ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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そんなわけで前回の続きです。

ずっとアルゴのターン、という感じのお話です。
ある意味で、サブタイ通りのお話で、狩人にかかるお話はこれにてようやく終わりとなります。

それでは、どうぞ!


第十三話 「      」

第十三話 「      」

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 

「…こ、こは…」

 

「目が覚めましたか?」

 

「…!」

 

意識が現実に戻り、目に飛び込んできた光景が見慣れないものだった少年は、そんな疑問を口にしていた。

 

すると、横から声が聞こえてきた声ので、その方向に視線を向けると、なんとも言えない表情をした剣士が壁にもたれ掛かっていた。鞘に納まった両手剣を傍らに寄せている人物は、

 

「……夢幻の戦鬼」

 

「その二つ名、あんまり好きじゃないんで呼ばないでください。フォンでいいです」

 

狩人として対面したことはあったが、素顔で接するのは初めてだった。少年の言葉に、フォンは苦笑いしながら、しかし、警戒は解かずにそう応えた。

 

監視と見守り…少年が目を覚ますのを見守りながら、目覚めた時に勝手にどこかに行かないように監視していたのだろう。誰の頼みかなど聞かなくても分かるだろうが…

 

「……………」

 

「ここは安全地帯にある小屋です。といっても、知っていたのはあなたを見張るように依頼した人ですけどね」

 

「…あいつか」

 

「…………‥」

 

「…そうか…それで、なんで君が…」

 

「別に、俺の意思で動いたわけじゃないですよ。俺が動いたのは…いや、これは俺から言うべきじゃないですね」

 

少年の問い掛けに答えられる範囲で応えていくフォンだが、核心だけは答えずに口を閉じる。

 

フォンからすれば、少年に言いたいことはいくつかあったが、フォンはアルゴから少年の全てを聞いているわけではない。あんな凶行をするような人間に見えないこともあり、少年には何かしらの…いや、きっと重い背景があるのだと、フォンは察していた。

 

もちろん、アルゴのあんな必死な姿を見たというのもあるが、何よりも…今の少年の姿が、かつての戦友の姿と重なって見えたのだ。月夜の黒猫団が半壊した時に見たキリトの姿と…

 

ともかく部外者であるフォンがあまり口を出すべきではないと思いつつ、右手でメニューを開き、現在の時刻を確認する。アルゴが少年を説得してから8時間…夜が明け、日が昇ってきた。そして、

 

…バタン!

 

「予定よりも少し早いですね。もう準備はできたんですか?」

 

「…まぁな。といっても、最終確認をしてきただけどナ」

 

扉が勢いよく開かれ、二人の視線が集まる。その姿にやれやれといった笑みを浮かべながら、問い掛けたフォンに扉を開けた主…アルゴはいつもの明るさを見せながら応えた。

 

「…アルゴ…」

 

「おいおい、いつもの威勢のよさはどこに行ったんダ?」

 

「………」

 

(…やっぱり、まだ背負い続けているのか)

 

できるだけ明るく振舞おうとしたが、少年が目線を逸らしながら顔を伏せたことに、アルゴも何とも言えない表情をした。だが、ここで折れていては、これからすることに踏ん切りがつかなくなる。

 

「フォン坊、こいつの監視、ありがとナ」

 

「いえ、それじゃあ、後はお願いします。キリトたちの方は俺の方でなんとかしますので」

 

「悪いナ、そっちのことは任せっきりにしちまって」

 

「…また、何かいい情報があったら格安で提供してくださいね」

 

アルゴが戻ってきたことで、役目を終えたフォンが小屋を出ていこうとする。見張りによる徹夜明けから、今度は関係者たちへの説明…という名の誤魔化しをしに行くのだ。

 

今回の一件は借りレベルではすまないと分かっていたアルゴが謝罪するも、敢えて借りとするつもりのフォンがそんな軽口を叩きながら、小屋から出ていった。

 

「……………」

 

「さてと、ちょっと落ち着いたカ?あんな大暴れをしてたんダ、碌に休めてなかっただろう?」

 

「別に、どうでもよかったさ…それで倒れたって後悔なんてなかったさ」

 

「…そうか」

 

「………それで、俺を止めて、お前は何がしたいんだ?俺は…」

 

「人殺し、って言いたいのカ?けど、あれは…」

 

「俺は仲間を死なせた…いや、仲間が自ら命を絶たせたんだ……本当は、俺が死ぬべきだったのに…」

 

「…それで、アジアさんの手が血に濡れることになっていたとしてもカ?」

 

「……………」

 

軽口混じりだが、話題を振るべくアルゴが言葉を投げかけると、狩人の雰囲気から普段の感じへと少しだけ戻っていた少年がぶっきぼうに応える。だが、その目に光は未だに戻っていなかった

 

そんな中、少年はアルゴに問い掛けた。どうして、自分を止めたのだ。その答えに、反論しようとするが、全てを知ったアルゴの指摘に少年は黙るしかなかった。そんなこと、少年だって分かっていた。だが、それでも、そう思ってしまう程に、少年の心にあのことが、あの時に目にした光景が嫌という程に心を縛り付けていた。

 

「まぁ、オイラがお前を止めた理由はまだ明かせないナ。こんだけお姉さんに迷惑かけたんダ。ちゃんとこの借りは…百倍返しで返してもらうからナ」

 

「…お前が勝手にしたことだろう。俺は……ああしたことに一切の後悔はない」

 

「はいはい、散々聞き飽きたワ。そんなに死にたいっていうのなら…最後にオイラに借りを返してからにしてくれ」

 

「…だから、それはお前が「反論は一切なしダ」……勝手にしてくれ」

 

何を言っても響かない少年の姿に、アルゴは一切容赦なく詰めていく。有無を言わさない、ある意味で暴君に近い態度に、少年はもう諦めるしかなかった。

 

「それじゃあ……まずは一緒に美化活動だな」

 

「……‥は?」

 

言質を取ったとばかりに、にんまりと笑みを浮かべたアルゴはメニューを開き、アイテムをオブジェクト化する。そして、突き付けられた言葉とアイテム…火ばさみと木の籠を目にして、久々に少年は素の声を上げた。

 

 

 

「ほら、ちゃっちゃとやれヨ!早くしないと、昼が過ぎるゾ~…」

 

「……………」

 

来たのは23層の主街区から15分ほど歩いたエリア…教会からほど近い森の中で、二人は背中に籠を背負い、せっせとゴミ拾いをしていた。

 

目標の量まであと半分…黙々とゴミ拾いをしていく少年に、アルゴは更に発破をかけるように声を掛ける。それに反応せずに、少年は静かにゴミを拾い続ける。

 

アルゴが少年とこんなことをしている理由は簡単…イエローとなっている少年のカルマ値の回復だ。相手が殺人ギルド所属とはいえ、グリーンカーソルのプレイヤーをキルしたことには変わりなかった。

 

そのため、救済措置として用意されていたカルマ値回復イベントをこなしている最中であるわけだ。本来は教会にいる牧師等から課されるモンスターの討伐イベントをこなすことが多いのだが、第23層の教会イベントは珍しい奉仕系のカルマ回復イベントだった。

 

といっても、討伐系と比べると効率は悪いのだが…安全性は討伐系と比べると遥かに高いため、腕に自信のないプレイヤーへの救済措置としてのカルマ値回復イベントだった。

 

もちろん少年の実力だけであれば、討伐系イベントの方が遥かに効率は良かったのだが、今の少年の精神状態では討伐系をこなすことは不可能であると、アルゴは判断して、この方法を選択した。

 

…ちなみに、アルゴが一緒にやる必要はないのだが、今の少年は見張っていないと、何もしない程に無気力な状態でもあったので、こうして一緒に作業を行っていた。

 

「…いや~、それにしてもこういう地味な作業も偶に悪くないナ」

 

「……………」

 

「おーい、流石のお姉さんもスルーされると傷つくゾー」

 

「……………」

 

「なになに、アルゴの懐の深さには感心した、嫁にしたいって?いや~、お姉さんはそんなに安い女じゃ「さっさと終わらせたいのなら、口を動かすよりも、手を動かすべきじゃないのか?」…ようやく反応してくれたナ、お姉さんの勝ちダナ」

 

「…っ」

 

口を動かしながらも、手もせっせと動かしているアルゴに、少年も負けじと黙って手を動かしていた。そんな中に投げかけられる軽口に無言を貫き通していたが、とんでもない濡れ切れを背負わされそうになって、思わず反論してしまった。してやったりというアルゴの笑みに、イラつきを覚えつつも、少年は怒りを作業にぶつけるに再開した。

 

そんな他愛もないやりとりをしている内に、カルマ値を回復する分のゴミを拾い終わったので教会へと戻ると、二人を労うかのように牧師が言葉を掛けた。

 

「剣士様方、お勤めご苦労様でした。汝らの魂を神も見守っていたことでしょう。これから、その気持ちと共に一層精進するように」

 

その言葉と共に、少年の身体を光が包む。そして、光が収まると、少年の頭上に浮かんでいたカーソルがイエローからグリーンへと変わった。

 

「これでようやく街に入れるナ」

 

「…次は何をするんだ…?」

 

「おっ、結構乗り気じゃないカ?」

 

「お前が言ったんだろう…借りを返せって。さっさと返して、解放されたいだけだ…」

 

「ちっちっち、こんなじゃまだまだ返し切れないからナ。ほら、次に行くゾ」

 

「……………」

 

カルマ値が元に戻ったことで、ようやくアルゴは自分が考えていたプランを実行することができるようになった。

 

少年はもう諦めの境地で、アルゴにさっさと次の目的を告げるよう催促した。一刻も早く解放されたい…それが、少年の本音だった。彼女から解放されれば、あとはもうこの世界から消えるだけだと…少年はもう決めていた。

 

だからだろう、アルゴの最後の依頼ということもあって、少年は彼女の振り回しに付き合うことにしたのだ。

 

そんな投げやりな態度の少年を引っ張るように、次の目的地へと連れていった。

 

 

 

「ここのパイ、かなり有名なんだゾ?」

 

「…そうか」

 

その足で来たのは、第29層の主街区の一角にあるレストランだった。お昼前ということもあり、まだ混み合う前だったので、すんなりと入店できた二人…アルゴがメニューを見ながら注文する一方で、少年は何も頼まないでいた。

 

情報屋として有名なアルゴの来店に、先に店にいて彼女の正体を知るプレイヤーがヒソヒソと話をしていた。ビッグネームの登場にも驚きだが、フードを被ったプレイヤーを伴っての来店はヒソヒソ話を加速させた。

 

「知る人ぞ知る隠れた名店って奴ダナ。ほら、デザートとかも結構旨いらしいゾ?」

 

「……別にいい。感じられないものを食べるのは、最低限のエネルギーを補充する時くらいでいい」

 

「っ…それは、悪かった」

 

「言ってなかっただけだし、お前に気を遣われる必要もない」

 

まさしくバッサリといった形でアルゴが押された…アジアから、少年が精神的なダメージのせいで抱えているものがあることは聞かされていたが、それでも、本人から改めて言われると、何とも言えなくなってしまった。

 

気まずい空気が流れ、どうするべきかとアルゴが戸惑う一方で、少年は目を瞑り沈黙を貫いていた。そんな空気を変える救世主のように、料理が運ばれてきたのだった。

 

「お待たせしました、当店自慢のアップルパイです!…あれ?」

 

「…?どうかしたか?」

 

「…いえ、お気になさらないでください。是非当店自慢のアップルパイを堪能していってくださいね!」

 

女性の店員がアップルパイをテーブルに置く時、フードを被っていた少年の素顔を見て驚きの声を上げた。それに気付いた少年が問い掛けるも、店員は答えることなく、そのまま厨房の方へと戻っていった。

 

「いや、確かに旨そうダナ!それじゃ…ほれ!」

 

「…いや、ほれ……だから、俺は…「命令ダ」…っ…分かったよ」

 

ナイフで切り分けると同時に、フォークで突き刺したパイを突き付けてきたアルゴに、少年は思わずジト目になる。食べる必要はないと言った筈なのに、突き付けられたパイに、命令だと言われてしまえば逆らえないわけで…少年は諦めてパイを口にした。

 

「……パイだな」

 

「まぁ、パイだからな。それじゃ、オイラもいただきまーす!」

 

触感だけの感想を告げる少年に、目的は果たしたようで、アルゴはそのまま残ったパイを食べ続けるのだった。

 

 

 

「今度はアクセサリーの店か」

 

「ウィンドウショッピングダナ!ほら、行くゾー」

 

パイを食べ終え、会計を終えた次は第11層主街区にある小さな小売店。女性向けの小物店らしく、可愛らしいテディベアがガラス越しにお出迎えしてくれていた。

 

「いらっしゃいませ!って、アルゴさんですね、お待ちしておりました!」

 

「すみません、無理を言って貸し切りにしてもらって」

 

「いえいえ…そうですか、彼が…」

 

若い男性プレイヤー店主が二人を出迎えてくれた。今も何かを作っていた最中だったのか、作業用のエプロンを身に着けたままの店主に、珍しく敬語でお礼を告げるアルゴ。すると、店主は先程のレストランの店員と同じように、少年をマジマジと見ていた。

 

「…?(まただ…なんで俺を見てるんだ?)」

 

「ここの方はテディベアを販売されている方で、女性向けのプレゼントで重宝されてるんダゾ?」

 

「…そうか」

 

店主の視線が気になった少年だが、アルゴの解説に意識を取られてしまう。そのまま心のままに、どうでもいいとばかりな反応を見せるが。

 

「ったく、淡泊な反応ダナ…まぁ、いい。ちょっとはテディベアを見回って癒されろヨ」

 

「…別にどうでもいい。お前は気が済むまで見回って…「命令だ」…分かったよ」

 

またしても有無を言わさないアルゴの笑みに、少年は黙って店内を見まわり始めた。確かにかなりのクオリティのものからオリジナリティに溢れたものまで並んでいる。だが、それだけだと少年は、ただただ見て回る。

 

「…そろそろダナ。店主、邪魔したナ!シグ、次行くゾ!」

 

「……………」

 

時間がきたようで、アルゴは店主に一言告げてから、そのまま少年の手を引き、店を出ていく。もう好きにしてくれといった感じで、少年はアルゴに連れ回されるのだった。

 

 

 

そこからはアルゴに連れていかれるままに、様々な場所を巡った。市場や花屋、武器屋といったプレイヤーが営む店に連れていかれるが、少年は何も感じなかった。いや、正確には、感情を揺り動かされなかったというのが正しかった。だから、アルゴが自身を連れ回すのかが、その真意が分からないでいた。

 

そして、時間は過ぎていき…

 

「いや~…回ったナァ!」

 

「……………」

 

夕方になり、第1層の外周区へと来た二人…ベンチに座ったまま背伸びをするアルゴに対し、少年はただ横にいた。どちらかといえば、疲労感とやっと解放されるという安堵を覚えていた。

 

「…満足したか?もういいだろう…」

 

「そうだな、もういいだろうな」

 

解放してという少年の言葉に、笑みを引っ込めたアルゴも真剣な口調になった。ようやく諦めが、そして、満足したのかと、少年がそう思った時だった。

 

「ここからは答え合わせの時間だ」

 

「…!こたえ、あわせ……?」

 

どこか自信に溢れたアルゴの言葉に、少年は驚き、隣にいる彼女へと視線を向けた。その日、初めてアルゴの顔をまともに見たような気がした少年に、アルゴは立ち上がり、ポーチから何枚かのメモを取り出す。

 

「コホン…さてと、お前もちょっとは気付いているだろうけど、今日回った店には意味があったんだ」

 

「……………」

 

「回った店を営んでいるプレイヤーたちはお前を知っていた。それは薄々気付いていただろう?」

 

「……………」

 

アルゴの言葉に対し、少年は無言で肯定し、その先を促す。

 

「といっても、正確にはお前たちを知ってる、という感じなんだけどな」

 

「俺、たち…?」

 

「まず最初のアップルパイの店…彼女が店を開く前に、こんなことがあったそうだ。まだ採取に慣れていなかった頃、あるチームが何度も圏外に出る際に警護を務めてくれたそうだ」

 

「…っ!?」

 

「テディベアの店主…オレンジプレイヤ―に襲われた際、偶然にその場に居合わせた二人のプレイヤーが助けてくれた。市場にいたプレイヤーは奥さんにプロポーズする際のプレゼントの素材を一緒に探してくれた…花屋を営んでいたプレイヤーは、花の採取先を探し出してくれた…」

 

「……………」

 

アルゴが次々と読み上げていく事実に、少年は無言だった。しかし、それは先程とは異なり、驚きで声が出なかったからだ。告げられた事実の中には、記憶のないものもあれば、言われた思い出したものもあった。

 

「みんながみんな、声を揃えてこう言っていた…あの時、助けてくれた人たちのことを一度たりとも忘れたことはないと。あの人たちが助けてくれたから、あのチームがいてくれたから…あのギルドが存在したから、今の自分たちがあるんだって」

 

「……………」

 

「お前たち、ミスフィッターズのことを…彼らは一度たりとも忘れたことはなかったんだ」

 

「…っ!?」

 

告げられた事実に少年は呆然とするしかなかった。リストの全てを読み上げたアルゴは、少年の目を真っ直ぐ見て、そして、再び言葉を紡ぐ。

 

「確かにミスフィッターズはもうない。お前の仲間たちも……もうこの世界にはいない。けれど、彼らが助けた…彼らがいたという事実は消えてない、ちゃんと残ってるんだ。そして…彼らが…お前らの信念に従って動いたことで、今、この世界を生きられている人たちがいるんだ」

 

「…みんなのことを…あの人たちが」

 

「だからな、シグ…お前はまだ死んじゃいけないんだ」

 

「…っ…!」

 

「生きる意味なんて、これからいくらでも作れる。でも、それは生きていなくちゃ作れない。残されることは、辛いことを背負い続けることだ。でも、それは同時に逝った者を覚えていることだ。

 

…お前が生きる意味を失っているのは分かってる。なら、残された者として、お前があの人たちのことを覚えておくことを、その意味としろよ。お前まで死んだら、あの人たちのことを覚えている人がまた一人減るってことだろう?あの人たちが死んだことが、まだ自分のせいだって思ってんのなら、あの人たちのことを覚えて生きることを自分の罪としろよぉ!!」

 

「……………」

 

いつの間にか、言葉を紡ぐ内にアルゴの目から涙が流れていた。そんなつもりはなかったのだが、感情が高ぶってしまったあまりのことだった。そして、その姿は少年の心に何かを灯そうとしていた。

 

「…だから…!だから、シグ……生きろよ!」

 

「っ…!?」

 

その言葉を耳にした時、アルゴの姿が誰かとダブった。それは、封じていた…いや、見ないフリをしていた少年の記憶を呼び起こした。

 

何十回と悪夢の終わりとしてみた記憶…仲間の最期の姿だ。その時、仲間が笑いながら口にしていたのは、

 

『…シグ君…生きろよ』

 

リョナスの最期の…仲間たちの言葉を代弁した最期の言葉は、自分を気遣っての言葉だった。

 

その言葉は少年の耳に届いていた…だが、少年は記憶から消し去っていた。その言葉は、少年にとって呪いだったからだ。

 

あの日、少年の日常は地獄へと変わった。

 

五感のうち、味覚を失い、視覚として色を認識できなくなった。

 

生きるということに意味を見出せなくなった結果でもあった…生きろという言葉に対し、少年は死という罰を望むようになっていた。

 

アジアの言葉に、復讐を無理矢理に生きる糧とし、そして、その先の結果として、自分を全てのプレイヤーたちの敵となるように凶行に及んだ。それは全て自身の死を…いや、生きながらえてしまった自身の命を捨てるための行動だった。

 

だが、仲間が残した奇跡は決して無駄ではなかったのだと…残されたものにより、確かに芽吹いたものがあったのだ。

 

死ぬことは決して終わりではない…良くも悪くも死してもなお、生きる者たちに影響を与えるのだ。

 

少年に絶望や死を覚悟させる負の一面もあれば、中下層のプレイヤーたちが活躍できる機会を作り、それを芽吹かせる正の面もある。

 

 

「……生きろ、か……ったく、みんなして勝手すぎるだろう」

 

「……………」

 

「本当に………そんなことを言われたら、死ねなくなっちゃじゃないですか…」

 

「シ、シグ…?」

 

「…くそ、本当にみんな勝手なんだから…本当に……本当に…!」

 

悔しそうに笑い始めた少年が空を仰ぐ…言い過ぎたかと思い、慌て始めるアルゴだったが、少年の目元から涙が零れ落ちていた。それを隠すように、腕で目元を隠すものの、次から次へと涙が流れ出していた。

 

いつもの固い口調は消え、仲間たちと一緒だった時の、幼い口調に戻りながら、少年は涙を流し続けた。その姿を…少年が泣き止むまで、アルゴは黙って待ち続けるのだった。

 

 

 

「…ぐすっ……悪い、みっともないところを見せた」

 

「別にいいサ。お姉さんの懐は海よりも深いからナ。それにお前のみっともないところは、ここ最近見まくりだからナ」

 

「…そういえば、そうだったな」

 

一しきり泣き終えたところで、ハンカチで鼻を噛んだ少年は落ち着いていた。再び横に座ったアルゴに謝罪するも、あまり気にした様子ではない彼女の反応と返し言葉に、少年は確かにと思いながら、苦笑いを浮かべる。

 

「それで、まだ死にたいって思ってんのカ?」

 

「…お前、分かってて聞くのは反則だろう」

 

「いいから…真面目に答えろ」

 

「…!少なくとも、この後すぐに死んでやるつもりはないよ」

 

「…!!そうか…なら、それでいい」

 

再び真面目な口調に戻ったアルゴに確認され、少年も真剣に回答を告げた。その内容に満足したのか、アルゴはそのまま少年から目を逸らした。だから、もし告げるとしたら、今だと少年は思った。

 

「…アルゴ、一度しか言わないから、聞き逃すなよ」

 

「…うん?」

 

「………俺を引き戻してくれて、ありがとう」

 

「…えっ…?」

 

逸らした視線を再び少年へと向けた。顔を赤くした少年をそっぽを向いていたが…照れていることは明確だった。

 

「…!ほう、お姉さんの優しさに感動したカ?もっと言ってくれてもいいんダゾ?」

 

「一回しか言わないって言っただろう、調子に乗るな」

 

「照れるナって!まぁ、今回はお姉さん、大分頑張ったからナ!もっと、もーっと感謝しろってもんダ!」

 

「だから、一回しか言わないって……って、もういいわ」

 

いつもの如く煽られるようなアルゴの言葉に、少年はどこか諦めたように呆れていたが、その口元には僅かに笑みが浮かんでいた。このやりとりにどこか安心感を覚えていたからだった。

 

「それじゃあ、オイラの計画もなんとか終わったところで、報酬の話ダナ」

 

「はぁ…報酬…?」

 

こうして一段落…といかないのが現実だ。アルゴから告げられた報酬という単語に、思わず少年は目を見開く。

 

「おいおい…今回、オイラは大分頑張ったんダゾ。フォン坊とも連携して、あの攻略組を出汁にして、更には、どっかの誰かさんに殺されそうにもなって…オイラはかなりボロボロになるまで頑張ったんだから、報酬はちゃんともらわないとナ」

 

「(…ぐっ、確かに…!)…わ、分かった。俺が叶えられる範囲でなら……報酬を出す」

 

泣き崩れたフリをするアルゴに、今回ものの見事にやらかしまくっていたこともあり、自覚のあった少年は何一つ反論できる要素がなかった。そのため、アルゴに言われるがままに従うしかないと思いつつ、なんとか自分のできる範囲でいう制限を設けて、彼女の要求を聞こうとした。

 

しかし、そこまでの回答をアルゴが読んでいないわけがなく…してやったりという笑みを浮かべ、その笑みを見た少年は物凄く嫌な予感を覚えた。そして、アルゴがポーチから取り出したのは、

 

「報酬は……期間永続のボディガード契約だ」

 

「えっ……ボディガードの…契約…?」

 

予感に反し、突き付けられたのは契約書だった。予想を上回るアルゴの提案に、目を丸くしながら、少年は契約書と彼女の顔を見比べていた。

 

「いや~、お姉さんの仕事は結構危ないことばかりだからナ。この前、笑う棺桶に襲われたこともあったし…やっぱりこの機会に永久就職してくれるボディガードが必要かなと思ってナ」

 

「…アルゴ、お前…」

 

「嫌とは言わせないからナ。反論も許さん。ほら、観念してサインしろ」

 

「…ったく、本当に自分勝手な奴だな」

 

口ではそんな悪態を吐きつつも、少年はどこか嬉しそうに契約書にサインをした。それはある意味でただの建前で、アルゴなりの少年へのメッセ―ジだった。

 

『少年の真実を知ったこれからも、付き合い方は変わらない』

 

捻くれたアルゴらしいメッセージだった。そして、それをすぐに理解できる程に少年は…シグは彼女のことを理解していた。

 

「…ニシシ!それじゃあ、これからもよろしくナ、シグ!」

 

「(ドキッ…!!)…っ!」

 

契約書を片手に勢いよく立ち上がったアルゴが、嬉しそうにその場で一回転した。そして、夕焼けをバックにシグへと言葉を投げかけた。

 

その時だった…夕焼けに照らされ、満面な笑みを浮かべるアルゴの表情に、シグは何かを覚えた。灰色だった世界に…アルゴの姿だけ色が戻ったように見えたのだ。

 

「…シグ、どうした?」

 

「…!いや、何でもない。こっちこそよろしくな、依頼主さん」

 

一瞬のことだったこともあり、今は普段の感覚に戻ったシグは、正気に戻り、アルゴの問い掛けに応えた。

 

…こうして、後にSAO事件記録全集において「狩人の乱」として記録される、事件は幕を閉じたのだった。

 

 

 

第十三話 「残されたたものと再生」




あれ、ちょっとしたデートじゃない?という感じの前半から、超真面目な話でした。

外伝のアインクラッド編の話の前半は復讐をテーマとした話である一方で、残された者であるシグにとって、生きる意味というのを再度与えるという目的がありました。

外伝を過去譚として描くにあたり、シグ周りの設定を再度見直した際に、仲間の死を原因としたPTSDを負っているという内容を追加することになったのですが、かなり重い話になるからこそ、アルゴの強引さと明るさが一種の清涼剤になっていたところがあった形です。

その者がいなくなったとしても、人々や世界の中に記録として残っている…ある意味で、本編のメインヒロインであるユウキの原作の最期の後にも近いお話だったのかもしれないです。

そして、最後にシグが覚えた感情…一方通行に見えますが、まぁ、アルゴはアルゴでここまでやっている時点で、無意識に色々と思っているところはあるのかなという感じです。

そういうわけで、次回は日常回を挟んで、また重たい話をしていく形になります。といっても、狩人編よりは重たくなく、原作のあるエピソードにも絡むお話です。

それでは!

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