ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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あっ、サブタイ通りです。
ホロウ・レトロスペクト関連のお話がちょっと絡みます(笑)

それでは、どうぞ!


第二十三話 「防人と武器づくり」

「…ここが『ファントム・クラウド』か。意外と目立ちにくいところにあるんだな」

 

「まぁ、会員…招待状を持っている人しか入れないのもあるし、工房主が有名になることをあんまり望んでないからナ。といっても、その真意と反して、隠れた名店ということで超有名になってるけどナ」

 

シグとアルゴが付き合い出してから3日後…といっても、2人の過ごし方に変化があったわけではない。そもそも仕事は仕事、プライベートはプライベート…まぁ、後者についてはそもそも恋人に近い空気感で接していたこともあり、そこまで大きな変化はなかったのだ。

 

…もっとも、

変わったことといえば、よくアルゴが『羽休めの宿』に泊まることが多くなったくらいだ。

 

そんな余談はさておき、シグはアルゴに連れられて第21層、その層にある鍛冶屋『ファントム・クラウド』へと来ていた。大通りから入った小路にある2階建ての建物を前に、シグがそんな感想を呟いていた。

 

そんなシグに返しながら、アルゴはドアを開けて店内へと入っていく。それに続いてシグも店内に入り、彼らを出迎えてくれたのは、

 

「いらっしゃいませ、ファントム・クラウドへようこそ!お待ちしてました、アルゴさん、シグさん」

 

「こんにちは、シグ君…話には聞いていたけど、本当にフォン君が経営しているんだね」

 

「まぁ、鍛冶師をやり始めたのは店をやるつもりじゃなかったのですが…装飾関連で物凄い需要を頂く形になりまして…といっても、攻略が優先なので、顔出しNGということで一応お店を開く形で対応することになったんです」

 

店主の言葉と、そして、ツナギ姿のフォンを目にして、聞いていた話が現実だと知ったシグに、色々あったのだと言いながら、首元に右手を当てつつ苦笑いするフォンは2人を再び出迎える。

 

「悪いナ、フォン坊。急な依頼になっちまって」

 

「いえいえ…まぁ、アルゴさんの頼みですし。それで、獲物の方を見せてもらえますか」

 

「…これなんだけど」

 

「拝見しますね」

 

シグたちがフォンの店へと来た理由…それは、シグの武器の修繕が目的だった。先日のEXボス戦にて、シグの刀が半壊してしまったことは記憶に新しい。

 

それで、アルゴの依頼で情報収集のボディガードとして活動しようとしたところで、シグが自身の武器が破損していることを思い出したのだ(アルゴとのデートや告白のこともあり、完全に失念していたのが原因だった)。

 

シグなりに武器に愛着があったこともあり、どうしようかと思っていたところ、アルゴから凄腕の鍛冶屋である『ファントム・クラウド』を紹介すると言われて、現在ここにいるわけだ。

 

「……………」

 

「(それにしても本当に驚きだよ…まさか、フォン君がファントム・クラウドの店主だったとはな)」

 

「(フォン坊は元々全ての武器を使いこなす奴だったからナ。その分、武器や防具のメンテナンスに色々と要することになって、それなら鍛冶師として自身の武器をメンテや調整した方が早いとなって、鍛冶スキルを取得し、マスタリーしてマスタースミスになったからナ。まぁ、作った装飾品のデザイン性が人気を博して、隠れた有名店になっちまったんだけどナ)」

 

「(そういう経緯があったのか…というか、夢幻の戦鬼があのファントム・クラウドの店主というのがまたな…フォン君って、ちょっとした化け物じゃないのか?)」

 

「(…否定できないナ、うん)」

 

シグから受け取った刀の残骸やステータスを真剣に分析している中、シグとアルゴはフォンの邪魔をしないように小声で、この店ができた背景を話していた。そんな中、攻略組でありながら、有名な鍛冶師であるフォンに驚きを覚えていたシグ。その話の中で、フォンが一種の化け物ではないかという話になり、アルゴも否定できずに苦笑していた。

 

「…すみません、お待たせしました。武器のステータス値は分析できました。このまま修理することもできますが、この機会に強化進化をした方がいいかもしれないですね」

 

「…強化進化って…確か古い武器をインゴットに変え、他の素材と一緒に合成して武器を作成する鍛冶方法だよね?マスタースミスレベルでないと、失敗率が跳ね上がるって聞いたことはあるけど…」

 

「まぁ、ここはフォン坊の腕を信じようゼ。それで頼むヨ」

 

フォンからの提案に、以前耳にしたことがあった情報を口にするシグ。そんな難しレベルの案件を依頼することに少し後ろめたさを覚えるシグに対し、アルゴがその背中を押すように話を進める。

 

ということで、強化進化を施すことになったわけで、フォンはシグに対して武器についてすり合わせをしていく。

 

「なら、武器の方向性を決めましょうか。スピード重視ということで、刀は軽めの方がいいでしょうか」

 

「…いや、できれば、今のものより少し重さを足してもらえるかな。スピードは振り方とかでどうにもできるから。どっちかといえば、抜刀術以外…護式の技を放った時のことを考慮して…」

 

「護式…?」

 

「…そうか、フォン君にはその辺りの話は詳しくしてなかったか。護式っていうのは…」

 

あーだこーだとフォンとシグが武器の方向性についてすり合わせをしていく中、邪魔をしてはいけないと思ったアルゴは少し離れて2人が話している姿を見守っていた。いつもならそれでよかったのだが、少しばかり羨ましいと感じる心がアルゴに生まれていた。

 

普段はクールで、自分に対しては粗暴な態度が多いシグが…フォンと武器について、これでもかと熱弁を交わすその姿は、自分には見せない姿なこともあり、アルゴは思わず頬を膨らませていた。

 

「…なるほど、方向性は分かり……分かりました。なら、少し材料を確認しますので、シグさんは…アルゴさんの方をお願いします。どうやら、ちょっとご立腹みたいですので」

 

「…?それはどういう…(…あー、なるほど)」

 

一通り話し終えたところで、武器の性能の方向性について把握できたフォンだったが、その時、カウンター越しにアルゴの態度の返還に気付き、意味深な言葉をシグに告げてから鍛冶場の収納棚に材料の確認をしに行った。

 

フォンの言葉の意味がどういうことかと思っていたシグだったが、振り返ってアルゴの方を見たことで、その意味を理解した。どこか寂しそうに視線を落としているアルゴに苦笑しつつ、彼女の近くに歩み寄り、

 

「…ふにゃ!し、シグ…?」

 

「悪かった、除け者にする形にしちまって」

 

「べ、別に…そんなんじゃねーヨ」

 

接近してきたことに気付いたアルゴが顔を上げるのと同時に、シグが彼女の頭を撫でながら一人ぼっちにさせていたことを謝罪する。突然のシグの行動に驚きつつも、照れ隠しにて乱暴な言葉が口から出るも、撫でられることを嫌がらずに、アルゴはシグの好きなようにさせていた。

 

(…もう少しだけ、あのままにしておくか)

 

一方で、2人の恋人空気に胸やけを覚えつつ、材料の確認ができたため、シグに声を掛けたかったフォンは、空気を読んで、少しばかりその空気に耐えるのだった。

 

 

 

「今、持っている素材で強化進化は問題なくできると思います。デザインの方はどうしましょうか?」

 

「…特にその辺りにこだわりはないから、任せていいかな?」

 

「なぁ、フォン坊。デザインってある程度は調整できるヨナ?」

 

「できますよ。何かアイデアがある感じですか、アルゴさん」

 

「…ちょっと耳を貸してくれ」

 

それから少しして、(そろそろいいだろうとタイミングを見計らった)フォンがシグへと声を掛けて、武器の進化が可能だと告げて、製作前のデザインの確認を、アルゴも加えた3人で行っていた。

 

特にこだわりはないというシグに対して、何かを思いついたアルゴ。そんな彼女に耳打ちをされるフォンを見ながら、何を伝えているのかと首を傾げるシグ。そして、アルゴのアイデアを聞いたフォンは少しばかり考えたかと思えば、

 

「…いいですね、ちょっとやってみましょうか」

 

アルゴのアイデアを形にできると判断したのか、フォンは手元にあった羊皮紙に物凄いスピードで刀のデザイン図を書いていく。まさしく仕事人らしいその仕草さを、アルゴとシグは黙って見守っていた。

 

そうするうちに数分…図案も出来上がったようで、フォンが鍛冶場にて作業を始めていく。アルゴは何度か見たことがあったが、シグはフォンの鍛冶をする姿を見るのがこれが初めてだった。

 

そして、その姿に言葉を失い、目を奪われていた。熱して打たれる金属やインゴットだけに意識を傾け、慎重に鍛冶槌を振るっていく姿は、一種の達人の姿だった。

 

夢幻の戦鬼とはまた違う、少年でありながら、鍛冶師としての腕前を見せるフォンに、流石のシグも、その動きに魅入ってしまっていた。

 

…そして、鍛冶の一連の動きを見ているうちに時間はあっという間に過ぎていき…

 

「……よし、いい感じですね」

 

「できたのカ、フォン坊?」

 

「ええ…かなりの代物に仕上がったかと。シグさん、ちょっと試してもらえますか?」

 

「…ああ。なら、試させてもらおうか」

 

刀を打ち上げ、鞘への装飾までも終えたフォンが大きな息を吐いたことで、ようやく作業が終わったのだと悟ったアルゴが声を掛ける。

それに続き、シグが言葉を紡ぎ、フォンから刀を受け取る…重みはほぼ変わらず、デザインもシンプルだが深みのある漆黒、そこに鍔の下あたりに何かの装飾品がつけられていた。そして、本体である刀を抜き、その刃を目にすると…

 

「湾れ調の表裏の刃紋…村正を意識したものか」

 

淡い青…そして、穏やかな波を表すかのよう刃紋を目にしたシグは静かに呟く。アジアから一定程度は刀の知識を叩き込まれたこともあり、妖刀とも言われた日本刀でも有名な村正に似ているとシグは理解した。作り手のフォンもその真意を理解してくれたことに、少し嬉しそうにしていた。

 

「重みも……悪くない。重心の取り方は調整しないといけないけど、想像の範囲内だと思う」

 

「ふむ…あとは試し斬りですね」

 

「試し斬り?」

 

「普通なら実戦で試すのが一番ですが、シグさんの場合、抜刀術がメインですよね?実際に抜刀するのにひっかかりがないか、違和感がないも含め試し斬りを行っていた方がいいかと思います」

 

抜刀した刀を確かめるように握り直しながら、上下に腕を振るうシグ。そして、その出来栄えの感想を口にしながら、改めてフォンの腕の凄さに感心していた。

 

一方で、ツナギを外しながらフォンが試し斬りを提案してきたことにアルゴが首を傾げていた。その真意を説明しながら、フォンはどこか含みのある笑みで次の言葉を口にするのだった。

 

「何か問題があれば、すぐに直せますしね。それに…ここには、丁度いい相手がいるわけですしね」

 

 

 

「…本当にいいのかい、フォン君?」

 

「ええ、こっちも性能をチェックしたいと思っていた武器があったので。まぁ、武器を作ったお礼返しとして受けて頂けると助かります」

 

工房の裏…テニスコートの半分ほどの大きさだが、藁人形といった試し斬りの的やサイズが大きな素材や鉱石の群体などが隅に置かれている場所に、シグとフォンは対峙するように立っていた。

 

シグはともかく、フォンはデフォルトの戦闘着である『蒼炎の烈火』を見に纏っていた。どこか遠慮がちなシグに対し、フォンは自身の背丈の1.5倍はあるであろう両手剣を手にしていた。

 

フォンの言葉のとおり、試作型の超大型両手剣である。対集団戦や大型ボスとの運用を考慮しての仕様、鞘すらもない抜き身の大剣はそれなりにSTR値を上げているフォンでも両手でやっと扱えるものだが、その威力は桁違いだ。

 

そんな両者の成り行きをアルゴが素材置き場の端にて見守っていた。武器破壊を前提とするために、決闘の初撃決着モードで闘うとのことだが、かなり興味深いマッチングでもあったため、少しばかりワクワクしていたところがあった。

 

…といっても、抜刀術の感覚を確かめるだけ、フォンも幻想剣スキルはオフにしており、幻想剣のパッシブ系スキルは適用されないようにしているので、本気のぶつかり合いというわけではないのだが。

 

「…さてと、それじゃあ、始めましょうか」

 

「…ああ」

 

両者の準備が整ったところで、声を掛けたフォンにシグも応じ…両者が決闘の申請と承諾をし合ったことで、決闘システムのカウントタイマーが始動する。60秒の猶予時間が徐々減っていく中で、シグとフォンが意識を戦闘モードへと切り替える。

 

1度互いに背中を預け合ったことがあるとはいえ、互いの雰囲気の圧を感じていた。両者ともにアインクラッドでは猛者の…それも上位に位置するプレイヤーなのだ。それは見届け人であるアルゴも同じものを感じていた。

 

…3、2、1……カウントがゼロになった瞬間に両者が動いた!だが、その決着はものの数秒で着いた。

 

…ガコン…!

 

遅れてやってきたかのように、鈍い落下音が響いた。見慣れている筈のアルゴさえも驚きのあまり息を呑む。そして、それ以上に衝撃を受けていたのは、

 

(…全く……見えなかった)

 

手元に残った刀身が何が起こったのか物語っていた…それを目にし、ようやく事態を認識したフォンは心の中で驚きの感想を抱いていた。

 

カウントが0になった瞬間、シグとフォンは動き出していた。だが、そのスピードがシグが異常だったのだ。もちろんフォンもシグの抜刀術が凄いということは耳にしていた。だが、その速さは想像を遥かに上回るものだったのだ。

 

…いや、それ以上に驚きだったのが、シグの加速の仕方だった。

 

刀を抜く直前、シグが更に加速したのだ。フォンが両手剣を振るおうとした直後に、抜刀しかかっていたシグが消えたかのように加速したのだと、後に理解したのは、叩き切られた両手剣の半身が地面に落ちたのを認識してからだった。

 

腕に残る鈍い痛みに従うように、両手剣だったものの柄を手放す。

 

「…降参です(…本当に、上には上がいるんだな)」

 

感心と呆れが混じった言葉を胸に、両手を上げるようにして降参の意を示すフォン。振り返ったその視線の先には、鋭い目のまま同じく振り返るシグの姿があった。そして、

 

「…本当にいい刀だ。ありがとう、フォン君」

 

瞬きと共に普段の雰囲気に戻ったシグがお礼の言葉を口にしたところで、試し斬りを兼ねた決闘は終わったのだった。

 

 

 

「それじゃ、お代なんですけど…こちらになります」

 

「…いや、これ…安過ぎないかい?」

 

決闘後、鍛冶屋の母屋へと戻った3人。会計ということで、フォンから提示された見積の金額を見て、シグは思わず疑問を口にした。シグもそれなりに鍛冶を他人やNPCに依頼したこともあり、ある程度の相場は知っているつもりだが、それにしてもこの低価格は異常だった。特に、今回は強化進化の上に、マスタースミスであるフォンが鍛冶を担当したのだ。その価格がこの価格で済むのはおかしいのだ。

 

「…まぁ、ネタ晴らしをしてしまうと、実はアルゴさんから前払い金をもらってまして」

 

「…アルゴ、お前…」

 

「ふぉ、フォン坊!?なんで言うんダヨ!」

 

「いや、口止めされてませんでしたし…それに、シグさんにくらいは素直になってもいいじゃないんですか?刀の銘だって指定して「あー!あー!?言うナ、馬鹿!?」…だそうです」

 

さらと裏事情を明かしたフォンの言葉を聞き、流石のシグもジト目で隣にいたアルゴを見る。一方のアルゴはまさかのフォンの行動に抗議の声を上げるも、口止めを明言していなかったことが仇になり、更に別のネタ晴らしをされてしまい、完全にいつもの調子が崩れていた。

 

「刀の銘…?てっきりフォン君が変な気を遣ってつけてくれたのかと…」

 

「いや、僕はどっちかというと、武器の特徴とか見た目で命名するので。その刀の銘はアルゴさんのリクエストですよ。鞘についている装飾品と合わせてね」

 

「っ~~~~~~~~~~~~~!?」

 

全てをバラされて顔の温度がオーバーヒートしたアルゴが、その顔を隠すようにフードを深くかぶってしまった。

 

「フォン君、悪いんだけど…アルゴが払った料金を返してくれないか」

 

「…それはいいですけど、でも、アルゴさんが「全額じゃなくていい」…えっ?」

 

「総額の半分の額だけでいい。残りは俺が支払うよ。折半で負担しあうのが相棒で……パートナーとして当然のことだからな」

 

「…し、シグ?」

 

「せっかくお前がここまで色々してくれたんだ。お前を護るための刀でもあるんだから…当然だろう」

 

そんなやりとりにどこか微笑ましいものを見るような覚えをしつつ、フォンは改めて料金をアルゴに送金し、シグから別途高額のコルをもらうのだった。

 

「…防人乃刀『雷護雨』…使わせてもらうよ」

 

その言葉と共に、刀を突きだすシグ…その鞘には、鼠を模した装飾品が静かに揺れていたのだった。

 

 




アルゴさんがちょっとデレてます…まぁ、シグもフォンも口が強いタイプなので(笑)
くっつくとヒロインズが色々書きやすいんですよね…

ということで、壊れた刀の修復回でした。一瞬、フォンとのガチバトルすることも考えたのですが、まぁ、ちょっと大人しめな形となりました。

それでは、また。
(31日は0時および正午12時にそれぞれ更新予定です!)
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