ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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『サインポスト』とは道標を意味する英単語です…そういうわけで、邂逅編となるプロローグも本話でラストになります。

ゲーム原作だと、ホロウ・エリアでのチュートリアルも大詰めとなる部分ですが、またしても不穏な影が見えるお話です。

それでは、どうぞ!


第3話 「拠点へのサインポスト」

「それにしても…ここは結局なんなんだろうな?」

 

道中、14体目のモンスター…鎧と斧を装備したオーク型モンスターを倒し切ったところで、両手剣を背中の鞘に納めながら、俺はここにきて何度目になるか分からない疑問を口にしていた。

 

「ホロウ・エリアって、さっきシステムアナウンスが聞こえたわね。あんな現象は私がここに来てから、初めてのことだったけど…」

 

そんな呟きに答えてくれたのは、急遽コンビを組んだ少女…フィリアの冷静な声だった。彼女の方も戦闘の音に気付き近づいてきた蜂型のモンスターを仕留め終えていたところだった。

 

「モンスターも普通にいるし、周囲を見渡せば圏外のようなフィールド…なのに、マップも現在地も階層までもがアンノウン表示…未知なるエリアといえば聞こえはいいが、分からないことだらけというのは…どうにも気が抜けないな」

 

彼女の道案内で俺たちは森の中に形成された一本道を進んでいた…その最中、オークや蜂、ミノタウロス、ネペントなどといったモンスターと対峙したが、苦戦することなく倒していった。

 

さっき撃破したコボルトロードもそうだが…この辺のモンスターのステータスはそこまで高くないらしい。

 

俺の現在のレベルが99…もう少し経験値が入れば、大台の100に届く寸前ではあるが、そのステータスで苦戦しないところを見ると…敵のレベルは高く見積もっても80を超えてないといったところだろうか。

 

俺だけでなく、フィリアもそれなりにレベリングはしているらしく、苦もなくモンスターたちを倒していることから、その推測は間違っていないだろう。

 

「君は…フィリアは一週間もいるってことだったけど、他に何か気づいたことはなかったか?」

 

「さっきも言ったけど、私もいきなりこのエリアに飛ばされてきて…生き延びるのに必死で、そこまで手がかりが掴めてないわ」

 

「いきなりか…そこは俺も同じだな。違うとしたら…」

 

「その手に浮かんでいる紋様ね」

 

言葉と共に、フィリアの視線が俺の右手に向けられる。それに釣られ、右手を開くと、さっき出現した紋章が手の中で仄かな光を放ち存在していた。

 

「ああ…フィリアには浮かばなかったのには、何か理由があるんだろうか?」

 

「もしくはあんたに何か特別な理由があるんじゃない?特殊なスキルを持っていることが条件、とか…」

 

「…可能性として否定できないのが痛いところだな」

 

フィリアの指摘に苦笑いしつつ、もしかしたらの可能性としてありそうなのが怖いところだが、それは少し奇妙な話だ。

 

ユニークスキル『幻想剣』…小説にも登場しなかった、そして、俺以外のプレイヤーに発現したという話を一向に聞かないそれを、俺は勝手ながらにユニークスキルだと判断していた。

 

まぁ、キリトのユニークスキル『二刀流』を知っていたからこそ、そうかもしれないと思ったのも大きいが…しかし、もし『幻想剣』が原因で俺がこのエリアに迷い込んだとなると、矛盾が生まれる。

 

まず、同じユニークスキルを持つキリトがいないこと。そして、どうしてフィリアまでもがこのエリアに迷い込んだのか、ということだ。

 

もっとも、前者に関してはまだ確定しておらず、もしかしたら、別の場所にてキリトが迷い込んでいるという可能性も否定できないのだが…ひとまずユニークスキルが関係しているかもしれないという考えは置いておいた方がいいかもしれない。

 

「でも、そうだとしたら、納得がいくわ…ここで、そんな紋様を持っているプレイヤーなんて見たことなかったから」

 

「プレイヤー…?フィリア以外にもプレイヤーがいるのか?もしかして、黒髪で全身黒づくめ装備の男子も見たりしなかったか?」

 

「その黒づくめの男は見た覚えはないけど…ここには確かにプレイヤーがいるのだけど、でも…少しおかしなところがあるというか…」

 

「おかしなところ……そういえば、さっきもならず者がどうたらって言ってたな。もしかして、それに関連しているのか?」

 

他にもプレイヤーがいる…もしかして、キリトかと思い尋ねるも、どうやら違ったらしい。それでも、別のプレイヤーたちも迷い込んでいると少し期待をした俺だが、フィリアの表情が曇り、さっきの会話の中で出てきた言葉が関連しているのかと尋ねると、

 

「そうなんだけど…何というか、説明が難しいの。実際に会ってその目で確かめた方がいいと思うわ」

 

「そうか……分かった。それで、君がこの紋章を見かけたっていう場所はこの先なのか?」

 

「ええ…ほら、あそこを見て。空に球体が浮かんでいるでしょ?」

 

どうやら言葉にして表現するのが難しいらしい…そのプレイヤーに遭遇した時に確かめるとして、まずは目的地を目指すべきかと頭を切り替える。

 

目的地を尋ねられたフィリアが指さした方向を見ると、さっきから視界に少しずつ入っていた空に浮かぶ黒い球体をしっかりと捉えた。地上に面している部分には、地中から何かの光…なのだろうか、それらしきエネルギーの流れが地上と球体双方に行き来しているように見えていた。

 

「…もしかして、あの球体にこの紋章が浮かんでいるのか?」

 

「ええ…でも、あそこに入る道はどこにもなかったの。だから、今までは入れなかった…あんたが来るまではね」

 

「なるほどな…確かに、空に浮かぶあんな大きな球体には何かあるって考えるのが当然だよな」

 

このエリア…いや、この世界に明らかに似つかわしくないメカニカルなデザインをした巨大な空浮かぶ球体…彼女がにらんだ通り、何かあると考えるべきだろう。

 

そんなことを話し合っている時だった。

 

『規定の時間に達しました…これより、適正テストを開始します』

 

「「…!」」

 

コボルトロードを倒した後に聞こえてきたのと同じシステムアナウンス…また何かが始まるのかと警戒する俺たちだったが、異変はそれだけではなかった。

 

『…ビー!ビー!…警告!?警告!?重大なエラーが再発しました!ホロウ・システムによる解決を試みます!……失敗しました!!エラーの解析を始めます……20221106に感知したエラーを再度確認?!エラー対策に急遽作成したプログラムは既にソードアート・オンライン正規システムに反映済みのため実施不能です!…解決プログラムがホロウ・エリアへと参入したことで重大なエラーが発生し続けています!!?ホロウミッションの実行を緊急停止!?それに合わせて実装エレメントのテスト機能をも緊急停止します!?……以降、ホロウ・エリアの機能を維持することにシステムの全てを集中させます!!』

 

「…なに、今の…?」

 

警告音と共に、青空が一瞬消え…かなりのスピードでシステムアナウンスが流れていき、それが収まると、また静かに木々が揺れ葉が擦れる音だけが聞こえる状態に戻ったが、俺たちはそういうわけにもいかず、

 

思わず疑問を口にしたフィリアと顔を見合わせることになった。

 

「重大なエラーが発生したって言ってたな。それに気になることもいくつか…ホロウミッションに実装エレメント…?」

 

「どっちも聞いたことがない単語ね…あんたは聞いたことは?」

 

「俺もない…こういう時に相棒がいたら、もしかして何か知ってたかもしれないんだが…」

 

「…相棒…そういえば、そんな人がいるって言ってたわね」

 

無視できないワードを耳にしつつも、その意味が分からず、俺は口をへの字にする勢いで唸っていた。こういうゲーム関連っぽい知識はキリトに頼っていたのが裏目に出るとは思ってもみなかった。

 

すると、フィリアが気になったらしく、何度か出てくるその言葉に興味深そうな表情をしていたので、俺は答えることにした。

 

「相棒であり、恩人でもあって…俺の憧れとも言っていいのかな。第一層からの付き合いで、ⅤRMMO自体、SAOが初めてだった俺に一から全部を教えてくれた…ある意味で親友みたいな奴だよ。もしかしたら、そいつもこの世界に迷い込んでるんじゃないかって思ってな」

 

「そう、なんだ……それじゃ、さっき黒い恰好をしたプレイヤーを見かけなかったかって聞いてきたのは…」

 

「そいつの特徴でな…あいつがいたから、俺はここまで生き残ってきたといっても過言じゃない。だから、ついついこういう時に頼りにしたくなるんだよな…情報もマップデータもない、こういう未開な地にいるからこそな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「…まぁ、いない奴を頼っても仕方ない。今は先に進もうぜ?」

 

「…ええ」

 

さっきの異常なシステムアナウンスも気になるが、今は先に進むべきだと思い、俺たちは再び森を進み始めた。

 

 

 

「もう少し先に進んだら、目的地よ」

 

「……うん?ああ、そうか………」

 

「…どうしたの?もしかして、疲れたの?」

 

森の中を進むこと、十分と少し…何度かモンスターたちとエンカウントしつつも、順調に進んでいた中、考え事をしていた俺はフィリアの声掛けに少し反応するのが遅れてしまった。

 

これまで休憩なしに進み続けてきたのもあって、フィリアが心配してきたが、俺はそうではないと首を横に振りながら、考えていたことを口にした。

 

「さっきのアナウンスだよ…あれを思い出しながら、色々と考えていたんだ」

 

「ふーん…それで、何か考え付いたことはあるの?」

 

「…気になることはいくつか。ただ…あまりにも突拍子もない可能性ばかりで、確実性に欠けるというか…まだ確証を得られないっていう仮説の状態ばかりだな」

 

「…そう」

 

「…?どうした、そんな不満そうな顔をして…」

 

俺の答えに不満があったのか、それを顔に少し出して返事をしたフィリアの態度が気になり、そのわけを尋ねた。もしかしたら、彼女なりに答えを期待していたのかと思っていたのだが…

 

「別に大したことじゃないわ…ただ、私がこの一週間、なんとか隙を見つけては調べてきて何も分からなかったのにさ、さっき来たばかりのあんたがすんなりと謎を解いたりしたら、悔しいに決まってるでしょ?…」

 

「く、悔しい…?…というか、まだ仮説の段階で、解けてすらないんだが…」

 

「あーあ…これじゃ、トレジャーハンターの名が廃るわ」

 

「…トレジャーハンター?」

 

予想外の答えが返ってきて、俺がどういうことかと戸惑っているうちに、フィリアは話を進めていき、その中で出てきたワードに俺は思わずオウム返しをしていた。

 

「…まぁ、トレジャーハンターといっても自称だけどね。SAOには職業とかジョブはないし…」

 

「まぁ、そうだな…鍛冶師とかアイテム屋とかも、それにふさわしいスキルがあっても、店を出していても、あくまでも本人たちが名乗っているだけで、ジョブシステムみたいなのはないからな(…そういえば、第一層の迷宮区ボス攻略会議の時にも、ディアベルが場を和ませるジョークでナイトを名乗っていたっけ?)」

 

俺やリズなんかもそうだが、SAOには戦闘以外のスキル…いわゆる生産スキルと分類されるスキルも数多く存在する。

 

料理や鍛冶スキルは例としては一番にあげられ、釣りやら装飾品作成やら調合やら…数を数えようとすると日が暮れそうになるほどに豊富な種類があるわけで…しかし、あくまでもスキルがあるだけで、ジョブみたいなものは存在しない。

 

言ってしまえば、鍛冶スキルを持って店を営んでいるプレイヤーを鍛冶士と便宜上呼んでいるだけで、システム的観点から言えば実はそうではないということになるのだが…まぁ、フィリアが言いたいのもそういうことなのだろう。

 

…まぁ、さっきコボルトロードを倒したせいか、ディアベルが以前に言った冗談のことが脳裏に蘇ったが、ひとまずは置いておこう。

 

「それじゃ、フィリアはダンジョンとかに潜るのをメインにしていたのか?」

 

「…そうね。モンスターと戦ったり、クエストをクリアしたりよりは、ダンジョンに潜ってお宝を見つける方が向いてると思ったから…そうやって隠されているアイテムって、このゲームを生き残るために重要なものであることも多いしね」

 

「それでトレジャーハンターになったってことか…なるほどな。それは少し分かる気がするよ。俺も鍛冶を自前でするために、材料集めでダンジョンに潜ることがあるから…だけど、一人で危険じゃないのか?見たところ、装備的にソロで無茶できるものじゃないだろう?」

 

「短剣スキルはマスターしてるし、索敵に隠蔽…それに、トラップ対策からアイテム使用の効果上昇といったスキルを中心にマスターしているから…一応自分の身を守れるくらいにはしているつもりよ」

 

(…そういえば、さっきのコボルトロード戦でも、かなり素早い身のこなしを見せていたな。即席とはいえ、俺との連携も取れていたし…謙遜しているけど、攻略組でも通用しそうな実力だったな)

 

結構弱めのステータスだったとはいえ、ネームド級だったコボルトロードとやりあった動き、そして、俺との連携を見事にこなしたフィリアの実力はかなりものだったと思う。

 

…まぁ、プレイヤースタイルは人それぞれだから、俺がどうこう言うことではないのだろう。俺の知り合いにも、中層以下のプレイヤーを支援するべく、最前線に出ない人…あのボディガードの仕事を担っている人がいるし…

 

「さーてと…話は終わりにして、そろそろ行きましょう。もう少し先に行けば、さっき見た球体によく似た素材でできているオブジェクトがある場所に着くわ」

 

「分かった」

 

話も一段落したことで、立ち止まっていた足を進めるべく、フィリアの言葉に従って再び森を抜けていく。すると、窪地のような場所へとたどり着き…

 

「…あれよ、私が見つけたものは」

 

フィリアの言葉と視線の先を辿ると、左側の端部分にポツンと逆三角錐状のオブジェクトが浮かんでおり、その表面には…俺の右手に現れた紋章と同じものが刻まれていた。

 

「確かに…この紋章と同じだな。フィリアはこれに触ってみたんだよな?」

 

「ええ…でも、私が触っても何の反応もなかったわ。けど、あの球体に最も近いこの場所にあるこれが何か関係があると思うの…それこそ、球体への入り口なんじゃないかって…」

 

「…もしそうだとしたら、試してみる価値はあるよな」

 

彼女が触って何も反応がなかった…しかし、オブジェクトに刻まれたものと同じ紋章を持つ俺が触ったら?…その仮説を確かめたいというフィリアの考えを察し、俺は右手をオブジェクトに近づけようとした。

 

すると、オブジェクトと同期しているかのように紋章の光が一段と強くなり、今の行動に問題がないと思った俺はそのまま右手でオブジェクトに触れた…すると、

 

『認証開始……認証が完了しました。アクセス権限を持つプレイヤーを確認しました…管理区へと転移しますか?』

 

「管理区…だって?」

 

オブジェクトに刻まれていた紋章に光が宿り、システムメッセージが俺の眼前に表示された…どうやら、俺が触れたことによって、オブジェクトが起動…つまり、アクティベートされたらしい。

 

そして、気になるワードが出てきた…管理区…つまりは、ホロウ・エリアを管理する場所ということだろうか?だが、そんな重要なエリアに一プレイヤーが入れるものなのだろうか…そんな疑問が浮かびつつも、考えていても始まらないのもまた事実で…

 

「君の考えが的中したよ。このオブジェクトから管理区…あの球体の中に行けるみたいだ」

 

「管理区…もしかしたら、そこにこのホロウ・エリアの秘密があるのかも…」

 

「名前からして可能性は高いだろうな、俺も同意見だ」

 

「……ねぇ。私も…ついていっていいかな?」

 

「もちろん…むしろ、こっちから頼もうと思っていたくらいだ。一緒に行こうぜ」

 

「……うん」

 

フィリアの観察力と推察力は頼りになる…少なくとも、信頼できる人物が一緒にいてくれた方が、この未知なるエリアでは一番心強いことだ。

 

断る理由どころか、むしろ一緒に来てほしいと思っていたので、フィリアの頼みを快く引き受け、俺は彼女に手を差し出す。

 

万が一、一緒に転移されないようなことがないように、手を繋ぐといった接触をしておいた方がいいと思ってだった。フィリアの方も、俺の意図を察したらしく、軽く手を取ってくれた。

 

そこから、オブジェクトを操作して転移を実行すると…転移する時お馴染みのシステムエフェクトによる水色の光が俺たちの視界を包んで……

 

 

 

「……ここが…管理区なのか?」

 

視界を覆う光が消え、目にした光景を前に、俺は思わず呟いていた。

 

さっきまでいた森の中とは全く違う…いや、これまで訪れてきた場所のどことも違うその光景に、俺は茫然とするしかなかった。

 

頭上には宇宙を思わせるような空間が広がり、周囲にはプログラム構成を連想させる黄金色の英数字が波のように漂っており、前方には…SAOに似つかわしくないキーボードのようなものが搭載された台座がある…分かりやすく言うなら、ファンタジー感をメインとしたSAOではありえないデジタルな空間が景色として存在していたのだ。

 

台座の上にはいくつものホログラムが映っており、何かを…いや、あれは俺たちが攻略を進めている鉄の浮遊城…アインクラッドの構図もあった。前に一度…このSAOがデスゲームになると茅場が宣言した時に同時に見せていたものにそっくりだ。あれよりも、さらに精巧なものだと言えば、伝わるだろうか…

 

「ビンゴ!おそらく、こここそが球体の中だったのね!」

 

「…えっ、あ、ああ…そうだな」

 

一方で、自身の推測が当たったことに弾んだ声を出したフィリアの言葉が聞こえ、俺は我に返って応える。驚くのもその辺にして、今はここを調べることを優先すべきだろう。そう思考を切り替えようとしたが、

 

「…!ねぇ、ここって…圏内だよね?」

 

「えっ……本当だ。って、それなら、ガーディアンが………来ない?」

 

「そう、みたいだね…」

 

気づいたフィリアの指摘に、俺も自身のステータスの下に表示されているそれ…紫色の圏内エリアを示すシステムタブを見て理解し、それと同時に周囲を警戒する。

 

圏内では決闘以外でHPが減ることがない…いわゆる安全圏として扱わる一方、オレンジカーソルのプレイヤーが圏内に入ろうとする、もしくは、転移によって街中に現れた場合、ガーディアンと呼ばれるNPCが出現し、オレンジプレイヤーを圏内の外へと追い出すのだ。

 

俺は問題ないが、カーソルがオレンジのフィリアがこのままではガーディアンの対象になると思い警戒したのだが…ガーディアンが来るどころか、俺たち以外の誰も現れる気配すらなく、俺だけでなくフィリアまでもが不思議そうに周囲を見渡していた。

 

「ガーディアンが来ないだなんて…転移結晶のことといい、やっぱりいつものルールがここでは適用されていないってことなのか?」

 

「でも、今は有難いことだわ。邪魔者の介入を気にせずにここをじっくり調べられるからね」

 

「…それもそうだな。なら、調べていくとしよう。俺はこのコンソールを調べてみるから、フィリアも気になった場所を調べてみてくれ」

 

「分かったわ」

 

不自然なことにまた遭遇しつつも、今は逆に好都合だというフィリアの意見に賛同し、俺たちはそれぞれ手分けしてこの場所を調べ始めた。

 

まず気になるのは…やはり眼前に設置されているコンソール台だった。

 

パソコンのキーボードにそっくりな…いや、そのままキーが刻まれてる石台の前に立ち、それに触れると、コンソールが起動したのか光の線が台座に走り始めた。

 

『アクセス権限者を確認しました…ホロウ・エリア各地にて管理区への転移オブジェクトを配置します』

 

「転移オブジェクト…さっき触れた石碑のことか。あれが、ホロウ・エリアの各地に配置されたってことなのか?そんなに広いのか、ホロウ・エリアは…?」

 

『続いて、アクセス権限者にマップデータのインストールを行います。データインストールが完了するまで少しお待ちください』

 

「おっ、それは助かるな…これでアンノウンだった位置情報とかが分かるようになるかもしれない」

 

転移オブジェクト…改め転移石が配置されたことで、それに伴ってマップデータもくれるらしい。現在位置やら居場所が不明だった状況が改善されるかもしれないという事態に、俺も思わず明るい声が出る。

 

「ねぇ、フォン!ちょっとこっちに来て!」

 

「うん?どうしたんだ、フィリア」

 

マップのインストールが終わるのを待とうとしていると、後方を調べていたらしいフィリアに呼ばれた。どうしたのかと歩み寄ると、彼女の視線が地面…何かの文字が刻まれた板へと注がれていた。

 

「これって…ちょっと見た目は違うけど、転移門じゃないかと思って」

 

「何だって……本当だ。これは転移門の一種みたいだな。これでここから出られるな」

 

「出られる、か……よかったね」

 

「よかったねって…フィリアもここから出るじゃないのか?そのために、ここまで君も来たんだろう?」

 

「…私は一緒には行かない……だから、あんたは帰りなよ。あんたには、心配してくれる相棒がいるんでしょ?さっさと帰って安心させてあげなよ……それじゃ、今度こそさよなら。短いながらも、あんたと一緒で結構楽しかったわ」

 

理由は分からないが…フィリアはまでホロウ・エリアから出るつもりはないらしい。気にはなるが、詮索できるほどの仲でもなく…彼女自身の意思を尊重するべきだと思い、俺は一人転移門の上へと乗った。

 

「それじゃな、フィリア。こっちこそ、君がいてくれて助かったよ……転移!」

 

別れをお礼と同時に告げ、俺は転移門を起動させるべく叫んだ。そして、俺の視界がシステムエフェクトに包まれ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あ、れ…?」「…えっ?」

 

…予期していた水色のシステムエフェクトは発動せず、いつまで経っても転移される気配が始まらず、俺と彼女の驚きの声が重なる。

 

「転移!……っ!転移、始まりの街!転移、アルゲード!転移、フローリア!」

 

「…転移、できない…?(…私のとは違う現象…?!)」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ホームである第21層が駄目なら…そう思い、思い当たる階層の街名をあげるも、やはり転移されず、予想外の事態にフィリアも驚きを隠せないでいた。

 

どういうことかと考えていると、俺のシステムウィンドウに先ほどインストール中だったマップデータの読み込みが完了したという通知が届き、ある結論へと至った俺はマップを開き、呟いた。

 

「転移、『供物が導かれた新緑の街道』」

 

行き先を告げると、さっきまでうんともすんとも言わなかった転移門が起動し、俺の視界は今度こそ水色の光に覆われ…

 

「…そういうことか」

 

転移した先…その光景を見て、俺は自身の推測が当たったこともあって、納得の声を出していた。

 

そこは、さっき管理区へと移動した転移石のあったエリアだったからだ。

 

「あっ、フォン…一体どこに転移したの?」

 

「さっきここに来る時に使ったオブジェクト…転移石のところだよ。どうやら、この転移門で移動できるのは、さっきみたいにアクティベートした転移石のところだけらしい」

 

再度転移石を使ってすぐに管理区に戻ってきたが、転移に成功したことに驚きつつも訪ねてきたフィリアに、行先を答える。

 

マップを確認すると、地図のいくつに丸い点がある。ほとんどは紫色をしているが、その中で一か所だけ水色となっている点があり、そこの名称を確認して転移すると、さっきの場所へと戻れたのが事の真相だった。

 

つまり、どうやら俺はまだこのホロウ・エリアから出ることができないようなのだ。理由は見当もつかないが、できない以上は別の手段を探すしかないわけで…

 

「そう、だったんだ……ごめん、なんか変に期待させちゃって…」

 

「フィリアのせいじゃない。それに、ちょっとホッとしている部分もあるしな」

 

「…ホッと…してる…?」

 

「ああ…少なくとも、こんな紋章を持っている俺が帰れないってことは、俺が帰れるようになれば、君も帰れるようになるってことだろう?理由は分からないが、やっぱり君一人をここに置いていくのはどうかと思っていたところだったからな。

そういう意味じゃ、ここに残ることになったのは…ちょっとホッとしたってことさ。まぁ、そうでなくとも、俺はもう一度来るつもりだったしな」

 

「…なによ、それ。あんたにメリットがないじゃない…」

 

「メリットか…まぁ、確かにないな。でも、俺の気持ちが楽にはなるから、別に構わないさ。それに…俺自身もこのエリアのことを調べてみたいという考えもあったからな。強いて言うなら、俺の好奇心が満たされるというメリットがあるってところかな」

 

「……あんた、本当に物好きだね。その上、お節介…」

 

「どちらも誉め言葉として受け取っておくよ。さてと、出られないと分かった以上、もう少しここを調べないとな…もちろん、手伝ってくれるよな、フィリア?」

 

どこか呆れた、しかし、苦笑しながらもしょうがないといった様子を見せたフィリアは、

 

「いいわよ…乗り掛かった船だもの、ここまで来たら、一緒に調べてあげるわ」

 

そう言って、彼女は協力することを承諾してくれたのだった。

 

 

 

その後、管理区を調べまわった後、時間的には夜となり、ひとまずは睡眠を取ろうということで、圏内である管理区で体を休めることにした二人。

 

寝袋にて眠っているフォンから少し離れた場所…同じく寝袋を借りて寝ていた筈のフィリアだったが、フォンが完全に寝ていることを確かめ、音を立てないようにして寝袋から出た。

 

(…あの特別っぽい紋章を持っているフォンもこのエリアからは出られなかった。けど、彼と私の場合とじゃ、その理由は決して違う)

 

静かに移動するフィリアの頭に蘇ったのは、昼間のフォンが転移できなかったことの出来事だった。もしかしたら、彼も転移できないかもしれないと予想していたところはあったが、その予想は半分当たり、そして、裏切るような結果になったことにフィリアは暗い表情を隠せないでいた。

 

「…転移」

 

フォンと同じように、しかし、行先はホロウ・エリアの各所ではなく、アインクラッドにしたのだが、やはり転移は発動せず、だが、フォンの時とは違い、彼女の眼前にあるシステムメッセージが表示されていた。

 

『システムエラーです。ホロウ・エリアからは転移できません』

 

明確な拒否…フォンの時には表示されなかったそのメッセージを見て、フィリアの表情に一段と影が差される。

 

「……私って…なんなんだろう…?」

 

その一言は誰にも聞き取られることなく、静かに管理区内に響いていた。

 

 




出られると思った?そんな美味しい展開になるわけないでしょう(真顔)

まぁ、冗談はさておき…本作では、フォンもホロウ・エリアから脱出不能という設定になりました(これに関しては、アイテム・装備の問題もありますので、次回のお話で別の要素を追加するのでご安心を)

なので、アインクラッド側では「夢幻の戦鬼行方不明事件」なんて感じで、キリトとアスナ、アルゴ達が心配になって大慌てしかけるという裏設定があります(まぁ、アインクラッド編の通り、74層攻略までには戻ってきてるので、身内だけの騒ぎで済んでるのですが)…その話も番外編みたいな感じで書くのも面白いかもしれませんね(絶対とはお約束できないのですが)

さてと、前回に引き続きゲーム原作と相違点が出てきましたので、上記のものと合わせて纏めますと、
・ホロウミッション、実装エレメントが機能停止…本作では限定的な場面でのみ、前者が発生する(但し、後者に関しては、既にアインクラッドに実装されているものはそのまま適用された状態となっている)
・アクセス権限を持つフォンまでもが、ホロウ・エリアから出られなくなっている(転移結晶が事実上使用不可な理由はここに起因する)
といったところですね。

前者に関しては、本章の根幹に関わる部分が理由であるのが半分、もう残りは完全に作者の都合です(苦笑)
あれです…ホロウ・ミッションまで全部書いてたら話が終わらないので!特に実装エレメントの件なんて、あの凝り性のフォンを絡ませたら絶対コンプしようとする未来が見えてしまったので、本作では機能停止という段取りになりました。
…ただ、全く話に絡ませないというわけでもありません…ちゃんと、大筋に絡ませる予定ですので、ご安心頂ければと。

そして、ゲーム原作同様のフィリアが出られない描写…つまり、フォンとフィリアには決定的な違いがあることを隠している状態なわけで。
そんな隠し事をしつつも、二人がホロウ・エリア…『セルベンディスの樹海』エリアを探索していく開拓編が次回からのお話となります。
フォンもアインクラッドに戻れないので、ゲーム原作のフィリアに関するシナリオを踏襲しての半ばオリジナルストーリーになります。

それでは、また
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