ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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フィリアとのオリジナルエピソードです。
あっ、出オチです(笑)その原因を知っていくのが本話といったところです。

それでは、どうぞ!


第12話 「湖でのモメント」

(…やっぱりこうなったか…)

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

浮遊遺跡エリアの話を終え、次のエリアの話を…する前に、フィリアとの出来事がもう一つあったので、それを馬鹿正直に話した結果に俺は心の中で深くため息を吐いていた。

 

右にユウキ、左にカナデ…両わき腹にゼロ距離で密着している光景は、男にとっては結構羨ましいシチュエーションに見えることだろう。クラインなんかに見られたら、確実に心を折ることになると思う…見た目だけは。

 

…背中に回したそれぞれの片手がこれでもかという程に抓っていることに加え、残暑を忘れさせる程の絶対零度の雰囲気を纏っていなければ、照れながらも容易に受け入られることができたと思いたい。

 

はっきり言おう…今の二人はマジで怒っている状態だった。

 

さっきの膝上占領行為がまだ可愛く思える程にだ…さて、どうしてこうなったのかは、やはり先程二人にした話が原因なわけで、二人が不機嫌になるのも無理はないと分かっていたが、ここまでとは思ってなかったこともあり、俺は心の溜息を口にするのを我慢し、先程の話のことを思い出していた。

 

 

 

「今度のエリアは…海、なのか?」

 

武具の修理を終え、同時に調理してきたステーキを夕飯(時刻的には夜中だが)のメインとして平らげ(サイドにポテトフライとマッシュポテト、あとミニサラダといったメニュー…米を炊く時間は流石になかった)、就寝前に次のエリアがどこかをコンソールのマップ機能を使って探っていると、浮遊遺跡エリアへと繋がっているのは海が広がるエリアだった。

 

エリアの多くを海が占めているようだが…海浜エリアを中心としたものなのか、それとも海底トンネルみたいな場所が多い感じなのだろうか。それとも、以前攻略した4層のようにまた船を使っての移動がメインになるのか。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「うん…?どうした、フィリア?」

 

「えっ……あっ、ゴメン。ちょっと考え事をしてて…」

 

「そうか…悪い、疲れてるよな。考察は明日の出発前にしようか?」

 

「う、ううん!大丈夫、そういうのは大事だから、ちゃんとしよう!」

 

俺の方をじっと見ているフィリアの視線が気になり、どうしたのかと尋ねると驚いたように反応を返された。疲れているところに無理をさせているのではと思ったが…大丈夫だと言われてしまった。気を遣わせてしまったと思い、できるだけ手早く終わらせた方がいいだろう。

 

『お前ぇ……あいつと一緒にいたら死ぬぜぇ…?』

 

(……あんな言葉を信じてどうするのよ、フィリア…!フォンがそんなことをするわけがない…!)

 

眠気を払うように首を払うフィリアを見て、なおさら打ち合わせを早く終わらせようと思った。それにしても海か…

 

「それにしても海か…装備が潮風とかの影響を受けなければいいんだけどな」

 

「海はアインクラッドにもなかったよね?4層みたいに層全体に川が流れ渡っているみたいな場所はあったけど」

 

「ロービアか…あれはまさしく水の都だったな。確か現実世界でもヴェネツィアとかが有名だったっけ?まぁ、βテストの時には水なんかなくて、涸れ谷と呼ばれていたらしいけどな」

 

「えっ、そうなの…というか、なんでフォンはそのことを知ってるの?」

 

「βテスターが知り合いにいてな。そいつも4層に辿り着いた時は驚いてたよ。そういえば、4層の迷宮区ボスもボス部屋を水没させようとしてくるギミックがあったな」

 

「それって…身動きが取れなくなるプレイヤーにとっては滅茶苦茶脅威だったんじゃ…」

 

「そこは知り合いの情報屋に頼んで対策を取ったんだ。それで、4層のラストアタックが俺の相棒と別の知り合いが同時に決めたんだが……話がズレたな。4層もそうだけど、川や湖は他のエリアにも結構あるよな。

22層の南西にある森林エリアとか、街至るところに設置された水車を回すための支流がある48層『リンダース』、城塞都市の周りが湖で囲まれた61層『セルムブルグ』とか…」

 

水辺の層といえば、やはり思い出すのは4層だったらしく、フィリアが思っていたことと同じことを口にしたのもあり、俺も同意しつつその時のことを思い出していた。

 

4層の攻略はβテスターであるキリトたちにとっても未開な部分が多かった上に、ディアベルが率いる『アインクラッド解放隊』と、そんな彼に憧れて独立する形で新ギルド『Divie Dragons Aliance』…略称DDAこと『聖龍連合』を立ち上げたリンドが協力してボス戦に挑んだわけだが…ディアベルのところから独立したことを気に食わないキバオウが二つのギルドの連携を乱すような行為をしたりなどで…結局、ラストアタックは俺のサポートを受けたキリトとアスナが同時に決めたんだよな。

 

その後の5層も色々と大変だったんだが…そういえば、4層攻略後、協力してくれたアルゴさんを交えた4人で祝勝会をやった時に、LAB(ラストアタックボーナス)のことで一悶着あったな…1層の時に俺とキリトが同時にラストアタックを取ったことで、二人でそれぞれ報酬を手に入れていたのだが、4層ではそうはならず、キリトだけがLABをゲットすることになり、アスナが抗議したのだ。

まぁ、その時には俺とキリトの場合は同じ武器に同じソードスキルを使っていたことで、同ダメージ値ということで二人して報酬を得られたが、4層の時は細剣を使っているアスナの方が同時にラストアタックを決めた時に与えたダメージ値が少ない判定を受けたのでは?という推論を述べたら、一応は怒りを収めてくれたのだが…全く納得はしていなかったが。

 

そんな懐かしい記憶に引っ張られたのか、過去に訪れたことのある層の話を口にしていると、フィリアが何故か驚いていた。

 

「凄いね、フォン…70近いある層の特徴をほとんど覚えてるの?」

 

「えっ……それはだな…」

 

「主街区だけならまだしも、22層にそんなエリアがあるなんて全然知らなかったよ。よく知ってたね?」

 

「あ、あー…息抜きにアインクラッドの街を巡ることがあったんだ!その時に行った場所で印象深く記憶に残ってたんだよ、アハハ…!(い、言えねー…小説で読んだ場所がどんなところか気になって、層に辿り着き次第すぐさま見に行ってたとは…?!)」

 

フィリアは自然と気になったことをそのまま口にしただけなのだろうが…22層の主エリアではないところまで詳しいのは確かに不自然だった!

 

少し焦りながら事実を話すと、やはり自然と疑問に思っただけでフィリアはそれで納得してくれたようだ…まさか小説を読んだことで知っていた場所のことを実際に見に行った、なんて理由を説明するわけにもいかないので、その部分だけは嘘を吐かせてもらったが。

 

ちなみに48層のリンダースはリズの店である『リズベット武具店』があり、それもあって口にしたのだ。22層のキリトたちがホームとすることになる森の家(予定)やアスナが住まいとして(今は)住んでいる層とは違い、実際にSAOの世界に来て初めて知った場所でもあった。

 

「話が脱線したね…海だと武器が心配なの?」

 

「うーん…俺の考え過ぎなのかもしれないが、基本的に武器は鉄が使われているものが多いだろう?クリスタル系や鉱石系もだけど、塩に弱かったりするとちょっとな…よく海風や潮風に当たった車が錆びやすくなるみたいな話を聞いたことがあるだろう?

まぁ、湿度が高めな日本の気候も絡んでいるっぽいけど、塩害っていって塩分が付着すると、鉄とかはそれで錆びやすくなるんだよ」

 

確か金属に付着した塩が水分を吸収することで、金属の錆びを進めてしまうだったか…錆び自体が水に金属のイオンが溶けることで発生する化学反応で、授業でやった内容から気になって調べたことがあった時に、塩害のことも軽く目にしたのだ…確か建物を建てる時にメインとなることが多いコンクリートや農作物に関しても大きな影響を及ぼすこともあったか?

 

「これっばかりは探索しながら武器の耐久値や状態を頻繁に確認していくしかないか…錆び対策のコーティングなんて聞いたことないからな」

 

「リアルだとよく防水スプレーとかで対策したり、潮風を浴びた後に洗車するみたいな話が多いよね…それに武器だけじゃなく、身体の方も気になるよね。潮風を浴びると、結構嫌な感じが………………っ…!」

 

「…フィリア?」

 

次のエリアに関することを話したと思えば、何かに気づいたフィリアは口を閉ざし…何か慌てた様子で自分の身体を探った…かと思ったら、今度は何故か俺との距離を取ったわけで。

 

フィリアが突如謎の行動に走り、流石の俺も困惑を隠せない。一体何があったのかと思い、首を傾げると…

 

「…ねぇ、フォン。その……いや、やっぱりいいや…」

 

「いや、そこまで言い掛けられる方が余計に気になるんだが…一体どうしたんだよ?」

 

出会って間もない頃(言ってまだ数日程度だが)のように、言葉を詰まらせるフィリアに焦れったくなった俺は、敢えて問い詰めることにした。すると、観念したのかフィリアは口を開き…

 

「っ~~…!そ、その…消臭剤みたいなものって持ってないよね?」

 

「消臭剤…?いや、そういったアイテムの類自体ないような……あー…」

 

そこまで言い掛けたところで全てを察した。そして、迂闊にも踏み込み過ぎてしまったことも併せて理解した。

 

「…そ、そこまで気にならなかったぞ。というか、言われるまで全然分からなかったぐらいだし…」

 

「女の子にとっては死活問題なのよ!?」

 

なんとかフォローしようと思い、そうコメントするも、どうやら全く効果はなかったらしく…どこか涙声のフィリアが叫んでいた。

 

(体臭か…そういや、もう数日風呂に入ってないもんな)

 

SAOはほぼ現実世界と言ってもいいぐらいのリアリティを持つVRMMOだ。剣で戦う動作はもちろん、スキルを含め生活に関わるあらゆるものが存在すると言っても過言ではない。

 

俺がカンストしている料理スキルや裁縫スキル、装飾スキルなども生産系統に分類されるも、どちらかといえば生活に関連したスキルだ。人間の生活の中には、食事や睡眠といったものの他に、文化として入浴の習慣もあるわけで…

 

結論から言うと、フィリアは自分の体臭が気になってしまったのだ。

 

潮風に触れたり、海水に浸かった後だと、塩が身体について違和感を覚えることがある…それに連想する形で気づいてしまったのだろう。

 

まぁ、気持ちは分からないこともない。いくらステータスに影響ないとか風邪を引かないからといって、やはり身体は清潔にしておきたいものだ。特に女の子だとその考えが強いのだろう…第1層の時、アスナがお風呂を借りてまで入浴に執着したことのがいい例だ(あの時は、キリトが何故か床で気絶しているという場面に遭遇して、困惑したのはいい思い出だ)

 

さらに言えば、フィリアは俺よりも長くホロウ・エリアに閉じ込められていたのだ。なおさら、そう思うのも無理はない話だろう。

 

「そんなに気になるのなら…まずはその問題を解決してからにしようか?」

 

「えっ……で、でも、次のエリアの攻略が…」

 

「別にエリアは逃げたりしないだろう?それに、集中できない要因があるまま戦う方が危ない。言われたら、俺も気になりだしたし…」

 

…実はそこまで気にしていなかったりするのだが…本音を隠して、俺はフィリアへとそんな提案をした。

 

キリトと組んでダンジョンやら迷宮区やらに数日籠ることもそう珍しいことではなかったため、入浴せずに過ごすことに慣れてしまっていたのだ。もっとも、ホームに帰ってすぐに風呂に入ったりはしていたのだが。

 

あくまで俺は大丈夫であってもフィリアが駄目なら話は別…相棒の要望くらい聞くのは当たり前だろう。しかし、あまりフィリアに気を遣わせるのもどうかと思い、俺は敢えてそう言い繕った。そのまま、いい場所はないかとコンソールでマップを見ていく。

 

流石に風呂そのものはちょっと難しい…素材さえあればできることはあるが、残念ながら倉庫ストレージにもそれはない。

 

ならば、何か代用できるもので…そんな風に考えながらホロウ・エリアのマップを見ていると…

 

「…そうか、別にお湯にこだわる必要がないのなら……なぁ、フィリア。今から樹海エリアに行ってみないか?」

 

「樹海エリアに?でも、どうして?」

 

「ここを見てくれ。森の中にどうやら湖があるようなんだ。そこでなら、水浴びくらいはできるじゃないかと思ってさ。シャンプー…は流石にないけど、石鹸だったら倉庫の中に備蓄があるし…それでどうかな?」

 

「……………行く」

 

樹海エリアの一画、そこに湖を表すかのようなマップ表記を見つけたのだ。洗体用品も一部は持っていたので、併せて提案すると…悩んだ末にフィリアは賛同してくれた。どうやら、遠慮よりも体裁の方が勝ったようだ。

 

そういうわけで、攻略前の小休止といった感じで倉庫ストレージで荷物を整えてから、俺たちは樹海エリアへと向かった。

 

 

 

「…おおー、これはまた大きいな」

 

マップを頼りに整備された道を外れ、森の中を歩いていくこと10分ほど…開けた視線の先には、太陽の光に照らされた湖が広がっていた。

 

反対側の端は見えるものの結構ギリギリであり、直径は目測ではあるが30mぐらいはあるのではないだろうか。水自体も汚れている様子は一切なく澄み渡っていた。試しに右手で掬い、口に含むと程よい冷たさと共に無味が口内に広がった。

 

「うん、特に問題なさそうだな。ここで大丈夫か、フィリア?」

 

「…そうだね。贅沢は言えないし、大丈夫だよ」

 

「そうか……なぁ、本当に俺は気にしてないから、そこまで距離を離さなくてもよくないか?」

 

「フォンが気にしなくても、私が気にするの!?」

 

「…さいですか」

 

問題なしと判断し、彼女の方にも異はないかと尋ねると問題ないと返事が返ってきた…もっとも、当の本人であるフィリアは俺から3mほど離れた場所にいたわけだが。

 

ここにくるまでずっとその距離を保っていたのだ…本当にそういうことはなかったのだが、どうにもフィリア的には許容できなかったらしい…乙女心というのは難しい。

 

「ともかく、フィリアも問題ないって言うのなら、ここで水浴びをしてくれ。それと……これらも置いて行くから、自由に使ってくれ」

 

距離間のことに関しては諦め、俺は早々に席を外すべくメニューを開き、アイテムストレージを呼び出す。そこからいくつかのアイテムを選択し、そのままオブジェクト化する。

 

「…それは?」

 

「石鹸とタオルを何枚かと、護身用の投擲針だ。石鹸は身体を洗うだけじゃなく、服を洗うのにも使える奴だから。タオルの方は身体を拭くのはもちろん、服とかを畳んで隠す用だな。それと針は護身のものだ…いくらフィリアでも、水浴びするのに短剣をつけたままにはできないし、何かあった時にすぐ抜刀するのも難しいだろう?これなら、手に届く場所にさえ置いておけば、すぐに投擲できるだろう?あまり強くはないが、麻痺毒の付着させているから足止めには十分だろう」

 

「…こ、こんなに…なんか色々と気を遣わせてゴメンね」

 

「気にしないでいいよ、それじゃあ、俺は少し離れた場所にいるから。もし何かあってもいい様にあんまり遠くにはいないから」

 

「うん、ありがとう、フォン……それと、覗かないでよね」

 

「覗かないって。そんな趣味はないしな」

 

フィリアがアイテムに近づけるよう、逆にアイテムから距離を取りながら地面に置いたそれらの説明をしていく。そして、説明を終えたところで立ち去ろうとする俺の背中に棘のあるそんな言葉が飛んできた。

 

残念ながら、紳士としてそんな最低なことはしないので安心してほしい…と言っても説得の材料にはならないだろうと思いつつ、俺は手を振りながらその場を後にした。

 

元来た道を辿り、木々があまり密集していない場所へと来たところで足を止めた。

 

(ここなら、フィリアが叫んでくれれば聞こえるか…さてと、こっちはこっちで始めますか)

 

フィリアの水浴びがどれだけ掛かるかは分からないが、女性のこういうのは長いって母さんがよく言ってたので、その時間を使って考えていたものを作ることにした。

 

作るのは初めてだが、材料もそこまで多くのものは必要としないもので、スキル自体も既にカンストしているものを使うので、まず失敗することはないだろう。気に入ってもらえるかどうかという心配はあるが…まずは…

 

「…うおおおおおおおおおおぉぉぉ…!」

 

火起こしからだった。木の板を土台に、ほどよくカットした木の棒を両手で挟み持つようにして、そのまま超高速回転による摩擦熱による火種作りが始まった。

 

 

 

「…あんなあっさり行かなくても…」

 

一方、道具の説明を終えてすぐさまその場を去ったフォンがいなくなった後、フィリアは少し不満げにそんなことを呟いていた。

 

冗談すらも軽く流されてしまい、流石に思うところがあったようで…なんとなくイラっとしつつも、フォンの性格的に確かにしなさそうだと納得している自分もいて、気にしないことにした。

 

「えっと、まずは装備を…って、タオルを巻いておいた方がいいよね」

 

メニューを開こうとして、ふとその後のことを考えその手が止まった。まずはフォンが用意してくれたタオルを手に取り、そして、今度こそメニューを開いて装備を一つずつストレージに収納していく。

 

短剣は流石に収納するのは怖いため、外して地面に置き、防具の解除が終わって下着姿になったところでタオルで身を包む。そして、周りに誰の目もないことを確認してから、残っていたものもすべて解除した。

 

「…っ…ちょっと冷たいかな。でも、贅沢は言ってられないか」

 

右足を少し水面につけると、水の温度がフィリアに伝わり声が漏れる。そのまま慣らしながら、全身を湖へと漬からせたところで…

 

「うううぅぅぅぅ~~~ん!!」

 

タオルも外し、解放されたように両手を空へと伸ばす形でリラックスしていた。解放感を感じるのもあるだろうが、身体を清める行為に幸福感を覚えていたのも大きかったのだろう。

 

そもそも、フォンと違って一週間もソロでのサバイバル生活を強いられていたのだ。そこに加え、フォンとコンビを組んでからも立て続けに様々なことがあったのだ…心身共に疲労が溜まっていても仕方なく、こうして一人の時間をゆったりできるのは有難いことだった。

 

「これがお湯だったらな~…お風呂が恋しい。あっ、そうだ!フォンがくれた石鹸を使おうかな」

 

脱力したまま、湖に身体を浮かばせるフィリア…広さでは圧倒的に勝っているが、やはりお湯やらシャワーの魅力には勝てないとばかりに風呂を恋しんでいた。そのまましばし水に浸かっていたが、このままの状態でいるわけもいかないと石鹸を使うことにした。

 

「ついでに服も洗っちゃおうかな…一応、替えの服は持ってきてるし…」

 

淵に置いてあった石鹸を手に取り、同時にずっと身につけていた防具も洗ってしまうことにした。ストレージにしまっていた服を再度取り出し、身体を洗うついでに洗濯も済ませていく中、考えていたのは相方のことであった。

 

「そういえば、フォンも水浴びする気なのかな。そうだとするなら、水を汚しちゃったのはマズかったかな……本当に覗きに来ない…というか、フォンは今何してるんだろう?」

 

思わず欲に駆られて勢いで来てしまったが、そういえば、フォンがどうするかをあまり聞いてなかったことに気づいた。まぁ、フォン自身も自らの行動を説明せずに動くことが結構多いので仕方ない部分はあるのだが…

 

これまで世話になっていることの方があまりに多く、借りばかりを作ってしまっているとフィリアは感じていた。フォン自身はそういうことを気にしなさそうだが、相手からすればそれはまた別の問題なわけで…

 

(…なんか私ばっかりフォンに頼っているばっかりみたいで…ヤダな)

 

頼ってほしい、とまでは言わなくても相棒として自分は同じ位置にいられているのだろうかと考えてしまうフィリア。それはPoHに言われたことも影響していたのだろう。ふと暗い思考が頭を過り、それを振り去ろうとした時だった。

 

…ガサッ…!

 

「えっ……っ、キャアアアアアアアアアァァァ!!」

 

物音がして、反射的にそちらへと視線を向けた直後、フィリアは悲鳴を上げることになった。

 

 

 

「キャアアアアアアアアアァァァ!!」

 

「っ?!フィリア…!」

 

無事に火を着けることに成功し、水を沸かせている間に俺は一番重要な材料を採取しに行っていた。だが、戻ってきた途端、森を貫く悲鳴が耳に届いた!

 

居ても立ってもいられず、持っていた材料を地面に落とし、すぐさま湖へと駆け出した!あの悲鳴からしてただ事ではないと危機感が頭を占める。まずはフィリアの安否を確かめなければと駆けたことで、もう間もなく湖に到着しようと…

 

(…っ!?待て待て待て待て待て!?!?ちょっと待て?!今、フィリアは確か…!)

 

あと数メートルで湖に辿り着くといったところで、俺はあることを思い出し、急ブレーキをかける!急制止によって地面にもの凄い勢いで摩擦熱と共に土煙が生まれるも、そんなことよりもヤバいことに気づいたのは幸いだろうか。

 

「フィリア、大丈夫か!?」

 

「ふぉ、フォン!?だ、大丈夫…だとは思う。でも…」

 

「分かった!今、そっちに行くが…行っても大丈夫か?」

 

「えっ、だいじょう……っ?!ちょ、ちょっと待ってぇ?!」

 

湖方面へと視界は向けないようにし、声を張り上げて呼びかけると、向こうから返事が返ってきた。どうやら直下の危機はないようで一安心しつつ、何があったのか確認するべきかと思い、そちらへと向かうことの許可を…というか、問題ないかどうかを確かめるべく尋ねる。

 

…ドポン!という何かが勢いよく水面に沈んだ音がしたことから色々と察した。そして、事前に気づいた自分のファインプレイを心から賞賛したくなった。

 

(ちょっとした事故で信頼を失うとか笑い話にもならないからな…)

 

そんなことを思いつつ、遠慮しつつも足を進めて湖へと辿り着いた。できるだけ湖へと視線はむけないようにするも、フィリアの安否を確かめる。湖から頭だけを出す彼女の姿があり、ホッと息を吐く。

 

そして、すぐさま周りの森へと目をすぐに向ける…隠れているとはいえ、服を纏っていない女性にずっと目線を向けるのは大問題だろう!

 

「さっきの悲鳴はどうしたんだ?一体何が…!」

 

「ご、ゴメン…さっき誰かが覗いていたみたいで…それで悲鳴を上げちゃって…」

 

「なんだって…どの方角だ!?」

 

「フォンが見てる方向とは真逆の方向だよ」

 

湖を正面にして、俺は左方面の森を見ていたので、右方面に誰かがいたということになるのだろう。すぐさまそちら方面の森へと入り、探索するも…残念ながらフィリアの悲鳴に驚いたのか、それらしき人物の姿は見つからなかった…姿は…

 

「どう、だった…?」

 

「見つけられなかったよ…気づかれて逃げたのか、それとも、もしかしたモンスターの類だったのかもしれない」

 

湖へと戻り、またできるだけ森へと視線を向けながら、尋ねてきたフィリアへと答える。もう覗き魔らしき者がいないと分かり安堵したらしく、フィリアはホッとしていたが、俺はあまり楽観視できないでいた。

 

(すぐそばの林に足跡があった…フィリアの言う通り、誰か居たのは事実だろうな。もしかして、例のレッドプレイヤーたちか?ここらにいて偶然出くわしたのか、それとも、俺たちを狙ってか…ともかく、あまり気を緩めすぎない方が良さそうだな)

 

フィリアをこれ以上不安にさせない方がいいと思い、そのことは告げないでいたのだが、どうやら俺も油断していたところがあったらしい。こうなる可能性を視野に入れておくべきだったのだ。ボス戦を終えたばかりというのもあって、気が緩んでいたのだろう。

 

「フィリア、もう少し水浴びするか?もう少しそうしたいのなら、さっきみたいなことがないようにもうちょっと近いところで警備でもするんだが…」

 

「……ううん。流石にさっきのことがまたあるとちょっと怖いし…それにもう十分堪能できたから大丈夫だよ」

 

「そうか…なら、俺はまた席を外「ま、待って」…えっ?」

 

フィリアももう水浴びは十分とのことだったので、ならば、俺は邪魔にならないようまた場を去ろうとしたのだが…フィリアに呼び止められ、その足を止めてしまった。

 

「えっと……ゴメン、ちょっとまだ怖いから……着替え終わるまで、そばにいてくれないかな?」

 

「…はい?」

 

そんなお願いを言われ、思わず振り返らなかった自分を褒めてやりたかった。言われたことが聞き間違いであってほしかったと、俺は心の底から思うのだった。

 

 

「…振り返ったらぶっ飛ばすからね」

 

「分かってるよ!…だから、できるだけ手早くしてくれよ」

 

地面に腰をつけ、覚悟を決めた俺は胡坐のまま目を硬く閉じていた。背後から忠告が飛んでくるも、それにヤケクソ気味に答えつつ、俺はこんな状況になったことに頭を抱えたくなっていた。

 

まぁ、要するにまた覗き魔が出るのはちょっと怖いとのことで、着替え終わるまで俺に傍にいてほしいとフィリアが頼んできたのだ。俺はなんとか拒否しようとしたのだが、フィリアが怖がる理由も分からないわけもなく…三度目のお願いで俺が折れることになったのだ。

 

今やこの時間が早く終わってくれと俺は心の中で願うことしかできないでいた。せめて、目を瞑ることで少しでも事故の確率を減らそうと試みる。だが、それは逆に失敗だった。

 

…視覚を閉じたことで、少し鋭利になった聴覚が、フィリアが湖から出た音を鮮明に聞き取ってしまったのだ。

 

しまった…!と思った時には遅かった。このタイミングで今さら目を開けるのは、フィリアに目撃されたりしたらどう思われるか分からず、しかし、ここで動揺を見せるわけにもいかず…マジで耐えることしか手段がなかった。

 

何の罰だという思いと共に顔が熱くなるのを感じるも、そんな俺の状態に関わらず、背後からメニューを開くSE音が聞こえる。そして、そのまま布が擦れる音が……ちょっと待て?!なんで装備欄から装着しないんだよ!そっちの方が楽だろう!?というか、今の音って……いやいやいや!?何も考えるな音弥蓮!?素数だ、素数でも数えて全てを忘れろ?!今思い浮かべたもの、聞いたもの全てを暴虐する勢いで素数を数えるんだ!?…1、2、4、8、16、32、64…!

 

「お、終わったよ」

 

「…1024…っ!お、おう…終わったか」

 

「…?どうしたの、フォン…なんか様子が…」

 

「な、なんでもない!?ほ、ほら、また変な気配がする前にここを離れよう」

 

「えっ、ちょ…待ってよ、フォン!」

 

居た堪れない気持ちに駆られ、俺はフィリアの方を直視することができず、我勝手にと元来た道へと向かった。背後から慌てて後を追うフィリアの気配を感じたが、彼女と顔を合わせるには、もう少し冷静になってからにしたかった。

 

 

 

「はぁ~…暖かい」

 

「それは良かった…というか、その服」

 

「うん、私服…装備していた服はさっき洗っちゃったから」

 

森を歩いている間に頭が冷えたようで、冷静になれたことでさきほど火を起こした焚火の前で、俺はフィリアと普通に会話ができていた。二人して温まりながら、俺は壺を火にかけながら投下した材料と水を混ぜ合わせていた。

 

冷静になれたことで、さっきは気づかなかったフィリアの服装の変化に今気づいた。少しライトグリーン調のワンピースで膝下までおおうぐらいのゆったりしたものだ。

 

装備を乾かすために焚火に当てたらどうかと提案するも、速乾材らしき鉱石を一緒にしているとのことでその辺りの問題はないらしい。

 

そんなやりとりをしていると、混ぜ合わせていたものができたらしく、完成を告げる音が鳴ると同時に壺の中から軽く白い煙が上がった。

 

「何を作ってたの?また料理?」

 

「いや、今回は料理じゃないよ。正確には調合ってところかな」

 

興味深そうに完成したものを尋ねるフィリアに、違うと答えながら、正解は告げずに作業を進めていく。壺の中身を大きなビーカーにまずは映し…そこから、小さな5つのガラス瓶へと小分けしていく。

 

その出来を確かめるべく、蓋をしてプッシュすることで中から噴射された霧状の液体を手へと吹きかける。手首を鼻へと近づけ…うん、問題なく完成したようだ。

 

「ほら、フィリア。とりあえず3つな」

 

「う、うん…これって、もしかして…」

 

「ご察しの通り、香水だよ。流石に除臭剤はちょっと無理だが、香水くらいなら調合スキルで作れたからさ。効果が長持ちする配分で作ったから、これで当面は気にしなくていいだろ?」

 

「あ、ありがとう…これ、ミントの香り?」

 

「そこにレモンに近い花の匂いを加えたものかな。あんまり甘い匂いよりはさっぱりした方がいいかと思ってさ」

 

手ごろに手に入る素材といったところで調合スキルを使って作ったのが、今三つフィリアに渡した香水だ。除臭剤もレシピは知っているのだが、材料がすぐに揃えられないものが多いのだ。

 

せめて代わりというわけではないが、香水ならそれ代用できるかと思って作ったのだ。もっとも、現実世界でも香水なんて使ったことないので、完全に俺の勝手な想像からくる考えだが。

 

「いい匂い…大事に使うね」

 

「そんなに気にしなくてもいいぞ、すぐに作れるものだし。むしろ頻繁に使ってくれ。足りなくなったら、また作るから言ってくれ」

 

「そう?それじゃ、遠慮なくそうさせてもらおうかな」

 

むしろ使ってもらえる方が作ったこちらとしては嬉しいものだ。フィリアも気に入ってくれたようでよかった。

 

…そういうわけで、色々あった水浴びはなんとか終わり、フィリアの服が完全に乾くまで、俺たちは焚火を前にして、ゆっくりと時間を過ごすのだった。

 

 

「…フォンは入らないの?」

 

「俺はいいかな…また機会があったらな」

 

何故か顔を赤くしたフィリアからそんな問い掛けが来たが、遠慮させてもらった。流石に知人の女性が入った水の中に入る勇気はなかった。

 

…それにしても風呂か…材料があれば、昔ながらのあれだった作れそうだが…ちょっと記憶の片隅に置いておくとしよう。

 

 

 

そして、案の定…この話をユウキとカーディナルにしたら不機嫌にさせてしまったという冒頭のオチに話が繋がるわけだ。

 




ToLoぶる的なハプニングを期待していた人、はい、廊下に立ってなさい(棒)

いや、フォンはそういうのやらかさないタイプかと思っての事故回避的な展開でした。まぁ、その後に赤面する事態になったわけですが…

実は覗いていたのはPoHにする予定だったのですが、キャラ的になさそうだったのでボツに…犯人はみなさんの想像にお任せします!

次回から話は本題に戻り、新エリアへと突入です。お楽しみに!

それでは!
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