

 

振り返ることなくいつもの軽い調子で答えてきた内容に、ヘッドと呼ばれたプレイヤー…PoHは眉を顰める。

 

「…正義の味方様の最も嫌がることをしようじゃないか?ちょうどいいじゃないか…あの目障りな鼠と一緒に消せるなら…一石二鳥だろう?」

 

懐から取り出した一枚のポートフォリオを縦に引き裂き、そのまま乱雑に破り続け、破片となったそれらを紙吹雪のようへと散らす男は…アルゴが写っていたそれらが散るのを、歪んだ笑みで見つめていた。

 

 




●オリジナル防具解説
骸骨頭の海装束
軽装型の防具で、フォンによるプレイヤーメイド。
本編に先駆け登場…マザロリ編で初登場した防具『骨織りの海装束』のリメイク元となった一段階前の防具(ややこしいのですが、『骸骨頭の海装束』(本話)→『???』→『骨織りの海装束』(マザロリ編)といった流れの系統進化)
 紺色と水色と白の色がところどころに彩られた軽装装備で、急所と手足にのみ装甲を絞ったことで軽量化と機動性を高めつつ、ある程度のSTR値を要求する武器の装備も使えるようになっている。一方で、やはり装甲の薄さから防御力は低い(紙装甲ではないが、直撃はできる限り避けたいレベル)。
 モチーフはリメイク後と同じ「クロスボーン・ガンダム」だが、マントがついてないのと、色合い的に「X1パッチワーク」を意識したもの。

前回、行方不明になってた本作主人公も少しだけ顔出しとなりました(笑)(まぁ、(今本編やっているお話が原因で)この後もう一回行方不明になるんですが…)

さてさて…本当、狩人の正体はダレナンデショウネー、フシギデスネー…まぁ、その正体はまたその内。

最後に出たオリキャラ…まぁ、ご察しの通りかと。そして、とんでもない屑野郎です、断言しておきます。その暗躍ぶりがシグたちに…いえ、SAOプレイヤーへと猛威を振るうのが次々回のお話となりますので、お楽しみに。

さてと、二つ名が出たので、少しだけ整理を…『仮面の狩人』の方が一般プレイヤーなどに知られるようになった表の二つ名で、『死神の使徒』がレッドプレイヤーが一方的に呼び出した裏の呼び名(非公式ともいえるのか?)といった区分です。

次回は過去編です…まだ平和回ですので、ご安心を(?)

それでは、また。

キャラエピソード第2弾 どのキャラのお話が見たいでしょうか?

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