レトロスペクトとは「振り返る・覚えている」を意味する英単語です。
つまり、『ホロウ・エリアの冒険を振り返る』という意味がサブタイに込められているわけです。
プロローグということで、珍しく(?)短めです。
あっ、ちゃんと彼女は登場しますので、ご安心を!
それでは、どうぞ!
第0話 「ホロウへと繋がる記憶」
…カリカリカリ…
ログハウス内に響くペン音…別にわざわざ実物を使う必要はないのだが、気分的にそうしないと、どうにも問題を解いている気がしないのだ。
そういうわけで、模試の最後の大問…英語の長文問題を解いている最中、小問に目を通してから長文のいくつかの箇所をチェックして…
「『「この層では誰も死なせない!」…そう言って、夢幻の戦鬼は無謀な…しかし、常人にはできない妙技を繰り出した!』」
(…小問の三つまでは解けた。あとは、最後の二つの読解問題…)
「『25層のボスがパターンによって武器を変えていくのに対し、戦鬼はそれを真っ向から迎え撃つように自らの装備している武具を変えていく!ボスが繰り出す全ての猛攻を防ぎ、その隙を突いた攻略組のプレイヤーがHPを大きく削っていく』」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「『「お前が幾千の武器を出そうが…夢幻の数の武器で打ち消してやるよ、何度でも!」…その言葉と共にボスの攻撃を弾いた夢幻の戦鬼は、自身が最も重用してきた両手剣でソードスキルを発動させ、その一撃によってボスの最期の命を削り取ったのだった!』」
「…おい、ユウキ。わざとだろう?」
大問の一つを解き終えたところで、俺は問題文から目を逸らすように顔を上げ、ジト目を彼女へと向ける…その先には苦笑いを浮かべるユウキと、
「確かに声に出したユウキも悪いが、さっさと問題を解かぬお主も悪いのじゃぞ?」
「80分の問題を短時間で解けって言う方が無茶だろう!?」
ユウキと一緒に読んでいたその本を片手にカナデがどっちも悪いと言わんばかりの態度でそう言ってきたが、なんか釈然とせずに思わず抗議の声が出た。
「だって~…せっかく三人でゆっくりしようって言ったのに」
「60分で解くからちょっと待ってくれ、って言ったよな…!確かにちょっと過ぎたのは悪かったけど、声に出すにしても明らかに悪意のある台詞をチョイスしないでくれよ」
「…中断させておいてなんじゃが、問題はよいのか?もうちょっとで解き終わりそうだったんじゃないのか?」
「もう解き終わったよ…あとは回答を埋めるだけだったからな」
甘えるように告げるユウキに、事前にしていた約束のことを持ち出す。
リスニングを省略している分、60分もあれば解けるかと思い、確かにそう約束はしたが…60分をきっちり過ぎたところで、それらの文章を声に出して読み上げるのは反則だろう。
一方で、邪魔をしてしまったかとカナデが気遣ってくれたが…問題を解き終えてから声を掛けたので、ノープログレムだったりする。
9月21日…ユージオとアリスの結婚式をやった翌日。世間ではシルバーウィークと呼ばれる土日を含んだ五連休の中日…敬老の日に、俺たちはALOの、自宅のログハウスにてのんびり…しようとするところだった。
ここ連日…色々なイベントが重なり、予定を立てていた勉強が上手くできていなかったのもあり、今朝のうちに英語の模試をやっていたわけだ。
で、俺の都合を理解しつつも、やっぱり不満も同時にあったわけで…待ちきれずに思わず悪戯をユウキが仕掛けて、それをカナデが宥めている構図が出来上がったというわけだ。
…まぁ、模試を解き終え、答え合わせは夜にでも正誤の確かめを合わせてやろうかと思い、カウントタイマーを停止させてから模試のデータを閉じる。
「…というか、カナデはともかく、ユウキは何回目だ…それを読むの?」
「えっと…3回目くらいかな」
背伸びをして、会話へと交じった俺の第一声…ジト目と共に呆れの声によって問い掛けると、ユウキは苦笑しながら回数を答える。
「『SAO事件記録全集』…お主たちが関わったソードアート・オンラインについて書かれておる本と聞いておったが…フォン、お主はこんな痛い……強気な台詞を言っておったのか?」
「…んなわけねぇだろう。それに書かれている台詞の9割以上が創作だよ。もし本当に言ってたら、今頃その本を焚書してから頭を殴って記憶を消してるよ」
言い直そうとしたが、完全に文章の中の台詞が痛いと評したカナデが引き攣った笑みと共にそう尋ねてきたが、俺は完全否定する!そんな事実など一切ないと断言してもいい!
SAO事件記録全集…ようは、とてつもない脚色が加えられたSAO…ソードアート・オンラインの攻略譚が書かれた書物だ。オーディナル・スケール後に、ある一節が追加された本は、出版ともに世間の目を集めた。
菊岡さんから初版本を手渡され、その中身を目にした時は膝から崩れ落ちたものだ…あと、書いた奴に十は文句を言ってやらねばと使命感を抱いた。
で、それを読んだユウキにも茶化されるように内容を聞かれたこともかつてあり、俺としては二次創作みたいに脚色された感があってあまり触れてほしくない一冊であり、それとは別にSAOの攻略やいつ何が起こったのかという事実の正確な記載がされていることもあって、SAOを知ろうという人には結構おすすめな一冊でもあるわけで…
初版本とオーディナル・スケール後に発刊された第二版の計二冊がうちにはあるわけだが、そのうちの後者のデータをどうして今、カナデが読んでいたのかというと…きっかけはここ連日に起こった出来事だった。
キリトと月夜の黒猫団の一件、ユウキと共に体験した二つのエルフに関わるストーリークエスト、そして、アスナとミトの再会…SAOから始まり、旧ALOに関わるそれらの出来事に直接関与はせずとも、一連の顛末を聞いたカナデが興味を持ったのだ。
カナデにとっても、自分が生まれることになった要因でもあり、ある意味では親でもあるカーディナル・システムのオリジナルが関わっていたゲームということで、余裕が出ててきた今、それを知りたくなったというわけで…
そんなカナデにユウキが勧めたのがSAO事件記録全集だったわけである。
まぁ、SAOのことを語ろうとすると、旧ALOで起こった事件からGGOで暗躍していた死銃のこと、そして、SAOの影が引き金となったオーディナル・スケールのことまで話さないといけなくなるので、SAOのことだけとなると、その本を見てもらってから質問してもらった方が話は早かったりするのだが…
「『無限の武器を操る彼に、全ての敵は為すすべなく、蹂躙されていった』…これも事実ではないのか?」
「…そんなことができてたら、もっと早く…もっと簡単にSAOはクリアできてたよ。その文章、確か74層攻略後からについての記載だろう?あの時は、俺とキリトがそれぞれのユニークスキルがバレるのを覚悟で人前で使ったんだよ。
あの時は大騒ぎになったな…当時、ユニークスキルを持っていると公表していたのは、アスナが所属していた血盟騎士団の団長であり…ソードアート・オンラインを作った茅場が、仮の姿として使っていたヒースクリフだけだったからな」
「茅場明彦…凛子さんが世話をしていた人だよね?」
「そして、ある意味ではカーディナル・システムが元となったわしや…ユージオたちフラクトライトが生まれることとなった、全ての創造主…それがその人物なのじゃな?」
「ああ…まぁ、そういうわけで、俺はキリトとSAOの初めからコンビを組んで、何度か解消したり、また組んだりを繰り返して、最終的には75層でヒースクリフを打ち倒して、SAOを一応は攻略したってわけだ。
…まぁ、俺はヒースクリフに負けて、本当にSAOを攻略したのはキリトだったし、その後も、須郷っていう奴のせいで、旧ALOに意識を捕らわれていたりしたんだけどな」
「お、お主……平然と言っておるが、結構壮絶な出来事じゃぞ?」
その本は確かに正確だ…だが、その内容は個人が特定されないように大げさな脚色がされており、一人の攻略組プレイヤーが書いたことで個人の主観が入った文章になっている。
なので、当事者側からすると、これ以上にない恥ずかしい本になっているのだ。
まぁ、そんな(あまりにも痛すぎる脚色の)内容は置いておくとして…カナデの恐る恐るといった感じでの問いかけに、俺は少し真面目な顔をして当時のことを思い出しながら語った。
ソードアート・オンラインは…一人の力でどうにかできたゲームでは決してない。ゲームの仕様もそうだが…何よりも、プレイヤー同士の衝突もある意味では攻略の大きな壁となったことも何度かあったぐらいだ。
アンダーワールド大戦で、再度まみえることになったPoHがまさしくその例だ…本物の奴とはSAOでは結局一度も対峙したことはなかったが、まさかあの場で本物と対峙することになるとは思ってもみなかった。
「それにしても…ユニークスキルか。フォンがALOでも使っておる『幻想剣』、キリトが使っておった『二刀流』、そして、そのヒースクリフが所有しておった『神聖剣』の三つがそれにあたるわけじゃな。
他のスキルとは一線を画するバランスブレイカー…お主らがそのうちの二つを持っておったのは、攻略組にとっては幸運だったじゃろうな」
「そうなのかな…中盤からスキルを公表していたヒースクリフ…茅場は95層にまでゲームが攻略されれば敵に回るつもりだったらしいし、キリトや俺は周りの目を気にして、どうしても使用しないとヤバかった74層まで秘匿していたからな」
「まぁ、ゲームに一つしかないスキルとなると、周りの妬みを買いかねないもんね」
「しかも、その習得条件がまたユニークというか厳しいんだよ。二刀流は、全プレイヤーの中で最も反応速度が高い者に、幻想剣は全プレイヤーの中で、最も早く通常取得が可能なスキルの熟練度が全体の60%を超えた者に、そして、ユイちゃんに聞いたんだが、神聖剣はGM専用スキル…といった感じだったらしいからな」
74層、そして、75層での出来事を思い出し、俺はその時、キリトと共にヒースクリフから聞かされたことと、後日、ユイちゃんから聞いたことを併せて語る。
そもそも、74層の一件がなければ、ほとんどソロかコンビとしてか活動いなかった俺やキリトはユニークスキルを公表するつもりはなかったからな。
「でも、ユニークスキルって三つしか出てないんだね。他のスキルってどんな感じだったんだろうね?」
「他の8つに関しては分からないが、もともとユニークスキルは全部で10あったらしいぞ。ある時、ヒースクリフ本人からそう聞いたからな」
「…うん?10…フォン、それでは数が合わんぞ?お主の幻想剣と、二刀流と神聖剣…出ていない8個のスキルを足したら11ではないのか?」
「…あー、そうか。悪い、誤解させる言い方をしたな。そもそもの話、幻想剣は存在しなかったスキルなんだよ」
「「…えっ!?」」
そうか…いくらSAO事件記録全集が攻略に関して正確に記載しているとはいえ、あくまでも、それは一介のプレイヤーが知れる範囲での記載しかされてないわけで…運営側しか把握していないゲームのシステム的なことにまでは触れられているわけがないわけで…
ユニークスキルに関する知識は、GMであるヒースクリフと、それについて多少の説明をされたことのある俺、そして、メンタルヘルスカウンセリングプログロムであったユイちゃんと、親であるキリトとアスナしか知らないことだった。
今、思えば…ユウキにもこの話をしたことはなかったな。カナデだけでなく、彼女まで驚くのは当然か。
「ユニークスキル『幻想剣』は存在する筈のない11番目のユニークスキルなんだ。そして、本来ログインする筈のなかった…10001番目というイレギュラープレイヤーである俺がSAOにログインしたことで生まれたスキルなんだよ」
「「…えええええええええええええぇぇぇぇぇ?!?!」」
絶叫を上げ驚くユウキとカナデ…そんな二人に、俺は先日キリトとユイちゃんにしたあの話をもう一度することにした。
「…といっても、俺が幻想剣とそれに関連するスキルの真実に気付いたのは、旧ALOから生還した後のことだったけどな。でも、今でもあの時のことは覚えてるよ…その記録集には決して書かれることのない…虚ろの名を冠した不思議なエリアを冒険した、あの記憶をね」
「虚ろな…」「…エリア…?」
「ああ…俺たちは便宜上、ホロウ・エリアって呼んでたけどな。俺と…彼女だけが知っているSAOの裏の世界のことだよ」
そう切り出し、俺はあの時のことを語り始めた。
ちょうど72層の攻略を終え、しばしの休息を挟んで73層の攻略を始めようとした…あの時のことを。
「…ここは…どこだ?」
転移の光が収まった直後…俺は視界に入ってきた光景を前に思わずそんな言葉が出ていた。
ホームとして21層の転移門から、最前線の73層へと転移した筈が…視界に広がるのは木々が生い茂る森の中。
超低確率に転移先の階層がズレることがあると聞いたことはあるが…それでも、別の階層区へと飛ばされるだけで、このようなフィールド…圏外へと出ることはない筈なのだ。
なのに、俺は何故か圏外へと出てしまっていて…更に問題なのが、今、自分がいる場所だった。
インターフェイスに表示される簡易マップが…なんとアンノウン表示になっているのだ。つまり、俺は今、未知なる土地にいる状況に陥っていることを示していた。
(…小説の世界に入り込むわ、ユニークスキルらしきものを習得するわ…俺ってそういう変な運でも持ってるのか?そんな柄じゃないんだが…)
またしても、とんでもないことになっているようだが…俺はどこか冷静に今の状況を受け止めていた。
まぁ、『ソードアート・オンライン』という小説の世界に入り込むという、夢かと思うような出来事を現在進行形で体験しているせいなのだろうが…
ひとまず、ここがどこか…そして、最前線もしくはホームへと戻る手段はあるのか…それを探すべきなのだろうと頭を切り替えた俺は、周囲を散策しようとして…
「…っ!(…索敵スキルに反応…!こっちに誰か向かってきてる!?)」
動き出そうとして、索敵スキルに反応があり、その動きを止めた。遅れて、誰かが駆けてくる足音までもが聞こえ、俺は警戒を厳にする。
そして、その音の正体がすぐそこにまで聞こえてきた時、
「……!」
「…(プレイヤーだったのか…もしかしたら、この人も……っ!?)」
ライトブルーを基調とした軽装装備の…フードを被った女性プレイヤーが姿を現した。何かに追われるように駆けていた彼女の足が止まり、俺に気付いたと思い、声を掛けようとして…俺は解きかけた警戒を再びすることになる!
(あのカーソル…オレンジプレイヤー…!?)
頭上に表示されたオレンジに近い黄色いカーソル…何度か対峙したことのあるプレイヤーと同じそのカーソルに、彼女に対する認識が変わる!
オレンジプレイヤー…何かしらの犯罪行為を犯したことで正常のグリーンからカーソルが黄色に変わったプレイヤーのことを指す名称で…その中には、この世界では殺人と同様の行為になるプレイヤーキルも条件には入っているわけで…
警戒のあまり、思わず背中に装備していた両手剣『エンプレス・ジェイル』の柄へと手を掛けようとした…だが、それがマズかった。
「…っ!はあああああぁぁ!」
俺に敵意があると判断したらしく、彼女は左腰に装備していた短剣を抜き、斬り掛かってきたのだ!
咄嗟にバックステップをして初撃を躱し、追撃を繰り出される前に俺も剣を抜き、その勢いのままに両手剣を振り抜こうとして…彼女のソードブレイカータイプの短剣と刃を交えることになった。
「あんた、誰…!あんたもあのならず者たちの仲間なの!?」
「ならず者…?なんのことかは分からないが…君は一体…!?」
敵意をこれでもかと向けてくる彼女に、俺もぶつけ合う刃越しに問い掛ける。しかし、彼女は聞く耳を持たないとばかりに、刃を押し込もうと…
「…っ!?危ない!」
「えっ…きゃあぁ!?」
その時、索敵スキルに新たな反応を捉え、木々の合間に見えた微かな燐光を目にし、俺はわざと剣を握る力を緩め、拮抗のバランスを崩したことで不意を突かれた彼女を抱えるように地面に倒れた。
その直後、立っていた俺たちの身体を斬り裂こうと…周囲の木々ごと一刀両断する一撃が放たれた!
斬り裂かれた木々は切り株を残して宙でポリゴンへと変わり、剣戟の勢いによって発生した土煙の中から姿を現したそいつに…俺は目を丸くした。
「なんで……なんで、こいつがここにいる!?」
こいつを…あの赤い鋼のような肉体を持つ巨体を忘れられるわけが…SAOにて初めて対峙したフロアボスを忘れることなんて出来る筈もなかった。
俺と少女の眼前に…第一層で打ち倒した筈の迷宮区の主『IllFang The Kobold Load』がその姿を露わにしていたのだ。
…そして、俺は後に理解することになる。
あの少女と初めて遭遇したボスがいる虚ろなエリア…ホロウ・エリアこそが、幻想剣を始めとしたイレギュラースキルが生まれた地であることを…
そして、どうして彼女がそんなところにいたのか、どうして俺があのエリアへと招き入れられたのか…そのエリアで影のように進行していた陰謀に巻き込まれることになるのを…
…奴との因縁がある意味で招き寄せたと言ってもいい…虚ろなるエリアでの冒険が始まろうとしていた。
スカル・リーパーだと思いました?
…誰が原作通りの展開にさせるもんですか(黒笑)
(まぁ、ここでスカル・リーパーもどきを登場させると、アインクラッド編第12話に矛盾が出てきてしまうという理由もあったのですが)
そういうわけで、まさかの第一層のボスの亜種が最初の壁としてフォンたちに立ち塞がります!
まぁ、その話は次回でするとして…
オーディナル・スケールでも出ました『SAO事件記録全集』とカナデが、今回のお話を展開する引き金となったプロローグでした。
軽く内容オリジナル(OS編で書いた内容も流用してますけど)の黒歴史本を音読されたら、そりゃフォンでも恥ずかしいかと…
そんな中、触れられたユニークスキル…今、思えば、フォンが具体的に人に話すのは(おふらいん時空を除けば)初なのでは…?
そんなSAO時代から登場し、数々の場面でフォンの切り札として活躍してきた幻想剣の謎が明かされるのが本章の見どころの一つでもあります(初登場してから3年経って、その真相が明かされるのってどうなのよ?)
そんなわけで、次回からいきなりバトル回となりますので、是非ともご期待下さい!
それでは!
P.S. 本日12時に、彼女が予告していたあのお話のプロローグを更新します!