ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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樹海エリア編も佳境となります。
そんなわけで、エリアボス戦です!そして、やっぱり長くなりました(苦笑)

色々と入れ込んだボス戦となりますので、ご期待頂ければと。

それでは、どうぞ!


第6話 「アビスの底に封じられし獣」

「どう…何か分かった?」

 

「いや、さっぱりだな…」

 

装備の整頓・整備を兼ねて、一旦管理区へと戻ってきた後…疲労から睡魔が襲ってきたこともあり、俺たちは軽く仮眠を取ることになった。

 

少し過ごして分かったのだが、どうやらホロウ・エリアには昼夜の概念がないらしい。ずっと昼のような青空がエリア一帯には広がっていたのだが、戻ってきた頃には既に夜の時間となっているのに気づいたのはメニューの時計を見た時だった。

 

そんなわけで、まずは休息を挟もうということになり、一夜明けた今…フィリアの短剣のメンテナンスを終えた後、改めてゴーレムが守護していた小部屋で入手したペンダントを鑑定していた。

 

覗き込むように詳細を尋ねてくるフィリアに、俺は唸りながら首を横に振って答える。

 

「貴重品アイテムなのは確かだが、詳しい説明は書かれてないな」

 

「そっか…装備品じゃなかったみたいだから、もしかしたらと思ったんだけど…」

 

手に入れた首飾り…『虚光の燈る首飾り』という名のアイテムだが、その奇妙な点に気づいたのは試しにフィリアが装備しようとした時のことだった。

 

装備ストレージの一覧に首飾りがなく、ストレージの分類を切り替えると、いわゆるキーアイテム(ダンジョンの鍵やら依頼の証明書といった消耗しない類のアイテムのことを一般的に指すわけだが…)に該当する貴重品ストレージの中に入っていたのだ。

 

それで、何かしらの情報が秘められているのではということで、フィリアがオブジェクト化したそれを、俺が鑑定スキルで詳しく見ていたのだが…そこにはありふれた説明分しか記載されていなかったわけで…

 

期待が外れたこともあり、どこか残念そうにするフィリアだったが、俺は気にするなと言わんばかりに口を開く。

 

「あるいは、これを特定の場所に持っていく…とかかもな。名前には光を燈したってあるのに、全然光ってないのも気になるしな」

 

「っていうことは、ホロウ・エリアの散策を続けていくのは変わりないのね」

 

「だな…あと散策し切れてないのは、樹海エリアの北東側と、昨日落ち合った『バステアゲートへと続く橋梁』か」

 

「なら、まずは橋の方から調べてみる?あそこなら、転移石で直接行けるし…」

 

「ああ、そうしようか」

 

貴重品アイテムであるならば、どこかで使える可能性がきっとある…そう思い、次の方針が決まったところで、俺たちは再びホロウ・エリアへと向かうのだった。

 

 

 

「…これは…紋章と同じものか?」

 

『バステアゲートへと続く橋梁』へと転移してやってきた俺たち…前は、待ち合わせ地点としていただけだったので、そこまで探索していなかったのだが…エリアの西側に地名にもある橋が架かっているのを見つけた。

 

だが、橋はホログラムの障壁によって封鎖されており、そこには俺の右手にある紋章と同じものが表示されていた。

 

一応、転移石と同じ仕様か思い触れてみるも…残念ながら、反応は全くなく障壁も解除されずじまいだった。すると、

 

「フォン、こっちに来て」

 

「どうした、フィリア…?」

 

「これ見て…ペンダントの形と同じ窪みじゃないかな?」

 

「確かにそうだな…試しにペンダントを嵌めてみてくれないか?」

 

橋の入り口の傍にある支柱を調べていたフィリアに呼ばれ、右の支柱の方へと駆け寄る。指さすところへと視線を向けると、支柱には何かを嵌め込むような窪みがあった。

 

俺の言葉に従い、フィリアが首に掛けていたペンダントを嵌め込む…ちなみにどうして、フィリアが首に掛けていたかというと…

 

「綺麗なペンダントだし、フィリアが身に着けた方がよくないか?」

 

「で、でも…私にこういうの似合わないし…」

 

「そうかな…全然そんなことはないと思うぞ。むしろ、フィリアに似合わないなんてことないさ…俺が保証するよ」

 

「………なら、着けておいてあげる」

 

管理区でどっちがペンダントを持っているかという話になった際、そんなことを言ったら、ちょっと顔を赤くして身に着けたわけだ。普通に、フィリアの雰囲気にマッチしていると思っての言葉だったのだが…そういうのには無頓着なのだろうか?

 

…まぁ、そんな話は置いておいて…どうなったかというと、

 

「…何も起こらない…?」

 

「いや、どうやらそうでもないみたいだぜ」

 

パッと見は何の変化も起きてないようだが、フィリアの疑問に応えるように俺はホログラムに新たに表示されたそれを指さす。

 

『現在、浮遊遺跡方面へのゲートは封鎖されています。解除には、当エリアの権限を得る必要があります。門番が守る証を手に入れてください』

 

「門番…この樹海エリアのボスを探し出して倒せってことなのかな?」

 

「おそらくな…となると、残る手がかりは北東のエリアか」

 

ペンダントを回収し、システムメッセージの意味を読み取ったフィリアに同意し、俺はマップを開く。残るは北東方面に広がるエリアだ…そこのどこかに、この樹海エリアの主とも言えるボスがいるのだろう。

 

「ともかく、これではっきりした…各エリアそれぞれにボスがいて、次のエリアに行くにはそいつらを討伐する必要があるみたいだな」

 

「なら、早速探しに行かないとね」

 

ひとまずここで出来ることはなさそうなので、転移石を使うために管理区へと戻り、俺たちは北東方面へと向かうことにした。

 

 

 

「なんていうか…神殿みたいな場所だね」

 

4メートルはあろうか天井に、定期的にまた大きなガラスが立ち並ぶ大理石調の建物…スケルトン系やデスサイズ系のモンスターがうろついていることから、廃れた神殿という意味では、フィリアの感想は的を得ているだろう。

 

『セルベンディスの神殿前広場』から地続きしていた新たなエリア『供物の神殿』を探索していた俺たちだったが、隅々まで歩き回っているのもあり、モンスターとエンカウントしまりで、探索を始めて20分ぐらいが経とうしていた。

 

「樹海エリアという名の割には、こういう建物が多いよな…この神殿もだが、武器廃棄場とか教会とか…」

 

「森は神聖な場所だっていう捉え方もあるからかもね…それか、他の場所に相応しくなかったから、ここに詰め込んだとか…」

 

「その理由はどうなんだ?あの天才科学者だって言われてる茅場明彦が、そんな雑な仕事をするとは思えないんだが」

 

「…よ、容量の問題とか」

 

マップも7割を埋め終わり、残すは奥の方だけどなったのもあり、興味心からそんな他愛もない話を口にしていた。

 

なんというか…このホロウ・エリアはちぐはぐなような気がしてならないのだ。

 

フィリアは他には思い当たらないといった様子で降参の意を示していたが…俺はどうにも納得がいかずにいた。

 

このSAO…ソードアート・オンラインを創り上げ、空浮かぶ鋼鉄の城がある世界へと行くことを夢見ていた茅場という男のことを、本を通してとはいえど、その心情を知っているからこそ、このホロウ・エリアの構造は変に感じるのだ。

 

これまでのアインクラッドの構造は一層ごとに何かしらのコンセプトがあった。攻略に関わるものもあれば、街の構造といったものまで…ある意味で、一層ごとにそれぞれの魅力があると表現するのが適切だろうか…だからか、ホームやギルドの拠点を持つ人たちは、階層にこだわる人も少なくなかったりするぐらいだ。

 

だが、このホロウ・エリアにはそれが感じられないのだ…まるで、フィリアの言う通り、詰め込んだというのが適切な感じがする配置なのだ。

 

(…そもそも…プレイヤーがこんなエリアに迷い込んだとなれば、GMであるあいつも何かしら……いや、逆か。あいつだったら、むしろ放置しそうだな。ネットワークRPGの醍醐味だとか言って正体バレすらも容認するぐらいだからな…)

 

名前を出したこともあり、あいつは…茅場明彦はこの状況に気づいているのかと少し気になった。

 

まだ確証となるあの出来事は訪れていないが…これまでのやり取りやあいつの行動から、その正体が小説と変わりないことをほぼ確信している。

 

だが、気づいていようといまいと、茅場の性格上…いや、これから先に起こるであろうあの出来事を鑑みれば、干渉することはないのだろうと思い直した。あの『笑う棺桶』討伐戦にも参加しなかなったのだから、猶更だろう。(その時の言い訳が、プレイヤー同士の争いにはあまり干渉したくない、とアスナ越しに伝えられて、彼女が珍しく不満を表していた程だからな)

 

「…フォン、見て!」

 

思考の海に入っていた意識が、フィリアの呼び声によって現実へと引き戻される。どうやら、いつの間にか奥の方へと辿り着いていたらしく…フィリアが指さす方を見ると、閉じられた大きな門があった。

 

「…開かないか。鍵か何かを探す必要があるのか…だけど、このエリアのほとんどはもう散策し切ったしな」

 

「…あっ、ここを見て。この窪みって…」

 

一応、押したり引いたりするも…案の定、扉は開かなかった。

 

扉の中央には十字のような黄色い紋章が刻まれいる…その一点、中央に窪みを見つけたフィリアの言葉に従い、よく見ると見たことある窪みがあるわけで…アイコンタクトの後に、フィリアは首に掲げていたペンダントを窪みに嵌めた。

 

…ガコン!

 

「ビンゴ!このペンダントで先に進めるってことは…」

 

「…どうやら、その推測は当たりらしい。見ろよ」

 

開錠音のような鈍い音が響き、フィリアと二人掛かりで扉を開くと、先程と違ってスムーズに開いた。

 

見事に推測が当たり、テンションが上がったフィリアの弾んだ声が聞こえる横で、俺は先に見える扉…今、開いたものよりも一回り大きいその扉を目にしていた。

 

「…ボス部屋、だよね?」

 

「装飾の差異はあるけど…間違いないだろうな」

 

アインクラッドの迷宮区…その最奥に構えるボス部屋の扉(一部例外もあったけど…例えば、第5層の迷宮区ボスとか)とよく似たそれを目にし、確認するように問い掛けてきたフィリアへと答えを返す。

 

ただアインクラッドの方で目にしてきたそれとは異なり、今目にしているこの扉の方が少し古いような気がする上に、微妙にデザインが違うようだ。

 

だが、このホロウ・エリアに来て以来、初めて見る扉のタイプである以上、この先には迷宮区と同等のボスがいると考えて進む方がいいだろう。

 

「フィリア、一旦管理区へと戻ろう。回復アイテムの在庫は問題ないけど、この先に迷宮区ボス…いや、ここじゃエリアボスと呼んだ方が適切か…そいつがこの奥にいるとするなら、装備を万全にしときたいからな」

 

俺の提案に、フィリアの方も特に反対意見はなかったらしく、素直に賛同してくれた。そういうわけで、俺たちは一旦管理区へと戻るのだった。

 

そして、ストレージ内の装備を入れ替え、フィリアの分を含めて武器のメンテナンスを完了してから、俺たちはもう一度ボス部屋の前へと来ていた。

 

「ひとまず入ってからの行動はその場その場での判断次第だけど…最悪の場合は撤退することも視野に入れて動こう、いいね?」

 

「うん…命大事に、って奴だね」

 

「そうそう……それじゃ、行くか」

 

準備万端…互いの意思も固まったところで、俺たちはボス部屋(と思われる)の扉を開いた、

 

 

 

『民が捧げられた鮮血の祭事場』…ミニマップに表示された、生贄を捧げると言わんばかりの地名の如く、入った部屋の中は薄暗く…そして、瘴気漂うような嫌な感じがする大きなフロアだった。

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

フィリアの方もフロアに漂う気配に気づいているのだろう…横を歩く彼女から、警戒している気配が伝わってくる。そのまま、フロアの中央にまで辿り着いた時だった。

 

…ボッ!…ボッ!…ボッ!…ボッ!…ボッ!…ボッ!

 

「「っ?!」」

 

突然、部屋に壁に飾られていた蝋燭に紫色の炎が灯り始め、何かが起こり始めたのを察した俺とフィリアは背中合わせに構える。すぐに抜刀できるよう、獲物の柄に手を掛けながら、周囲へと視線を這わせる。

 

だが、俺たちの警戒など関係ないとばかりに、蝋燭の炎はどんどんと灯っていき…三段ずつ周囲の壁に飾られていた蝋燭全ての炎が灯った時だった。

 

…そいつは俺たちの前へと姿を現した…

 

「…そうか。こいつがこのエリアのボスなのならば、この演出の仕方は納得だな」

 

俺たちの足元を通り過ぎ、前方の少し離れた場所にて赤黒い影から飛び出したそいつの姿に、俺は納得して思わず言葉が漏れた。

 

漂う影で構成された身体、そして、穴の部分から漏れた赤紫色の光が目や鼻といった器官のある場所を示していた。だが、その面影は過去に対峙したことのあの時の姿とよく似ていた…差異があるとすれば、影を纏った狼というシンプルな姿だった向こうに対し、全身が影で構成されている他に、眼前にいる奴は頭部や四肢や尾に大小のクリスタルがあり、それらを繋ぐ鎖が全身に装備されているといったところか。

 

「フォン…こいつのこと、知ってるの?」

 

「俺たちが出会ったときに遭遇したコボルトロードと同じだよ、フィリア…こいつもそっくりなんだ。俺が討伐戦に参加した27層のボス『ワーヒラ・ザ・ブラックウルフ』に」

 

「っ…!?」

 

『Waheela the Black Wolf』…かつて、討伐戦に参加して直接対峙したことのあるそいつにそっくりだと、その事実を告げられたフィリアの驚きが伝わってきた。もちろん見た目には結構違いがあるが…姿を現した時の影から出てくるモーションは奴とそっくりだった。

 

そんな27層のボスに酷似したそいつの名は『The Abyss Phantasma』…ファンタズマという言葉が確かどっかの言語で亡霊を意味する言葉だったかと思い、訳すると『深淵に漂う亡霊』といったところか思っていると、

 

『…緊急クエストが確認されました!当ホロウ・クエストが完了するまで、出入り口を封鎖します!』

 

「「…っ!?」」

 

これまで沈黙していた筈のシステムアナウンスが突如として鳴り響き、まさかの脱出不可能を宣言されたことに、俺とフィリアの息を呑む音が重なる。

 

完全にホロウ・クエストは停止しているものかと思っていたのだが…どうやら見通しが甘かったらしい。逆に言えば、こいつを倒すことが何かしらの手掛かりになりそうだという確信を得られたのもあるが…それでも、いきなりのことが立て続けに起こり、思わず舌打ちを打ちたくなりそうだった。

 

『…同時に、=ληΛ÷×ξ『ЙεΓ』の分Χを開Χ\Ωす。結Ν〈デΤタに§ΧさせЕす』

 

(またあの奇妙なアナウンス…一体、何を言ってるんだ…!?)

 

そして、再びノイズが大量に入り混じったアナウンスまでも聞こえた…またしても、その意味を聞き取れず、知らない所で何かが進行しているような気がしてならず、悪態までもを吐きたくなるも、事態はそれどころではなく、

 

「フォン、来るよ!」

 

フィリアの声に、無理矢理を意識を眼前のボスへと向ける!

 

考えるのは後だ…今は、ボスとの戦いに集中するべきだ。

 

ボスの方も戦闘態勢に入ったらしく、まっすぐこっちに突っ込んできたので、俺たちは左右に分かれてそれを回避する。

 

「フォン、27層で戦った時はどんな感じだったの!?」

 

「基本的には本体を影が包んでて、肉体を持つ赤い狼だった!でも、こいつは全てが影で構成されているみたいだ!攻撃手段は、噛みつきと爪によるひっかき、手甲系統の技に、影を使って狼の形をした遠距離攻撃をしてきていたが…軽く別物だと思って戦った方がいい!」

 

「分かった!速さはそこまでじゃないみたいだから、隙を見て仕掛けていくね!」

 

27層で対峙した時と比べて、フィリアの言う通り、このボスの動きはそこまで早くはない…だが、前に対峙したコボルトロードのことを考えると、先入観を持たずに挑んだ方がいいだろう。

 

両手剣と短剣…互いの獲物を抜き、俺とフィリアはボスを両挟みするような形で対峙する。HPは三本…一本ごとにアルゴリズムに何かしらのパターン変動があるとも考えるべきだろう。

 

『GUOOOOOOOOOOO!!』

 

「っ…!(攻撃を逸らしただけで、こっちのHPが少し減った!直撃を喰らいすぎるのはマズいな…!)…はあああああぁぁ!!」

 

右前脚による横薙ぎ払いを両手剣で上へと逸らすも、反動で微かにHPが減った。それなりに防御力がある『蒼炎の烈火』でこれだと、軽装装備のフィリアが直撃を受けるのは当然、俺の方もただでは済まないだろう。

 

幸いなことに、エリアボス…影獣はそこまで動き回ることはなく、肉薄しようとする俺たちを迎撃しようと、脚や尻尾を使って攻撃してくる程度だ。

 

脚を逸らした隙を突き、滑り込んだ胴体の下を通り過ぎざまに両手剣の刃を食い込ませる!ダメージエフェクトが胴体に刻まれるも、霞を斬ったかのような奇妙な感覚を剣越しに感じる。

 

「ダメージの通りが悪い…本体を攻撃するのは効率が悪いかも!」

 

「…!フィリア、あの頭部のクリスタルを狙えるか!?」

 

「えっ……高ささえあれば、なんとか…」

 

「よし…なら、任せろ!」

 

互いにボスへと斬撃を加えていくが、HPは二割も減らせていなかった。このまま闇雲に攻撃し続けるのは得策ではないとフィリアの意見に、俺は各部位にあるクリスタル…まず頭部への攻撃を提案する。

 

俺の言葉に、巨体の一番高い位置にあるクリスタルを見るフィリア…あそこに辿り着く方法はあるのかという問いに、俺は答えるよりも行動で示した。ボスが尻尾を叩きつけてきたのを横っ飛びで躱し、一瞬の合間にメニューを高速操作して、装備を変える。

 

上半身ほどの大きさの片刃を持つ両手斧…薄い紅色と溶岩を押し固めたようなデザインの『ラーバ・ソリッド』を装備し、タイミングを見計らいながら、ボスの前方へと移動する。

 

「フィリア、俺に向かって飛んで来い!」

 

「えっ!…まさか、そういうこと……もう、やってやるわよ!」

 

最低限の言葉と、俺の挙動でどういうことかを察したフィリアが、ヤケクソ気味に走ってくる。そして、俺の構えている両手斧へと飛び乗り…

 

「真っすぐ飛ばす!そのままの勢いで、ソードスキルを!」

 

「外したら承知しないからね…やって!」

 

「…うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」

 

信じた…そうとも聞こえた彼女の言葉に応えるように、俺は両手斧を全力で前へと振るった。その軌道に押される形で、フィリアが前方へと飛んだ!

 

「…っ!いけえええええええええぇぇぇぇ!!」

 

弾丸のように突っ込んだフィリアが短剣を構え、クリスタルへとソードスキルを発動させ突きを放つ!短剣単発ソードスキル〈アーマー・ピアス〉…単発ながら、加速が上乗せされた一撃が結晶クリスタルに突き刺さり、罅を入れた。

 

『GYAAAA?!』

 

「っ…?!」

 

弱点を突かれたせいか、悲鳴の雄たけびをあげた影獣はフィリアを振り落とそうと、その巨体を揺らし始めた。フィリアの方も突き刺さった短剣をしっかりと掴み振り落とされまいとしていた。

 

「これでも喰らって…おとなしくしておけ!」

 

フィリアを援護すべく、奴の下顎を狙いソードスキルを発動させる!左右の横薙ぎ二連撃に、止めの振り下ろし…両手斧3連撃ソードスキル〈アルティメット・ブレイカー〉の全連撃が奴の頭を揺らす!

 

さらに、幻想剣の両手斧の固有効果によるショックウェーブまでも加わった一撃は、見事に奴を大きく怯ませた!

 

「フィリア!!」

 

「っ!…こ、のぉぉぉぉ!!」

 

致命的な隙が生まれ、今だという俺の合図に、堪えていたフィリアがボスの巨体を足場として、そのままソードスキルを発動させる!

 

突き刺さっていた短剣がクリスタルを内部から斬り裂くように赤い斬撃を繰り出す…短剣重5連撃ソードスキル〈インフィニット〉が、頭部のクリスタルを今度こそバラバラにし、それに合わせてボスのHPも大きく減った。

 

「やったね!あとは…」

 

「ああ、四肢と尾のクリスタルも砕いていくぞ!」

 

大ダメージを受けたことで、ボスの身動きが完全に止まっている間に、地面へと脚を伝って降りてきたフィリア…その目論見がうまくいったという声に答え、アイコンタクトをした後にすぐさま分かれる。

 

フィリアが右へと回り込む中、俺は左前脚を狙っていく…もちろん、ボスもそうはさせまいと、四肢と尾を操り抵抗してくる。

 

だが、俺とフィリアのコンビネーションの前に、どっちかが囮となっている間に、片方がクリスタルへとソードスキルをヒットさせていく!

 

短剣3連撃ソードスキル〈トライ・ピアース〉、2連撃〈ラウンド・アクセル〉、9連撃〈アクセル・レイド〉、両手斧7連撃ソードスキル〈クレセント・アバランシュ〉、3連撃〈クリムゾン・ブラッド〉、

 

互いに繰り出し続けたソードスキルが四肢のクリスタルを砕き、尾のクリスタルが最後となり、俺たちは同時に仕掛けた!

 

「「はああああああああああああぁぁぁ!!」」

 

両手斧単発ソードスキル〈グランド・ディストラクト〉と短剣2連撃ソードスキル〈ラピット・バイト〉の剣檄が咆哮と共に重なり、最後のクリスタルを砕いた!

 

『GRUUUU…WOOOOOOOOOOOOOOO!!』

 

全てのクリスタルを砕き終わったことで、ボスのHPバーも一本消失し、パターンの変化を思わせるような雄たけびを上げていた。次の段階に入ったかと思った時だった…

 

…バリィン!!

 

クリスタルを軸にボスの身体を纏っていた鎖が砕けたのだ…まさかの姿の変化に驚くも、それはまだ序章に過ぎなかった。

 

先程までとは比べ物にならないスピードで、こちらへと反転して口をボスが向けてきたのだ!その口には瘴気のようなものが漏れており…!

 

「フィリア、俺の後ろに!」

 

叫びながら、フィリアを庇うように前へと出た両手斧を盾にする!突然のことに、フィリアを守ることがやっとで…次の瞬間にはボスの口からブレスが俺たちへと放たれていた。

 

「…っ…?!」「フォン!?」

 

闇を思わせるような黒い瘴気は前方にいた俺たちを容赦なく包み、俺が盾となり受け止めたことで瘴気は左右へと別れ、後ろにいるフィリアへは届かないで済んだが…ダメージはなくとも、その効果はすぐに現れた。

 

「っ…(視界が……目が見えない…!?)」

 

瘴気が晴れる少し前…俺の視界は黒い靄が掛かったように極端に狭まり、僅かに見える範囲もぼんやりとしか見えないようになっていた。

 

「フォン、どうしたの!?」

 

「フィリア…そこにいるのか?ボスはどこに…!」

 

「まさか……目をやられたの?!」

 

横からフィリアの声が聞こえ、そちらへと視線を向けるも…誰かがいるのは分かるが、彼女の顔が視認できないほどに、靄が掛かっていた。俺の様子から、さっきの瘴気に目に関する状態異常を喰らったのだとフィリアも理解したらしい。

 

視覚は使い物にならないと捨て、目を閉じてフィリアにボスがどうなっているのかを尋ねる。こうなれば、難を逃れた彼女の指示に従うしか他ない。

 

「ボスは…壁や床を影となって動い…右に飛んで!?」

 

「っ!?」

 

説明の最中、フィリアの悲鳴に俺はすぐさまその場から横に飛びのく!そのすぐ直後、何かが勢いよく通り過ぎた気配がした。

 

「瘴気を放ったあと、壁や床を駆けずり回ってる!攻撃する直前に一瞬影が止まるから、突撃してくるタイミングは分かるけど…」

 

「その速度が速すぎるってことか…突進した後は、またすぐに影に戻るのか?」

 

「うん…そのまま影に戻って、また縦横無尽に駆け巡るみたい」

 

フィリアの言葉に、確かに何かが遠くで過ぎ去るような音が聞こえる…これが影となって駆け巡っているボスの動きなのだろうか。

 

「…キュア!…ダメ、結晶アイテムでも治せないみたい」

 

フィリアが浄化結晶での回復を試みてくれたようだが、どうやらボスから受けたこれは状態異常の類ではなく、呪いに近いタイプのようだ。おそらく、ボスに何かしらのダメージを与えるか、時間経過による回復を待つしかないのだろう。

 

ともかく、このまま手をこまねているわけもいかない…フィリアの短剣がソードブレイカーで多少の長さを持っているとはいえ、あくまでも短剣の中ではという範疇だ。突進してきたボスをすれ違い様に攻撃するのはそう簡単な話ではない。

 

そして、長期戦になれば、こっちのスタミナがなくなった隙を突かれかねない。ならば…

 

「フィリア、頼みがある!今から装備を換装するから、指示をくれ!」

 

「なぁ…?!無茶だよ!そんな状況で装備の換装なんて…!」

 

またしても影から飛び出してきたボスの突進を躱してすぐに、その合間を潜ってフィリアへと叫ぶ。すぐ近く…右から彼女の無茶だという言葉が返ってくるも、俺は首を横に振りながら返す。

 

「コボルトロードに止めを刺したあの大技は覚えてるだろう?あれなら、すれ違い様でも安全に攻撃できるし、一気に大ダメージを与えられる!この状況を打開するには、これしかない!頼む…!」

 

「………もう!分かったわよ!」

 

どこかヤケクソが混じった答えがフィリアから返ってくるも、すぐに近づいてくる気配がしたので、俺は右手でメニューを開いた。独特のSEが鳴り響き、メニューが開かれたのを認識し、項目を選ぼうと…

 

「もう少し上…いきすぎ!…そう、そこ。誰を選ばせればいいの?!」

 

「両手剣『エンプレス・ジェイル』だ!」

 

「両手剣、両手剣……あった!エンプレス・ジェイルって、これね……っ!フォン、足元から…!?」

 

「っ!?」

 

フィリアの指示に従い、メニューを彼女に見えるように可視化設定したところで、次の指示に従ってメニューを操作していく。そして、装備一覧をゆっくりスクロールしていると、フィリアが目的のものを見つけてくれたようだが…その直後、警告の言葉を告げようとしたが、それは最後まで続くことがなかった。

 

ヤバいと思い、互いにその場から飛びのくも、下から何かが飛び出してきた気配がした時には、逃げ遅れた左足に掠めたような違和感を覚えていた。

 

直撃は避けれたが、ダメージを負ったのは明白だった。悠長にしていられる時間はなそうだった。

 

「フィリア、無事か!?」

 

「…大丈夫!もう一回やろう!装備の場所は覚えたから!」

 

「…よし!」

 

最低限のやりとりで無事を確認し合い、再度装備の換装に挑戦する。咄嗟に回避したせいで、メニューがどうなっているかが分からず、フィリアの指示を待っていると…

 

「フォン、ちょっと手を借りるよ!」

 

「フィリア、何を…?!」

 

だが、待っていたのはフィリアの予期せぬ行動だった。宙を彷徨っていた右手を掴まれたことに戸惑うも、動かしていくその動きを理解し冷静になった。彼女が代わりにメニューの操作を受け持ってくれたのだ。

 

されるがままに右手が動かされていき、そして…

 

「できた!」

 

「…!サンキュー、フィリア!」

 

装備換装による、先程とはまた別種のSEが耳に届くのと同時に左手に保持していた両手斧の重みが消え、代わりに背中に慣れ親しんだ剣の重みがのしかかった!

 

見事に両手剣『エンプレス・ジェイル』を装備させてくれたフィリアに感謝しつつ、そのまま慣れた手つきで剣を鞘から抜く!一番扱い慣れている両手剣ならば、視界がなくとも多少はなんとかなる。

 

「フィリア、ボスは今どこだ!?」

 

「壁をぐるぐる周って……止まった!?もう少ししたら突っ込んでくるよ!?」

 

「どっちの方角だ!」

 

「そのまま左に90度……もうちょっと!…今度はいきす、躱して!?」

 

せっかくのチャンスだと思い方角を合わせようとしたが間に合わず、カウンターを諦めてサイドステップで躱す!

 

その直後に、何度目になるか分からない突風が通り過ぎる。

 

「次は決める…フィリア!」

 

「うん!」

 

体勢を立て直し終え、今度こそは決めるという思いと共に、フィリアに指示を仰ぐ。さっきから頼りっぱなしで申し訳ないが、そんなことなど気にしてないといった感じで、フィリアの応答が返ってきた。

 

あとは彼女の指示を待つだけだ…その時に備えて、俺は息を大きく吐き、すぐに動けるように意識を集中させる。

 

…影に潜むボスが動き回る音がはっきりと聞こえ続け…それが止まったと思った時だった。

 

「来るよ!そのまま右に少しだけ向いて……その角度!」

 

そこだという言葉に、静止した俺は両手剣を背中に背負うように構える!剣にライトエフェクトが収束するのを感じ、全神経を集中させる。

 

…ゴォォォ!

「…フォン!」

 

何かが抜け出てくるような音と、フィリアが叫んだのはほぼ同時だった。それに合わせ、俺は回転しながら右へと跳び…!

 

「…エンド・オブ・フォーチュン!!」

 

ライトエフェクトがオーラとなって刀身を巨大化させ、それを振り切るように両手剣を全力で振るう!

 

『…GYAAAAAAGYAAAAAA…?!』

 

手元に伝わる斬撃の感触と、悲鳴のように感じられるボスの咆哮が聞こえたことで、俺の放った一撃…幻想剣≪両手剣≫超重単発最上位ソードスキル〈エンド・オブ・フォーチュン〉がボスへと直撃したのを確信した!

 

その感触を信じ、手に掛かる負荷を押し返すようにして刃を振り抜く…それなりの巨体を持つことが災いし、ボスの身体を幻想剣ソードスキルが抉っていく!

 

そして、僅か数秒でありながら、手に掛かっていた負荷が消えたと思ったら、視界に感じていた違和感もが消えて…

 

「…っ!治った…!」

 

確かめるように目を開けると、さっきまで靄が掛かっていた視界が元に戻っていた。もう少し早く治ってくれた方が有難かったが、そんなことがさておき…元通りになった視界でボスがどうなったのかを確認しようとして…

 

「なぁ……?!」

 

その光景に思わず目を疑った。

 

同じくこっちへと駆け寄りながら、ボスの行方を目で追っていたフィリアも言葉を失くしたように驚いていた。

 

…なんと、斬撃を喰らったであろうボスの身体が消えてしまったのだ。

 

正確には、影が形を保てなくなったように、ボロボロとなって…消えていったのだ。まさか倒したのかという考えが頭を過るも、あまりにも呆気なすぎる展開に嫌な予感が拭い切れずにいた。

 

「フィリア、教えてくれ…さっきボスに俺のソードスキルが直撃したと思うが、それで奴のHPがゼロになったのか?」

 

「…ううん。削れたのは二本目だけだった。まだあと一本残ってる筈……っ!なに…?」

 

直前まで視界が封じられていたのもあり、全てを見ていたフィリアに真相を尋ねると、やはりまだボスは倒し切れていなかったらしい。つまりは…そのことを口にしようとした直後、フィリアが異変に気付いた。

 

…先ほどと比べて部屋が明るくなり始めていたのだ!

 

ただ事ではない…おそらく、ボスのHPがラスト一本を切ったことで、また別のパターンへと入ったのだと悟り、俺たちは警戒を厳にする。だが、

 

「…!フィリア!?」

 

「きゃあ!?」

 

言葉にする時間がなく、俺は彼女を左手で突き飛ばす!その反動を生かし、自分も後ろに退くも、そのすぐ後に突如と姿を露わにしたボスが、俺たちがいた場所へと飛び掛かってきたのだ!

 

「っ!このぉ……なに!?」

 

回避に成功したところで、すぐさま反撃に移ろうとするも…両手剣を振るおうとする直前で、奴は影へと潜るように消え、そして、影までもがその場で焼失してしまったのだ。

 

眼前で突如として起こったことに一瞬呆けるも、すぐさま頭を切り替える。これがボスの新たなモーションだと理解し、周囲へと警戒の目を向ける。

 

「さっきの何!?いきなり出てきたように見えたけど…!」

 

「俺が聞きたいぐらいだ…だが、消えるところを見るに、また影を介しているのは違いない。だから、それを……っ!?」

 

背中合わせに互いの死角をカバーし合うも、さっきとは異なり、周囲に奴が潜みそうな影は見つけられない。

 

フィリアの焦る声に、ボスの特徴からして影を媒介にした何かだということを答えようとしたのだが…その言葉は最後まで言い切れなかった。頭上から照らされていた光が途絶えたと気づいた時には遅かった。

 

『GUOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 

「ぐぅぅぅぅぅううう!?」「きゃああぁぁ!?」

 

咄嗟にその場から飛びのくも、頭上から強襲を掛けてきたボスの、重力までを加えた強力な一撃が衝撃波と一緒に俺とフィリアの身体を吹き飛ばした!

 

「「…ヒール!!」」

 

だが、吹き飛ばされ身体を地面に擦りながらも、万が一にとポーチに入れておいた回復結晶を手早く取り出し、俺たちはイエローにまで減少していたHPを全快にする。ポーションの方はまだ余裕があるが、回復結晶は残りあと二個だ…早く突破口を見つけなければ、危険だ。

 

「…また、消えた…!一体どこに……っ!フォン、後ろ!」

 

「なぁ…くぅぅ?!」

 

再びボスの姿を求めて視界を彷徨わすも、見つけらないでいると、フィリアの警告が聞こえ、振り返りながら両手剣を盾にする!

 

その時には眼前に迫っていたボスの前脚が見え、その一撃によって後ろへと吹き飛ばされた!剣を盾にしたお陰で、HPの減少は一割程度だが…このままではジリ貧だ。

 

「こうなったら、危険だが…やるしかない…フィリア、俺が囮になる!だから、ボスがどのように出現しているのかを見極めてくれ!?」

 

「で、でも………分かった!」

 

反対しようにも、この状況では他に手があるわけもなく…言葉を呑み込み、フィリアが納得してくれたところで、俺はバトルスキルを発動させる!

 

バトルスキル〈ロオリーシャウト〉…ヘイトコントール系スキルの最上位でもある、全ての敵の注意を自分へと確実に向けるのがこのスキルの特徴の一つだ。これで、次のボスの攻撃は俺に向けられる筈…いつでも来いと覚悟をし、大きく息を吐いた時だった。

 

「…?(なんだ…何か変な感じが…)」

 

ふと地面へと視線を向けた時、何か違和感を覚えた。

 

地面は何も変わっていない…だが、何か足りていないような気がしたのだ。感じた違和感の正体を探ろうと気を取られていた時だった…突如として、影が現れたのだ!?

 

「フォン!?」「っ…!?」

 

フィリアが叫ぶのと、俺が身構えるのは同時だった。

 

前方に伸びるように肥大化した影…そこから奴が出てくるに違いないと思った矢先に、そこからボスが飛び出してきたのだ!

 

「そう何度もやられるかぁ!?」

 

真正面からの奇襲…今までであればそうだろうが、今度は違う。警戒していたのもあり、奴が出現するよりも早く、俺の方が動けていた。

 

振りかぶった両手剣に宿ったライトエフェクトを解き放つようにソードスキルを発動させる!幻想剣≪両手剣≫単発ソードスキル〈フォール・ルイン〉が、俺へと凶爪を向けようとしていたボスの右前脚を相殺し弾いた。

 

(いける…!このまま…!?)

 

〈フォール・ルイン〉は幻想剣の共通効果に関わらず、硬直時間が0.2秒で解ける、俺が習得しているソードスキルの中では一番短時間で動けるように技だ。

 

少し後退っている間に硬直が解け、俺は追撃の一撃を与えるべく飛び出す!ボスのHPは残り一本…ここでいくらかのダメージを与えられれば…そんな思いと共に、両手剣で再度ソードスキルを発動させる。

 

怯んだまま体勢を整えきれてないボスの頭部に、幻想剣≪両手剣≫重単発ソードスキル〈トルネイド〉を叩き込もうと…

 

「…っ!?なぁ…!」

 

直撃したかに見えたソードスキル…だが、それは直撃したのと同時に、空を切る結果となり、思わず驚きの声を出してしまった。

 

…なんと、ソードスキルが直撃する瞬間、ボスの身体が煙となって消えたのだ!

 

斬撃の感覚からも空ぶったことは間違いなく…ソードスキルが直撃しなかったことで、重心を両手剣に引っ張られそうになり、慌てて体勢を立て直す。

 

「攻撃無効…?それとも、斬撃だけに対する対抗効果なのか…くそっ!まだ何かしらの効果を持っていたのか…!」

 

「フォン…!分かったよ!」

 

硬直が解けるも、まさかの隠し玉がまだ相手にあったことに思わず悪態が口から出る。そんな中、先程の攻防を観察していたフィリアがこちらへと駆け寄ってきた。

 

「影だよ!あいつは、やっぱり影から飛び出してたんだよ!」

 

「でも、さっきも突然影が出現したような感じだったが…どこから…」

 

「影は影でも、フォンの…私たちの影から奴は出てきたんだよ!さっきフォンに襲い掛かってきたのも、フォンの影を媒介にしてたの!」

 

「なるほど、そういうことか……うん?」

 

さっき見えた感じ…影がいきなり肥大化しように見えたのはそういうことだったのだろう。離れていた場所から見ていたフィリアによって、ボスの出現方法が分かったところで、俺は再び違和感を覚えていた。

 

(影から出てくる……なら、さっき頭上から降ってきた攻撃はどうやったんだ?俺のも、フィリアの影も足元に………っ!?)

 

フィリアの見た物が間違いないとすると、先程の頭上から仕掛けられた奇襲の理由がつかないのだ。影から出てくるとしても、天井に影を作るものはなく、俺たちはこうして地に足をつけている。

 

そう思い、俺たちの足元へと視線を向けた時だった。

 

(影……急に明るくなったボス部屋……まさか、そういうことなのか!?)

 

さっき感じた違和感、そして、ボスのHPがラスト一本となった直後に起きた部屋の異変…断片化していた情報が結びつき、俺は頭上を見上げる。もしそういうことならば…

 

「ちょ…どこに行くの、フォン!?」

 

フィリアの言葉に応えず、俺はメニューを開きながら駆ける!装備を両手剣から片手剣〈アサルト・サヴァイブ〉へと換装し終えた直後、注視していた俺の影が…予想していたように背後へと伸び、そこからボスが跳び出してきた。

 

その攻撃を躱し、駆けるスピードを緩めることなく壁へとぶつかろうと…!?

 

「…はぁぁ?!」

 

離れた場所から、俺の行動を見ていたフィリアの驚きの声が部屋に響く…壁に向かって走り続けていた俺が…なんと、そのまま壁を登るかのように走っているせいだった。

 

システム外スキル『壁走り』…もともとは、アルゴさんが編み出した『右足が沈む前に、左足を前に出すことで水の上を走る』という妙技を、ならば、壁なども走れるのではと思いつき、お得意の素早さを活かして編み出したシステム外スキルだ。

 

それを実験台という名目で扱き使われた俺とキリトもできるようになったわけで…もちろんずっと走り続けられるわけがなく、頑張って20メートルなどが限度だが、このフロアの高さは4メートルほどなので問題なかった。

 

天井近くにまで辿り着き、最後に踏み出した右足をそのまま軸に、俺は壁を蹴るようにして飛び出した!そして、片手剣を背中に背負うように構える!

 

「…危ない!?」

 

フィリアの悲鳴が耳に届く…視界の端に、地面に映った俺の影から飛び出したボスが、俺を食い殺さんと下から大きな口を開けて迫っていた。だが…俺は、一瞥することなく前だけを見ていた。

 

(入ってきた時、この部屋を照らしていた光源は壁に掛けられた沢山の蝋燭だった。だが、今は違う…部屋を照らす光源が急に変わった。そして……影は光があるところにしか生まれない…!)

 

フィリアが見た現象は答えの半分に過ぎなかったのだ…確かに、ボスは俺たちの影を介して出現していた。だが、実はそれだけではなかったのだ。

 

…ボスは俺たちの影の位置を操り、出現場所をある程度自由に設定していたのだ。

 

背後や前方左右…そして、影を伸ばし、壁を伝い天井に出現させることも…その証拠として、俺たちの足元にある影が楕円となっていた。普通ならば、光源の反対方向に影はできる筈だからな。

 

と仮定するならば、反撃した時にボスの身体が煙となって消えたのにも検討がついた。こっちの影を操るような、フロア全体に影響を及ぼすような状態…それは、過去に対峙した第5層の迷宮区ボスを連想させるようなギミックであり、

 

「…いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

足りない距離を稼ぐべく、俺は空中でソードスキルを発動させる!赤き燐光を宿した刃が、ジェット音のようなSEと共に、俺の身体を前へと引っ張る!片手剣重単発ソードスキル〈ヴォーパル・ストライク〉の一撃が、部屋を照らしていた光源…大きな黄色い球体へと突き刺さった!

 

『…?!GYAGYAGYAGYAGYAGYA!?!?』

 

それと同時に、俺へと迫っていたボスが…いや、影を媒体とした偽物が悲鳴を上げ、煙となって消えた。そして、眼前に刃を突き刺している球体…ボスの本体と化したそれにネームドとじわじわと減り続けるHPバーが表示された!

 

このまま一気に削り切る…そう思い、刃をそのまま押し込もうとするも、最後の足掻きか、それとも、仕様か…HPがレッドになったところで、片手剣の刃から逃れるように球体が急降下したのだ。

 

「フィリア!それが奴の本体だぁ!ラストアタックを決めろ!?」

 

「っ…!」

 

硬直に襲われてすぐに動けない俺は、地上で見守っていたフィリアへと叫ぶ!全てを呑み込めてはいないだろうが、俺の言葉を信じた彼女は落ちてきた球体へと迫る!

 

だが、奴も最後の抵抗とばかりにフィリアの影を伸ばし…球体の背後から偽体を飛び出せようとしていた。影が伸びきるのと同時に、フィリアがソードスキルを発動させた!

 

「はああああああああああああああああああぁぁぁ!!」

 

体重を掛けるように、ソードスキル発動後、両手持ちにして構えた短剣が球体へと突き刺さった!球体ごと偽体の影獣がフィリアを呑み込もおうとしていたが…一手遅かった。

 

…バキィ…!

 

短剣単発ソードスキル〈アーマー・ピアス〉の一撃によって、ボスのHPはゼロとなり、その証として球体に一筋の大きな罅が入った。そして、その罅から全体に亀裂が及び…そのまま球体は木っ端微塵と化した。同時に、フィリアに迫っていた偽体も塵となって消えた。

 

ボスを倒した…フィリアがそれを成し遂げたくれたことを落下しながら見届け、俺は自分の問題へと目を向ける…絶賛、落下中という問題に。

 

…といっても、実は解決策はもう思いついていた。迫ってきた地面が身長ぐらいの高さになったところで、

 

「やった…?って、フォンは…「はあぁ!」…って、なんて力業な着地をしてるのよ…」

 

落下の勢いを相殺するべく、ソードスキルを地面にぶつける。片手剣単発ソードスキル〈ホリゾンタル〉が地面に直撃し、剣を伝って腕に衝撃が走るも、思惑通り落下の勢いはほとんど相殺できたことで、無事に着地することができた。

 

…もっと、どこか呆れた視線と言葉をフィリアへと向けられたが…

 

だが、ボスを倒したこともあり、蝋燭の炎が消え、ボスの本体でもある部屋を照らしていた球体が消滅したにも関わらず、ボスフロアはどこか落ち着いた雰囲気となっていた。

 

【Congratulation!!】

 

「…勝ったね…」

 

「ああ、なんとかな……フィリア」

 

「えっ……えっと、こう?」

 

空中にボス撃破を証明するシステムメッセージが表示され、ようやく勝利の実感が湧いてきた。なんとか勝利を掴めたことに、俺とフィリアは確かめ合うようにそう言葉を交わす。

 

そして、俺が掲げた右手に、戸惑うようにフィリアが右手を軽くぶつけたことで…

 

…パン…!

 

「お疲れさん、フィリア」

 

「フォンの方も…お疲れ」

 

勝利のハイタッチがボスフロアに音を響かせていた。

 

なんとかこうしてエリアボスは撃破できたようだが…それにしても、まさか初回から厄介なボスと闘うことになるとは思ってもみなかった。迷宮区のボスでもそうはいなかったぐらいだ。

 

これから先に行くであろうエリアボスも同じなのかと思うと少し不安はあるが…それでも…

 

「あっ、見て。ペンダントに光が…!これで、橋に施されていた封印も解除できるかもしれないね!」

 

「…そうだな。ともかく一旦ここを出て、管理区に戻ろう。流石にあんなボスを相手にしたから疲れたしな。少し休憩を挟もう」

 

「そうだね…装備のメンテナンスとかもしておきたいしね」

 

ひとまずは樹海エリアを攻略できたことを喜ぶべきなのだろう。

 

フィリアへ休憩を兼ねて管理区へと戻ることを提案し、俺たちは元来た道へと歩き出したのだった。

 

 

 

「それにしても…手ごわいボスだったね」

 

「だな…結構ネームドとかボスモンスターとは対峙してきたつもりだが、あそこまで段階的に能力を変えてくるのは珍しいと思うよ」

 

帰り道…転移石のある『セルベンディスの神殿前広場』へと向かう中、フィリアと俺はさきほどのボス戦のことを反省会みたいな感じで話していた。

 

HPバーが無くなるごとにパターンが変わる敵というのはかなり珍しい。俺でも、たった一度だけ遭遇したことがあるぐらいだ。

 

「そういうタイプだったのは、第25層のクォーターボスくらいだったな」

 

「その時にも攻略の討伐戦に参加してたんだ…でも、フォンが強いって自分で言うのがよく分かった気がする。変化していくボスに焦らず次々と対応していく姿は…私が想像していた以上に凄かった」

 

「それはお褒めに預かり、と返すところかな。といっても、場慣れしてるだけであって、そこまで自慢できるものでもないんだけどな…それに、さっきの戦いもそうだが、フィリアが一緒に戦ってくれたからだよ。

フィリア抜きで戦ってたら、どうなっていたことやら…それこそ、こっちがお礼を言いたいぐらいにな」

 

「そ、そう…?力になれたならよかった…」

 

「それに、フィリアとのコンビネーションもだいぶ良くなってきたしな。色々と急なことを言っても、即座に対応してくれるのはこっちからすると有難いしな」

 

「…でも、せめて何をするかはやっぱり言ってほしいかな。フォンがいきなり壁を走り出した時には、流石に驚いたわ」

 

「それに関しては悪かった…そうだ。よかったら、フィリアも覚えてみるか、壁走り。フィリアみたいな身のこなしが軽い人なら、多分できると思うぞ?」

 

「…ちょっと考えとくよ」

 

互いの健闘を褒め合う中、話は俺が疲労した壁走りへと移った。まぁ、確かに知らない人からすれば、驚きの光景だよな。

 

一方で、素早い動きができるフィリアであれば壁走りのコツを掴みやすいのではと思い、逆に提案すると…少し迷った様子を見せていた。ちょっとやってみたいという気持ちが湧いたのだろうか?

 

「でも、コンビネーションは確かに良くなったね。あんなボスも二人だけで倒しちゃったし…案外、私たちの相性がいいのかな?」

 

「案外って…そこはもうちょっと違う表現をしてほしかったな」

 

「あはは、ごめん…もうすぐ転移石がある場所だね」

 

「そうだな、早く管理区に……っ!?」

 

もう間もなく転移石がある『セルベンディスの神殿前広場』のエリアへと到着しようとした時だった。俺は前方に何かを発見し、思わず身構える。

 

「いきなり立ち止まってどう「しっ!静かに」…どうしたの、フォン?」

 

立ち止まったわけを尋ねようとするも、俺の警戒心が籠った言葉に、フィリアも真剣な表情になり、小声で話すようになった。

 

「…前方に何かいる。モンスターじゃないみたいだ」

 

「えっ…どこ…?」

 

「遺跡の影になってる場所だ」

 

「…あっ、あの奥?あれって…プレイヤー……まさか」

 

木に隠れるようにして、前方にいる何かの正体を見極める。

 

崩れた遺跡の影にいるもの…それはフィリアの言葉通り、人…プレイヤーのように見えた。しかも、一人ではなく、複数人がいて…カーキ色のフードを被った4人のプレイヤーが地面に座り込んでいる1人を囲んでいるように…

 

(っ…?!あの皮ポンチョのような恰好…まさか?!)

 

「…また……またなの…?」

 

「…フィリアはここにいてくれ。俺はあいつらを止めに行く!」

 

「っ…!?ダメ、危ないよ!ちょっと、フォン!?」

 

その争っている姿と、4人のプレイヤーがしている恰好を見て、あの記憶を思い出させられた俺は、居てもたってもいられずにいた。

 

フィリアの制止の言葉をも無視し、俺はそのプレイヤーたちのもとへと駆け出していた!

 

「おい!そこで何をしている!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

最悪の結果になる前に止めるべきだ…そう思い、俺はわざと気づかれるように大声を出して、奴らの注意を引いた。

 

突然の俺の乱入に驚きつつも、その中の一人は持っていた片手剣で、座り込んでいたプレイヤーの心臓を容赦なく突き刺したのだ!

 

「…チッ、お楽しみのところで邪魔が入ったか…ターゲットを片付けた以上、長居は無用だ。とっととズらかるぞ!」

 

刃を突き刺された男はそのままポリゴンと化し、悪態を突きながらも4人のプレイヤーは逃げるようにその場を去っていった。

 

「待て!?…くそ、見失ったか。それに…間に合わなかった…今のはPK行為に間違いない……それにあの恰好…」

 

ポリゴンと化した…殺されたプレイヤーのステータスには麻痺毒と出血の状態異常が表示されていた。動けなくなったプレイヤーを大人数でいたぶる…初期に見られたPKの常套手段の一つだ。

 

そして、あの濁った川のようなカーキ色のポンチョ…あの恰好をしている者など、このSAOにおいてはほとんど限られている。

 

(『笑う棺桶』…討伐戦でほとんどは牢獄でもある第一層の黒鉄宮へと収容されたか、殺されたりしたが…何人かはその手を逃れてた者もいる。特に…レッドプレイヤーが増加することになったと言われてる、『笑う棺桶』の創設者にしてギルド長であるPoH……まさか、逃れた先として、奴や奴に与しているレッドプレイヤーがここに…ホロウ・エリアにいるかもしれないのか…!?)

 

どうやら…このホロウ・エリアで気を付けなければならないものがもう一つあったらしい。平然とPKを…人殺しを実行できる者がいるかもしれないという事実が。

 

そのことが…戸惑うことなく、自己の楽しみの為だけにPKを生業とする奴らのことを思い出したせいか、怒りが堪え切れずに俺は思わず拳を握りしめていた。

 

「………フォン」

 

そして、そんな俺の姿を見て、追いついたフィリアがどこか悲しそうに俺のことを見つめていたのだった。

 




オリジナル武器解説
両手斧『ラーバ・ソリッド』
鉱石をメインに溶岩系のアイテムを加えて作成された両手斧。そのため、上半身ほどの大きさの片刃が薄い紅色と溶岩を押し固めたようなデザインとなっている。
STRを中心に、オールマイティな性能を持つ使いやすい武器の一つ。攻防同時に扱える半面、同じことが両手剣でもできることもあり、攻撃に重きを置きたい時には両手斧を使用するというスタンスをフォンは取っている。

ゲーム原作を知っている人だと、全く違うボスとなりました(苦笑)
他のボスとかも多少アレンジは加える予定です…その分、作者の頭が死ぬことになるのですが…

最初のボスということで、フィリアとの連携感を出したかったのもあっての展開でした。装備を代わりに変えてもらうところなど、フォンならではの演出だった感じかと。さらっと、壁走りも出てますが、キリトもリズとのエピソードで披露してましたので、フォンもできるだろうなと思って出した感じです(マザロリでもやってましたし)

それと、おとなしくしていたホロウ・ミッションですが、エリアボス限定で発動する仕様と本作では取らせて頂きました。まさかのボスエリアから脱出不能という鬼畜仕様です。これも後々重要な伏線となってまいりますので、お楽しみに!

そして、最後に姿を見せた危ういプレイヤー達…次回はそれに触れつつ、次なるエリアに足を踏み入れるところまでを描くインターバル回となるかと思います。
なので、ユウキとカナデもちょっことだけ登場します。

それでは、また!

P.S.
スノウアートさん、コメント付きでのご評価ありがとうございました!
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