近いうち本編やWの小説も連載再開予定なので、もう暫しお待ちを!
ということで、EXボス戦後半戦です(ちょっと時間の関係で、EXボスの解説はまた別途追記します)。
(…アルゴさんに急遽呼び出された時は何事かと思ってたが…あのシグさんがここまで追いつめられるなんて…)
幻想剣ソードスキルの硬直が解け、おおよその状況を理解したところで、フォンはそんなことを思っていた。
シグが危険な目に逢っているかもしれない…アルゴから、25層のダンジョンに一緒に潜ってほしいと、シグの危機を同時に告げられたフォンは、緊急事態であると察して一緒についてきたのだ。
キリトとアスナも本当は呼びたかったのだが、タイミング悪く迷宮区に潜ってしまっており、たまたま鍛冶師の仕事をしていたため、メッセージに気付いたフォンがアルゴに同行したのだ。
そして、ダンジョンに潜り、以前フォン自身も遭遇したことがあるEXボスの扉を見つけ、最悪の考えが頭を過り扉を開けたところで、シグの危機一髪のところに飛び込み、ボスに幻想剣ソードスキルを叩き込んだわけだ。
…ボスから意識を逸らさず、脇目にアルゴに介抱されるシグを見て、どれだけ危機的状況だったかを悟るフォン。その時だった。
「…フォン坊、前!?」
「っ…!」
アルゴの叫びと自身の危機感が何かを感じ取ったのと同時に、フォンはその場から飛びのいた。すると、さっきまで離れていた筈のボスが、フォンがいた場所へと無数の拳を振り下ろしていた!
(なんてスピードだ!?それに、4本の腕…ヘカトンケイルもどきってところか)
真正面からやりあうのは得策ではない、ボスの攻撃を隙を狙い、一撃一撃を与えていくしかない…様子見というか時間稼ぎも兼ねるため、フォンは右手でメニューを開き、高速操作をしていく。フォンの十八番である、マニュアル高速換装…バトルスキルの『高速換装』は、シグの危機を救うために使用してしまい、まだクールタイム中であるため、手動で装備を戦爪『陽陰虎』から両手剣『エンプレス・ジェイル』へと切り替えた。
だが、ここで予期せぬことが起こり…
「…っ…時限強化タイプか……これは大変そうだな」
狙いを完全にフォンへと変えたボスの背中から、更に別の腕一組が出現したのだ。計6本となった腕を確かめるように動かすボスを前に、フォンは苦笑いを浮かべながら、ボスへと攻撃を仕掛けた!
一方で、後方でアルゴに介抱されていたシグは、少しだけ言葉を発するまでには回復できていた。それでも、まだ身体を動かすことはできずにいた。
「…あ、ルゴ……なん、で…」
「いいから喋るな…フォン坊が時間を稼いでくれてるから、その間に体力を回復させろ」
「…悪い」
なんとか身体を起こそうとするも、膝を突いた足が動かず立ち上がれない…そんなシグを支えるように抱き着くアルゴの言葉に、シグは大きく息を吸い、身体の力を抜く。
「…よく、ここが分かったな」
「簡単…とまではいかなかったけどな。まぁ、そこはオイラの腕前と嗅覚で、なんとかってところだ」
「……………」
「あと、マスターのお陰と、フォン坊が一緒に来てくれたからだな。フォン坊がいなかったら……きっと、間に合わなかった…」
いつもの飄々とした雰囲気は完全に鳴りを潜め、真剣な口調のアルゴがここにくるまでの経緯を語る。特に、最後に告げた言葉は重いものだった。
「まぁ、あとはフォン坊に任せとけって。いくらエクストラだからって、フォン坊に掛かれば「いや、駄目だ…」…えっ?」
「あのボスは……いくらフォン君が強くても、1人じゃ倒せないんだ…」
「…?!」
(…くそっ、身体が動けれれば、助けに入れるのに…!)
ボスの6本の腕による猛攻を搔い潜り、両手剣による斬撃をなんとか浴びせていくフォンの姿を前に、すぐに助けに入れないでいるシグは歯がゆい思いをしつつ、今は体力の回復を図るしかなかったのだった。
(…くっ!なんとか凌げているけど……このボス、やっぱり変だ?!)
6本の腕から繰り出される拳のラッシュを避けながら、フォンはボスの動きを…そして、正体を見極めようとしていた。ボスの名前からもある程度推測できる時はあるが、このEXボスは異質過ぎた。
時限強化によるものか、腕の数が徐々に増えるという特性は少しレアだが、それ以前におかしなところがこのボスにはあった。
…全てのモンスターにある筈の、HPバーの表示がないのだ。
アインクラッドのモンスターは、その身体の近くにHPバー表示される仕様になっている。それは、モブやネームド、ボスモンスター問わず同じ筈だった。
しかし、フォンが攻撃を捌き続けるEXボスには、どこにもHPの表示がないのだ。試しに、腕へと両手剣の斬撃を浴びせても、ダメージエフェクトは出るのにHPはやはり表示されない。
ボスの身体に何か変化が生じるのかと思っていたが、何度か斬撃を当てても、一向に変化がない…EXボスらしいといえば、そうなのだが…初めて対峙する異質なボスに、フォンもどういう風に攻略すべきかビジョンが見えておらず、攻めあぐねていた。
もっとも、1人で倒すつもりは毛頭なく、フォンが行っているのは時間稼ぎだったのだが。しかし、そんな悠長なことを考えていると、ボスの腕が8本に増えた!?
「っ…!(まだ増えるのか…!?これ以上は…!)」
6本までは避け切れていたが、8本ではおそらくギリギリ、10本以上になれば限界だと悟ったフォンだが、それ以前にボスが仕掛けてきた!
『…!!!』
「っ?!」
増えた直後、ボスの8本の腕が光り…ソードスキルの如く、強力な技を放とうとしていた。巨体をのけ反らさせ、その反動を活かし、8本の腕を一斉に振り下ろしてきたのだ!回避は間に合ず、防御ではただでは済まないと即座に判断したフォンは、両手剣を振り被り…
…ガァン!?
跳躍しながら両手剣を地面に叩きつけた!ライトエフェクトを宿していたことで、ソードスキルも発動し、その威力によって地面が揺れる!攻撃ではなく、地面を叩いた判断で、フォンの身体が宙に浮く!
フォンがいた地へと放たれた拳は空を切り、逆にボスの頭上を取ったフォンは、硬直が解けた直後に右手を両手剣から手放し、メニューを開く。幻想剣の効果で硬直が速攻で解けたこともあるが、そらにそのまま十八番のメニュー高速操作による、高速換装を行う。
両手剣が鞘ごと消えるようにストレージに収まり、代わりにより小回りを利かせられる片手剣『ログ・マルコス』を装備する。そのまま空中で回転することで勢いをつけ、片手剣を抜刀する!
「はあああああああああぁぁぁ!!」
抜刀の勢いにてボスの顔(といっても、真っ白な楕円のフォルムであるため、頭と顔が一体化しているのだが)を斬りつけながら、前宙し、ボスの背後を取る。だが、一撃を受けても、ボスは何もなかったかのように、背後にいるフォンへと攻撃を再開するように、ゆっくりと振り返った。
(っ…!これはマズいと思ってたが、どうする…!)
冷や汗を流しながら、これ以上の時間稼ぎは厳しいと判断しつつも、フォンは片手剣を構え、ボスの攻撃を受け流すことに集中するのだった。
「…ふぅ…(……よし、かなり体に力が戻ってきた…)」
フォンが1人でボスを相手取ってくれていたこともあり、少しだが休めることができたシグは、身体に力が入るようになったこともあり、ゆっくりと立ち上がった。
だが、回復したとしてもほんの僅か…フル稼働できるのは、恐らく10分も満たないだろう。しかし、動けれればなんとかなる、すぐにフォンの援護に行こうとしたシグだったが、
「…シグ」
「…!」
服を掴まれたことで、その動きが止まった。ゆっくりとシグが視線を向けると、不安な表情のアルゴの目とぶつかった。止めたいと思って、アルゴはシグの服を掴んだのだが、だが、今の状況的に無理だと分かっていたこともあり、その手を離した。
「アイテム、ないんだろう?オイラが持ってるポーション渡しとく……だから…その…」
「…ちゃんと帰ってくる」
「…!」
「お前が何度も救ってくれたこの命…捨てにいくわけじゃない。それに、お前に言いたいこともできちまったからな」
「…えっ?」
オブジェクト化したハイポーションらを押し付けるように渡し、言い淀むアルゴに、シグは彼女の頭を撫でながら言葉を告げる。その言葉の中に、走馬灯の中で浮かんだことも含まれていたこともあり、アルゴが聞き返そうとしたが、それを待たずにシグはフォンとボスの元へと駆け出してしまった。
「フォン君!!」
「っ…シグさん、もうだ「大丈夫だ!ボスに集中して!」…っ!?」
8本腕の猛攻を凌いでいるフォンに、援護に来たシグが連携を図ろうとしてその名を呼ぶ。シグの復活に意識が逸れそうになるが、集中しろという言葉にフォンは攻撃を捌くことに意識を戻す。
「ボスの性質を説明するから、1回で理解してくれ!もう分かってると思うが、このボスにはHPがない!いや、正確には、その巨体は本体じゃない!」
「…!」
「それはボスが戦闘用に身につけてる外装のようなものだ!だから、いくら攻撃してもHPが減ることはない!ボスに攻撃するには、その外装を壊す必要がある!」
(…なるほど。だから、ダメージエフェクトは出てたのか…ということは、この白い巨体は、いわば全身防具ということか)
ボスのカラクリが分かったことで、攻略の糸筋が見え、フォンはこれなら攻撃に転じられると思ったが、シグの放った次の言葉によって、その考えがひっくり返された。
「だけど、外装を剥がすだけじゃダメなんだ!このボスは1人じゃ倒せない!?」
「…っ?!」
「外装を剥がした途端、ボスが外装に応じた強力な攻撃を行う!それをソードスキルで弾き返して、外装を完全に破壊した上じゃないと、ボスを攻撃できないんだ!そして…外装を剥がして、ボスに攻撃できるのは約3秒!!」
「…!?(3秒…それは確かに、1人じゃ無理だよな!?)」
シグがEXボスを倒せていなかった理由が分かったところで、フォンはこのEXボスの面倒くさい性質を理解し、心の中で舌打ちをした。
時限強化に、ダメージをいくら与えればいいか分かり辛い外装、剥がそうとしたところで強力なカウンター技らしきものを放ち、更にはボス本体に攻撃可能なのは3秒のみ…短期決戦前提だが、1人ではどうにもできないギミックに、ボスの嫌らしさを覚える。だからといって、多人数で挑めば、別の…もっと凶悪なギミックが発動するのだろうと、これまでの経験則から、フォンは直感していた。
「それと、ボスへの3秒間の攻撃を逃せば、ボスはエスケープする!だから、チャンスは1回限りだ!?」
「……………」
ダメ押しとばかりの情報に、流石のフォンも顔が引き攣るのを覚えた。以前、フォン自身が経験したEXボスも、蔓を操る能力に、まさかのユニークスキルである二刀流もどきを使用していたこともあり、ある意味ではEXの名にふさわしいとも言えるのだが、それは対峙していなければという前提でだった。こうして、対峙していると、ただただ厄介な能力としか言えなかった。
「フォン君、もう少しダメージを与えたら、おそらく外装の一部が剥がれ落ちる。そしたら、5秒間のため時間の後に強技を放つ!それまで、2人でダメージを与える!」
「了解です!シグさん、武器は…?!」
「ゴメン、ない!何か貸してくれるか!」
「っ…なら、これを!?」
説明を聞き終えたところで、参戦すると告げたシグの頼みに、フォンは今自分が持ってきている武器を秒で思い出す。両手剣に片手剣、曲刀、ショートランス、手甲の5種…刀がないため、その5種の武器の中から、シグに適している武器は今装備しているものだけだと即座に判断し、その思考のままに片手剣をノールックでぶん投げた!
まさかの装備している片手剣を手放すという蛮行に、流石のシグも驚き、なんとか片手剣を受け取るが…その次に見せたフォンの動きに、更に脅かされることになる。ボスから距離を取るようにバックステップし、フォンが再び右手でメニューを開いていたのだ。秒の操作で新しい武器…ショートランス『マガ・ジュネス』を装備し直したのだ。
(…なんだ、今の操作速度…いや、それ以前に両手剣だけじゃなく、槍も使えるのか。話には聞いていたが、これが……夢幻の戦鬼と呼ばれるフォン君の戦い方か)
メニューの高速操作、それによる高速換装、そして、ありとあらゆる武器を使いこなす変幻自在のバトルスタイル…25層の階層ボスであるクォーターボスとほぼ1人でやりあったことで、その二つ名を確立させたフォンの戦い方に驚きつつ、シグも受け取った片手剣を確かめるように握りしめながら、そして、地を蹴った。
「スイッチ!」
「…っ!」
シグの言葉に、ショートランスにて腕を捌いたところで背中を合わせるように、フォンとシグが入れ替わる!そのまま加速した勢いで、シグが居合術の勢いにて巨体に一撃を浴びせる!
だが、ボスもやられたままではないと、タゲをシグに変え、背後にいた彼に向けて裏拳を浴びせようとする。振り返りの勢いを加えた、4つに並んだ裏拳がシグに迫るが…シグが慌てることなく、またしても地を蹴る。
消えたかのように見えたが、それは脚力による急加速によるものだった。拳の範囲外に逃げたところで、そのまますぐさま片手剣を振るおうと…したところで、なんとボスの拳が10本に増えたのだ!
「シグさん…!?……はぁ?!」
背後から攻撃しようとしていたフォンだが、まさかのボスの腕増加に叫ぶ…が、次にシグが見せた技に、更に驚くことになる。
10の拳が降り注ぐにも関わらず、シグはまるでその嵐を掻い潜るように交わしながら、逆にカウンターで全ての腕に斬撃を浴びせたのだ!
フォンが知らないシグの剣技…護式『五十嵐』によるものだった。身体を様々な方向へと曲げ、攻撃を躱す反動を使って刀を振るう反撃技だ。至近距離であればあるほどに強みを持つ技だが、回避に武器を当てることもあり、耐久値が万全でないと使えないという欠点はあるものの、手数が多い相手にとっては有効な技であった。
(…なんだ、今の…ソードスキルじゃない!?オリジナルの技…しかも、全身のバネを余りなく使ってる!あんなの、身体が柔らかいとかそんなレベルの技じゃない……相手の攻撃がどうくるか、完璧に予想してないと不可能だぞ!)
だが、フォンが何より驚いたのは、シグの柔軟性と予測の正確さ、そして、度胸の高さだった。オリジナルの剣術というのも驚いたが、それを実現するシグの技量や度量に驚いていた。
「スイッチ!」
「っ…はい!」
だが、今は先頭の最中、シグの掛け声に意識を集中させ戻したフォンも攻撃を再開する!
フォンがショートランスで巧みに拳のレンジギリギリから攻撃し、シグは近距離から斬撃を浴びせていく。
攻略組のトッププレイヤーで汎用性・応用性に長けるフォンと、近距離による防御性の高さと居合術の加速による一撃の重みがあるシグという、鼠のボディガードと夢幻の戦鬼による即席コンビは、EXボスと互角以上にやりあってみせていた。
そして、その時がきた!
シグの回転斬りとフォンの横なぎが同時にヒットした際、ボスの巨体が触れ、10本の腕を覆っていた白い外装が砕けるように皹が入った!
「…よし!」「…きた…」
HPバーが見えなかったため、いつくるか分からずにいた好機…1回限りのチャンスに、2人から声が出る。
その瞬間、ボスが怒りを表すかのように、全身から衝撃波を放った!その勢いに、シグとフォンは無理矢理距離を取らされる。
「…あとは、奴が放つ重い攻撃を返せば、ボス本体に攻撃できるんですよね?」
「ああ!だが、生半可な攻撃じゃダメだ。少しでも威力が足りないと、押し負ける!」
「……なら」
まずはボスの強攻撃を弾き返さなければ意味がない…シグの言葉に、フォンは自身がやるべきことを理解し、メニューを開く。そして、シグにあることを頼むことにした。
「シグさん、俺がボスの攻撃を弾き返します。あとはお願いできすか…それから、今から、俺が見せることは、秘密でお願いします」
「………了解だ」
自身の秘密を知られているということもあるが、それ以上に真剣な口調で告げたフォンの姿から、今からフォンが見せることはそれほどのものなのだと理解したシグは、それ以上は何も問わず、静かに了承の言葉を返した。
そして、フォンは右手でメニューを操作し、両手剣を再び装備する。抜刀した剣を振り被るように構え、ソードスキルを発動…だが、そのライトエフェクトの奔流を見たシグは…驚きと共に、先程のフォンの言葉の真意を理解した。
…それは、フォンが隠してきた最大の切り札であり、そして、このアインクラッドにて3人しかいないスキルホルダーによる技だったからだ。
『GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
拳を何度も何度も…その場で虚空を殴りつけるように拳を放ち続けるボスのモーションに合わせて、エネルギーがボスの真正面に球体となって集まっていく。そして、巨大な球となった瞬間に、全ての拳による突きと共に球体をシグたち目掛けた放ったのだ!
だが、それに合わせてフォンも飛び出しながら両手剣を…両手剣に宿ったライトエフェクトをソードスキルとして開放した!
「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」
幻想剣《両手剣》超重単発最上位ソードスキル〈エンド・オブ・フォーチュン〉が、ボスの放った球体とぶつかる!一瞬だけ拮抗したが、その均衡はすぐさま崩れた。
「い、けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ユニークスキルの奥義クラスのソードスキルが尋常ではない威力だ…すぐさま球体を押し返し始め、フォンの咆哮と共に両手剣が振り切られ、球体が完全に押し返された!そして、そのまま球体はボスへとぶつかり、大爆発を起こした。
「…シグさん!?」
奥義クラスのソードスキルを放ったせいで、硬直ですぐに動けないフォンだが、心の底から叫んだ時には、既にシグはその場にいなかった。大爆発を起こし、その白い巨体が完全に砕けた時には、シグはボスから1メートルにも満たない場所に接近していた。
…2回目の戦闘の際、なんとか鷲のモンスターが放った竜巻状の攻撃を弾き返した時と同じ姿…小さな赤ん坊のような姿のモンスターが細目であった目を見開いた。『The Fool』…愚者という名の赤ん坊の赤い目は、外装を剥ぎ取ったシグたちへと恨み節をぶつけるような視線を向けていた。
「終わりだぁ!?」
だが、そんなこともお構いなしに、シグは縮地による加速と、久しぶりに使うソードスキルを組み合わせた強力な一撃を放つ!
残り2秒…だが、この距離なら問題はなかった。轟音と共に、シグの姿がまるで線のようになったかと思った時には、片手剣をボスへと突き刺していた!
…だが、ここで予期せぬ…そして、ボスの最後のギミックが発動した!
…ガキィン!!
「っ…(障壁、だと…!)」
片手剣重単発ソードスキル〈ヴォーパルストライク〉の切っ先が、ボスを守るかのように、球体の障壁によって遮られたのだ。ヴォーパルストライクの威力はまだ死んでいないが、障壁が破れない。
このまま推し進めば破れるかもしれないが、だが、それは時間が許してくれない。
残り1秒…勝ち逃げを確信したかのように、ボスはゆがんだ笑みを浮かべ、シグを嘲笑ったかのように見えた。そう、もう1つのイレギュラーを除けば…
「こんにゃろう!!」
「っ?!」
残り0.5秒のところで、そんな叫び声と共に、シグが持つ片手剣の衝撃が走る!それは、いざという場合に備えて、ボスの近くへと駆け寄っていたアルゴが、片手剣の柄頭に対して飛び蹴りを放ったからだった。
敵・味方問わず想定外の一撃が加わり、障壁が砕けた!そして、すぐさま我に返ったシグは、その刃をボスの脳天に突き刺す!
「…くたばりやがれぇぇぇ!!」
散々煮え湯を飲まされていたこともあり、暴言を叫ぶかのように、剣を操る腕を無理矢理前に押し出す!その一撃により、ボスは信じられないといった表情と共に、頭部が吹き飛ばれ…その身体をポリゴンへと変えた。
「……や、った…?」
目の端に映るポリゴン片と、豪快な音楽と共に表示された『Congratulation!!』の表示で、ようやく終わったのだと…シグは理解したところで、自分の意識が途切れるのを理解して、そこでぶつりが視界が暗転したのだった。
「…!…シグ!?」
崩れ落ちたシグの姿を見て、慌ててアルゴが、そして、硬直が解けたことで動けるようになったフォンが心配して駆け寄る。
「…意識を失ってるだけ、みたいですね。無理もないですね…3日間、このボス部屋に閉じこめられて、あんなボスと戦っていたんですから」
「…フォン坊…本当に、ありがとうナ」
「…!いえ、俺は力を貸しただけです。さぁ、早くここを出ましょう。シグさんを休めるところに運ばないと」
アルゴが意識を失ったシグの上半身を抱き起こす。やはり限界を、いや、限界を超越して動いていたのだろう。EXボスとの連戦を鑑みれば、無理もないとフォンが告げる。
ようやくボスを倒し、シグの安全を確保できたこともあり、いつもの口調ながら、少し涙ぐむアルゴから礼を告げられる。いつものアルゴらしくない態度に、どれだけ彼女がシグを心配していたのかを察しつつも、ここでそれを指摘するのは野暮だと思い、フォンは誤魔化すように視線を逸らした。
ともかく、ここから脱出しようとフォンは告げ、アルゴからシグの身体を預かり、彼をおんぶして、アルゴと共にダンジョンから脱出するのだった。
ダンジョンの入り口まで戻ってきたところで、シグも意識を取り戻していた。だが、まだ万全に動ける状態ではなかったため、フォンとアルゴの肩を借りながらの脱出だった。
転移結晶を全員持っていなかったため、そのまま最寄りの転移石が最寄りの街まで行こうという話になり、移動を始めた3人だったが…彼らを遠くから見る1つの影があった。
「…クソったれが。あの野郎、また邪魔をしやがって…!」
いつもの冷笑を浮かべる余裕は消え、苛立ちを隠すことなく、近くの樹へと怒りをぶつけるように拳を放つ。
…その怒りの主は、シグを罠に嵌めたPoH本人だった。シグを罠に嵌めたところまでは、彼の計画通りだった。だが、その計画を全てぶち壊したのは、PoHが最も嫌うプレイヤー…フォンの介入だった。
フォンがPoHを嫌い理由はいくつもあるが、PoHが最も(歪で凶悪な)愛を向けている黒の剣士ことキリトの相棒であり、彼の隣にいつもいることが最大のものだった。そんな憎しみしかない相手に、自身の計画をぶち壊されたことは、怒りを覚えるしかなかっただろう。
「……はぁ~~~…まぁ、いいか。それに、あの死神もどきのガキが、夢幻の戦鬼と知り合いだっていうのは、意外な誤算だ。あのガキをもっと苦しめれば、夢幻の戦鬼にとっても嫌がらせになる…そして、キリトにも……ククッ、これは愉しみになってきたぜぇ」
「だったら、地獄で考えているといいさ」
「っ!?…ガァ?!」
一しきり怒り狂ったところで、幾ばくか発散できたこともあり、今後の姦計へと思いを馳せるPoH。シグを苦しめることが、フォンを…そして、キリトを苦しめることにもつながると分かれば、その口に歪な笑みを浮かべた。
…が、その邪な考えを断罪するかのように、冷たい言葉がその場に響いた。
背筋が凍り、咄嗟に魔剣であり愛刀である『殺人包丁』を胸元に構えたのと同時に、強烈な衝撃はPoHを襲い、そのまま吹き飛ばされ、樹木へと叩きつけられた!
声を掛けられるまで、一切気配を感じられなかった襲撃者の姿を目にしたPoHは珍しく、驚きの表情を顔に出した。
「……Ah、なるほどぉ…てめぇが、あのガキの協力者か」
銀色の顔上半分を隠した仮面、灰黒色のローブ…そこには、シグが狩人として活動していた格好と同様の姿をした人物がいた。シグの時と違うのは、その手に装備されたのが、返り血を浴びたかのように模様のアクセントが刻まれた黒い手甲を装備していることだった。
一瞬、狩人が現れた理由が分からず呆けたPoHだが、すぐにその答えに気付いた。それは、アバウが引き起こしたアルゴ誘拐事件の際に、笑う棺桶と攻略組をミスリートした、狩人の協力者…あのジョニー・ブラックと赤眼のザザと互角にやりあった人物であると、すぐに結び付けたからだ。
「よく俺がここにいると分かったな」
『…お前らのやること、隠れているところなど、おおよそ想像はつく。どうせ、あの少年を鼠が助けにくると踏んで、その一部始終を傍観するつもりだったんだろう?夢幻の戦鬼の介入は予想外だったみたいだがな』
(…声を変えてやがる。いや、話し方もか…)
感情を一切殺したような話し方…その佇まい・雰囲気からただ者ではないと悟ったPoHは、まだ襲撃のダメージが抜けきっていないこともあり、なんとか相手のペースを崩せないかと言葉で揺さぶろうとする。
「…あのガキの救援にくるとは、お涙頂戴のお話で笑えてくるぜ。あんな偽善の塊野郎を助けるなんて、よっぽどあのガキが大事なんだなぁ?」
『その偽善を背負うとする少年を困らせるお前は、立派な悪だ。その点は誇っていいだろう…認められはしないだろうが』
「だが、俺があいつを諦めると思うのか?俺はあのガキを使って、もっと面白いことをする…あのガキは俺たちと同じだ。偽善でそれを隠そうとする、立派な人殺しだ……そんなガキを庇いだてるお前もな?」
『……………』
「正義と言ってオレンジを捕え、そして、アバウを殺したアイツは…死神の名がふさわしいだろう?人をキルする愉しみを分かれば、奴が堕ちるのはそんなに難しい話じゃない…それはお前が一番分かってるだろう?」
『……………』
PoHの言葉に、もう一人の狩人は何も返さない。このまま相手の動揺を悟り、隙を見て逃げようと画策していたPoHだったが、
『…思い込みの発表会はもう終わりかい?あの笑う棺桶創始者にしては、安っぽい言葉だらけで、一瞬偽物かと疑ったよ』
「…Ah?」
『そんなことは知っているし、そうならないことを僕は…俺は確信しているから、問題ないさ』
きっぱりと、そして、次に続く言葉は更に自信をもって告げた狩人の言葉に、PoHの自信が揺らいだ。一瞬素の口調が出たが、それだけは狩人は自信をもって告げることができた。
『あの少年は命が失われる意味を、その時に何が生じるのかを正しい意味で分かっている。分かった気でいて、何も分かっていないお前たちとあの少年を同じとするな…そして、あの少年に手を出すというのなら………お前たちを狩る新たな狩人が、全てを邪魔してやるものだと悟れ』
(…あー、こいつは駄目な奴だな。確固たる信念をもってやがる。そして、言ったことは確実に実行するタイプ……厄介だな)
崩せない…大きな壁を思わせる狩人の言動に、PoHは内心舌打ちを打つ。シグと違い、この狩人の思考は確固たるもので、ちょっとやそっとでは打ち崩せるものではないと悟るしかなかった。
さらに、語る言葉が実行する気でしかないレベルのものであり、これ以上のシグへの干渉は、逆に自分の行動の邪魔にしかならないと悟ったPoHは、折角見つけた玩具を諦めることを決めた。
「…まぁ、いいだろう。お前みたいな狂ったみたいに覚悟ガンギマリのやつに、つき纏われるのは、面倒だ…あのガキは当面放っておいてやるよ」
『……………』
「OhOh、そんなに疑うなよ。俺は正直者だぜぇ?じゃあな、偽善のヒーローさんよ?」
PoHの言動の全てを疑う狩人に、PoHはいつものふざけた調子の口調にて告げ、そのまま森の中へと姿を消したのだった。
気配が遠ざかり、完全に消えたところで、狩人…の姿に扮していたアジアも大きな息を吐きたいのを堪え、警戒を解いた。
(…シグ君、無事で何よりだ。さてと…こんなことをしていたとバレないように、急いで店に戻らないとね)
シグやアルゴに黙って、PoHと接触していたとバレるわけにはいかないと、アジアもまたその場から去り、急ぎ店へと戻るのだった。
「…フォン君、今日は助かったよ。本当に、ありがとう」
「いえ、困った時はお互い様ってことで。それで…えっと…」
『羽休めの宿』がある第47層の街区に設置されている転移石の前で、今日の救援の礼を告げるシグに、フォンはそこまで大したことじゃないと返していた…のだが、その表情はどこか困ったような笑みを浮かべていた。
フォンがそんな表情をする原因は、シグに右隣にあった。フォンがどうしたものかという視線をそちらに向けているが、シグの方も困ったように視線を自身の右側にいる人物…いや、正確に言うならば、自身の右腕を抱え込むように密着している人物へと視線を向けていた。
「…アルゴ、もう大丈夫だから、離してくれないか」
「……………」
(…これは駄目か)
ボス部屋から戻ってくるまで、疲労のせいもあり、フォンとアルゴの肩を借りて戻ってきたシグ。なんとか歩けるまでには回復したところで、2人の肩を借りずにすむと思った矢先、今度はアルゴがシグの右腕にくっついたまま離れなくなってしまったのだ。
2人の仲をなんとなく察していたフォンだが、このアルゴの行動は予想外であり、困惑を隠し切れていなかったというのが顛末だ。
何も言葉を発さないアルゴに、シグもどうしたものかと思い、フォンに助けを求めようと思ったのだが、
「…俺、お邪魔っぽいので帰りますね。PoHとのやりとりなどの話はまた今度。えっと…アルゴさんのこと、お願いしますね?」
「…わ、分かった」
自分も手助けできないと暗に告げられたフォンが去るのを止められず、シグはアルゴと二人っきりにされてしまう。このままこの状態でこの場に居続けてしまえば、注目を浴び続けるだけであり、全てを諦めたシグは溜息を吐きたいのを堪え、言葉を発する。
「…とりあえず、店に帰るか」
「…(コクッ)」
シグの問い掛けにアルゴは静かに頷き、二人は『羽休めの宿』に戻るのだった。
宿に戻った2人を(PoHとの邂逅から、速攻で移動し、ギリギリで店に戻ってきていた)アジアが出迎えてくれたが、アルゴの姿を見て、何かを察したようで、
「ごゆっくり」
と意味深な言葉をシグに告げ、そのまま店の奥へと姿を消してしまった。まさかの師匠にまで見捨てられたシグは、ともかくアルゴを店の2階にある自身の部屋へと連れていった。
こうして、他人を入れるのは初めてである自室で、シグはアルゴを連れ添うにようベッドに腰かけた。そこで、ようやくアルゴが自身の右腕を話してくれたのだが、その表情は伏せていることもあり、フードに隠れてよく見えないでいた。
「「……………」」
どちらも言葉を発せず、沈黙がその場を支配していた。アルゴを1人にした方がいいのかと思うシグだが、なんとなくアルゴの真意を悟っていることもあり、離れずにその場にい続けた。
どれくらい時間が経ったか分からなかったが、ようやくアルゴがその口を開いた。
「…今度の今度は、本当にダメだと思ったゾ」
「……………」
「…どうせ、オイラとかを人質にされて、しょうがなくPoHの脅しに従っただろうけど……オイラ、今回の件、かなり怒ってる」
「それは……お前にまた迷惑を掛けたこと「本気で言ってるのなら、ぶっ飛ばすぞ」…っ!」
いつもの口調が消え、本気の怒りが込められた言葉がアルゴの口から飛び出したことに、シグは思わず息を呑んだ。
「……悪い、なんでお前が分かってるのか……多分、分かってない…」
「…なら、確認だ。お前は、オイラの何だ?」
「…ボディガード、だよな?」
「ああ。それで、ボディガードのお前の仕事はなんだ?」
「それは………お前を護ることだ」
「……………」
そこまで告げたところで、アルゴがまた黙ってしまった。しかし、シグの回答が間違っているわけではなく、これから告げる言葉を言うための覚悟を溜めるための沈黙だった。
「…だったら、お前がオイラを護ってくれれば、解決する話だろうが!なんで、それを分かってくれないんだよ!?」
「……っ?!」
「お前はオイラのボディガードなんだろう!オイラが危ない時は護ってくれるんだろう!だったら…責任もって、最後までオイラを護ってくれよ!オイラはお前のことを信じてる…だから、お前には命を…オイラの全部を預けられる!!それぐらいお前のことを信じてる……だから、オイラのことも信じろよ……信じて、ちゃんと相談してくれよ…」
「……………」
アルゴの怒りの真意を理解したところで、シグは自分がとんでもない誤解をしていたことを悟った。
アルゴを護ろうとした行動の筈が、それがアルゴをある意味で裏切るような行動であったことを悟ったのだ。それと同時に、アルゴが告げてくれた言葉に…どれだけアルゴが自分のことを信じてくれているのかを本当の意味で理解できた。
「アル「見るな…」…えっ?」
「…今、人に見せられる顔を……してないから…見るナ」
「…(…理不尽)」
自分の右腕に顔を突っ込むアルゴに、シグはどうしたものかと思って声を掛けたが、返ってきたのは意外な言葉だった。よく見ると、アルゴの耳が赤くなっていることに気付き、シグは心の中でツッコミを入れつつ、彼女をゆっくりと抱き締めた。
…なんとなくいい雰囲気だと思いつつ、これからどうしようかとシグが思っていると、アルゴが自分の方に体重を預けてきたことに気付いた。
「…アルゴ?」
「…すぅ…すぅ…」
「(…寝てる?)」
静かになったと思い、アルゴの方をゆっくりと見ると…寝息を立てているアルゴの姿があった。
緊張の糸が切れたこともそうだが、ここ数日、シグの手がかりを探し回っていたため、ほぼ休まずに稼働していたこともあり、体力の限界がアルゴにも訪れたのだ。
(…こ、ここで寝落ちって……こいつ、狙ってやってないよな…)
あまりのタイミングのよい寝落ちに、普段のアルゴの言動もあって、思わず乾いた笑みを浮かべるシグ。だが、その一方で、こんなになるまで自分のために動いてくれたアルゴに、シグは偽りのない感情を言葉にするのだった。
「…ありがとうな、アルゴ。そんなお前のことを……好きだからこそ、ちゃんと護るよ」
本人の前ではまだ告げる勇気がないが…誓約かのように、シグは言葉を告げ、今はアルゴを休ませるべく、彼女をベッドに寝かせるのだった。
…しかし、ここで問題が1つ発生した。
なんと、アルゴがシグの身体を掴んだまま離してくれない状態が再発したのだ。
寝ながらの行動に、どうやってもアルゴを身体から離すことができず、シグもEXボスと連日戦っていたこともあり、疲労が限界に近いこともあり、諦めてそのまま同じベッドで寝るしかなかった。
…翌日、寝ぼけたアルゴからようやく解放されたシグが店の1階に下りると、
「おめでとう、ようやく二人が付き合いだしたお祝いとして用意したのだけど…ちゃんとできたかい、シグ君?」
赤飯代わりに、赤い豆を炊いたアジアがとんでもない発言と共に出迎えてくれた。暴走気味な気遣いをしてくる師匠に、流石のシグもちょっとキレた。
「…あんたが想像しているようなことは一切してませんし、俺とアルゴは付き合ってません!」
「…えっ!?」
あんた呼びをするシグの発言に、いつもは冷静なアジアの表情が崩れるのだった。
…ちなみに、この後我に返ったシグが、アジアが自分とアルゴが両片思いであることを悟っていたことに気付き、また顔を赤くするのだった。
書いてて思った…ラスト、甘くし過ぎたと(笑)
ということで、EXボス戦は終了です。ようやく恋心を双方が自覚したところで、話は佳境を迎えます。
…おそらくあと4話で外伝のアインクラッド編は終了となる予定です(当初はここまで長くなるとは、毎度の如く思ってませんでした。いっても10話ぐらいかなと)。アインクラッド編が終わったら、外伝は少しお休みです(外伝は外伝で書きたいこといっぱいあるので、それはアインクラッドの最終話でお話できればと思います)。
次回は…ようやくこの2人を……ということで、激甘回になりますので、とりあえず無糖コーヒーのご用意をお勧めいたします。
それでは!