まずは原作(アニメだとファントム・バレット編でのエピソードですね)通りのお話…討伐戦での、裏側のお話です。
ある意味で、狩人のお話の終焉であり、エピローグでもあります。そして、この話がまた別の事件のトリガーとなるわけで…
それでは、どうぞ!
「いらっしゃいませ、2名様ですか?こちらのお席にどうぞ!アジアさん、新規2名様です」
「かしこまった。はい、8番さんに特製パンケーキ4つね!」
「はーい!(忙しすぎだろう!?)」
アルゴとアジアの密かな結託が成立してから2週間と少し…その間に、シグを取り巻く環境は比較的穏やかだった。
アジアとの組手を重ね、おおよその勘は取り戻したシグは、モンスターとの戦闘も加え、ぶっ倒れる前までの実力を取り戻していた。
その傍ら、休止していた何でも屋を再開しようとしていた矢先…なんと拠点である『羽休めの宿』がいきなりにぎわい出したのだ。
普段はアジア一人だけで切り盛りできる程の客足で、まさしく隠れた名店という形の空気を漂わせる店内が、店の外に5~6人待っている人がいる程の繁盛を見せていた。
そんな状態の店を、アジアを放っておけるわけもなく、現状、シグも店員として店の中を駆け巡っていたわけだ。
もちろん、この店の異常な繁盛には理由がある。アルゴがこっそりと店のことを喧伝し、そして、アジアもまた同じように情報を広めた。本来はアジア的には落ち着いた雰囲気が自身のお気に入りだったのだが、シグを店内に留める以上、一時的なものとして割り切った。
…まぁ、そういうわけで、盛り上がった店内に振り回されまくりの日常が続いているわけだ。
「…ぁあ…つ~か~れ~た…」
「お疲れ。悪いね、こき使ってしまって」
ようやく客足がはけ、カウンターテーブルに突っ伏するシグに、労いの言葉と共にアジアは珈琲を差し出す。狙い通りといえばそうなのだが、頭から湯気を上げるかのような疲弊感を見せるシグに、少しだけ罪悪感を抱いていた。
「アジアさん、NPCでもいいから雇いませんか…」
「一過性のものだろうから臨時とはいえちょっとね…まぁ、当面頑張ってくれ」
「……………」
アジアの言うことも一理あると思ったのか、シグはジト目だけで何も言わず、珈琲を啜った。そして、
「なら、質問を変えます。俺に隠していること、ありますよね?」
「…まぁ、それはね。でも、僕にも答えられることもあれば、答えられないこともあるんだよ」
「それは、夜な夜な情報収集のために出かけることと関係あるんですよね?」
「……………」
カップを吹き上げていたアジアの手が初めて止まった。眼鏡の奥に見える眼光は細く、そして、鋭くシグを見ていた。
「…気を遣ってもらっているのは分かってます。どうせアルゴも絡んでるでしょ?」
「…はぁー。君に隠密のコツや情報収集の仕方を教えたことを、今一番後悔しているよ」
「弟子としては物凄く嬉しい誉め言葉ですけどね」
これ以上誤魔化すのは無理、想定の2倍速くバレたことに大きなため息を吐き、観念したアジアはシグと向き合った。
「…シグ君」
「御心配は無用です。わざわざ行ったりしませんよ。狩人の恰好をしていったら、攻略組からも狙われて、挟み撃ちになりますから」
「…指名手配犯のような物言いだね」
「実際に、狩人はまだ攻略組の過激派にマークされてるっぽいですからね。そんな状況なのに、狩人の姿を晒すわけにはいかないでしょう」
「…はぁぁ…本当に君って奴は…」
淡々と語るシグの姿に、アジアはなんとも言えない表情をして…そして、更に大きなため息を吐いた。なぜなら、
「シグ君、君の成長は本当に嬉しいよ。けど…嘘のつき方まで上手くなったことは感心しないね」
「……………」
「確かに君は言った…『行ったりはしない』と。でも、どこに行かないとは言ってないだろう」
「…やっぱり見透かされましたか」
「伊達に年は重ねてないからね」
嘘、というよりも全部を言っていないという方が正しいのだろう。アジアにピタリと真意を当てられたことで、シグも隠すことを諦めた。
「アジアさん…アルゴもアジアさんも俺のことを気遣ってくれているのは分かってます。けど、これだけは行かせてもらえませんか」
「駄目だ…といっても、君は行ってしまうのだろう。本来であれば、ぶん殴ってでも止めてほしいと、アルゴ君には頼まれているのだけどね」
「思った以上にぶっそうな止め方で依頼されてますね…けど、ある意味でこれはけじめの機会だと思うんです」
「……………」
「…狩人が消えるには、ね」
「っ…!シグ君、君は…!?」
意味深な言葉を口にしたシグに、まさかの可能性を疑ったアジアは、その意味を尋ねようとした。だが、突き出された右手でそれを制止されてしまった。そして、シグが口にした真意は…
「…では、これにて笑う棺桶討伐戦の最終ブリーフィングを終了する!」
(ようやく作戦が纏まったカ)
血盟騎士団本部の一室にて行われた会議…のちに、『笑う棺桶討伐戦』と呼ばれる作戦の最終ブリーフィングが終わり、その成り行きを柱の陰から見守っていたアルゴは、安堵の溜息を吐いていた。
ここずっと情報屋として、笑う棺桶に関する情報を集めていたアルゴ。いつもとは違う情報を集めていたこともあり、流石の彼女も疲労の色が隠せないでいた。それほどに、今回の情報を集めるにはかなりの労力を要したのだ。
オレンジギルドである笑う棺桶の情報を集めるのはそう簡単なことではなかった。今回、攻略組が笑う棺桶のアジトの情報を掴めたのも、まさしく偶然に等しかった程だ。さらに、殺人を厭わないオレンジプレイヤーにいつ狙われるか分からない緊張感もあり、精神的な負担も大きかった。
ともかく、情報屋である自分ができることは終わった。あとは、キリトやアスナたちの無事を祈ることしかできなかった。
また、アルゴにはもう一つ気がかりなことがあった。もちろん、それはシグのことだった。共犯者であるアジアが、シグの意識やリソースがこちらに割かれないようにしてくれている筈だが…なんとか誤魔化せているかと心配があった。
最悪、自分が止めに行くことも視野に入れるべきかと考えていると…
(あれ…なんで、オイラがあいつを止めに行こうという考えをしてるんダ?)
会議からの帰り道、疲れた頭で色々と考えている中、自身の思考に疑問を覚え、その足が止まった。
シグが心配?でも、アジアに彼のことは任せている。なのに、どうして自分がなんとかしないといけないと思ったのか…
(…ヤバいナ、変な思考をしてしまう程に疲れてるっぽいナ。これは少し早く休んだ方がよさそうダ…)
ここ最近、情報収集として無理をしていたのもあって、疲労がたまったのだと思ったアルゴは、そのまま自身が拠点としている宿屋への足を早めた。
シグやアジアがいる『羽休めの宿』に顔を出そうと思っていたのだが、今の自分の状態を見せれば、シグに勘づかれる恐れがあると思い、取りやめた。
…その結果を彼女は後ほど後悔することになった。
…バタン!
「…はぁ…!…はぁ…!…し、シグは!?」
「笑う棺桶討伐戦」の実行日…実行時間の直前になって、届いたメッセージを見て、慌てて店に駆け込んだアルゴ。そこにいたのは、
「…行ってしまったよ」
静かにカップを拭くアジアだけだった。アルゴにメッセージを送ったのはアジアだ…そして、その内容は、
「なんでだ!?どうして、あいつを行かせた!?」
足止め失敗…その一言だけを書かれたメッセージを見て、アルゴは血相を変えて、ここへと来たのだ。
「……………」
「あいつが狩人に戻ることを、あんたも望んでなかっただろう!なのに、なんであいつが行くのをとめてくれなかったんだよ!?」
いつにも増して感情的な言葉を発するアルゴに対し、アジアは冷静に、そして、静かな態度を崩さないでいた。その姿勢が、一段とアルゴを苛立たせる。
「っ…!…なんとか言えよ!?」
「…シグ君はこう言ったんだ。狩人は消えるべきだって…」
「……そ、それって…まさか…「そして、こうも言っていた」…えっ…?」
アジアが放った言葉に、アルゴは最悪の可能性を想像した。目を丸くし、全身の血の音頭が下がる感覚を覚えたその時、続けて放ったアジアの言葉は…
「くそっ、だから俺は反対だったんだ!?」
「無駄口を叩くな、逃げるぞ!?」
笑う棺桶討伐戦が勃発してから少しして…敗退の色が濃厚となり、少しずつ逃げだした笑う棺桶のプレイヤーたちの姿がそこにはあった。
血みどろの混戦となった場から、なんとか逃げ出してきたのだ。今や攻略組も逃げ出したプレイヤーにまで気を回せる余裕はなかったからこそできたことだった。
「…このまま逃げ切って……「お、おい…!」ああん?…っ、あ、あいつは…」
逃げ切れさえすれば、再起することができるかもしれない。確証はないが、僅かの望みに賭けるべく逃走する3人のプレイヤーたちだったが、1人がそれに気付き、その言葉に釣られて、逃走ルートの先に待ち構えるそれに気付いた。
「…死神の……使徒…」
『悪いな、お前たちをこのままにがしてやるわけにはいかないんだ。おとなしく投降するっていうのなら、痛い目に遭わせない……って、言っても無駄なんだろうな』
素顔を仮面で隠し、幽鬼のような灰黒のローブを見に纏った…その言葉通り、オレンジプレイヤーからすれば、死神の使徒といっても過言ではない、『仮面の狩人』はその進路に立ちはだかっていた。
狩人…いや、仮面を被ったシグは、仮面の効果で変わった声色のまま、一応の警告をする。といっても、それは無駄だと思っているところもあった。
決死の覚悟でそれぞれの武器を構えるオレンジプレイヤーたちを目にして、吐きそうな溜息をグッと飲み込み、シグも刀を抜いた。
「…おい!こっちに逃げた筈だ!……うん、あれは…」
「オレンジプレイヤーか…でも、拘束されている…?」
「…一体誰が…?」
乱戦が落ち着き、逃げ出したオレンジプレイヤーたちを探してきた攻略組のプレイヤーたちが、逃走ルートへと追いかけてきた時には、全てが終わっていた。
武装解除され、意識を刈り取られた上に、後ろ手に回された腕と足、身体へロープをきつく巻き付け、更には自害防止のために猿轡までされた上で、その場にオレンジプレイヤーたちが転がされていたのだ。
…意識を取り戻し、監獄に放り込まれたこのオレンジプレイヤーたちから狩人の仕業だと聞かされて、攻略組が知ることになるのはもう少し先の話だ。
「……………」
第32層の一角…湖が広がるフィールドにて、シグの姿はあった。その右手にはさっきまで装備していた『偽証の仮面』があり、湖の傍らに建てられた4つの小さな墓石を前に立っていた。
…ザッ…
「…アルゴか」
「……………」
足あとが聞こえ、少年は振り返らずに問い掛けた。答えが返ってくることはなかったが、気配で間違いないとシグは確信していた。
「…悪か「謝るな…」…」
「今、謝られたら…多分、お前を殴る」
「……………」
ある意味では裏切ったに等しいことは自覚していたのもあり、謝罪の言葉を告げようとしたのだが、アルゴから謝罪を禁止されてしまい、シグは思わず紡ぐ言葉に困ってしまった。
そうこうする内に、アルゴはシグの背中へともたれ掛かるように、密接していた。
「狩人は消えるべきだって…そう聞いた時は、お前が死に行くつもりだって思ったゾ」
「言っただろう、もう死ぬ気はないって」
「……………」
「笑う棺桶の討伐戦が行われるって聞いた時…こう思ったんだ。狩人を終わらせるにはここしかないって…」
狩人を終わらせないといけない…それが、シグがアジアへと告げた言葉だった。
狩人はオレンジプレイヤーを狩る者として、そして、全プレイヤーの敵として、シグが作り出してしまった脅威だった。だが、それは笑う棺桶のような脅威が存在することに対する必要悪のつもりだった。
…笑う棺桶がなくなるのであれば、今はその脅威はあるべきではない。だから、シグは決めたのだ。狩人をこの討伐戦で終わりにすると…この戦を通して、狩人の存在を消すのだと。
「ここさ…皆が死んだ後に、俺とアジアさんで作ったんだ」
「……………」
アルゴもそのことはアジアから聞かされていた。彼から場所のことを聞き、ここへと駆けつけたのだから。
「狩人として動く時には、いっつもここに来てた。覚悟を決めるつもりで来てたんだが、本当は自分がしていることが正しいことなのかって、確認するつもりで来てたのかもしれない」
「……………」
「…だから、終わりにするのなら、ここだって最初から決めていたんだ」
そう言って、シグは持っていた仮面を投げ…そのまま腰に据えていた刀を解き放った。放たれ、一線を描いた刀により、仮面が真っ二つに斬り裂かれた。
そのまま湖へと落ちた仮面は、ポリゴンと変わって消滅した。
「…ふぅぅ…」
「…シグ?」
肩の力が抜けたようにその場に崩れ落ちたシグに、アルゴもそれに倣ってしゃがむ。
「…これで、本当に…狩人は終わりだ。もう狩人は…いなくていいんだよな」
「…それは…これから分かるじゃないのカ?」
「そう、だな…もう狩人はいらないことを…俺は祈るよ」
シグの問い掛けに、アルゴはそうだと答えたかったが、断言はできなかった。笑う棺桶はオレンジプレイヤーの頭角であることには変わりなかったが、全てではなかった。
オレンジプレイヤーの勢いが減ることは間違いないだろうが、それで全てが終わるとは…確実には言い切れなかった。
それをシグも分かっていた。だが、それでも…もう自分が無理に頑張る必要はないのだと分かったからこそ、アルゴの答えを静かに受け入れていた。
「…アルゴ」
「…うん?どうした?」
「…悪い、今日はこのまま…一緒にいてくれないか?」
「…しょうがないな。お姉さんを独占するのは安くないゾ?」
静かに、でも、どこか悲しそうな声色のシグの要望に、アルゴもあまり茶化すことなく応える。そこから二人は言葉を交わすことはなかったが、シグの気が済むまで、アルゴは黙ったまま、彼の隣にいたのだった。
もう付き合っちまえよ、お前ら…という感じの終わり方でした(笑)
前半パートの日常回からの、ちょっと暗いお話でした。この表では、フォンやキリトが乱戦で殺しを経験していたのだから、重くなるのは仕方ないのですが…
と原作や本作のお話に絡んだエピソードが終わったところで、次回はこの討伐戦が原因で、もう一つの事件が起こります。
それでは!
キャラエピソード第2弾 どのキャラのお話が見たいでしょうか?
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