ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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今回からGGO編に突入です

まず、菊岡との優雅な(?)お茶会です

主人公、菊岡のことを完全には信用してないです
なんとなく信用しきれていない、といった感じです

それでは、どうぞ!



ファントム・バレット
第1話 「菊岡からの依頼」


12月5日 銀座某所

放課後……俺はある人物に呼び出され、銀座の高級喫茶店に来ていた。その人物は……

 

「おーい、音弥くん!」

「…………はぁ」

 

こちらを呼ぶ、菊岡さんの声に、注目を浴びた俺は周囲に謝りながら席へと向かった。

 

「悪いね、学校終わりに」

「……別に大丈夫ですよ。特段、用事もなかったものですから」

「ありがとう。ここは僕のおごりだから、好きな物を頼んでくれ」

と一度は言ってみたい、格好いい台詞を言う菊岡さんからメニューを渡された

……ということで、遠慮なく頼むことにした。

とりあえず、一番目と二番目に高いケーキとレモンティーを頼んだ。

 

「それで?わざわざ直接呼び出すなんて……一体、何があったんですか?」

「……話が早くて助かるよ。音弥君はVR関連犯罪に関して、どう思ってる?」

 

質問されたところで、レモンティーが届いた。

それに砂糖を加えながら、俺は話を聞き続けた。

 

「最近VR関連犯罪の件数が増えているんだよ。

仮想財貨の盗難や毀損が11月だけで100件以上、VRゲーム内でのトラブルが原因で起きた現実での傷害事件が12件、致死障害が1件……これはニュースでもやっていたね」

「ああ、薬物ドラッグを使用していたヘビープレイヤーでしたっけ……確か、無関係の一般人が2人亡くなったものでしたよね」

 

周りを気にし、俺は小声で言った。

ウェイターがそのタイミングでケーキを持って来た。

 

「一部のゲームではPK行為が日常化している……だけどね、音弥君。僕はPK行為が無駄にしか思えないんだ。殺し合うよりもみんなで仲良くして楽しんだ方が良くないか?そうは思わないかい?」

「……うーん……それは無理だと思いますよ」

 

ケーキを一口含み、俺は菊岡さんの言葉を否定した。

 

「理由を聞いてもいいかな?」

「そもそも、MMORPGに限った話じゃありませんが、オンラインゲームには明確なエンディング……終わりがありません。ストーリーが終わった後でも、フリープレイという形でプレイができます。そうなると、ゲームを続けるモチベーションの多数は他のプレイヤーとの優劣になるかと思います」

「ふむ…………」

「もちろん、コレクションや創作といった目的のプレイヤーもいるとは思いますが……レアアイテムの入手や上位ランキングへの入賞、メディアへの出演……そういった意味では、希少アイテムの数が限られているからこそ、競争心が生まれてしまい、嫉妬からそういった事件に発展する……ある意味、ゲームだろうと現実だろうと、事件が起きる理由に大きな差はない……それが僕の考えです」

「……なるほどね」

 

しゃべりすぎて疲れたので、レモンティーを飲み切った。そして、そのまま店員に声を掛け、今度はミルクティーを頼む。

 

「それじゃ、本題だ……そういった心理的なものも含めてなんだが、何らかのフィジカルな影響が現実のプレイヤーの肉体に及ぼす……ということは考えられるかな?」

「…………ゲームの影響が、肉体にフィードバックするか、ということですか?」

「そうそう……どうかな?」

 

本題の内容に、俺は少し考えを巡らせ……

 

「……私見ですが……ないとは言い切れないかと。そもそも脳自体が、まだ未知の領域です。火事場のクソ力のように、脳のリミッターが外れて物凄い力を出すこともできますから……脳を使うフルダイブが肉体に影響を及ぼさないとは言い切れないかと……」

「そうか……それじゃ、これを見てほしい」

 

そう言って、端末に表示されたのは……どうやら死亡事故に関するものらしい。

 

「この方は?」

 

菊岡さんは端末を操作し、画面を変えた。

プロフィールのようだ……名前は『茂村 保』26歳、長髪に銀縁の眼鏡、小太りの男の写真が共に表示されていた。

 

「11月14日、中野区のアパートで死後五日の状態で発覚……頭部にはアミュスフィア、ですか」

「ああ、死因は急性心不全なんだけど……原因が一切不明なんだな。分かっているのは、彼がほぼ二日間何も食べずにログインしていたことくらいかな」

「解剖は?」

「犯罪性が薄いことから、自然死と判断され、されていない」

 

……どうなんだろう……俺の世界では老人の孤独死とかはニュースで聞いたことはあったけど……若い人にもそれが起きないとは必ずしも言えないし、事件性は薄いと思った。

 

……この腹黒公務員が持ってきた話でなければだ。

 

「それで?ただの自然死なら、菊岡さんがわざわざ前振りしてまで僕に話しませんよね?」

「君は本当に察しがいいね……彼のアミュスフィアにはあるゲームがインストールされていた……タイトルは『ガンゲイル・オンライン』、通称『GGO』。知っているかい?」

「……簡単に聞いたことくらいはレベルですね」

 

前にMMOトゥデイで話題に上がった時に見たな。

確か、銃と荒廃した世界が舞台のゲームだったか……

 

「そう……実は茂村氏は『ゼクシード』というネームで10月に行われたGGOのある大会で優勝したんだ。それで、MMOストリームというネット番組の『今週の勝ち組さん』というコーナーにキャラクターの再現アバターで出場したらしいんだが……その時に妙な事件が起きたらしい」

「……(ズズゥ)」

 

タブレットから目を離し、いつの間にか届いていたミルクティーを飲みながら、目で話を促した。

 

「GGO内でなんだが、GGO世界の首都、『SBCグロッケン』っていう町のある酒場でその時のMMOストリームが中継放送されていたんだけど……ある一人のプレイヤーが画面に映るゼクシード氏に向けて、いくつかの言葉を叫びながら、発砲したんだ。……その十数秒後、茂村氏のアバターは消滅した」

「(……なるほど、そういうことか)……それで?」

 

俺はカップから手を放し、更に話の先を促した。

 

「……更にもう一件……11月28日、埼玉県さいたま市大宮区のアパートの一室で、31歳の男性が死後三日の遺体で発見された。こちらも心臓発作……彼もGGOの有力プレイヤーで、キャラネームは『薄塩たらこ』」

「……そ、そうですか」

 

最後のキャラネームの下りでちょっと肩の力が抜けた。そのネーミングセンスはどうなんだ……?

まぁ、いいや……大事なのはそこじゃない。

 

「こっちでも似たような事があったらしくてね……。こっちはスコードロン……いわゆるギルドのことなんだが……その集会中に件のプレイヤーが言葉を叫びながら発砲、直後に薄塩たらこ氏は……」

「……つまり菊岡さんはこう言いたいですよね」

 

冷めたミルクティーを一口含んでから、俺は菊岡さんの話を遮った。

 

「ゼクシードも薄塩たらこも、アバターが消滅した時に心臓発作を起こした……そして、その原因はそのプレイヤーが放った弾丸ではないか、ってことですよね?」

「…………そういうことだ」

 

…………いつの間にか、周りの音が聞こえなくなっていた。なるほど……確かに俺が呼ばれるわけだ。

 

「……どうだろう、アミュスフィアで人の心臓を止めることはできるだろうか?」

「……すみません、俺にはなんとも……そういうことなら和人に尋ねた方がいいと思いますよ」

「……そうかい。分かった」

 

すみません……そういうことは専門分野のキリトさんに聞いてください!

こっちはこの世界に来て、まだ2年ちょっとなんですから……!……なんて口が裂けても言えないことを思いながら、菊岡さんにそう伝えた。

 

「それじゃ、本当の本題だ。……音弥君。……いや、フォン君。君にGGOにログインして、そのプレイヤーに接触してほしい」

「…………条件があります」

「……何かな?」

「一つ……GGOは確かプロもいるはずです。コンバートしたばかりでは、流石の俺でも、いきなり最前線プレイヤーと張り合うには時間がかかります。装備一式……あと、ゲームソフトも……そちらで揃えてもらえますか?」

「……分かった、そちらは準備しよう。ソフトは早ければ、明日の放課後に届けよう」

「二つ目……成功した場合には報酬をもらいます。こちらも命を懸けるかもしれないですし……構いませんよね?」

「もちろんだ……バイト代ではなく、仕事として、成功失敗に関わらず、報酬は払うよ」

「最後に……どうせキリトも誘うでしょう?……俺たちの安全が確保できる場所……用意してもらえますよね?」

「…………分かった。それにしても、意外だったよ……君が簡単にこの依頼を引き受けてくれるなんてね」

 

どうやら俺の要望は全て大丈夫らしい。俺の即決に菊岡さんは意外そうな表情をしていた。

 

「どうせ俺が断ったら、今度はキリト……和人にこの件を話すつもりだったでしょう?一人より二人の方が安全です……それに……」

 

そこで言葉を切り、残ったミルクティーを飲み切った。

 

「……俺だって、そんなことでVRMMO……フルダイブ技術が衰退するのは嫌ですから」

「……ありがとう……そうだ、忘れていた」

 

そう言って、菊岡さんは再び端末を操作し始めた。

 

「これは、ゼクシード氏が撃たれた時に録音されていた音声データだ……プレイヤーネームもこの時、叫んでいる……確か、そう……」

 

『これが本当の力、強さだ!愚か者どもよ!恐怖と共に俺の名を刻め!俺とこの銃の名は『死銃』、『デスガン』だ!』

 

菊岡さんから送られた音声データを自宅で聞いていた俺は、その声に覚えがあった。

今でもよく覚えている。あれは……

 

SAOの悪夢、殺人ギルド『ラフィン・コフィン』

 

「それにしても……死銃か」

 

もし……この事件がSAOの延長だというのなら、

俺はこの件から目を反らすわけにはいかない……

だか、ここから先は、本当に俺にとっても未知の世界だ……どこまでやれるかは分からないが、こんな馬鹿げたことは止めさせなければならない。

 

俺はそう決意を固めた。

 

……この時の俺はまだ気が付いていなかったんだ……

俺という異物が混じり込んだことが、この事件にも多大な影響を及ぼしていたなんて……




当面、オリ主はキリトとは別行動になります。

といっても、すぐに合流しますが(笑)

次回 更新 13日 0時予定

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