ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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 久々の日常回。ということで、アジアが店主、シグが店員を務める喫茶店『羽休めの宿』に訪れるお客さんのお話です。
 まぁ、あの人たちのことなんですがね(笑)

 それでは、どうぞ!


第十九話 「鼠と日常」

「ただいまー」

 

「いや、ここはお前の家じゃないだろう」

 

「まぁまぁ、いらっしゃい、アルゴ君」

 

笑う棺桶討伐戦から幾ばくか…あれか攻略も少しずつ進んでいる中、それぞれの日常が完全に戻っていた。

 

だが、変化もあった。それは、アルゴが頻繁に『羽休めの宿』へと通うようになったのだ。前は、数日おきにといった形だったが、今はほぼ毎日の頻度だ。

 

冒頭のやりとりで、帰宅の返事を冗談でするぐらいには通い詰めていたのだ。店に通って何をしているのかと言うと、その日何があったのか、キリトたちに対する愚痴などの話をしに来る形だったが…まぁ、本来の目的はシグに会いに来ているというものだった。

 

といっても、本人も無自覚でやっているところがあり、対するシグも変なところで鈍感なので、アルゴが足繫く通っている理由に気付いていなかったのだが…まぁ、アジアは察しているが、ワザと黙認しているのは余談だ。

 

「…ってことで、アーちゃんとキー坊がまた面倒なことをしていてナ。見ている方は、いつものことかってなるんだけどナ」

 

「まぁ、そこは当の本人同士に任せるしかないだろう。でも、黒の剣士と閃光が、両片思いとはな…他に知られたら、とんでもないゴシップ記事になるだろうな」

 

(…それは君たちにも言えることなんだけどね)

 

話が一息ついたところで、またしてもキリトとアスナ(と、それを仲裁していたフォンの苦労話も加え)の惚気話に、アルゴが溜息を吐いていた。聞き手に回っていたシグも、その場面を想像して、呆れた笑みを浮かべていた。

 

…まぁ、目の前の二人も似たような立場だろうと、アジアが内心ツッコミを入れていたのだが。

 

「さてと、それじゃそろそろ帰ることにするわ」

 

「おう、気を付けて帰れよ?」

 

「……………」

 

「…うん?どうした?」

 

「専属ボディガードなんだから、送っていくとかないのかよ?」

 

「…またかよ。いや、毎日毎日送らなくてもいいだろうが…それに閉店の準備も「こっちはいいから、行ってきていいよ、シグ君」…でも「行ってきなさい」……はぁ。分かったよ、送っていくよ」

 

「ニシシ…なら、頼むナ!」

 

アジアによって逃げ道を塞がれたシグは、アルゴの我が儘によって、彼女を送っていくことになった。これもまたここ最近当たり前になってきているのだが、双方共に意識しての行動ではないのだから、質が悪い。

 

「…まったく君らがくっつくのはいつになることやら」

 

店に一人残されたアジアがそんなことを呟くのだった。

 

 

 

「へぇ、ここがアルゴが頻繁に通う店か」

 

「フォン君が言っていたように、いいお店だね」

 

ある日のお昼時…足並みも落ち着き、店内にはアジア1人だった時に、彼らはやってきた。新規で来たお客さんに声を掛けようとしたアジアだったが、その二人の来訪には思わず言葉にはしなかったが、驚きはしなかった。

 

「…いらっしゃい。このお店は初めてかな」

 

「あっ、はい。もしかして、一見さんはお断りでしたか?」

 

「いやいや、むしろ大歓迎だよ。こちらがメニュー表になります。おすすめは珈琲ですが、他の飲み物もご用意できますよ」

 

我に返ったところで、アジアが出迎えの言葉を告げると、来訪者二名のうち女性のほう…アスナが遠慮がちに初見は駄目だったかと尋ねるも、アジアはそんなことはないと言って、カウンター席へと案内し、メニューを彼らに渡した。

 

メニューを受け取った男性…キリトはアスナに見せながら、自身が頼む飲み物を決めていた。

 

「…珈琲がおすすめか。なら、俺はそれで。アスナはどうする?」

 

「うーん……なら、私はカフェオレでお願いします」

 

「かしこまりました。軽食はいかがですか。クラブサンドやホットケーキなどがありますが?」

 

「あっ、なら私はクラブサンドでお願いします」

 

「…俺は珈琲だけでお願いします」

 

「かしこまりました、では、準備しますね」

 

店員らしい応対をした後、アジアはそれぞれの用意を始めた。そんなアジアの姿を見ながら、キリトとアスナは店について話していた。

 

「あのアルゴが通うっていうから来てみたけど…レトロチックだよな」

 

「もう、キリト君…でも、落ち着いた雰囲気で、まるで別空間のようなお店だよね。アルゴさんが通うのも分かる気がするな」

 

「…もしかして、あの噂のボディガードもここに通ってるのかな?」

 

「それはないんじゃない?アルゴさん、そのボディガードさんの情報、かなり秘匿してるじゃない?こんなお店で堂々と会うなんてことしてないんじゃない?」

 

(…もの凄くツッコミを入れたい会話だけど、スルーしておこうか)

 

話を聞いている形、この二人がきたのが、最近アルゴがこの店に頻繁に通っているのが理由だったらしい。偶然にも、アルゴの依頼でシグがボディガードとして同行して外出しているのが幸いしたのか、アジアは二人の会話にどこか安堵しながら、作業を進めていた。

 

「お待たせしました…珈琲、カフェオレ、そして、クラブサンドでございます」

 

「おっ、きたきた。それじゃ………おおぉ、これ旨い…!」

 

「旨いって、そんな単純な………うわぁ、深みが凄い…」

 

「ふふっ、お褒めのお言葉を頂きまして光栄です」

 

「このカフェオレ…凄い深みですね!ここまで美味しいのは、初めて飲みました!マスターさんのオリジナルですか?」

 

「ええ。リアルでも喫茶店をやってまして、その味を再現したものです。お代わりが必要でしたら、1杯までは無料ですので、お気軽にお申し付けください」

 

キリトはともかく、あのアスナまでも唸らせる飲み物の味に、アジアはどこか満足そうにそんな言葉を告げていた。そのまま夜の仕込みの準備へと戻るアジアに対し、キリトとアスナは食事を続けていく。

 

「…アスナ、ちょっとクラブサンド分けてくれないか?」

 

「えー、キリト君も頼めばよかったじゃない…もう一切れだけだよ?」

 

「サンキュー!それじゃ、お言葉に甘えて………うおぉ、これも旨いな!」

 

「もうまたシンプルな感想なんだから…でも、本当に美味しい。まさかこんな隠れた名店があったなんて…フォン君にはお礼を言わないとね」

 

「もう少し早く教えてくれてもよかったけどな…でも、俺的には、アスナが作ってくれたバーガーも負けないくらい旨かったけどな…」

 

「えっ……ま、まぁ…気に入ってくれていたのなら、また作っても……いい、かな…」

 

「…えっ?何か言ったか、アスナ?」

 

「…な、なんでもない!?」

 

(…あー、なるほど。アルゴ君が苦労する、というか、愚痴を言いたくなるのが分かったよ。青春だね…)

 

二人の甘酸っぱいやりとりを見ていて、アジアはそんなことを思うのだった。

 

 

 

「…フォンに教えられてきたけど…なるほどね」

 

「こ、こんにちはー」

 

「いらっしゃいませ、お二人でよろしかったですか。こちらのお席にどうぞ」

 

また別の日…ピークを過ぎて客層もまばらとなったところで、二人のプレイヤーが『羽休めの宿』を訪れた。1人は桃色の髪が特徴的な女性、もう1人は小柄だが、それよりも特徴的なのは小竜を連れていたことだ。

 

片方の女性には見覚えはなかったが、小竜のビーストテイマーについては耳にしたことがあったシグは驚きつつも、彼女らを出迎えた。

 

「…結構メニューあるわね。シリカはどうする?」

 

「迷いますね……オススメとか聞いてみます?」

 

「そうね…すいませーん!」

 

「はい、いかがなさいました?」

 

「オススメを教えてほしいのですが…やっぱり珈琲がオススメですか」

 

「ええ、当店のマスターオリジナルブレンドの珈琲が一番お勧めですが、個人的にフルーツティーもお勧めです。苦いのや甘すぎるのがちょっとという方には、シンプルなダージリン…皆様がよく飲まれたことがある味の紅茶もお勧めしてますね」

 

「なるほど…なら、私はフルーツティ―と、このフルーツタルトをお願い出来ますか?」

 

「それなら、私はオススメの珈琲にしようかな。あと、バタークッキーをセットでお願い」

 

「かしこまりました。では、少しお待ちください……マスター、フルーツティーとブラック1、FタルトとBクッキーセットです」

 

「はいよ」

 

注文を聞き、そのままカウンターにいるアジアへと注文を通したシグは、シュガーポットなどの準備をしている最中、二人組の話に耳を傾けていた。

 

「前にフォンが隠れた名店だって教えてくれたけど…納得の雰囲気にね。これは通いたくなる気持ちが分かるわ」

 

「ですね…ねぇ、ピナ?」

 

『キュルル!』

 

注文がくるまで他愛もない話をする2人…リズの問い掛けに、シリカも改めて店内を見渡しながら、相棒のピナへと同意を求めると、ピナもそうだと言わんばかりに元気よく応えた。

 

「よかったら、お連れ様にこちらを」

 

「えっ…いいんですか?」

 

「ええ、友人の紹介で来て下さったようですので、そのお礼です」

 

「よかったね、ピナ!」

 

『キュル!!』

 

手が空いていたこともあり、クッキーを数枚小皿に載せて2人のところへと持っていったシグ。ピナへのサービスということで、一口齧ったピナが嬉しそうに鳴き声を上げていた。

 

「友人って…もしかして、フォンの知り合いなの?」

 

「ええ、まぁ。彼に世話になったことがありましてね。少し前に、知り合いにお店を紹介してもいいかと聞かれていたこともありましてね。これからも、ご贔屓にして頂けますと幸いです」

 

そう言って、シグは一度席を離れ、アジアがタイミングよく出してい飲み物と軽食を2人の元へと持っていった。

 

「お待たせしました、珈琲にフルーツティー、それとセットのバタークッキーとフルーツタルトです。ごゆっくりお楽しみください」

 

2人へと飲み物・軽食を出し終え、シグは一礼してそのままカウンターの奥へと戻っていった。そして、飲み物を口にした2人の第一声は、

 

「「…!美味しい!!」」

 

というお褒めの言葉だった。カウンターに戻り、洗い物をしているシグに対し、アジアが小声で告げていた。

 

「竜使いのシリカに、リズベット武具店の店主の来訪とはね…フォン君の人脈には驚きだね」

 

「…彼女があの有名なリズベットなのですか?そっちの方が驚きなんですが…」

 

アジアの告げた事実に、名前は知っていたが、顔までは把握していなかったシグが少しばかり驚きの声を出すのであった。

 

 

 

「…お、おぉ……すげぇな」

 

「いらっしゃい、このお店は始めてですね?テーブル席にどうぞ」

 

その日の夜、野武士の恰好をした6名のプレイヤーが『羽休めの宿』を訪れた。赤いバンダナを頭に巻いたリーダー格の男が、店の雰囲気に吞まれてしまい、伝染したメンバーも同じように戸惑ってしまっていた。

 

そんな面々の緊張を和らげるように、マスターがカウンター越しに声を掛けたことで、再起動したリーダー…風林火山のリーダーであるクラインがようやく動き出し、一同は店内の座席へと座った。

 

「…喫茶店と聞いてたが、お酒もあるのか」

 

「ええ、夜限定なのと、成人らしい方にのみの提供ですがね。まぁ、ご存じのように酔うことはできませんが」

 

「リーダー、まじで奢りでいいんですか?」

 

「おう!今日は儲かったからな!俺の奢りだ、好きなもんを頼め!」

 

「「「「「あざっす!!」」」」」

 

ディナー限定のメニューを見ながら、風林火山の面々が何を頼もうかと騒いでいる中、更に新しいお客さんが店の戸を叩いた。

 

「いらっしゃい、お一人様ですか」

 

「ああ、すまないな、遅くに…って、クラインじゃねぇか?」

 

「おっ…誰かと思えば、エギルじゃねぇか…どうしたんだよ」

 

スキンヘッドの大柄な男性…ぶっきらばうな口調だが、丁寧な物言いに悪い気はせず、アジアが案内しようとすると、先に来ていたクラインが彼に気付き声を掛けた。

 

「キリトの奴から、上手い珈琲の店に行ったって話を聞いてな。ちょっと気になってな。マスター、すまないが、珈琲を頼めるか?」

 

「ええ、構いませんよ。少しお待ちください」

 

エギルのオーダーにアジアはシンプルに答え、そのままカウンターに入り、準備を始めた。そのまま2人の間に会話はなく、まるで試す側・試される側の空気に、クラインたち風林火山の面々も、その行く末を静かに見守っていた。

 

「…お待たせしました、どうぞ」

 

「ありがとう………なるほどな、いい香りだ」

 

淹れ終えた珈琲を出したアジアに一礼し、エギルはすぐには珈琲を飲まず、香りを味わっていた。そして、香りを堪能したところで、ゆっくりと口に珈琲を運び…静かに味わう。

 

「「「「「「「……………」」」」」」」

 

エギルが珈琲を口に含み数秒…時間が止まったように、店に静けさが漂っていた。じっくりと味わうように飲み込んだエギルは静かに息を吐き、

 

「…見事だ。ここまで美味い珈琲を淹れるとは、あんたもリアルで喫茶店をやっていた口か」

 

「ええ…もしかして、貴方も?」

 

「まぁな…うちはこの店に近い感じで、バーがメインで、昼は喫茶店をサブでやっている感じだけどな。といっても、今はどうなっているか分からないけどな」

 

「私もですよ…妻には向こうで苦労させているのではと思っています」

 

「あんたも既婚者か…なら、立場はほとんど一緒だな。改めて、俺はエギルっていう。安く仕入れて、安く売るをモットーしている商人だ」

 

「当店『羽休めの宿』の店主のアジアと申します。以後、お見知りおきを」

 

珈琲はエギルのお眼鏡に適ったようで、互いにリアルの境遇が似ているということもあり、親近感を覚えた2人は自己紹介をして、どこか分かり合ったよな境地に立っていた。

 

…そして、そんな2人のやりとりをみて、クラインたちも珈琲を食後のアフターティーとして頼んだことは言うまでもなかったことだ。

 

 

 

「…ということがあってね」

 

「なるほどナ…まぁ、フォン坊やキー坊に知られたら、そうなるわナ」

 

そして、閉店直後…いつものようにやってきたアルゴに対し、アジアはここ数日や今日の出来事を語っていた。知り合いの来訪ラッシュに少しばかり驚きつつ、アルゴはカフェオレを飲んでいた。

 

「まぁ、先日の作戦のせいで、多少は知名度が上がっていたから、そこまで大差はないんだろうけど…閃光や竜使いが来たとなると、また少し忙しくなりそうだね」

 

「…なんか、悪いナ。迷惑かけちまったカ?」

 

「いやいや、狩人としての仕事がなくなって、その分お店に労力を割けるから、ちょうどいいくらいさ。それに備えて、シグ君に材料を取りに行ってもらっているからね」

 

「…あー、それでシグがいないのカ?」

 

忙しくなることは良い事だと言わんばかりのアジアの反応に、ホッとしつつ、シグがいない理由を把握したアルゴが少しばかり残念そうに眉を顰める。その反応を見たアジアが思わず言葉を零す。

 

「そういうことさ。すまないね」

 

「…?いや、別に謝られることじゃないと思うが…」

 

「(…しまった、口が滑った。この子たちの進展のなさに思わず…)失礼、気にしないでくれ。しかし、遅いな、シグ君…多めに材料を取りに行ってるのかな…」

 

「…まぁ、その内戻ってくるだろう。それまで、気長に待つサ」

 

「そうかい…アルゴ君、何か簡単なものでも作ろうか?少し新メニューとして考えているものがあってね…キッシュなんだが、どうだい?」

 

「おっ、ちょっと気になるナ!頼むヨ!」

 

シグが帰ってくるまでの合間にということで、アジアの提案に乗っかかったアルゴは勢いよく了承した。だが、キッシュを食べ終わってもまだシグは帰ってこなかった。

 

…それどころか、その日からシグは失踪してしまったのだった。

 




あっ、フォンが出てないわ(黒笑)
もちろんワザとです…オリ主以外のオールキャラクター登場のお話でした。

ところが、そんな日常回から一転、まさかのラストでの急展開…ということで、ここから外伝のアインクラッド最終章『護鼠の絆編』開幕です!

それでは、また!
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