ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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邂逅を終えたところで、本話から探索編となる『セルベンディスの樹海』攻略へと話は突入します。

書いてて、マスタースミスの設定ってそういやどうなってんだろう…と頭を悩ませた回でもあり…ちょっとゲーム原作とは違うアレンジも加えた話となりました。

それでは、どうぞ!



第4話 「ブラックスミスを求めて」

「ふむ……そういう、ことなのか?」

 

「何か分かったの?」

 

一夜が明け、目を覚ましてから取った行動はコンソールの再調査だった。

 

昨日はあまり内容を調べることができず、俺たちが今いる近代チックなフロア…管理区で何ができて、何が配置されているのかを調べ終わったところで、コボルトロードとの激戦が響いたのか、疲れから眠くなった俺たちは寝ることにしたのだ。

 

まぁ、そこら辺の話はまた後でするとして…昨日はそこまで深く調査することができなかったので、再びコンソールを操作して中身を確認していたわけだ。

 

「このコンソールでできることは大きく分けて三つ…そして、その内の二つが今はできない状態になってるみたいだ」

 

コンソール(起動画面のタイトルにホロウ・コンソールと表示があるため、それが正式名称なのだろう)を起動すると、現在浮かんでいるホログラムとは別に画面が表示され、それを見ながら、フィリアへと内容を説明していく。

 

「できることって…?」

 

「ホロウ・エリア…昨日、俺たちがいた樹海エリアを含めた全ての場所が確認できるマップ機能だ。アクティベートした転移石へも、このコンソールを使えば移動できるみたいだ」

 

「ということは、ここから任意の地点へ結晶なしで転移できるってことなのね?」

 

「相も変わらず転移結晶は一つを除いて対象エリアなしの状態で、実質使用不可だからな。そう考えると、この機能は確かに有難いな」

 

「それで、他の二つ…使えないっていうのはどんなものなの?」

 

「…これだな。『ホロウミッションの稼働状況』と『実装エレメント調査リスト一覧』ってやつだ」

 

就寝前に、転移石が使用可能になったことで、転移結晶も使えるようになっていないかと思い試してみたのだが…残念ながら、この管理区を対象にすることはできるようだが、それ以外は駄目だったわけで…

 

フィリアの言う通り、各エリアへとここから転移できるというのは、これから探索していくこちらからすれば、かなり有難い仕様だ。

 

一方で、当然話は他の二つ…使えない機能になるわけで。その二つを聞いたフィリアは思い出すような仕草をして、確かめるように言葉を紡いだ。

 

「…確か、昨日探索していた時に、いきなり聞こえてきた声が言っていた言葉よね?」

 

「ああ…どうやら、それらに関する何かをこのコンソールで確認できるようなんだが…今はそれ自体ができなくなっている。昨日のシステムアナウンスからして、どうやらこっちの機能も連動して停止してるみたいだな」

 

「気にはなるけど…使えないものはしょうがないか。他に分かったことはあるの?」

 

「そうだな……ホロウ・エリアは大きく分けて4つに分類されるみたいだ。昨日、俺たちが出会ったのは『セルベンディスの樹海』と呼ばれているエリアだな」

 

「4つ…それじゃ、樹海エリアから他のエリアに探索範囲を広げていく…感じでいいの?」

 

「今のところ、基本方針はそういうところだな。幸いなことに、この管理区には倉庫ストレージと直結しているボックスが常備されていたし、圏内ということで拠点として利用するには十分だからな」

 

メニューには表示されているが、その二つは選択することができない…使えないものはしょうがないということで、話題はこれからの方針に移る。

 

まずはこのホロウ・エリアを探索し続け、元のアインクラッドへと戻る手がかりを見つける…一応、簡単ながら昨日寝る前に相談したことを確認し合う。

 

この管理区は圏内だけでなく、様々な機能があった。転移機能もそうだが、他にもコンソールを真正面として左の位置に、素朴な造りの木箱がポツンと置かれていたり…開いてみると、なんと俺が普段倉庫として使用していた倉庫ストレージとリンクしていたのだ。

 

しかも、俺が持っている倉庫ストレージ全てに繋がっているらしく、装備関連から鍛冶で使うアイテム・素材といった俺が所有する全てのアイテムの出し入れができるようになっていた。

 

こんな場所にアイテムを取り扱っているショップがあるとも思えず、回復ポーションなどの補充をどうしようかと思っていたのだが…その心配どころか、武器の強化まで場所さえ確保できれば可能だという事態にちょっとホッとしたぐらいだ。

 

それはフィリアも同じようで、彼女がボックスを使うと彼女の倉庫ストレージへと繋がるようになっていた…どういう仕組みなのかはさっぱりだが、残念ながらここにはそれが分析できるような面子もおらず、ひとまず突っ込むのは野暮だということで放置することになったのだが。

 

「それじゃ、俺は森から…この『遺棄された武具実験場』の方へと行ってみるよ。武具実験場というからには、もしかしたら鍛冶ができる場所があるかもしれないからな」

 

「鍛冶…?そういえば、自作の武器を作っているって言ってたわね?」

 

「基本的に、俺は自分が使う武器は自作してるんだ。小さいが、自分の工房も持ってるしな。耐久値の回復といったメンテナンスだったらここでもできるが、強化とかになったら、炉とか窯がないとできないからな」

 

「…強化、か…」

 

「…どうした?」

 

活動拠点を確保できたのだから、次にしたいのはここでできないことをできるようにすること…鍛冶スペースの確保といったところだった。このホロウ・エリアにいつまでいるか分からないのだ。攻略に併せて、武具の強化を図る必要も出てくるだろう。

 

そう思い、まずは鍛冶スペースを確保したく、名前からして何かがありそうな場所へと向かおうと思い、そう進言したのだが…言葉を迷わせるフィリアの態度が気になった。

 

問い掛けられた彼女は迷いつつも、左腰に装備していた自身の短剣を鞘が装着されたホルダーごと外した。

 

「今使っているこの武器…できるなら、もう少し強化できないかと思ってて。この一週間、ホロウ・エリアを駆け巡っている間、何度かダメージの通りが悪かったモンスターもいたりして…メンテナンスもしないといけないと思っていたんだけど…」

 

「ちょっと見せてもらっていいか?」

 

確認すると、頷きながら短剣を差し出してくれたので、それを受け取り鑑定スキルを発動させる。短剣『リノベイト』…峰が櫛のように凸凹上になっているソードブレイカータイプの短剣で、鍛冶師として言うならば、結構変わった武器を持っているというのが正直な感想だった。

 

どうしてかと言うと…まぁ、使いこなすのに結構コツがいる武器なのだ。俺なんかはシステム外スキル『武器破壊』が使えるのもあるのでそこまで使う必要がないっていうのもあるし、そもそも対人戦になることの方がそこまで多くないので…他人が使っているのを見たのはかなり久々な程だったりする。

 

…話が逸れたが、改めてフィリアが使っている武器のステータスを見るが…なるほど、かなり使い込まれているのが分かる。強化状態を+5までしているようだ…確か、素材が倉庫にあったから、失敗なしでという条件でも+7までは強化ができそうな気がする。

 

「…よし。これなら、あと二段階は強化できると思うよ。強化の方向性は、既存の強化に則ったものでいいか?」

 

「えっ…い、いいけど…二段階って……もうすでに5回強化してるのよ?」

 

「それを分かってる上で言ってるんだよ。一応、鍛冶スキルもマスタリーしてるからな…腕に関しては任せてくれといった感じだ」

 

「鍛冶スキルをコンプって…まさかマスタースミス!?…それって、SAOでも持ってる人が限られる鍛冶の最上位称号じゃない!48層にいるリズベット武具店の鍛冶師もそうだって有名だけど…」

 

「リズのことを知ってるのか…まぁ、そういうことだ。ほら、この通りな」

 

まぁ、マスタースミスは確かに珍しいか…どうやらリズの名は中層でもかなり通っているようだ。鍛冶スキルがカンストしたプレイヤーのことを、マスタースミスと呼ぶのだが…俺はスキル画面を可視化して、鍛冶スキルをマスタリーしているのをフィリアへと見せる。

 

最初は疑っていた彼女だが、それが間違いないと分かると…物凄い表情を今度はしていた。何というか…

 

「なんか胸焼けが酷いような顔になってるぞ?」

 

「…まさしくそんな気分よ。謎のエクストラスキル持ちに、マスタースミスって…あんた、本当に何者なのよ?」

 

「…ちょっと手が広いだけの一プレイヤーだよ」

 

まさか『夢幻の戦鬼』という痛い二つ名をつけられていて、しかも、この世界のことを小説で知っている転界人だとは言えず…苦笑が混じった誤魔化しでその場を濁すしかなかった。

 

フィリアの方ももう突っ込むのを諦めたらしく、軽くため息を吐いて会話を再開した。

 

「なら、武器の方は任せるわ」

 

「任された。でも、その間の武器はどうするんだ?流石に隠蔽スキルや探索スキル系を充実させているとはいえ、何かしらの武器は持っていた方がいいだろう?…ちょっと待っててくれ」

 

そういうことで、武器の強化は俺に任されたわけだが…その間、フィリアが何の武器も持っていないのはどうかと思い、俺は倉庫ボックスを開きに行った。そこから、武器を取り出し、そのままオブジェクト化する。

 

「これなんてどうだ?」

 

「………ちょ!これ、凄い性能の武器じゃない!?」

 

「まぁな…俺が自作した武器の中で、短剣の中では一番性能が高い武器だ。ステータスもAGIの方にも振ってあるから、預かった武器と使い方はそう大きくは変わらないはずだ」

 

「それはそうだけど……私にこんな武器を…」

 

「オレンジだという理由は聞き飽きたからな。そんなことに比べたら、武器を持っていない間に君に死なれた方が遥かに寝覚めが悪い…遠慮する気持ちは十分に分かったし、俺のことを心配してくれるなら、逆に借りて使ってくれないか?」

 

反論をそれ以上は言わせないと、フィリアの言葉を遮り、俺は強引にその武器…短剣『ゲイル・ザンバー』を彼女へと差し出す。

 

以前、ピナを蘇生させるためのクエストにキリトとシリカと共に挑んだ際、シリカに譲った短剣の発展型であるこの武器…順手・逆手持ち両方に適応した剣で、AGIに重きを置き、DEX・DEFも高いステータスだ。

 

有無を言わせない俺の笑みと言動に、遠慮していたフィリアは溜息と共に諦めの表情を浮かべ…

 

「…なら、その後悔が現実にならないように借りてあげるわ」

 

そう言って、短剣を受け取ってくれたのだった。

 

「…軽い。いい剣、確かにマスタースミスを名乗るだけのことはあるわね」

 

「だろう?ちょっと感覚を掴むまでに時間はいるだろうけど、普通のモンスター相手になら問題ない筈だ。さてと…行ってきて、もしも鍛冶場が見つかったとして……5時間後にどこかで合流っていうのはどうだ?」

 

「そうね…だったら、私は…この教会って名のついてるエリアがある南西から大きく回ってみるわ。その先にある『パステアゲートへと続く橋梁』って場所なら、あなたも合流しやすいでしょ?」

 

「…そうだな。それじゃ早速出発しようか」

 

試し振りを終え、短剣を鞘ごと腰に装備したフィリアと打ち合わせをして方針を決める。まずは俺たちが出会った場所…樹海エリアを探索していき、手がかりを探していく形だ。

 

といっても、転移石は紋章を持つ俺が触らないとアクティベートしない可能性が高いため、フィリアが細かいマッピングをした後で俺が起動させに行き、逆に俺は宝箱や敵の配置のマッピングし、素材などの収集をメインとする分担になった。

 

情報が集まったり、一人ではなんともできない状況に二人掛かりで挑む…そういう方針で当面は活動していくことになったわけだ。まぁ、フィリアがまだ少し警戒心…というか、こっちに気を遣っているような感じなので、そういう流れになったのだ。

 

…あと、食糧というシビアな問題もあるわけで。

倉庫ストレージが使えるとはいえ、保存食アイテム以外の食材など耐久値の問題で、更には当然として水などの水分などはストレージに収納していたわけがなく…管理区という休息地があるとはいえ、SAOが食事をしなくても一応は大丈夫だとはいえ、やはり空腹を感じると集中力の欠如に繋がるため、結構死活問題だったりする。

 

そういうわけで…俺たちはコンソールを使って、再び樹海エリアへと転移したのだった。

 

 

 

「フィリア、スイッチ!」

 

「うん!」

 

幻想剣≪両手剣≫単発ソードスキル〈フォール・ルイン〉…暗い青のライトエフェクトを纏った一撃を振り下ろし、横薙ぎの両手剣を弾き飛ばす!

 

全能力強化バフが掛かり、相殺どころか打ち負かす形で隙を作ったことで叫ぶと、タイミングを見計らっていたフィリアが後方から飛び出し、短剣単発ソードスキル〈アーマー・ピアス〉をがら空きになったボディへと…鎧の隙間を拭い突き刺した!

 

その一撃によって大きくよろめいた騎士に止めを刺すべく、すぐさま硬直が解けた俺が続く!

 

「ラストォ!!」

 

バフにより強化されたステータスから繰り出すのは、紅蓮のライトエフェクトを刃に宿した両手剣最上位6連撃ソードスキル〈カラミティ・ディザスター〉…その6連撃は残っていたモンスターのHPを全て削り取り、その鎧に身を包んだ体をポリゴンへと変えた。

 

「…お疲れ」

 

「ああ、フィリアもな…というか、まさかこんなところで格上のモンスターと相対することになるとは…」

 

最後の一体…他よりも一回り大きい騎士モンスター『ダークネスマスター』を倒したところで大きな息を吐き、同じく安堵していたフィリアの労いの声に応える。

 

昨日、コボルトロードと死闘を繰り広げた場所『セルベンティスの神殿前広場』(そこの転移石もアクティベートした)を通って辿り着いた場所…複数のステンドグラスから日が差し込む教会らしき雰囲気が漂う『聖剣を望んだ待機所』へと到着したのだが…

 

そこは高レベルのモンスターがうろつく魔窟だった。

 

ワスプ系のモンスターは大したことはなかったのだが、騎士系統のモンスターが異常だったのだ。俺は当然として、フィリアも索敵スキルをマスタリーしていたのだが、だからこそその異常さがよく分かった。

 

基本的にモンスターを示すカーソルは黄色や赤色なのだが、真っ黒なカーソルを持つモンスターと遭遇した場合、まず敵対しないことが当然とされていた。

 

モンスターのカーソルは自分とのレベル差によって色分けされており、黄色は格下、赤色は同等か少し上、そして、真っ黒は15~20レベル以上は離れているとされている。

 

そして、俺たちが一体ずつ倒していった騎士モンスターたちのカーソルは赤に近い黒で…どうして、そんな危険を冒したのかというと、このダンジョンの扉のいくつかは閉鎖されてしまっており、開錠するためのギミックが見当たらないことから、ある特定のモンスターを倒すしかないと判断した俺たちは、慎重に一体ずつモンスターを屠っていったのだ。

 

幸いなことに、敵のHPやステータスを識別する『識別スキル』(20レベルよりも敵の方がレベルが上だった場合、適用されない)は発動していたため、勝機があると判断した俺たちは騎士たちへと挑んだ…そして、先ほど最後の一体を倒し終えたところだったわけだ。

 

それと同時に、格上のモンスターを複数倒したことで予期していなかったことも起こり、

 

「…おっ、またレベルアップだ」

 

「ってことは、さっき100だったから、今度は101…私も上がって98になったわ」

 

「最初は高レベルのモンスターを相手にするとなってどうしたものかと思ったが、ステータスが高いだけで、基本的な動作はアインクラッドにいるモンスターと大差なかったのも大きかったな」

 

「そうね…レベリングとしてはある意味いいかもね」

 

そう…13体ほど騎士たちを倒したのだが、99レベルだった俺が101に、フィリアも同じく2レベル上がって98レベルになったのだ。

 

アインクラッドの方だと、99レベルだと安全マージンを十二分に取ってしまっているので、得られる経験値も微々たるものだったのだが、このホロウ・エリアでは72層以上のモンスターも多いせいで、経験値もおいしいのた。

 

…同じ立場であるキリトが知れば、羨ましがりそうだと思ったのは余談だ。

 

…ガコン!

 

「今の音…どうやら閉ざされていた扉が全部開いたみたいだな」

 

「さっき倒した黒い騎士の時にも同じ音が聞こえたから…これで、それぞれの目的地へと迎えるわね」

 

「ああ。ここからは別行動だが…お互いに十分気を付けて行こう。ここみたいに、高レベルモンスターが跋扈している場所もまだあるだろうし」

 

「分かってるわよ…というか、私の方がこのホロウ・エリアにいる期間は長いんだから、そんなへまはしないわよ」

 

「…そうだったな。悪い、悪い」

 

どこから響いた音からして、さっきは開けなかった扉のロックが解除されたのだろう。マップを確認して、ここで別れた方がよそうだと判断した俺たち。ここからは互いにソロ行動ということもあって、つい心配の言葉を掛けてしまったが、どうやらお節介だったらしい。

 

そんなフィリアの不機嫌さが籠った言葉に謝りつつ、俺は北へと向かおうと…

 

「…そっちも気をつけなさいよ」

 

「…おう。それじゃ、また後で」

 

背中にそんな言葉を掛けられ、俺は少しだけ振り返って手を振り、再び足を進めた。それに僅かに遅れる形で、フィリアも動き出し、俺たちはそれぞれの目的地へと移動し始めた。

 

 

 

「…ここが遺棄された武具実験場か」

 

『遺棄された武具実験場』…その名前に反して、見た目は古代遺跡を思わせるような石造りのダンジョンの入り口を前で、俺はそんなことを思っていた。

 

ここに来る前に一つ転移石を見つけアクティベートしてきた…そのまま進み続けた森の中で隠れた遺跡を目にしているわけだが、ダンジョン名と見た目に差異がありすぎではないだろうかと思わざるを得なかった。

 

期待しているものはないかもしれないとも思いつつ、ここを踏破しなければ合流地点である『バステアゲートへと続く橋梁』には行けないため、期待半分諦め半分の気持ちで俺は遺跡へと足を踏み入れた。

 

「…なるほどな。武具実験場っていうのはこういうことか」

 

マッピングしながら入り組んだ遺跡の道を歩いていた俺は、通路の角から顔を覗かせていた…その視線の先にいたのは、自動歩行しながらフロアをうろつくゴーレムの姿だった。

 

ワスプ系のモンスターとは別に、どうやらここにはゴーレム系もいるようだ。これまでは見たことのなかったゴーレムに、俺はこのダンジョンの本当の意味を悟った。

 

ここで実験として作られていた武具とは、おそらくゴーレムのことを指していたのだろう。遺棄されてからどのくらいが経っているかは知らないが…そうなると、希望を捨てるのはまだ早いのかもしれない。

 

(もしかしたら、何かしらの設備があるかも…カーソルの色からして、モンスターのレベルも格下のようだし、深く探ってみる必要があるようだな)

 

行動方針が定まったところで、俺は両手剣を抜き、再び探索を開始した。

 

モンスターたちを倒していく傍ら、遺跡を探索していく…いくつかの小部屋を見つけては入ってみるも、宝箱がただ置かれていたり(中身はバラバラ…ポーションなどのアイテムだったりすれば、未見の武具だったり素材だったり)、モンスターが密集していたりなど…なかなか当たりを見つけられず、マップ的にも次が最後の部屋となりそうだった。

 

これは当たりがないパターンか…そんな予感が落胆と共に頭を過り、多少の覚悟を決めて俺はその部屋へと…

 

「……おおおぉ!?これは…!」

 

その部屋は他のものとは異なり、小部屋ではなくかなりのスペースを誇る部屋だった。どうやら、ここが遺跡の最奥だったらしく、突き当たったその部屋へと踏み入るとの同時に、俺は感嘆の声を漏らしていた。

 

なぜなら、部屋の奥に大きな炉が鎮座していたからだ。

 

別に大きければいいというわけではないが、構造からしてかなり上質な炉であることは見て取れたのだ。以前、リズの工房の炉も見させてもらったこともあったが、あれよりも良いものではないかと思い、俺はもっと近くで観察しようと歩み寄った。

 

だが、炉を見つけたことで気が緩んでいたのもあり、俺は警戒心が薄れてしまっていた。だから、部屋の中央に辿り着いた時に、

 

…ガシャン!

「っ…!?」

 

入ってきた部屋の扉が石の壁によって閉ざされた瞬間、罠に掛かったと遅れて気づいた。もちろん、閉じ込めたので終わりなわけがなく…

 

「まぁ、そうくるよな…」

 

部屋の中央…そこにいる俺の眼前に突如として出現したその巨体の影に思わず言葉が零れるも、その次の瞬間には振るわれた巨腕が見え、俺はすぐさま後方に飛ぶ!

 

『The Proto Metal Mommy』…黄ばんだ包帯が全身に巻き付かれ、破れたところから見えるは鉄の身体らしき黒い素体…『造られた鉄の試作マミー』といったところか。

 

ゴーレムとマミーを合成したキメラの一種と捉えるべきか…さっきの一撃も想像していたものより動きが早かった。だが、プロトタイプであるせいか、ネームドモンスターとしては珍しいHP一本というステータスだった…まぁ、だからといって油断はできない。なぜなら、奴を指すカーソルは赤を僅かに残した黒だったからだ。

 

(…ステータスがギリギリ見えているところからして、レベル差はきっちり20といったところか。このまま戦うのは厳しいよな)

 

両手剣は相性的にそこまでよくない、マミー系統が持つ耐久性の高さに、ゴーレムの硬質の旨味が重なったやっかいな相手…そこにレベル差という最も戦局を左右する要素があるのだから…生き残るには本気を出すしかないようだ。

 

「…ふぅ。こういう相手なら、逆にフィリアがいないこの状況はある意味幸運だったか?」

 

そんな言葉と共に苦い笑みが零れる…と、同時に右手でメニューを素早く操作し、スキルを発動させる。

 

フィリアの前では使用しないようにと考えていたが、彼女がいない今、その制約を気にする必要はない。

 

『高速換装スキル』…ストレージから直接換装させる形で武器だけを持ち換えるか、1番から5番までに登録しているパターンの装備に換装することができる、幻想剣専用バトルスキル。

 

『幻想剣』のスキルを習得していることに気づいたのは、このスキルが一覧にあるのを見つけた時だった。習得どころか、見たことも聞いたこともなかったそのスキルは、それまで主導で武器の高速換装をしていた俺にとって、戦闘の幅を広げる貴重なスキルでもあった。

 

そのスキルを使用し、後者の能力であるフル換装を選択する…あらゆる状況に対応できるように多くの装備をストレージに入れてきていたが、その中から2番に登録された重装備を選んだ。

 

それにより、瞬間的に俺の全身がシステムエフェクトの光によって包まれる。『蒼炎の烈火』から部位破壊と攻撃面に重点を置いた装備…ブラウンカラーのコートにテンガロンハットを被った重装備『デュアロ・デイナソー』へと変わる。

 

そして、背中に背負っていた両手剣『エンプレイス・ジェイル』をも、左腰にオブジェクト化した片手棍『フェイタル・アウト』へと置き換わった。換装が終わった直後に、片手棍を抜き、腰を落として身構える。

 

「(慎重にいくべきなんだろうが、あんまり大暴れすると折角の鍛冶設備が台無しにされかねないし…お前には悪いが…)…出し惜しみなしの短期決戦でいかせてもらうぞ!」

 

言葉が通じないとは分かりつつも、鼓舞を兼ねての言葉を皮切りに俺は一気に飛び出した!その俺の動きに見事に反応したプロトマミーは迎撃しようと、その巨腕による右正拳突きを繰り出してきた。

 

…直撃すれば無事ではすまないその一撃を、俺は敢えて迎え撃った!

 

「…うおおおおおおおぉぉ!」

『…?!』

 

薄紫色のライトエフェクトを宿した棍棒の一撃が巨腕を相殺するようにぶつかる…そして、斥力によって衝撃波が発生し、少し遅れて俺とマミーがノックバックによって後ろに軽く吹っ飛んだ。

 

幻想剣≪片手棍≫単発ソードスキル〈シェペリング・カウンター〉…このソードスキルは攻撃用ではない。その技名通りカウンター専用ソードスキル…攻撃力は相殺した一撃を基準とする変わり種だが、このソードスキルの一番の特徴は別にある。

〈シェペリング・カウンター〉は攻撃を相殺した時、相手を確実にノックバックさせるという強力な遮断効果が存在するのだ。そして、相殺した攻撃ダメージの2割を確定で与える…だが、代償として自分も同じダメージを受けるという安易には無視できないデメリットもあるわけで…

 

その代償によって、満タンであった俺のHPが4割も減った…どれだけの攻撃力を持っていたのかと思う程にだが、今はそれを気にしている場合ではない。

 

〈シェペリング・カウンター〉の相殺効果は短時間で連発すると効果が下がる…HPを確定で減らせたのと、ノックバックによって体勢を崩したマミーに対し、硬直が解けた俺は次の幻想剣ソードスキルを発動させる。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

左手で地面を擦ることで勢いを殺し、後退る身体を無理やり止める!そして、そのまま前に進むように一回転しながら片手棍を振るう…のではなく、握っていた柄を手放した!

 

だが、俺の右手から放たれたのにも関わらず山吹色のライトエフェクトを纏った片手棍は真っすぐマミーへと飛来し、動けなくなっていたそのボディに直撃する。追撃の一撃を受け、マミーの身体が更に後退るのと同時に、直撃した片手棍は宙へと舞った。

 

幻想剣≪片手棍≫投擲兼用ソードスキル〈デスペラート〉…一言で表すのなら、持ってる武器を投げるスキルだ。投擲スキルのように思えるが、このソードスキルはそんな生半可なものではない。

直撃しようが、防いで弾かれようと…投擲した武器が必ず空へと舞い上がる仕様になっているのだ。そして、直撃した場合には相手を3秒間スタンさせる効果がある…つまりは決定打を放つにはもってこいなわけで…

 

「一人スイッチとか久々だな…昔はよくやったもんだが、お前相手には丁度いい裏技だろう?悪いが……これでラストだぁぁ!!」

 

宙を舞っていた片手棍を空中でキャッチし、その勢いをも加えてとどめの一撃を放つべく、ソードスキルを発動させるために構える。振りかぶった片手棍に宿ったライトグリーンのライトエフェクトが迸り、そこから発生したオーラが武器を模倣する。

 

隙を作らなければ直撃させるのは難しいが、それを直撃させるための連撃…ある意味では、一人スイッチと呼称している対モンスター用の必殺コンボの〆を繰り出す!

 

振るう片手棍に遅れ、背後の巨大な幻影をマミーへと振るう…スタンが解けた時には、眼前に迫っていた巨大な一撃…幻想剣≪片手棍≫超重単発最上位ソードスキル〈アブスターディ・ターミネイター〉の前に、奴は咄嗟に両腕をクロスさせて防ごうとするが、それは悪手だった。

 

〈アブスターディ・ターミネイター〉は装備している防具のパラメーターを攻撃力に転換する能力に加え、相手の基礎防御力を無視してダメージを与える能力を持つのだ…薙ぎ払うように放ったその一撃は、防御の為に構えた両腕など解さずにマミーの身体を吹っ飛ばした!

 

その直後、硬直に襲われた俺は着地と同時に動けなくなるも、マミーから目を離さずにいた。〈アブスターディ・ターミネイター〉の弱点は、モーションが大振りであることと、硬直時間が5秒と幻想剣ソードスキルの中では長い種類に該することだった。

その代わりに、メリットはさっきの二点に加え、直撃した敵のステータスを一分間3割下げるものがある。まだ倒して切れていないのなら、その一分で止めをと思ったのだが…どうやらその心配は杞憂だったようだ。

 

壁に叩きつけられたマミーのHPは一気にイエローからレッドに…そのままゼロとなり、呻き声を上げつつ伸ばした右手が空を掴んだところで、その巨体がポリゴンへと変わったのだった。

 

「…ふぅ、とりあえず一安心といったところか」

 

もう少し戦闘が続くかと予想と警戒していたのだが、そうはならずに終わったことで胸を撫でおろし、武器を左腰のホルダーに戻した。戦闘が終わりリザルト画面が表示されるが…それと同時にレベルアップをまたしたことで俺は眉を顰める。

 

「本当に…レベルアップの狩場としては美味しすぎるだろう。ユニークスキル持ちか、凄腕の上級プレイヤー限定という条件だけどな…」

 

102レベル…1レベルを上げるのに苦労していた昨今の攻略が馬鹿馬鹿しくなりそうな半面、命賭けのレベリングはそうそうするものではないとも感じた。引き際を間違えれば、そのまま死に直結しかねないからな。

 

「さてと…これでようやく鍛冶場を散策できるな。…うん…?」

 

閉じられていた扉も開かれ、やっと散策できるかと思い炉へと向けると…炉の近くにシステムエフェクトの光が表れ、なんと転移石が出現したのだ。

 

…どうやら、転移石は隠れているものもあったらしい。意外な形に驚きつつも、転移石に触れてアクティベートを行う。これでここに来るのも容易になった。

 

ということで、早速鍛冶場を評すための散策を始める。

 

設定上のせいか、廃棄されたことによって長年使われていなかったことで埃を被ってはいたが、炉は十分に使用可能であり、その他の設備も利用可能な状態だった。

 

というよりも、『魔導工学鍛冶』とか『人工使い魔創造』とか、全く聞いたことのない創造もできる仕様の炉らしい。詳しく調べてみたいところではあるが、残念ながら該当するスキルを持っていないと詳細を知ることはできないようで諦めた…というか、例えできたとしても、フィリアとの待ち合わせ時間もあるためのんびりもしてられない。ここでこだわり癖を発動させるわけにはいかないだろう、

 

「設備の確認はできた…なら、次は炉の火入れだな。その間に鍛冶の準備をしていって……やるか!」

 

確認を終えたところで、鍛冶作業を始める為に準備をしていく。炉に火をくべ、メニューを開いて装備を鍛冶用のものへと換装した(クールタイムは終わっているが、『高速換装』スキルは使わずに、普通に操作して変えた)。

 

同時に素材を確認しながら、フィリアから預かった短剣をオブジェクト化した。ここからは、鍛冶師としての腕を振るいどころだ…鉢巻を一段と強く締め、俺は右拳を左掌にぶつけて気合を入れるのだった。

 

 




オリジナルスキル・武器解説
高速換装スキル
幻想剣専用のバトルスキル。幻想剣スキル習得と同時に自動的に習得することになる初期スキル。
概要としては、二パターンに分けて装備の高速換装を可能とするスキル。一つ目は簡易ストレージを表示させ、武装だけを素早く換装するもの。武器限定に限られるが、操作中も素早く行動できたり、後者の手段よりもクールタイム(10秒)が短いといった使い勝手の良さがある。
二つ目は、1~5の専用スロットにパターン登録した装備へと換装できる方法。防具までもをフル換装できるため、状況に即座に対応できるという利点がある一方、ストレージに登録した武具一式を揃えておく必要があること、一度発動するとクールタイムが30秒掛かるといった弱点も存在する。
 また、このスキルを習得すると、スキル保有者の装備制限が一部緩和される。具体的には、メニューを用いて武器を換装しなければ(同系統の武器を除き)システムエラーを起こしてソードスキルを始め、各種武器スキルの恩恵を受けられなくなる制限が免除される(つまり、拾った装備をそのまま使っても、各種武器スキルが自動的に適応されるということ)
…これまで散々登場させといて、今さら解説するという…当初はそこまで設定を練ってなかったスキルだったというとんでもない裏話があったわけです。

幻想剣≪片手棍≫単発ソードスキル〈シェペリング・カウンター〉
薄紫色のライトエフェクトが特徴の幻想剣ソードスキルの一つ。
カウンター専用ソードスキルであり、攻撃力が相殺した相手の技に依存するという幻想剣の中でもかなりの変わり種。一方で、相殺した対象を必ずノックバックさせるという強力なジャマ―効果を持ち(これはボスモンスターに対しては明確な隙を作り、対プレイヤーに対しても連撃ソードスキルを初撃で無効化することを意味する)、更に相殺したダメージの20%を固定で与えるという能力をも持つ。
一方で、弱点も存在し、まず相殺によるノックバック効果は、同じ相手に短時間で連発すると効果が薄れたり不発になりやすくなる(ポケモンでいう「まもる」の連続使用みたいな事例)。また、後者の固定ダメージに関しては、なんと自分までも同じダメージ値を受けることになるため、ボスモンスターの攻撃などを安易に相殺しようとすると、HPを一気に全損してしまうリスクが存在する(プレイヤーとボスモンスターとではHPやステータスの差が大きいのも珍しくないため)
名前の由来は痛み分けを意味する英語『sharing the pain』を捩って、カウンターとくっつけたもの。

幻想剣≪片手棍≫投擲兼用ソードスキル〈デスペラート〉
山吹色のライトエフェクトが特徴の幻想剣ソードスキルの一つ。
一言で言うならば、まさしくハンマーブーメラン。それだけ聞けば、投擲スキルとなんら変わりないが、このソードスキルの最大の特徴は直撃か防御された場合、システムアシストによって必ず上空に舞い上がる点である。つまり、当てさえすれば武器の回収が容易であるという利点があり、直撃した場合には対象を3秒間スタンもさせる(防御された場合は1秒)ため、追撃を容易にしやすくなることから初動・奇襲として使いやすい技(ソードスキル硬直時間も0.5秒と短い)。
反面、躱されると武器が上空へと舞わないという致命的な弱点も存在し、そもそも投擲した武器の速さもそこまでスピードがあるものではないため(注意さえしていれば、誰でも避けられるぐらい)、技を外すと無防備と化するリスクが存在する。(といっても、フォンには高速換装スキルがあるので多少のカバーは可能なのだが)
技名の由来は命知らずを意味する『Desperado』。複雑な技名が最近多かったのでちょっとシンプルにしたかったのもあって(苦笑)

短剣『ゲイル・ザンバー』
短剣のカテゴリーに該当する武器の一つ。
AGIに重きを置き、DEX・DEFも高いステータス。刀身が薄い緑色で、少し大きめなナックルガード、柄から小さな藍色の小旗が伸びているのが特徴。大きさ的にも片手剣と短剣の中間ぐらいに位置し、順手・逆手のどちらであっても使いやすい仕様となっている。
本編でも語られていたように、本武器はシリカのストーリーにて譲渡した短剣の進化版であり、ALO以降で愛用されている短剣『メップ・ザンバー』の元でもある。

『ホロウ・エリアが広すぎる…』…そんな感想から、今回はソロとして別れての行動となりました(苦笑)お話的には全部の小エリアは周らないです、時間が足りませんので。
アイテム・装備に関しては管理区内に倉庫ストレージを配置するという設定を取らせて頂きました。そうでないと、さすがに厳しすぎる部分があったので…といっても、食糧の問題もあるので、モンスターと戦うざるを得ない状況には変わりないのですが(SAOの仕組み上、肉とかも獣系モンスター倒したらドロップしますし。ほら、ラグーラビットの肉とかカエルの足とか…)

高レベルのモンスターと遭遇してからのバトル回となりましたが…フィリアの目が届かないところ(ここ重要です)でないと、フォンは両手剣以外の幻想剣ソードスキルを使わないようにしております(まさかの自ら課す縛りプレイ)
そんな中、重装備『デュアロ・デイナソー』などの再登場や新たな幻想剣ソードスキルが登場したお話でもありました。本章の目的の一つが『幻想剣ソードスキルを全部出す』だったりしますので…できることなら、ここで出し尽くしておきたいと考えている次第です。

次回はまたコンビに戻ってのお話ですかね…そして、バトル回になるという(といっても、武器のお試し回にもなりそうですが…)
それでは、また。
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