ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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え~…四半期も更新できず、大変お待たせしました…!

ちょいちょい覗いていたりはしていたのですが、読者の皆様には色々とお待たせすることに、失礼しました!

物語は大空洞エリアへと…遂にあの場面へとお話は差し掛かります!

それでは、どうぞ!


第17話 「奈落のディスコード」

「…ここがジリオギア大空洞か」

 

『グレスリーフの洞門』を抜け、新たに辿り着いたエリアはその名の如く、大きな空洞が円柱に形成された『ジリオギア大空洞』だった。

 

先程まで湿気を感じていた海底洞窟とは異なり、乾燥した空気と枯れ果てた地と植物が視界に入り、その中でも嫌が応に目に入るのは眼下へと広がる大空洞だった。

 

(ここが…ホロウ・エリア最後のエリアか。管理区から確認できたのはあとここだけだから、ここのボスを倒せば何か大きな動きがあると見ていいかもな。大空洞という名前から、どういったエリアかと思っていたが…一言で言うなら荒野みたいエリアだな。地殻変動か何かで大空洞が形成されたとか……まるで地球で大災害が起こった後みたいな、どっかのSF映画の世界観を感じるな)

 

荒野と聞けば、西部劇やらアフリカみたいなものを連想するが、この大空洞エリアはまた違ったもの…スケールの大きさを感じた気がした。それと同時に、これまたこれまで探索してきた三つのエリアとは異なる雰囲気にどこか納得を覚えていた。

 

…俺もホロウ・エリアの探索に慣れてきたということなんだろう。

 

「…深すぎて底が見えないね」

 

「周囲に横穴とかはパッと見て、ないようだから、道に沿って地道に下りていくしかないだろうな。幸いなことに道幅は狭くないし、浮遊遺跡のように足場への警戒をする必要性は高くなそうだな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「…まぁ、こういった場所だから、また何かお宝が眠っている可能性もあるかもしれないし…骨が折れるかもしれないけど、細かく調査していこうぜ?」

 

「…うん、そうだね」

 

「なぁ、フィリア…やっぱり疲れが出てるんじゃないのか?昨日、ボス戦をしたばかりだし…体調が万全じゃないのなら、今日は止めておこうか?」

 

「…!?あっ…ゴメン、なんでもないの。ちょっと考え事してただけだから…早く先に行こう」

 

「…君がそう言うなら、そうするけど…無理そうだったら、すぐに言ってくれよ?急いで探索して何かあったら、元も子もないからな」

 

「……うん」

 

「…(…フィリア、まだ元気がないみたいだな。昨日のボス戦が終わってから、どこか様子が変だと思っているんだけど…はっきり言ってくれないことを無理やり聞き出すわけにもいかないし…ここはフィリアに気を遣いながら、進んだ方がいいだろうな)

 

昨日の海底洞窟エリアのボス戦後から、どこかフィリアの様子が変なのだ。

 

最初は疲れが出たのかと思っていたのが…なんというか、どこか態度に違和感を覚えるのだ。なんとか平静を保とうとしているか、笑みがどこか暗いというか…ボス戦後に武器のメンテナンスの為に別行動をして戻ってきてから、それは一層酷くなっていた。

 

しかし、俺の方もあくまでも俺の感覚からくる話であり、問い詰める理由が他にないこともあり、それ以上追及することに二の足を踏んでいた。

 

…聞けない以上、俺にできることはフィリアの不調をカバーするよう動くだけだ。ここがホロウ・エリアにおいて最後のエリアであるのならば、アインクラッドに戻る為の何かしらの手掛かりが掴めるかもしれないのだ…それが分かれば、フィリアも元気が出るだろう。

 

幸いなことに、管理区が中にあるであろう空の球体へと接続されている光の奔流が、底見えない大空洞の奥底から伸びている…何かしらの関連があると見るのはそう間違っていないだろう。

 

そんな不安と期待を胸に、俺たちは大空洞エリアの探索を開始した。

 

 

 

「…フィリア、やっぱり今日はもうこの辺にしておこう」

 

「…えっ」

 

大空洞を下っていき、1時間ほどかけて踏破した空洞の底…そこは地下遺跡の入り口だった。

 

鍛冶場として定期的に利用している『遺棄された武具実験場』とは異なる雰囲気(あっちが西洋の石造調の遺跡であるのに対し、こっちはピラミッドのような感じがするといえば伝わるだろうか)の遺跡へと足を踏み入れてから30分ほど経った頃、俺はフィリアへとそう告げた。

 

ピラミッドっぽい遺跡ということもあり、アンデット系や巨大蜘蛛系統のモンスターがポップする最中(後者に関しては、ここにアスナがいれば確実に絶叫、最悪卒倒していたことだろう)、俺がそう告げたのは理由が…そして、我慢の限界だったからだ。

 

フィリアの不調から俺がカバーして動こうとしていたのだが…今日の彼女はやはり何かがおかしかった。

 

これまで上手くいっていた連携はうまくいかず、索敵すらも集中できていないために反応するのが遅れ、遺跡のトラップに何度も引っ掛かりかけるわ…終いには、今いる『追跡者に捕らえられた祭地場』に向かうための隠し扉を俺が見つけるものには、今日のフィリアは普通ではなかった。

 

これ以上は不測の事態…何かしらの事故に繋がる危険が高いと判断し、俺は探索の中断を申し出たのだ。不注意が生死に関わることはこのSAOでは当然の常識だ…俺がもしもカバーできない可能性だってゼロではないのだ。

 

その何かが起こる前に、今日は止めるべきだと判断したのだ。

 

「な、なんで…別に私はまだ「俺がはっきり言わなくても、その理由は君が一番分かってる筈だろう」…っ?!」

 

突然の宣告に反論しようとしたフィリアだが、それを言い終わる前に俺は容赦なく潰しにかかる。フィリアが何を言おうと、何を考えていようと、俺の方も引き下がるつもりはなかった。

 

俺の言葉と視線に、フィリアは目を合わせることができずに逸らし、暗い表情を浮かべていた…それは俺が言った通り、彼女自身が自覚していたからだろう。

 

「…ゴメン、迷惑かけちゃって」

 

「迷惑って…そんなことはない。けど、今の状態で探索を続けるのは流石に危険すぎる。なぁ、フィリア…一体何があったんだ?今の君はどこか変だぞ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「無理に聞き出すのはどうかと思って黙ってたけど…こう言い方は卑怯かもしれないが、もし何か悩みがあるのなら、俺にも教えてくれないか。ずっと抱えたまま、自分で解決できないまま、こうやって攻略に支障をきたすようなら、本末転倒だ…話すだけでも、スッキリするかもしれないし……どうだ?」

 

「…………ううん、本当に……なんでもないから」

 

(…駄目か。仕方ない、やっぱり今日はこのまま撤退しよう)

 

こちらから踏み込んでみるも、それでも、フィリアは暗い笑みを…作り笑いと共にそう答えてきた。

 

その答えに少し落胆し、そして、仕方ないと割り切った俺はそれ以上の追及を諦めた。こうなったら、無理矢理にでも連れて帰るしか方法はないだろう…ハラスメントコードが働くこともあり、それは最後の手段と思いつつ、俺はどうやってフィリアを説得しようかと考えていると、

 

「フォンは……フォンは優しいね」

 

「えっ…優しいって、このぐらいは普通のことだろう。それに、相棒の調子が悪かったり、悩みがあるように見えたら、心配するのは当然だろう?」

 

「………あ、あのね…実は私…」

 

突然の誉め言葉に、少し驚きつつも俺はフィリアの評価をすんなりとは受け取れなかった。優しいとか…そういう話ではない。見知らぬ人ならともかく、もうフィリアとはかなりの付き合いだ…時間は長くなくとも、その密度が凄いのだ。

 

人として…人として、当然のことをしているだけだ。それを優しいと評価されるのは、俺としては受け入れ難い部分だった。

 

そして、フィリアが何かを言い掛けたところで…

 

「…!ちょっと待った、フィリア」

 

「えっ…」

 

視界に何かが見え、俺はフィリアの言葉を制止し、慌ててその影を追った。そして、自分が見たものが錯覚ではないことを確認した。

 

「おい!そこのあんた、大丈夫か!?」

 

遺跡の小部屋を進む斧を持ったプレイヤーがいたのだが、そのHPは半分を切り既にイエローへと突入していたのだ。なのに、回復する様子も見受けられず、しかも、ソロプレイヤーなのか仲間もいないようで、一人で先へと進もうとしていたのだ。

 

そんな危険な状態で進ませるわけもいかず、俺は慌てて追いかけながら声を掛けたのだが、

 

「…もう少し…もう少し先へ…」

 

「っ…!この人もか…おい、随分消耗しているが、回復アイテムを切らしているのか?仲間はいないのか?」

 

「ん?ああ…大丈夫だとも。とにかく、先に進まなくては…」

 

「いや、俺が聞いているのは……くそ、こっちの話を聞かずに行こうとするなよ…!」

 

会話はできても、俺の話など聞いてないかのような反応でそのプレイヤーは更に先へ行こうとしていた。以前の浮遊遺跡で遭遇したプレイヤーのことを思い出しつつ、思わず悪態を口にして俺はそのプレイヤーを追い掛けようと、

 

「フォン!あまり他のプレイヤーに一人で関わろうとするのは危ないよ!」

 

「なら、放っておけっていうのか!あのままだと、あのプレイヤーは死ぬぞ!?」

 

「…いいんだよ…どうせ、わたしたちは……」

 

「っ!いいわけないだろう!?…俺は行く、フィリアはここにいてくれ!なんとかして、あのプレイヤーを引き留めてくるから!」

 

今までのフィリアであれば、そんな後ろ向きなことを言わなかった筈だ。明らかにおかしいと思いつつ、これ以上討論をしているとあのプレイヤーを見失ってしまう…苛立ちが募ってしまい、思わず声に出てしまったが、俺はプレイヤーを追うことを告げる。

 

「どうして…どうしてそこまで頑張れるの!?あのプレイヤーだって、もしかしたら、オレンジギルドの罠かもしれないじゃない!」

 

「それを理由にして見捨てていいわけがないだろう!罠じゃなかったら。あの人は死ぬんだ!見過ごすわけにはいかない…そんなことを…それを知りつつ何もしなかったら、それはPKをするのと何も変わらない…人としてあってはならないことだろう!?」

 

「……人として…当然の……」

 

「とにかく…行ってくる!」

 

その言葉を最後に、俺はフィリアの制止を振り切りプレイヤーを追い始めた…ひとまず、フィリアとはよく話し合った方が良さそうだ。そんなことを思いつつ、俺はプレイヤーが行ったであろう方向へと駆けていく。

 

 

 

「…あっ……フォン」

 

少しして…一人で戻ってきた俺を出迎えてくれたのは、気まずい表情のまま顔を伏せたフィリアの態度だった。何かを言おうとして口を開こうとして…しかし、言葉にできていなかった。

 

「…何を言っても進む進むって言ってばかりでこっちの話を聞きやしないから、無理矢理ハイポーションを口に突っ込んで、ポーションと回復結晶をいくつか押し付けてきた。ダンジョンにいることにこだわるなんて…一体どういうつもりなんだ…」

 

「そう……やっぱり凄いね、フォンは…」

 

「だから…当たり前のことをしただけだって」

 

あのプレイヤーがどうなったのか…溜息を吐きたいのをなんとか堪え、痛い頭を押さえながら、どう対処してきたかを説明する。所有していた半分の回復アイテムを押し付けてきたから、当面は大丈夫だろう。

 

その結果を聞き、どこかホッとして、そして、何故か悲しそうに笑うフィリアの言葉に、俺は大したことではないといって首を横に振る。

 

「それにしても…前にあったプレイヤーといい、さっきの人もそうだが…ここに飛ばされたプレイヤーはどうしてあんなに変なんだ?危険に鈍感というか…リスクを冒してでも目的を達成しようと動いているというか……理解できないな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

一方で、ここにきてプレイヤーと遭遇したこともあり、俺は再び再燃した疑問を口にしていた…さっきの苛立ちがまだ残っていることもあり、愚痴を零してしまうような感じになったが、俺よりも他のプレイヤーと接しているであろうフィリアの意見を聞いてみようと思った。

 

「…フィリアはどう思う?あのプレイヤーたちはどうしてあんな言動を取るのか、気になったことはないか?」

 

「…気にならないよ。だって…ここにいるプレイヤーはみんなホロウ……影の存在だから」

 

「…?フィリア、一体どうしたんだ?」

 

後半部分にかけて声量が小さくなり、その言葉が聞き取れなかったが、フィリアの顔は真っ青になっていた。いきなりの豹変にどうしたのかと尋ねるのも、俺の声は彼女に届いていないようだった。

 

そのままフィリアは何かを呟き続ける。

 

「あの人も……ここからは出られない。私もずっと…ずっとこうして…ずっと…」

 

「おい、フィリア!大丈夫か、しっかりしろ!」

 

只事ではないと肩を揺さぶり、フィリアに正気へ戻るよう呼び掛けたところで、ようやく焦点の定まってなかった目が俺を捉えた。

 

「……大丈夫だよ、フォン。なんでもないから」

 

「大丈夫って……分かった。でも、今日はもうこの辺にしよう。新しい転移石を見つけたら、管理区へと戻るぞ。いいな?」

 

「……うん」

 

結構遺跡の中に潜ったこともあり、引き戻すよりも先に進んで転移石を探す方が早いかと思い、俺は転移石を見つけ次第、管理区へと戻ることを告げると、特に反対もなくフィリアは頷いてくれた。

 

 

…この時、俺はもっとフィリアの話を聞いてあげるべきだったんだ。無理やりにでも、彼女が抱えている物を聞き出せていれば、その先の結果は変わっていたのかもしれない。

 

 

 

「…どうやら、ここがこのエリアの最奥らしいな」

 

先を進み、開けた場所へと出た。正方形の部屋に真反対の出入り口の前に転移石が見えた。転移石の近くにある出入り口から次のエリアへと移動できるのだろう。

 

だが、残念なことに直接転移石の元へと向かうことはできなかった…物理的に。

 

部屋の真ん中に大きな空洞が空いており、円周に沿って大回りしていく必要があったのだ。

 

ともかく、転移石を見つけた以上、これで管理区に戻ることができる。早速行こうとして、足を動かそうとしたのだが…

 

「…ねぇ、フォン」

 

「うん…どうした、フィリア?」

 

フィリアに急に呼び止められ、歩みを止めた俺は彼女の方へと振り返る。ここにきて、まだ帰らないと言うつもりかと思っていると、フィリアから告げられたのは全く別のことだった。

 

「フォンは…私が人を殺した理由を……オレンジになった理由をこれまで聞いてこなかったよね。なんで……なのかな?」

 

「なんでって…フィリアが話したくないことを無理矢理聞くのはどうかと思ったし、そもそも、PKを…オレンジになったことにだって、それ相応の理由があったんじゃないかって思ったから。

これまでフィリアと接してきて、君が進んで人を殺そうとしたとは俺には到底思えない…カーソルの色が人格と必ず一致するわけがないのと一緒で、俺はフィリアのことをそう信じているからな」

 

「…信じてる……でも、私は、フォンにそんなことを言ってもらえるような人………ううん、性格じゃないよ」

 

「いきなり何を言ってるんだよ…フィリアはこれまで俺を助けてきてくれたじゃないか」

 

「違う…!?私は……………私は、人を殺したの…ううん、それより酷いことを…私は、私を殺したんだ…」

 

「私を殺した…?フィリア、一体何を言って…」

 

「私も…フォンと同じように気が付いたら、こっちの世界にいたって言ったよね。実はその話には続きが……フォンに隠していたことがあったの」

 

「…!」

 

隠していたことがあった…いきなりのことに動揺しまくりだが、その告白に俺は放とうとしていた言葉を呑み込んだ。それが今、フィリアを苦しめているものだとするのなら、ここで止めるわけにはいかない。俺は黙って彼女の独白を聞き続けることにした。

 

「そのまま森の中を彷徨っていたら、突然誰かが目の前に現れたの……その人は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…私だったの…」

 

「なぁ……フィリア、自身?」

 

ホロウ・エリアの飛ばされた直後、自分そっくりのプレイヤーと遭遇して、その人を……予想だにしていなかった内容の告白に、俺は理解が追いつかず、どういうことかと尋ねることしかできなかった。

 

「自分そっくりって…それは何かクエストか何かだったりじゃないのか。ドッペルゲンガーを倒せとか、そんな特殊な奴だったんじゃ…」

 

「違う!?NPCとプレイヤーを間違えたりしない!あれは…絶対に私…」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

確かに…NPCとプレイヤーは言動はもちろん、そもそもカーソルの種類自体も異なる。フィリアの言う通り、区別ができない方が難しいくらいだろう。

 

だが、それでも…自分自身とそっくりなプレイヤーを殺したと事実に、俺は何も言葉にすることができなかった。

 

「信じられる?その時の事…無我夢中で、必死だった…相手は私を殺そうとして……私も助かろうと必死で……我に返った時、目の前の私は消えていたんだ…」

 

「…フィリア、もういい」

 

「その後、私のカーソルはオレンジになっていた…私が、私を殺したからなのかなって…そう思ったら、ここにいる私は…!」

 

「フィリア、もういいんだ!?もうそのことについて話さなくていい!」

 

想像を超える…いや、想像できていたとしても、受け入れることなどそう簡単ではない事実を語るフィリアの表情は青く、身体も震え始めていた。これ以上は、フィリアの心身が持たないと思い、俺はようやく止めに掛かるも、既に遅かった。

 

「…フォン。だから、私の罪は何をしても…どう償おうとも、カーソルの色を戻しても決して消えはしないの。ずっと…ずっとこの影の世界で生き抜かなきゃいけないの!?

こんなことなら…私、あなたと出会わなければよかった…こんな…気持ちにならなくてよかったのに…!」

 

「そんな…そんなことはない!?君がこの世界に居続けないといけない理由がそんなものであっていいわけがない!きっと何か誤解がある筈だ…俺はフィリアを信じているから…だから、必ず俺が何か方法を見つけるから……だから「フォンは…本当に優しいね…」…フィリア…?」

 

顔を伏せ、そう口にしたフィリアは笑っていたが、その笑みはどこか冷たさを覚えるものだった。突然のことに、俺は言葉を失ってしまい、

 

「でも、その優しさが…今の私にとっては…辛いの。その当たり前が…誰にもでもできるわけじゃない…誰もがフォンみたいに強くないの!?私は……フォンみたいに誰かの為に飛び出す勇気が…強さがないの…」

 

「…フ、ィリア…」

 

「…私のことを何も知らなかったのに……私のことを信じるなんて、簡単に言わないでよぉ!?」

 

「…っ!?!?」

 

フィリアの悲鳴が…心の悲鳴を耳にした時、俺の脳裏をあの記憶が…自分を否定された悪夢を呼び起こし、その時に言われた言葉を思い出させてしまった。

 

『天才様はいいよな!?何でもできる、考えたことが思うがままに実行できるんだからよぉ!できない人間のことなんて、少しも考えたことなんてないだろう?!』

『良い子のつもりで、笑って、明るく、気さくに話し掛けてきて…どこにも非がない!見てるだけで、その姿を見せられてるだけで、相手がどんな風に思うかを知らずによぉ!?』

 

『お前なんて…お前なんかがいなかったら…!?』

 

それは自分が正しいと思っていたことを全否定された時の記憶全てだった。してきたことを、信じてきたことを、義務と感じてきたことを…自分のあらゆる根底を否定された時のことを思い出し、俺の意識は数秒空白となった。

 

 

だからこそ……俺は迫る影に全く気付くことができなかった。

 

 

…ドッ!

 

「っ!?」

 

反応することもできず、いきなり襲ってきた衝撃を認識したのは、自分の身体に浮遊感を覚えたのとほぼ同時だった。そして、それと同時に自分が大穴に向かって突き飛ばされたのだと気づいた時、フィリアの近くに人影を捉え…

 

「…じゃぁな、正義のヒーロー様よ」

 

「…!(その入墨…お前は…!?)」

 

ゆっくりと落ちていくような気がする視界に捉えたのは、濁ったような色のポンチョとフードに隠れて全部は見えないが、顔にあの特徴的な入墨がある男の姿だった。

 

どうして、お前がフィリアと…そんな疑問を口にすることもできず、俺の身体は重力に引っ張られ、奈落の底へと落ちていったのだった。

 

 

 

「…よくやった。これで契約成立だ」

 

フォンの姿が奈落へと消えたのを確認し、男…PoHはどこか嬉しそうにフィリアへとそう告げた。対するフィリアは、影が差す表情のまま…焦点の合っていない目でPoHへと応える。

 

「これで……良かったのよね。これで、フォンは…」

 

「ああ、安心しなぁ。これで奴は問題ない…さぁ、あとはホロウ同士、やることをやっちまおうぜ……ついてきなぁ」

 

フィリアの問い掛けに歪んだ笑みを浮かべ、PoHはその場を去っていく。それについて行こうとして、その直前にフィリアはフォンが消えていった大穴へと視線を向け、

 

「…ゴメンね、フォン……」

 

そう告げ、再びPoHの後を追い始めたのだった。

 

 

 




全く笑えない展開となりました。

WoU編でフォンの過去をやりましたので、だからこそできたお話でした。
…決して、ハーレムを気づいたから落とされたわけではないので(苦笑)

ということで、次回は落とされた後のお話…脱出を図るフォンに意外な出来事が起こります。

それでは!
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