ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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久々の日常回です。なのですが、最後に不穏な空気が…

前半はオリ主との認識合わせと、後半はちょっとした戦闘シーンというお話です。
まぁ、シグとアジアの関係性がどういったものかというお話です。

それでは、どうぞ!


第十四話 「鼠とリハビリ」

「今日はこっちの呼び出しに応じてくれて、ありがとう」

 

「いえ…俺もちゃんと話を聞きたいと思っていたので」

 

後に「狩人の乱」と呼ばれることになる事件から数日後…未だに狩人を仕留めるべきという攻略組の一部…いわゆる過激派がまだ動き続けているが、アインクラッドの環境はこれまでと同じ状態に戻りつつあった。

 

そんな中、裏方として事態の収拾に動いていたフォンは、呼び出されて『羽休めの宿』へと来ていた。

 

「それじゃ、ごゆっくり」

 

人払いがなされた店内は静まっており、店主であるアジアから出された珈琲から漂うとても香ばしい香りが鼻孔を刺激した。珈琲と軽食であるパンケーキを出したアジアはそのまま住居である二階へと上がっていった。

 

そうすると、フォンの視線は自然と目の前にいる…自分を呼び出した人物であるシグへと移るのは当然だった。

 

(…この人が狩人だった人か。それにしては、なんというか…)

 

「俺が狩人っぽくないって思ってる?」

 

「っ…すみません、顔に出てましたか?」

 

「いや、表情には出てなかったけど、目が俺を観察しているような感じがしたから、もしかしたら、そうかなと思ってね」

 

「あ、アハハ…まぁ、そんなところです」

 

内心思っていたことをシグに当てられたこともあり、フォンは苦笑するしかなかった。流石というべきなのか、その鋭さに舌を巻くほどだ。

 

「まぁ、狩人の時はワザと雰囲気を変えていたからね。そう思うのも無理はないよ」

 

「…とりあえず、アルゴさんから無事に説得できたとは聞きました。それにしても、アルゴさんがボディガードを依頼しているなんて…ちょっと意外です」

 

「あー、まぁ、色々あってね。最初は押し掛けられたというか、半ば脅迫されたというか…うん、色々あったんだ…」

 

「そ、そうですか…(凄い遠い目をしてる…何やらかしたんですか、アルゴさん)」

 

懐かしそうな、しかし、どこか諦めたようなシグの雰囲気に、フォンは自身の笑みが引き攣っているのを覚えた。ちなみに、個人情報の勝手な公開などという結構ヤバいレベルの脅迫をやらかしているのは余談だ。

 

「…あっ、上手い。色が緑なのは、あれですけど…」

 

「アジアさんもなんとか色を珈琲独自の色にできないかと試行錯誤しているらしいけど…なかなかうまくいかないらしい」

 

そんな空気を変えるために、フォンは出された珈琲を口にし、その美味に驚いていた。自分でも偶に入れるが、ここまでの味を出せれたことは一度もなかった。ミルクも砂糖も入れていないのに、酸味が抑えられ、しかし、深みがある珈琲に感嘆の声が出るほどだ。

 

一方で、アインクラッド特有の緑色の珈琲なので、見た目は全く珈琲らしくはないのだが…アジアも苦戦していると言って、シグも珈琲を口にした。

 

「さてと…それじゃ本題に入ろうか」

 

「…聞かせてもらえるのはありがたいのですが…本当にいいんですか?」

 

「君にもかなり迷惑を掛けたからね。贖罪ってわけじゃないけど、少なくとも、アルゴと一緒に色々と動いてくれた君には、説明する義務が俺にはあると思ってね」

 

「分かりました…では、聞かせてください」

 

フォンからすれば、アルゴの真剣な姿に心を動かされ協力したにすぎない。だから、シグが本当は話したくないのであれば、無理に聞くべきではないと思っていた。

 

しかし、シグ本人が問題ないというのであれば、聞くべきだと思い、改めて彼の口から告げられる、彼が所属していたギルド『ミスフィッターズ』の話を聞いた。

 

…始まりの日、6人で協力して攻略し始めたこと

 

…ギルドを創設し、中下層プレイヤーたちを支援していたこと

 

…シグが復讐として命を奪った『笑う棺桶』のプレイヤーの謀略により、シグとアジアを助けるべく、他のメンバーがその命を賭し、そして、狩人が生まれた日のこと

 

…アルゴと偶然に出会い、そして、ボディガードとなったこと

 

…アルゴが誘拐された際、仲間の敵の命を奪ったこと

 

シグの話はそこまで長いものではなかったが、その内容はあまりにも膨大だった。そのため、話を聞いていく程に、フォンの顔が険しいものになっていった。

 

「まぁ、俺の話はそんなところかな」

 

「……………」

 

最後まで聞き終えたところで、フォンは沈黙していた。シグも整理の時間が必要だと分かっていたので、その反応は当然だと思った。少しして我に返ったフォンが大きな息を吐き、

 

「その…ありがとうございます」

 

「いや、俺が勝手に話したくて話しただけだよ」

 

「話してくれたこともそうですが、これまで皆さんが中下層のプレイヤーたちを助けてくれていたことについてもです」

 

「…えっ?」

 

「…攻略組にいても、やっぱりそういう話は耳にしていたんです。けど、できることなんて限りがありますし…そんな中、中下層のプレイヤーたちを助けてくれていた皆さんがいてくれたことに…お礼を言いたくなったんです」

 

「……そうか。君がそう言ってくれるだけでも、ありがたいよ」

 

フォンとしてはそれはお礼であり、そして、謝罪でもあった。

 

誰にも告げられていないが、フォンはこの世界の住人ではない。この世界…SAOが小説の作品の中の世界として創られている世界から来た人物であり、ほんの僅かとはいえ、この世界の歴史を知っていた。

 

だから、中下層のプレイヤーたちを支援してくれている人たちがいたということについて、世界のことを少しだけ知っている自分が何もできずにいたこともあり、お礼と同時に言葉にできない謝罪を心の中で覚えていたのだ。

 

「それで、もう狩人は…」

 

「…ほぼ引退かな。笑う棺桶がまた何かやらかしたら、分からないけど…少なくとも、この前のような暴走はもうしないつもりだよ」

 

「そうですか。それは安心というか…この前、キリト…黒の剣士と閃光があなたと戦ったって聞いて、物凄い腕前だったとのことで、また敵対することになるのなら、困るなと思っていたので」

 

「…攻略組のトップたちにそう評価されるのは喜んでいいのかどうか困るところだね。といっても、黒の剣士の方には俺の技を看破されたことには驚いたけどね」

 

「技?というか、苦戦したとか言っておいて、あいつ、ちゃっかり善戦してじゃねぇか」

 

アルゴと共に離れた場所で待機していたため、狩人と扮していたシグと、キリト・アスナコンビとの激闘を直接目撃できていなかったので、フォンは二人から狩人との戦いを事後で聞いたのだ。

 

一方で、シグはシグで、キリトに自身が仕掛けた技を看破されたと告げながら苦笑していた。聞いていた話と少し違うことに、戦友がまたどっかズレている評価をしていたのだと悟り、フォンが悪態を吐く。お前が言うなというのは余談だ。

 

「…それにしても、アルゴにも返せない借りができちまったな」

 

「それ、とんでもない要求されませんか?」

 

「説得された後に、永久雇用契約締結させられたよ。あいつ、そういうとこあるよな…」

 

「へー、永久雇用……うん?えっ、ちょ…永久雇用契約!?」

 

「お、おう…どうしたの、凄い驚いて…」

 

(…いやいやいや、あのアルゴさんがそんな契約をシグさんに?というか、永久雇用って…もしかして、そういうこと…?)

 

あのアルゴが人を縛り付けるようなことを課したということに、一瞬理解が追いつかずにフリーズしたものの、ようやく脳の稼働が復帰したフォンは信じられないものを見るかのようにシグを見ていた。

 

(えー、でも、あのアルゴさんが…そんなことあるのか?アルゴさんの情報って、小説の1巻でも、そこまで多く出てなかったから、俺の知らない範囲での話なのかもしれないけど…)

 

「ど、どうした、フォン君…なんか物凄い顔をしてるけど…」

 

「い、いえ…ちょっと驚きというか、意外なことに頭の処理が追いついてないだけです」

 

「…?そ、そうなの…?」

 

ないとは言い切れないものの、頭のどこかで信じられないという考えがあり、フォンは頭を抱えそうになるのをなんとか堪え、ギリギリ平静を装っていた。もっとも冷や汗が少し流れていたので、シグが思わず心配していたが。

 

「まぁ、そういうわけで、あいつには今後借りを返していく感じだな。それで、ちょっとフォン君に聞きたいことがあるだけど」

 

「な、なんですか…?」

 

「…恥を承知で申し訳ないんだけど、アルゴの好みって知ってるか?そういうので、ちょっとは返していかないといけないしな…あいつに直接聞いたら、また色々と揶揄ってきそうで聞きづらいのもあってな」

 

「…あー、アルゴさんの好みですか…(…もう確定じゃん!あんたもかよぉぉぉ!?)」

 

アルゴの方はまだ確定ではないが、シグの言葉からフォンは全てを察した。平静をなんとか装っている自分を褒めたくなりながら、心の中で叫んでいた。

 

この反応…フォンは何度も見たことがあった。だって、キリトとアスナが似たようなことを、過去に何度も自分に尋ねてきたことがあったのだ。デジャブを感じる程に、お決まりのパターンだと悟ったフォンは、

 

(あー、また恋愛相談の対象が一つ増えるのか…)

 

遠い目をするのをなんとか堪えながら、とりあえずシグへの問い掛けに回答するのだった。

 

 

 

そして、それからまた数日後…

 

…ガチャン!

 

「…あれ、今日は休みなのカ?」

 

事後処理がようやく落ち着き、アルゴは『羽休めの宿』を訪れていた。しかし、店の戸を開けようとして、重い感触が手から伝わった。

 

入口が施錠されているようで、戸のガラス越しに中を除くと、お客さんどころか、店主であるアジアの姿も見えなかった。

 

タイミングが悪かったと思い、メッセージを打ってから出直そうかとアルゴが思っていると…

 

「…うん?何の音ダ…?」

 

踵を返そうとしたところで、何かが聞こえたような気がして、アルゴは足を止めた。集中して耳を澄ますと、何かの金属音が僅かに聞こえていた。どうやら店の奥から聞こえているようだった。

 

このまま帰ることもできるが、音の正体が気になったアルゴはその正体を突き止めることにした。店の側面に回り、周りに人がいないことを確認してから、店の窓へと手を掛ける。そのまま窓の桟に足を掛け、屋根へと登る。

 

店の土地は結構広く、その奥には建物がない広場があった。だいたいサッカーコートの半分くらいの大きさだろうか。音はそこから響き渡っていた。屋根伝いで広場の方へと向かい、アルゴが視線を下ろすと…

 

そこには、互いの獲物を手にぶつかりあっていたシグとアジアの姿があった。

 

 

 

…ガキィン!!

 

「「っ…!」」

 

何度目になるか分からない金属音…火花が散ると共に、刀と手甲がぶつかり合う!

 

手甲を纏った拳による無数のラッシュを刀で捌きながら、その隙間を拭って反撃の斬り込みが繰り出されるも、最小限の動きで斬撃は逸らされる。

 

一見互角のように見えるが、実際は刀を手にしたシグが押されていた。

 

「…はぁ…はぁ…アジアさん、本当に容赦ないですね」

 

「勘を取り戻したいから本気でやってほしい、と依頼を受けたからね…師としては弟子の期待に応えないとね」

 

無数のラッシュのほとんどは囮…本命の一撃をなんとか防ぐも、勢いを殺し切れず、シグが後退る。

 

圏内で、決闘モードではない組手なので、HPが減る心配はないのだが、一切の容赦をしてくれない師に対し、シグは思わず苦言を呈する。そんな弟子に対し、アジアは右足を半歩引きながら言葉を返す。

 

乱れていた息を整え、シグが再び仕掛ける。抜刀術ではなく、単純な斬撃…だが、その脚力から生み出される一撃は、尋常ではない早さだった。

 

だが、それを最小限の動きで再び交わしたアジアが、右拳を振り下ろし、地面を揺らす。ソードスキルではなかったため、土煙を起こさせる威力ではなかったが、当たれば地に埋め込まれるといっても過言ではないレベルだった。

 

一方のシグもやられてばかりではなかった。右拳を交わした余波を活かし、回転による遠心力での斬撃を放つが、アジアは距離を取って回避する。その隙を突くように、シグが乱撃を放つと、それらを打ち落とすかのように、アジアも拳を放つ!

 

「ふむ…勘はほぼ戻ったようだね」

 

「なら、前みたいに一本取らせてくださいよ。というか、アジアさん、また早くなってませんか!」

 

「弟子が成長するのに、師がやられっぱなしというのは癪だからね」

 

乱撃の打ち合いの中、そんなやりとりを交わす程には、二人には余裕があった。といっても、アジアは余裕7割、シグは3割という形で違いがあり、残りは組手への集中力へと割いていたが。

 

(…仕掛けるか)

 

このまま打ち合っていてはアジアにやられっぱなしになるため、シグは仕掛けることにした。乱撃の中、タイミングを伺い続け、その機が訪れた。

 

「…!(ここ…!)」

 

「っ…!(刀を手放した…あの技か)」

 

刀を振り下ろそうとしたシグが、その刀を手放したのだ。シグが刀を手放して繰り出す技がいくつかあることを知っていたアジアは、どの技が繰り出されるのかと警戒するのだが…今回はそれが災いした。

 

「しっ!」

 

「っ?!」

 

想定していた技ではなく、まさかの徒手空拳…自分が仕込んだ格闘術によるものだとは知っていたが、ここで徒手空拳だと思っておらず、アジアの意識が逸らされる。それは隙を生み、シグはその隙を突く。

 

手放した刀が地に着く前に、身体をその場で側転するかのように上下を180度回転させ、なんと刀を再び手にしたのだ。その勢いをそのまま生かし、回転斬りをアジアへと繰り出す。

 

隙を突かれ、防御するしか手がなく、咄嗟に両手の手甲をクロスさせて凌ぐが…それこそがシグの狙いだった。

 

「い、っけぇぇ!」

 

「うおぉ…!」

 

回転斬りを放ち、地についた右足をそのまま振り上げる!放たれた蹴りが、交差していた腕の交点へとヒットし、アジアの防御が崩れる。ボディががら空きになったことで、決定的なチャンスが生まれる。

 

(…いける!)

 

勝機とばかりに、シグが技を放とうとしたのだが…

 

「…っ…!」

 

「…!?(気配…!)…っ?!しまっ……」

 

誰かの息を呑む声がしたと思い、シグの意識が逸れてしまった。ほんの僅かの時間…しかし、それは致命的な隙だった。

 

気付いたと思った矢先には、蹴りにより足が払われ、視界が空を仰ごうとするのと同時に、手甲が振り下ろされそうとしていたのが目に映り…

 

…ドスン!!

 

「…最後の最後まで気を抜くな。初歩として教えた筈だよ」

 

「…参りました」

 

後頭部に感じる痛みを堪えながら、自身の右横へと振り下ろされた拳へと目線だけ向けながら、シグはアジアへと降参の意を示した。

 

一旦組手はここまでということで、地に背中をつけていたシグは、アジアの手を取りながら立ち上がる。そして、気配がした方へと視線を向けると、

 

「…あー、その…悪い。邪魔をしないように見てたんだけど…」

 

「まずは盗み見していたことを謝れ」

 

「まぁまぁ…気配に気を取られたシグ君には、ちょうどいいお灸になっただろう。アルゴ君、そんなところで見てないで、下りてきたらどうですか?」

 

盗み見がバレたことで、バツが悪そうにするアルゴの姿が目に入った。謝るところが違うだろうとツッコミを入れるシグに対し、アジアはアルゴに対して下りてきていいと告げる。その言葉に従い、アルゴも屋根から広場へと下りてきたのだった。

 

 

 

「いや、やはり老体にはけっこうくるものだね…」

 

「そ、そうなんダナ(あんだけ動いておいて、よく言うヨ…攻略組レベルの動きだったゾ)」

 

組手は一旦休憩ということで、広場の木陰にてタオルで汗を拭うアジアに対し、その一言だけで済ませるのも十分凄いと思っていたアルゴは、心の中でツッコんでいた。

 

一方で、組手に負けたシグは罰として、店の方で軽食の用意をしに行っていた。

 

騒動の後、こうしてアジアと話すのは初めてだったので、アルゴはあまり距離感を掴めずにいた。苦手というわけではないが、あまり掴みどころがないアジアにどう話せばいいかが分からないというのが正確だった。

 

「…あんな訓練を、シグはこれまでずっとしてたのカ?」

 

「シグ君だけじゃないよ。リョナス君たちも一緒にだよ。自身が得意とする武器だけでなく、生き残るために必要な技術として体術も含めてね。僕がそういったものを齧っていたことがあるから、格闘術は僕がメインで教えていたから、そういう意味で師と呼ばれていた感じかな」

 

「齧っていたって…さっきの組手での技術はそんなレベルのものじゃなかった気がするんだが…」

 

「まぁ、ちょっとね…昔の名残という奴だ」

 

刀だけでなく、シグもほぼ同レベルの格闘術ができることに、アルゴは改めて驚いていた。それがこれまでの鍛錬からくるものだと悟ったアルゴの問い掛けに、答えるアジアの視線は何かを懐かしむように、広場へと向けられていた。

 

そこには、かつて6人で訓練していた光景が見えていたのは言うまでもないだろう。

 

まぁ、アルゴのジト目に対して、物凄く意味深な言葉で誤魔化すアジアの経歴が、本当に謎だったのだが。

 

「昔はシグ君も可愛かったんだけどね…何度も何度もぶん投げたり、地面に転ばせても、ボロボロになりつつ挑んできてたからね」

 

「…懐かしんでいるところ悪いけど、言ってることはハードだゾ。一体いつの時代のスポコン漫画ダヨ」

 

「…緊張は和らいだかな?」

 

「…!…まぁな」

 

質問に素直に応えるという意図もあったのだろうが、アルゴの緊張を解くという目的も達成したようで、してやったりという表情を浮かべるアジアに、アルゴはやられたと思いつつ、溜息を吐いた。

 

やっぱり苦手という言葉の方が正しいのかもしれない…自分以上に掴みどころのないアジアにそんなことを思っていると、

 

「緊張が解けたところで…シグ君のこと、本当にありがとう」

 

「…!」

 

真面目な口調に戻ったアジアのお礼に、アルゴは目を丸くしながら、彼へと視線を向けた。

 

「私では、彼を地獄から引っ張り上げることはできなかった…生きる意味をすり替え、そして、復讐へと走らせた。それしか方法がなかったとしても、大人がするべき行動ではなかった」

 

「……………」

 

「そして、その結果が…シグ君があそこまで考え込んでいたとは……いや、予測するべきだったんだ。私は………師と失格だ」

 

それはある意味で懺悔であり、後悔だった。

 

残された最後の大人として、師として、シグを本来は自分が止めるべきだった、とアジアは後悔していたのだ。そして、シグがあそこまで自分を追い詰め、暴走することまでを…予測しておくべきだった…復讐者へと走らせたからこその責任だった。

 

「シグは…あんたのことを恨んでないサ」

 

「……………」

 

「もし恨んでいたら、あんたの元へと戻ってきてないだろう。むしろ、シグはシグなりに、あんたに申し訳ないと思っていると思う。だから、一人で地獄への道を進もうとしたんだろう、と思う…あいつってそういう奴だろう?」

 

アルゴの言葉に呆然としたアジアだが、その言葉であの時のことを思い出していた。

 

『…アジアさん。勝手なことをして、心配を掛けてばかりで…本当にすみませんでした』

 

アルゴに釣られ、久方ぶりに店へと戻ってきたシグの第一声はアジアへの謝罪だった。謝罪するか彼の目には、以前まで失われていた生きる意志が戻っているように見えた。

 

そして、それがアルゴがシグに対して何かをしてくれたのだと悟り、アジアはシグのことを抱きしめ、彼の帰還を喜んだのだ。

 

「…そうだね。そうだと、私も……僕も信じたいよ」

 

当時のことを思い出し、どこか納得したように、雰囲気もいつものアジアのものへと戻しながら、アルゴの言葉に応えるのだった。

 

「さてと、もう少しすれば、シグ君が戻ってくるだろうから、もう一つ聞いておきたいことを聞いてもいいかな?」

 

「…おいおい、情報屋から情報を買おうっていうのカ?オイラの情報は高いゾ?」

 

「なに、確認の質問だよ。準備は着々と進んでいるのかい…笑う棺桶討伐作戦は」

 

「っ…!?」

 

不意打ちに等しい質問に、アルゴは思わず息を呑んでしまう。このタイミングでの質問を狙っていたに違いないアジアの眼鏡が怪しく光り、その視線はアルゴを真っ直ぐ捉えていた。

 

完全に自分の反応で答えを晒してしまったことを悟ったアルゴは観念しつつも、アジアへと言葉を投げ掛ける。

 

「…どうして、その情報を知っている…」

 

「まぁ、狩人の情報収集のメインは僕が担当していたからね。裏の情報なら猶更入ってくるさ。特に…オレンジギルドのことはね」

 

特に…その言葉の先だけ何故か重く聞こえたのは気のせいではないのだろう。アジアには全てがバレていると思ったアルゴは、硬い口調のまま言葉を交わす。

 

「…今、秘密裏に準備が進められている。アジトの情報が掴めれば、作戦は結構されるだろうな」

 

「…そして、その情報収集のメインとして、鼠として名高い情報屋の君が動いている。そんな君がこの店に来たのは、シグ君の監視だろう?」

 

「……………」

 

「シグ君を、もう狩人に戻らせないために…その行動を監視にしに来た。けど、シグ君はいつか気付くよ。彼も、情報屋として狩人の時には動いていたからね」

 

「…それでもだ。オイラはもうシグを狩人にさせるつもりはない。だから、いくら恨まれようとも、オイラはシグに隠し通してやる。そう決めたんだ」

 

「…分かったよ。僕もできるだけ協力しよう。彼を当面の間、この店にいるように縛り付ければいいかな?」

 

「…頼めるか?」

 

「僕たちはかつてなんでも屋として動いていたんだ。お安い御用さ」

 

シグのためということで、アルゴの頼みをアジアは快く引き受けた。

 

そう…ある意味で、一つの転換期となる「笑う棺桶討伐戦」がすぐ近くにまで迫っていた。

 




シグとアジアのキャラ解説は、後ほどのお話で補填しますので、もう少しお待ちを。

というわけで、日常回という名のインターバル回でした。
キリトとアスナだけでなく、シグとアルゴの関係性にも振り回されるオリ主フォン…アインクラッド時代、まさかのカップル候補たちに振り回されていたわけです。
…まぁ、小説1巻しか読んでないので、どれが原作通りで、どれが原作と逸れているかなんて、全部把握できないので、仕方ないといえば仕方ないのですが…頑張れ(笑)

そして、謎多いアジアの過去…あっ、本作で語る予定は全くないので、皆さんの想像にお任せします。どこぞの対怪獣特殊空挺機甲隊の頼れるおやっさんみたいな感じです(笑)

ある意味で、アルゴ以上の食わせキャラで、アルゴの真意を見抜き、ちょっとした協力関係になるわけです。といっても、アジアはアジアでシグに甘いところがあるのですが…

そんわわけで、次回から「笑う棺桶討伐戦」編へと入っていきます。討伐戦自体はそこまで長くやりませんが、それに紐づく話がアルゴに、そして、シグへと大きな影響を及ぼします。それは、シグの本気の力がお披露目されるきっかけにもなるわけで…

それでは!

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