幕間ということで、アインクラッド編の終わりからのは話です。
…あっ、まぁまぁ重い話なのでご注意ください。アインクラッド編書こうとした時から、今回のお話は考えていたところがあります。
外伝は月1回更新を予定しております(15日更新かなと)。
それでは、どうぞ。
ソードアート・オンラインが攻略されてから1ヵ月が経過した。突然のゲーム攻略に、現実世界でも大きな混乱が生じた。
ゲーム関係の公的な対応をしていた総務省やゲームプレイヤーたちの体調等を管理していた病院、そして、連日SAO関連の報道をしていたマスコミが一斉に動き出さざるをえなくなった程の急展開だった。
だが、それは現実世界に返ってきたプレイヤーたちにとっても同じだった。いきなりの帰還…だが、すぐに帰還したからといって、全てが解決するものではなかった。
2年近く寝込んでいたのだ…そんな長期間身体を動かさずにいたのだ。よほどの超人や鍛えていた人間でなければ、身体を動かすこともできないでいた。
そして、それはかの鋼鉄の城の最前線で闘っていた攻略組も、そして、高レベルプレイヤーの1人でもあるシグ…いや、速水英雄も同じだった。
「…ふぅ…(だいぶ歩けるようになったとはいえ、まだまだだな)」
今日のリハビリを終え、自身の病室に戻ってきた英雄は着替えながら、そんなことを考えていた。歩行は難なく行えるようになり、軽いジョギングも可能になった。しかし、腕の握力などは戻り切っておらず、感覚を確かめるように英雄は手を開いたり閉じたりしていた。
といっても、あと1週間と少しで退院できるのだから、かなり元には戻っているのだが。
…コンコンコン
「どうぞー」
病室の外からノックがされたので、着おうとしていたTシャツを完全に着終えてから承諾の言葉を発した。すると、そこから姿を現わしたのは、
「英雄…リハビリのあとに悪いな」
「来週には退院だってね。とりあえずおめでとう」
英雄の父である速水智也と、アジアこと東方勝雄がその姿を扉から露わにした。2人が事前に来ることは聞いていたため、英雄も特に驚かずに2人を出迎えていた。
東方は英雄よりも2週間早く退院し、日常生活に復帰していた。今は短時間だけ喫茶店で働くなどで、少しずつ職人としての感覚を取り戻しているとのことだった。しかし、医者にも言われたことだが、
『いや、どんな回復速度ですか…』
『…まぁ、昔ちょっとね』
リハビリからの回復が早かったことに驚きの言葉を告げられた東方はいつもの返し言葉を返したとかなんとか。
「お医者さまも、このまま予定通り退院できるって話だったよ」
「そっか…父さんもゴメン。今日も仕事を早上がりしたんだろう?区役所だって、今、大変なのに…」
「まぁ、総務課の皆が気を遣ってくれたから気にするな」
英雄の定期検診もあったため、英雄の主治医との面談もあり、智也は仕事を早退して病院に来ていた。対する東方は付き添いで智雄についてきたのだった。
「…父さん、前に頼んでいたことだけど…」
「……一応、先方のご家族には話した。了承は得たが…本当に行く気なのか?お前がそこまでする必要は…父さんが代わりに説明を…」
「ううん…俺がしないといけないことなんだ。この世界に帰ってきた時に、しないといけないことだって…ずっと…」
退院が問題なくできると聞き、英雄は以前から父に依頼していたことを口にした。対する智也は問題ないと返すも、その声にはためらいが混じっていた。
英雄に遠慮するような言葉をかけるも、英雄の意思は固く…その目は真っ直ぐに智也のことを見つめていた。
(…本当に…強くなったんだな、英雄…)
英雄の目を見た智也はそんな感情を抱いていたが、それは感心だけでなく、どこか悲しみを秘めていた。それは、父である智也が英雄と、そして、知り合いであり、英雄と共にSAOから帰還した東方から聞いた話が理由だった。
『…俺は…人を殺したんだ』
SAOから帰還し、リハビリを始めた頃、英雄は智也に対し、SAOで何があったのかを全て話した。
対する智也は覚悟を決めてその話を聞いていた。英雄たちに何があったのかを知る術はなかったが、仲間たちが死んだという事実だけは智也も知ることができた。英雄と東方を除く4人の脳がナーブギアによって破壊されたという事実を、仲間の家族や病院関係者から知らされたのだ。
そして、仲間の死が英雄たちを救うために自ら命を絶ったことを、そして、その直後に怨嗟に駆られて何人ものオレンジプレイヤーを、そして、復讐の道に走り元凶の命を英雄が奪ったことを…さらに、暴走した自分を止めてくれた大切な人がいたことを…
英雄を救うために、仲間たちが自らの命を絶った…その事実を聞いた智也は、息子の前ではなんとか感情を堪えることができたが、家に帰った途端、崩れ落ちるように感情を爆発させた。
息子の絶望を、そして、仲間たちの犠牲が、彼の心に甚大なダメージを与えたのだ。息子が無事に戻ってきてくれたことが安堵したが、それが仲間たちの献身によるものだったと聞き、智也は涙を流した。
…特に、英雄は智也と交互にSAOをプレイしようと約束しており、先に英雄がSAOにログインしたことで、逆に智也はSAOに囚われずに済んだのだ。だが、それが逆に彼を苦しめることになった。
「…大丈夫かい、智也君」
「…………マスター。英雄を助けるために、綾一たちが死んだっていうのは本当、なんですか…」
3日後…仕事も有休を使って連日休みを取り、ようやく頭の整理ができた智也は、入院中の東方を訪ねた。
もう歩けるようにまでなっていた東方に心配される程に顔色が悪い智也だったが、その心配など気にせずに、いきなり本題を尋ねた。その問い掛けに、東方は一瞬答えるべきかどうか悩んだが、
「…ああ、事実だ」
「っ…‥そう、ですか…」
「シグ君…いや、英雄君から全てを聞いたんだね」
「……………」
無言は肯定だと捉え、東方はどう話をしていくべきかと考える。智也のメンタルの状況は最悪といっても差し支えなかったからだ。
「英雄君が言ったことは全て事実だ…そして、彼に闘う術を、そして、相手を確殺できるような…抜刀術を教えたのは僕だ」
「…っ!?」
その事実の告白に、智也は目を丸くした。怒りとも、驚きとも、何とも言えない感情が彼の中に渦巻いていた。
「…もちろん最初はあくまで護衛手段として教えていただけだ。初撃で素早く相手の武器か部位を斬ることで無効化する、攻撃としての術として教えた。彼は受け身による護りの型が優れていたから、その片方をカバーできるようにと、そういうつもりだった」
「……………」
「けど、彼の才能は…いや、復讐鬼となったことで開かれてしまった才能は僕の予想を超えてしまっていたんだ」
「……………」
「抜刀術は彼にあまりにフィットしていた…相手の隙を見つけ、正確な斬撃を叩き込む。暗器の使い方もかなりのものだった…」
「……………」
「…今、思えば、僕は教え方を失敗したと思う。彼には才能があったんだ……暗殺者としての才能がね」
本人には告げていなかった事実を初めて口にした東方の言葉に、智也は何も言えないでいた。だが、智也は東方を責めることができなかった…なぜなら、その教えがなければ英雄は今、現実世界に帰ってきてなかったかもしれないのだ。
「…英雄君が復讐鬼となることを止められなかった。いや、僕はどこかで仲間の仇を取ってほしいと望んでしまっていたのかもしれない……だから、僕では英雄君を止めることは…ついぞできなかったんだ」
「……………」
少しでも矛先を自分に向けようという思惑もあったが、東方は事実を口にした。それを最後まで聞き終えた智也は暫しの間沈黙のままであった。
「………英雄が…言っていたんです…」
「……………」
「大切な人が自分の暴走を止めてくれたんだって……そして、自分がマスターに無理矢理協力させてしまったんだって…」
「…!」
「英雄は…マスターのことを恨んでいません。むしろ、自分がマスターから倣ったことを、自らの意思で凶行を実施する手段として使ったと自覚していました。その言葉を聞いた時、僕は息子を責めることができませんでした…そして、息子の覚悟を知ったんです」
「…覚悟…?」
「息子は……英雄はそのためにこの世界に帰ってきたんだって言ってました…だから、頼まれたんです、綾一たちの家族に会って…もし求められた、あいつらの最期を説明したいって」
「…っ!?」
「息子がそんな覚悟をしているんです…父親の僕が先に折れるわけにはいかないでしょう?それと…もし英雄に罪悪感を覚えているのなら、息子をこれからも支えてやってくれませんか…僕じゃ、SAO関連じゃできないこともありますから」
「……分かった」
英雄の覚悟を聞いた東方は、智也の頼みを素直に聞き入れ、二人で英雄を支えることにしたのだった。
『夫のこと…教えてくれて、ありがとうございました…』
車の中で、先程言われた言葉を英雄は何度も思い返していた。涙を堪えたその言葉に、英雄は何も返すことができず、覚悟をしていたとはいえ、心に重いものを感じていた。
隣で車を運転する智也もその心情を察してか、英雄に言葉をかけずにいた。今は無理に話をするべきではないという判断からだった。
ミスフィッターズの仲間たちの遺族との対談…傍から見ればエゴによる行動かもしれなかったが、英雄にとってはやらなければならないと思っていたことの一つだった。
なんでお前が生き残って、家族が死んだのだ…そう責められることも覚悟していたのだが、遺族の全員は英雄を責めることなく、むしろ仲間たちの最期を教えてくれたことについて、謝罪とお礼を返されてしまったのだった。
最後の対談…リョナスこと谷口綾一の奥さんとの会話を終え、帰り道の中、英雄は重たい口を開こうとしたが…
「……父さん」
「…どうした…?」
「…………ゴメン、やっぱり何でもない」
「そうか…少し休みなさい。家に着いたら起こすから」
口にしようとした言葉がうまく纏まらず…そのまま心のうちにしまってしまった。そんな英雄を気遣い、智也は言葉を返す。
その言葉に甘え、英雄は目を閉じた…重い心にひっぱられるように、少年の意識は眠りに落ちるのだった。
ということで、シグの父親の本名公開でした。フェアリィ・ダンスのシグのお話は父親との話になりますので…
ある意味で贖罪という名の話でもありました。フォンやキリトとはまた違う遺族への話という形でした。
そして、次回は遂にあの人が…それでは、また!