ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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すみません、またしても遅刻しました!

最後のやりとりが思った以上に長かったもので…あと、寝坊してラストを書き出すのが遅くなったのが敗因です(苦笑)
ついでにアドコレにはまって執筆時間削ったのも大きかったなぁ…

そういうわけで、イベント挟んでのシリアス回です。

それでは、どうぞ!


第15話 「揺れ動くマインド」

「…これ、武器なのかな?」

 

そんな一言を口にしたフィリアの視線は、彼女が持つそれへと言葉と共に向けられていた。見た目は言うように武器っぽいが…

 

海底洞窟を抜けた先…『グレスリーフ大灯台』という名のエリアへと到達した俺たち。まず辿り着いた『基底排水路』である地下から5階構造の灯台を登り終えた最上階にて、アストラル系のネームドモンスターと対峙することになった。

 

…といっても、ヒュドラのように地の利点も持っておらず、エリアボスのような厄介な能力もなくてはそう苦戦する相手ではなく…取り巻きのゴレームたちを俺が相手取っている内に、フィリアがほぼ単体で倒してしまった。

 

「フィリア、ちょっと貸してくれるか?」

 

「うん」

 

刀『真猛丸』を腰の鞘に納刀し、正体を把握しかねているフィリアからそれを受け取る。黒一色のハンマー調の武器…見た目よりも軽く、感覚的には片手棍系統の武器のように思える。

 

だが、念には念をということで…鑑定スキルを発動させ、アイテムのステータスを確認する。すると、スキルによってアイテムのステータス画面が表示された。

 

「どれどれ…『岩砕きのマトック』っていう武器みたいだな。やっぱり片手棍に分類されてるな。ステータスは……うわぁ…」

 

「えっ…もしかして、滅茶苦茶凄いの…!?」

 

「いや、その逆…10層とかでNPCが扱っているようなクラスの能力だ」

 

数値を見て思わず変な声が出た。

 

そんな俺の反応にフィリアがそこまでの物だったのかと聞いてきたが、ニュアンスは同じながらその中身が真逆であると告げながら、俺は見たままの数値を分かりやすく伝える。

 

第1層のアニールブレ―ドより少し下と言えば分かりやすいか…こんな武器を本当にあのネームドモンスターがドロップしたことが逆に不思議に思えるほどだ。

 

鍛冶師としての意見も加えた俺の評価に、フィリアも苦笑いすることしかできなかったようで、言葉を失くしていた。

 

「フィリア…一応、所有権は君にあるが、いるか?」

 

「うーん……片手棍スキルなんて全然上げてないし…フォンが持っておいてくれない?」

 

「…といっても、片手棍は自作したのがあるからな。最悪インゴットにするか?…でも、このクラスの鉱石やらインゴットは余ってるし…」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「フィリア…?」

 

スキルを上げていない以上、持て余すということで俺にマトックを預けたフィリアだが、まだ何か納得がいってない様子を見せていたので、どうしたのかと尋ねると、

 

「えっと…なんとなくなんだけど、それは持っておいた方がいい気がして…ゴメン、別に何か根拠があるとかじゃないんだけど、なんとなくそんな気がして…」

 

「勘ってやつか………分かった。なら、しばらくは持っておくよ」

 

本人も言葉として上手く表現できないらしく…曖昧ながらもそう告げるフィリアの言葉に、俺も思うところがあり、その助言に従うことにした。

 

直感というのか…こういうのは結構馬鹿にできないのだ。

 

俺も鍛冶師として結構武具や装飾品を制作してきたり、剣士として場数を踏んできたので、そういう事柄に関しては根拠なしで何かを感じ取ることがある。

こういう分野に強いのが、意外なことにキリトなのだ。ここぞという場でのあいつの直感で何度か窮地を救われたこともあったくらいだ。そういうのに鋭い癖に、アスナからの好意には鈍いのだから、本当に不思議だ。

あと、アルゴさんの情報屋としての嗅覚と直感もそうだ…幻想剣関連もだし、特にシグさんの一件とかがいい例だろう。まぁ、その中身はアルゴさんも予想だにしていなかったものだったけど…

 

話が逸れた…フィリアにもそういう傾向があるのだろう。トレジャーハンターとしての活動してきた経験からくる直感…樹海エリアで見せた、宝箱に対する罠ギミックの看破などからして、その助言を無視するような馬鹿なことはするべきではないだろう。

 

…一応補足しとくが、あてずっぽうと直感は全くの別物だと俺は思ってる。「辛い方が上手いに決まってる」みたいな、適当な理由で行為をしてはならないのだ…一回、どこぞの黒い剣士様が人様の作った料理に香辛料ぶちまけた時には、ガチで説教したのは懐かしい話だ(それ以降、キリトの味覚はあまり信頼しないようになった)

 

「これで、ここで出来ることはもうなさそうだな」

 

「そうだね。あと探索できていないのは南側のエリア…海の方だけだね」

 

「また海底洞窟を通ることになるのか。その先は…『海賊王の砦』っていうエリアに行きつくみたいだが…」

 

「海賊王……ロマンがあるエリア名だね!」

 

「なんかどっかで聞いたことあるフレーズなような気がするんだが…まぁ、トレジャーハンターとしては、確かに気持ちがあがるのも無理はないか…」

 

アストラル系のネームドモンスターがここの主だったようで、中央の大きな燭台に火が灯ったことで、モンスターがポップしなくなっていたため、俺たちは今後の方針を決めるべく、休憩を取るのと同時にマップを見ながらそんな相談をしていた。

 

『海賊王の砦』というエリア名に、案の定、フィリアが目を輝かせながらテンションを上げていた。なんとなく予想はできていたが…

 

「海賊王でも出てくるのかね…俺的にはスケルトン系統のモンスターが出てきそうで、また厄介そうな感じがしてるよ」

 

「ホロウ・エリアだと何が起こってもおかしくないもんね…倒したスケルトンのモンスターの骨が合体・巨大化して襲ってくるとか…」

 

「そんな非常識なことは勘弁してほしいよ…ゲームだからありそうなのが嫌なところだな。倒しても復活とかもあるかもな」

 

「あー…死んで骨だけみたいなのもそういえばあったね。あれは当時読んでた時は衝撃だったなぁ…」

 

「死んで、骨…?読んで…?一体何の話をしてるんだ?」

 

「えっ……ほら、週刊ジャ……ちょっと待って。もしかしてフォン…漫画読んだことないの?」

 

「失礼な、俺だって偶には読むよ。日本の歴史に関するものとか偉人の生い立ちに関するものとかは読んだことあるぞ」

 

「そっちじゃないよ!?」

 

これから向かう先の話をしていた筈なのに、互いの言っていることに違和感を覚えたことで疑問を俺が口にすると、何故か信じられないものを見るような視線を向けられた上に、叫びを浴びせられた。

 

「噓でしょ…まさかONEPIECEを読んだことがない人がこの世にいるなんて…」

 

「…なんかゴメン」

 

「むしろ、漫画を読まなかったら何を読んでるの、って聞きたいぐらいなんだけど」

 

「えっと…ミステリーとかの小説が多いかな。あとは社会的リアルティがある作品とかか?」

 

「ミステリー…なら『真実は一つ!』『見た目は子供、頭脳は大人』くらいは知ってるの?」

 

「あー、毒薬で身体を小さくされた探偵の……読んだことはないけど、知ってる」

 

「…もしもそれも知らないって言われたら、更にショックを受けるところだったよ」

 

(…うーん…俺とSAOの世界だと文化が多少違うのか?俺の世界にない文化だったりすると、話の帳尻を合わせるのは難しいぞ、気を付けないと…これまで、キリトと一緒にいることが多かったせいで、そういう話をする機会とかなかったからな)

 

どうやらフィリアがしていた話は漫画の内容だったらしい…反応からして、かなり有名なものらしい。タイトルを言われても、ピンとくることがなく、返す言葉が見つからない。

そういう話をする友人とかいなかったから…というより、そういう話をするための共通の話題に触れる気がなかったという方が正しいか。

 

…そんなことをするよりも、自分のできることの幅を広げようとしてきたからな。

 

これで何度目になるか分からない、呆れた視線を向けるフィリアを前に、乾いた笑みを浮かべながら俺はそんなことを思っていた。

 

 

 

脱線はあったものの、話し合いを終えた俺たちは灯台を降り、一先ず『グレスリーフの砂浜』へと戻ることになった。『海賊王の砦』に向かうには真逆の位置に灯台があったからだ。

 

そういうわけで来た道を戻ろうとしたのだが…ここで問題が発生した。

 

なんと来た道が再び満ちた海水によって通れなくなってしまっていたのだ。

 

どうやら海水が満ち引きするのは時間による変化もあったらしいのだ。こうなってしまっては再びヒュドラを倒さない限り、このルートは使えないだろう。

 

まぁ、灯台の1階に転移石があったので行き来するのには問題はないのだが…砂浜に戻るのに管理区を経由すべきかと思っていたのだが、地上から行こうとするとそこまで砂浜と灯台間に距離がないのもあり、フィリアと相談した結果、熱帯林を抜けていくことにした。

 

幸いなことに、マップとして補装されていた(といっても、プレイヤーが歩けるように少しばかり拓かれている程度)ので、道に沿って熱帯林群を歩いていた時だった。

 

「…なんだろう?」

 

「フィリア、どうかしたか?」

 

「あそこ見て…木々の間に建物が見えない?」

 

少し後方を歩いていたフィリアからそんな声が聞こえ、何事かと足を止めて振り返る。そんな俺の問い掛けに、フィリアは右方向を指さしていて、そちらへと視線を向けてみる。すぐには見つけられなかったが、目を凝らすと確かに建物らしきものが木々の間に垣間見えた。

 

二人して索敵スキルを使いながら進んでいたのだが、やはりスタイル的にこういうのはフィリアの方が軍配があがるのだろうか…俺だけだと多分見逃していただろう。マップにも表記がないとこを見ると、そういう隠し仕様という奴なのだろう。

 

「…行ってみるか?そこまで急いで戻らないといけないわけでもないしな」

 

「…!そうだね、行ってみようか」

 

このまま無視するという選択肢はないだろう。フィリアの方も建物の正体が気になっていたらしく、こっちの提案に頷き、俺たちは少し寄り道をすることになった。

 

木々と雑草を踏み分けて進むと建物の形が徐々に見えてきて、すぐ近くにまで辿り着くとその正体が分かった。

 

「十字架のオブジェクト…これは教会か」

 

「結構大きいね…でも、ちょっと古いっていうか、あまり人の手がついてない感じがするっていうか…」

 

屋根に孤独にそびえる十字架、どこか尊厳さを感じる造り…見て分かるように、建物はどうやら教会のようだった。フィリアの言う通り、結構大きめの教会だが、放置されているのか(フィリアは言葉を選んでいたが)少し老朽化しているようで、少しだが罅割れなどが散見した。

 

「入ってみよう。もしここが本当に教会なら、カーソルの色を正常化させるクエストが受けられるかもしれない」

 

このSAO(というか、犯罪行為(カルマ値というらしいが)がステータスに影響を及ぼすゲームには大抵実装されていると、キリトに教わったのだが)には、オレンジとなってしまったカーソルを元に戻す方法が実装されている。

 

俗にカルマ回復クエストと呼ばれているのがそれであり、基本的には教会などでそれを受けることができるのだ。

 

内容としては雑務がほとんどで、無報酬の依頼を受けるのが基本的な方針だ。依頼内容自体は簡単なものだが、地味に時間のかかるかつ単純作業であるものばかりで、精神的にくるものがあるらしい。

 

そして、さらに追い打ちを掛けるのがカーソルがオレンジである時間に比例して、量も累乗していくというのだから、どこか常時オレンジプレイヤーに対する容赦のなさを感じる。(まぁ、当然の結果とも思うが)

 

そもそも、フレンドリーファイヤ(ゲーム用語で味方への誤爆を意味するんだと、これもキリトから教わった)すること自体、五体を操り近距離で戦うことが前提であるこのゲームでは起こることもそう珍しくないため、それに対する解決手段が実装されるのもまた必然だろう。

 

…まぁ、シグさんみたいに相手のカーソルを無理やりイエローにするため、わざとグリーンである自分に攻撃を当てさせる、というとんでもない手法をやる人も中にはいるが…

 

というわけで…話を戻すと、ここが教会であるのなら、フィリアのカーソルをグリーンに戻せるのではと思ったのだ。

 

フィリアの返事を待たず、俺は教会の扉を開いた。有無を待たず動き出した俺に、慌ててフィリアが追従する。

 

「カーソルが……でも…」

 

「いつまでもカーソルの色がそれというのも嫌だろう?他のプレイヤーがフィリアへと向ける視線も変わるだろうしな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

少し弾んだ声で、しかし、すぐさま遠慮するような声色に変わったフィリアに、俺は気にするなといわんばかりに返答する。本当に遠慮しているのだとしたら、気にしないでほしいものだ。

相棒がいつまでも変な目で見られるのも、偏見の目を向けられるのもあまりいい思いはしないという、こっちの思惑もあるのだから。

 

(中は…外見よりも酷いな。まだ教会として機能しているようなレベルだが、人がいるかどうかって聞かれると後者寄りの荒れ具合だな)

 

埃を被っている座椅子に、曇りが光によって逆に目立つ窓とステンドガラス、空気もどこか乾燥しているものの、家財が痛んでいないところを見ると…いや、それでも人が常在してないような気がしてならない。

 

これは駄目か?…教会とはいえ、無人ではカルマ回復クエストを受注することはできない。フィリアに期待させといた上で、落とすことになりそうな結果に頭痛を覚えそうになったが、

 

「すみません!どなたかいらっしゃいませんか?」

 

「……どちらさまでしょうか?」

 

一途の望みに賭け、声を張り上げると、僅かに遅れて返事が返ってきた。それに安堵していると、奥の扉から誰かが出てきた。

 

黒を基調とし、白のラインに沿って十字架の模様が多々入った聖職衣…一見して神父だと分かる、40代くらいの神父が姿を現し、そして、視認した俺たちの方へと歩み寄ってきた。

 

「これはこれは…お客様とは珍しい。当教会に御用でしょうか?」

 

「突然の来訪ですみません。実は、彼女が悩みがあるらしく、そのご相談でやってきたんです」

 

この教会の状態のように、ここに人がやってくるのが珍しいと神父の言葉が肯定していた…どれだけ来訪がなかったのかが気になるが、今は置いておこう。

 

フィリアの方を紹介すると、神父は少しばかり彼女を見定めるように見たかと思うと…

 

「なるほど…確かに、貴女には何か悩みがあるようですね」

 

「…!え、ええっと…はい!」

 

「それで当教会にいらしたんですね…お力になりたいのですが、残念ながら懺悔室が現在壊れてしまっておりまして…資源は愚か、この教会には私一人しかおらず人手が足りずに管理が不十分になってしまっているのです」

 

(…これは…この流れだと…!)

 

申し訳なさそうにそう告げる神父…だが、逆にその反応からして、俺は落ちていた期待値が一気に跳ね上がるのを心の中で感じ取っていた。

 

「それじゃ、その素材を俺たちが集めてきますよ?腕には自信がありますので」

 

「ほ、本当ですか?それは助かります…修理自体は私が行いますので、できれば、お願いできますでしょうか?」

 

「…えっと、これってもしかして…」

 

「ああ、多分だけど、この依頼こそがカルマ回復クエストなんだろうな。俺も実際に受けるのは初めてだけど、どうやらそれっぽい流れだ」

 

俺の提案に神父は是非ともといった感じで乗ってきた。

 

そんなやりとりを聞いていたフィリアが期待を込めた目で確認してきたので、俺もおそらく間違いないだろうと思いそう答える。

 

素材を集めてくるという簡単すぎる依頼だが、フィリアはオレンジになってからそこまで日が経っていないからなのだろう。

 

「ってことは、修理に必要な材料を持ってきて、その後に神父さんに懺悔を聞いてもらえれば…」

 

「カーソルがグリーンに戻るのかもしれないな。俺もこの手のクエストは人手に聞いた程度だから、絶対とは言えないけど…」

 

「ううん、可能性があるだけで十分…それじゃ何の材料が必要なのか聞いてみようよ」

 

こういうクエストを受注したことがなく、断言できないことが申し訳ないと思うも、フィリアのやる気を引き出すには十分だったようだ。そういうわけで、改めて神父に修理の材料として、どんなアイテムが必要なのか尋ねてみると、

 

「…ああ、そのアイテムならちょうど持ってるな」

 

「えっ、本当、フォン?」

 

「この前、湖に行った時に鍛冶炉の火を起こす際の材料として多めに確保してたんだ。ちょっとくらいなら、問題ないし…今、オブジェクト化するよ」

 

神父曰く、『上質な木材』が五つ必要とのことだが、先日ちょうどそのアイテムを手に入れたこともあり、俺はストレージを開き、数を確認する。

 

鍛冶用だけでなく、調理の火の材料としても使えるものだったので、いつでも使えるように一定数ストレージに入れておいたのだ。

 

「(…うん、五つぐらいなら渡しても問題ないな)…これで足りますか?」

 

一旦確認してから、オブジェクト化した『上質な木材』五つを神父へと手渡す。すると、さっきまでどこか沈んでいた神父が少し上機嫌になった。

 

「おお!これで懺悔室を修理することができます…ありがとうございます。すみません、早速修理してきますね」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「これで少し待てば、懺悔室が使えるようになるだろう」

 

「…うん」

 

そのまま飛んでいくスピードで奥へと神父は戻っていってしまった。残された俺たちは手持無沙汰になってしまうも、とりあえず神父が返ってくるのを待つことにした。

 

そして、5分ぐらい経った頃、神父が戻ってきた。

 

「お待たせしました。貴方たちが持ってきてくれた材料のおかげで懺悔室を修理することができました」

 

「それは良かったです。それで、悩みの相談なんですが…」

 

どうやら問題なく修理もできたらしく、感謝の言葉を述べる神父に、このままフィリアの懺悔を聞いてもらおうと俺が口を開いたのだが、

 

「これは些少ですが、心ばかりのお礼です。どうぞ受け取ってください」

 

「…えっ?」

 

こちらの話をぶった切って、神父は何かを差し出してきたのだ。突然のことに思わず困惑し、ついそのままそれを受け取ってしまう。十字架を模した道具で、おそらく装飾品の何かなのだろう。

 

いや、この際、それが何かなどどうでもいい…問題なのは、フィリアのカーソルを元に戻してもらえるかどうかということなのだが…

 

「これで貴女の悩みも少しは緩和されるといいでしょう」

 

「ま、待ってください!もっと他にしてもらいことが…「また何か悩みがありましたら、こちらに足をお運びください」…っ!」

 

こちらの話を幾ばくか無視した…まさしくNPCらしい対応の仕方に、俺の訴えはスルーされてしまう。リアリティが高いせいで忘れがちだが、あくまでNPCは規定通りの会話しかしない。

 

ここまでいい流れだったくせに、最後の最後でまさかの対応をされてしまい、流石の俺も言葉を失くしてしまっていた。だが、俺よりもショックを受けたのは…

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

隣にいるフィリアから息を呑む音が聞こえた…気がした。

 

ここまで期待させておいて、最後に掌返しを喰らったようなものだ…落胆の度合いなど、俺が計り知れるものではないだろう。そんな俺たちの気落ちなど全く気付かない素振りで、NPCは奥へと戻っていった。

 

「……やっぱり違ったみたいだね」

 

「…!その…ゴメン、フィリア。俺が安易なことを言ったせいで…」

 

「どうしてフォンが謝るのよ。フォンだって言ってたじゃない、絶対じゃないって…それに、私のために協力してくれたんだから、むしろこっちがお礼を言わないといけないくらい……そうしてくれるだけで、私は凄い嬉しかったよ」

 

「…それは……分かった。なら、また別の方法を探そう。教会が駄目でも、何か他の手段がホロウ・エリアにはあるかもしれないし…」

 

声音的に少し沈んだフィリアに俺は謝ることしかできず…しかし、気遣ってかフォローしてくれる彼女の言葉に、また謝りそうになって、なんとかその言葉を呑み込んだ。今、フィリアに告げるのは謝罪の言葉ではないだろう。

 

その苛立ちはNPCが勝手に報酬として渡してきた十字架を強く握りしめることに向けることにした。フィリアがいなければ、確実に地面に叩きつけていたことだろう。

 

「でも、ホロウ・エリアの攻略も進めていく中、平行して探すのは…フォンに負担を掛けるだし悪いよ。私はオレンジのままでも…」

 

「俺の負担なんて気にしないでくれ。そんなことよりも、フィリアのことの方が大事だ…もちろん攻略の方もな。大丈夫、こう見えてハードワークには結構慣れっこなんだ」

 

「…フォン」

 

俺に負担が掛かりすぎるのではとフィリアが心配してくれるが、別にこの程度のことは結構慣れていたりする。今さら負担の一つや二つ増えようと、キャパシティをオーバーするにはまだまだ余裕がある。

 

だから、問題ないと告げるも、まだ心配そうにフィリアはこっちを見ていた。まぁ、まだ付き合いが深くはないから、そう思う方が当然だろう。

 

(こういう時、アルゴさんの情報網を頼れないのは辛いな。いつもだったら頼りにしているものが使えないのは……いや、ネガティブな方へと考えるのは止めよう。最悪、ホロウ・エリアを攻略後に、あっちに戻ってからアルゴさんを頼るっていう方法もあるわけだし…)

 

嫌な結果に終わったせいか、思考までマイナス方向に引っ張られそうになるのを切り替える。ひとまずこのままここにいてもしょうがないと思い、教会を出ようかと思ったのだが…

 

「ねぇ、フォン…なんでそこまでしてくれるの?」

 

ポツリと…突然、フィリアからそんな疑問を投げ掛けられ、動こうとした足が止まった。困惑と迷い…それらが入り混じった視線を受け、俺は少し溜息を吐いてから口を開く。

 

「なんでって…言っただろう、俺はフィリアを相棒だって思ってるって。何度も一緒に戦ってきた相棒を…仲間を助けるのに理由なんていらない、当然のことだろう?」

 

「……でも、わたしは…」

 

「…誰にだって明かしたくないことはあるし、それを無理に聞きだそうとするべきじゃないって、俺は思ってる。でも、それを理由に仲間が困っているのを見過ごすのは…あってはならないことだとも思う。そういうもんじゃないか?ほら、いつまでもここにいてもしょうがないし、早く砂浜に戻ろうぜ」

 

さっきのNPCの対応を頭から消したいのもあり、先に俺は教会の外へと出ることにした。だから、フィリアの心の声が届いていなかった。

 

「それでも……私は、フォンに優しくしてもらえるような……助けてもらえるような人間じゃないないんだよ……だって…」

 

懺悔のような…零れたその言葉が静かに教会の中で独り響いていた。

 

「…その優しさが……今は痛いよ」

 

 

 

「よう…正義の味方様はいないようだなぁ?」

 

「白々しいことを言わないで…フォンの不在を分かって来たくせに」

 

教会での出来事のせいで、今日はこのまま攻略する気分ではなくなってしまったこともあり、早めに探索を切り上げたフォンたちは管理区へと戻っていた。

 

そして、夕食と武器のメンテナンスにフォンが外へと向かった頃を見計らい、一人管理区にいたフィリアを尋ねる者がいた。

 

…そう、レッドプレイヤーの首領PoHだ。

 

まるで偶然のような言動をするPoHに、警戒心むき出しのままフィリアがそれを看破し、さっさと本題を話すように言外に促す。

 

「これは手厳しいことを言うなぁ。だが、そこまで警戒する必要はねぇよ。別にお前さんを取って食ったりなんてしねぇからよ」

 

「オレンジギルドのあんたが私に何の用?また適当なことを言いに来たのなら、ここで「カーソルは回復できなかったようだなぁ?」…っ?!ど、どうしてそれを…!」

 

「そこまで驚くことじゃないだろう?別に俺様自らがいなくても、お前らを監視する目はどこにでも張ってあるんだからよう…まぁ、今回のは偶然だったがなぁ」

 

(教会に行ったのが見られてた…?!それとも、私たちの行動がほとんど筒抜けになってる…?)

 

『グレスリーフの砂浜』のおける探索全てが見張られていたのかもしれない…そう思うと、フィリアの顔を冷や汗が走る。

 

だが、そんなフィリアの焦りなど気にすることなく、PoHは話を続けるも…そこから一気に声色が変わった。

 

「それにしても…お前ぇ、いつまであの偽善者と組むつもりだ?」

 

「…っ!あんたには関係ない話でしょ!?」

 

「それはどうかなぁ?俺の推測通りなら、あの正義の味方様が、お前も気づき始めている『お前さんの正体』って奴に辿り着くのも時間の問題だと思うがなぁ」

 

「…しょ、正体…?」

 

「おいおいおいおい…今さら知らないフリをするのはナンセンスだぜぇ?ジョークにしてはぬる過ぎる…そうだろう、オレンジホロウのフィリアさんよぉ?」

 

「…!?」

 

どこか確信を持ったように告げるPoHの問い掛けに、フィリアの口が止まる。その様子を見て、PoHはフィリアが事態を受け止めるまで敢えて黙り待っていた。まるで…彼女の言動全てを予期し、導こうとするかのように…

 

「……何の話を…この前から何なの!ホロウとかよく分からないことを言って…そうやって、私を惑わそうとし「はぁ~~~…本当に往生際の悪い奴だなぁ」…!」

 

「ここまではっきり言ってやらないと認められないようだなぁ…お前ぇとあの偽善者様とじゃ住む世界が違うんだよぉ……言葉の綾じゃなく、そのまんまの意味…でな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「お前は所詮、影の世界…いや、もっと具体的に言うならば、そう…ホロウ・エリアの住人なんだよ。俺たちは……人じゃない」

 

「人じゃ……ない…?」

 

告げられた事実に、思わず反芻するようにその言葉を呟くフィリア…それは告げられた事実を受け止められずにいるようにも見えた。

 

「お前さんも出会った来ただろう?明らかに異常な連中と…いや、そいつらとしか出会ったことがなかった筈だ?そして、その道中にお前さんは…「止めて?!」…おうおう、いい反応をしてくれるじゃないかぁ」

 

だが、PoHはフィリアにその事実を認めさせようと更なる言葉を突き付け、そして、彼女が隠していたそれを口にしようとした。フィリアの叫びに遮られたこともあり、その全貌は語られなかったが、彼女の焦った反応を見れたことに愉悦さを覚えていた。

 

「…違う…私はお前らなんかとは違う!…私は人間だって…」

 

「ただ認めたくねぇだけだろ、自分が人じゃないって!偽りの希望に縋ってさぁ!!」

 

「……そんなことは…」

 

「だから、あの正義の味方様と離れられない…俺たちとな~~んも変わらねぇくせに、自分は違うと証明するためだけに、あの偽善者様の好意を利用しているだけなんだよぉ!」

 

「………違う……私は…フォンをそんな風、に…は……」

 

言い返すべきなのに、その言葉を繋ぐ口が上手く動いてくれない…フィリアの迷いがそのまま反映される様に、PoHのテンションは逆に盛り上がっていく。

 

「WoW!その表情……いいねぇいいねぇ!思わず涎が出ちまうよ!」

 

「っ!?…止めろ!例えそうであっても、フォンは私のために…!」

 

「お前ぇのため…ねぇ~?本当にあの偽善者様の言動をそのまま受け止めているとは…これは傑作だぜぇ!」

 

だが、PoHを愉快にさせていると理解し、なんとか気を張り直したフィリアが反論を試みるも、その合間を掻い潜り、PoHは更に彼女の心を揺さぶる。フィリアが支えとしてきた全てを打ち壊さんと言わんばかりに歪な笑みを浮かべながら…

 

「…どういう意味!?」

 

「あいつはホロウ・エリアから元の世界に戻る方法を探しているだけ。お前ぇは……そうだなぁ、最短ルートへと導く便利な案内人ってとこか…分かる?」

 

「う、嘘……嘘よ、そんなこと!?フォンに限ってそんなこと…!」

 

「会ったばかりのやつに命を預けて、それどころか自分の命までを賭けて助けるってかぁ?確かに偽善者様がしそうなことだがぁ、それはお前ぇさんを人間として誤認しているからこその行動だろう?

よ~く思い出してみなぁ…自分がしたことをもう一度振り返ってなぁ。あの偽善者様がお前さんの正体を知れば……これまでと同じ態度で接してくれると思うかぁ!?」

 

「…っ!?…あんた、どこまで知ってるの?」

 

これまでのフォンの行動全てに裏がある…そう言わんばかりのPoHの言動を認めたくないとフィリアは足掻くも…その全てがPoHの掌の上で転がされていた。そして、最も引き出したい言葉が出てきたことで、歪な笑みを隠すことなくPoHは高らかに応えた。

 

「オォォル!ALL、ALL、ALL!!!残念ながら、全部知ってんだよぉ!お前ぇがやったことは全てなぁ!!」

 

「…だから、どうして!なんで、あんたが知っている!?」

 

「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~?なんで知っているかって?んなこたぁどうぉ~でもいい!大事なのは『俺が知っている』っていう事実だ。経緯とか理由とか、そんなもんは…聞くのが野暮ってもんだろ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

フィリアの問い掛けを無視し…いや、敢えてそれを言われるのが不都合だろうと誤魔化したPoHの返しに、フィリアもそれ以上追及することができなくなってしまう。

 

フィリアを黙殺したことで、PoHはようやく今日ここにきた理由を話し始めた。

 

「で、本題だ…この前も忠告したじゃねぇか。お前ぇ、このままだと死ぬぜ、ってな?」

 

「……なんで?」

 

警戒をしつつも、PoHの話に応じるようになっていることにフィリアは気づいていなかった。完全に、彼女の心を掌握できつつあることに内心笑みを浮かべつつ、PoHは話を続ける。

 

「お前でだけじゃねぇ…俺もここにいる他の連中もみんな…み~~んな、ゲームオーバ~になっちまうからさぁ」

 

「意味が分かんないし…そんなこと信じられるわけがないじゃない!」

 

「あの正義の味方…フォンとかいう偽善者様はこのホロウ・エリアを一人で攻略できる力を持っている。そして、それはアインクラッド100層をクリアするためにも必ず影響を呼ぼしてくるものだろうなぁ…むかっ腹が立つ話だが…」

 

「力……フォンが習得しているあのユニークスキルらしき力のこと…?」

 

浮遊遺跡のエリアボス戦にて、両手剣以外にも見せた既存ソードスキルを超越したソードスキル…PoHが言わんとしていることが、それなのではと思ったフィリアは口にしてしまう。

 

それを聞き、確信を得たとばかりにPoHは更に語る。

 

「お前ぇさんもその目で見たから分かるだろう?…そして、あいつを含めた攻略組によってアインクラッドが攻略された時…ホロウ・エリアにいる俺たちはどうなると思う?」

 

「……知らないわ」

 

「少しは考えろよなぁ、その足りない頭でよぉ!…SAOの世界がなくなった時、『俺たち』がどうなるか想像くらいつかねぇか?」

 

「………………………………っ!…まさか…」

 

苛立ちのこもったPoHにそう言われ、これまでの会話とやりとりを思い返すフィリア…そして、ようやく答えに辿り着くも、信じられないという気持ちが同時に浮かび上がっていた。

 

しかし、そのまさかを肯定するようにPoHはその推測が正しいを告げる。

 

「そうだ、お前ぇの思った通り…ザッツライト!SAOがクリアされれば、データである俺たちは消える…さっきも言った通りのことが起きるじゃねぇか?…だから、わざわざ忠告してやりに来てんだよぉ…俺たちはあいつに殺されるってなぁ」

 

「違う!フォンはそんな…私たちを殺すなんて、そんなことは…!?」

 

「さっきも言ったろぉ~に?理由や過程はどーでもいいんだ!結果!結果がどうなるかなんだよぉ!

あいつが…あいつらがやったことで俺たちが死ぬ。俺はそれを止める…だってよぉ、死にたくねぇしなぁ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「だから…お前ぇの力を借りにきたんだぜ?」

 

「っ…!?私に…フォンを裏切れって言うの?」

 

「NON、NON、NON……なぁに、ちょいと誘い出してくれればいいのさ。お前ぇは何もしない、何も知らない…まぁ~、ちょいっと事が終わるまで邪魔しないでもらうってことだけだぜ?別に殺すわけじゃぁない…そういうことなら、お前ぇさんがあの偽善者様を裏切るってことにもならない……あとは勝手に物事が進むだけだ」

 

「そんなこと……出来るわけないでしょ…?」

 

「あいつの強さはお前ぇさんが一番知ってるだろぉ?大丈夫、あの偽善者様はそう簡単にくたばるような玉じゃないさぁ…きっと生き延びる…死なずに、俺たちと同じ世界の住人になるだけなんだから…」

 

「…私たちと同じ世界…」

 

それは洗脳に等しい誘惑だった。

 

人の心の隙につけ込み、思うがままに操る…そうして、何人もの人生を狂わせてきた、かの悪魔のような囁きに、フィリアは自覚なしに取り込まれてしまっていた。

 

「そうだぜぇ~…よーく考えてみろよ。このままあいつと別々の世界で誰にも知られずに死ぬのか…あいつと同じ世界の住人になって永遠に存在し続けるか……お前ぇさんにとってはどっちが理想となるかをよーくよ~~く考えてみるんだなぁ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「…次に会った時に返事をくれ」

 

そう言って、フィリアを背にして場を去ろうとするPoH…転移する直前、その口には隠しきれずに零れた笑みが浮かんでいた。

 

そして、一人残されたフィリアは…

 

「…フォン……私、どうしたらいいか……もう分からないよ……」

 

呆然と…力をなくしたまま、膝を地につけてしまった言葉が虚しく管理区に響くも…その声は誰にも届くことはなかった。

 

 




今回起こった三つの出来事
・ネームドモンスター省略
・イベントの中身だけすっぱ抜き
・PoH、意外と言ってること正しかったりする甘言事件

上記二つはキングクリムゾン!と言わんばかりの省略です…ヒュドラ戦でバトルは書いたので、いいかなと…

そして、再び暗躍のPoHさん…外伝でもちょくちょく出て、お忙しいことで(黒笑)主旨は異なりますが、言ってること意外と当たっていたりするんですよね。
だって、フォンは本当に別の世界の住人ですし…

今回のフィリアとPoHの会話…ゲーム原作だと、この時点ではどういうことかと首を傾げることになりますが、本作のようにアリシゼーションの内容を知ってから読むと気づく人は気づきそうな内容な感じがしますね。

完全な余談ですが、確実にフォンの逆鱗フラグを踏みまくってますが、事の真相が明らかになった時、PoHがとんでもない目に逢いそうで今から書くことを畏怖しております(苦笑)

次回が海浜エリアでのラストのお話になるのかなと…ラストにするのであれば、バトル回をお届けすることになるかと。内容的にそこまで重要なイベントも多くなかったと思いますので、できれば一気に書き切りたいとは思ってます。

…まぁ、その前に外伝最新話を仕上げないといけないのですが…

それでは、また!
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