ある意味で外伝のSAO編の中枢を構成するお話の序盤です。
そんな中、外伝に遂に彼女も登場します!
(本編だと珍しい、SAO時代の彼ら三人のやりとりも必見です)
それでは、どうぞ!
「一つ、依頼を受けてくれないカ?」
「…!」
いつもの飄々とした姿を潜め、真面目な態度でそう頼んだせいか、珍しくシグが少し驚いた様子を見せていた。
いつもはそれなりに賑わいを見せている『羽休めの宿』…だが、今日はオイラが無理を言って貸し切りにしてもらったせいで、オイラとシグ以外には誰もいない。頼みを聞いてくれたマスターにも席を外してもらった中、そんな依頼をされたシグだが、訝しむ表情から驚きを経由して真面目な顔に変わっていた。
「…一体何があったんだ?」
「まずはこいつを見てくれ」
話すよりも見てもらった方が早いと思っていたのもあり、事情を尋ねてきたシグに、一部メニューを可視化して、メッセージに添付された画像を見せる。
「……アルゴ、これは…」
「…真偽は現在確かめ中ダ。でも、血盟騎士団を始めとしたギルド勢や攻略組メンバーは対策に動き出しているところダナ」
「…『笑う棺桶』からの宣戦布告、か」
画像の詳細…写されたメモの内容を一読し、そして、その末文に押されたスタンプらしきマークを見たシグの表情が歪む。
それは先日、オイラたちが遭遇した連中が所属する…アインクラッド最悪のPK集団『笑う棺桶』が血盟騎士団へと送りつけてきたものだった。
あの遭遇戦から二週間…あの『仮面の狩人』の介入もあって、ダンジョンから戻って、無事だったシグとも再会できたが、なんと今度は大胆にも宣戦布告を仕掛けてきたのだ。
「…もう一度言うゾ。シグ、お前には『笑う棺桶』撃退メンバーとして参加してほしい…それが、依頼の内容ダ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
オイラの頼みを聞き、シグはすぐには答えを返さなかった。代わりに、まだ表示している画像へと目をやり、そして、大きく息を吐くと…
「…この依頼、引き受けた」
そう短く答え、了承してくれたのだった。
…事の発端は本日の未明だった。
50層にある血盟騎士団本部の門へといきなり槍が投げつけられたのだという。もちろん街中での攻撃には例外を除きダメージも発生せず、門自体も大したダメージは受けなかったとのことだが、その槍に括りつけられていたメモが問題だった。
『近日、正義という名の偽善に囚われた獣を檻から解き放つべく、我らは動く。さぁ、ショーの幕開けを愉しみにして震え続けるがいい』
血のように真っ赤なインクの文字で書かれた犯行声明…どこか揶揄を含んだ内容ではあったが、末文にあの二つの棺桶を重ね、前方には笑みを浮かべた顔の文字が刻まれた『笑う棺桶』独自のエンブレムがスタンプされていたことから、血盟騎士団はこの声明を本物だと判断した。
そして、一時的に攻略をストップし、聖竜連合などの攻略に関わるギルドやプレイヤーたちにその犯行声明を共有、万が一の事態に備えて対策に走ることになった。
『笑う棺桶』の総力で不明である以上、攻略組だけでは手に余る事態になるかもしれない…そういうことで、できるだけ戦力を集めたいと各方面が手を回し…そして、知人ということで、血盟騎士団副長であるアーちゃんに相談されたオイラは、シグへと声を掛けたわけだ。
…まぁ、経緯としてはそういう感じダナ。
「…かなりのプレイヤーが集まってるな」
「そりゃ、攻略組のプレイヤーのほとんどは来てるし、それ以外の有力プレイヤーやギルドも参戦しているらしいからな。もっとも、最近分断したばかりのアインクラッド解放軍はやっぱり来てないみたいだけどナ…それに対し、解放団はしっかりと来てるんだから、意識の差は明白だよナ」
それから日数はすぐに経ち…シグに相談した三日後、今回の事件に関して詳細な報告と取り決めを決定するための全体会議…『笑う棺桶襲撃予告対策会議』が開かれる血盟騎士団本部のホールへとオイラたちは来ていた。
少し遅めに来たせいもあってか、ホールは今回の一件を知り、それに関して雑談を交わすプレイヤーの喧噪で溢れかえっており、少し疲れを覚えたオイラは会場の隅っこに退避していた。
それに同伴する形でついてきたシグが、集まったプレイヤーたちを見て、そんな感想を漏らすのに対し、ある程度集めるメンバーをアーちゃんから実際に聞いていたのもあり、軽く詳細を答える。
「あっちで色々なプレイヤーに声を掛けているのが「アインクラッド解放団の行動部隊隊長で、No.3のディアベルだろう?」…なんだ、知ってたのカ?」
気さくな様子で周囲のプレイヤーと話している水色の髪をした男性…ディアベルのことを代わりに言われたことに少し驚くも、まるで興味がないと言わんばかりにシグは周囲へと視線を向けていた。
「以前な…依頼先で会ったことがあるんだ」
「ふ~ん…というか、なんだヨ、その恰好」
「……こういう人混みがあんまり好きじゃないんだ。それに、顔を覚えられたくないしな…」
そんなことを言いつつ、周りのプレイヤーを見るシグの目は…何かを探しているように見えた。そんないつものシグらしくないのは行動だけでなく、姿にも表れていた。
紺色のフード付きのローブを身に纏い、できるだけ視線を…いや、表情を隠すように深くフードを被っているのだ。
「おいおいおい…お前、意外に人見知りなところがあったのカ?」
「うるさい…ほら、お前さんの方にお客さんだぞ」
「えっ…?」
これは揶揄うチャンスなのでは…と思っている矢先に、シグが誰かを見つけたらしくそう告げてきたので、そっちへと視線を向けると、
「アルゴさん…参加されてたんですね?」
「ちょっと意外だな、お前がこういうのに参加しているなんて」
「…フォン坊にキー坊。そうか、お前らも参加してたのカ…」
蒼色の鱗軽鎧を身に着けているのと、黒コートを始めとした真っ黒染まり装備を身に纏った少年たち…それぞれ特徴的な、そして、彼らのデフォルト装備であるそれらはある意味代名詞とも言えるだろう。
『夢幻の戦鬼』ことフォン坊と『黒の剣士』ことキー坊…二人が声を掛けてきたのだ。攻略組のトッププレイヤーと言われれば、まず彼らが挙げられることだろう。
キー坊とはβテスター時代からの悪縁だ。色々と危ないところはあるが、それと同時にこいつの実力を信頼して、色々と頼むことも多い。一時期は無茶なレベリングやらしていたが…今は昔のキー坊に少しずつ戻りつつあるようだ。
一方で、フォン坊はニュービーということでキー坊を通して知り合った少年で…一言で言うなら真面目でいい人すぎるといったタイプの奴だ。アーちゃんとはまた違う意味で真面目過ぎるというか…違うな、どっちかというかこだわり派といった感じだ。
…まぁ、ユニークスキルを始め、様々なスキルの開拓をしていたりして、そういう方面の情報をやり取りしてもらっているからな。まぁ、時折熱が入ってた時がちょっと面倒くさいところがあるが。
「そうダ…おい、シグ。こいつがこの前、お前を……あれ?」
「さっきまでいた奴なら、俺たちが来る直前にさっさと向こうに行っちまったぞ(…凄い動きだったな。この人混みの中をあんなにあっさりと抜けていったぞ)」
「…なんかお邪魔しちゃいましたか?…シグ?もしかして…」
そういえばと思い、意外なことに接点がありつつも直接会ったことはなかったであろうフォン坊とキー坊をシグに…まずは先日の一件で、助けに来てくれたフォン坊の方から紹介しようとしたのだが、振り返った先にいた筈のシグは姿を消していた。
二人の方からは素早く去ったシグのことを見えていたらしい…動いた気配すらも感じなかったが、そんなに人混みが嫌だったのだろうか?
オイラが驚いている内に、フォン坊は気付いたようで、それに釣られたキー坊が首を傾げていた。
「フォン、さっきのプレイヤーに会ったことがあるのか?」
「直接会ったことはないけど…この前、アルゴさんに助けを求められて、救援に向かった人の名前だから聞き覚えがあってさ。えっと…アルゴさんの相棒っていう認識でよかったんですかね?」
「あ、アルゴに……相棒?!」
「…うるせぇ、そんなに驚くなよ」
(あー…そういえば、フォン坊にも詳しい説明はできてなかったな。仮面の狩人の説明だけで時間喰っちまったし…)
フォン坊からシグとの関係を軽く聞いたキー坊が見事に驚いてくれていた。隣で大声を出されたことで、フォン坊が眉を顰めるのを見て、先日はまさかの遭遇もあって十二分な説明ができていなかったことを思い出した。
「あいつは…シグとはそんな関係じゃない。あいつとオイラはボディガードと依頼人…ビジネスライクの関係って奴ダ。お前とアーちゃんみたいなラブコメと一緒にするんじゃねぇヨ」
「なぁ…!?だ、誰が…べ、べ、別にアスナとはそんな関係じゃないさ!あんなお堅い鬼副団長なんて「誰が鬼ですって?」…っ!?ア、いたたたたぁ!?!」
ここははっきりと否定しておくべきかと思い、正直にシグとの関係を答えつつ、返す刀でキー坊を茶化してやることにした。残念なことに、フォン坊の方はそういう話の一つや二つも全く出てこないので、そういうネタが通用しないのだ。
そんなことを内心思っていると、面白いぐらいに動揺してくれたキー坊…そして、そこにタイミング悪く彼女がやってきたわけで…
「アスナ…こんなところにいていいのか?」
少し驚いた様子で近づいてきた女性…紅白のドレス調装備から一目で血盟騎士団所属であることが分かる人物の登場に、フォン坊が彼女の名を呼んだ。
血盟騎士団副団長…『閃光のアスナ』ことアーちゃんはキー坊の頬をこれでもかと引っ張りながらフォン坊とオイラへと視線を向ける。
「いいのよ。私は今回、作戦立案じゃなく前線側に立つことにしたし…今回は聖竜連合との共同作戦だからね。そっちの方の人手は足りてるの。アルゴさん、こんにちは。もしかして、助っ人を連れてきてくれたんですか?」
「おっす、アーちゃん。連れてきたは連れてきたんだが…今は別行動しててナ。って、そろそろキー坊を放してやったらどうダ?口が伸びきっちまうゾ?」
「…そうね。そろそろ反省したことだろうし、アルゴさんの言葉に免じて放してあげるわ」
「ひぃ~…フォン、俺の口おかしくなってないか?」
「…自業自得だ。残念なことに元のままだ、安心しろ」
十二分に制裁できたことで満足したらしく、アーちゃんはキー坊の頬を引っ張っていた手を放した。抓られた右頬を摩るキー坊にフォン坊はやれやれといった様子で呆れていた。
(…キー坊とアーちゃんはともかく…フォン坊とアーちゃん、いつの間に仲直りしたんダ?前はデュエルするぐらいに仲悪かったのに……まぁ、この三人が昔のように仲良くなったのはいいことか)
アーちゃんとは時折お茶回をすることもあり、その時にキー坊に関する話(惚気と愚痴が入り混じってるが)を聞くことが多かったので、最近はいい関係になりつつあるのではと思っていたが、フォン坊ともいつの間にか仲を寄り戻していたとは知らなかったので驚いた。
…あの圏内事件の少し前には、フォン坊とアーちゃんが決闘することになり、フォン坊が容赦なく勝ったこともあったくらいだ。まぁ、当時のアーちゃんはまさしく攻略の鬼といっても過言ではない、何かに取り憑かれたかのように攻略にのめり込んでいたからな。
心境の変化でもあったのだろうか…今、思えば、アーちゃんからキー坊の話がよく出るようになった頃から、元のアーちゃんの雰囲気に戻りつつあるような気がした。あれも圏内事件の後からだったような…
「それで…アルゴが連れてきた助っ人っていうのが、さっきフォンが救援に手を貸したっていうシグっていうプレイヤーなのか?」
「まぁな…驚くなヨ、アーちゃん。閃光と呼ばれているアーちゃんと同等…いや、下手をすればそれ以上の速さで刀を振るうボディガードを連れてきたからヨ」
「アスナ以上の…」
「…ボディガード…?」
シグのことをそう表現して説明すると、アーちゃんは首を可愛げしく傾け、キー坊とフォン坊は信じられないといった様子で顔を見合わせて驚いていた。
…本人はいないが、もう少し説明する必要があるかと思い、オイラはシグと出会った経緯からこれまでを簡単に話すことにした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一方、アルゴ達がそんな話をしている最中、シグは本部の外…建物の玄関へと来ていた。人混みに疲れ空気を吸いに…来たのではない。柱を背にして周囲へと目を向ける…血盟騎士団のメンバーだけでなく、多くのプレイヤーが行き来する中、シグの目線は少し険しいものになっていた。
「…どうでしたか?」
振り向くことなく言葉を口にしたのは独り言のように見えたが、少し前から気配を感じていたその人物…柱の別の面に背を預けるその人へと向けられた問い掛けだった。
「怪しい人物は見受けられなかったよ。まぁ、奴らがそうノコノコと姿を見せるとも思えないけどね」
「…でしょうね。でも、奴らならこの状況をどこかで見ているんでしょう。かつて、聖龍連合にスパイを仕込んでいたように…この会議にも何かしら方法で傍聴しているとみていいでしょう」
黒いマントを頭から被った人物と親し気に話すシグ…だが、その声色はいつも冷静なものとは異なる、かなり低い声色で言葉を綴る。
「…シグ君……本当に、やるのかい…?」
「当たり前です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どこか躊躇いがちに…そして、確認を…いや、どちらかといえば、制止するかのような声色を言葉通りに口にした人物だったが、即答かつ最も低い声色にて放ったシグの言葉に、息を呑んでしまった。
「…確かにこれはチャンスかもしれない…だが、君自身が手を「あなたがそれを言う権利があるんですか?」……」
再度止めようと言葉を放つも、遮ったシグの反論に今度こそ黙るしかなかった。顔を向けることなく、しかし、目線はその人物を責めるかのような絶対零度の色を映したものをシグは向けていた。
「あなたが俺へ言ったんだ…あなたが…『 』って、俺に言って引き留めたんだ…!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「俺は忘れない…忘れられるわけがない…!あいつは許されないことをした!?なのに、今も延々と同じことを繰り返して生き続けている…!あいつを…あいつだけは…!それが今、俺が死なないでいる理由です……ここまでこうしてきた理由です!?そのためなら、命だって、何だって賭けてやりますよ…それで俺がどこまで堕ちようとも…それを成し遂げられるのなら、全てがどうだっていいんですよ…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
底の知れない暗い言葉…普段の彼からは到底想像できないその闇に、その人物はただただ圧倒されるしかなかった。話は終わりだと言わんばかりに、シグはその場を後にした…その去っていく背中を、放していた人物はただただ見送ることしかできなかった。
「…シグ君」
その人物…眼鏡の奥に見えるマスターの目はとても悲しく…そして、後悔の色が両在し映っていた。
「どこ行ってたんだヨ」
アーちゃんたちと一旦分かれ、もう間もなく作戦会議が始まろうとする中、ようやくどこかに行っていたシグが会場へと戻ってきた。これは文句を言ってやらねば悪態を吐くも、いつもの如くシグは堪えた様子はなく冷静だった。
「…人混みに酔ったから休憩を兼ねて外に行っていたんだよ。レッドプレイヤーの仲間が偵察しに来ていることを警戒して、それを確認しにもな」
「あっ、そう…こっちはお前さんのことを代わりに説明してたんだから、ちょっとは礼ぐらい言ってくれてもいいじゃないカ?」
「頼んでもないし、勝手にしたことに礼を言えとは随分な物言いだな。そこまで、人のプライベートを暴露するとは、情報屋としてどうなんだ?」
「むぅ…なんだヨ、その言い方!別にお前のプライベートを話したわけじゃないし、あくまでボディガードの仕事ぶりとかを話しただけダ!?そこまでお前に言われるのはお門違いだろう!?」
「…!………悪い、言い過ぎた」
「…何かあったのカ?少し変ダゾ、お前」
「…ちょっとな。大したことじゃない」
冷静な姿がどこにいったのか、いなかった間のことに嫌味を吐くと、過敏といってもいいほどに…少し怖いレベルで怒りをぶつけられた。ムッとして思わずオイラが反論すると、流石に言い過ぎたと感じたらしく、目線を逸らしながらもシグは謝罪してきた。
珍しいシグの態度に首を傾げるも、それ以上追及するかどうか迷っていると、
「これより、作戦会議を始める!」
決断するよりも前に、血盟騎士団の団員…アーちゃんの代わりに、今回の総指揮を務める男性プレイヤーが会議の始まりを告げたことで、その機会を失ってしまった。
そして、そのまま会議が始まった。
「『各プレイヤーで防衛線を張る』…シンプルイズベストとはよく言ったものだな」
「ストレートな感想ダナ…いや、同じことを思ったけど」
作戦会議の帰り道…二人で横並びで歩いていると、シグの口から出てきたのは身も蓋もない感想だった…悲しいことに、オイラも同じ感想だったのだが。
「まぁ、無理もないけどな…」
一方で、指揮官の意向に理解を示す言葉もシグの口から出てきた。その理由は、『笑う棺桶』が出してきた予告文が理由だった。
「あの予告文からして、『正義という名の偽善に囚われた獣を檻から解き放つ』が指す檻の意味が、第1層にある『黒鉄宮』のことを指していると解釈してるからだろうけど…」
「それで、『囚われた獣』っていうのが、黒鉄宮で投獄されているオレンジプレイヤーのたちのこと…というのも間違ってはいないだろうしナ」
「…その文面をそのまま受け取るのならな」
「…?どういうことダ…?」
意味深な一言に足を止めたシグに、遅れて足を止めたオイラは振り返り視線を向ける。何かに思考を巡らせる顔のまま、シグは言葉を紡ぐ。
「まず第一に、今回の一件は奴らにとって圧倒的な不利なことだ。そもそも、黒鉄宮自体が第1層の『始まりの街』内…いわゆる圏内にあるエリアだ。つまり、黒鉄宮どころか、始まりの街に入ろうとする時点で、NPCの衛兵によって阻止される。
もちろん、それに備えてグリーンカーソルの協力者も一定数はいるんだろうが、そもそも数が少ないだろうし、戦力としても攻略組と比較すれば象と蟻のレベルの差がある。
成功するメリットは確かに計り知れないが…それを成功させる作戦の確率がほとんど0%だ。だから……」
これまでずっと考えていたのか…スラスラと疑問点を口にするその姿は、どこか普段のシグとはかけ離れているような感じがした。
変とは言えないけど、何か…そうズレを覚えるその姿に疑問を抱くも、今はそれよりも、作戦に係わる意見が気になり、その先を促す。
「…だから…?」
「……俺たちの定規で奴らの考えを察しようとするのは危険だってことだ。思い込みのままで行動すれば、奴らの意のままに操られることになる。奴らに人間らしい考えを求めるなんて……愚の骨頂だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その最後の言葉が…どこか重く聞こえた。
途中まではまだ普段のシグっぽかったと思っていた。だが、最後の言葉だけが何故か一番印象深く響いた。だけど、その理由が分からなかった…どこかで聞いた覚えがあるような気もするからだろうか。
「…アルゴ?」
「っ…!悪い、ちょっとぼーっとしてた…」
「ともかく…俺の見解としてはそんなところだ。こればっかりは奴らが仕掛けてくる時に備えるしかないだろう…それこそ、蓋を開けてみないと分からないな」
「そ、そうダナ…」
黙っていたオイラを気遣ってか…いつもの雰囲気に戻ったシグに慌てて反応するも、そのまま話を続けられたので、相槌を打つしなかった。
「攻略組が交代で張り付くとのことだが…それ以外のプレイヤーは自由参加だとは。身内しか信じてないのか、情報漏洩を防ぐためというか、実力不足のプレイヤーを足手まといと解釈しているのか…全部かな」
「前々から思っていたが、お前、結構口悪いよナ」
これぞ正に身も蓋もない物言いだと言わんばかりのシグの推測に、以前より思っていた心の声が言葉として出た。そこにいたのは普段のシグだった…さっきまでの姿は幻だったのかと錯覚しそうなほどに、影も形もなくなっていた。
「俺は明日から黒鉄宮に張り付く。お前はどうするんだ?」
「オイラは裏方だからナ…引き続き奴らの動向を探ってみるサ。あっ、オネーサンと離れ離れになるからって、寂しがるナヨ?」
「アー、ソウダナ、サミシクルナー」
「…一発殴っていいカ?」
分かりやすい棒読みに思わず右手を握りしめてしまう。まぁ、殴りかかったところで、こいつの身体スペックだと、あっさり躱されてしまうのだろうけど…
「そういうわけだ…ひとまず、ボディガードの仕事は今回の一件が落ち着くまではお休みだ……何も起こらなかったらな(ボソッ)」
「…えっ、今何て…?」
「なんでもねーよ…それじゃあな、気を付けて帰れよ」
「ちょ…転移門まで送ってくれないのかヨ…!?」
「年上ぶりたいのなら、そのぐらい一人で帰れよ…そこまで面倒見切れねーよ。明日からの準備とかあるんだ」
「へいへい…お前の薄情さにはもう慣れっこダヨ」
イラっとし、踵を返してシグから離れる形で別れる。あいつのドライさにムカムカするのを歩む足に表していると、
「アルゴ」
「むぅ…なんだ「気を付けろよ、奴らの目がどこにあるか分からないんだからな」……あ、ああ…分かってるヨ」
呼び止められ、そんな言葉が飛んできたせいで、棘を込めようとしていた口が違うことを言葉にしてしまった。唐突の心配にいらつきは和らぎ、オイラは思わず零れそうになった笑みを見せまいと背を向け、
「オイラを誰だと思ってるんダ…逃げ足だけは自信があるから大丈夫サ」
左手をひらひらと振って、今度こそシグと別れる。ドライに見えて、そういう心配はちゃんとするのだから、困ったものだ…まぁ、本人には絶対に言えないけどな。
(それにしても…どうやって探るか)
シグと別れてから、転移門へと向かう最中、オイラはシグと交わした会話のことを思い返しながら、行動方針をどうするか迷っていた。
レッドギルドである『笑う棺桶』はその情報を掴むことさえかなり難しい…難易度で表すのなら無理ゲーの一歩手前だ。
これは奴らの組織体制が特殊なせいもある…簡単に言うならば、きちんとした組織系統が確立されてないからだと言われてる。言うなれば、組織のトップであるPoHを始め、それぞれが好き勝手なことをしたり、PKの手口を伝授したりするだけで行動自体は各自に任せるなど、縦としてのつながりが薄いのだ。だから、一人を捉えらり、集団を捕まえたりしても、とかげのしっぽ切りに終わってしまうことがほとんどなのだ。
そこに圏外という広大なフィールドに潜伏されたりなどすれば…リスク等を考慮すれば、無理ゲーの一歩手前と化するわけだ。
(シグや攻略組の負担を減らしたくても、シグの言う通り、その時が来るのに備えるしかないんだよな……そういえばば、シグの言っていたことと言えば…)
『俺たちの定規で奴らの考えを察しようとするのは危険だってことだ。思い込みのままで行動すれば、奴らの意のままに操られることになる』
「…思い込み、か」
シグの推測がもしも当たっているとすれば…現状も『笑う棺桶』の策に嵌っているということになるのだろうか。しかし、そうなると奴らの狙いが何なのかということになるんだけど…
(その目的を探ってみる…万が一に備えて、そっちを調べてみるのもありか)
他に思いつかない以上、それを方針として動いてみるのもありだろう。幸いなことに、情報集はオイラ以外の情報屋も行う予定だ…オイラ一人が抜けても、多少は問題ないだろう。
そんなことを思いつつ、歩いていると、
「…た、助けて…?!」
「…!」
若い男の悲鳴が耳に届き、反射的にそちらへと振り返り、そのまま駆け出す!すぐに脳裏に浮かんだのは『笑う棺桶』のことだった…本当なら、近くにまだいるであろうシグへと連絡すべきだろうが…メッセージを打っている間に手遅れになるのではという焦燥感から、まずは救助が優先だと、悲鳴の発生源へと急ぐ。
小道を掛けていくと、尻もちを着いている男性プレイヤーが見えた。おそらく彼がさっきの悲鳴の主だろう。
「おい、大丈夫カ?!」
周囲へと最大限警戒し、プレイヤーへと駆け寄る。周りには怪しい奴はいないが、何があったのだろうか…そう思い、声を掛けた時だった。
「…大丈夫だよ……全部、計画通りだからね」
「えっ…ぎぁ!?」
酷く落ち着いた声…予想していなかった声色の返しに、オイラが一瞬呆けた、呆けてしまった…それが命取りになった。
プレイヤーは左手に隠し持っていた何かをオイラの目へと塗り付けてきたのだ!?
真っ黒なドロドロした液体…遅れて、目を開けることができないほどにヒリヒリとした激痛が走り、オイラは膝を地に突ける。
「駄目じゃないかぁ…知らない人に気やすく声を掛けちゃいけないって良い子なら知っている筈だろう?そうでないと、悪い大人につかまっちゃう、よぉ!!」
「がぁ!?」
その言葉と共に、オイラの腹部に強烈な衝撃が襲い掛かった。それが奴に蹴り込まれたことだと気づいたのは、建物の壁に背から激突したの同時だった。
「…お、お前は……」
「ゲームを盛り上げる素材に教えてあげる必要はないんだけど…あんたたちがよく知っている『笑う棺桶』だよ、鼠の情報屋さん?」
…ガン!
その言葉を最後に、顎を撃ち抜かれたオイラの意識は闇へと消えた。
「さてと……これで材料と脚本は整った。あとは…主役とエキストラたちの活躍に乞うご期待かな」
口に特徴的なタトゥー…上唇と下唇へと斜めに刻まれた矢のタトゥーと舌に二つ着けられたピアスを隠すよう、男は歪な…邪悪な笑みを浮かべながら、そう呟くのだった。
…翌日。
「…おい、本当に大丈夫なんだろうな」
「安心しろ…血盟騎士団のあの方から警備の時間を調整してもらったんだ。まさか、奴らも作戦指揮を執る血盟騎士団の中に裏切者がいるとはおもってないだろう」
入り口を攻略組プレイヤーの一部が守護する黒鉄宮…その内部で、堂々と歩いていくプレイヤーの二人の姿があった。
一人は何の特徴もな普通のプレイヤーだが、もう一人…心配の声に応える方のプレイヤーは紅白の特徴的な装備…血盟騎士団指定のデザインで彩られた装備をした人物であり、その会話はかなり問題あるものだった。
「これに成功したら…俺たちは騒ぎに乗じて、逃げればいい。誰にもバレやしないさ」
「…さっさとやっちまおうぜ。誰かが来たら面倒だ…まぁ、口封じのために殺しができるという大義名分ができるけどな」
無名のプレイヤーはどこか嬉しそうにそう告げるも、血盟騎士団のプレイヤーは逆に嫌気を表していた。
そんな相反する二人は歩き続け、そして、黒鉄宮の最奥…これまで牢獄送りとなったプレイヤーたちが閉じ込められている扉の奥へと辿り着いた。あとはこの扉…外からしか開くのことのできない扉を開けっ放しにし、捕まっているプレイヤーたちの檻を解放するだけである。
さっさと済ませてしまおうと無名のプレイヤーが門を開こうと…
「こうも早く行動に移してくれるとは…張り込む日数が少なくて助かったよ」
「「!?」」
自分たちのものではない声が響き、二人のプレイヤーが声のした方へと視線を向けると…それまでは暗い監獄の壁しか映ってなかった場所が歪み、何かが揺らめいた。
それが隠蔽効果のあるフードが取れたことによるものだと理解したものの、そこから姿を露わにした人物を視認したことで、二人は驚いた。
「…まさか、お前…仮面の狩人…!?」
顔の上半分…鼻から上を隠した銀色の仮面に、レイスのようなマントローブ…巷で噂になっている狩人がここにいることに、二人は驚くしかなかった。
「…投降しろ。何を考えているのか理解したくもないが…まさか、血盟騎士団に裏切者がいるとはな」
「…はっ!何が狩人だ…おい、二人掛かりでやっちまうぞ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はぁ…実力の差も分からないとか、救いようがない奴らだな」
曲刀と細剣をそれぞれ抜いた二人を見て、狩人は思わずため息を吐いた。
そもそも圏内である黒鉄宮で、ダメージを与えることができない筈だ…それを忘れるほどに焦っている目の前の敵が、下っ端のド底辺であることを理解し、期待を裏切られたことで零れた溜息だった。
…そして、その思惑の通り、決着は一瞬だった。
「…さてと、あとはこいつらを表で警備を張っている攻略組に突き出して終わり……ってことで済めば、話は簡単なんだろうけど…」
お得意の居合術も使うことなく、体術の組み合わせであっという間に無力化し、頚椎へと手刀を見まいし、意識を刈り取ったことで地へと伏せる二人の賊を見下ろしながら狩人は思考していた。
確かに賊が何かを仕出かす前に止めることはできたが…自分の中の直感がこれで終わりではないと告げているような気がした。
それはこの賊どもの策があまりにも陳腐なものだったからか、呆気ない終わりに何かを見落としているような気がしてならないからか…
ひとまずは仮面を外し、表にいるであろう攻略組の連中にこのことを知らせるべきだと思考を中止しようとした時だった。
「…?なんだ……表がやけに騒がしいな」
最奥にまで聞こえてくるほどに…喧噪の声が僅かに聞こえてきた。
何事か…もしかしたら、やはり連中はまだ何かを仕掛けていたのかと、狩人は急ぎ表へと走り出した。暗い回廊を駆け抜け、光が指す入口へと出た時、狩人の視野に飛び込んできたのは…
「…さぁ、攻略組のみなさん!楽しい楽しいハンティングの始まりですよ!」
空へと舞い散る大量の紙…それらと同じものが大量に地へと落ちており、それらを拾い上げていた攻略組は目を通している最中だ。そんな中、近くの建物の屋上にいた黒いフードを被った人物が叫ぶ。
「正しいことが大好きみなさんに、大事な選択をしてもらいます!正義を体言するかのように偽善の狩人を仕留めるか、それとも、みなさんがいつも頼りにしている情報屋の命を見捨てるか…みなさんは、どちらを選びますか?」
グリーンカーソルだが、その言動からして確実に『笑う棺桶』のメンバーだと攻略組の面々が早々に理解したのは当然だった。だが、男の発した言葉の全てを理解できたのは、僅かだった。
「もっと分かりやすく言いましょうか…鼠の情報屋を捉えました。無事に返してほしかったら、巷で有名な……いや、そこにいらっしゃる狩人をあなたたちの手で捉え、そして、処刑してください」
「…!?」「「「「「「…っ!!」」」」」」
指さした方向…見下ろす形で指さされた狩人が僅かに身体を振るわせ、そして、遅れた攻略組の目が狩人へと向けられた。
「脅しの証拠として、ほら……鼠のお嬢さんはこうして我らが身柄を預かっています」
(…っ?!…アルゴ…!)
男のそばに控えていた別のプレイヤーが抱えていた何か…麻袋の口を緩め、中を見せると、そこにはぐったりとした態度で意識を失ったアルゴの姿があった。
それは、男の要求がハッタリではなく本気なのだと…狩人にも攻略組にも知らせるには十分過ぎた。
「期限は明日の日没まで……さぁ、正義という名の偽善に囚われた獣をみなさんでハンティングしてください!…みなさんの大事なものを助けるという大義の名のもとにね……それでは、失礼しますよ、『転移』」
言いたいことは言ったとばかりに、男たちは転移結晶によってアルゴと共に姿を消した。そして、残された攻略組は…未だに混乱の最中にあった。
すぐに捕らえるべきである対象が近くにいる…しかし、『笑う棺桶』の言いなりに、そして、本当に危害があるかどうかも分からないプレイヤーを処刑しなければならない事態に、すぐさま動ける者などいるはずがなかった。
一方、狩る側から狩られる側へと変えられてしまった狩人は…振りまかれた紙…手配書に等しい自分の情報が記載されたそれを見て、
…やられた…
と思ったのは少しだけだった。
見ていた手配書を握りしめ、仮面の奥に顰める目に光る黒い炎が一気に燃え盛り、その口元に笑みを浮かべて、静かに呟いた。
「 ミツケタゾ 」
本話が始動編だとすれば、次回が本題…罠に嵌められた筈の狩人の余裕の意味も明かされます。その答えを知った時、胸糞悪い過去にも触れることになるのですが…
そして、原作ヒロインのアスナも登場です!
まだ付き合ってないので、多少ツンが強めに出てます(本作だと、そういったお話やってなかったので(苦笑))
次回ももしかしたら、ちょっとだけですが出るかもです。
それでは、また。
キャラエピソード第2弾 どのキャラのお話が見たいでしょうか?
-
某トレジャーハンターF
-
リーファ
-
シノン
-
シリカ
-
リズベット
-
ユイ
-
クライン
-
エギル