ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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先週は急遽お休みを頂き失礼しました。

そういうわけで、浮遊遺跡のボス戦です。
もう色々と鬼レベルでの激戦となります…書いててやり過ぎ感が凄いというか…
とりあえずその目で見届けて頂ければと…

それでは、どうぞ!


第10話 「天空のコンクーラー」

「フィリア、スイッチ!」

 

「うん…これで、ラスト!」

 

飛竜の王玉を手に入れ、早速『竜の巣』の奥…その先にあった『竜の玉座』というエリアの最奥にて、ネームドモンスター『Terminate Dragon』(直訳して終焉の竜といったところか?)と相手取ることになったわけだが…

 

他のドラゴンと比較し、一回り体格が大きいだけのドラゴンなど俺とフィリアの連携の前では相手にならず…わざとヘイトを取り、前方にいた俺へとその牙で噛みつこうとしてきたドラゴンの頭を両手剣で弾き飛ばした直後、フィリアがソードスキルを発動させる!

 

頭のてっぺんから叩きつけように、短剣最上位4連撃ソードスキル〈エターナル・サイクロン〉が叩き込まれ、二本あるHPバーのうち残っていた一本の半分を見事に消し飛ばした!

 

「…ふぅ…よし、討伐完了だな」

 

というわけで、HPがゼロになったことでドラゴンはポリゴンへと変わり…一仕事を終えたのもあってか、一息吐いたところで俺とフィリアはそれぞれの獲物を鞘へと納めていた。

 

「お疲れ、フォン…今回もいい連携だったね」

 

「だな。っと…さっきのドラゴンが何かをドロップしたみたいだが…『竜王の証』…ってことは」

 

「あの塔に入るためのアイテム…そう考えるのが妥当だよね。これで封印を解くことができるかも」

 

リザルト画面を見ているとドロップ一覧にキーアイテムらしきものが表示されていた。フィリアの言う通り、これで竜王の許可を得たということになるのだろうか?これまで堂々巡りであったが、ようやく塔に入る為のアイテムらしきものを手に入れたので、ひとまず俺たちは最初に訪れたエリア『バステアゲート浮遊遺跡前広場』へと戻るのだった。

 

『竜王の許可を得し者よ ここを通ることを許可する』

 

というわけで、塔の前にある障壁の場所へと戻ってきたのだが、再び障壁を調べると、システムメッセージが表示され、障壁が解除された。

 

「よし、これでようやく先に進めるな。できることなら、おつかい系は当分勘弁してほしいぜ」

 

「あはは…結構色々と巡ってたもんね。それにしても、改めて見ると大きいね」

 

これ以上のおつかい系クエストは勘弁してほしいという俺の本音に、同じことを思っていたのかフィリアも苦笑を堪え切れないでいた。そんな会話をしながら、橋を渡りつつ先に見える遺跡塔を観察する。

 

「塔…っていうより、奇抜なオブジェクトに近い感じかな。なんか、現実世界だと色々と問題になりそうな感じだし…」

 

「日陰とか地震があったらどこかが崩れ落ちそうとか、そういうの?でも、構造物だけじゃなく、大きな蔓が巻き付いて支えてるみたいな感じもするね」

 

「…ここもチグハグだよな」

 

「チグハグ…?それって、樹海エリアの時にも言ってたこと?」

 

「ああ。このエリアは何というか…天空の浮遊島に近未来デザインの建物が混ざったっていうか…そんな印象を受けるよな」

 

「…そういえばそうだね。何というか…住む人がいなくなった天空島みたいな感じなのかな」

 

「あー……確かにそれが一番しっくりくるな。まぁ、VRMMOらしい世界観といえば、そうだが…そういえば、アインクラッドも空に浮かぶ鋼鉄の城っていう設定だったな」

 

「ということは、この辺り一帯の浮島もアインクラッドと同じかよく似た種類のものってこと?」

 

「可能性としてはあるだろうな。そういえば、浮遊遺跡エリアっていう名前なのに、それらしい資料というか、記録みたいなものは一つも見つからなかったな」

 

「フォンって、そういうのに興味があったの?」

 

「興味、というよりは好奇心って感じかな。生い立ちというか、そのルーツを知ると理解も深まるっていうか…武具を作る時もそうだが、そういうのは大事かなって俺が勝手に思っているところがあるせいかな」

 

「はぁー…やっぱりフォンって真面目?」

 

「よく周りからはそう言われるかな、うん」

 

そんな他愛もない話を交えながら、橋を渡っていたわけだが…

 

「先がない…?」

 

「断層してるのか…どうやら上に層がズレちまってるようだな」

 

塔の麓までもうすぐというところで、橋が途中でなくなっていたのだ。影が差しているのに気づき、上を見上げると橋の続きである層が見えた。元々こういう仕様なのか…とりあえず、別ルートを探す必要がありそうだ。

 

「…あれかな」

 

「あれ…?……もしかして、ちょっと先に見える蔓のこと?」

 

「そうそう。巨大な蔓だし、その先を目で辿ると塔へと伸びてるから…あの上を渡っていけば、多分もっと近づけるだろう」

 

「でも…結構距離あるよ。どうやって…」

 

「…跳ぶ」

 

「えっ…と、とぶ?」

 

断裂したことで前方180度が見渡せるようになっており、右下方へと視線を向けると、下の空間から突き出て塔に巻き付いている蔓の末端が見えた。

 

あれを使えば塔までまっすぐ辿り着けるだろう…そう提案すると、フィリアからどうやって行くのか問われ、俺は短く答えた。驚きの声が返ってきたが、説明するよりも実際にやって見せた方が早いだろうと思い、俺は後方へと早足で後退り…

 

「なにを…って、フォン?!」

 

問い掛けるフィリアの声が悲鳴に近いものに変わる最中、一気に駆け出した俺はその勢いのままに橋から蔓目掛けてジャンプした!十分に助走をつけたのもあり、余裕で届き…万が一を考え、着地の少し前に背中の両手剣を抜き、着地と同時に蔓へと刃を突き刺した!

 

「…大丈夫だ!ほら、フィリアも今みたいな感じで飛んでくるんだ!ちょっと失敗しても、こっちでフォローするから!」

 

「っ~~~~!?あー、もう!分かったわよ、やるわよ!」

 

右手で剣の柄を握り、左手を大きく振ってフィリアにも跳んでくるように合図すると、一瞬迷った姿を見せたものの、覚悟を決めたように後ろへと下がり…そして、こちらへと跳躍してきた!

 

「っと…きゃあ!」

 

「よっと!」

 

俺の眼前へと着地した…と思った矢先、植物であるゆえか蔓の表皮に足を滑らせたフィリアの体勢が崩れ…すぐさまその手を掴み、彼女を抱き寄せる。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、ありがとう…危なかったぁ…」

 

「どういたしまて…滑りやすいみたいだから、足元に気をつけながら登っていこう」

 

「…うん」

 

一応、最悪を想定して両手剣を突き刺して備えていたわけだが…それが功を制したようだ。すぐにフィリアから身体を離したところで、両手剣を蔓から抜いた。

 

それにしても、一歩間違えれば落下死しかねないこの構造はプレイヤーにとってはあまり易しくないもののような気がする。ある程度の身体能力がそのまま反映されるVRMMOにおいて、こういう移動の仕方はどうなのだろうか。

 

(実際に、これまで攻略してきた層に、こういう仕掛けがなくて良かったと思うところか)

 

そんな疑問を感じつつ、蔓を伝いながら俺たちは遺跡塔へと向かうのだった。

 

 

 

蔦を伝うと、見えていた広場へと隣接していた。さっきみたいにまた飛び移らないといけないと危惧していたが、その心配は杞憂だった。

 

塔の入り口は解放されており、来る者拒まずといった感じだったので、早速中に入ってみることにした。

 

外から見ると、結構高さがあるように感じたわけだが、中から登っていくと案外そうでもなかった。但し、その分広さは予想を超えるぐらいあったわけで…

 

1階はゴーレム系、2階は騎士系、3階はレイス系、4階は1~3階に出現した全ての系統が徘徊する形でいた。しかも、いやらしいことに各部屋は小部屋間同士で繋がっている構造で、扉を開けるまでどういった形でどのぐらいのモンスターがいるかを知れないでいた。

 

おかげで、ある程度のモンスターを掃討してから小部屋を進んでいく形になり、4階までを突破するのにかなりの時間が掛かった。

 

これでようやく頂上かと思ったら、更に面倒くさい仕掛けが待っていたわけで…それが、『瞬きの幻廊』『封印の間』とエリアだった。

 

さっきまでの階と比べれば、モンスターの数は多くはなかったのだが…なんと、各部屋が独立…つまり、直接繋がっていない構造となっていたのだ。

 

では、どうやって先に進むのかというと…それは各部屋の隅に配置されていた魔方陣を踏んでのワープだった。ようやく古代遺跡らしい仕掛けが出てきたことに、フィリアだけでなく俺もテンションが上がり、順路を覚えて『瞬きの幻廊』は順調に突破した。

 

だが、問題は次の『封印の間』だった。

 

このエリアも魔方陣でワープして先に進む仕掛けなのだが…なんと、ワープ先が全てランダムに設定されていたのだ。それに二巡目で気づき、マッピングが無駄だと悟り、とてつもない無気力を味わうことになった。

 

これは突破するのに時間が掛かるかと思っていたのだが…なんと、三巡目で出口にまで辿り着けてしまったのだ。フィリアの提案で、一巡毎にどの魔方陣を選ぶかを交互に決めていこうとなり、一巡目・二巡目共に俺が主導で決めていたので、三巡目はフィリアに譲ったのだが…入口に戻ることなくあっさりと出口へと繋がる転移石(管理区と連動しているものとは別種の、砂時計によく似た構造のもの。おそらく塔限定のものなのだろう)にまで辿り着いてしまったのだ。

 

「…ま、まぐれだよ!?」

 

あまりの引きのよさに、流石に目を丸くしてフィリアを見ると、物凄く謙遜されてしまった。トレジャーハンターとしての勘なのか、フィリアが運に愛されているのか…まぁ、気になるところはあるが、そういうわけで俺たちは塔を踏破していき、

 

「あっ…あの扉」

 

『封印の間』を超えた先…転移石が置かれた小部屋の奥には、樹海エリアのボスフロア前にもあったあの扉があった。

 

「この先が頂上…あの飛竜ボスがいるフロアか」

 

「うん…ここから先に進むと、もう戻れなくなるってことだよね」

 

「樹海ボスのことを鑑みればそうだな…ひとまず管理区に戻ろうか。作戦を練りたいのもあるし」

 

この浮遊遺跡エリアの攻略も大詰めとなるわけだが…ここからがある意味で正念場といっても違いなかった。前回と異なり、今回はボスの特徴が分かっているのもあるが…アインクラッドの方でも対峙したことのない常に飛行している敵が相手なのだ。

 

(何が起こってもいいように、万全の体勢を整えて挑むべきだろうな)

 

確実に激戦になることは間違いないと確信し、俺とフィリアは一旦管理区へと戻るべく、転移石を起動させ使用した。

 

 

 

『基本的には俺がディーラーとタンク両方を受け持つから、フィリアは支援に徹してほしい』

 

最終的に相談の結果はこういう風になった。というのも、敵が常時飛行のうえ、体格も大きい=攻撃範囲も広いことは間違いなかった為、両手剣以外にもリーチの長い槍や一撃が重い両手斧といった選択肢を幅広く取れる俺がメインを張るの方が勝率が高いと思ったのだ。

これにはフィリアも賛同してくれた。短剣以外だと投擲スキルもマスターしているとのことだが、投擲では与えられるダメージは急所以外だと微々たるものであり、どちらかといえばタゲ取りや相手の意識を逸らすことが主だったりするのだ。ということならば、俺が回復したい時など、一時的なタゲ取りといったカバーを頼むことになったのだ。もっとも、

 

『フォンだけが危ない目にあうのが納得できない』

 

と、そんな小言だけは頂戴したわけだが…どのみち、あのボスに勝てなければ同じ話なわけで。ずっとこのホロウ・エリアに閉じ込められたままにいかない以上、避けられないと分かっていたからか、フィリアもあまりしつこくは言ってこなかった。

 

(…最悪の場合は幻想剣のフル解放は選択肢に入れておくべきだろうな。フィリアには…説明してなんとか黙っていてもらうしかないか。できれば、彼女を巻き込むようなことは避けたいけど…樹海エリアボスのことからして、そうも言ってられないだろうしな)

 

最終確認ということで、アイテム整理を終えたフィリアに続き、倉庫ストレージを漁りながら俺は武装をどうしようかと考えていた。

 

相手が分かっているからこそ、その対策を考えるとどうしようかと悩んだ末、最悪の状況を想定したフル装備…現状、俺が使える最強と思える装備たちを全て持っていくことにした。未完成のあれも含めてだが…持って行かずにやられるよりは遥かにマシだ。まぁ、おかげで装備ストレージが万パンになってしまったが。

 

アイテムの方も回復系のポーションと結晶をメインとした構成だ。普段から何があってもいいように多めに倉庫にしまっておいたのは功を制したが、あまり無駄遣いはしないように気をつけよう…ボス戦などでできるかどうかは怪しいところだが…

 

そういうわけで、準備万端となったところで…俺たちは再び塔の最上階へと転移したのだった。

 

「下が…見えないね。探索していた島々が遥か下にあるってことなのかな?」

 

フィリアのペンダントを使って開いたボス扉の先…『バステアゲート 遺跡塔外壁』へ足を踏み入れた…もちろん、外に出た瞬間、扉がロックされたのは予想通りだった(…本当に、このエリアのボス戦は嫌な仕様をしている)。

出た先はまだ頂上ではなく、外壁にそって階段が連なっていたので、それを登っている最中、下を見下ろしたフィリアがそんなことを口にした。

 

「多分そうだろうな。途中転移を挟んだりしたから…それにしても、こんな高さにも浮遊している島があるんだな。というか、今さらながら、どうやって浮いてるんだ?」

 

「それを突き止めようとすると滅茶苦茶時間掛かりそうだけどね。アインクラッドはプロペラで浮いてたよね…ここにはそれらしいものはないし…魔法とか?」

 

「…一番SAOに出てこなさそうなワードが出てきたな」

 

「あはは……ねぇ、フォン。もしかして、ちょっと緊張してる?」

 

階段も半ばまで登ったところ、いきなりフィリアがそんなことを問い掛けてきたので…俺は足を止めて応えた。

 

「…まぁ、流石に今回ばっかりはな。樹海エリアボスの時は相手の正体が分かっていなくても、対峙してすぐに戦ったことがある奴だと分かったけど…今回の飛竜はそうじゃない。俺もあんな奴と戦うのは初めてだからな…緊張しているところはあると思う」

 

正直に言うと…俺も今回ばかりは少し緊張していた。あの巨体クラスに加え、常時飛行型という、剣を獲物にしたプレイヤーにとっては遠距離武器以上に天敵といっても差しつかえない相手だ。

 

それをフィリアを守りながら、ほぼ一人で戦うのだから…色々とプレッシャーというか、責任感というか、のしかかる重圧が物凄い感じてしまっているのだ。

 

それが言葉の端々から出たのか、それとも表情に出ていたのか…フィリアに感づかれてしまったようだ。

 

「…大丈夫だよ」

 

「フィリア…?」

 

「あのとんでもスキルを持ってるんだから、フォンならなんとかできるよ。そうやって、私をまた驚かせるに決まってるんだから。きっと大丈夫だよ…私も…その、相棒としてしっかりとサポートするから!」

 

「………そうだな。よしっ!」

 

…パン!

 

「うわぁ、びっくりした…!」

 

軽く酷いことを言われたが、フィリアなりの励ましだったのだろう。俺の目を見て、そうはっきりと告げてくれたことに、少しだけ心が落ち着いた気がする。どうにも色々と気負い過ぎていたらしい。

 

フィリアのお陰で少しばかり思考も落ち着き…気合を入れるべく、両手で頬を叩いた!いきなりしたこともあって、フィリアを驚かせてしまったが…気合は十分に入った!

 

「というか、ちょっと安心した…フォンもちゃんと緊張とかするだね」

 

「そりゃする時は……ちょっと待て、フィリアの中で俺はどんな人間だと思われてんだ?!」

 

意外そうな顔でそんなことを告げるフィリアに抗議の声をあげる…このボス戦が終わったら、一回認識合わせをする必要がありそうだ。まぁ、その為にも…

 

(あの飛竜を倒さないといけないんだけどな)

 

無事に戦い終わったあとのことを考えたところで、まずは勝たなければと考えを新たにし、再び頂上目指して進み始めた。そして、辿り着いたのは…

 

多くの柱が二重のアーチと外縁に沿って立ち並ぶ、かなりの大きさがある天空の広場だった。ある意味では決闘場のようにも見える構造で、広場の縁は落下防止としてか俺たちの身長よりも少し低いぐらいの壁が立てられていた。足場をあまり気にしなくていいのはありがたいことだが、過信は禁物だろう。

 

ボスの姿は見えず、広場の中央にまで移動しようとした時だった!

 

『…GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

「「っ!?」」

 

このエリアに来て遭遇した時と同じく、あの咆哮が天より聞こえ、奴が上空から急降下してきたのと、俺たちが両手剣と短剣を抜いたのはほぼ同じタイミングだった!

 

『Zordiath The Ancient Caliber Dragon』…直訳すると『古代剣竜ゾーディアス』といったところか?黒曜石を思わせるような鱗と、風を嫌でも感じさせる剛翼…改めて対峙するとその迫力がよく分かる。

 

『…緊急クエストが確認されました!当ホロウ・クエストが完了するまで、出入り口を封鎖します!』

『…同時に、ユ@υΘスΥЖ『ЙεΓ』Ме析ЗЫЬしまС。й果をиーгに反цбせЕす』

 

そして、お決まりのように前回の樹海エリアボスと同じシステムアナウンスが聞こえてきた。後者に関しては前回のものとは多少違いがあったような気もするが…今はそんなことを気にしている場合ではない!

 

システムアナウンスが流れ終わるのと同時に、剣竜は大きく翼を羽ばたかせ空へと飛翔したのだ。やはり基本的には飛行しているのがパターンなのだろう。

 

打ち合わせ通り、俺がアタッカーとなり剣竜が攻撃を仕掛けてきた時にカウンターでの反撃を狙うのが定石だろう。フィリアとアイコンタクトを交わし、そういう流れになるよう動こうと…

 

『GUAAAAAAAAAAAAAAAAa!!』

 

「っ……なぁ…?!」

 

上空を滞空しつつ、俺たちを観察していた剣竜が咆哮を上げ…攻撃を仕掛けてくると思い警戒を厳にしたのだが、上空に突如発生した燐光に俺は息を呑んだ。そして、考えるよりも先に叫んだ!

 

「フィリア、回避だぁ?!」

 

「っ!?」

 

すぐにフォローできるよう少しだけ離れた位置にいたフィリアだが、突然の俺の叫びにただ事ではないと悟り、すぐさまフィールドの端に駆け出す。俺は敢えて動かず…正確には、動くわけにはいかなかった。

 

ボスのヘイトがフィリアの方へと向くのは避けたかったからだ…そして、3秒も経たずに、奴はそれを繰り出してきた。

 

その名の通り、まさしく大剣といっても差し支えない尻尾にライトブルーのエフェクトを解き放つソードスキルを!?

 

「ちぃ…このぉ!」

 

咄嗟のことで大技を繰り出す時間がなく、両手剣単発ソードスキル『サイクロン』をなんとか放つも…一瞬打ち合えたかと思った次の瞬間、押し負けた俺は両手剣ごと弾き飛ばされた!?

 

「がああぁぁ…!?」

 

見事に吹き飛ばされ、外壁へと叩きつけらたことで肺から空気が一気に吐き出された…体に走る衝撃のせいで吐き気を軽く覚えるも、それを気にしている余裕などなかった。

 

(威力はそこまで高くない…けど、質量で圧倒的には負けてる!竜の大きな体格を存分に生かした、遠心力をかなり乗せた尻尾でのソードスキルとか…反則だろう!?)

 

押し負けた割にはそこまでHPは減っておらず、二割程度しか削られなかったことは不幸中の幸いか…だが、単発技でありながら、ああも簡単に押し負けたとなるとこちらも大技を使って相殺するしかないだろうが…その場合は硬直に襲われて動けなくなってしまう。

 

こうなったら、フィリアに追撃を頼むしかないだろう…だが、剣竜はこっちに反撃の機会を与えまいと、攻撃後すぐさま飛び上がっていた上空から再びソードスキルを発動させようとしていた!

 

(フィリアへの指示が間に合わない!?もう一度同じ攻撃で来るのなら、今度は幻想剣ソードスキルで…!)

 

こちらに休む間を与えないアルゴリズムになっているのだろう…またしても俺をターゲットに急降下からの尻尾の剣檄を繰り出してきた剣竜に、俺も両手剣でソードスキルを発動させ真っ向から迎え撃つ!

 

「うおおおおおおおおぉぉぉ!」『GYAaaaaaaaa!!』

 

二つの咆哮が重なり、遅れて互いの刃がぶつかった!

 

幻想剣≪両手剣≫単発ソード・スキル〈フォール・ルイン〉…薄水色の剣技が竜の剣檄とぶつかり拮抗するも…結果は先程と同じようなものになろうとしていた!

 

(…幻想剣でも…押し負けるのか?!このままじゃ…!)

 

さっきと違い即座にではないが、それでも徐々に俺の剣が押し戻されていく。このままではさっきの二の舞になると感じた時だった。

 

「フォン、そのまま踏ん張って!?」

 

「っ…?!」

 

背後から聞こえた声に、振り返ることも、返事をすることもできなかったが、その言葉をただ信じ、力を振り絞って耐える!

 

「い、けっぇぇぇ!!」

 

拮抗する刃に立ち向かうように、俺の隣にその刃が突っ込んできた!短くも、力が込められた気合と共にフィリアがソードスキルを剣竜の剣檄へとぶちかましたのだ!

 

二対一…質量を物量にて覆し、さっきとは真逆の結果となり、今度は剣竜が大きくのぞけることとなった。

 

「フォン!」

 

「っ…おう!」

 

硬直に襲われながらも叫ぶフィリアの合図に、〈フォール・ルイン〉の硬直がすぐさま解けた俺は、追撃に出る!体勢を乱したせいで低空飛行と化していたボスに、幻想剣8連撃ソードスキル〈クアンタム・カウント〉を叩き込む!

 

赤い燐光を纏った8連撃が剣竜の胴体を斬り裂き、そのHPを二割近く削り取る!さらに、〈クアンタム・カウント〉には対象の防御とスピードを下げるデバフ効果がある。

 

確定ではないが、その効果はボス相手にも有効であって…少しだけ剣竜のスピードが下がったように見えた。

 

「…フィリア、なんて無茶を…!」

 

「それはフォンも一緒でしょ。一人じゃ無理でも…二人でなら、あいつのソードスキルに打ち勝てる…!私たちは相棒、でしょ?」

 

「…!そうだったな……よし、やるぞ、フィリア!」

 

「うん!」

 

ボスの動きに注意しつつ、フィリアの方へと視線を向ける…助けてもらったとはいえ、一歩間違えればフィリアも危険だったのもあり、思わずそんな言葉で出てしまったが…それに不満を見せるどころか、俺を諭すように告げた彼女のその言葉に…俺は降参するしかなかった。

 

当初の作戦はもう役に立たない…ならば、二人で同時にボスのソードスキルを迎え撃つのが、今できる最善策なのは明確だった。

 

いつの間にか一人でなんとかしないと考え過ぎていたらしい…フィリアの言葉で大事なことを思い出したところで、ボスも体勢を立て直し終わっていた。どうやら今度はフィリアの方へとタゲを取ったらしく、その剣尾を彼女目掛けて放とうとしていた。

 

それに対抗すべく、俺たちも息を合わせソードスキルを発動させようと身構えていたのだが、

 

「…!さっきとは違うソードスキル…!?」

 

薄水色ではなく、紅の燐光が剣尾には宿っており、さっきのソードスキルとは異なると気づいたフィリアの言葉に、俺たちはすぐさま行動を変えて回避に徹する!その数秒後、フィリアがいた位置に、一度引き戻した直後に反動を活かした刺突の一撃が放たれた。

 

「やっぱり複数のソードスキルが使えるのか…!」

 

「またくるよ!?」

 

ボスクラスの竜が一つしかソードスキルを持ってないわけがなく、嫌な予想が当たったが、剣竜は気にすることなく次の攻撃を放ってくる!またしても、フィリアを狙っての攻撃なのだが…

 

(また刺突のソードスキル…連続して放ってくるのは偶然なのか…?)

 

「フォン!」

 

「っ…!(…試してみるか…)フィリア、いくぞ!」

 

アルゴリズムがそうさせるのか、二連続での刺突ソードスキルに俺は違和感を覚え…フィリアの呼びかけに我に返りつつ、打って出ることにした。ハイポーションを一気に飲み干し、フィリアと今度こそ息を合わせる。

 

そして、剣竜が刺突ソードスキルを放ってきたのに対し、フィリアが短剣単発ソードスキル〈アーマー・ピアス〉を、俺は再び〈フォール・ルイン〉を同時に繰り出すのが、

 

「がああぁぁ…!?」「きゃあああぁ!?」

 

さっきとはまた真逆の結果…剣竜のソードスキルに押し負けた俺たちは吹き飛ばされてしまったのだ。

 

フィリアの方はダメージが少なかったようだが、俺に至ってはHPが半分も削られイエローになっていた。だが、そのお陰で確信が持てた!

 

「ううぅ…な、なんで押し負けたの…?!」

 

「ぐぅ、フィリア!?もう一回だ!もう見切った!」

 

「……分かった、いくよ!」

 

体勢を立て直しつつ、ポーチから取り出したポーションを口にするフィリアに、俺は回復する時間も惜しくそう告げる。全てを語らずとも、俺を信頼して再び迎撃するべく身構える。

 

そして、俺の予想通り…三度、フィリアをターゲットとした剣竜は三回連続となる刺突ソードスキルを繰り出そうとしていた。その動きを確認しつつ、俺は右手でメニューを開いた。

 

数秒あれば、装備の換装をするには十分すぎる時間だった。

 

「「はああああああああああああああぁぁぁ!!」」

 

二度目となるソードスキルの激突…剣尾による刺突に対し、ぶつけたのはフィリアの短剣と…片手棍単発ソードスキル〈サイレント・ブロウ〉を発動させた片手棍『フェイタル・アウト』の一撃だった!

 

 

逆転…これで何度目になるか分からない逆の結果となり、再び刺突ソードスキルを押し返された剣竜がよろめき、

 

「フィリア!」

 

「了解!」

 

俺よりもAGIが高いフィリアに追撃を頼み、任せされた彼女は素早く剣竜に接近して、そのまま追撃のソードスキルを放つ!

 

3連撃〈トライ・ピアーズ〉が剣竜の尾の付け根にヒットし、体勢を立て直した奴が硬直に襲われたフィリアを振り払おうとするも、それを防ぐように俺が間に割って入った。

 

「フィリア、今度はまた別のソードスキルがくる!俺が弾くか、今度はもっと威力のあるソードスキルで、すぐに接近できるように準備しておいてくれ!」

 

「いいけど…結局どういうことなの?!」

 

「三すくみだよ、見てろ!」

 

またしても空へと舞い戻った剣竜が…俺へとタゲを切り替えたので、今度のパターン予測をフィリアへと告げながら準備する。理由を知りたがるフィリアに、簡潔に答えながら結果を見せるために、再びメニューを開く。

 

そして、俺の予想通りに…剣竜は翡翠色のライトエフェクトを剣尾に宿しており、それを確認し終えたところで、俺は装備を片手棍から両手剣『エンプレス・ジェイル』へと戻す!

 

「…もう手の内は見切ったんだよ!!」

 

広範囲を横に薙ぎ払うよう、剣尾の峰による一撃のソードスキルを繰り出してきたが、それに対して俺は両手剣単発ソードスキル〈テンペスト〉による赤燐光を纏ったソードスキルだった。

 

だが、幻想剣ソードスキルにも関わらず、俺のソードスキルは剣竜の薙ぎ払いソードスキルを一方的に打ち負かせた。

 

「…そこぉ!!」

 

もちろん剣竜はよろけることになり、控えていたことで即座に反応できたフィリアが追撃する…5連撃ソードスキル〈インフィニット〉が剣竜の右足へと全連撃ヒットしていく。

 

「三すくみって…そういうことね。ボスの使ってくるソードスキルに対して、弱点となる属性の武器でなら打ち勝てるってことね」

 

「そういうことだ…!次、来るぞ!」

 

硬直が解け、一旦距離を取る形でこっちへと戻ってきたフィリアも俺の意図に気づいてくれたようで…同意しつつ、意識を剣竜へと向ける。

 

今度はフィリアに…と思っていたが、予想は外れ、剣竜は俺へとタゲを取ってきた。そういうことで、次に放ってくるのはきっと…

 

「フィリア、頼む!」

 

「…ああ、そっか。任せておいて!」

 

俺の頼みに一瞬理解ができないでいたようだが、俺の持っている両手剣へと視線が向いたところで、理解してくれたようだ。

 

そう…剣竜はタゲを取ったプレイヤーが持っている武器に対して、3種類のソードスキルを使い分けているのだ。

 

両手剣のような斬撃属性をメインとするプレイヤーの場合は最初に放ってきた振り下ろしに近い斬撃ソードスキルを、短剣のような突きをメインとする武器には刺突ソードスキルを、打撃属性武器には薙ぎ払いソードスキルを…いわゆる三すくみ、じゃんけんのような相性がある攻撃をしてきていたのだ。

 

まぁ、さんすくみといっても、同属性のソードスキルではこっちが一方的にダメージを受けて吹き飛ばされるだけなのだが…不利な属性ではダメージも大きくなるようで…逆に、こっちが打ち勝てる属性での攻撃ならば、大きく隙を作ることができるわけで…

 

「…スイッチ!」

 

「これで…一本目!」

 

最初に繰り出してきた時と同じように、剣竜が放ってきた斬撃ソードスキルをフィリアが相殺したことで、体勢を崩した剣竜に俺は幻想剣超重単発ソードスキル〈エンド・オブ・フォーチュン〉をその巨体に叩き込み、三割残っていた一本目のHPバーを消し飛ばした

 

これでようやく一本…残るHPは二本。このまますんなりといけばいいのだが、HPが減ったことでパターンが変わるであろうが、ボス戦のお約束であり、

 

…ゴロゴロ…

 

「っ…何の音…?」

 

「…まさか…っ、空が…!」

 

どこかで聞いたことがある音が響き渡るように聞こえ、フィリアが警戒を厳にする中、先程まで明るかったフィールドが徐々に曇っていき…嫌な予感を覚え、空を見上げると、案の定、晴天の空に真っ黒な曇り空が出て覆いつくしていた。

 

『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 

「「っ…?!」」

 

ボスが天を仰ぐように咆哮を上げると、フィールドに風が吹き出し…次の瞬間、フィールドの地面が点々と時間差で光ったのが見えた瞬間、俺とフィリアが即座に安全地帯へと避難したのは当然だった。

 

なぜなら、数秒後には光った地点に落雷が落ちてきたからだ!

 

「天候を操るとか…ボスとは言えど、滅茶苦茶だろう!」

 

「泣き言を言ってる暇はないよ!?対抗策は…!」

 

「回避しかないだろう!こっちには遠距離攻撃の手段はほとんどないんだから!?」

 

弓でもあれば別だが、そんなものはSAOにはないわけで…投擲スキルは与えられるダメージが低すぎる。

しかも、さっきとは異なり、剣竜は滞空したままで攻撃を仕掛けてくる様子がないのだ…幸いなことに、フィールドを囲むアーチと同じ高さにいるので、ソードスキルを加えた跳躍でならなんとか届きそうだが…ランダムに降り注ぐ雷の雨の中、そう易々とできるわけもなく…俺たちは防戦一方になっていた。

 

しかも、そこに追い打ちをかけるように更なる攻撃が加わる。

 

『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 

咆哮と共に雷の雨が止み、その代わりに今度は火柱が立ち始めたのだ!天候を操るだけかと思っていたが、これではまるで…

 

「…魔法じゃない、こんなの!?」

 

火柱は出現する位置が固定なようでまだ回避しやすいが…そんなのは気休めにしかならないでいた。

 

フィリアの言葉通り、SAOにはこれまたあるわけがない魔法を使ってくるなど…ゲームバランスの正気度を疑いたくなるレベルだ!?

 

(どうする…!?幻想剣ソードスキルのランバルト・ノインなら届くが…フィリアの前で使うわけには…でも、このままじゃ…!?)

 

スタミナが尽きればいずれ攻撃を受けることになる…その前に何か打開策を打つべきなのだろうが、あれほど覚悟を決めていた筈なのに、ここにきてまで幻想剣を使うことに迷いがあり…

 

思考をそちらへと割き過ぎていたのか、動きが鈍ったせいか…火柱から再び切り替わった落雷攻撃に反応するのが遅れてしまった!

 

「うぅ…!?(しまった…?!)」

 

直撃はしなかったものの、落雷が右足を掠めたせいで、俺の身体が硬直…スタン状態になった。全身に痺れを覚え、身体が上手く動かせなくなった俺に、剣竜は更なる追撃を放とうとしていた。

 

口に風らしきものを溜めていることからブレスを放とうとしているのが見えても、動けない俺に抵抗する術はなく、放たれようとしていたそれに背筋が冷たくなるのを感じ…

 

「…っ!ダメぇ!?」

 

その叫びが聞こえた時には止めることはできなかった。

 

視界の端に映ったフィリアが俺を突き飛ばしたのと、剣竜が風のブレスを放ったのはほぼ同時だった。

 

「きゃああああああああぁぁ!?……ぐがぁ?!」

 

「っ……フィリアァァァァァァァァァァァ!?!?」

 

着弾と共に風のブレスは竜巻と化し、着弾点のすぐ近くにいたフィリアを大きく吹き飛ばした!突風にそのまま吹き飛ばされたフィリアの身体が宙に浮き…そのままあわや場外に落ちるのではと息を呑んだが、幸いなことに柱へとぶつかり…だが、身体を強打したであろうフィリアはそのまま地面へと落ちた。

 

その光景を見て…彼女の名を呼ぶと同時に、俺の中で何かがキレた。

 

『gyaaaaaaa…gyagya?!!?』

 

大技を放ち、隙を見せた剣竜だったが、その咆哮が途中で悲鳴へと変わった。

 

原因は簡単…スタンが解けた俺が、迷うことなく持っていた両手剣を奴の左目目掛けて投擲し、その眼を潰したからだ。

 

「フィリア?!しっかりしろ、フィリア!?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

悲鳴を叫び続ける剣竜のことなど今はどうでもよく、すぐさま起き上がらないフィリアのもとへと駆け寄る。どうやら打ち所が悪かったらしく、フィリアは意識を失ってしまったようだ。

 

その上、HPもブレスの直撃と、衝突ダメージによってレッドゾーンに突入していた。このまま、彼女を戦場に置いておくのはあまりにも危険すぎた。

 

(確か…この真下がエリアの入り口だった筈…!?)

 

まずはフィリアの安全を確保すべきだと考え、すぐさまフロアの構造を思い出し、彼女の身体を担ぎ上げ、フィールドの縁へと足を掛けてそのまま…螺旋階段で登ってきた入口目掛けて飛び降りた!

 

「…ぐぅ!?…っ…ヒール!!」

 

それなりの高さもあり、二人分の体重が加算されたことで着地した両足にかなりの衝撃が走るも、そんなことよりもフィリアの身体を地面へと寝かせて、すぐさま全快結晶を使用する。

 

結晶が消失、レッドゾーンに突入していたフィリアのHPが全回復する。だが、彼女が目覚める気配はなかった。

 

「……ゴメン」

 

瞼を閉じ、聞こえるわけがないと分かっていつつも、その言葉を言わずにはいられなかった。

 

(俺がもっと早く決断していれば、迷ってさえいなければ…フィリアをこんな目に逢わせなどしなかった!

自分だって不安な筈なのに…俺のことまで気を遣ってくれて…なのに、俺は…俺は何をしていたんだ?!)

 

その謝罪の言葉にはいろいろなことが含まれていた。

 

相棒だと信用してくれていた彼女に隠し事をしていることを、

俺を庇ったことで彼女を危険な目に逢わせたことを、

なによりも、力を持っている筈の俺が何もできなかったことが、

 

罪悪感と共に、怒りが胸中に炎となって沸き上がっていた。

 

「君は…君は必ずあっちの世界に帰してみせる。だから、ここで少し待っててくれ…」

 

もう十二分に遅すぎたであろうが…覚悟を決めた俺は、風で吹き飛ばされないようにフィリアの身体を閉じられた入口へともたれさせ、開いたメニューを操作しながら階段を登っていった。

 

『gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?!?』

 

「ギャーギャーうるせぇんだよ、ドラゴン…」

 

『…!?』

 

左目に突き刺さった両手剣は不在の間に地面に落とされていた…傷つけられた怒りを体現するかのようにフィールドの上空で暴れるドラゴンに…伝わるわけがないと理解しつつ、俺は低い声で告げる。

 

俺の姿を視認したことでタゲが向けられるが、怒りが頭の熱を最高潮にまで高めている俺にとって、そんなものは脅威に感じるものではなかった。

 

そして、再び戦場に戻った俺の恰好も…先ほどまで装備していた『蒼炎の烈火』とは違う、デザインは酷似しているが、そのコンセプトが根本から異なる防具へと変わっていた。

 

ユニークスキル『幻想剣』の使用を前提に制作した専用防具『魂白の願念』…背中には両手斧『ラーバ・ソリッド』、右腰部には曲刀『砂漠鳥の快刀』、その逆の位置には細剣『メルクネイル』が…普通のプレイヤーであればまずしないであろう多重武器装備という、ある意味でのフルーアーマー装備の出で立ちが、この装備のコンセプトだった。

 

ターゲットである俺が戦場へと戻ってきたことで再び落雷攻撃を仕掛けてくる剣竜だったが、俺はまず曲刀を抜き、攻撃の出だしを観察しながら戦場を駆ける!

 

(雷攻撃は地面の点灯2秒後に一秒ラグでの連続攻撃、火柱は電撃攻撃を三回してきてからの固定攻撃、ブレスはおそらくどっちの攻撃がプレイヤーに直撃した時の大技、どの攻撃も範囲は広いし隙も少ないが、必ず抜けれるルートがある、それはつまり…!)

 

ドラゴンを含めた戦場全てを視界に収めるのを同時に、頭の中で分析していく…怒りで頭がどうにかなる筈が、今の俺はとてつもなく頭が冴えわたっていた。

 

(隙が無いのなら見出せばいい!?最小限の動きで最速の動きを、無駄なを動きを失くすために相手の動きを全パターン予測すればいい!?できるだろう、俺!)

 

雷がどう落ちればどのルートが安全なのか、どの秒間でどういう風に攻撃がくるのか…冴えわたる頭の中で、その全てを予測し最適な動きを想定していく!それを実現できるのが、幻想剣とそれ専用に設計したこの防具の力だ。

 

「…っ!?そこぉ!」

 

3ウェーブ目の雷の落下地点が光った直後、すぐさまドラゴンへと背を向けるようにして駆け…そのまま柱を足場にしてシステム外スキル『壁走り』で駆け上がっていく!

 

そして、壁を蹴るように跳んだ直後、雷攻撃が発生するも…雷は確かにやっかいのように思うが、あくまでも空から一直線に降り注ぐ攻撃にしかすぎない。つまり、落雷地点さえ把握しておけば、空がどういったルートで空いているかを見極めることもできる。

 

落雷の隙間を搔い潜り、ドラゴンの背中へと飛び掛かり、その勢いのまま幻想剣ソードスキルを叩き込む!逆手に持ち換えた曲刀を突き刺すかのように、全力の連撃がダメージエフェクトと共にドラゴンを削る。

 

『gya…guuuuuuuuuuuuuuuuuuu?!』

 

幻想剣≪曲刀≫3連撃ソードスキル〈カースト・キリング〉…レベル差・体格差・ステータス差によって相手に与えるダメージが激しく増減する特性を持つ連撃が、紫色のライトエフェクトを散らせながら繰り出されていく!

 

レベル差・ステータス差はそこまでないだろうが、体格差は明らかにドラゴンの方が大きく…その増加分と幻想剣武器別固有効果の上乗せもあり、ドラゴンのHPバーを二割も削る。いきなり受けた大ダメージにドラゴンが悲鳴と共に俺を振り落とそうとするも、

 

「抵抗するんじゃねぇよ!おとなしく…落ちろぉ!?」

 

ドラゴンの背にしがみつくことでなんとかその優位を保とうとするも、なんとか振り落とされずに済むもその反動でHPが減少していく。そのままでいるわけもなく、一瞬抵抗が緩んだ直後を狙い、ドラゴンの背の上で跳躍し、背中の両手斧へと手を掛ける!

 

普通であれば、武器を換装するのにはメニューを開いて装備項目を変更する必要がある。これはSAOの仕様上、装備している武器種とは異なるものを装備した時、システムエラーが発生して、武器スキルの適用はおろかソードスキルの使用すらもできなくなるからだ。だから、わざわざ防具に二種類以上の武器を装備する馬鹿はまずいなかった。する必要がないのに、わざわざ重量を増す必要性がないから当然の帰結だった。

 

…もっとも、それが意味あるものにしてしまう例外がなければの話でだ…

 

例えば、両手に二つの武器を装備できるユニークスキルや、様々な武器を使い分けることを大前提としたユニークスキルであれば、その前提が覆ることになる。

 

幻想剣専用防具『魂白の願念』…そのコンセプトは「数多くの武器を短時間で使い分けていく高速戦闘」を主としたものだ。『高速換装』スキルで2~3つの武器を同時装備し、それをメニュー操作なしで換装することで、多数の手段で相手を翻弄し一気に打ち倒すことを前提とした超攻撃スタイルが用途だ。

 

そして、『高速換装』スキルにはもう一つの隠れた効果がある…それは『メニューを操作せずに、装備を持ち換えるだけで武器スキルが自動的に切り替わる』という仕様だ。両手で二種類以上の武器を持つともちろんエラーになるが、武器を鞘に納めたり防具に固定させるなどして持ち換えるだけで、システムエラーを回避できるのだ。

 

つまり…複数の武器さえ装備し、持ち換えに注意すれば…即座に複数の武器を切り替えながら闘うことができるのだ。

 

もちろん、防具に装備する武器の数が多い程に重量が増してしまうという欠点があるのだが…その弱点をできる限り低くするために設計したのが、この『魂白の願念』なのだ。

 

両手斧へと持ち換えたことで、下へと落ちていく曲刀をそのままに、俺は再び幻想剣ソードスキルを発動させる!ドラゴンの体色と同じ黒のライトエフェクトが軌道を描きながら、斬撃が背中へと落とされる!

 

『GUGYA?!』

 

もろに直撃したことで、何度目になるか分からない悲鳴を上げたドラゴンが…遂に滞空している力を失くし、そのまま落下していく。

 

先程放ったソードスキル…幻想剣≪両手斧≫重単発ソードスキル〈エアルバイトゥ〉は空中でこそその真価を発揮する、ある意味空中戦特化スキルだ。このソードスキルは浮遊している敵に対し与ダメージ値が1.5倍、自身の跳躍した高さによってダメージが増加するという効果がある…つまり、高い位置にいればいるほど威力が上昇するのだ。

 

そこに武器固有効果の基礎防御・防御バフ無視とショックウェーブまでもが加わった一撃は…ドラゴンをノックダウンさせるには十分すぎたのだろう。

 

「これも喰らっとけぇ!?」

 

そのまま重力に引っ張られる形で落ちながら、追撃の幻想剣ソードスキルを発動させる。身体を軸としてソードスキルを原動力とした縦回転をし、斬撃の輪と化した俺はドラゴンの背中へと落下した!

 

ギギィと、黒鱗と斧がぶつかり発生した火花と共にドラゴンのHPを削るのは、幻想剣≪両手斧≫高速6連撃ソードスキル〈アインズ・ストラップ〉による回転斬撃で、直撃と同時にほぼ同タイミングで6連撃ダメージを与えるソードスキルだ。

 

直撃さえすれば全連撃がヒットするも同然のソードスキルだが、難点として硬直が長めの分類に入ってしまう。もう一撃追撃を喰らわせたかったが、3.5秒の硬直に襲われている間に、ダウンから復帰したドラゴンの抵抗によって背中から落とされてしまう。

 

「っ…!ま、だまだぁ!」

 

着地と同時に硬直が解け、両手斧を手放す…奴が空中に逃げる前に次の手を打ちたかったからだ。だが、俺の予想に反し…いや、幸運なことにそんな俺を迎え撃つかのように、地に足をつけたまま剣尾を振るってきたのだ。

 

「エイトニング・カウント!!」

 

剣尾による横薙ぎ払いを跳躍と咄嗟に抜いた細剣の刃を当てることで空中回転する形で回避し、そのままソードスキルの勢いで空中からの強襲をかける!幻想剣≪細剣≫8連撃ソードスキル〈エイトニング・カウント〉の軌道に身体を任せ、フィールドを縦横無尽に駆けながら突進突きを繰り出す。

 

最後の8連撃目で一旦距離を取り、硬直が解け次第、俺は次のソードスキルの準備をするべく構える。エイトニング・カウントの高速移動によって剣竜が俺の姿を一時的に見失った今こそがチャンスだった。

弓で矢を引くような形で構えた右手に持つ細剣に薄白青のライトエフェクトが宿っていき…そのまま構え続けると、更にライトエフェクトの色が濃厚な青へと増していく。

 

『…!?GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』

 

「(…5秒、いける!)はあああああああああああああぁぁ!!」

 

もう少し時間が欲しかったが、望んでいた効果は得られた…俺の姿を再度捉えたドラゴンは怒りのままに、低飛空してこちらへと突進を仕掛けてきた!だが、それは悪手だったな…!

 

ライトエフェクトを解放するかのように、俺は迫ってきていたドラゴンの鼻先へとそのソードスキルを叩き込む…すると、フィールドが揺れたかと錯覚するような轟音が鳴り響くのと同時に、ドラゴンがもの凄い背後へと吹っ飛んだ!

 

原因はもちろん俺が使ったソードスキルにあり…幻想剣の中でもハイリスク・ハイリターンの一つに数えられる≪細剣≫超重単発変動ソードスキル〈バックル・ウォートン〉の効果によるものだった。

 

このソードスキル、構えて発動させるのと同時に〈ランバルト・ノイン〉のようにその場から動けなくなるのだが、その性質は真逆で…構えている時間によって威力と特殊効果が変動していく。

構えてすぐに発動してしまえば、初級技であるリニア―にも劣る威力の技になるが、5秒構えて放てば、確定クリティカル+クリティカルダメージ1.5倍+ノックバック確定の上に、上級ソードスキルクラスの威力を放てるのだ。

まぁ、それだけ聞けばデメリットが少ないように思えるが、このソードスキル…放つ時にはシステムモーションのせいでその場から一歩踏み出すことしかできないためにリーチが大変短く、そして、最大のデメリットが…

 

…パリン…!

 

当たろうと不発であろうと、発動後に必ず装備していた武器の耐久値が強制的にゼロとなるのだ。その代わりというわけかは知らないが、このソードスキルの硬直時間はなく、ポリゴンとなって砕けた細剣のことを無理矢理思考から外し、駆けながら戦場を俯瞰する。

 

(…本当なら両手斧の方がいいが、好き勝手を言ってる場合じゃない!?)

 

ドラゴンが体勢を立て直すまでおそらくあと3~4秒…さきほど落とした両手斧を拾いに行く時間はなく、高速換装スキルを使用している時間もないため、最初に捨てたそれを拾う!

 

「これで、二本目!!」

 

奴が体勢を立て直す直前に懐へと飛び込み、拾った曲刀『砂漠鳥の快刀』で幻想剣≪曲刀≫11連撃最上位ソードスキル〈アフタージュ・フレーム〉による紫赤の燐光を散らす高速連撃がドラゴンの身を刻み込んだ!

 

ここまで複数の幻想剣ソードスキルをたたきこんでようやく二本目である…耐久値がHPごとに変動する仕様なのだろうか。だが、残すHPバーは一本…飛ばすことなく、このまま仕留めると、ソードスキルの硬直が解けるのを待っている時だった。

 

『GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 

「くっ…!この、待ちやがれぇ!?」

 

HPバーがラスト一本になったことがトリガーとなったのか、ドラゴンの全身から衝撃波が発せられ、俺は強制的に距離を取らされてしまった。幸いなことにそれでソードスキルの硬直が解除されたのだが、その時には既に奴は再び上空へと舞い上がっていた。

 

「っ…?!くそ…!」

 

しかも、もう近づけさせまいといった雰囲気で、さっきまでは別々に放ってきた落雷と炎柱に加え、水のレーザーらしき魔法までを加えた猛攻を始めたのだ!おまけにさっきとは異なり全てがランダムとなって襲い掛かってくるので、予測することすらもままならず…

 

奴の怒りを体言するかのような…嵐の如く怒涛の波状攻撃が息を吐く暇もなく繰り出されてくる!少しでも足を止めれば魔法の餌食になるのは確実で…だが、ドラゴンもただ黙って見ているだけもなく、

 

「っ…!(剣尾にまたライトエフェクトが…!?魔法で時間稼ぎをしておいて、大技で一気に決めにくるつもりか!)」

 

真っ赤な燐光を力を溜めるように剣尾へと宿すドラゴンは、まさしく大技を放とうとしているかのようだった。

 

もしも反撃できるとすれば、その大技の直後…ソードスキルを放ってくるために地面へと迫ってきた時だろう。その時に備えて武装を整えたいが、高速換装スキルさえも使う余裕がなく、なんとか回収できた両手剣を腰のホルダーにしまった曲刀に変わって持ち換える。

 

そして、その時が訪れようと…

 

『Gruuu…GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 

「っ、嘘だろう?!」

 

…それは最悪な形で振るわれた…

 

無数に放たれていた魔法の雨が止んですぐに、力を溜めていた奴は剣尾を…いや、その巨体をまる剣に見立てたかのように剣尾によるソードスキルを放ってきたのだ!

 

真っ直ぐ振り下ろされてきたそれを咄嗟に転がり躱したが、その斬撃が斬ったものを見て、俺は息を呑んだ。

 

…なんと、剣尾はフィールドを囲んでいたアーチを切断していたのだ!

 

いや、正確には砕かれたという方が正しいだろう…だが、砕かれたアーチは瓦礫となって、フィールドへと降り注ぎ始めたわけで…迫ってくる欠片群から逃げるも、ドラゴンのソードスキルはまだ始まったばかりだった。

 

『Guoooooooooooooooooooooooooooooo!!!』

 

フィールドのあらゆるものを破壊するかのように…俺だけでなく、地面やアーチへと更なる連撃を繰り出してくる!次々と崩壊していくアーチと、巨体によって振るわれる剣尾の剛撃でフィールドには煙が巻き起こり、視界の確保も逃げ道すらも徐々に塞がれつつあった。

 

なんとかソードスキルと崩壊してくる瓦礫の雨の中を掻い潜っていたが、遂に限界が訪れ、

 

「…!しまっ…うわあああああああああぁぁ!?」

 

躱し切れず、倒れてきた柱の衝撃に吹き飛ばされた俺は…砂塵の中へとその姿を消した。

 

 

 

『Guruuu…』

 

8連撃に及ぶ〈ドラゴニックノヴァ〉…剣竜にとって、HPバーが最後の一本となった時に一度だけ発動する超大技を放ち終え、アーチのほとんどを破壊つくし、フィールドの空からその光景を見下ろす剣竜は、静かに息を吐いていた。

 

大技を放ち終わった代償としてステータスが下がってしまっていたが、自身の命を脅かそうとしていた脅威を排除したと安堵の息を吐いているように見えた。

 

いや、例えあの猛攻から生き残っていたとしても、自分がいる位置…天空の支配者たる自分がいる場所へと来る手段をも破壊したため、自身へと唯一手が届く攻撃手段を持っていない者に打てる手などないと…半壊し、面影をもうほとんど残していないフィールドのアーチを見て勝利の咆哮を…

 

「…ううおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!」

 

響いたのは竜の咆哮ではなかった。

 

渾身の叫びと共に、フィールドの砂塵を薙ぎ払う光…刀身から効果によって巨大化したオーラによって振るわれた一撃によって払われた光景を剣竜は目にすることになった!

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

その発生源…鎧は半壊、いや、もうほとんど原型を残しておらず、HPも半分を切っていたが、その目から闘志と殺気が未だに消えていない、地上から剣竜を睨みつけるフォンが繰り出した〈エンド・オブ・フォーチュン〉がその正体だった。

 

しかし、天にいる剣竜に届くわけがなく…何もないところをわざわざ大技を使って斬ったように見える不思議な光景がそこにはあった。広範囲を一気に攻撃できる大技とはいえ、フィールドに大量に舞う土煙を全て払えずにいて…だが、そんなことなどお構いなしに、硬直が解けたフォンは一直線へと走り出していた!

 

…ガラァ…

 

その時、何かが砕けるような音が小さく戦場に響いた。その音は徐々に大きくなっていき、連続して響きだした時、フィールドに新たな変化が起こっているのがよく分かった。

 

フォンが放った〈エンド・オブ・フォーチュン〉が斬ったもの…それは、先程の剣竜の大技で破損しつつも、僅かに耐えて健在していたアーチの柱の一つだった。それが、フォンの一撃によって完全に限界を迎え…木こりが斧で最後の一撃を加えたかのように、倒木の如く倒れだしたのだ!

 

そして、フォンが駆ける先…そこには連鎖し重ね倒れた柱があり…まるでシーソーのような構図になっていたそれに、倒れていく柱とフォンが近づいていく。天へと向く柱の方にその柱が落ちるのと、同時にフォンが地に面をつけた柱へと飛び乗った結果、起こったのはもちろん…

 

「ぐうう!?…おおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」

 

打ち出された弾丸のように、一気に地から天へと…空へと一直線に飛び上がったフォンは剣竜がいた高さを上回り、その頭上でマウントを取る形となった。身体を回転させ、勢いを殺すのと同時にその右手はメニューを開いていた。

 

『Guoooooooooooooooooooooooooooooo!!』

 

「遅い!!」

 

遅れてフォンを迎撃しようと身構える剣竜だったが、既に勝利への道筋を確立させていたフォンの方が圧倒的に準備を終える方が早かった。

 

高速換装スキルによって新たに呼び出した二つの武器…その内の一つは無事だった左腰のアタッチメントへと装着し、残った右手に持つその槍を振りかぶる!

 

(こいつを見てて分かった…こいつは飛行に慣れてない。いや、もっと正確に言うのなら、飛行しながらの戦闘経験がほとんどないんだ!だから、滞空しているか、空中から攻撃する時には動きが単調になる…!だったら、高低差にマウントさえ取っちまえば…その動きは更に鈍る!)

 

剣竜は確かにこの浮遊遺跡の王者ではあったのだろう…しかし、それはあくまでも、剣竜に挑めるような個体がこのエリアにいなかったから、必然的にそうなってしまった成り行きの王者だったのだろう。

 

天を支配する者…だが、その有利性さえなくなってしまえば、幻想剣という平凡からは一戦を画する力を持つ幻鬼の前ではその立場はないに等しいものだった。

 

「そこだああああぁぁぁ!!」

 

完全に反応しきれていない剣竜の右目…残っていたもう一つの目を狙い、全力の力で投擲した両手槍『鬼電』が黄緑のライトエフェクトを軌道として残しながら、一直線にその眼へと突き刺さった。だが、それで終わりではなく、

 

「…爆ぜろぉ!!」

…ボン!

 

『GYaaaaaaaaaaaaaaaaaaa…?!』

 

フォンの叫びに呼応したかのように、突き刺さった両手槍は黄緑のライトエフェクトが急激に輝き出し、そして爆発したのだ!完全に右目を潰された剣竜の体勢が大きく崩れる!

 

幻想剣≪槍≫重単発投擲ソードスキル〈二クスプロード〉…投擲した槍が修復不能レベルで破壊される代わりに、硬直なしで爆発する槍を相手に投げつけることができる変わり種の幻想剣ソードスキル。

このソードスキルの投擲距離はそこまで長くないのだが、フォンと剣竜の位置関係が功を制した。頭上を取ったフォンが投げた槍は重力に引っ張られる形で、投擲というよりも落下に近い形で、その飛距離のなさをカバーしたのだ。

 

爆炎に襲われる剣竜は空を羽ばたくことができなくなり、その巨体を再び地面へと投げ出そうとしていたが、それすらも利用すべく、フォンは先程アタッチメントに装着した武器を右手と左手にそれぞれ嵌め、最後の一撃を放つ!

 

「これで…最後だあァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

重力に乗るために、ソードスキルの加速を用いて一気に剣竜の腹元へと肉薄した瞬間…白銀色のライトエフェクトがその拳から一気に解き放たれた!

 

戦爪『陽陰虎』…太陽の紋章を宿した三本短爪と、月の紋章を象った五本の爪が特徴の非対称両手装備…その太陽を宿した右の拳で放ったのは、幻想剣≪手甲≫超重単発〈ゼーロイバー・フェアダンプ〉による超強力な打突撃だった。

 

地面に落ちていく剣竜を叩き落とすかのように腹元へと突撃したフォン…そのあまりにも強力すぎる一撃は残っていた剣竜のHPを容赦なく削っていき…そして、〈ゼーロイバー・フェアダンプ〉の攻撃はまだ終わっていない!

 

地面に落ちるのと同時に、ライトエフェクトが更なら輝きを解き放った…直撃2秒後に発動するオーラによるパイルバンカーがボスの巨体を貫き、破壊不能オブジェクトである地面へと突き刺さった!

 

これでもかと大技を続けて叩き込まれた剣竜のHPが持つはずもなく…まるまる一本残っていたHPは地面に落ちる共に既に一割を切っており、

 

『…Guoo……?!』

 

その短くもはっきりと呟いた断末魔を最期に、地面に叩きつけられた剣竜の巨体が大量のポリゴン片へと姿を変えたのはHPがゼロになったのと同時だった。

 

「…やった…よな…」

 

肉薄していたこともあり、剣竜の巨体が消滅したことでその上に乗っていたフォンの身体が地面へと落ちる。大した高さではなかったが、着地する余力など残っているわけもなく、そのままうつぶせの恰好で地に伏することになった。

 

【Congratulation!!】

 

ボスを倒したことで、システムメッセージが表示されたのが目に入るも…身体を起こそうとして、途中でできずに再びフォンの身体が地面につく。

 

無理もない…エリアボスを相手に、途中から一人で戦い、勝つために仕方なかったとはいえ、相手の動きを全て予測しながら動き、幻想剣や高速換装スキルをフル活用しながらの戦闘だったのだ…疲弊していないわけがなく、安堵と共にその疲労が一気にフォンに襲い掛かっていたのだ。

 

(…駄目だ、ここで意識を失ったら……フィリア、の安否も…かく、に……しな……)

 

なんとか意識を保とうとするも、意思に反して体や頭が働たいてくれず…その前にHPを回復したり、フィリアの心配をしたりなどしないといけないことを思考に留めつつ、折れた右戦爪を最後に、意識を完全に手放したフォンの瞼が閉じ、その身が地面へと倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今の……何なの…?」

 

だからこそ、彼女のその一言がフォンに届くことはなかった。

 

未知なる力をフォンが使っていたことを…少し前から意識が戻ったことで、フィールドへと駆け付けようとしたフィリアがそれを見ていたことを、フォンが知る術はなかった。

 

 




あーあ…見られちゃった(棒)

ソードスキル&武器解説は次回になります…今回、解説やら色々と書くこと多いので(苦笑)

ALOだと当たり前になってますが、SAOではまずありえない常時飛行状態のボス戦となりました。
実はこのボス戦…あるユニークスキルを所有しているプレイヤーがいることが前提となっていました(ゲーム原作を知っている人は絶対に分かるかと)。いや、でないと勝てないでしょ、HPバー一本になってからなど特にそうですし。
ちょっとしたネタバレになるので多くは言えませんが、樹海エリアもそうだったようにボスにはある共通点と設定を設けています。なので、次に対峙するボスにももちろんネタがあるわけで…実は作中では名前だけではありますが出ていたりします…まぁ、出るのは結構先なのでそれまでのお楽しみということで。

話が脱線しましたが、剣竜について軽く解説を。
まずHPバーを一本切るまでは剣尾を使った三種のソードスキルを使い分けてくる仕様でした。これはフォンが見切ったように武器の三すくみの優劣関係があり、斬(両手剣や片手剣など)→打(片手棍・手甲)→突(短剣・細剣など)→斬…といった感じで、剣竜がタゲを取ったプレイヤーの持つ武器に有利な技を放ってくるので、それに有利な属性のソードスキルで打ち勝てば、剣竜に大きな隙を作ることができるわけです。
 ちなみに、同じ属性や不利な属性だと一方的に打ち負け、前者だと2割、後者だと5割、最大HPの割合固定ダメージを受けて吹き飛ばされます。あと、ボス戦に参加しているのが一人の場合、放ってくるソードスキルがランダムになるという裏設定があります(一応詰みにはならないかと…どれくらいのプレイヤーが対応できるんだという疑問もありますが)
 そして、飛行に加えてまさかの魔法攻撃…天候を絡めた四属性攻撃の嵐という、出るゲームを間違えているのではと思う程の設定ですが、この剣竜の出自的には実はそこまでおかしくなかったりするわけで…おっと、これ以上はネタバレになるので、その辺りのお話はまたおふらいんで…

剣竜をここまでぶっ壊れレベルの難敵にしたのは、フィリアを一時的に離脱させたかったのと、ブチギレたフォンの描写と未出の幻想剣ソードスキルを活躍させたかったのもあってですね。
…本話を書いてて思ったのですが、フォンって「クソ○○」とか「ぶっ殺してやる」みたいな発言をさせにくい主人公だなとひしひしと感じまして…キレた時の描写がし辛い!?
これがユウキとカナデだった場合、一言も話さなくなるほどにブチギレてたことかと…(そういうお話もどっかで書きたいなとは思っていたり(苦笑))
ちなみに、今のフィリアの立ち位置的にはキリトと同じか少し下ぐらいです…あれ、どっかの殺人鬼さんとなんか似てるような(苦笑)

そして、番外編で登場しました、SAO時代最強であり、未完で終わった幻想剣専用装備『魂白の願念』も再登場となりました!詳しい解説は次回に回しますが、現段階で完成度8割といった段階で、この戦闘で大破してしまったことで75層の決戦までに修理が間に合わなかった為にアインクラッド編では未登場になったという裏話が…おふらいんネタがどんどん積み重なっていきますね(笑)

そんなわけで、次回で浮遊遺跡編もラストです。
もちろん、その締めくくりは衝撃の光景を目にした彼女の視点でお届けすることになるかと…そして、忍び寄る影も…

それでは!
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