ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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当初はただの探索回の予定だったのですが、書いている内に何故かちょっと甘めなお話に…有罪か無罪かの判断は皆様にお任せします(苦笑)

そういうわけで、サブタイ通りお宝探し回みたいな感じです…初めて試すこともあってのちょっと珍しいお話になります。

それでは、どうぞ。


第9話 「宝探しのコード」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

『思い人の手を引いた隧道』を抜け、そこから神殿らしき構造をした『追跡者を振り切った回廊』という、先程までの状況をまるで表現しているかのような名前のエリアを抜け、目的地である『隠れ潜んだ宝物庫』へとやってきた俺たち。

 

だが、その空気はあまりよろしくないものだった。

 

『笑う棺桶』の残党、そして、それを率いるPoHを目撃し、俺が思っていることをそのまま口にしてしまったのが原因か…フィリアがどこか気まずそうにしているのが目に入っていた。

 

(…謝るのはなんか違うよな。できることなら、何か気晴らしになるようなものがあればいいんだが…)

 

連携を取るのには問題ない…いざ戦闘となれば、これまで通りに息を合わせた戦いができているのだが、どうにもこの状況のままでいるのが辛いのだ。

 

スケルトン系のモンスターを倒しながら、俺は何か打開策を考えるも…こういうのはあまり得意ではないんだよな…思いつくのも身体を動かすとか、美味しいものを食べるとか程度なので…

 

(フィリアが元気が出るものといえば…やっぱりお宝とかか?)

 

宝物庫というのだから、そういったものの一つや二つぐらいあるのでは…そんな期待をしてしまうぐらいに困っていた。どうにも同い年くらいの女性とこうして親密に接する機会なんて、人生17年(元いた世界基準ではあるが)の中でほとんどなかったからな。

 

一番年が近いのはアスナやリズだが、アスナは一時期仲が悪かったこともあり、仲良くなった最近も料理スキルとか、攻略以外だとそういう話をすることの方が多いし、リズとの話はやっぱり鍛冶関係が多くなるからな。

 

他の知り合いといえば、シリカやアルゴさんとかだが…シリカとはメッセージのやりとりが中心で、どっちかというと年下の後輩みたいな感じだし、アルゴさんはまたちょっと特殊だからな。

 

そう思うと、フィリアはSAOで知り合った女性たちとは全然違うタイプなのだ…だから、どう対応すべきかとこっちも悩んでしまうわけで…

 

そんなことを考えながら、宝物庫の中を進んでいると…

 

「また扉か…案の定開かないか。今度はどんなことを要求されるんだろうな」

 

最奥の通路へと辿り着くと、閉ざされた扉があり…その扉を分岐としてT字の形で左右に道が分かれていた。ひとまず、開錠条件を知るべく扉へと手を触れると…

 

『天王の間 戦女王と小人騎士の許可を得た者だけが入ることを許される』

 

「また許可か…二つの許可ってことは、おそらくは…」

 

ここにきて許可を求められることにうんざりしつつ、左右に見える扉がそれに関連していると考えるべきだろう。ならば、それぞれの扉の先へと行くべきなのだろうが…

 

「とりあえず、どっちの扉から行ってみようか、フィリア?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「…フィリア、大丈夫か?」

 

「えっ……えっと、ゴメン…何の話だっけ?」

 

(むぅ…これはあまり良くないな)

 

上の空だった様子のフィリアに、俺は本格的に心配になってきた。まぁ、フィリアからすれば、レッドプレイヤーの存在もそうだが…あんな殺意が入り混じった言葉を聞けば、萎縮するのは当然だろう。

 

気が緩んで…というよりも、いつの間にかフィリアのことを信頼し過ぎていたのが大きかったのだろう。だが、やはり心情をそのまま言葉にしてしまったのはマズかった。

 

「(…こうなったら、ちょっと賭けにはなるが…)…なぁ、フィリア。手分けして、それぞれの扉の仕掛けに挑みにいかないか?」

 

「…えっ?」

 

少し考えてから、思惑が纏まったところで俺はそんな提案をした…いきなりのことで、当然フィリアからも驚きの声が漏れるわけで。

 

「もちろんヤバそうだったら、合流して一緒に行動するけど…ひとまずは様子見を兼ねての探索をそれぞれでしてみようぜ。宝物庫ってことだから、その先も色々と仕掛けがあったりするのなら、手分けした方が早いかもしれないからな」

 

「…でも……」

 

「それとも…もしかして、何があるか分からずビビってるのか?」

 

「…なっ?!」

 

適当な理由を述べたところで、迷った姿を見せるフィリアに…俺は心の中で謝るのと同時に、その言葉…わざとフィリアの気に障るようなことを口にした。

 

案の定、フィリアはショックを受けていたが…本当に申し訳ないが、もう少しだけ言葉を足させて頂こう。

 

「トレジャーハンターを自称する割には案外大したことないんだな…まぁ、調子も悪そうだしな。分かったよ、君はここで休んでいてくれ。二つとも俺が行ってきて、許可とやらも貰ってくるからさ」

 

「っ…!?黙って聞いてれば!いいわよ!?やってやろうじゃない!どっちが早く仕掛けを突破できるか勝負よ!」

 

「えっ…いや、勝負するとまでは……まぁ、いいか。分かった、負けたら勝った方の言うことを一度聞くこと…それでいいか?」

 

「上等よ!絶対にほえ面をかかせてやるんだから!」

 

完全に頭に血が上ったらしく、そう言い切ったフィリアは左の扉の方へと向かって行ってしまった…足音を大きく立てていることから、かなりお怒りのようだ…まぁ、ワザとそうなるように仕向けたのだが…

 

(いっそう迷いとかの感情を怒りへと転換できないかと思ったが…効果覿面だったな。予想を超える結果にもなったけど…最悪、勝者の権限とかでフィリアの言うことを聞くとか、もしくは俺が勝って逆に怒らせたことを許してもらう、という手段を取るべきか…)

 

実は、フィリアを一度怒らせたのはついでに近い。本来の目的は、少し一人にする時間を作るべきだと思ったのだ。

 

管理区では一緒にいる時間の方が多いため…さっきのことをフィリアも整理する時間が欲しいだろうと思ってのことだった。

 

今は怒りが勝っているが、フィリアの性格的にすぐに冷静になってくれることだろう。ひとまずは別行動ということで…まぁ、それで駄目なら今日は一度撤退することも視野に入れるべきだろう。

 

感情が不安な状態で探索を続けるのは危険だろう…そう思い、俺は右の道へと歩を進める。俺もやるべきことをやろう…というか、勝負に負けた後のことが怖いというのもあるのだ。わざと怒らせたのだから、何を言われてもしょうがないのだが、避けられるものは避けるべきだろう。

 

眉を顰め、そんな嫌なことを考えながら俺は右奥の扉へと辿り着いた。手を触れると、扉は簡単に開いた。そのまま開くと…

 

『ようこそ、小人騎士の間へ!』

 

…そんな出迎えの声が、下から聞こえてきたのだった。

 

 

 

(フォンめ…!あんな偉そうなことを言って…!?絶対にぎゃふんって言わせてやるんだから!)

 

一方…怒り心頭のまま、左の扉へと向かったフィリアの思考は、フォンへの対抗心で完全に燃え滾っていた。フォンの思惑通りといえばそうなのだが…冷静になるまではまだ時間が掛かりそうだった。

 

そんな思考のまま、フィリアが扉を開くと…

 

「…なに、ここ…」

 

すんなりと開いた扉の先は大きな広間だった…だが、その先に広がっている光景が普通ではなかった。

 

横の壁にはずらりと槍を持った兵士らしき大量の白い像が立ち並んでおり、部屋の中央には何も置かれていない盤面らしきものが設置されていたのだ。上から見れば、それはチェス盤や将棋盤といったようなものに近かっただろう。そして、その奥には、

 

『ようこそ!我が領域へ!我が名は勝負の女王!百戦錬磨、誰にも負けを見せたことがない無敵の女王よ!』

 

「女王……ってことは、ここは戦女王の間か」

 

自分が入った部屋は『戦女王の間』であったことを、その部屋の主らしき奥の玉座らしき場所に座っている人物の台詞から推測していた。

 

勝負の女王…といっても、彼女も兵士たちと同じ石像で、ハートを模した大理石の冠と大きな槍を手にした格好をしたが、口を動かさずに話しているその姿は少しシュールだった。

 

『挑戦者よ!この間では、お主の智略を試す場である!我が出す軍略を見事に攻略してみせよ!もしも攻略できなければ……我が精鋭たちがお主の首を撥ねるだろう!』

 

…ガン!

 

そんな女王の言葉を証明するかのように、微動だにしていなかった壁際の石兵士たちが持っていた石槍を一斉に地面へと叩きつけた!

 

「…軍略って…まさかとは思うけど、チェスか何かで勝負しろって言うじゃないわよね…」

 

『安心せよ…お主に挑んでもらうのは兵札を使った簡単な遊戯じゃ』

 

「…兵札?」

 

まさかこの盤上を使った何かで勝負することになるのかと思ったフィリアは流石にまずいと思った。チェスみたいな類のゲームはルールをちゃんとは把握できていない…強いて言うなら将棋とかがやっとだった。

 

だが、そんなフィリアの心配に応えるかのように女王は試練の内容を告げてきた。その中で、聞き慣れない単語に今度は顔を顰めることになる。

 

すると、女王は持っていた槍を振るうと…フィリアの手元に何かが現れた。札のようなものが5枚…そこには数字が書かれていた。そして、それに合わせて盤上にも何かが出現した。

 

「兵士の像…?」

 

『そうじゃ…簡単な遊戯と言っただろう?我が出す手にふさわしい兵の部隊を出す…たったそれだけのことだ』

 

女王の説明に、フィリアは自分の手元にある5枚の手札…兵札へと目を向ける。『11』『1』『7』『9』『4』と数字が掛かれており、盤上にもその人数が纏まっているような兵の像のグループが五つあった。

 

そして、女王の側にも同じ兵の像のグループが出現していた…つまりは、

 

(相手が出してくる手に勝てる手を出せばいい…そういうルールってことね。なんか…フォンが得意そうな奴ね)

 

ルールを理解したところで、ふとそんなことを思ってしまったフィリア…それと同時に、またしても怒りが再燃しそうに…

 

(…悪いことしたな。あれ、絶対にワザとだよね)

 

…ということにはならなかった。流石に少し冷静になったこともあり、フォンの言動の真意をフィリアも察することができていた。

 

ワザと自分を怒らせるように仕向けたに違いない…出会った時に受けた極度のお節介ぶりからして、あそこで挑発する理由がフォンにはないのだ。

 

つまりはあの挑発にも何かしらの理由があったと…フィリアも冷静になれたことで、ようやく理解できたのだ。それと同時に襲ってきたのは罪悪感なわけで…

 

「(…私って嫌な女…隠し事をしてる癖に、それに触れないでくれているのに、その上で気まで使わせるなんて……ちゃんと謝ろう。その為にも…)…この試練を突破して許可を貰うわ!」

 

なんとしてもこの試練を突破しなくてはという意気込みでフィリアは挑戦するのだった…もっとも、この試練、一応は途中退出可能であることに彼女は気づいていないのだが…

 

『ふむ…では、まずはこの手だ』

 

そう言って、女王は『12』と書かれた兵札をフィリアへと見せてきた。すると、それに連動して女王側の盤にあった12体が集まったグループの像が中央へと向けて動き出す。

 

(12ってことは、12よりも強い数を出せば勝てる……って、そんな単純なものじゃないよね)

 

そう思い、フィリアは自身の手札にある数を見るも、『12』を上回る兵札はない。単純勝負に見えるこの試練だが、一番重要なのは初手の前に、相手のどの兵札に持ち札を出すかを決めるかことであった。

 

相手の手札は見えないが、盤上の兵の数は明確に分かっている…女王の側は今出した『12』以外だと、『8』『3』『9』『6』の兵像があった。

 

「(…もし私の推測通りなら、まずは…)なら、私が出すのはこれよ」

 

持ち札と相手の駒とを見比べ、一応ではあるが道筋を立てたところで、確信を得るべくフィリアは『1』の兵札を出す。それに連動して、フィリアの方の駒も動き出し…女王の『12』の駒と対峙するように並んだ。

 

そして…次の瞬間、フィリアの兵像『1』は、女王の兵像『12』によって木っ端微塵に粉砕された!

 

粉砕された残骸はそのままポリゴンに変わり、勝利した女王の兵像は元いた位置に戻り、黒曜石のような色へと変わり、動かなくなった。

 

(女王の言葉からして、重要なのは総合的に勝つこと…さっき使った12の像はもう使えないと見ていいかな。そうなると…)

 

確信を得ると同時に法則を理解したところで、勝ち筋への道を辿るべく、フィリアは女王の手を待つ。すると、女王が出してきたのは…

 

『次はこの手だ』

 

「…なら、私はこれを」

 

出された『3』に対し、フィリアは『4』の兵札を繰り出す。結果はもちろん。フィリアの兵像が、女王の像を木っ端微塵にしたわけで…

 

そこからはあっという間だった…女王が『8』『6』『9』と出したのに対し、フィリアは準備していたように『9』『7』『12』と出し、残りの3戦も勝利してみせた。

 

結果4対1…フィリアの勝利にまずは終わった。

 

『勝手は理解したか?これをあと二回繰り返してもらうぞ』

 

さっきのはチュートリアル的な要素を含んだ勝負だったらしく、あと二回あることを告げる女王の声はどこか笑みを含んだものだった(石像なので、表情は動いていないのだが…)

 

そんなわけで、すぐに始まった二回戦。

 

フィリアに配られた兵札は『1』『10』『9』『13』『9』

 

対して、女王の手札は『9』『9』『15』『0』『12』

 

一瞬、『9』に対して勝ち札をぶつけようと思うも、最終的にそれでは勝てないことに気づき、組み合わせを考えるのに多少時間を要したフィリアだったが、

 

二つの『9』に対して、自身も『9』をぶつけ引き分けにし、残った手札で勝利を勝ち取る方式を取った。

 

『0』に対し『1』、『15』に対して『10』、『12』に対しては『13』…といった風に兵札をぶつけ、2対1により第二戦もフィリアの勝利に終わったのだった。

 

『フフッ、いいぞ!次で最後だ!我の攻撃に耐えることはできるか?』

 

嬉しさを隠すことなく言葉にする女王…その言葉に続き、フィリアへと兵札が三度配られる。その内容は『20』『19』『15』『8』『7』となっていた。

 

そして、女王の最後の手の内は『19』『17』『15』『9』『3』といった感じで…そのまま勝ち筋を見つけようと組み合わせを考えるフィリア。だが、

 

「っ…!(…待って……この勝負、勝てる要素がない…?)」

 

総当たりでの組み合わせを全て導き出したところで、フィリアは気づいた…どういう組み合わせをしても勝ち越すことができないのだ。

 

どういうことかと頭を悩ませる…これまでは確実に勝てる道筋があったというのに、最終戦ということもあって、これまでとは違うパターンにフィリアも困惑を隠せないでいた。

 

(何かを見落としてる…?他に何かを使うとか……でも、ここには他に使えそうなものはないし…)

 

自分の兵札を見つめながら、フィリアは頭を働かせる…これが試練である以上、必ず答えはあるはずだと思い、周囲を見渡すが使えそうなものは見つからない。そうなると、根本的な何かを見落としているのでは思い、焦りが胸中を走る。

 

(…持てる手札で勝たないと……あんなことを自分から言っておいて、フォンとの勝負に負けるなんて流石に……勝ち負け…?)

 

焦りからふと勝負のことが脳裏に蘇ったフィリア…そして、何かに気づいた。手にある兵札を一瞥し、女王の兵像を見て…そのまま自身の記憶を辿る。

 

『そろそろ始めるぞ…我の手はこれだ』

 

「……………なら、私が出すのは…」

 

女王が出した兵札を見て、フィリアはしばし思巡したところで兵札を切った。そして…順々に出していく兵札に従い、兵像がぶつかり合った結果は、

 

『「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」』

 

女王の元には『19』と『17』の像が黒く変わり残っていた…対するフィリアの元には、『19』『20』の像が黒くなって残っていた。

 

「私の勝ち、よね…」

 

『そうだな…見事だ、人の子よ』

 

女王は兵札を『19』『15』『3』『9』『17』と出してきた。それに対し、フィリアは『7』『15』『20』『19』『8』と兵札を繰り出したのだ。

 

結果は2対2…一見引き分けに見えるが、残った数の差は明確だった。フィリアの兵数は39であるのに対し、女王の兵は36…もしも残った像で再戦となるのなら、1グループずつ戦おうとも、フィリアが勝つことは馬鹿でも分かることだった。

 

『引き分け…だが、このまま戦えば負けるのは我だな。それでは、我の百戦錬磨負け知らずという二つ名が嘘になってしまうからな…引き分けということにしてほしいものだ』

 

「やっぱり…そういうことだったんだ。確かに、負けなしとは言ってたけど、ずっと勝ち続けているとはあなたは言ってなかったものね」

 

この最終戦の真意を完全に理解したこともあって、フィリアはどこか呆れた態度を見せていた。

 

そもそも、この試練が始まる直前、女王は「ふさわしい手を出せ」と言っただけであり、「勝て」とは一言も言ってなかったのだ。だが、女王としてのプライドもあるのだろう…負けを認めつつも、相手に引き分けにしてもらうことでこれまで「負け知らず」の異名を背負ってきたというのが事の真相だったわけだ。

 

「それじゃ、試練はこれで無事終了というわけでいいんだよね?」

 

『うむ…確かに。ここに戦女王の試練を乗り越えたことを認めよう』

 

その一言と共に、フィリアの手元に残っていた兵札が光り…一枚のカードへと変化した。

 

『それともう一つの試練で手に入る証を持っていけば、王の元への道が開かれるだろう』

 

「…ありがとう」

 

『構わん…それと、もう一つの試練に挑むのなら注意を払うがよい』

 

「えっ…?」

 

これで女王の証は手に入った…安堵したフィリアだが、次に女王が口にした忠告にそれはすぐに吹き飛ぶことになる。

 

『もう一つの試練を担う小人騎士たちは相手を陥れることに手段を選ばん。奴らの言うことを鵜呑みにするのではない』

 

「っ!?…フォン…!」

 

その忠告に嫌な予感がした。もしもこのヒントがなければ…今、その試練に挑んでいるかもしれないフォンに危険が迫っているのではと焦ったフィリアは居ても立ってもいられず、戦女王の間を飛び出した!

 

そして、すぐさま反対側の部屋へと向かおうとしたのだった。

 

 

 

『ようこそ、小人騎士の間へ!』

 

「あんたが……この部屋の案内人か?」

 

声のした方へと視線を向け…というか、見下ろすとそこには白い帽子を被った俺の身長の3分の1ぐらいの大きさの小人がいた。サイズに合わせた騎士剣と盾を持っていることから、小人騎士だろうかと思い尋ねると、

 

『さぁ、問題!嘘つきを見つけよう!』

 

「う、嘘つき…?」

 

こっちの問いに答えることなく(まぁ、NPCとしては当然の反応なのかもしれないが…)、小人は突如として問題を出題してきた…しかも、内容が嘘つきを探せというもので…なんというか拍子抜けする内容で、思わずオウム返しをしてしまったほどだ。

 

…だが、拍子抜けをしている間にも問題は始まってしまっていたらしく、

 

…バタン!?

 

「っ…扉が…!」

 

『嘘つきを見つけよう!見つからなかったら、命の保証はないよ!』

 

開いてた扉が勢いよく閉じ、部屋に閉じ込められたと気づいた時には遅かった。そんな俺を嘲笑うかのように小人は残酷な宣言をした次の瞬間、

 

「くっ…炎が!?」

 

部屋の隅を覆うようにいきなり炎が噴き出したのだ!

 

直接当たることはない勢いだが、壁一面から噴き出した炎によって部屋の温度が急上昇していく!

 

『命賭け、命賭け!死ぬ前に嘘つきを見つけよう!小人たちの中に、嘘を吐いている者が一人いるよ!』

 

「…小人たち?」

 

熱さから目を庇うように手をかざしたところで、白い小人はそんなことを告げてきた。すると、部屋の中央に五人の小人騎士が横一列で出現した。おそらく、この中から嘘つきを見つけろということなのだろう。

 

 

『さぁ、この部屋にいる一人の嘘つきを倒そう……命尽きる前に、ギャハハハハ!!』

 

「…上等だ。やってやろうじゃないか」

 

本性を表したかのように、下品な笑い声を上げる白い小人の挑発に乗っかかる(のはちょっと癪に障る部分もあるが)形で、俺は問題に挑むことになった。

 

ステータスを見ると、徐々にだがHPが減少し続けていた。どうやら、今のこの部屋の温度は常人では耐えられないものとなっているようだ…既に汗が絶えることなく背中や額を走っていた。

 

(HPはハイポーションとかでなんとか回復できるとしても…この高温の中でずっといれば、意識を失う…そうなったら、終わりだ…!)

 

閉じ込められた以上、ここで意識を失えば待っているのはHP全損による死…あまりにも性質の悪い仕掛けに悪態を吐くのを我慢し、代わりにストレージからハイポーションを取り出し、すぐさま飲み干す。

 

そして、早速5人の小人の話を聞いてみることにした。

 

『俺様はこいつらよりもダントツで強い!誰にも負けたことがないゾ!』

 

自信満々にそう語るのは赤い帽子を被った小人だった。

 

『私は全てが二番目です。赤よりは弱いですが、頭脳で勝り、緑よりは偉くないですが、力なら負けません』

 

どこか知的な印象で話すのは青い帽子を被った小人だった。

 

『黒は全部が普通…力も知力も誰にも勝ったことがない』

 

一人称で自身の色を用いるのは、その通り黒い帽子を被った小人だった。

 

『おいらは力だけが取り柄だよ。頭を使うのは専門外!でも、武力なら赤よりも強いよ!』

 

全く躊躇いなくそう申告してきたのは紫の帽子を被った小人だった。

 

『ぼ、僕は…知力だけは自信があるよ。紫よりは強いかな…でも、力は黒の方が上』

 

そんな自信がなさげな発言をしたのは緑の帽子を被った小人だった。

 

といった感じで、未だに温度が上がり続ける中、小人たちはそれぞれの性格を表したかのよう証言をしてくれたわけだが…どうやらこの問題、一筋縄ではいかないようで…

 

(…どういうことだ…どの証言を嘘だとしても、必ず矛盾が生まれる…?!)

 

高熱に耐えながら、全員の発言を場合分けして検証するも…誰が嘘つきであっても、何かしらの矛盾が発生してしまうのだ。

 

例えば、赤が嘘つきだとすれば、青の発言が矛盾が出るし…そもそも、証言の時点で矛盾が発生しているのだ!つまりは…

 

「…答えがないのか、この問題…?!」

 

そう…この問題には明確な答えが存在しないのだ。要は発想力を問われる問題なのだろう。あまりにも意地の悪すぎる問題に、俺は思わず歯噛みする。しかも、そんな俺へと追い打ちを掛けるように、小人たちが口を開く。

 

『ギャハ!?こんな問題も分からないのかよぉ!』

『バーカ、バーカ!無能は死ね死ね!』

『もう諦めたら!楽になるよ…ケケケ!』

 

騎士として、それはどうなんだ…と内心でツッコミを入れつつ、ガヤを入れてくる小人たちの罵詈雑言を意識からシャットアウトする。ここで冷静さを欠けば、システムの思うツボだ。

 

といっても、もう数分も耐えられるかと言われると…正直自身がない。部屋の温度は体感でも分からないぐらいに高くなっているようで、息を吸うだけで喉に違和感を覚えるものとなっていた。

 

全身汗まみれの状態でもあり、脱水状態となるか、呼吸困難となるか…どっちにしろ、意識を失うまでそう時間はないことだけは確かだった。

 

(考えろ…まだ頭が働いている内に…!?どうすれば、この問題の解を導けるのか…!こうやって裏をかくのは得意分野だろう、俺!?)

 

汗が蒸発するほどに…全身から湯気が立つほどの状態の身体をなんとか奮い起こし…俺は強がるために笑みを浮かべる。そうでもしなければやってられない!

 

(…嘘を吐いている小人…問題の解として求められるのはそれを倒すことだ!だから、それが誰かを突き止められれば…でも、それを突き止めるためのファクターが足りなさすぎる!?…せめて、あれだけでも分かれば………待てよ…!)

 

炎のうねりで視界がぐにゃりと歪む程の温度となっている中、これまでの証言全てを振り返る。そんな中、あることが引っかかった俺は…

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

『ギャハハ…遂に諦めたか!ギャハハハハハハ!!』

 

沈黙したまま微動だにしない俺を見て、白い小人が屈したと見て背後から下品な声を出していた。だが、

 

『ギャハハ…ギャァ?!』

 

そのウザい笑い声は突如として止んだ…まぁ、俺がその頭を掴むように右手で拘束したのが原因なんだが…確か、こういうのをアイアンクローって言うんだっけ?そんな余計なことを考えるぐらいには落ち着いていた。

 

『は、放せ!?何をするつもりだぁ!問題が解けないからって、俺に八つ当たりをしても意味はないぞ!?』

 

「ああ、大丈夫だよ…これは八つ当たりじゃない。そういえば、お前も小人だったよな?」

 

『っ…!?』

 

俺の言葉を理解したかのように…NPCらしくない反応をした白い小人は目を丸くした。どうやら、俺の推測はハズレではなかったらしい。

 

「小人5人の証言が合わない以上、前提が間違っていると考えれば辻褄が合う…『この部屋にいる一人の嘘つき』…つまりは、お前の証言こそが虚言…嘘つきだってことだ。そして…!」

 

『や、ヤメロォォォ?!』

 

嘘つきは一人しかないない…大前提となるその証言が嘘だとすれば、証言全ての捉え方が変わってくる。俺がすることに恐怖を覚えたのか、小人から必死の嘆願が飛んでくるも、さっきまでの鬱憤を晴らすかのように、俺は白い小人を横並びしている他の小人たちへと投げつけ…!

 

「その証言が嘘である以上、小人全員が嘘つきだと仮定するのなら…全員倒すのが答えの一つになるだろう!!」

 

投擲した白い恋人に追い縋る様に、両手剣を抜いてソードスキルを発動させる!6体の小人を薙ぎ払えるように放つのは、両手剣単発範囲ソードスキル〈サイクロン〉…緑の燐光を宿した剣閃が振るわれるのと、小人たちの身体が真っ二つになるのは同時だった。

 

『『『『『『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』』』』』

 

斬られた小人たちは悲鳴を上げることもなく、宙へとその上半身を舞わせていた。すると、白い小人の胴体から何かが落ち…

 

「これは…札のようだけど…どうやら正解だったみたいだな。ちょっと強引ではあったが、まぁ、あっちも正当な問題を出すつもりがなかったから、お相子ってことで。って、のんびりしている場合じゃなかった…!問題を解いても、炎は消えないのか…早くこの部屋から脱出しないと…!?」

 

証らしきアイテムを手に入れたものの、それが本物かを確かめるべく鑑定している時間はなかった。問題を解いたにも関わらず、炎は未だに噴出し続けていたのだ!おそらく、扉のロックは解除された筈だから、すぐに脱出するべきだと思っていると、

 

『…ニガサン…!?』

 

「っ…なぁ…!」

 

上半身と下半身に分かれた筈の…白い小人の上半身が宙へと浮いていた。そこから漏れるのはまさしく怨嗟の言葉だった。すると、まるでその怨念に操られたかのように、噴出していた炎が奴に集まっていき…!?

 

『キサマモミチズレニシテヤルゥゥゥゥ!?!?』

 

「最後くらい、騎士らしく潔くっていう発想はないのかよ?!」

 

まさかの道連れ狙いという、騎士道という言葉をちゃんと調べてこいというツッコミを胸に、俺は一目散に出口へと駆け出す!振り返る余裕はないが、背後から物凄い熱波が迫ってきているのは分かった!?

 

そんな脅威を背に扉へと飛び込んだ!扉は俺を出迎えたかのように豪快な音を立て開き、迫っていた怨念の炎は…俺へと迫る直前、閉まった扉によって閉じ込められることになった。

 

「…か、間一髪だったな…ああいうのは勘弁してほしいわ…」

 

ようやく一息吐けたところで…床に腰を着かせた体勢で、安堵のあまり頭を背後の壁に当てる。超高温状態の部屋にずっといたこともあり、装備の確認もしておきたいところだが…まずは少し休憩を挟んでから…

 

「…フォン?」

 

そんな思考に割り込むように聞こえてきた声がして…もちろん、このエリアで俺を呼ぶ声など該当するのは一人しかいないわけで…

 

まさしく俺がいる反対側の場所…戦女王の間らしい扉の前にフィリアが驚いた様子で立っていた。どうやら、ちょうど同じタイミングで彼女も試練を終えたところだったらしい。

 

もっとも、俺が凄い出方をしたので驚いたのだろう…ともかく説明をしようと立ち上がったのだが…

 

「…っ!」

 

なんてことを思っていたら、フィリアが駆け出し……ちょっと待て?!なんで駆け出して…というか、止まる勢いがなくて…!?

 

「フォン!?」

 

「うおおぉ…!ふ、フィリア…?」

 

そのまま抱き着かれることになり、困惑しながらもなんとか彼女を受け止める。一体何があったのだろうか…まさか、また『笑う棺桶』が試練の間に潜んでいたりしたのかと思い、身構えるも…

 

「よかったぁ…フォンが無事で…!」

 

「無事…?まぁ、なんとか無事ではいるけど…フィリア、悪いんだがそろそろ離れてくれないか?」

 

「えっ……ご、ゴメン!?」

 

イマイチ状況が呑み込めていないが…まずはこの体勢をなんとかした方がいいと思い、フィリアへと声を掛ける。どうやら無意識で抱き着いていたらしく、気づいてから顔を赤くさせながらすぐに離れてくれた。

 

「こっちの試練はクリアできたよ…まぁ、一筋ではいかなかったけどな。そっちは?もしかして、またラフコフの連中が…」

 

「ううん、こっちも無事にクリアできたよ…ただ、その終わりにフォンが受けた試練が危ないっていうアドバイスを貰ったから」

 

「へぇ~…クリアする順番でそういうのがあったのか。確かに色々と厄介ではあったな」

 

どうやらそのアドバイスを聞いて、心配してくれていたらしい。別れた時にあんなことを言ったのに…本当に人が良すぎないか、フィリア?ちょっと心配になるぞ…そんなことを思っていると、

 

「…ゴメン、フォン」

 

「えっと……今度はどうした?」

 

突然二度目の謝罪を受け、流石の俺も困惑を隠し切れない。頭を下げるフィリアにどう言葉を掛けるべきかと思っていると、

 

「さっき…ワザと私を怒らせるようなことを言ったんでしょ?私の調子が悪いのを察して…それで発破をかけるよう「ストップ、フィリア」…フォン?」

 

その内容で全てを察し、俺はフィリアの謝罪を遮った。そんなことをされ、きょとんとした様子で、制止させられたことに驚くフィリアが顔を上げる。

 

「…謝るのなら、俺の方だ。発破をかけるためとはいえ、君が誇りにしているものをワザと出汁にした。それに、あれは俺がやった方がいいと思ってやったことだ。さらに付け加えるなら、フィリアが元気のないのは俺が原因みたいなところもあるかと思ったからさ」

 

責められる覚えはあっても、謝られる必要はないのだ…俺がしたくてやったことだからな。その結果、今のように多少は元のフィリアに戻ってくれたのなら御の字だ。

 

「だから、そのことでフィリアが謝る必要はないよ。それに…

 

相棒がそんな調子でいるのは、見てられなかったからな」

 

「…相、棒……?」

 

彼女の横を通り過ぎ、少し振り返ってからそう言葉を掛けた。

 

偶然とはいえ、こうしてホロウ・エリアに飛ばされ、一緒にエリアを探索して、協力してボスを倒したこともあるのだ。

 

キリトとは違う意味で…俺にとってフィリアは相棒と呼んでも差し支えない存在となっていた。

 

一方で、いきなりそんなことを言われたせいか、フィリアも戸惑っていた。

 

「迷惑だったかな…俺はそう思ってたんだが、もしフィリアが嫌だって言うのなら…」

 

「う、ううん!?全然嫌じゃないよ!ただ…いきなり言われたのにビックリしただけ…そっか、相棒か……!」

 

そう呟くフィリアはどこか嬉しそうだった…対する俺は、ちょっと小恥ずかしいことを言ったのもあって赤くなる顔を見られないようにしていた。

 

もしこれで、「そんなことは思ってない」と言われたら、流石にかなりへこむ自信があったわ。

 

…ともかく、フィリアの元気も戻り、二つの試練の証を手に入れたことで、俺たちは再び『天王の間』へと向かうことにした。

 

 

 

『二つの証を持つ者よ 天王の間へと入ることを許可する』

 

フィリアが手に入れたカードと、俺が手に入れた札…それらが扉へと吸い込まれると、システムメッセージが表示され、遅れて開錠音が聞こえた。

 

ようやく鍵が開き、ここに目当ての宝珠があればいいなと思いながら扉を開いた…のだが、俺とフィリアの目に飛び込んできたのはまた異様な光景だった。

 

「…えっと……ねぇ、フォン。もしかしてだけど…」

 

「ああ…どうやらもう少し頭を使う必要があるらしいな」

 

同意を求めるフィリアの声に、俺は認めたくない本心を抑えて答える。深い深~い溜息を吐き、現実を直視することになる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

宝箱の畑…そう表現すれば聞こえはいいが、それは中身が全部当たりだった場合の話だ。これの中から一つの当たりを見つけろという話になれば、これは地獄と化すわけで。

 

…もちろん、今回は後者にあたるわけで…

 

『入ってきた場所を南とし、北西から1日は始まりとする。

太陽となる中心の場所から直線状かつ照らしている星の地点までで、

始まりの数字と己でしか扱うことのできない場所であり、

衛星の軌道においてもっとも大きい場所にて竜の宝は眠る』

 

数えるのも億劫になりそうな宝箱の前…入口を入ってすぐのところに立っていた看板には、そんな内容が掛かれていた。

 

ようやくゴールが見えたと安堵すべきか、これからそれを探し出さなければならない現実を憂うべきか…もうひと踏ん張りすべきところなのだろう。

 

「とりあえず…暗号の解読といこうか」

 

「…だね」

 

フィリアも諦めたようで、俺たちは早速暗号の解読に挑戦することにした。まずは宝箱畑がどういった構図になっているかを二人して数えていく。

 

どうやら宝箱畑は21×21の正方形で配置されているらしく…つまりは、ここには441個の宝箱が配置されていることを意味していた。それを知って、俺たちの気が遠くなりそうになったのは言うまでもないだろう。

 

「400個越えの宝箱を全部開けて確かめるのは…流石に時間が掛かりすぎるよな」

 

「全部がハズレだったらいいけど…こういうタイプの奴って、きっとハズレは全部ミミックだよ。400も超えるミミックを相手にするのはちょっと…ミミックって基本的にステータスやレベルが高い傾向の奴が多いし…」

 

「だよな…ってことは、やっぱり暗号を解読するしかないよな」

 

一応、二人で手分けしての全ての宝箱を確かめるという案を出してみるも、フィリアから現実的ではないという当然の答えが返ってきた。やっぱりそうだよなと思い、観念して暗号文の解読へと向き合うことにした。

 

「1文目は…まず無視していいのかな」

 

「そうだな…多分、3文目に掛かるところだからな。まずは2文目の『太陽となる中心の場所から直線状かつ照らしている星の地点までで』といったところから突き止めていこうか」

 

簡易的な地図を作り、まずは2文目の前半…『太陽となる中心の場所』を考える。といっても、これはそこまで考えず文面通りに受け取っていいだろう。そういうわけで、21×21の中心…11列目の11行目の宝箱がある場所へと移動する。

 

「ここが中心…太陽の位置に該当する宝箱なんだろうな。そうなると…」

 

「ここから直線状…普通に考えるのなら、縦と横と…」

 

「斜めだな。ってことは、宝箱から東西南北とその真ん中…北西、北東、南西、南東といった方角にある宝箱に絞られるか。それで続きの文章が…」

 

「照らしている星の地点まで…具体的な数字は書かれてないね。端までっていうのは流石に範囲が広すぎるよね?」

 

「ああ…それにもしそうだとするのなら、わざわざ『地点まで』という書き方をするのは不自然だ……太陽と星…星……もしかして、星っていうのは惑星のことを指してるんじゃないのか?」

 

「惑星……確か、水金地火木土天海だよね。懐かしいな…」

 

「そうそう…昔は冥王星も入ってたのに、俺が幼稚園生の時にそうじゃなくなったんだよな。あれは結構衝撃だったな」

 

「えっ……冥王星が惑星じゃないって認定されたの、私が生まれるよりちょっと前だった気がするんだけど……フォンっていくつなの?」

 

「えっと…今年で18だけど…フィリアってそんなに下なのか?」

 

「と、年上…!?同年齢にしては大人びているとは思ってたけど…なんか納得しちゃった」

 

謎解きの最中、惑星の有名な覚え方に関して認識の齟齬が出たこともあり、年齢を尋ねられ答えると、フィリアに凄い驚かれた。というか、冥王星が惑星ではない扱いをされたのが生まれる少し前って…フィリアの年はいくつなのかと思ったところであることに気づいた。

 

(そういえば、SAOの西暦って俺の世界よりも5年ぐらい先だったっけ…そう考えると、フィリアの言うことの方が正しいわけか)

 

二年前…第五層を攻略した時は年越しパーティに参加したのもあって覚えていたが、その次の年はキリトが35層に12月24日限定イベントで登場した『背教者ニコラス』をソロ討伐しようとしたのを止めようとしたりで色々とバタバタしてたからな…その辺りのことを完全に失念していた。

 

「と、ともかく…2文目の後半が惑星のことを指しているとするなら、太陽である中心の宝箱からその数分が対象になるんだろうな」

 

これ以上、この話題を広げるのは色々と(元の世界のこととかに繋がりかねないのもあって)ヤバいと思い、俺はフィリアの興味を逸らすのもあり、脱線していた話を元に戻すことにした。

 

「えっと…水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星だから…縦・横・斜めの列の8個目までが該当するってことだね」

 

「8×8の64個にまで絞れた…って言っても、まだ多いよな」

 

 

【挿絵表示】

 

 

フィリアが簡易地図を埋めていくのを見ながら、俺は思ったことをそのまま口にしていた…400超えから三桁を切ったとはいえ、まだまだ数は多いのもまた事実だった。

 

「それじゃ、次は3文目だね。『始まりの数字と己でしか扱うことのできない場所』…これって、ここに1文目が関係してくるんだよね?」

 

「そう見るべきだろうな…『入ってきた場所を南とし、北西から1日は始まりとする』…ってことは、北西の角にある宝箱を1日目…1とカウントとするとして…フィリア、地図を貸してくれるか?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

分かりやすいヒントであるからして、素直に読み取り、地図に表記した宝箱に目印となる数字をいくつか書き記す。

 

「アインクラッド…というか、SAOは基本的に西洋を主とした世界観だから横読みと考えていいだろう。で、宝箱に各数字が割り振られているとした上で、それを絞る条件が3文目の内容なんだろうな」

 

「…始まりと己でしか扱えない数字……あっ、分かった!もしかして、素数じゃないかな…!」

 

「…きっとそうだろうな。わざわざ1文目に『始まる』っていう言葉を使っているのも、始まりの数字が1であることを指してるんだろう。えっと……まずはさっき絞り込んだ宝箱の数字を調べないとな」

 

3文目の答えも分かったところで、またしても手分けしての作業になるわけで…それぞれ反対側から惑星に当たる64個の宝箱の数字を調べていく…400個超えに比べればマシとはいえ、また集中力を要する作業であることには変わりなく…

 

「…か、数え間違いとかないよね?」

 

「だ、大丈夫だ…計算で割り出した方でも合ってたから」

 

 

【挿絵表示】

 

 

数え直しは勘弁してほしいという意思が込められたフィリアの必死な声色に、俺は安心させるように応える。手分けして数えただけでなく、地図を参考に俺が計算して確かめたのもあり、ほぼ大丈夫な筈だ…きっと!?

 

そういうわけで、こんな感じになったわけで…

 

 

【挿絵表示】

 

 

「…素数だからそんなにないかなと思ってたけど、結構該当するものがあるわね」

 

「なんか意外なっていう奴もあるな…パッと見は他の数字でも割れそうに見えるし」

 

たまたま該当するものが多かったのか、絞り込んだ結果…残る宝箱は20個になった。ここまで来たら、最悪総当たりも一つの手段だが…やはりリスクはできる限り避けたいところだ。そうなると…

 

「最後の暗号文…『衛星の軌道においてもっとも大きい場所にて竜の宝は眠る』か。これが解ければ、竜の宝を手に入れられるわけか……もっとも大きい場所…やっぱり一番数字が大きいものってことなのか?」

 

そういうことで、地図をもう一度見る。

 

該当する宝箱でもっとも大きい宝箱の数字は397だ。ならば、その宝箱を開けばいいのかと思うのだが…本当にそんなあっさりとした答えなのだろうか。

 

あの騎士と呼ぶには似つかわしくない下劣な小人たちや、フィリアと対峙したという戦女王のことを考えると鵜呑みにするのはどうにも嫌な予感がしてならない。

 

「なぁ、フィリア…そんなに単純な答えだと思うか?」

 

「…思わない、っていうのが正直な感想かな」

 

自分の直感が正しいのかを確かめるように、フィリアの意見を求めると、彼女も同じだったようで、真剣な表情で答えてくれた。

 

「もしも一番大きな数字のことを指しているのなら、わざわざ文を分けて書く必要はないと思う。3文目にその一言を足せば済むからね。なんとなくだけど…4文目にして書いたってことは、これもまた暗号なんだよ。

だから、他のハズレは開けるととんでもない仕掛けになっていると思う…経験からして、周囲の宝箱までもが反応してミミックが目覚めるか……ここにある全部がそうなる可能性も…」

 

「…総当たりを試さなくて正解だったな。そうなると、この最後の暗号をなんとしても解かないといけないわけだが…」

 

「1文目は定義ということで例外として…基本的に暗号文はそれぞれ独立して成立してたから、この4文目も内容から答えを読み取れってことだと思うんだけど…気になるのは『衛星の軌道』ってフレーズだよね。衛星って、あの打ち上げとかよく聞く奴だよね?」

 

「あー、人工衛星のことか…それもそうだが、どっちかというと衛星っていうのは………待てよ…」

 

「フォン…どうしたの、いきなり黙って…?」

 

「…分かったんだよ、答えが!フィリアのお陰だ!」

 

「え、えっと……えっ?」

 

昔、理科でやった内容をそのまま説明しようとしたところで、ようやく暗号の答えが分かった。思わずテンションの上がった声でそのことを告げるも、完全に置いてけぼりを喰らったフィリアは首を傾げていたわけで…

 

「衛星っていうのは、定期的に惑星の周りを周回している星のことを指すんだよ…正確には天体って言うんだけど、それは置いておいて…地球で言うなら月がそうだろう?あと有名なのは、木星にあるタイタンやイオ、土星のプロメテウスやアトラスとかは名前だけは聞いたことあるだろう?」

 

「聞いたことあるのもあるけど…衛星の名前でもあったんだ」

 

「って、また話が脱線したが…基本的に衛星っていうのは惑星の周りを周回するってさっきも言ったよな。つまりは、球体の周りを回るってことだ…その軌道はどんなものになる?」

 

「それはもちろん円を描くように……あっ、そういうことね!」

 

そこまで言ったところで、フィリアも答えに気づいたようだ。彼女の指摘通り、答えはやはり暗号文の中に示されていたのだ。

 

衛星の軌道…それは惑星の周囲を周回するという特性上、円を描くような軌道になるのだ(もっと詳しく言うのなら、等速直線運動とニュートンの第一法則である慣性の法則と、地球の重力との話が絡んでくるのだが…割愛しよう)。

 

つまり、衛星が描くとする円の軌道の最大…360度以内の数字で最大のものを選べというのが、

 

 

【挿絵表示】

 

 

暗号の答えだったわけだ。

 

『飛竜の王玉』…353の数字にあたる宝箱の中に入っていたキーアイテムは、サファイアの宝石を削ったような宝玉だった。内部には眠る飛竜の彫刻が埋め込まれているらしく、これが『竜の巣』の最奥を開く為の鍵という認識でいいのだろうか?

 

「まさしく竜のお宝だね…これで、さっきは開かなかった扉の奥に進めるかな?」

 

「そう信じたいよ…できることなら、おつかいで振り回されるのはもう勘弁してほしいもんだ。それじゃ、早速………そういえば」

 

「…どうかした?」

 

それらしきものを手に入れ、『竜の巣』にある封鎖された最奥の扉を開けるかもと思った矢先、俺はあることを思い出して気まずくなる。そんな俺の様子を見て、不思議がるフィリアに、俺は白状することにした。

 

「…どっちが先に仕掛けを解くかっていう勝負をしてたのを忘れてたなって思って…こういう場合って、引き分けってことでいいのかな?最終的に協力して謎を解いたわけだし…」

 

「そ、そんなこと気にしてたの…っていうか、さっきの試練の奴もほぼ同着みたいなものだったじゃない。フォンって、真面目って言うか…変なところまできっちりしてるよね」

 

「それは馬鹿にしてるように聞こえるんだが…」

 

「馬鹿にはしてないよ。どっちかというと、呆れて感心してるってところかな。本当に真っ直ぐというか…ちゃんとしようとしててえらいって思っただけだよ」

 

「…そりゃどうも。まぁ、引き分けっていうことでフィリアがいいのならいいけど…」

 

「あっ、でも…フォンに何かお願いを聞いてもらうっていうのはちょっと惜しかったかな。また今度勝負することになったら、ちょっと本気で狙いに行ってみようかな?」

 

「その場合、フィリアが負けたら俺にその権利が発生することを忘れないでくれよ…ともかく、秘宝なるものも手に入れたし、早速『竜の巣』へと戻ろう」

 

結局、いつの間にか勝負のことを忘れて謎を解いていたなと思い、ついそのことをフィリアに告げると、何故か呆れられてしまった。ワザと挑発したとはいえ、一応は勝負だったわけだから、勝敗の有無はハッキリさせておくべきかと思ったのだが…どうやらフィリアにとってはもう気にしていないらしく、彼女がそうである以上、俺がどうこう言うのも違う訳で、今回は引き分けということになった。

 

もっとも、次があったら今度こそ、みたいなとんでもないことを言い出すフィリアだが、その笑い方からして冗談で言っていることだと分かったので、俺も諫言を混ぜて返す。

 

というわけで、竜の秘宝を手に入れ、俺たちは『竜の巣』へと戻ることにしたのだった。

 

 




ぎりぎりギルティですね、ユウキとカナデからのお説教ネタがまた一つ確定です(黒笑)

まぁ、フォンの処遇はあとの楽しみに取っておくとして…
今回のお話、ほぼ半分以上オリジナルです、ゲーム原作ではこんなギミックはありませんのでご安心を。
当初はNM級の巨大ミミックとのバトルを織り交ぜた宝箱探しゲームにでもしようかと思っていたのですが、謎解きメインも入れたいと思い、ほぼオリジナルストーリーとなったわけでした。

戦女王はどこか潔いよいからいいとして、小人騎士の醜悪さ…本作では、下劣な態度を見せると大概酷い末路を辿ることになるジンクスがあるようで、彼らも同じ運命となりました…どっちもゲーム原作にはない仕様です。
そして、天王の間(星王の間にしようかと思ったのですが、あの人のイメージの方が強すぎたので止めました)…まだこちらは原作の面影を少し残してますが、その宝箱の数は全然違うわけで…原作は宝箱の色が違うのですぐに分かったのですが、本作では探し当てる形となりました。
(実はこれらの試練にはまだもう少しネタがあるのですが、ここで書くと長くなってしまうので、またおふらいんにて解説しようかと…作者が触れるのを忘れてなければですが…)

そして、初めて試してみた挿絵機能…感想は「当分やらねぇ…」と思うぐらい、ちょっと大変な作業でした(笑)あれって、公開しないと見れないですが、あんまり早くすると、挿絵管理のページから見れるわけで…まぁ、当面はバトル回とか日常回がメインなので大丈夫かと(…あれ、それはそれでしんどい?)

余談ですが、キーアイテムである『飛竜の王玉』…入手時などは『龍』と表示されるのですが、キリトたちの台詞では『竜』と表示されていて…どっちが正しいんですかね(作者の中では西洋ドラゴンは竜のイメージがあるので、そっちで統一してますが…)

次回は早くもエリアボス戦に入る予定です…ボスの特性もそうですが、意外な防具から様々な武器云々を出す予定ですので、ご期待頂ければと思います!(なので、竜の巣で対峙するNMはキング・クリムゾンと化すわけですが…)

それでは、また!

P.S. 来週より新アンケート実施です…といっても簡単なもので、二択のアンケートなんですが。本編執筆と平行しながら執筆中のあれに関してです。

桜木メイさん、ご評価ありがとうございます!
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